A7.8 〔参考訳〕 長い間、科学者は骨については理解していると考えていた

A7.8
〔参考訳〕
長い間、科学者は骨については理解していると考えていた。骨は体の構造支持体として
の役割を果たしている。またカルシウムやリン酸を備蓄し、造血細胞の発生に寄与してい
る。そして、ハロウィンの奇抜なマスコットとして不可欠である。しかし結論から言うと、
もっと多くの役割が骨にはあるのかもしれない。数年前、Columbia University Medical
Center の研究者が、誰もが思いがけないことに、骨には血糖を管理するのに役立っている
ようだということを発見した。コロンビア大学の科学者である Dr. Gerard Karsenty 率い
るチームは最近、生殖において予想外の役割を果たしているかもしれないということを見
出した。研究がうまくいけば、男性の不妊のいくらかについて、それを説明するのに役立
つかもしれない。
卵巣・精巣で作られるエストロゲンとテストステロンが骨の成長制御を助けていること
はよく知られている。女性が閉経に至ると、エストロゲン濃度が骨量と共に低下し、それ
によって骨粗鬆症の危険が高くなる。男性も加齢とともに、同じくテストステロンとエス
トロゲンの濃度が低下する。男性も骨量が低下するが、女性と比較してかなり緩やかなも
のである。「生殖器が骨に対して働き掛けるのであれば、骨も生殖器に対して働き返してい
るにちがいないと考えている」と Dr. Karsenty は考えているが、見たところその通りのよ
うだ。今年の初め、博士の研究チームがマウスにおいて、骨を形成する細胞である骨芽細
胞によって作られるオステオカルシンというタンパク質が、精巣の細胞上の特定の受容体
に結合することを示した研究を発表した。遺伝子操作によりオステオカルシンを作ること
ができなくなった雄マウスはテストステロンの産生が低下し、不妊になった。交配しても、
その子どもは少なく小さかった。一方、雌マウスの繁殖力はオステオカルシンの影響を受
けなかった。卵巣の細胞は骨ホルモンが結合する受容体を持たない。Dr. Karsenty による
と、「そのことには非常に驚かされた。雌雄どちらでも繁殖力を制御するホルモンを見つけ
られるだろうと考えていた。」雌においては未知の別の物質が似たような役割を果たしてい
るのだろう、と彼は付け加えた。ヒトの精巣の細胞にもまた、オステオカルシンに対する
受容体があることを、彼は発見している。「マウスで働くがヒトではそれほど機能しないホ
ルモンなど私は知らない」と Johns Hopkins University の研究者である Thomas Clemens
は言っている。しかし、影響の大きさはマウスの場合とは異なっている可能性がある。マ
ウスでもヒトでもテストステロンの産生を促進する主なホルモンは黄体形成ホルモンであ
り、これは脳で作られる。黄体形成ホルモンはテストステロンのオン/オフのスイッチであ
る、と Dr. Crowley は言う。一方、オステオカルシンはこの過程を調節するヘッドランプ
切替スイッチのようなものである。
問題はこれが重要な機構なのか、それとも予備のシステムなのか、ということだ。オス
テオカルシンは精子数の低下やテストステロン濃度の低下といった問題に広範な役割を果
たしているのか、それとももっと周辺的な(中心的ではない)ものなのか?現在、これら
の問題を抱える男性について研究し、オステオカルシン濃度を計測しようと計画している、
と Dr. Crowley は言う。その中には問題の原因としてオステオカルシンや受容体に欠陥が
ある人がいるだろう。しかし、
「これが興味深くより複雑なミステリーの 1 章であることが
分かると思っている」。博士は、骨が生理機能の制御において中心的な役割を果たしている
と、長らく主張してきた。「体は相互に作用しあうことのないサイロを組み合わせたもので
はなく、驚くほどの相互作用の例に満ちている。
」2007 年に彼は、骨が血糖を調節するのに
役立っていることを示した。この結果はホルモンの専門家に衝撃を与えた。彼はマウスを
用いた実験から、オステオカルシンが膵臓でのインスリンの産生を促進し、またインスリ
ンの感受性を高め、体がインスリンにより反応しやすくする、ということを報告した。そ
の後インスリンが作用し血糖が低下する。この作用が糖尿病に関連している可能性がある。
糖尿病の場合、体は十分な量のインスリンを産生できず、またその指令に注意を向けるの
を止めてしまう。その結果、血中グルコース濃度が異常に高くなる。現在、Dr. Karsenty
は骨、血糖、そして性をつなげる複雑な関連を解明したいと考えている。骨量は年齢と共
に低下する傾向があるが、血糖調節や繁殖力も同じであると彼は注意している。
「一つの考
えとして、骨は単に加齢の犠牲者であるだけではないのだろう。その一因でもあるのかも
しれない。」
〔解答例〕
問 1.
骨とは骨格を形成する組織であり、リン酸カルシウムを主成分としコラーゲンという繊維
状タンパク質がこれに結合した硬い組織である。骨の機能は大きく 3 つに分類される。1 つ
は体制支持や運動機能、体の内部の保護といった、力学的な機能である。またカルシウム
を貯蔵する器官として発達してきたと考えられており、血中カルシウム濃度の調節にも関
わっている。そして内部では造血幹細胞から血球が産生されている。
問 2.
骨芽細胞が産生するオステオカルシンが、精巣の細胞上の特定の受容体に結合し、テスト
ステロンの産生を促すというように、骨が生殖器に対して作用することがあるようだとい
うこと。
問 3.
これまで骨は、リン酸やカルシウムを貯蔵し、造血幹細胞を蓄え、血球が分化していく場
であり、それが組み合わさって体制を支持しているにすぎないと考えられていた。しかし
これまでの知見および最近の成果から、体の他の器官と様々な相互作用を有している可能
性が示唆されている。例えば生殖器で作られるエストロゲンやテストステロンが骨成長を
促進する一方で、骨が産生するオステオカルシンがテストステロンの産生を促進する可能
性が示されている。また、ステオカルシンが膵臓でのインスリン産生の促進や体のインス
リン感受性を高めることに関与する可能性も示されている。このような相互作用がたくさ
ん存在すると考えられている。
問 4.
「一つの考えとして、骨は単に加齢の犠牲者であるだけではないのだろう。その一因でも
あるのかもしれない。」