技術資料(簡易版)

1. ね じ ゆ る み に つ い て
適切な使われ方がなされなければ効果がないと推測され
1.1 ね じ の ゆ る み の 定 義
る。どちらの場合もある程度の技術が要求される為、実
ねじ締結体は、締付けによって保持されているはずの
ボルト軸力が何らかの原因で低下することがある。この
際の現場作業員では、素人化が進む今、完全な締結状態
で管理できているかは大きな疑問が残る。
ような軸力の低下を「ねじのゆるみ」という。
しかし、どの程度の低下まではねじ締結体の機能を損
なうことが無いのかといった具体的な定義付けは未だ世
界中でされていない。
2.2 ね じ の ゆ る み の 分 類
表 1 ゆるみ止め部品の有効性(2)
有効性
初期ゆるみ
対策
陥没ゆるみ
対策
分類としては大きく分けて、ねじが戻り回転しない場
よるゆるみ、密封材の永久変形、塗装材の破損によるゆ
能
戻り回転
抵抗
るみ、過大外力によるゆるみ、熱的原因によるゆるみ等
皿ばね座金、ばね座金
面圧低下
高剛性平座金
ねじ部密着度
増加
戻しトルク増大
がある。これらは、経時変化によるものが多く事前に対
ことによるゆるみであり、その中でも、対策が最も困難
舌付座金、つめ付座金
タッピンねじ
コイル状インサート
非金属インサート付
戻り止めナット
全金属製戻り止めナット
プリべリングトルク形ナット
一方、通常「ねじがゆるむ」といわれるものが「ねじが
向、軸直角方向、軸方向へそれぞれ繰返し外力がかかる
溝付ナット、割ピン付ボルト
フランジ付ボルト、ナット
策をたてれば防止することが可能である。
戻り回転してゆるむ」場合で、種類としては、軸周り方
適 合 例
ばね圧力
機械的回り止め
合とする場合に大別される。まず、
「ねじが戻り回転しな
いゆるみ」とは、初期ゆるみ、陥没ゆるみ、微動摩耗に
機
戻り回転
防止
嵌め合い隙間除
きの強制
ロッキング
嵌め合い隙間内
での固化、
接着
ダブルナット
嫌気性接着剤
接着剤入りカプセル付ボルト
といわれるものが、軸直角方向繰返し外力によるゆるみ
である。
3. ゆ る み 止 め 部 品 の ゆ る み 止 め 効 果 と 評 価
4. ハ ー ド ロ ッ ク ナ ッ ト の 誕 生
ねじがゆるむ原因は、ボルトとナットのねじのガタ(遊
「ゆるみ止め」等と称される部品が数多く存在するが、
間)にあり、それを完全になくすことが最大の課題であ
実用されている代表的なゆるみ止め部品の効果について
った。そこで、古代木造建築に使用されている「くさび」
すでにまとめられている。表 1 はゆるみ止め部品と有効
を利用すれば解決できるはずと研究を重ねてきた結果、
性及び機能について示されている(1)。この中で、初期ゆる
ついに誕生したのが、
「ハードロックナット」である。図
み、陥没ゆるみ対策用の皿ばね座金、平座金などでは、
1 はハードロックナットの構造原理を示している。構造
ボルト·ナットの戻り回転に対しては、効力を発揮するこ
は簡単で、凹凸 2 種類のナットで構成され、凸ナット(締
とはほとんどない。このことはすでに様々な著書に示さ
付けナット)は凸部を若干偏心加工させたのに対し、凹ナ
れている。
ット(ロックナット)は真円加工を施している。その結果、
次に、戻り回転抵抗タイプには、ある程度以上の軸力
ボルトに凹凸ナットを順に締付けた時、凹凸嵌合部にク
低下は防ぐものや軸力の低下の速度を遅らせるもの(フ
サビ効果が発生し、ボルトナットのねじのガタを完全に
ランジ付ボルト·ナット、ナイロンインサートナット等の
なくす構造が完成した。
プリベリングトルク形ナット他)、単なるナットの脱落だ
けを防止するもの(割ピン付ボルト、舌付座金他)と様々
であるが、軸力低下をなくす為の根本的解決には至らな
い(2)。
最後に、戻り回転防止タイプは、軸力の低下がほとん
ど発生しない部類であり、戻り回転によるゆるみに対す
る性能が最も優れたものである。このタイプはかなり有
効ではある。
ただし、ダブルナットでは、互いのナットが完全な羽
このクサビ効果がどれほど強力であるか、以下に示す
交い締めの状態であることが条件となり、接着剤(2)も、
2 種類の代表的な軸直角方向のねじゆるみ試験で、一般
ナットとの比較データを紹介したい。図 2 は Junker 式(3)
を、図 3 は NAS 式(4)の概要を示す。4.1 で軸直角振動試
験(Junker 式)の内容及び条件を、4.2 で NAS3350·3354
規格に準じる加振式衝撃ゆるみ試験について述べる。
4.1 軸 直 角 振 動 試 験 ( Junker 式 DIN65151)
固定板と振動板とを試験ボルト・ナットで締結し、振動
板に軸直角方向の外力を加えて振動変位させる。変位は
回転成分が入らない平行変位だけとする。
図 5 軸直角振動式ゆるみ試験(軸力比較)
図 6 は NAS 式の結果を示す。縦軸には初期締付けト
ルク値を示し、横軸は振動回数を示している。結果は、
M20×P2.5 のボルト・ナットで、一般ナットはボルト破
断寸前の 300 N•m で締付けた場合のみ、試験基準を満
足したが、ハードロックナット(HLN)の場合は、非常に
低い締付け状態であっても全くゆるまなかった。
以上の結果から、ハードロックナットの場合、初期軸
図 2 Junker 式概要(4) 図 3 NAS 式概要(5)
4.2NAS3350·3354 規格に準じる加振式衝撃ゆるみ試験
力が非常に低い状態であっても、軸力低下がみられず、
クサビ効果が十分発揮されていることがわかる。
試験ボルト・ナットで締付けたねじ締結体を鉛直方向の
長穴内に横たえ長穴の本体を振動台で上下に振動させ、
長穴の上下端で軸直角方向の衝撃を与える。
4.3 ゆ る み 試 験 結 果 例
図 4、5 は Junker 式の結果の一例である。共に JIS に
規定されている M10×P1.5 のボルト・ナットを用いた。
縦軸がボルト初期軸力を、横軸が振動繰り返し回数を示
している。図 4 は初期軸力をボルト降伏点の 30%とし、
振動変位振幅を S=±0.35 / ±0.5 / ±0.75 mm とした時の一
般ナットとハードロックナットの比較である。一般ナッ
トは全ての変位振幅でボルト軸力が殆どゼロになること
図 6 NAS 規格加振式衝撃ゆるみ試験結果
を示し、他方、ハードロックナットは最も過酷な
5. 世 界 で 認 め ら れ た ハ ー ド ロ ッ ク ナ ッ ト
S=±0.75mm という条件でもボルト軸力が残り、ゆるま
アメリカ機械学会(ASMEPVP2005-17333)で高度な
ない事を示している。図 5 は振動変位振幅を S=±
コンピュータ解析と様々な実験結果から、軸直角方向繰
0.35mm に固定し、初期軸力をボルト降伏点の 30%/60%
返し外力によるゆるみに対し「非常に有効である」と発
/90%とした時の比較である。図 4 同様に一般ナットは全
表された。今日では、日本をはじめ、台湾、中国、英国
ての条件でボルト軸力が殆どゼロになり、ハードロック
等の高速鉄道、F1 カー、明石海峡大橋、東京スカイツリ
ナットは全ての条件でボルト軸力の低下がほとんどみら
ー、ベビーカーにいたるまで国内外の様々な産業分野に
れなかった。以上の結果から、ハードロックナット締結
安全を提供する必需品として認知されている。最近は、
体は軸直角方向変位に対して緩まないことを示している。
最も品質の厳しい航空宇宙分野の品質規格を既に取得し、
ボーイング社等への参入準備をすすめている。
(参考文献)
(1) 日本ねじ研究協会編:ねじ締結ガイドブック
(2004-3,新版) p.71.
(2) 山本晃著:ねじ締結の原理と設計,養賢堂
(1995-3,初版) p.132~139. (3) 日本規格協会:ねじ締結体設計のポイント
図 4 軸直角振動試験(Junker 式)
振幅比較結果
(2002 年,改訂版)p.243~250.
(4) AIA/NAS NAS3350(1992),NAS3354(1989).