管理組合がマンション全体の利益と 考えて、専有部分の改修などに

レポート : マンションの性能向上のための改修事例
〈その 16〉
管理組合がマンション全体の利益と
考えて、専有部分の改修などに取り組む
― 給水枝管の改修事例と外壁にエアコン配管用穴を新設した事例 ―
大阪市立大学名誉教授・NPO法人集合住宅維持管理機構 理事長 梶浦
恒男
NPO法人集合住宅維持管理機構 主任専門委員 北村 順一
1.はじめに
分譲マンションの建物は専有部分と共用部分に分かれ
ていて管理責任が違う。修繕や改善工事を行うのは、前
者は区分所有者で、後者は管理組合である。そのように
管理組合が行う改修工事は通常共用部分なのだが、場合
によっては専有部分の修繕・改善も検討しなければなら
ないことがある。また、各住戸の生活上の要求から区分
所有者が共用部分の改修を求める場合がある。以下に取
り上げるのは専有部分である住戸内の給水枝管の改修を
管理組合で行った事例と、各戸が使うエアコンの配管用
穴(貫通スリーブ)を共用部分の外壁に設置した事例で
あって、いずれも管理組合内で議論を重ねて実施したも
のである。
写真 1 事例 1 の団地型マンション全景
2.<事例1>専有部分の給水管の
取替えを団地全体で取り組む
2.1 専有部分給水管の問題
築年数が50年を迎えようとする団地型マンション(写
真1)の事例で、各住戸の専有部分給水管の更新が手つ
かずになっている問題について、管理組合全体で取り組
み、修繕積立金から費用を捻出して給水管の改修を実現
したものである。
近年のマンション専有部分の給水管は、耐衝撃性硬質
塩化ビニルパイプなど腐食の心配がない種類のものに
変って来ているが、古いマンションでは専有部分の配管
に亜鉛メッキ鋼管が使用されていて、腐食が進んで管に
穴が空き、漏水して室内や階下住戸に被害をもたらす場
写真 2 パイプスペース内の給水主管や止水栓
(バルブ)など
合がある。また、ビニルライニング鋼管が使用されてい
パイプスペース内の給水主管(竪管)、止水栓(バルブ)、
る場合でも、配管のネジ込み継手部分で腐食が進行する
各戸水道メーターなど(写真2)は共用部分なので、管理
ために、管の閉塞による水量の低下や継手部分からの漏
組合が適切な時期に修繕を実施していくことになるが、
水の問題を抱えている。
水道メーター以降の給水管は管理組合規約で専有部分と
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レポート
定められている部分で、各区分所有者が維持補修を行わ
部分給水管からの漏水の問題が懸念されて水圧を上げる
ねばならない。
ことが出来ず、十分に改修の効果を得られないでいた。
ところが各区分所有者が専有部分の給水管の状態を把
専有部分の一斉取替えでこの点も改められ、マンション
握して、必要な時期に適切に補修をするというのはなか
全体の利益になると判断した。
なか難しい。設備診断を受ける機会などがあれば、傷み
そして、築80年までの長期修繕計画も策定され、そ
具合などが分かって更新時期の目安などの情報を得るこ
の中に専有部分給水管の改修も早期の検討課題として含
ともできるが、そのような機会がないと、漏水事故が起っ
まれていた。
てはじめて配管の劣化に気づいて更新をするということ
また区分所有者が替ったために、専有部分給水管の更
2.3 専有部分給水管改修に関わる問題と
解決策
新状況が現在の区分所有者に把握されていないという問
専有部分給水管の改修工事に向けて、いくつかの問題
題もある。居住者の入れ替わりがない場合でも、過去の
があり、理事会が中心になって検討が進められた。
になる。
水廻りのリフォームの折にどこまで配管の取替えを行っ
たか判然としないといったこともある。
(1)改修工法の問題
先ず、改修工法の問題である。専有部分配管の取り替
える範囲は、各戸のメーターボックス内の止水弁(バル
2.2 改修に至る経緯
ブ)からキッチン流しの蛇口、浴室のバランス釜、洗面
ここで取り上げるマンションは全体で24棟、378戸あ
所の水栓、洗濯用の蛇口、トイレ用水栓までといったと
る4階建ての階段室型で、鉄筋コンクリートの壁式構造
ころとなるのだが、その取り替えの方法について、2つ
である。交通や公共施設の利便性は良く、大きく成長し
の工事方法を考えた。
たケヤキの植生などの住環境にも恵まれ、竣工当初から
一つは室内天井際を露出で、最寄りの水廻りまで配管
住み続けている居住者も多い。これまで3回の大規模修
する方法である。露出配管は見た目が良くないが、工事
繕工事を行ってきており、設備の面では共用部分給水管
と排水管の改修、ガス、電気の改修などを終えている。
が比較的簡単で工期が短くて済み、工事費も安価である
(写真3、写真4、写真5)。
ところが、共用部分の維持管理は良好になされている
もう一つは室内の床下にフレキシブル配管を通して最
半面、専有部分の給水管の老朽化の問題が気がかりな事
寄りの水廻りまで配管し、器具手前で露出にしてそれぞ
柄として管理組合内で話題になっていた。配管に亜鉛
れの設備につなぐ方法である。この方法では押入れや洗
メッキ鋼管が使用されていて継手部分の腐食が進み、赤
面所の床などに点検口を設けながら配管していくので、
水の発生や漏水事故が増えていた。
手間が掛り、工事費が割高になるのだが、室内の雰囲気
一旦、漏水事故が起きると、メーターボックス内の止
を極力壊さずに改修することができるという利点がある
水弁(バルブ)を閉鎖し、漏水箇所を特定した上で、内装
(写真6、写真7)。何れの工法を選択するにしても、専
材の撤去や配管の取替えなどの緊急工事となる。高齢者
有部分の問題であるので各居住者の判断が優先される。
の住まいが多いこともあって、漏水を起こした側の居住
どちらかに工法を絞り込んで提案するには無理があると
者も被害を受けた階下の居住者も当事者だけでの対応が
難しく、管理事務所に漏水の一報が入ると理事長をはじ
めとした役員が被害状況の把握や水道業者の手配などに
走り回ることになる。管理組合では、このままでは毎年
漏水事故が増え続け、その都度役員が対応に振り回され
かねない。漏水事故の防止のために予防的な専有部分内
の給水管の改修を378戸の自主性に任せるには限界があ
ると理事会では判断し、全体で専有部分内の給水管の改
修を検討する必要があるとの結論に達した。
またこのマンションでは、上水道の給水方式を高置水
槽方式から受水槽圧送方式に変更しているのだが、専有
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写真 3 天袋内の専有部分給水管
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