プレスリリース 平成27年3月13日 独立行政法人 港湾空港技術研究所 初めて解明しました 日本沿岸の海草アマモの種子の行先 ―海草場の保全や再生への貢献に期待― 独立行政法人 港湾空港技術研究所の細川真也主任研究官・桑江朝比呂チームリーダ ーを中心とする,港空研・北大の共同研究グループは,日本沿岸の衰退傾向にある海 草アマモ*1 の種子*2 の行先を世界で初めて突き止め,多くがその場へ落ちているこ とを明らかにしました.本研究成果は,2015 年 3 月 16 日付の欧州専門科学誌 Marine Ecology Progress Series(マリン・エコロジー・プログレス・シリーズ)電子版に掲 載されます.海草場の保全・再生への関心が高まっている中,この研究成果は新たな 保全・再生方法の開発を促進する可能性があります. 報道解禁日 3 月 16 日(月)0:00 【内容の問い合わせ先】 (独)港湾空港技術研究所 主任研究官 海洋環境情報研究チーム 細川 真也(ほそかわ しんや) Email: [email protected],(現在,国外滞在中のためメールのみの対応となります) URL: http://www.pari.go.jp/unit/kaikj/member/hosokawa.html (独)港湾空港技術研究所 チームリーダー 沿岸環境研究チーム 桑江 朝比呂(くわえ ともひろ) Tel: 046-844-5046,Fax: 046-844-1274 Email: [email protected] URL: http://www.pari.go.jp/unit/ekanky/member/kuwae/ *1 海草アマモ:沿岸域の静穏で浅い砂泥性の場によく発達する植物のこと.岩礁にお いて発達するコンブやワカメなどの海藻とは区別される. *2 海草アマモの種子:胞子を作る海藻とは異なり,海草は種子を作る.この種子の広 がりにより,新たなアマモ場が形成される. 【背景】 海草アマモは,海洋生物のゆりかごや二酸化炭素吸収源としての役割があることがよく知ら れていますが,近年,アマモの生息場になりうる場所の埋め立てや水質の悪化によって,徐々 にその生息場が少なくなってきています. このため,行政やNPO等はアマモの保全・再生に積極的に取り組んでいます. 【成果の内容】 今回,港空研・北大の共同研究グループは,久里浜海岸(横須賀市)のアマモ場における現 地観測と室内実験により,港湾内に生息するアマモの種子は,アマモの成熟に伴って,多く がその場へ落ちていることを初めて解明しました(図1) . 【解説】 全国の沿岸浅海域の砂泥に生息しているアマモなどの海草で覆われた海草場は,これまで魚 介類の産卵や稚仔魚の成長の場所,すなわち「海洋生物のゆりかご」としての重要性が知ら れていました. しかし,近年,我が国を含む世界中で,アマモの生息場になりうる場所の埋め立てや水質の 悪化によって,徐々にその生息場が少なくなってきています. 一方,静穏な海域で自然にアマモ場が回復する事例も報告されています. 我々の研究チームでは,このアマモ場の自律的な回復能力に着目し,種子の広がりを人間が 手助けすることでアマモ自身による自律的な再生が可能なのではないかと考えました.この ため,まずは自然環境下における種子の行先を明らかにする必要性に気づきました. アマモは海中の植物であり調査が難しいため,その種子の行先は分かりませんでした. そこで,我々の研究チームでは,地道な現地観測に加え,室内実験と数学的な計算技術を用 いることで,アマモの種子の行先を特定し,多くの種子がその場へ落ちていることを初めて 明らかにしました(図1) .また,その場へ落ちる原因の一つとして,アマモ自身の成熟によ る比重の高い種子の影響を明らかにしました(図2) . 地球規模で減少するアマモ場ですが,静穏な海域では自律的な回復も報告されています.し かし,その静穏な環境は海草の種子を漂流させて遠くに飛ばす能力を失わせる要因となって いる可能性があります.今後,種子が漂流する能力を最大限に引き出す手助けをする技術が 開発されることで,海草の自律的な再生を促進できる可能性があります. 【成果の意義】 本研究成果は,衰退傾向にある海草アマモにおいて, 「種子が漂流する能力」を引き出すこと で保全・再生を促進する新しい技術の開発に寄与することが期待されます. 図-1 海草アマモの種子の行先.生殖枝が海底に倒れることによってその場へ落ちる種子の割 合が最も多く,その次に穂と種子(単体)によってその場へ落ちる種子の割合が高い.漂流 する種子の割合は相対的に小さい. 図-2 穂に含まれる種子の数と穂の浮く割合.穂の中の種子量が 1 つであれば,40%以上の穂 が浮くが,種子量が多くなるに従って沈む穂の割合は高くなる. 〔種子の行先を決めるアマモの部位〕 海底に倒れた生殖枝(左)と生殖枝から外れた穂(右) 穂に含まれる種子の様子 〔調査の様子〕 藻場の種子量の調査(左;藻場から少し離れた場所における種子採取)と海岸に打ちあがっ た散布体調査(右:図 1 参照) 【論文名】 Seed dispersal in the seagrass Zostra marina is mostly within the parent bed in a protected bay(静穏な港湾内の海草アマモの種子の多くはその場に落ちている) 【著者】 Shinya Hosokawa(細川 真也)1, Masahiro Nakaoka(仲岡 雅弘) 2, Eiichi Miyoshi(三好 英 一)3, and Tomohiro Kuwae(桑江 朝比呂) 3 1 (独)港湾空港技術研究所 海洋情報・津波研究領域 海洋環境情報研究チーム 2 北海道大学大学院環境科学院 3 (独)港湾空港技術研究所 沿岸環境研究領域 沿岸環境研究チーム 【掲載雑誌】 Marine Ecology Progress Series(マリン・エコロジー・プログレス・シリーズ) 【問い合わせ先】 (独)港湾空港技術研究所 主任研究官 海洋環境情報研究チーム 細川 真也(ほそかわ しんや) Email: [email protected],(現在,国外滞在中のためメールのみの対応となります) URL: http://www.pari.go.jp/unit/kaikj/member/hosokawa.html (独)港湾空港技術研究所 チームリーダー 沿岸環境研究チーム 桑江 朝比呂(くわえ ともひろ) Tel: 046-844-5046,Fax: 046-844-1274 Email: [email protected] URL: http://www.pari.go.jp/unit/ekanky/member/kuwae/ 【報道対応】 (独)港湾空港技術研究所 企画管理部企画課 課長補佐 一戸 秀久(いちのへ ひでひさ) Tel: 046-844-5040,Fax: 046-844-5072 Email: [email protected]
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