摩擦に強いグライダー曳航索の開発

摩擦に強いグライダー曳航索の開発
8班
1.はじめに
日本ではグライダーを離陸させるための手法とし
て、一般的にウインチ(巻取り機)とグライダーを
索と呼ばれる紐で結び、凧揚げの要領で離陸する手
法が用いられる。この手法は、一回の離陸に必要な
コストを安く抑えられる、短時間に多くの発数を上
げられるというメリットがある反面、索が切れやす
く事故につながりやすいというデメリットがある。
現在索の素材として多く使われているダイニーマと
いう素材は、軽さ、引張強度ともに優れた性能を持
っているが、熱と摩擦に弱いのではないかと経験的
に言われている。実験を通じ現在の素材、構造をよ
り強いものに変更することにより、摩耗に強いグラ
イダー曳航索を開発する。
2.使用する素材の選定
ダイニーマは、本来はアメリカの DMS 社の商品
名だったが、現在では超高分子量ポリエチレンの別
名として用いられている。鋼鉄を超える強度と軽さ
を併せ持つ素材だが、融点が200度と低い 1)。表
1にテクミロンという超高分子量ポリエチレンの商
品の、温度による引張強度を示した。温度の上昇に
より引っ張り強度が著しく下がる特徴がある。
三浦慶介
ケプラーは引っ張り強度、密度の観点ではダイニ
ーマに敵わないものの、融点が 500℃と高い。耐摩
耗性の定量的な評価は難しく資料が少ない為、ダイ
ニーマとケブラーの性能値を見つけることが出来な
かった。しかし摩擦が生じればそこには摩擦熱が発
生するため、摩擦と熱に対する耐性の間には関係が
あると考えた。実験1では、耐摩擦性と耐熱性の間
には相関関係があると仮定し、ダイニーマからケブ
ラーに変えることによりどの程度耐摩擦性が向上す
るか確かめた。
3.構造の選定
救助や登山のために用いられるロープの種類とし
てカーンマントルロープと呼ばれるロープがある。
このロープは図1 3)に示すように内芯が外皮によ
り覆われている。
図 1 カーンマントルロープの構造
カーンマントルロープは、内芯は強度の向上、外
皮は摩擦、紫外線などからの保護と、内芯、外皮で
役割が分かれている。現在の索はストランドロープ
と呼ばれる、細い紐が撚り合わされた単純な仕組み
のロープが使われることが多い。実験2でストラン
表 1 テクミロンの温度上昇による引張強度の低
下
温度(℃)
引っ張り強度(%)
23
100
60
75
80
50
100
30
そこでダイニーマと同程度の引っ張り強度と、軽さ
を持ち、より熱に強い素材を探したところケプラー
という素材がそのような特徴を持つことがわかった
2)。ダイニーマとケプラーの諸元を表2に示す。
表 2 ダイニーマ、ケブラーの諸元
ダイニーマ
ケブラー
引 っ 張 り 強 度 480~260
310~285
(kg/mm2)
密度(g/cm3)
0.98
1.39~1.45
融点(℃)
約 200
約 500
ドロープをカーンマントルロープに変えることによ
り、どの程度摩擦に強くなるかを確かめた。
4.理論
材料の引張強度には応力σが関係していることが
知られている。
σ = 𝐹/𝐴
F = Aσ
(1)
(2)
応力は力を断面積で割ったものとして与えられる。
編んだ素材の断面積を求めるのは非常に困難だ。し
かし今回の実験で必要とされるのは、同じ材料、同
じ編み方の試料の、摩耗する前と、摩耗した後での
破断応力の変化だ。そのため摩耗する前の断面積と
摩耗後の断面積はほとんど変化しないといえる。
実験2においてカーンマントルロープが完全に破
断強度は 51.5kgf だったが、25.4kgf に達した際に、
周囲の外皮が破断しはじめた。
F𝑎 、𝜎𝑏 を摩耗前の荷重、応力、F𝑏 、𝜎𝑏 を摩耗後の荷
重、応力とすれば
7. 考察
実験1においてダイニーマからケプラーに素材を
変更することにより、耐摩擦性は向上すると予想し
ていたが、実際はダイニーマのほうがより良い耐摩
擦性を示した。耐摩擦性と耐熱生の間に相関関係が
あると予想してこの実験を行ったが、実験結果から
この2つの間に相関関係があるとは言えないだろう。
実験2においてはカーンマントルロープの方が
はるかにいい耐摩擦性を示した。しかしロープが破
断強度に達する前に外皮が破断しており、破断強度
付近では外皮が完全に破断し、内芯がむき出しにな
っている状態であった。そのため実際に使用する際
には、外皮が破断しない範囲で運用する必要がある。
その範囲で運用するのであればカーンマントルロー
プは摩擦対策として十分有用であるといえるだろう。
F_𝑏/F_𝑎 = (𝐴𝜎_𝑏)/(𝐴𝜎_𝑎 ) = 𝜎_𝑏/𝜎𝑎
(3)
(3)式のように荷重の割合を取ることで、応力の割合
もだせる。よってこの割合を使って、材料ごとの耐
摩耗性を比べる。
5.実験方法
道具、材料として、紙やすり(240 番)
、ダイニー
マ、ケブラー、リリアン製造機、引張試験機を使用
した。
実験1 リリアン製造機を用いて、ダイニーマ、
ケプラーを 7cm 程度の長さまで2本ずつ、計4本編
んだ。ダイニーマ、ケプラーそれぞれ一本を、ヤス
リで10回同程度の力を加えて削った。4本を引っ
張り試験機にかけ破断強度を記録した。
実験 2 リリアン製造機を用いてケプラーを 7cm
程度の長さまで2本編む。その中心にダイニーマを
3 本ほど通し、それをカーンマントルロープの試料
とした。作成した試料の内一本をヤスリで10回削
った。2本を引っ張り試験機にかけ破断強度を記録
し、実験1でのダイニーマの結果と比較した。
6. 実験結果
実験1、実験2ともにロープが完全に破断した状
態を破断強度とした。実験1、実験2の結果を表3、
表 4 に示した。
表 1 ダイニーマ、ケブラーの摩擦による引張強度
の低下
ダイニーマ
ケプラー
削る前(kgf)
69.5
31.2
削った後(kgf)
61.5
24.5
割合(%)
88.4
78.5
表 2 摩擦による引張強度の低下
ダイニーマ
カーンマン
トルロープ
削る前(kgf)
69.5
52.5
削った後(kgf)
61.5
51.5
割合(%)
88.4
98
8. おわりに
素材をダイニーマ繊維からケプラー繊維に変更す
ることよって耐摩擦性を向上させることには失敗し
た。一方でカーンマントル構造を導入し耐摩擦性を
向上させることには成功し、摩耗した状態において
も高い破断強度を保つことができた。考察で述べた
ように、破断強度付近では外皮が完全に破断するが、
外皮が破断しない範囲であれば、カーンマントル構
造は十分有用な摩擦対策になると言える。
しかしグライダー曳航索は何百回と繰り返し使用
することが予想される。カーンマントルロープは一
度強い荷重がかかったことにより外皮が剥がれてし
まえば、そこからむき出しになった内心が摩耗し切
れてしまうことが想定される。そのためカーンマン
トル構造は、容易に交換することができる登山用ザ
イルなどにおいては有効であるが、交換が難しいグ
ライダー曳航索として用いるには適さない。
参考文献
1) 高分子材料強度のすべて 成澤郁夫
2) 高機能繊維の開発 CMCBook
3) 消防防災の組織と活動
http://www.fdma.go.jp/html/hakusho/h20/h20/
html/k25k0000.html (2015/1/9 アクセス)