日本平和学会 2015 年度春季研究大会 報告レジュメ 現代国際社会の平和主義 ─自 由 主 義 ・ 主 権 国 家 ・ 介 入 主 義 の 国 際 秩 序 に お け る 平 和 ─ 東京外国語大学 大学院総合国際学研究院 篠 田 英 朗 キーワード:平和活動、集団安全保障、自由主義、主権国家、介入主義 1.はじめに 本報告では、国連等の国際機関などによる国際的な平和活動(international peace operations) の動向分析を手掛かりにして、現代国際社会の政策面から抽出できる「平和主義」の性格 及び課題について分析的に考察することを試みる。 2.国連憲章における「国際の平和と安全」の概念 国際連合憲章 1 条 1 項は、国連の目的として、 「国際の平和と安全の維持」を掲げている。 これは国際社会の数ある価値規範の中でも、最も地位の高いものを表現していると言って 過言ではないだろう。ここで「平和と安全(peace and security)」という言い方がなされて定 着していることは、国連が安全保障に踏み込んだ政策的措置によって生まれる平和を強く 意識した組織であることを物語る。集団安全保障を発動する憲章 7 章においても、安全保 障理事会による「国際の平和と安全に対する脅威」の認定が、強制措置にまで至る一連の 平和のための措置の裏付けとなることが規定されている。 3.冷戦後世界における自由主義の平和主義への浸食 冷戦後の世界において顕著になったのは、「自由主義の勝利」の主張とともに、「国際の 平和と安全」を自由主義的価値観にもとづいて解釈しようとする動きである。つまり、甚 大な人権侵害・人道的危機の場合でも、「国際の平和と安全に対する脅威」であるという認 定が実際になされ始めたことは、国際社会が標榜する「平和と安全」が、決して国家間関 係だけに限定されず、個々の人間の尊厳にかかわる国際人道法や国際人権法の遵守にまで かかわるものとなったことを示していると言える。 4.介入主義と平和主義の結びつきの政治的性格 しかし今や人道危機への対応なども憲章 7 章の強制措置の対象となり、「人道的介入」や 「保護する責任」などが大きな課題なる時代になった。集団安全保障と自由主義が結びつ き、自由主義的価値規範にもとづく戦争行為なども正当化され、不作為は批判の対象とな った。国際的平和活動における介入的措置の広がりと、西側陣営の勝利として理解された 冷戦後世界の自由主義的価値規範の広がりは、さらにアメリカ合衆国を中心とする勢力の 覇権による国際秩序の確立という命題とも密接に結びつく。そうであるがゆえに、アメリ カの力の相対的低下、終わりなき対テロ戦争、そして普遍主義的な国際制度の限界、とい った問題とも重なり合い、現代世界の閉塞感を作り出している。 5.国際秩序の維持としての国際的な平和主義 本報告では、国際平和活動の事例を参照しながら、このような現状を、概念的に整理す る。そして国際社会が標榜する平和主義が、介入主義的な政策と自由主義的価値の普遍化 によって特徴づけられることを指摘する。その上で、介入主義的・自由主義的な平和主義 が、権威主義体制によって、反自由主義的勢力によって、そして制度逸脱者たちによって、 重大な挑戦を受けていることも論じることを試みる。 最終的に本報告が論ずるのは、現代国際社会の支配層が目指す平和主義は、「強化された (robust)」 「積極的な」ものであるとしても、既存の主権国家の枠組みを基盤とした国際秩序 を維持することを目的にしている、ということである。それは道義的な面からだけでなく、 自由主義によって特徴づけられる政治・経済体制に依拠した国際秩序の持続可能性の観点 からも、再検討を必要としている。 参考文献 Hideaki Shinoda (2015), “Local Ownership as a Strategic Guideline for Peacebuilding” in Sung Yong Lee and Alpaslan Özerdem (eds.), Local Ownership in International Peacebuilding: Key Theoretical and Practical Issues (London: Routledge, 2015), pp.19-38. Hideaki Shinoda (2015), “Human Rights, Democracy and Peace in International Constitutionalism of University International Society,” Tokyo Fuchu International Studies Journal, vol.4, no.1, pp. 21-42. 篠田英朗(2014)「国際社会の立憲的性格の再検討―『ウェストファリア神話』批判の 意味―」、『国際法外交雑誌』、第 113 巻、第 3 号、374-396 頁. 篠田英朗(2014)「国連 PKO における「不偏性」原則と国際社会の秩序意識の転換」、 『広島平和科学』(広島大学平和科学研究センター)、第 36 巻、25-37 頁. 篠田英朗(2013)「国際社会の歴史的展開の視点から見た平和構築と国家建設」、『国際 政治 174 号:紛争後の国家建設』(日本国際政治学会編)、13-26 頁. 篠田英朗(2013)『平和構築入門―その思想と方法を問いなおす」ちくま新書. 篠田英朗(2012)『「国家主権」という思想:国際立憲主義への軌跡』勁草書房. 篠田英朗(2007)『国際社会の秩序』東京大学出版会.
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