神奈川県産業技術センター研究報告 No.21/2015 半導体デバイスの非破壊検査に関する研究 電子技術部 電子デバイスチーム 田 口 勇 八 坂 慎 一 高耐熱・高電流密度に対応するために十分なパワーサイクル耐久性を有する半導体デバイスの普及・展開が求め られている.本研究では,典型的な半導体デバイスについて,パワーサイクル試験を行い,電気特性を評価すると ともに超音波を使用した非破壊検査を実施し,故障に至るまでの典型的な原因等について検討した.その結果,パ ワーサイクル試験によって接合層に欠陥が発生し,この欠陥により順方向電圧の最大値(Vfmax)が上昇して電気 的な故障に至る可能性があることがわかった. キーワード:半導体デバイス,故障,超音波,非破壊検査 1 とするとともに,1 サイクル中の接合部温度の最大値 はじめに (Tjmax)が 150 ℃となるように制御した.なお,Tjmax 高耐熱・高電流密度に対応可能な半導体デバイスを については,あらかじめサンプルの順方向電圧(順方 実現し,普及・展開を図るためには,開発試作品から 向電流 20 mA)の温度依存性を測定しておき,この温 量産品に至る様々な製品の信頼性試験と故障解析が不 度特性を用いて換算することとした.また,当該試験中 可欠である.特に,信頼性試験のうちパワーサイクル に,1 サイクル中の通電時における順方向電圧の最大値 試験については,故障に至るまでの原因やメカニズム (Vfmax)を測定し,設定値(2.6 V)を超えた場合には について十分わかっていない.そこで,本研究では, 故障と判断して自動停止することとした.さらに,試験 市販の典型的な半導体デバイスを対象にパワーサイク 前と試験後(1 万サイクル後)において,超音波映像装 ル試験を行い,試験中の電気特性の履歴をモニタする 置による観察を行った.このとき,試料金属側から観察 と と も に 超 音 波 映 像 装 置 ( Scanning Acoustic することにより接合層近辺の状況について評価し,試 Tomography:SAT)による観察を行うことにより,故 料樹脂側から観察することによりワイヤー近辺の状況 障に至るまでの典型的な原因等について検討する. について評価した. 2 実験 市販の樹脂封止型ショットキーバリアダイオードに ついて,外部冷却器(ヒートシンク)に市販の両面接着 テープ(熱伝導シート)を用いて機械的に接続した(図 1).このとき,当該冷却器は水冷方式であり冷却水は, 水温 25 ℃,流量 4 L/min,エチレングリコール濃度約 50 %とした.次に,30 秒毎に断続的に通電(1 分/サイ 図1 パワーサイクル試験時の試料断面構造図 クル)することによるパワーサイクル試験を行った.こ のとき,順方向電流の大きさは,定格電流(30 A)以下 3 38 結果と考察 神奈川県産業技術センター研究報告 No.21/2015 図2に,順方向電圧の最大値(Vfmax)の履歴を示す. これより,1万サイクルまでのパワーサイクル試験で は設定値以下であり故障にはあたらないものの,徐々 に上昇しており,導通部分に不具合が発生している可 能性が考えられる.このとき,ワイヤー近辺のSAT像 を測定したところ,ワイヤーの破損は見られなかった (図3).次に,接合層近辺の超音波反射エコーとSAT 像を図4に示す.これにより, 試験前においてチップが 図3 ワイヤー近辺の SAT 像(試験後) 金属基板上に接合されていたとみられる反射エコーが 測定された箇所について,試験後には,空隙とみられ る反射エコーが測定された.また,SAT像の様子から, そのような領域がチップ面積の30 %程度観察される ことから,パワーサイクル試験により欠陥が発生し, 接合層の約30 %の領域でチップと金属基板が剥離し たことがわかった.これらの欠陥が発生・成長したこ とにより接合層の電気特性が劣化しVfmaxが上昇したと 考えられる. 4 結論 樹脂封止型ショットキーバリアダイオードのパワー サイクル試験の際に,順方向電圧の最大値(Vfmax)が 徐々に上昇し電気的な故障に至る可能性があることが わかった.また,SAT像の観察結果から当該試験中に チップと裏面金属基板との接合層に剥離が発生してい ることがわかった.この欠陥により,接合層の電気特 性が劣化しVfmaxが上昇したと考えられる.この剥離の 発生要因や熱特性への影響などについては,より詳細 な調査が必要である. 図4 図2 順方向電圧の最大値(Vfmax)の履歴 接合層近辺の超音波反射エコーと SAT 像; (a)試験前,(b)試験後 39
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