2015年Create-Research社調査報告書、「現実主義の支配 ~株式上昇

現実主義の支配
∼株式上昇と
ご都合主義的な解釈の拡大∼
プリンシパル・グローバル・インベスターズはプリンシパル・ファイナンシャル・グループ(Principal Financial Group®)の資産運用
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ファイナンシャル・グループは、1879 年に設立され、フォーチュン 500 社(the FORTUNE 500®)の一社として、運用資産規模は
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CREATE-Research は、グローバルな資産運用における戦略変化や新たなビジネスモデルを専門とする独立系シンクタンクで、著名な
金融機関やグローバル企業向けの大規模な調査に取り組んでいます。CREATE-Research は、欧米諸国で定評ある様々な組織の上級幹
部と密接な協力関係を築いており、その研究は話題性の高いレポートやメディアからの注目が集まるイベントを通じて発表されてい
ます。より詳しい情報については、www.create-research.co.uk をご覧ください。
著者:アミン・ラジャン教授
2015 年初版
発行元:CREATE リサーチ(CREATE-Research)
英国
TN4 0XD タンブリッジ・ウエルズ
ボクスホール・レイン
(Vauxhall Lane Tunbridge Wells TN4 0XD
United Kingdom)
電話:+44 1892 526 757
電子メール:[email protected]
© CREATE Limited, 2015
無 断 複 写・ 転 載 を 禁 じ ま す。 本 報 告 書 は、 著 者 の 事 前
の 同 意 な く、 発 行 時 以 外 の 製 本 ま た は 表 紙 を 用 い て、
いかなる形でも、貸与、賃貸、またはその他いかなる取引
手段を通じても譲渡することはできません。
序文
今年も、CREATE リサーチ社のアミン・ラジャン教
授による報告書を後援し、その発刊にあたり同教授
と協力できましたことは、プリンシパル・グローバ
ル・インベスターズ社にとって喜ばしいことです。
グローバルな投資市場と投資トレンドについて世界
をリードする論客の一人、ラジャン教授との協同作
業は今回で 7 度目となります。
今年の報告書は、
「失われた 10 年」とその後 3 年に
わたった急騰相場を経た、現在の投資家センチメン
トに焦点を当てています。株式市場は金融緩和政策
によって膨張してきたのであり、今後は金利が正常
化すると大幅に下落する可能性が高いと考える投資
家は少なくありません。その一方で、現在の市場水
準を支えているファンダメンタルズを重視し、株式
市場全般の見通しを楽観的に捉えている投資家もい
ます。
投資家の皆様にとって、本書は、特に資産配分を計
画する際に示唆に富む有益な報告書になるでしょ
う。今や資産配分には数多くの選択肢があります。
本報告書は現在増えつつある選択肢のいくつかにつ
いて、その背景となる考え方に焦点を当てたもので
す。本調査はまた、投資家の表明した計画や判断、
意見もカバーしており、今後 3 年間で市場に大きな
影響を及ぼす要素についての見解なども示されてい
ます。例年同様、ラジャン教授には、重要データや
数多くのデータ・ポイントを駆使し、さらにはグロー
バルな投資分野をリードする投資家や思想家による
啓発的な引用を通じて、本報告書の調査結果をご支
援いただきました。
ラジャン教授との他の共同制作物ともども、本報告
書が必ずや読者の皆様に有益なものになると考えて
います。
プリンシパル・フィナンシャル・グループ
運用部門プレジデント
ジム・マコーガン
i
謝辞
次に、本報告書の調査結果にいかなる影響力も行
使することなく本報告書発行をご支援いただいて
いるプリンシパル・フィナンシャル・グループ社
にも謝意を表します。この対等な独立した関係に
より、私たちは過去 7 年間にわたって公平な評価
を実現でき、今や世界中のあらゆる主要ファンド
今年の主要テーマは「株の時代は終わったのか?」 市場で歓迎されています。
です。この 10 年で 2 度の厳しい下げ相場を経験し
たために、こうした考え方が広く報じられるよう 最後に、私の同僚にも感謝の意を表したいと思い
になりました。下げ相場の後の市場は急反発して ます。リサ・テレット(Lisa Terrett)には調査の
きましたが、それでもまだ投資家の疑念は晴れな 調整とインタビュー・プログラムの運営を、エリ
ザベス・グッデュー博士(Dr. Elizabeth Goodhew)
いのです。
には編集面のサポートをお願いしました。
議論は百出し、いっこうに進歩しておりません。
この 2015 年グローバル調査は、プリンシパル・グ
ローバル・インベスターズ社と CREATE リサーチ社
が 2009 年から行っている年次調査シリーズの一環
です。これまでの調査の詳しい内容については巻
末をご覧ください。
ii
本報告書は、ファンドが設定されている 29 カ国 の
投資家に意見を詳細に調べて議論の内容を整理し
ています。
このように、様々な人々からご助力をいただきま
したが、本報告書に誤りや脱落がありましたら、
その責任はすべて私が負うものです。
今回の調査には、705 の年金プラン、政府系ファン
ド、資産運用会社、年金運用コンサルタント、ファ
ンド購入者の皆様にご参加いただきました。この
場を借りて深く感謝いたします。
市場がマクロ経済リスクに常に翻弄されている中
で皆さんに毎年の調査にご協力いただき、私たち
は、投資センチメントの変化を監視する独立した
調査プラットフォームを構築することができてい
ます。
CREATE リサーチ(CREATE-Research)
プロジェクト・リーダー
アミン・ラジャン
目次
01
02
03
序論
i
謝辞
ii
エグゼクティブ・サマリー
2
序論
2
主な調査結果
3
調査手法
4
主要テーマ
5
株式市場の興亡
10
株式市場は「失われた 10 年」を終えて
再び人気を盛り返しているのか?
概観
10
マクロ経済要因が投資家を惑わす
12
プラグマティズムが株式への
関心の復活をけん引
14
依然として高く変動も激しい株式の
リスク・プレミアム
16
期待リターンは低下
18
地域ごとのポイント
20
資産配分
26
投資家はなりふり構わずリターンを
追求するようになるのか?
概観
26
「市場にとどまっている時間」が重要
30
株式への配分が高まる
確定拠出年金(DC)プラン向け商品
32
リテール市場に戻ってきたリスク商品
34
絶対リターン:富裕層投資家の主な目標
36
地域ごとのポイント
38
1
1 | エグゼクティブ・サマリー
序論
一時的回復か本格復活か?
2008 年から 2009 年にかけの世界金融危機で株式市場は暴
落し、その後驚くほどの勢いで急騰しました。それを目の
当たりにした私たちが抱くのがこの大きな疑問です。この
疑問は誇張ではありません。1979 年『ビジネス・ウィーク』
誌は「株式の死」というタイトルの悲観的な記事を派手に
取り上げましたが、その後、結果としては3年後に史上最
も長い上昇相場が始まりました。
2012 年にも、多くの有力評論家が「株の時代は終わろう
としている」と 、厳かに宣言しましたが、結局 3 年後には、
主要株式市場は史上最高値を更新したのです。どちらの時
も、投資家はバリュエーションの膨れ上がった債券に群が
りましたが、その後、結果としては3年後に史上最も長い
上昇相場が始まりました。
したがって、今の上昇相場をきっかけに、株式投資の将来
についての議論が世界中で沸き起こっているのも無理から
ぬことなのです。
最近の株式市場の上昇は、2008 年以降の量的緩和策(QE)
が事実上火をつけたという見方があります。QE は米連邦
2
準備理事会(FRB)が最初に実施し、イングランド銀行、
日本銀行が続き、直近では欧州中央銀行(ECB)が本格的
に取り組み始めました。
また、こうした異例の試みとなった金融緩和策は企業収益
よりも先に株式を押し上げたと考える人々もいます。資産
効果で企業収益も改善し、株価がその根底となっている価
格決定要素に再び結びつく、というわけです。
しかしこれまでのところ、この議論はマスコミとブログに
限られているようです。本報告書では、次の 2 つの重要
な質問に答えるプロセスを通じて、投資家コミュニティの
様々な見解をご紹介しようと思います。
• 金利が人工的に抑えつけられている今日の環境下で、
「株
の時代」と株式リスクプレミアム(ERP)という概念に
ついてどう考えるのが正解なのか?
• 今後 3 年間で様々な投資家グループが選好しそうな資産
クラスは何か?
本書では 2 つの主な調査結果が提示され、そこから発展し
た 5 つのテーマが続きます。
“ ”
不合理な世界で合理的な投資政策を追求するほど
危険なものはない - ジョン・メイナード・ケインズ
主な調査結果
1. 投資家の株式に対するアプローチを
決定づけるプラグマティズム
西側諸国では、過去 50 年間の素晴らしいリターンと堅実
な分散効果によって、株式は「崇拝される対象」としての
地位を獲得しました。ところが、ロマンスの時期は 2000
年に突然終わりを告げました。過去最大の割高水準とハイ
テク・バブルの崩壊が市場を劇的に襲ったのです。その後、
株式は「失われた 10 年」の時期を迎え、その間のパフォー
マンスは債券に容赦なく破れ続けました。
こうした経験を経たにもかかわらず、
「株の時代」は終わっ
たと考える調査回答者はわずか 4%で、そう考えない 79%
の人々よりも圧倒的に少ないのです。株式に対するこの支
持の程度は、北米(88%)、アジア(日本を除く)
(81%)、
欧州(72%)、日本(59%)と、地域によって差があります。
株式市場は単に自然治癒の段階に入っていると考える回答
者も 30%、そうかもしれないと考える回答者も 44%いる
のです。
株式が投資家から現在選好されているのは、債券のバリュ
エーションが歴史的な高水準にあるためです。若干意味合
いが異なりますが、株式はついに回復したのかもしれない
という見方もあります。
世界中で、投資家はリスクカーブを駆け上がってしまっ
たので、2 つの懸念が表面化してきました。調査回答者の
83%は世界の経済成長率が今後低下して各国の成長率もま
ちまちになると考え、55%が米国の利上げによって予期せ
ぬ悪影響が及ぶかもしれないと考えています。
このようなシナリオでは、投資家はコストの安い資金に毒
された市場の資産にどのような価格を設定すればよいかが
よくわからないのです。米国経済はついにデフレ的なマイ
ンドセットから解き放たれる「出口」に到達したのか?と
いう点についても悩まされます。機の熟さない利上げは、
1937 年(大恐慌時代に実施された金融引き締め)のよう
な崩壊を招く可能性があるのでしょうか?
超低金利と、欧州と日本で本格化しつつある景気回復によ
り、株価収益率が拡大して現在のバリュエーションを支え
るかもしれない − 今のところ、投資家はそう考えること
で株式を善意に解釈しようとしています。だからこそ、回
答者の 30%は年金債務がスパイラル的に増加し、赤字が
拡大し、キャッシュフローのマイナス幅が増加するという
事態に追い込まれた年金基金が、いよいよ株式投資に戻っ
てくると予想しているのです。
今も回答者の 3 分の 2 までが何らかの理由で株式に惹かれ
ているものの、現実的な姿勢も堅持しています。2009 年
以降の力強い上昇相場にもかかわらず、今後も長期的に上
がり続けるとみている回答者はわずか 28%なのです。
理由は単純です。投資家が追っているのはリターンであり、
資産クラスではない、と回答者の 70%が考えているから
です。ほぼゼロ金利という超現実的な世界では、投資とは
利用できるものを何でも利用することに他ならない − こ
こに来て目立ち始めたプラグマティズム(現実主義)はそ
う考えるのです。
おそらく、現在の株式の上昇が本当の意味での復活かどう
かを判断するには、市場が上昇しているときに資金がどれ
だけ流入してくるかを見るのではなく、今後必ず訪れる調
整局面で、どれだけの回復力を示すかが最も重要だと思わ
れます。その前に、2 つの結果が示されるでしょう。第 1 に、
株式リスク・プレミアム(投資家が株に抱く希望と恐れを
表す一つの指標)は今後も高く、不安定で、変わりやすい
と思われます。一方、今日の債券のバリュエーションを見
ると、もはや債券は無リスク資産という概念が通用しなく
なっています。第 2 に、世界の景気回復が不均等に進んで
いるため、各地の株式市場も歩調を合わせて動かなくなる
かもしれません。
2. 株式の「債券化」が加速する
投資家が直面する最大のリスクは市場のリスク回避傾向で
す。投資家は株式への関心を復活させましたが、これはあ
る種のバランスをとる行動です。だれでも、たいていの資
産クラスではリターンが将来過去水準を大幅に下回ること
をわかっています。その一方で一世代に一度の大相場にな
3
“
るかもしれない機会を逃したくはないのです。その結果と
して行き着く先は、株式の「債券化」でしょう。つまり人々
は配当が高く、負債が少なく、価格決定力が強く、フリー
キャッシュフローを抱え、自己資本利益率(ROE)の高い
銘柄に投資するのです。
今日の投資環境で私たちが守るべき
黄金のルールは、
「投資に王道はない。
常識のみに従え」ということです。
”
このグローバル調査では、29 カ国の 705 の年金プラン、
政府系ファンド、年金運用コンサルタント、資産運用会社
を対象に行われました(運用資産規模の総額は 26 兆 8,000
億米ドルに達します)。
本調査の補足としてさらなる本音とニュアンスを探るた
め、回答をお寄せいただいた 102 機関の幹部に体系的なイ
ンタビューを実施しました。本報告書で提示されているあ
らゆるデータはこの二つの情報源に立脚しています。
−インタビューからの引用
本報告書で取り上げる 4 つの投資家グループの資産配分方
法には共通の特徴があります(詳細に見るとかなり異なっ
ていますが)。
•
•
•
•
調査対象企業の国と運用資産規模
オーストラリア
インド
シンガポール
動の少ない銘柄、不動産、ソブリン債、オルタナティブ・
クレジットを組み合わせて多様な目標を達成しようとす
るでしょう。
オーストリア
アイルランド
南アフリカ
ベルギー
イタリア
韓国
カナダ
日本
スペイン
確定拠出年金(DC)プランは、我先にと考える
中国
クウェート
スウェーデン
加入者の群衆本能よりも投資助言組込型の商品を好みま
す。そのような商品は株式の保有比率を高めるはずです。
デンマーク
ルクセンブルク
スイス
フィンランド
マレーシア
台湾
所得(インカム)の獲得を目指すファンド・ファミリー
を保有して、株式への投資配分を高めるでしょう。
フランス
オランダ
英国
ドイツ
ノルウェー
米国
富裕層の投資家は、主な資産クラスやオルタナティ
香港
サウジアラビア
確定給付年金(DB)プランは優良株式、株価変
個人投資家も、ベンチマークにとらわれずに一定の
ブ資産クラスを通じて、他の資産クラスとの相関性の低
い絶対リターンの獲得を目指すでしょう。
今のところ、すぐにでも下落相場になるのではないかとの
不安は後退しています。かつて投資家を動かしていた要素
(急激な利上げや経済バブル)は現在は見当たりません。
けれども、重大ニュースになるほどのイベントが起きれば、
投資家のムードを実態以上に大きく揺り動かすでしょう。
4
調査の方法
運用資産規模
26.8 兆米ドル
出典:プリンシパル ®/CREATE リサーチ調査 2015
テーマ 1
プラグマティズムが株式への関心の復活をけん引
米国、欧州、日本での量的緩和策(QE)は、各国/地域
の景気を刺激することを目的としてきました。こうした
施策の結果、金利は史上最低水準を記録し、株式は史上
最高値に跳ね上がったのです。人々の楽観傾向が戻って
きています。その一方で、企業収益が現在のバリュエー
ションに追いつけるほど景気は本当に良くなっているの
か?この点についての疑いは今も晴れておりません。
米国経済は絶好調(あるいはそれに近い状態)です。欧
州と日本でも景気回復が本格化している兆候が明らかに
見て取れます。けれども、新興国経済は減速を続けてい
ます。過剰債務は世界中の成長にとって依然重石となっ
ている、と回答者の 60%が答えています。
ると考えています(図 1.1 の下のグラフ)。この合計 74%
という割合は北米(81%)
、アジア(日本を除く)(77%)
、
欧州(69%)
、日本(61%)と、
地域によって差があります。
(日本の 61%は、日経平均が 1989 年末の 38,915 円から
2003 年 4 月の 7,831 円までの長期下落相場の恐怖を投資
家がまだ忘れられない事実を反映しています。)
図 1.1「株の時代」は終わろうとしているのでしょ
うか?「失われた 10 年」での低リターンは 2000
年のインターネット・バブルがはじけた後の自然
治癒プロセスの一貫なのでしょうか?
「株の時代」は終わったのか?
米国の動向が世界の趨勢を決めるため、米国経済が失速
しているのではないか、FRB による時期尚早の利上げに
よって景気後退に陥るのではないかと世界中の投資家が
気を揉んでいます。
もしそうなると株式市場は全面安に見舞われるでしょう。
けれども、デフレ懸念にもかかわらず、今のところはリ
フレ政策が優勢のようです。通常よりも低い政策金利と
通常よりも低い成長率が定着してしまっていますので、
市場は急騰すると考えるのが普通でしょう。
株式に対する投資家の現在のセンチメントには、今後も
警戒心と期待感が入り交じるでしょう。つまり、今の市
場の上昇は中央銀行による資金注入の結果なのだという
点を忘れるべきではなく、同時にファンダメンタルズが
改善しているのも無視してはいけない、という気持ちで
す。ここで暗示されているプラグマティズム(現実主義)
は、調査回答者の 70%が述べているように、投資の世界
を周期的な、自己調整型の存在としてみる、ということ
です。
はい 4%
可能性あり 13%
よくわからない 4%
いいえ 79%
自然治癒プロセスの一部?
はい 30%
可能性あり 44%
よくわからない 6%
いいえ 20%
出典:プリンシパル ®/CREATE リサーチ調査 2015
したがって、回答者の 79%が「株の時代」は終わったと
は考えていないのです(図 1.1 の上のグラフ)。株式市場
は 2 度の長期上昇相場を経て「崇拝される対象」として
の地位を獲得しました。それは 1950 年代と 1982 ∼ 1999
年です。その結果、そうしてリスクとリターンのトレー
ドオフ関係が定着しました。
株式は分散効果も実現し、株式対債券の保有比率を 60 対
40 とする資産配分が規範となりました。けれども、その
すべてが 2000 年 3 月、
IT バブルがはじけるとともに終わっ
てしまいました。
過去 10 年間に起きた 2 回の下落相場によって、調整期間
が延々と続く事態となりました。しかし、市場は明らか
に再び動き始めています。中国、マレーシア、韓国での
資本市場改革という新たな刺激も予想されています。世
界最大の年金プランである日本の年金積立金管理運用独
立行政法人(GPIF)は、株式への投資配分を 2 倍にする
権限を与えられました。
中国の A 株式が間もなく MSCI と FTSE の新興国指数に組
み入れられる可能性もあり、そうなると、世界的なポー
トフォリオのリバランスが始まるでしょう。
1881 年以来、S&P500 指数の景気循環調整後の株価収益
率は平均 16 倍でしたが、それが 2000 年には 44 倍と史
上最悪の割高水準にまで上昇したのです。その後、株式
は脇へ追いやられました。調査回答者の 30%はこれを自
然治癒段階と捉えており、さらに 44%はその可能性があ
ドイツやオランダのような強固な債券市場でさえ、最近
は債券が現実とはかけ離れた高値で取引され、満足でき
るリターンを求めるなりふり構わぬ動きの中で、株式が
注目を浴びるようになってきました。
インタビューからの引用:
「マイナス利回りの世界での投資は、
後ろ向きに走る自動車の運転を学んで
いるようなものです。前例がありませ
ん。」
「利上げが行われたらどうなるかはだ 「低金利は株価収益率の拡大を促しま
れもわかりません。しかしその前に、 す。市場は実態以上に上がり過ぎてし
投資家は、これまでで最も長い上昇相
まいました。」
場の一つから得られるものを逃したく
ないのです。」
5
テーマ 2
新たな局面に入る株式リスク・プレミアムと
市場の調整
株式リスク・プレミアム
株式リスク・プレミアムとは、株式の期待リターンのうち
無リスク金利を超えた部分と定義され、長く投資家の希望
と懸念の受け皿となってきました。株式リスク・プレミア
ムは、株式市場と世界経済がいずれも回復していたにもか
かわらず、2013 年に 20 年ぶりの高水準を記録しました。
一見すると株式リスク・プレミアムが高いのは、量的緩和
政策に基づいて大量の債券が購入されて債券利回りが極端
に下げているからです。
回答者の 3 人に 2 人は、金利が正常化すれば株式リスク・
プレミアムは正常水準に戻るはずだと予想しています(図
1.2 の上のグラフ)。そしてこの点は北米(69%)、アジア(日
本を除く)(65%)、欧州(62%)、日本(57%)と、地域に
よる差がそれほどありません。本報告書の第 2 章で触れる
ように、これとほぼ同数の回答者が、不安定な状況の続く
世界経済を反映して、株式リスク・プレミアム (ERP) はか
なり大きく変動すると予想しています。
しかし、もっと重要な点を指摘しておきましょう。それは、
ERP を予測ツールとして信用し過ぎることは賢明ではない、
ということです。なぜならば無リスク資産に関するこれま
での考え方がもはや通用しなくなっているからです。無リ
スク資産は、その定義上(1)投資対象資産の中ではリター
図 1.2 今後 3 年間で、現状の高い株式リスク・プレ
ミアムと世界中の株式市場間の相関性はどう変わる
でしょうか?
金利が正常水準に戻ると株式リスク・プレミアムも
正常化する
そう思う 66%
どちらとも言えない 21%
ンが最も低い、
(2)リスク資産との相関性がない、
(3)期
待リターンと実現リターンとの間に差がない、という 3 つ
の特徴を有しています。ところが、1999 年から 2009 年ま
での間、米 10 年国債のパフォーマンスは株式を上回った
ばかりでなく、自らの期待リターンをも大幅に上回ったの
です。2014 年に、ドイツ 10 年国債は 40%という驚くほど
のリターンを記録しました。
すべての償還期限で合理的な判断基準を欠いている限り、
債券は株式リスク・プレミアムを評価する適切なベンチ
マークとは言えません。
相対的なバリュエーションではなく、絶対的なバリュエー
ションの方が株式投資では重要なのです。ディープ・バ
リュー・アプローチ、つまり本源的価値を大きく割り込んだ
銘柄を探す手法の方が、中期的には成功確率が高いのです。
市場間の相関性
以前の関係が弱まったもう一つの分野は、世界中の株式市
場間の相関性です。
た と え ば、 新 興 国 と 先 進 国 の 株 式 指 数 の 相 関 性 は、 こ
の 10 年間で着実に上昇し、2013 年にはおよそ 0.9 でし
た。新興国株式市場のヒストリカル・ボラティリティは
1980 年末には平均で年率 40%でしたが、2013 年末には
27%まで低下していました。
その結果、新興国の先進国に対するボラティリティの割合
は 1.9 倍から 1.1 倍へと半分近くまで低下しました。
けれども、世界経済の成長パターンが不均等になってきて
おり、市場間の相関性が今後も上昇を続けそうか否かにつ
いては回答者の間で意見がわかれています(図 1.2 の下の
グラフ)
。特に、2013 年の 6 月から「量的緩和の段階的縮
小」が騒がれるようになって以来、新興国のバリュエーショ
ンの変動が甚だしくなり、2013 年∼ 2014 年には激しい資
金流出が起きました。
よくわからない 6%
各国の市場は歩調を合わせて動くことはなさそうです。今
後 3 年間を見据えた時に最も魅力的と思われる株式市場は、
そうは思わない 7%
(魅力的な順に)米国、インド、日本、フロンティア市場、
アジア(中国とインドを除く)でしょう。逆に最も魅力に
株式市場間の相関性は上昇、低下あるいは変わらない 欠ける国としては、ロシア、オーストラリア、中南米、カ
ナダ、東欧などのコモディティ生産国を挙げられます。こ
れら諸国については第 2 章で取り上げます。
上昇する 34%
変わらない 32%
この両者の間に中国、大陸欧州、英国などの割高な市場が
存在しています。
低下する 34%
出典:プリンシパル ®/CREATE リサーチ調査 2015
量的緩和策の結果、世界中で株式市場のみならず、良い物
も悪い物もあらゆる財の価格が引き上げられて、パッシブ
運用の世界にはバリュー・トラップ(価値への誤解)が生
まれました。市場が公正価値に戻り始めると、銘柄選択の
価値が高まるでしょう。
インタビューからの引用:
「株式のリスク・プレミアムは今後も 「新興国は、類似点よりも相違点の方 「これからは各資産クラス、地域から
高く変動も激しいでしょう。今日では、 がよほどたくさんあるのです。
」
どれを選ぶのかが重要になるでしょ
プレミアムが将来のバリュエーション
う。」
を正しく予測できなくなっています。」
6
テーマ 3
板挟みになる年金プラン
この 10 年で、年金プランが株式の上昇をつかみそこねた
のには 3 つの理由があります。(1)2000 ∼ 02 年の下げ相
場で被った莫大な損失、
(2)その後に導入された会計にお
ける時価評価の原則、
(3)人口の高齢化による債券投資の
選好。
図 1.3 今後 3 年間で、多数の年金プランと長期投資
家が株式投資に回帰する可能性が高いか?
世界各国で確定給付年金(DB)プランの数が増えるとと
もに、当然の帰結として年金プランのリスクを次第に減ら
していく年金負債対応投資(LDI)の採用が始まりました。
これはあらかじめ決められた段階的計画に従って、株式そ
の他のリスク資産から債券への乗り換えを進めていこうと
いう投資手法です。この傾向は 2008 ∼ 09 年の下落相場の
後に強まりました。
そう思う 30%
ところが、金利の低下と人口の高齢化により年金債務の増
加、積立不足の拡大、支払不能リスクの上昇、資金流出の
増加といった負のスパイラルが起きました。年金スポン
サーによる現金の注入はこのスパイラルを緩和させます
が、反転させるわけではありません。その結果、回答者の
30%が年金プランは株式への資金配分を増やすだろうと予
想しています(図 1.3 上のグラフ)。
また、30%がこの問題については「どちらとも言えない」
と回答しました。
株式への配分の増加は、おおむね、積立不足が最も大きい
公的年金プランに限られており、特に北米と欧州で目立っ
ています。一方で、私的年金プランは、債券への資産配分
が事前に設定していた水準を超える場合には株式の配分を
段階的に増やしていく年金負債対応投資(LDI)に依存し
ています。
当初のリスク・イミューニゼーション(免疫化)戦略への
こだわりを警戒している年金プランもあります。この戦略
は債券投資の効果をなくすほどに利回りが低下することを
予想していなかったからです。
株式へのアプローチを考え直している投資家グループは確
定給付年金(DB)プランだけではありません。確定拠出年
金(DC)プランと個人投資家も、リスクカーブを上昇して
リターンの向上を目指さざるを得なくなっています(図 1.3
下のグラフ)。
全体としては、多数の長期投資家が株式への回帰を果た
すだろうと回答者の 34%が考えています− ただし、北米
(41%)、アジア(日本を除く)(35%)、欧州(30%)、日
本(23%)のように、地域ごとに若干の差はあります。
年金プランは、積立不足を埋めるべく今後は
株式への資産配分を増やす
どちらとも言えない 30%
よくわからない 11%
そうは思わない 29%
長期投資家はバリュエーションを根拠に株式投資に
回帰するだろう
そう思う 34%
可能性あり 42%
よくわからない 8%
そうは思わない 16%
出典:プリンシパル ®/CREATE リサーチ調査 2015
者のポートフォリオの相当部分がなお株式に配分されてい
ます。
個 人 投 資 家 向 け 商 品 で は、 分 散 配 当 フ ァ ン ド の 新 型
商 品 で は、 優 良 株 式 へ の 配 分 が 高 く な っ て い ま す。
あらゆる地域と資産クラスに投資できる「ゴー・エニウェ
ア(Go-anywhere)
」ファンドでも株式の保有比率が高まっ
ています。
この動きに貢献しているのは、債券市場の低利回りだけで
はありません。最近発行された債券では投資家よりも発行
体の都合が優先されていると、回答者のおよそ 40%が答え
ています。
たとえば、発行市場では、変動利付債から固定利付債への
動きが起きており、金利が上昇したときに発行体に有利な
状況が生まれています。繰上償還条項付き債券の金額も目
立って増えてきました。これは発行体が満期前に債券を償
還する選択肢を与えられる債券で、投資家は(低金利/金
利低下局面では)高い再投資リスクを背負わなければなら
なくなります。
慎重に考えれば、退職者や退職の近づいた人々は債券への
投資比率を高めるべきで、退職時の蓄えをリスクにさらす
債券発行に関するこうしたトレンド以外では、今後 3 年間
べきではありません。しかし利回りを求める過程の中で、
では企業収益の伸びが、引き続き株式投資成功の伴となる
投資家は今や逆張りの行動を強いられています。
でしょう。今後は次の 3 つの国がとりわけ有望だと見られ
、そして日本(39%)
確定拠出年金(DC)では、ターゲット・デート型ファンド ています。米国(56%)、インド(40%)
の着地点は引き延ばされ、退職年齢段階に達している加入 です。
「下げ相場ではリスクの最小化(いかに
リスクを低く抑えるか)で頭がいっぱい
になります。上昇相場になると、後悔の
最小化(後になってなるべく後悔しない
ように)を考えるようになるのです。」
「 米 国 債 が 2.0% を 払 っ て い る 時 に 「FRB が利上げサイクルを始めた時に
S&P の益利回りが 5%近くあるのな
長期金利も上昇すると、負債管理型投
ら、何も考えることはないじゃないで
資の分が悪いと思います。」
すか。」
7
テーマ 4
投資家は資産クラスではなく、リターンを追う
株式重視の投資スタンスは、「量的緩和(QE)という雲の
向こうには希望がある」という見方に支えられています。
量的緩和策は世界の株式市場を建て直し、各国に景気回復
のきっかけを与えました。もっとも私たちの知る限りでは
最悪だった金融危機の後のため、回復のペースは国により
様々でした。
一方で、投資家は現実的な姿勢も堅持しています。株式が
長期的に上昇し続けることはないだろう、と回答者の 28%
が考えています。この点については、地域による差はほと
んど見られません。さらに、43%がこのアイデアに中立を
維持しています(図 1.4 の上のグラフ)
。なぜなら、この
10 年間で私たち目撃してきたのは、
「投資家が追っている
のはリターンであり、資産クラスではない」という言い古
された言葉の再確認以上でも以下でもないからです。
この見方には 70%の回答者が賛意を示しています(図 1.4
下のグラフ)
。反対している回答者はわずか 10%です。と
はいえ、株式への関心の復活が皮相的だ、ということでは
ありません。
第 2 章で見るように、回答者の大半は次の 3 つの意見に賛
同しています。
• 利回りが低い間、株式は投資対象としての魅力を維持す
る(65%)
。
• 現在の株式のバリュエーションは維持される(67%)。
• バリュエーションはそれぞれの価格決定要素との相関が
高まる(67%)。
こうした意見への賛成の割合が最も高かったのは北米で、
最も低かったのは日本でした。
「長生きリスク」が上昇しているため、これに対処するに
は株式が無限の上昇余地を与えるように思われます。一方、
債券には利払いしかありません。その結果、およそ半数の
回答者が(2013 年から明白に現れている)債券から株式
への循環が今後も続くと考えています。これは株式の「債
券化」が続くことを想起させます。優良企業が配当を支払
うと、全体のリターンが大きく変わってくるのは、S&P500
トータルリターン指数(配当を含む)に示されている通り
です。1989 ∼ 2014 年までの間に、
このリターンは 870%で、
一方債券のリターンは 470%でした。明らかに、優良企業
の株式は損失が少なくて利益が多く、どのような景気循環
でも市場のパフォーマンスを上回るのです。
けれども投資家の株式に対する新たな関心は無条件に高
まっているのではありません。冷厳な現実主義に抑制され
たものなのです。
・ 回答者のおよそ 55%が、米国以外の経済状態が引き続き
不安定なのであれば、量的緩和策は将来のリターンを先
取りしてきたものかもしれないと懸念しています。
図 1.4 今後 3 年間の株式に関する次の文章について、
• 56% の回答者は、中央銀行の「プット」に過度に依存す
あなたはどうお考えになりますか?
株式の長期上昇相場はやってこない
そう思う 28%
どちらとも言えない 43%
よくわからない 14%
そうは思わない 15 %
投資家は資産クラスではなく、リターンを追う
そう思う 70%
るのは無謀かもしれないとの懸念を抱き続けています。
株式は過去 100 年間で債券を上回るリターンを提供して
きましたが、今日の市場は安価な資金に毒されてしまい、
「公正価値」と「均衡価格」という概念がほとんど当ては
まらなくなってしまいました。
• 63% の回答者はボラティリティ(市場の変動性)を懸念
しています。1870 年以降、30%以上の暴落が平均して
10 年に 1 度起きていることを知っているのです。通常の
「欲望と恐怖」の周期によって、ファンダメンタルズで説
明できる 13 倍の価格変化が起きる場合があります。
すべての要素を考慮すると、ほとんどの投資家にとって、
株式を持ち続けることよりも、持たないことの方がリスク
は高いのです。他の資産クラスの上昇余地も株式よりも高
いようには見えません。
どちらとも言えない 17%
よくわからない 3%
そうは思わない 10 %
出典:プリンシパル ®/CREATE リサーチ調査 2015
インタビューからの引用:
「コストの安い資金を手にすると、目 「アニマル・スピリット(野心的意欲) 「人口の高齢化とは、投資し続けなけ
の前の光景の先、ゲームの結末までを
の復活の兆しはあるのですが、投資家
ればならないことを意味します。現金
見通すのは難しいものです。私たちを
は世界経済への警戒心がなかなか解け を持つこと自身がリスクになるので
導いてくれる歴史の教科書はないので ないのです。」
す。」
すから。」
8
テーマ 5
資産運用は、
株式に偏りながらも複数の目標を追う
今後 3 年間では、4 つの主要投資家セグメントが、資産クラスの組み合わせを用いて価値を引き出すでしょう。
確定給付年金(DB)プラン:最優先課題はプラグマティズ
ム。「市場にいる時間」の方が市場の「タイミングを取る」
ことよりも価値があります。市場の流れに乗って「後悔の
最小化」を図ることが、資産を分散して「リスクの最小化」
を図ることと同じくらい今後も重要になるでしょう。した
がって、投資家は様々な資産クラスに資金を展開して特定
の運用目標を目指します(図 1.5 の右上の表)。つまり世界
の優良株式銘柄で市場の上昇に乗り、株価変動の少ない銘
柄で低ボラティリティを実現し、不動産投資で元本の成長
と定期的なインカムを獲得し、世界の経済成長が予想を下
回った場合にはソブリン債への投資でパフォーマンスの低
下を抑え、オルタナティブ・クレジットで高利回りを狙う
のです。
個人投資家:最優先課題はベンチマークにとらわれないリ
ターン(左上の表)
。個人投資家は、確定拠出年金(DC)
プランと同じくマルチアセット・クラス型ファンド、配当
重視型ファンド、あるいはパッシブ・ファンドなど、投資
助言組込型の投資商品を選好します。これからは 2 つのファ
ンド・ファミリーが急速に伸びるでしょう。マルチアセッ
ト・クラス型ファンドと配当重視型ファンドです。この 2
つは、十分なリサーチがされておらず、割安で人気のない
資産を有する株式を持とうとするファンドです。このファ
ンドはポートフォリオのリターンを台無しにする最も気づ
きにくい 3 つの問題を解決しようとします。
(1)「リターンの順序」リスクは、市場が大幅に下落した
後にポートフォリオが回復するのに必要な時間に伴うリス
クです。(2)「長生きリスク」は、投資家が保有資産より
確定拠出年金(DC)プラン:最優先課題は加入者の行動バ も長く生存するリスクです。
(3)インフレーション・リス
イアスの最小化(右下の表)。利回り物色を行う動きの中で、 クは、物価が上昇してリターンや資産の価値を劣化させる
この投資家が保有するレガシー資産は、株式を選好する投 リスクです。
資助言組込型のオプションへと移動するでしょう。伴とな
るのは商品選択で、加入者の行動バイアスを阻止するため 富裕層:最優先課題は他の資産や市場と無関係な絶対リ
のターゲット・デート型ファンドとターゲット・インカム ターン(左下の表)。アジア(日本を除く)の富裕層はリ
型ファンドが重視されます。ターゲット・デート型ファン スク選好度が他の地域よりも高く、自分のビジネスに投資
ドは、株式の保有比率が受け入れ可能なインカム水準を生 して得られるのと同じ程度のリターンを求めます。他の地
み出すまで引き上げられ、ドローダウン型のポートフォリ 域の富裕層投資家は、自分の決めたリスク予算の範囲内で
オに変貌するでしょう。新たな投資先には、不動産やプラ 多くのリターンを得ようとするでしょう。したがって、富
イベート・エクイティも含まれることになります。
裕層は主流の投資手法とオルタナティブ投資手法を多彩に
ブレンドした、アクティブ運用とパッシブ運用の組み合わ
せを好むのです。
図 1.5 投資家は今後 3 年間、どの資産クラスと投資商品を選好するか?
回答者の割合(%)
個人投資家
回答者の割合(%)
確定給付年金(DB)プラン
マルチアセット・クラス型ファンド
63%
従来型のパッシブ運用債券/株式ファンド
70%
配当重視型ファンド
60%
グローバル株式
69%
従来型のパッシブ運用債券/株式ファンド
60%
不動産(負債と株式)
68%
規制されたミューチュアル・ファンド
55%
インフラストラクチャー
65%
上場投資信託(ETF)
44%
株価変動の少ない株式
62%
先進国ソブリン債
58%
オルタナティブ・クレジット
56%
富裕層
確定拠出年金(DC)プラン
不動産
63%
分散配当ファンド
63%
株式・債券のアクティブ運用
56%
従来型のパッシブ運用債券/株式ファンド
66%
プライベート・エクイティ
55%
ターゲット・デート型退職ファンド
60%
ヘッジファンド
54%
ターゲット・インカム型退職ファンド
58%
マルチアセット・クラス型ファンド
54%
分散成長ファンド
52%
従来型のパッシブ運用債券/株式ファンド
54%
出典:プリンシパル ®/CREATE リサーチ調査 2015
「インカム収入を得るために、高格付 「スタイルボックス型の投資はもはや
けのソブリン債に依存できる時代は終 最重要ではありません。」
わりました−そんな時はもう当分来な
いでしょう。」
「ライフサイクル型ファンドでは、投
資家は、着実に安く買って高く売るこ
とができます。この型のファンドでは
株式の保有比率が引き上げられていま
す。」
9
2 | 株式市場の興亡
株式は「失われた 10 年」の後に再び人気を盛り返しているのか?
▲
本章では次の点に関する投資家の認識に焦点を当てます。
一連のマクロ要因が今後も多くの
投資家を打ちのめす
・今後 3 年間でグローバル市場の資産価格を変動させる諸要因
プラグマティズムが株式への関心
の復活をけん引
・株式投資全般に関する見方と、とりわけ株式リスク・プレミアムから見た株
式投資の見通し
▲
要旨
▲
本章のハイライト
株式のリスク・プレミアムは今後
も高く変動も激しい
主要なリスク変動要因
▲
大半の資産クラスの期待リターン
は低下
資産価格を動かす要因
• 世界の経済成長率の鈍化と不均等化(83%)
• 米国の利上げ観測による悪影響(55%)
• ユーロ圏の量的緩和策(QE)開始以来の利回り低下圧力(54%)
調査後のインタビューでは、60%の参加者が調査結果について次のような見方
を提供してくれました。
• 世界の経済成長率は 6 ∼ 8%から 4 ∼ 6%へと鈍化
• 新興国の成長エンジンは活力を失う
• 米国は目覚ましい景気回復を遂げるが、今後は失速するかもしれない
• 世界中のそこかしこで過剰債務が成長の大きな足かせになる
• 欧州の量的緩和策はリスク資産をさらに押し上げようが、米国ほどのインパ
クトはないだろう
10
“
株価が上がるのは債券が下がるからです。若干意味合いが
異なりますが、株式はドットコム・バブルを経て
ついに治癒されたのかもしれないという見方もあります。
このように、投資家はコストの安い資金に毒された市場の
資産にどのような価格を設定すればよいかを懸念している
のです。また、FRB の量的緩和策で提供されてきた安全網
がなくなることについても懸念しています。FRB は利上げ
を実施するのはどんなに早くても 2015 年後半と投資家は
見ています。投資家が様々な方向に引っ張られている投資
環境で、株式は優れた選択肢の一つです。
図 2.1「株の時代」は終わったのか?
北米
株式投資と株式リスク・プレミアム
の見通し
今後もプラグマティズムが投資家の株式への関心を左右す
るでしょう。図 1.1 では調査対象者の 79%が、
「株の時代
は終わった」とは考えていないと答えています。図 2.1 は、
地域ごとの違いを示しています。北米は 88%、アジア(日
本を除く)は 81%、欧州は 72%、日本は 59%がそう答
えているのです。
この楽観的な見解は、「長期投資家は大挙して株式に戻っ
てきそうか」を調査回答者たちに尋ねた時にさらに裏付け
られました(図 2.2)。「はい」と「可能性あり」と答えた
回答者の割合は、北米(80%)、アジア(日本を除く)
(79%)、
欧州(76%)、日本(73%)でした。
回答者たちは次の 3 つの予想に基づいてこの評価をして
います。
• 現在の株式のバリュエーションは維持される(67%)
はい 2%
はい 6%
可能性あり 9%
可能性あり 18%
よくわからない 1%
よくわからない 4%
いいえ 88%
いいえ 72%
アジア(日本を除く)
はい 10%
はい 3%
可能性あり 19%
可能性あり 13%
よくわからない 12%
よくわからない 3%
いいえ 59%
いいえ 81%
出典:プリンシパル ®/CREATE リサーチ調査 2015
図 2.2 今後 3 年間で、多くの長期投資家が株式への回帰を
果たすでしょうか?
北米
• 株式は今後も魅力を維持する(65%)
• 債券から株式への循環買いが起きる(47%)。
債券はもはや無リスク資産とは見られていないため、株式
リスク・プレミアムは投資家の希望と懸念を示す指標では
ありません。したがって、株式リスク・プレミアムは今後
も高く、激しく変動していく一方で金利は底 い、債券の
バリュエーションは歪んだ状態が続くでしょう。
欧州
日本
• バリュエーションはそれぞれの変動要因との相関が
高まる(67%)
ソブリン債は依然よりも割高になっています。株式が長期
低迷時期に入るとソブリン債は優れた資産になるかもしれ
ませんが、そうでない場合は悲惨な結果になる可能性があ
ります。
”
−インタビューからの引用
欧州
はい 41%
はい 30%
可能性あり 39%
可能性あり 46%
よくわからない 9%
よくわからない 10%
いいえ 11%
いいえ 14%
日本
アジア(日本を除く)
はい 23%
はい 35%
可能性あり 50%
可能性あり 44%
よくわからない 6%
よくわからない 2%
いいえ 21%
いいえ 19%
出典:プリンシパル ®/CREATE リサーチ調査 2015
11
一連のマクロ要因が今後も多くの投資家を打ちのめす
2008 年の金融危機の遺産はまだ消えていません。G20 諸
国の協調的行動にもかかわらず、世界経済はまだ困難から
抜け出しておりません。投資家は今後 3 年間に世界の金融
市場の変動要因として様々なものを挙げています(図 2.3)
。
各国の経済成長率の乖離
主な変動要因は世界経済の状態で、これは調査回答者の
83%がそう答えています。この数値には地域ごとの差違は
ほとんどありませんが、成長見通しは主要 4 地域間に差が
見られます。
最も良いのは米国で、絶好調(あるいはそれに近い状態)
です。米国経済の著しい成長を受けて、FRB は量的緩和策
を締めくくり利上げサイクルの開始を検討しています。そ
れとは対照的なのがユーロ圏と日本で、米国を引き継ぎ、
自らの量的緩和策を実施して金融危機以降の冴えない景気
を再起動させようとしています。構造改革を実施して競争
力を高めないと、景気回復の勢いはさらに萎んでしまうで
図 2.3 今後 3 年間でグローバル市場の資産価格を変動
させるプラスとマイナスの要素は何だと思いますか?
83%
米国の量的緩和策の終了
55%
欧州での量的緩和策の開始
54%
新しい規制による意図せざる結果
51%
人口の高齢化
50%
欧州と日本が長期スタグフレーションに陥るのではないかとの懸念
41%
中国の「ハード・ランディング」懸念
40%
米国における企業収益拡大サイクルの長期化
30%
中国の金融緩和
30%
自社株買いブームの継続
23%
日本でのもう一段の量的緩和策
18%
10
20
30
40
50
60
70
回答者の割合(%)
出典:プリンシパル ®/CREATE リサーチ調査 2015
80
今後 3 年間の世界の経済成長率は、最近の 6 ∼ 8%から、
将来は 4 ∼ 6%に減速する、と調査後のインタビューに参
加した人の 60%が予想しています。債務は依然としてア
キレス伳です。2008 年以降、世界の債務残高は、GDP の
225% から 250%へと上昇しました。レバレッジの解消は
米国が早く、欧州では一定のペースで進み、アジアが出遅
れています。
債務とは、定義上消費の先食いであり、将来の支出を抑制
します。だからこそ、欧州と日本で改革が進まずに長期的
停滞に陥ることを回答者の 41%が恐れているのかもしれま
せん。さらに、高齢化の進展も成長の妨げになり、そのこ
とが彼らの投資選択に影響を及ぼすだろうと回答者の 50%
が答えています。その影響が最も強いのは日本で、欧州と
北米はある程度の影響を受け、最も弱いのがアジア(日本
を除く)です。
予想ができない QE 後の世界
調査後のインタビューでは、参加者のおよそ 90%が最大
の懸念材料について触れました。それは米国における金利
の正常化の見通しについてです。FRB の量的緩和策(QE)
にメリットがあったことは事実ですが、あまりにも長く続
いたために投資家が人工的につくられた低金利と潤沢な流
動性に慣れてしまいました。
世界経済の成長見通し
0
しょう。その間に位置するのがアジアの他の諸国で、中国
の力強い成長サイクルの終了とともに、成長率が鈍化し続
けると思われます。
90
したがって、調査回答者の 55%が、米国の金利が引き上
げられると世界中の資産価格が打撃を受けると予想して
います。その割合を地域別に見ると、北米(42%)、日本
(50%)、欧州(62%)
、アジア(日本を除く)
(65%)となっ
ています。しかも、今回の利上げサイクルは、政策金利が
短期間では 2.5%を上回らないはずだ、という見通しを考
慮した上での数値なのです。なぜならば、米国の対 GDP
比での債務残高は 233%と、1947 年以降で最高水準に達
しているからです。
米国で利上げが実施されると、米国の外、主にアジアの新
興国で発行された政府債、社債といった9兆ドルの米ドル
建て債券にどのような影響を及ぼすのか?−インタビュー
を受けた人のおよそ 60%(大半が欧州およびアジア(日
本を除く)
)がこの点に対する懸念を表明しました。中国
の社債のおよそ 25%は米ドル建てです。一方、企業利益
に占める米ドルの比率は 8.5%にすぎません。
成長モメンタムを維持するために、欧州と日本、そしてア
ジアの他の諸国では、金利は当面低水準かゼロ近辺が維持
インタビューからの引用:
「欧州と日本は構造的な問題を抱えてい
ます。この問題は量的緩和策を行っても
解決しないでしょう。外科手術の前の麻
酔薬のようなものなのですから。本当に
直すには構造改革が必要なのです。」
12
「FRB の金利への態度は『秩序ある撤 「米国に比べ、欧州では株式を所有す
退』なのでしょうか、それとも『壊滅
る文化が定着しておらず、持ち家比率
的敗走』なのでしょうか?市場は信用
も低いので、量的緩和による資産効果
供与というステロイドに中毒してし は米国ほどには期待できないと思いま
まっているのです。」
す。」
“
世界の経済成長率は、最近の
6 ∼ 8%から、将来は 4 ∼ 6%
に減速する、と調査後のイン
タビューに参加した人の 60%
が予想しています。
”
されるでしょう。回答者の 40%は、シャドウ・バンキング(影
の銀行システム)のデフォルトを原因とする中国のハード・ラ
ンディングをなお恐れています。そのような懸念は北米(51%)
、
欧州(45%)、日本(44%)の回答者の方がアジア(日本を除く)
(28%)よりも高いのです。
総合的に見て、米国経済は世界の原動力として他の諸国をけん
引できるほど強力な存在にはすぐにはならないでしょう。米ド
ル高は輸入を押し上げるかもしれませんが、同時に新興国から
は莫大な資金の流出が起きるのではないでしょうか。
当面は、通常よりも低い成長率と通常よりも低い(マイナス
金利も含む)政策金利が続きそうです。今回のインタビュー・
プログラムでは、それぞれの国や地域で利上げが行われる最も
早い時期はそれぞれいつか、という質問がなされました。参加
者の答えは次の通りです。
インサイト
米国 QE の終了とともに再び始まる未知の旅
「標準化」とは安易な言葉です。量的緩和策(QE)は、未知への旅です。投
資家から見ると、今後の道筋も結果も何も事前には決まったものがありませ
ん。バリュー・トラップは、バリュー・オポチュニティ(本当の割安)と同
じくらいの確率で起きるでしょう。
明らかに、米国経済はこの 3 年間で目覚ましい回復を見せました。けれども、
FRB によるこれまでの努力にもかかわらず、米 30 年国債利回りは 2015 年第
1 四半期に史上最低水準に達し、デフレは今もインフレよりも大きなリスク
です。この国の経済は、景気後退の心的態度から解き放たれるだけの脱出速
度に到達していないのです。次のような大きな疑念が続いています。
現在の市場の高いバリュエーションを維持し、過去平均を下回っている成
長率を押し上げるため、FRB は当面政策金利をゼロ近辺に維持するのでは
ないだろうか?
実体経済は順調に改善を続けており、今の株高はファンダメンタルズが改
善することで間もなく正当化されるのだろうか?
米ドル高が続くと、新興国の資産価格は、かつてと同様に極端な打撃を受
けるだろうか?
投資家は他の心配事にも悩まされています。世界経済の成長率は年率 4%ま
で下がってきました。これは債務残高が 2008 年の 142 兆米ドルから 2014
年には 199 兆米ドルという史上最高水準まで積み上がったことによる需要の
減退が原因です。
伝統的な手段が効かなかったため、皮肉なことに、債務を減らすために債務
を増やすことを政策担当者は余儀なくされてきたのです。その結果、世界経
済の成長はますます債務への依存を高めるようになってしまいました。
2015 年初めからこれまでの間に、国内景気を刺激し、自国通貨安を招くために
およそ 20 カ国の中央銀行が利下げを行ってきました。その狙いは輸出の拡
大ですが、すべての中央銀行が首尾良く目的を果たせたわけではありません。
インフレはもう一つのワイルドカード(予測不能な要素)です。欧州で発行
されている国債のうち 20%強がマイナス利回り水準で取引されています。
• 米国:2015 年後半(48%)
米国の金利が 6 年ぶりにゼロ近辺から上昇し、かたや実際のインフレ率が(そ
して期待インフレ率も)落ちているという世界で、資産価格をどう決めるの
かは難しい問題です。
• 英国:2016 年後半(53%)
• 欧州:2018 年後半(62%)
けれども、こうしたデフレ懸念にもかかわらず、今のところはリフレ政策が
優勢のようです。
• 日本:2020 年後半(46%)
• アジア(日本を除く):2018 年初め(55%)
株式は今後も注目されるでしょう。米国および(米国ほどでは
ありませんが)欧州で顕著なように、低金利環境が続くと企業
の株価収益率が上昇するのも当然かもしれません。いずれにせ
よ、マスコミを騒がすようなイベントで断続的に混乱すること
があるとしても、投資家は今後ともリスク資産を選好するで
しょう。
米国では、FRB は慎重の上にも慎重に量的緩和の収束を図ろうとしています。
欧州では、財政緊縮路線が、欧州中央銀行(ECB)独自の量的緩和策(QE)
に基づく緩やかな輸出主導の経済成長策に取って代わられました。日本では、
「3 本の矢」プログラムによる新たなモメンタムがあります。中国では、ハー
ド・ランディングを防ぐために金融緩和策が実施されています。
ですから、投資家が標的になっているのです。人口は高齢化しているので、
投資方針の選択には慎重にならなければなりません。けれども、実質利回り
がゼロ近辺という現在の投資環境では慎重な方針など通用しないのです。今
や新しいアプローチを探し出さなければなりません。
‒ 米国のグローバル資産運用会社
今のところは下げ相場への恐怖も後退しています。以前は、金
利が過度に引き上げられ、あるいは経済成長と企業収益がバブ
ル水準まで押し上げられると、市場は大混乱に陥りました。短
期的にはそのいずれも起きそうにありません。
「原油価格の下落は 2015 年の世界の
GDP をおよそ 0.5%引き上げるでしょ
う。」
「ドル高が米国企業の収益を直撃し、 「通貨切り下げ競争は米国以外の諸国に
市場を混乱させる主要要因になるかも とって主な衝撃緩衝材となりつつあり
しれません。」
ます。今後は通貨は大きく変動するこ
とが当たり前の時代となるでしょう。」
13
プラグマティズムが株式への関心の復活をけん引
本章冒頭の図 2.1 の回答で「いいえ」の割合が示している
ように「株の時代」は終わっていません。
• 株式は今後も投資対象としての魅力を維持する(65%)
• 現在の株式のバリュエーションは維持される(67%)
• 北米:88%
• 株式は今後も大きく変動し続ける(63%)
• 欧州:72%
• 日本:59%
• バリュエーションはそれぞれの変動要因との相関が
高まる(67%)
• アジア(日本を除く):81%
• 債券から株式への循環買いが起きる(47%)。
株式に対する投資家の現在のセンチメントには、警戒心と
期待感が入り交じっています。今の市場の上昇は中央銀行
による資金注入の結果なのだという点を忘れるべきではな
く、同時にファンダメンタルズが改善しているのを無視し
てはいけない、という気持ちです。
地域的には、量的緩和の後には明るい希望があると考える
回答者の数は、米国が最も高く、日本が最も低くなってい
ます。この控えめな調子は、インタビュー・プログラムで
浮かび上がった 3 つのメッセージにさらに裏付けられまし
た。
株式はまだ上がりそうだという
期待感
回答者の大半は「量的緩和(QE)という雲の向こうには希
望がある」という見方に支えられています(図 2.4)
。
図 2.4 今後 3 年間を見据えた場合、株式に関する次の文章について、
あなたはどうお考えになりますか ?
利回りが低い間、株式は投資対象としての魅力を維持する
7 3
25
65
バリュエーションは維持される
7 6
20
67
レバレッジ解消が続いている間は株式市場は大きく変動する
8 5
24
63
バリュエーションはそれぞれのファンダメンタルズに基づく変動要因との相関が高まる
7
7
19
67
債券から株式への循環買いが起きる
13
7
33
47
現在は、時折調整を挟みながらも、長期上昇相場の真っ只中にある
25
8
31
11
30
30
年金プランはボラティリティを減らすために株式投資を避ける
37
6
-50 -40 -30 - 20 -10
31
0
10
26
20
30
40
50
60
第 2 に、インタビューを受けた人のおよそ 60%が、確定
給付年金(DB)プランの4大市場である米国、英国、日本、
カナダでは株式が選好されるようになった事情に注目して
います。IT バブルの崩壊を受けて、彼らはリスク削減に着
手し、株式から債券へと次第に資産を移していきました。
しかし、2009 年以降は、欧米で量的緩和策が行われて市
場からは債券が一気に吸い取られ、現在、割安銘柄はそれ
ほど残っておらず、しかも今はリスクを伴っています。こ
うして、確定給付年金(DB)プランは低利回り、積立不足
の拡大、一層の債券購入、調達比率の低下という悪循環に
とらわれてしまいました。年金スポンサーによるこれまで
になく多額の新規資金の注入はまだ止まっておらず、ただ
その引き揚げの時期を待っているだけです。
第 3 に、回答者の 50%程度が、確定拠出年金(DC)プラ
ンと個人投資家もリスク資産の購入を余儀なくされている
と指摘しました。慎重に考えれば、退職者や退職の近づい
た人々は債券への投資比率を高め、退職時の蓄えをリスク
にさらすべきではありません。ただし、超低金利が当面続
く見通しであるため、この古くからの知恵は二の次になっ
ています。
36
年金プランは株式を用いて積立不足を埋める
29
第 1 に、投資の世界は周期的で自動調整的な性格がある、
とインタビュー参加者のおよそ 70%が強調しました。今
から十数年前、IT バブルがはじけた時に、株式市場は光を
失いました。損失と逸失利益の大きさに、多くの投資家は
「株式の最良の時代はすでに過去になったのか」と疑問を
抱いたのです。同じような運命が、今後 3 年間で債券を見
舞うかもしれません。バリュエーションの極端に高い状態
が続いているからです。
70
80
90
回答者の割合(%)
■ そうは思わない ■ よくわからない ■ どちらでもない ■ そう思う
出典:プリンシパル ®/CREATE リサーチ調査 2015
インタビューからの引用:
「市場環境が変わると、かつて危険過 「ソブリン債が高いインカム収入をも 「利上げとフォワード・ガイダンスに
ぎるとみなされていた資産クラスが突 たらしていた時代は終わりました。今
対する FRB の慎重なアプローチは市
然安全資産の地位を得ても不思議では ほど割高になった時代はかつてありま 場に対する影響を緩和するはずです。」
ありません。」
せん。」
14
警戒心:それでもなお残る懸念
けれども、株式に対する明らかな関心の高まりにも、ある
重要な懸念が立ちはだかっています。株式市場が今後も大
きく変動すると予想する回答者が 63%いるのです。彼らに
とってみると、レバレッジの解消がなかなか進まない中、
量的緩和策は将来のリターンを先取りしてきているように
見えるのかもしれません。さらに、過去の事例を紐解くと、
株式市場における 30%以上の下落は、1870 年以降で平均
10 年に 1 度起きているのです。
それにもめげず、株式に対する関心は復活しています。
第 1 に、 図 1.1 に 見 る よ う に、 お よ そ 75% の 回 答 者 が、
2000 年代の「失われた 10 年」の損失が株式文化の死を
予告したものとは捉えておりません。こうした損失は市場
がファンダメンタルズに回帰するために必要不可欠なもの
なのです。第 2 に、
「長生きリスク」が上昇しているため、
これに対処するには株式が無限の上昇余地を与えるように
思われます。一方債券は、固定クーポンを提供するにすぎ
ません。第 3 に、今日のような低金利時代には、株式は相
対的にましな方の資産クラス、あるいは対価を最も支払い
がいのあるリスクと言えるでしょう。
けれども、現在起きている株価上昇が本当の意味での復興
かどうかを判断するには、市場が上昇しているときに資金
がどれだけ流入してくるかを見るのではなく、今後必ず訪
れる調整局面で、どれだけの回復力を示すかが最も重要だ
と思われます。
今のところ、第 2 章の冒頭図 2.2 で示したように、今後
3 年間で長期投資家が株式に戻ってくると予想する回答者
も一定数見受けられました。
インサイト
リスク再構築/リスク削減の迷宮にとらわれた
年金プラン
過去十数年のうちわずか 7 年の間に 2 回も起きた株式市場の暴落によって、投
資家の株式に対する信頼は大きく揺らぎました。その後に続いた規制変更で、
確定給付年金(DB)プランはリスク削減の圧力にさらされるようになったのです。
2006 年に、米国の私的年金(企業年金と個人年金)プランは株式に 69%を配分
していましたが、2014 年までにこの比率は 50%まで低下しました。英国でこれ
に相当する数値は 58%と 40%です。割引率が低下して調達比率も低下しました。
たとえば、米国で規模が最も大きい 100 の確定給付年金(DB)プランの調達比
率は、2014 年に 83.5%から 79.6% に低下しました。欧州で最大の 50 基金で同
じ数値を見ると 70% から 67.7% へと低下しています。さらに悪いことに、こう
したプランの 4 分の 1 以上が加入者の高齢化でキャッシュフローがすでにマイ
ナスになっているのです。
公的年金は世界的にもっと厳しく、切迫した状況に置かれています。その端的
な例は英国地方公務員年金です。同年金が過去の積立不足と将来の支払いを確
約するには、拠出額を今後 6 年間で 71%増やす必要があります。
10 年以内の間に、米国の公的年金の積立不足は 3 倍に膨れ上がり、少なくとも
2 兆米ドルに達しました。資産基盤は 5 兆 3,000 億米ドルです。支払い不能を回
避するには納税者が支えるしかないのです。
規制当局が調達ルールを緩和せざるを得なかったのもある意味当然かもしれま
せん。米国では、高速道路法によって企業は自社の存続性を高めるために拠出
額を減らすことが認められています。オランダでは、新しい「FTK(企業年金規
制)」ルールによって、年金プランは一定の条件の下ではリスク資産への配分を
増やすことが認められています。
全体として、スポンサーのコベナンツが強いプランでは、リスクが再び検討さ
れています。たとえば、ドイツの年金プランの株式配分比率は 、2008 年の 22%
から 2013 年には 26%へ上昇しました。日本の公的年金プランは、年金積立金
管理運用独立行政法人(GPIF)の先導によって、株式の配分比率をそれまでの
倍の 50%に引き上げるトレンドが確立しました。
• 北米:41%
• アジア(日本を除く):35%
• 欧州:30%
この 10 年、年金プランが年金負債対応投資(LDI)を用いてポートフォリオのリ
スク削減を行っていた間、割引率は 5 ∼ 8%で推移しました。金利が低下するに
従い、LDI を魅力のない戦略だと考える年金プランが増えました。短期金利が上
昇すると、
長期金利がその後に続き、
LDI の価値が低下するかもしれないからです。
• 日本:23%
こうしたトレンドは、株式を選好する定期的なリバランス
が起きている証拠と言えるでしょう。彼らはまた、株式の
「債券化」への大きなトレンドも予感しており、リターン
全体に大きな影響を及ぼすほど配当性向の高い優良銘柄を
選好しています。そのリターンの素晴らしさは S&P500 トー
タルリターン指数(配当を含む)に示されている通りです。
1989 ∼ 2014 年までの間に、このリターンは 870%で、一
方債券のリターンは 470%でした。FTSE100 株価指数構成
企業の配当性向(利益に対する配当金の割合)は着実に上
昇しており、現在は 65%、配当利回りは 3.4%です。
国債は史上これほど割高になったことはないと年金プランは懸念しています。
経済が完全にデフレ状態になっているのであれば、国債は素晴らしい成果を生
むでしょうが、そうでない場合は大変な結果になるかもしれないのです。その
ことはだれにも確実にはわかりません。
株式の比重を高めることで自分の けをヘッジすることは賢明に思われます。
さらに、株式の方が債券よりも優れたリターンを提供します。ロンドン・ビジ
ネス・スクールがまとめたデータによると、過去 100 年以上にわたって株式の
リターンは債券を上回ってきました。今日、株式は実に防衛的な特徴を維持し
ています。
当面、観測できない変数は確信度です。米国で利上げが行われると、投資家の
活気にはどのような影響が及ぶでしょうか?この点はだれにも確実なことがわ
かりません。
‒ グローバル年金コンサルタント
「30 年国債市場は なくなるのでしょう
か?おそらくそうでしょう。いや、そ
うではないかもしれません。」
「金融危機以降の金利低下によって、 「株の時代が戻って来そうな時に、株
よく錬られていた多くの年金負債対応 の時代の死亡記事を書くことは賢明で
投資(LDI)の段階的変化が破壊され しょうか?」
てしまいました。」
15
株式リスク・プレミアムは今後も高く、
かつ変動も激しい
株式リスク・プレミアムは 2013 年に 20 年ぶりの高値を記
録しました(次ページの「インサイト」をご覧ください)
。
これは、無リスク債券からの期待超過収益率と定義され、
投資家の希望と懸念を示すものです。
株価が 2008 年の世界金融危機でのあの急落から回復した
事実を踏まえると、最近はあらゆる市場で株式リスク・プ
レミアムが高水準となっていることは意外に見えるかもし
れません。けれども水面下を見ると、理由は単純です。株
式リスク・プレミアムが高いのは債券利回りが超低水準に
あるからです。そして、債券利回りが低いのは、量的緩和
に基づく大規模な債券購入や、世界経済の状態に対する懸
念などが原因です。
図 2.5 今後 3 年間を見据えた場合、現在の高い株式リスク・
プレミアム(ERP)に関する次の文章について、あなたはどうお考え
になりますか ?
• 金利が上昇すると大幅に下落する(41%。北米とアジア
(日本を除く)の回答者の過半数)
• 専ら中央銀行の行動に影響される(44%。日本の回答者
の大多数)
こうした数値の裏側には、調査後のインタビューで 2 つの
明白な特徴が現れました。
株式リスク・プレミアム(ERP)の
大変動
株式リスク・プレミアムに関する見解が異なる主な理由は、
参加者の 85%近くの意見によると、FRB の撤退戦略によっ
て、多くのことが間違った方向に動く可能性があるからで
す。たとえば、FRB が利上げを延期すると、インフレ圧力
が積み上がって将来もっと大きな下落が必然となるでしょ
う。一方、市場は投機的な過熱状態に陥り、その後に激し
い調整が続く可能性が高まります。
今後は毎年大きく変動し続ける
5 6
25
その一方で、もし FRB が金利を混乱なく正常化できたとし
ても、米国に積み上がった負債総額の重みそのものによっ
て、景気回復は失速するでしょう。この FRB のジレンマは、
世界経済の先行き不透明感によって悪化しています。実際、
欧州と日本の経済成長率は、最近は改善したとはいえ、量
的緩和策のもたらす資産効果が大きく低下し、今後は予想
を下回るのではないか、との懸念はあります。
64
金利が正常水準に戻れば株式リスク・プレミアムも正常化する
7
6
21
66
世界経済の不透明感を反映している
12
3
22
63
金利が上がれば大幅に下がるはず
16
10
33
41
完全に中央銀行の行動次第である
22
6
-40 -30 - 20 -10
28
0
10
44
20
30
40
50
60
70
80
90
回答者の割合(%)
■ そうは思わない ■ よくわからない ■ どちらでもない ■ そう思う
最後に、欧州、日本、新興アジア諸国では改革が様々に叫
ばれていますが、実際には痛ましいほどに進んでおりませ
ん。結果が依然として見えない中で、希望だけが予想の先
を走っているのです。その結果、世界の経済成長をけん引
する唯一の手段として、異例の金融緩和政策を採らざるを
得なくなり、その結果、ERP の意味合いが明らかに変貌し
てしまったというわけです。
出典:プリンシパル ®/CREATE リサーチ調査 2015
したがって、今後 3 年間で何が起きるかを尋ねられ、調査
の回答者は株式リスク・プレミアムの 5 つの可能性に注目
しました。そのいくつかは重なっています(図 2.5)
。
相対バリュエーションと
絶対バリュエーション
インタビューから浮かび上がった 2 つ目の顕著な特徴は、
予測ツールとして ERP を信用し過ぎることが望ましいかど
うか、と言う点で、これはおよそ 55%の参加者が指摘しま
• 市場は大きく変動し続ける(64%。アジア(日本を除く) した。というのも、無リスク資産の持つ伝統的な概念がも
の回答者の過半数)
はや通用しなくなっているからです。たとえばこの 10 年
間、米 10 年国債はほとんどあらゆるリスク資産のパフォー
• 金利が正常水準に戻れば株式リスク・プレミアムも正常
マンスを上回ってきました(圧倒的に上回ってきたことも
化する(66%。北米の回答者の過半数)
何度もあります)。これはこれまでの一般通念に反する実
績です。
• 世界経済の不確実性を反映する(63%。欧州の回答者の
過半数)。
インタビューからの引用:
「米国債は現在も安全資産であること 「最大のリスクは FRB がパンチボウル 「ERP の現行水準は異例なほどに高い
は間違いないのですが、もはや合理的
から水を抜くスピードが速過ぎること と思います。今は景気が後退している
な意味での無リスク資産ではありませ です。」
わけではないのですから。」
ん」
16
今や、現金を除けば無リスク資産は存在しないと考えてほ
ぼ間違いないでしょう。債券市場はかなり深刻にひずんで
しまい、無リスク資産としての特徴をもはや持っていませ
ん(インサイトをご覧ください)。リターンの序列の最後尾
どころか、トップクラスを維持してきました。バランス型
ポートフォリオでは、かつては株式がリスク・エンジンで、
債券は安全バルブでした。その表は完全に逆転してしまっ
たのです。金利が人工的に抑えられる時代には、債券は株
式リスク・プレミアムを評価する最適なベンチマークには
なりません(この見方は、アジアで最も高く支持され、北
米では最も支持されませんでした)。
その結果、
(ERP を基準として見た)株式と債券の相対的な
バリュエーションは、株式が将来どの程度魅力があるかを
測るには不適切な指針になったのかもしれません。これに
は 2 つの意味合いがあります。
• まず、今日の投資環境では、株式投資には(「相対」では
なく)「絶対」バリュエーションの方が適切です。市場が
経済よりも政治で動かされて大きく揺れ動く間は、ディー
プ・バリュー・アプローチ、つまり本源的価値を大きく
割り込んだ銘柄を探す手法の方が生き残る確率が高いの
です。
• 第 2 に、量的緩和プログラム(QE)は、株式市場を過度
に膨張させ、銘柄の善し悪しにかかわらず、あらゆる銘
柄の株価を押し上げてしまいました。その波が去ると(い
つか必ず去るのですが)、S&P 500 種指数、FTSE100 種指
数、MSCI AC 世界株価指数など、幅広く使われている指
数の構成銘柄のパフォーマンスに著しい格差がつくはず
です。バリュエーションが「公正価値」に戻り始めると、
銘柄選択の価値が高まるでしょう。
インサイト
予測力という魅力を失った ERP
先進国では、株式リスク・プレミアム(ERP)が上昇しています。けれども、
将来の株価に関する ERP の予測能力は今やゼロに近づいています。
というのも、無リスク資産という古い考え方がもはや通用しなくなっている
からです。欧州、日本、米国の量的緩和プログラムはその過程を早めてしまっ
ただけです。
ERP は、投資家が無リスク資産(通常は米 10 年国債や 6 カ月物財務省短期証
券)ではなく株式を保有するリスクを負う見返りとして要求する、追加リター
ンを示す指標です。
無リスク資産は、その定義上(1)投資対象資産の中ではリターンが最も低い、
(2)リスク資産との相関性がない、(3)期待リターンと実現リターンとの間
に差がない、という 3 つの特徴を有しています。
実際には、1999 年から 2009 年までの間、米 10 年国債のパフォーマンスは
株式をはじめとするリスク資産を上回ったばかりでなく、実現リターンはそ
の期待リターンをも大幅に上回ったのです。2014 年に、ドイツ 10 年国債は
40%という信じられないリターンを記録しました。実際、国債のパフォーマ
ンスは、過去 30 年間で確認されてきた従来の投資格言のあらゆる教義を無視
しました。
米国の ERP は 2013 年に 14.5%と過去 20 年で最高水準に達し、2009 年の金
融危機時の 10.5%をはるかに上回っていました。しかし、株式のリターンは
一種の貨幣的現象になってしまったため、ERP は株価が将来どう動くかにつ
いてほとんど何も示さないのです。ERP が高いのは、各国の中央銀行による
異例の金融緩和が株式のバリュエーションを膨張させ、すべての年限の米国
債利回りを異例なほどに押し下げたからです。
欧米でともに実施された量的緩和策が呼び水となった新たな体制は、
「ボル
カー革命」の終わりを告げるものです。「ボルカー革命」とは 1979 年に FRB
議長に就任したボルカー氏が金利を大幅に引き上げてインフレを見事に抑え
た事実を示すもので、以来金融政策の主な目的はインフレ抑制に置かれてき
ました。
しかし、量的緩和策によって、すべての状況が変わってしまいました。資産
価格は金融政策の結果であり、政策に影響を与える要素でもあります。
市場が上昇しているうちは上手く回るのですが、状況が反転すると悲惨な結
果を招きます。
「公正価値」「平均回帰」
「均衡価格」といった概念はもはや通
用しなくなっています。
一方、ERP は大きく 2 つの要素をめぐる不確実性によって毎年大きく変動す
るでしょう。米国における金融引き締めサイクルと世界経済の見通しです。
いずれも、今後どう展開するかは想像の域を出ません。
せいぜい期待できるのは、量的緩和策の資産効果が現れて、短期的には株価
収益率の拡大や株価の上昇が正当化される、というぐらいでしょう。
恐らく最も起こり得る可能性は、中央銀行からの新たな情報を市場が咀嚼し
ようともがくのに合わせて ERP の大変動が続く、ということではないでしょ
うか。ERP が無リスク資産にとっての合理的な判断の拠り所を欠いているう
ちは、投資家はあまり深読みをし過ぎない方が賢明だと思われます。
‒ フランスの資産運用会社
「株式市場では参加者のセンチメント 「ERP は、 人 為 的 に 低 く 抑 え ら れ た 「 私 た ち は FRB が 演 出 し た バ ブ ル の
が常に動いているため、株式投資は 金利によって有効性がなくなってしま ただ中にいます。FRB の描く脚本は必
1 年以内の投資期間では一種の 不精
いました。」
ずもハッピーエンドで終わりません。
密科学 と言えます。」
けれども、私たちはペダルを漕がなけ
ればならないのです。」
17
大半の資産クラスの期待リターンは低下
“
”
量的緩和策の結果、ソブリン債の発行残高のうち、かつて
なかったほどの割合が中央銀行のバランスシートに保有さ
れて、金利は圧縮されてきました。資産価格は膨張し、主
要株式市場は史上最高値まで上昇しました。
期待リターンは人によって異なるにも
かかわらず、すべての人にとって、
分散が今後もゲームのルールになる
でしょう。
以上を背景に、今回の調査では、今後 3 年間の投資家の期
待リターンを評価することにしました(図 2.6)
。これを見
ると、最近達成されたリターンを大きく下回っていること
がわかります。私たちのインタビュー・プログラムでは 、
主に 3 つの意見が見出されました。
図 2.6 今後 3 年間で主要資産はどの程度の年率
リターンを達成できそうでしょうか?
プライベート・エクイティ
7.5%
オルタナティブ・クレジット(シニア・ローン、メザニン・ファイナンスなど)
7%
• 「楽観主義者」(30%)は、日本と欧州の量的緩和策が終
わるまでは、時に調整期間を挟みながらも市場は上昇し
続けるとみています。このグループは北米とアジア(日
本を除く)に多く見られました。
• 「慎重派」(50%)は、ここからのリターンの改善余地は
限られているとみています。つまり利回りはさらに上が
るにせよ、スプレッドの縮小余地はそれほど大きくなく、
株式はほぼ公正価値で取引されている、と見る層です。
このグループは欧州に多く見受けられます。
新興国株式
7%
小型株
6.5%
グローバル株式
• 「悲観主義者」(20%)は、市場がバブルの領域に足を踏
み入れており、大きな調整が近いと予想しています。こ
のグループは日本に目立ちます。
5.5%
不動産
5%
ヘッジファンド
期待リターンは人によって異なるにもかかわらず、すべて
の人にとって、分散が今後もゲームのルールになるでしょ
う。詳しくは第 3 章をご覧ください。大まかに 3 つの資産
クラスに分けて、特徴を次にまとめました。
4.5%
新興国現地通貨建て債
4.5%
高配当株式
4%
株式:新興国株と優良株がけん引
株価変動の少ない株式
第 1 に、新興国株式が最も高いリターンを達成すると思わ
れます。7%という期待リターンは、新興国が過去 10 年間
で達成したリターンの半分にも達しません。ただし、他市
場と比べたバリュエーションでは割安に見えます。2014
年末の段階で、実績ベースの PER は 12 倍と、欧州の 16 倍、
米国の 19 倍よりも低くなっています。ただし、新興国株
式は、現在も他市場よりもリスクが高いと見られており、
それが端的に表れたのが、2013 年半ばの FRB による「(量
的緩和策の)段階的縮小」が示唆された後の大変動でした。
4%
新興国ソブリン債
3.5%
新興国主要通貨建て債
3.5%
先進国ハイイールド債
3.5%
コモディティ
3%
先進国投資適格債
2%
先進国ソブリン債
1%
0
1
2
3
4
5
6
加重平均リターン(%)
出典:プリンシパル ®/CREATE リサーチ調査 2015
7
8
第 2 に、優良銘柄を重視するあまり、投資家がディフェンシ
ブな特徴を追求し、今後も株式の「債券化」が主要投資テー
マとなるでしょう。最終的な優秀勝ち組は、多くの負け組の
上に成り立っています。概して、優良銘柄は収入の安定化を
望むときに選好されます。このプロセスの中で、銘柄選択は、
(資産配分を超えるほどではないにせよ)資産配分と全く同
じくらい重要なのです。これからは各資産クラス、地域から
どれを選ぶのかが重要になるでしょう。
インタビューからの引用:
「 構 造 的 な 下 落 相 場 は 空 か ら 突 然 に 「高配当株式は、損失を減らして相対 「投資家はポートフォリオにクレジット・
降ってくるのではありません。現在は、 的に利益を得ます。景気循環のあらゆ
リスクよりもデュレーション・リスク
その兆候はほとんどありません。」
る局面で市場のパフォーマンスを上回 を追加した方がましだと考えるでしょ
りやすいのです。」
う。」
18
債券:逆風にさらされている投資家
欧州のハイイールド債は、ドイツ 10 年国債の 4 倍の利回
りを提供します。欧州の上場債券のうち 4 兆米ドル近くの
利回りが今やマイナスです。世界中で経済上の懸念が収ま
らないため、債券から高リスク資産への大規模な循環買い
は起きないでしょうが、2013 年から本格的に始まった緩や
かなセクター・ローテーションはしばらく続くかもしれま
せん。株式のリターンが改善すれば、前回の上昇相場に乗
り損ねた投資家が、後半の資金流入の大半を占めることに
なるでしょう。
とはいえ、債券投資家は逆風にさらされています。大規模
な調整が起きると、流動性が 迫すると思われます。量的
緩和策のおかげで新発債市場は盛り上がりましたが、2008
年以降に金融規制その他が変更され、流通市場では流動性
が枯渇する事態となりました。これを最小化するために、
投資家はデュレーション・リスクと信用リスクという 2 つ
の重要なリスクを減らそうとするでしょう。前者は残存年
限の短い債券を選択し、後者は投資適格債を選択するで
しょう。
オルタナティブ資産:
実物資産への強い需要
プライベート・エクイティは目覚ましいリターンを実現し
ており、今後も資金流入が続くでしょう。しかし、今後
3 年で償還期限を迎えるファンドに、信用できる撤退オプ
ションがあるのかどうかについての懸念があります。
一方、ヘッジファンドは、過去 6 年間連続して年間リター
ンが 2%前後と、S&P500 種指数や、株と債券の運用比率
が 3 対 2 のバランス型ポートフォリオのリターンをはるか
に下回っていますが、にもかかわらず、プライベート・エ
クイティと同様、今後も資金流入が続くでしょう。これは、
投資家がテール・リスクによる価値下落への防衛を今後も
評価するからです。
実物資産(不動産、インフラ)への需要は今後も強いでしょ
う。これらは、資本の伸び、定期的な収入、インフレ防衛、
低ボラティリティを提供するハイブリッド(混合)資産と
見られるようになってきました。
インサイト
書き換えられている新興国の物語
新興国市場は、コモディティの「スーパーサイクル(数十年にわたった価格上
昇局面)」が終了し、原油価格が 50%近く急落するなど、転換点に到達したの
かもしれません。対外的には、これは資金流出として顕在化します。
2008 年以来勢いよく流れ込んでいた資金が、現在は逆流しています。2014 年
の下半期にはそれまでで最大の資金流出を記録しました。その原因としては、
一見すると持続不可能なほどに膨れ上がった債務や、米ドル高と米国の金利上
昇への懸念などが挙げられます。
たとえば、2007 年∼ 2013 年には、政府債務の対 GDP 比率が中国では 83%、
韓国では 45%も急増し、両国の外貨準備高は減り続けました。10 年前、新興
国のハードカレンシー(主要通貨)建て社債はほとんど存在していませんでし
た。今日の残高は 2 兆米ドル相当と、欧州および米国のハイイールド債市場の
総額を上回っています。
新興国市場が以前のような安定したリターンを実現できないことは、もはや明
白な事実です。1985 年から 2013 年の間、新興国株式の平均リターンは年率
12.7%で、平均ボラティリティは 24%でした。一方、同じ期間の先進国株式
のリターンは年率 9.9%で、平均ボラティリティは 17.6%だったのです。新興
国資産の期待リターンは著しく低下しています。
各国の高い経済成長率はすでに現在の価格に織り込まれています。過去におけ
る時価総額の拡大は、株価の上昇というよりは、新株発行によるものでした。
金融深化(金融サービス業が発展して資本市場に参加する個人や企業が増える
こと)も時価総額の拡大に寄与しました。
新興国はそのような優位性をもはや享受できません。今やどの国でも改革が実
施されています。過去の成功が課題を生み出しました。たとえば、中国はどの
ような基準で見てもインフラを作り過ぎ、お金を借り過ぎています。政府のあ
る報告によると、激しい建設ラッシュの結果、2009 年以来で投資された 6 兆
8,000 億米ドルが無駄になり、今や「ゴーストタウン」の景観が広がっています。
中国の投資効率はここ数年落ちてきていると報道されています。その結果、中
国は今、経済の不均衡を是正するのに必死です。投資に重点を置いた借り入れ
依存度の高い成長モデルから、消費とサービスに立脚した成長モデルへの転換
を図っているのです。その間、資産暴落が間近いのではないかとの不安がなか
なか消えません。成長第一主義によって、資源の大規模な誤配分と環境破壊が
起きました。改革をしようにも逆風が強くてなかなか進みません。
ウクライナとロシアの危機は収まる気配を見せておりません。原油価格の下落
と経済制裁がロシアにとてつもない状況をもたらしました。危機水準に達して
いるロシアの政策金利は、ブラジルともどもまだ大規模な資金流出を起こして
いません。インド、インドネシア、メキシコ、フィリピンなどは成長率を大き
く伸ばしましたが、まだまだ先は長いのです。
新興国は、類似点よりも相違点の方がよほどたくさんあります。MSCI 新興国
株価指数や FTSE 新興国指数などの幅広い市場指数の構成企業は、国や会社ご
とに極端な乖離を見せています。新興国はもはや同質的な存在ではありません。
‒ 香港の年金プラン
ECB が量的緩和策に取り組んでいるため、利回り追求の動
きは新たな領域に入るでしょう。オルタナティブ・クレジッ
ト(シニア・ローン、直接融資、メザニン・ファイナンス、
変動利付債など)は、非流動性プレミアムを求める投資家
の間では今後も高い人気を保つでしょう。
「株式指数は、国、産業、様々な規模 「 ソ ブ リ ン 債 の 利 回 り が マ イ ナ ス と
の企業間でパフォーマンスの大きな乖 なり、株式への本格的な循環買いが極
離が起きていることを隠しています。」 めて起きやすいと思います。」
「新興国の中には投資格付を引き下げ
られるとみて間違いない国もあるはず
です。」
19
地域ごとのポイント
これまでの 4 つのサブセクションでは市場変動要因、期待リターン、そして株式投資の勃興に焦点を当ててきました。
このサブセクションでは、私たちが世界中で実施した 102 回のインタビューから浮かび上がった主要テーマを取り上
げます。互いに重なり合い、全体として大きなテーマにつながるものもあれば、地域特有のテーマもありますが、今
回の分析結果に彩りを与えてくれていることは事実です。
全体像
地域ごとの微妙な差異
まず、FRB がいよいよ金融引き締めサイクルに入ることで、
世界の投資環境全体を覆っていた厚い霧が晴れてきまし
た。FRB は上昇相場を脱線させるでしょうか? FRB はこれ
までの金融緩和姿勢を急速に転換させるのでしょうか、そ
• 米国株式は、今後 3 年間にわたって優れたパフォーマン
れともゆっくりとした引き締めへと向かうのでしょうか?
スを上げると回答者の 56%は見ています(図 2.7)。地域
大量に抱えた資産を売却するのでしょうか、それとも満期
別の内訳を見ると、そう答えた回答者は北米が 62%、欧
まで持ち続けるのでしょうか? FRB は保有債券からのクー
州が 62%、日本が 48%、アジア(日本を除く)が 35%
ポン収入をどう扱うのでしょうか? FRB の行動は、これま
となっています。
では市場にとって不可欠な安定装置だったものを、致命的
な破壊装置に変えてしまいかねません。市場は、霧が晴れ • 米国における好材料の大半は相対的なものです。2014 年
るまで落ち着かないでしょう。
の米国の成長率(2.6%)はユーロ圏(かろうじて 1%)
と日本(ほとんどゼロ成長)に比べると素晴らしい実績
第 2 に、投資家は、成長、インフレ率、リターン、そして
に見えます。原油価格の下落と米国経済の復活では、低
ボラティリティに関する期待値を見直さなければならない
過ぎ、崩れやすく、あまりに不均衡な成長パターンに陥っ
投資環境に置かれています。2008 年の金融危機は、長期間
ている今の世界経済全体を引き上げることはできそうに
にわたって続いてきた信用バブルがはじけ、バランスシー
ありません。
ト不況という厳しい後遺症を残しました。これは、レバレッ
ジ解消がよほど進まないと終わらないと思われますが、米 • 米国株式は定期的に逆風に見舞われるかもしれません。
国以外ではまだ実現しておりません(これまでの経験を基
S&P500 種指数構成企業の売上げの半分、純利益にいたっ
に考えると、10 ∼ 45 年ぐらいはかかりそうで、長期にわ
てはもっと高い割合が外国で生み出されたものです。米
たって実質金利を抑圧するでしょう)。一方、企業と家計は、
ドルが最近大きく変動したことで、米国企業の利益の伸
状況の悪化を恐れて支出を手控えています。これは、まさ
び率が落ち、ファンダメンタルズが株価収益率の拡大に
に日本が過去 20 年間に経験してきた通りです。
見合うまで株価の上昇は鈍化するかもしれません。
北米
史上空前の低金利が続いている今、投資家はその意図せざ
る結果がずっと続くのではないかとの不安を拭い切れてお
りません。ゾンビ(死に体)となった多くの借り手が投資
家に翻弄されて生き延びてしまい、生産性の高い活動から
資金を引き揚げて返済に回しているのです。西側諸国の生
産力は 2008 年以降半分近くに落ちているため、中長期の
リターンに大きな影響を及ぼすと思われます。
欧州
• ECB が量的緩和策を継続することで株価は上がり、ユー
ロ対米ドルが 1 対 1 に近づき、実質利回りがマイナス領
域に入るでしょう。デンマーク、フランス、ドイツ、オ
ランダ、スウェーデン、スイスが最初にこの方向へと押
しやられました。他の諸国もこれに追随するでしょう。
この前代未聞の状況によって起こり得るのは、急速な経
済の建て直しか長期のスタグネーション(不況)です。
インタビューからの引用:
「これらの過剰流動性はどんな落とし 「西側諸国が金融危機前の成長に戻るこ 「投資家は超過リターンを何とか得よ
穴にはまっているのでしょう。またそ とは、もうないかもしれません。設備投 うと余計なリスクを取ることを余儀な
の下に蓄積されているまだ認識されて 資と生産性は停滞が続き、高齢化によっ くされています。ですから、金利には
いないものは一体何なのでしょうか。」 て労働供給も縮小しているのです。
」
底を っていてもらいたいのです。」
20
• 株式市場は最近の上昇で、FTSE 指数、DAX 指数とも
に史上最高値をつけましたが、それでもすぐに先細
る こ と は な い で し ょ う。 株 価 収 益 率(PER) は 低 金
利、輸出の拡大、周辺国経済の「内的減価(internal
devaluation)
」によって上昇するでしょう。
図 2.7 今後 3 年間で最もすぐれたリターンを達成
しそうな地域
米国
56%
インド
• 西欧の株式市場が優れたリターンを上げられると評価
しているのは、回答者のわずか 29% にすぎません(図
2.7)。期待インフレ率がゼロ近辺ということは、回答
者にはデフレ的なメンタリティがまだ植え付けられて
います。各国で、福利厚生サービスの提供や労働市場、
産業政策にもう一段の改革を行わないと、量的緩和策
は単に一時的な成長促進剤にすぎなくなってしまうで
しょう。
たとえば、スペインでは 2007 年から 2014 年までの間
に、労働参加率が 66%から 56%まで低下し、ギリシャ
は 50%を下回っています。既存の政策を続けていても、
両国とも一世代以内に正常な経済活動に戻ることはで
きないでしょう。傑出しているのはドイツで、企業の
実質利益の伸び率と貿易黒字は過去平均を上回ってい
ます。
40%
日本
39%
フロンティア諸国
37%
アジアの他の諸国
35%
西欧諸国(英国を除く)
29%
中国
23%
英国
21%
ロシア
• 最後に、米国と同様、英国も持続的な回復を遂げ、株
式市場は史上最高値を更新しました。とはいえ、新た
な逆風にも直面しています。欧州連合からの離脱の可
能性とユーロ安による貿易赤字の拡大です。株価収益
率が拡大する見込みは薄く、英国経済は、生産性が伸
びずに完全雇用水準に近づいています。
19%
オーストラリア
18%
中南米
14%
カナダ
11%
中東欧の残りの諸国
8%
0
10
20
30
40
50
60
回答者の割合(%)
出典:プリンシパル ®/CREATE リサーチ調査 2015
「米国は最も素晴らしい家のようなも 「ユーロ圏の危機は終わったのではなく、 「日本企業は 10 年ぶりにようやく外国
のです。そして、最も素晴らしい家は 一時的に症状が弱まっているだけです。 の同業他社の収益性と経費削減を真似
いつも高いものです。」
緊縮財政にくたびれた国々は今、根の し始めました。」
深い問題に取り組んでいるのです。
」
21
日本
オーストラリア
• 「3 本の矢」の取り組みは成果を上げています。日本では、
莫大な景気刺激策と金融緩和策に続いて多くの改革が実
施されてきました。その一部である株式市場の浮揚策も
十分な効果を発揮しています。回答者の 39%(大半は北
米と日本)は、日本が近い将来に素晴らしいリターンを
上げると予想しています。
• 回答者のわずか 18%(図 2.7)しか、オーストラリアを
今後 3 年間で優れた株式リターンを上げられる国とし
てみていません。英国の FTSE100 種指数のように、ASX
200 種指数は 2015 年第 1 四半期(1 − 3 月期)に暴騰し、
5 年以上ぶりの高い四半期リターンを計上しました。オー
ストラリアの資産はすべて、ほぼ完全なフェアバリュー
にあると見られています。最近の利下げは一時的な押し
上げ材料になるかもれません。
• 日本では株主行動主義が新たに注目され、国内上場企業
は、資本を効果的に使用してこれまで以上に高い株主資
本利益率と 1 株当たり利益を目指すことが求められてい
ます。2014 年には、東証一部上場(TOPIX 構成)企業
の一株当たり利益(EPS)は 7%上昇したのに対し、S&P
500 種指数、MSCI 欧州株価指数、MSCI 新興国株価指数
の EPS 変化率は、それぞれ 5%、-8%、-4%でした。
• 株式持ち合いに基づくなれ合いの関係は、過去の遺物に
なりつつあります。日本企業は、かつて効果的な経営や
効果的な自己資本の使用を怠っていました。日本におけ
る株主行動主義の目的は、次第に外国人投資家への依存
度を高めている株式市場(外国人持株比率は 1989 年 4%
から 2014 年には 30%まで上昇しました)に国内投資家
を引きつけることにあります。
• 家計に保有されている「余剰」資金の残高は、総額で
5,500 億米ドル近くに達しています。最近導入された
NISA(少額投資投資非課税制度)が注目するのはこの資
金です。個人投資家に非課税優遇枠を設けるなど、英国
で長い歴史を誇る個人貯蓄口座をモデルにしています。
22
• 超金融緩和策がすぐに市場の調整を招くことはなさそう
です。さらに、豪ドルが最近 15%近く下落したため、今
後は輸出が伸び、市場の新たな押し上げ材料になると思
われます。特に、オーストラリアの主な輸出品目(鉄鉱石)
価格が昨年だけで半額になり、10 年ぶりの安値をつけて
いることから、鉱業株は中国の成長減速の影響を手ひど
く受けてはおりません。けれども、鉄鉱石価格は 2011
年のトン当たり 190 米ドルをピークにその後下がり続け、
近いうちに同 40 米ドルの水準になると予想されること
から、この状況は変わるかもしれません。
• 時価総額で圧倒的な割合を占める鉱業株と金融株の配当
利回りは 5% で、
しかも株式投資には税制優遇がつく(0.5
∼ 1%の利回りが加わります)ので、国内の債券ファン
ドやマネー・マーケット・ファンドからの乗り換えによ
る資金流入が続くでしょう。オーストラリアでは 2014
年 1 月はじめ以降世界の投資家が安全資産に群がり 10
年国債利回りが半分近くに下げてしまったため、今後は
債券/キャッシュからの動きに拍車がかかるでしょう。
オーストラリアは、ソブリン信用格付け「AAA」を依然
保持している数少ない国の一つです。
中国
• 2014 年に株価が 90% 上昇したにもかかわらず、今後 3
年間で中国が優れた株式リターンを実現すると考えて
いる調査回答者は 23%(大半がアジア)にすぎません。
この圧倒的なパフォーマンスは積極的な金融緩和策の賜
物です。資本統制に加え、銀行預金の利息が微々たるも
のであるため、経済成長率がこの 5 年で最低となり、企
業業績は事前予想を下回り、ボラティリティが高いにも
かかわらず、個人投資家は国内株に群がりました。
• 中国経済は、ペースは鈍化するものの質の高い成長への
転換を図っており、その長期展望は明るいと言えます。
中国では現在、産業界の過剰設備と環境破壊を減らすた
めに、設備投資が抑制されています。中国はエネルギー
消費を減らすためによりサービス重視の経済へと転換し
つつあります。中国では、ネット通販の規模が今や米国
を抜くなど、インターネット経済により商取引のあり方
が大きく変わろうとしています。新規株式公開(IPO)は、
レバレッジ解消の重要な武器となりつつあります。大規
模な反汚職運動と、大胆な資本市場改革が勢いをつけて
きています。
その他の新興国
• 私たちの 2014 年度の当クリエイト・レポート「新興諸
国はすべて同じ成り立ちではない」では、新興国はそれ
ぞれが異なったペースで現在に至っているため、それら
をひと括りにするのはほとんど意味がないことを明らか
にしました。個別要因がベストのリターンをけん引して
いくでしょう。投資家は、新興国市場に対するセンチメ
ントが過度に振れ過ぎる傾向があります。インドの株式
リターンが最も高くなりそうだ、と調査回答者の 40%
が予想しており(図 2.7)、その大半が北米と欧州の回答
者でした。それとは逆に、中欧と東欧が最も期待できる
と答えた回答者はわずか 8%でした。
この両者の間に位置する国々では、ブラジル、ロシア、
マレーシア、ナイジェリア、ベネズエラといった産油国
が今後 18 カ月で景気後退に陥りそうです。アルゼンチ
ン、インドネシア、南アフリカ、トルコ、タイなどはな
お高インフレ(5 ∼ 9%)と自国通貨安に悩まされてい
ます。
全体として、新興国の株式市場は今後 3 年間も大きく変
動し、割安な状態が続くでしょう。ただしインド、メキ
シコ、ポーランド、台湾は例外です。
• 投資家は、幅広い割安銘柄にあまり性急に乗り換えるこ
とはなさそうです。新興国とはこう成長すべきだという
これまでの固定的なシナリオが現在書き換えられていま
す。さらに、新興国の価格上昇モメンタムは非常に強烈
です。勝ち組に入る銘柄は通常、先進国企業よりも長期
間勝ち続けます。負け組企業もあまりに長く負けた状態
が続くので、底値を拾ったつもりがそうならないことも
あり得ます。
• 3 大投資家の動向によって明らかなように、アジア全域
で国内偏重の傾向が続くでしょう。株式保有総額のう
ち、国内株の最近のシェアは、中国全国社会保障基金で
は 80%、韓国国民年金公団が 75%、台湾労働年金基金
が 52%でした。
発生期にある年金市場
株式への投資家の関心が復活するとともに、一つの疑問に
関心が集まっています。「欧州とアジアの年金改革によっ
て株式はさらに上昇するかどうか?」という点です。
2014 年、世界の年金資産総額は 36 兆米ドルで、4 カ国
がその 83%を占めていました。内訳は米国(61%)、英
国(9%)、日本(8%)、オーストラリア(5%)です。現
状把握のために様々な出所から集めた最新データによる
と、残りの 17% はアジアおよび欧州で発生しつつある数
多くの年金市場に分散されていました。(図 2.8)。各国の
年金市場は、ペースは遅いながらも、次のような理由で
着実に成長してきました。
インタビューからの引用:
「米ドル高のおかげで新興国経済は、 「新興国は様々なスピードで、様々な 「 オ ー ス ト ラ リ ア で は、 現 金 の 川 の
ファンダメンタルズが示す以上に悪化 方向に動いていくでしょう。新興国を
流れる先がありません。買うべきか、
してしまいました。」
統合された単一の経済ブロックと扱う 売るべきかを知っている人がいないの
のは賢明ではありません。」
です。」
23
図 2.8 対 GDP 比で見た年金基金資産の規模
年金資産
(10 億米ドル)
年金資産の
対 GDP 比
(%)
中国
41
0.6
香港
80
32.2
インド
3
0.2
インドネシア
15
1.8
韓国
196
17.6
マレーシア
145
50.3
フィリピン
18
8.0
シンガポール
145
59.2
タイ
20
5.8
一部アジア諸国計
663
5.3
ベルギー
20
4.2
チェコ共和国
12
6.5
フランス
国名
アジア
欧州
7
0.2
ドイツ
193
5.7
イタリア
99
4.9
ノルウェー
26
7.3
ポーランド
67
15.0
ポルトガル
17
7.7
スペイン
108
8.0
スウェーデン
47
9.2
一部欧州諸国計
596
5.0
30,497
70.0
オーストラリア
1,377
99.5
日本
1,470
33.5
United Kingdom
3,071
137.3
米国
17,578
117.2
OECD 計
内訳:
対GDP比で見た年金基金資産の規模
OECD, The City UK の推定、Tan Wai Kuen
Time for Asian Pension Systems to Take Centre Stage(アジアの年
金制度が注目を浴びる時代がやってきた), May 2014.
24
• 欧州各国では、年金制度が完備され退職者に優れたセイ
フティー・ネットを提供しています。これは個人と国と
の「暗黙の契約」の一部と言えます。これは、市民のラ
イフサイクルの全局面について、国が市民に福祉支援を
提供しなければならない、ということです。この受給権
の内容を変更することは大変であることがわかっていま
す。
• さらに、高度に発達した保険業界を持つ国も多く、この
業界が様々な退職者用商品を長く提供してきました。ベ
ルギー、フランス、ドイツ、イタリア、ノルウェー、スウェー
デンなどの国々です。こうした国々は確定拠出年金(DC)
プランに向けた取り組みを実施しています。当初は、職
場への新規労働者を対象としていました。その結果、働
き始めの頃の株式配分比率は高かったのです。これまで
のところ、制度の浸透は着実ですが遅いペースとなって
います。2008 ∼ 2009 年の下げ相場では大きく後退しま
した。
• アジアでは、文化的な要因も働いています。国のシステム
はまだ十分に発達しておらず、退職者へのセイフティー・
ネットを提供できていません。たとえば、韓国では、社
会福祉への支出は GDP のおよそ 2%です。しかし、退職
者は別の 3 つの手段に依存しています。退職延期、個人
貯蓄、そして家族による支援です。
一般に、退職所得の圧倒的な源泉は個人の貯蓄です。アジ
アの貯蓄率を見ると、中国(49%)を筆頭に、ベトナム(43%)、
パキスタン(33%)、フィリピン(28%)と、日本(13%)
とは好対照です。
シンガポールと台湾のように私的年金がある国では、退職
者は退職後に年金を受領し続けるよりも退職時にまとまっ
た一時金をもらう傾向があります。
政府は年金改革を推し進め、個人が企業年金プランに加入
できる仕組み作りをしています。香港、マレーシア、シン
ガポールでは、ライフスタイル型ファンドに大きく依存す
る実証済みモデルを提供しています。出発点が低かったと
は言え、これまでは順調に進 しています。金融教育を改
善し、税優遇を強めれば転換点がやってくるでしょう。
“
私たちは今、あらゆる地域と
資産クラスに投資できる
「ゴー・エニウェア(Go-anywhere)
」型の
委任をもらえないと、顧客のニーズに
応えられません。
”
25
3 | 資産配分
投資家はなりふり構わずリターンを追求するようになるのか?
本章のハイライト
要旨
▲
ここまで、株式に対する投資家の見方が変わってきた
ことを報告しました。本章では 4 つの主要投資家セグ
メント(DB、DC、個人、富裕層)にとって重要な資産
配分選択に着目します。4 つの投資家セグメントのす
べてが株式を選好すると思われますが、資産を配分す
るときには、各セグメントはオポチュニスティック(短
期志向)なポートフォリオのリバランスと中期的に価
値を抽出しようとする資産配分とを区別してきました。
「市場にとどまっている時間」の方が市場の
「タイミングを計る」ことよりも価値がある
▲
▲
個人投資家の間ではリスクが再び検討対象
に
▲
26
勃興している確定拠出年金(DC)プランで
は株式の比重が増える
富裕層では絶対リターンが主な目標になる
次ページ以降では、各セグメントの詳細な地域データ
を紹介し、中期的な資産配分のトップ 3 に焦点を当て
ていくことにします。
„
“
投資家は海図のない領域にいます。今や最大の
リスクはリスクを取らないことなのですから。
確定給付年金(DB)プラン
確定給付年金(DB)プランは大きく分かれています。現
在の上昇相場は歴史的に見て最も信用できないと考えて
いる層がいる一方で、一世代に一度の好機かもしれない
と考えている人々がいます。いずれの派も、「市場のタイ
ミングを計る」よりも「市場にいる時間をかける」こと
の方が重要であると考えています。
中期的な資産配分では、私たちのインタビューに参加し
た人々のうち 50%が、低金利時代にありがちな「クラウ
ド・トレード」(金融市場において何らかのショックが発
生した場合、多くのファンドが同一行動を取ること)を
恐れています。図 3.1 を見るとこのことがよくわかります。
これによると、不動産が 3 地域、グローバル株式が 2 地域、
先進国ソブリン債が 3 地域、パッシブ型ファンドが 2 地
域で、各地域のトップ 3 に選ばれています。
投資家のオポチュニスティック(短期志向の)選択はディ
ストレスト債券、ETF、新興国株式、コモディティ、通貨
に限られるだろうと考えています。
−インタビューからの引用
図 3.1 確定給付年金(DB)プランが中期的に価値
を生み出すための資産配分
北米
グローバル株式
75%
不動産
72%
先進国ソブリン債
64%
欧州
従来型のパッシブ運用債券/株式ファンド
75%
不動産
69%
先進国ソブリン債
65%
日本
先進国ソブリン債
69%
従来型のパッシブ運用債券/株式ファンド
66%
不動産
61%
アジア(日本を除く)
新興国株式
64%
先進国ソブリン債
55%
グローバル株式
51%
0
10
20
30
40
50
60
70
80
回答者の割合(%)
出典:プリンシパル ®/CREATE リサーチ調査 2015
27
確定拠出年金(DC)プラン
個人投資家
確定拠出年金(DC)プランは伝統的な単一戦略ファンド
から、分散配当ファンド、ターゲット・デート型ファン
ド、ターゲット・インカム型ファンド、分散成長ファン
ドなどの投資助言組込型ファンドへと資金を移動させる、
とインタビュー参加者の 45% は考えています。これらの
ファンドが一つ以上の地域で高いスコアを得ています(図
3.2)
。
図 3.3 のトップ 3 で各地域共通に選ばれているように、
確定給付年金(DB)と同様、個人投資家も低金利の遺産
として「クラウド・トレード」を経験するかもしれません。
オポチュニズムが特定のテーマを追求しようとすると、
選択肢は ETF に限られそうです。
資産配分は、配当重視型ファンドやマルチアセット・ク
ラス型ファンドのような新たに勃興してきた商品が中心
となるでしょう。インタビュー参加者の 50%によると、
いずれのファンドも優良株式を選好しています。オポチュ
ニズムの投資対象は ETF に限定されるでしょう。
図 3.2 確定拠出年金(DC)プランが中期的に価値
を生み出すための資産配分
図 3.3 個人投資家が中期的に価値を引き出すため
の資産配分
北米
北米
ターゲット・デート型退職ファンド
従来型のパッシブ運用債券/株式ファンド
67%
64%
ターゲット・インカム型ファンド
マルチアセット・クラス型ファンド
63%
59%
従来型のパッシブ運用債券/株式ファンド
配当重視型ファンド
60%
57%
欧州
欧州
分散配当ファンド
規制されたミューチュアル・ファンド
72%
63%
従来型のパッシブ運用債券/株式ファンド
配当重視型ファンド
66%
61%
ターゲット・デート型退職ファンド
従来型のパッシブ運用債券/株式ファンド
62%
58%
日本
日本
従来型のパッシブ運用債券/株式ファンド
従来型のパッシブ運用債券/株式ファンド
69%
55%
分散配当ファンド
規制されたミューチュアル・ファンド
62%
53%
株式・債券のアクティブ運用
配当重視型ファンド
55%
50%
アジア(日本を除く)
アジア(日本を除く)
ターゲット・リスク型退職ファンド
株式・債券のアクティブ運用
62%
72%
株式・債券のアクティブ運用
マルチアセット・クラス型ファンド
60%
63%
従来型のパッシブ運用債券/株式ファンド
配当重視型ファンド
58%
0
10
20
30
40
50
59%
60
回答者の割合(%)
出典:プリンシパル ®/CREATE リサーチ調査 2015
28
70
80
0
10
20
30
40
50
回答者の割合(%)
60
70
80
富裕層
富裕層の投資家は、他の資産クラスとの相関性の低いリターン
を求めて、資産選択の幅を大きく広げるとおもわれますが、ア
クティブ運用ファンド、不動産、ヘッジファンドに関しては地
域間には一定の類似点が見出せそうです(図 3.4)。
オポチュニズムとしては、日本以外のアジアではヘッジとして
の金、原油、通貨取引が選好され、それ以外の地域では ETF が
選好されるだろう、と 45%が回答しています。まだ立ち上がっ
たばかりのスマートベータ戦略も成長すると思われます。
図 3.4 富裕層が中期的に価値を引き出すための
資産配分
北米
株式・債券のアクティブ運用
68%
不動産
“
61%
資産が適正価格からかけ離れ、
リスクがあまりにも曖昧なときには、
古いスタイルの戦略的資産配分は
機能しません。
ヘッジファンド
57%
欧州
不動産
66%
マルチアセット・クラス型ファンド
62%
株式・債券のアクティブ運用
57%
日本
元本保証型ファンド
60%
”
−インタビューからの引用
配当重視型ファンド
59%
ヘッジファンド
46%
アジア(日本を除く)
株式・債券のアクティブ運用
72%
プライベート・エクイティ
65%
不動産
62%
0
10
20
30
40
50
60
70
80
回答者の割合(%)
29
「市場にとどまっている時間」の方が市場の
「タイミングを計る」ことよりも価値がある
本調査の回答者は、今後確定給付年金(DB)プランが選好
する資産クラスについて、短期のオポチュニズムと中期的
な資産配分の観点から、それぞれ図 3.5 のように選択しま
した。
図 3.5 世界中の確定給付年金(DB)プランが、今後 3 年間で短期的な
オポチュニズム目的と中期的な資産配分目的に選択する可能性が
最も高い資産クラスと投資商品
従来型のパッシブ運用債券/株式ファンド
9
18
グローバル株式
69
不動産(負債と株式)
12
インフラストラクチャー
13
68
先進国ソブリン債
62
8
58
30
オルタナティブ・クレジット
回答者の 2 人に 1 人は中期投資向けの資産配分として次
の資産クラスを挙げています。パッシブ型債券/株式ファ
ンド(70%)
、グローバル株式(69%)、不動産(68%)
、
インフラストラクチャー(65%)
、株価変動の少ない株式
(62%)
、先進国の国債(58%)、オルタナティブ・クレジッ
ト(56%)、マルチアセット・クラス型ファンド(53%)。
65
18
株価変動の少ない株式
5 人のうち少なくとも 2 人の回答者がオポチュニズム(短
期投資)向けとして次の資産クラスを挙げています。ディ
ストレスト債券(48%)
、上場投資信託(ETF)ファンド
(44%)
、新興国株式(42%)、コモディティ・ファンド(41%)
、
通貨ファンド(41%)、小型株(40%)。
70
資産配分に関するデータの地域別内訳は図 3.1 に示されて
います。これは地域ごとに選択された主な資産クラスを示
しています:
56
16 63%
マルチアセット・クラス型ファンド
53
• 北米:グローバル株式と不動産
プライベート・エクイティ
(セカンダリーを含む)
18
新興国株式
48
42
15
33
ヘッジファンド
(流動性の高い
オルタナティブ資産を含む)
31
小型株
32
37
29
40
26
37
新興国の現地通貨建て債
コモディティ・ファンド
(金を含む)
18
41
14
オポチュニズム
通貨ファンド
41
ディストレスト債券
50
実際、これらの地域データは、インタビュー参加者のおよ
そ 50%が指摘したポイントを裏付けています。つまり、利
回り物色の程度が強くなるにつれて、確定給付年金(DB)
プランは、資産配分で挙げられているトップ 5 の資産クラ
スで「クラウド・トレード」を行いそうだ、ということで
す(図 3.5)
。少なくとも 3 つの資産クラスが、さまざま
な組み合わせであらゆる地域に現れています。このトップ
5 項目は、それらに関する投資テーマとともに 2012 年の
調査以降実質的に変わっておりません。2012 年の主要テー
マは、前年のユーロ圏危機による極端なボラティリティを
受けた株式の復活でした。2013 年のテーマは株価収益率
の拡大でした。市場には数年ぶりの素晴らしい年となる翌
年への準備ができていたのです。2014 年のテーマは株式
の果たすべき役割でした。人口の高齢化によって確定給付
年金(DB)プランが成熟期を迎えたからです。
33
44
ハイイールド債
• アジア(日本を除く)
:新興国の国債と新興国株式
38
32
ETF
• 日本:先進国の国債とパッシブ型ファンド
45
新興国の主要通貨建て債
新興国ソブリン債
• 欧州:パッシブ型ファンドと不動産
11
48
40
30
20
資産配分
10
10
0
10
20
30
40
50
60
70
回答者の割合(%)
出典:プリンシパル ®/CREATE リサーチ調査 2015
インタビューからの引用:
「私たちはどうしようもないジレンマ 「欧州のハイイールド債は、ドイツ国
に置かれています。これだけ積立不足
債の 10 倍もの利回りを提供していま
が大きいとリスクを取る余裕はありま す。」
せんし、一方リスクを取らないとそれ
を解消できないのですから。」
30
「ピア・リスク(仲間=同業他社の動向
に後れを取りたくないリスク)に直面す
ると、この世代で二度とやってこない最
大の株式上昇相場を逃してもよいと考
える年金プランはありません。」
得手不得手
今年の主要テーマは、プラグマティズム(現実主義)で、
これはインタビュー参加者の 65%が指摘しています。
確定給付年金(DB)プランにとっては、上昇する株式市場
に乗ることで後悔の度合いを最小化することが、資産基盤
を分散してリスクを最小化することと同じくらい重要にな
るでしょう。市場が上昇基調にある間は、市場にとどまる
ことが必要不可欠です。
これは、資産配分目標に一層反映されるでしょう。まず、
市場の上値を追うための株式があります。次に、流動性の
低い資産(不動産、インフラ、オルタナティブ・クレジッ
トなど)で高利回りを狙います。ソブリン債は、経済成長
率が事前予想を下回ったときに資産価値の下落を最小化す
るために保有します。そして、幅広い分散投資を通じて新
たな投資機会を追求するマルチアセット・クラス型ファン
ドです。
これまでの調査とは異なり、今年は、新興国の株式と債券
への評価は高くありません。両資産クラスにとって 2014
年は散々な年となりました。端的な例はブラジルで、イン
フレ率が高騰し、石油収入は激減、財政赤字は拡大し、経
済成長は停滞し、そしてペトロブラスのスキャンダルで政
治的混乱が高まりました。しかも投資家は、最悪期がまだ
終わっていないと感じています。
不動産は 2014 年にかつてないほどの資産配分比率となり
ましたが、今後ともこれは高まるでしょう。この資産クラ
スは 2008 年に 40%近く下落した後、7 年間で再び高値を
つけました。不動産は、インフラとともに、安定した資産
価値の伸び、定期的な収入、そしてインフレ防衛といった
ディフェンシブな特徴を持つと考えられています。政府系
ファンドが資金を注入し投資配分を 4 倍にしてきた市場で
す。
第 2 章で指摘したように、利回り物色の動きは今後も続き、
分散投資の対象としてオルタナティブ・クレジット分野に
進出するでしょう。プライベート・エクイティとヘッジファ
ンドは、各ファンドでリターンが大きく乖離していますが、
今後も分散投資の対象としてのメリットを維持するでしょ
う。ヘッジファンドは、絶対リターン/低ボラティリティ
という特徴で選好されるでしょう。
インサイト
柔軟なガバナンスでポートフォリオ・リスクを
高める
金利の低下によって私たちの積立水準は 78%まで下がってしまいました。
さらに悪いことに、ユーロ圏の量的緩和策(QE)が勢いを増しています。
現時点では、加入者の給付を減らすことも、退職年齢を引き下げることもで
きません。年金の受給権は加入者の雇用契約に組み込まれてしまっているか
らです。
したがって当プランの理事会は、ポートフォリオのリスクを高めることにし
たのです。ただし、これは単に株を増やし、債券を減らすということではあ
りません。私たちのビジネスモデルを大幅に変更して拡大する問題に対処す
るということです。そしてその問題とは、期待リターンと実際の結果との差
です。
融通の利かないガバナンス、マイクロ・マネジメント、決まり切った資産配
分と最適とは言えない約定による盲信がありました。私たちのモデルは手直
しをしなければなりませんでした。
何よりもまず、独立した投資の専門家を外部から招いて投資委員会を新たに
設立し、そこに運用を委託するというガバナンス構造へと変更しました。理
事会は戦略的な枠組みを定めました。投資委員会はそれを支えるための資産
配分の判断を下します。戦略を即時に実践するためにチーフ・インベストメ
ント・オフィス(投資本部)が設立されました。
正しいガバナンス構造をつくった上で、それまで長く維持してきた資産配分
の枠組みを見直しました。プライベート市場への配分を引き下げ、それまで
よりも少数の運用会社と共同で投資する関係を結ぶことにしたのです。ヘッ
ジファンドからも完全撤退しました。私たちの経験では、ヘッジファンドは
2008 年の金融危機以降それほど付加価値を獲得できなかったからです。リ
ターンの乖離は受け入れがたいほどに広いにもかかわらず、手数料は基本報
酬 2%、成功報酬 20%といういつものパターンのままでした。
私たちは株式、不動産、インフラ、オルタナティブ・クレジットの保有比率
を引き上げました。今日の債券利回りでは、積立不足を改善する可能性は全
くありません。リバランスをしなかったら今よりもはるかに悪かったことで
しょう。ガバナンス構造の柔軟性を高めたことで、私たちは割高な資産と割
安な資産の保有比率を即時に調整し、市場の押し目で売り、高値で売ること
ができるようになりました。資産が適正価格からかけ離れ、リスクがあまり
にも予測不可能な環境では、旧式の戦略的資産配分は機能しないのです。私
たちのスポンサーのコベナンツは強 です。状況が変わるとアプローチも変
えなければならないことをスポンサーは承知しています。
最後に、プライベート市場以外のほとんどの分野でインハウス運用を行って
経費の削減を図っています。私たちは、様々な目的を達成するために内部の
投資チームを格段に強化しました。具体的には、以前よりも規律の取れた売
買手法の採用、早期先行者利益を勝ち取る革新的方法、スマートベータの利
用によるコスト削減、意図しないスタイルの回避、外部運用会社との契約内
容の改善などです。
‒ 英国の年金プラン
「ヘッジファンドは、2008 年に死にか 「今日、何もかもが高くなってしまい 「年金プランは、リスクカーブを上昇
けた経験をした後は規模が大きくな ました。現金以外に無リスク資産は存
するとともにガバナンスが強化されて
り、安全志向になり、面白みのない投
在しません。投資は今や、利用できる
います。」
資対象になってしまいそうです。」
ものを最大限に利用するということな
のです。」
31
新興の確定拠出年金(DC)プランでは株式の比重が増える
現在のような低金利時代にも明るい希望があります。確定
拠出年金(DC)プランの世界では、退職「まで」と退職「か
ら」の両面で、イノベーションが加速しているのです。こ
れは資産選択によく現れています(図 3.6)。この図を見る
限り、世界中の確定拠出年金(DC)プランは今後 3 年間で
幅広い種類の資産クラスを選択しそうです。短期投資では、
次のような資産クラスを狙いとしています。
• 上場投資信託(ETF)(44%)
• ターゲット・デート型ファンド(60%)。
• ターゲット・インカム型ファンド(58%)
。
• 分散成長ファンド(52%)
中期的な投資期間を念頭に置いた資産配分の地域ごとの内
訳は図 3.2 をご覧ください。ここには各地域で主に選択さ
れた資産クラスが示されています:
• 北米: ターゲット・デート型ファンドとターゲット・
インカム型ファンド
• 株式・債券のアクティブ運用(31%)
一方、回答者の 2 人に 1 人は、中期的な資産配分として、
• 欧州と日本:分散配当ファンドとパッシブ運用ファンド
次の資産クラスを狙うと思われます。
• ア ジ ア( 日 本 を 除 く )
: タ ー ゲ ッ ト・ リ ス ク 型
ファンドとアクティブ運用ファンド
• 分散配当ファンド(68%)
• 従来型のパッシブ運用ファンド(66%)
• 全 4 地域:パッシブ運用ファンド
私たちの 2009 年の調査では、株式と債券のアクティブ運
用という単一戦略がトップで、これを選んだ回答者は 62%
でした。それ以降は毎年減り続け、今年は 47%になりまし
た。その理由は、とりわけ投資家の行動バイアスで十分な
リターンを達成できなかったからです。その結果、インタ
ビュー参加者の 45%が、レガシー資産がこうした単一戦略
ファンドからバイアスを最小化する次の 3 つの新しい投資
商品に移行すると考えています。
図 3.6 世界中の確定拠出年金(DC)プランが、今後 3 年間で短期的な
オポチュニティズム目的と中期的な資産配分目的に選択する可能性が
最も高い資産クラスと投資商品
分散配当ファンド
12
68
従来型のパッシブ運用債券/株式ファンド
12
66
ターゲット・デート型退職ファンド
8
60
ターゲット・インカム型退職ファンド
7
58
分散成長ファンド
20
株式・債券のアクティブ運用
10
43
44
42
16
50
40
30
20
主なイノベーション
44
14
保証付き保険契約
・元本成長を実現するよう設計された分散成長ファンド
47
ターゲット・リスク型退職ファンド
ETF
• 元本成長と定期的な所得をもたらすよう設計されたター
ゲット・デート型ファンドとターゲット・インカム型ファ
ンド
52
31
カスタマイズ投資プラン
• 退職前後に所得をもたらすよう設計された分散配当ファ
ンド
10
30
0
10
20
30
回答者の割合(%)
オポチュニズム 資産配分
出典:プリンシパル ®/CREATE リサーチ調査 2015
40
50
60
70
この移行は、退職環境を多角化させる二つのイノベーショ
ンに促されています。最初のイノベーションは分散配当
ファンドに関するものです。従来のバランス型ファンドと
は異なり、この新しいファンドは高配当株から株価変動の
少ない株式まで、幅広い資産に資金を投じます。リターン
そのものに集中するという古い方法から、高リターンの達
成以外の明確な最終結果を目指し、イベントの必要性にし
たがって資産配分を変更する機動的なアプローチへと拡大
しているのです。
このようなファンドは、とりわけ退職したか退職の近い加
入者に特別に訴えるような様々な特徴(定期的な所得、低
ボラティリティ、元本成長、インフレ防衛など)を備えて
インタビューからの引用:
「米国では、人々が退職時のために蓄 「ライフサイクル投資が欧州の確定拠
えていた金額と、蓄える必要のあった
出年金(DC)分野に入ってきています。
金額の差が、2013 年には 6 兆米ドル
債券へのオーバーウェイトは、それだ
でした。」
けでリスクがあります。」
32
「ターゲット・デート型ファンドが投資
助言を組み込んでいることは大きなイノ
ベーションです。投資家は確実に安く
買って高く売ることができるからです。」
提供されています。いずれも退職者を悩ませる 3 つの追加
的な問題に対処することを目指しています。
(1)「リター
ンの順序」リスクは、市場が大幅に下落した後にポートフォ
リオが価値を回復するのに時間がかかるというリスクで
す。(2)
「長生きリスク」は、加入者が保有資産よりも長
く生存するリスクです。(3)インフレーション・リスクは、
物価が上昇してリターンや資産の価値を劣化させるリスク
です。
二番目の主要なイノベーションは、ターゲット・デート型
ファンドをドローダウン型ポートフォリオに変えることを
目指しています。これらファンドの当初の運用方針は、最
初は株式をオーバーウェイトとし、退職が近づくにつれて
債券をオーバーウェイトとするというものでした。最新
バージョンでは、株式の保有比率が引き上げられ、退職段
階になってもなお、ポートフォリオの相当部分がなお株式
に投資されるようになっています。この新バージョンは、
追加リターンを提供するため、間もなく不動産とプライ
ベート・エクイティを含むポートフォリオへと段階的に変
化していくでしょう。
新たなリスク
どちらのイノベーションでも、今日のような債券に対する
世界的な超過需要から生じた 2 つの意図せざる結果もあっ
て、株式の比重は引き上げられています。まず、期限前償
還(コール)条項付き債券の発行額と割合が大幅に増加す
るなど、最近の債券発行では発行体寄りで投資家には不利
な傾向が現れ始めたようです。この条項により、発行体は
償還期限前に債券を償還する選択肢を与えられ、投資家は
高い再投資リスクを背負うことになります。さらに、発行
市場では、変動利付債から固定利付債への大きな動きが起
きており、金利が上昇したときに発行体に有利な状況が生
まれています。
インサイト
退職後のインカム獲得ソリューションとしての
株式
世界の年金制度の中で、オーストラリアは一つの面で傑出しています。お
よそ 1 兆 4,000 億米ドルの年金資産のうち 85%を確定拠出年金(DC)プラ
ンが占めているのです。他の市場と比較してみると、米国は 58%、英国は
29%、日本は 3%です。
しかし、オーストラリアはある重要なポイントで他国に遅れています。退
職者が退職年金用に投資できる投資商品が不足しているのです。大半の退
職者はエクイティ・ファンドを選んでいます。このファンドの 2004 年から
2013 年のリターンは年率 6%で、ボラティリティは 9.5%でした。2008 年
∼ 2009 年では大きな打撃を受けましたが、2013 ∼ 2015 年では見事に復活
しました。
現在のところ、この戦略には一つの大きな利点があります。国内銀行株をオー
バーウェイトにしているという点です。オーストラリアの銀行は、収益性の
極めて大きな住宅ローン事業を背景に、およそ 4%という十分な配当利回り
を持続しています。最近は、この魅力的な配当利回り水準を得るのが難しく
なっています。
一方、オーストラリアの国内バイアスは適格配当税額控除額ルールに基づく
税制優遇があるからで、この制度のおかげで年率リターンは 1%まで押し上
げられる場合があります。しかし、オーストラリア株式への投資には二つの
欠点があります。
一つ目は集中リスクです。世界経済全般、そしてとりわけ中国経済の成
長軌道が低下しているため、オーストラリアやカナダといったコモディ
ティの主要生産国の株式市場は今後さらに大きな変動に見舞われる可能
性があります。
二番目の下落リスクは、「リターンの順序」リスクで、ポートフォリオに
とって極めて深刻な、最も気づきにくいリスクです。これは、リターン
が発生する順序のことです。退職後の初期の時期にリターンが低下する、
あるいはマイナス・リターンとなっている期間が長いとリターン全体が
低下するでしょう。というのもポートフォリオの資産基盤が減ってしま
い、当初の損失を回復する時間が足りなくなるからです。
国内株式へのオーバーウェイト・ポジションは、国内債券市場の規模によっ
ても左右されます。国債は発行額がかなり限られ、しかも健全性規制に基づ
き、保有が義務づけられている銀行からの引き合いが強い商品です。オース
トラリアの財政ルールも公共債の規模を縛っています。これに対し、社債残
高は伸びてきているものの、発行体は一部の銀行と鉱業会社に集中していま
す。
高齢化が進み、国全体が年金資産の取り崩し局面を迎えた今、金融の不安定
制と個人の破綻を恐れる有力者らは、私たちがより防衛的な選択肢を採る必
要があると主張しています。高齢化が進むと、市場リスクと長生きリスクと
のバランスを取ることができません。
米国と英国など、その他の確定拠出年金(DC)プランの国々は、このトレー
ドオフを認識しており、株式と債券を混合させながらも、一つの手法ですべ
てを賄うアプローチを避ける幅広い商品群を生み出しました。
過去 3 年間で明るい兆候の一つとして、
「バケット」アプローチによる年金(ア
ニュイティー)への関心が復活しています。この方法では、日々の費用には
アニュイティーを当てる一方、まとまった支払いには株式ファンドを使いま
す。アニュイティーは、残高はまだ小さいのですが、あらゆる形態と規模の
商品が復活しており、一定期間後には元本を返済するものまであります。
‒ オーストラリアの退職年金基金
「株式の保有比率を高めると『表で勝 「2009 年、米国債に対するハイイール 「株式はオーストラリアでの退職後の
ち、裏でも負けない』と言う結果にな
ド債の利回りスプレッドは 20%でし 生活プランを今後も支えるでしょう。」
るかもしれません。」
た。今は 2%です。債券価格は上がり
過ぎてしまいました。」
33
個人投資家の間ではリスクが再び検討対象に
2014 年末の段階で、世界の個人資産は約 30 兆米ドルに達
していました。その 70%近くが退職者か退職間近な人々に
保有されていました。どの国でも(インドとインドネシア
を除き)高齢化が進むとともに、個人セグメントと退職者
セグメントの差がなくなってきています。
投資家が老後に入ると、一見すると直感に反する資産配分
のアプローチを採らざるを得なくなります。つまり、現在
のような低金利時代には、リスクをこれ以上取らないこと
が高リスクだと考えるべきなのです。投資家はなりふり構
わず、従来の投資機会以外に目を向けて付加価値を追求し
なければなりません。
これは、私たちの個人投資家担当の回答者が明らかにした
資産選択からも確認できます(図 3.7)。オポチュニズム(短
期投資)に対しては、10 人のうち少なくとも 3 人が次の資
産クラスを挙げていました。
• 上場投資信託(ETF)(51%)
中期の資産配分では、2 人に 1 人は次の資産クラスを挙げ
ていました。
• マルチアセット・クラス型ファンド(63%)
• 配当重視型ファンド(60%)
• 従来型のパッシブ運用ファンド(60%)
• ミューチュアル・ファンド(55%)
中期的な資産配分に関する地域ごとの内訳は図 3.3 をご覧
ください。各地で主に選択される資産クラスは次の通りで
す。
• 北米:パッシブ運用ファンドとマルチアセット・クラス・
ファンド
• 欧州:ミューチュアル・ファンドと配当重視型ファンド
• 日 本: パ ッ シ ブ 運 用 フ ァ ン ド と ミ ュ ー チ ュ ア ル・
ファンド
• アクティブ運用の株式と債券(35%)
• アジア(日本を除く)
:アクティブ運用の株式および
債券ファンドとマルチアセット・クラス型ファンド
図 3.7 世界中の個人投資家が、今後 3 年間で短期的なオポチュニズム目的
と中期的な資産配分目的に選択する可能性が最も高い資産クラスと
投資商品
マルチアセット・クラス型ファンド
18
配当重視型ファンド
63
23
従来型のパッシブ運用債券/株式ファンド
17
規制されたミューチュアル・ファンド
19
60
60
35
43
23
元本保証型ファンド
テーマ型ファンド(シャリア指数、
社会的責任投資(SRI)など)
50
40
39
18
30
このシナリオでは、ETF は、キャッシュ・エクイタイゼーショ
ン(流動資産の株式化)のための優れた商品であるだけで
なく、様々な投資テーマに資金を投じる低コストの選択肢
と見られています。ETF を基にしたライフスタイル・リス
ク商品を作る計画も進行中です。なおセクターはヘルスケ
ア、生命科学、介護施設、燃料および輸送の比重を明確に
高めています。
44
株式・債券のアクティブ運用
60
したがって、今や投資家には投資機会が広がっているので
す。
55
51
ETF
20
10
FRB が量的緩和プログラムを終了させる準備をしているた
め、金利、スプレッド、通貨のボラティリティが高まるの
は必然だ、とインタビューに参加したうちおよそ 65%が主
張しました。さらに、景気サイクルと同様、世界中の金融
政策のタイミングも足並みが わなくなってきました。期
待インフレ率と成長率予想の乖離によりイールドカーブは
スティープ化しています。それと並行して、世界中の債券
市場の高度化も進んでいます(たとえば欧州のハイイール
ド債や新興国のハードカレンシー債など)。
21
0
10
20
30
回答者の割合(%)
オポチュニズム 資産配分
出典:プリンシパル ®/CREATE リサーチ調査 2015
40
50
60
70
人気ファンド
インタビュー参加者のうち半分近くの人々が、今後 3 年間
で最も投資家を引きつけそうな商品として 2 種類のファン
ドを挙げました。マルチアセット・クラス型ファンドと配
当重視型ファンドです。
インタビューからの引用:
「今日、投資家が直面する最大のリス 「レガシー・ファンドは投資家の期待 「 マ ル チ ア セ ッ ト・ フ ァ ン ド は、
クは、市場のリスク回避傾向です。」
リターンに応えておりません。誰も身 インターネットと同様、散々なスタート
につけていない高度な金融知識を求め を切った後に改善するでしょう。
」
ていたのです。」
34
• まずマルチアセット・クラス型ファンドに投資すると、ファ
ンド・マネージャーは、変化し続ける投資機会をうまく捉え
ることができます。あるいは他の投資家が敬遠しているとき
に、流動性の低いポジションを取ることができます。投資に
制約がないということがこのファンドの特徴であり、絶対リ
ターンが彼らのターゲットです(一般的にはキャッシュ・リ
ターンプラス 3 ∼ 5%)。マルチアセット・クラス型ファンド
は、株式から合併アービトラージ戦略、さらには直接融資、
ハイイールド債、新興国債券、投資適格債等のあらゆる種類
の債券まで、幅広い資産クラスに投資します。本源的価値を
見出した場合には、相当大きな株式を保有する投資家もいま
す。彼らが狙うのは、割安で、リサーチが十分ではない、市
場では振り向かれていない資産です。ベンチマークという権
力から解放されて、絶対リターンを重視する、というのがこ
のファンドの「売り」です。
• 配当重視型ファンドは、米国、欧州、オーストラリア、そし
て香港やシンガポールなどアジアの一部で採用されている確
定拠出年金(DC)プランで人気を博しているものと同様の商
品になるでしょう。このファンドの主な目的は、インカムを
生み出すことです。上で紹介しましたマルチアセット・クラ
ス型ファンドと同様、制約のないアプローチを採るファンド
もあります。あるいは、特定の国で税効率の高い商品(米国
の地方債やオーストラリアの株式など)を用いているファン
ドもあります。
イノベーション
配当型ファンドへの需要の高まりを受けてイノベーションが起
きるでしょう。リターンの乖離によって退職後の収入市場に明
確な格差が確定するでしょう。すなわち、
年金(アニュイティ−)
がトップに来て、分散配当ファンドが一番下にくるのです(図
3.9)。こうしたファンドの中には、資産基盤の広い旧式のバラ
ンス型ファンドの亜流もあると思われます。また、原証券であ
る株式の変動を最小化するためにコール・オプションを用いる
ファンドもあるでしょう。不動産投資信託やインフラへの投資
によってインフレ防衛を図るファンドも現れるでしょう。ただ
し、インフレは当面は各ファンドにとってそれほど優先度の高
い課題にはなりそうにありませんが。
レガシー・ファンドは、債券と株式に投資する単一戦略に長く
依存してきましたが、
「設定したら、後は忘れる」という原則
に基づく新たな投資助言組込型商品へと移行していくでしょ
う。理解しやすい原則ですが、その複雑さは表面からはわかり
ません。
インサイト
インカム収入を求めて株式と流動性の低い資産に
目を向ける投資家
利回りが世界中で低くなり、投資家は自分のインカム目標を達成できていませ
ん。インカム収入を得るために、高格付けのソブリン債に依存できる時代は終
わりました−そんな時はもう当分来ないかもしれません。利回りを追求する中
で、私たちの個人顧客は二つのアプローチのうちのどちらかを採用することを
余儀なくされています。
第一に、ポートフォリオでの株式の比重を高めることです。株式の選択は、以
前は回復期、拡大期、後退期、不景気の 4 つの局面で成り立つビジネス・サイ
クルに従っていました。回復期とは市場が不景気から回復する時期のことで、
拡大期とは経済が成長モメンタムに乗り、健全な収益性が得られるようになる
こと、そして後退期には、経済が過熱し、そのインフレ率の上昇と利上げで傾
いて、最後の不景気に入ると、企業の利益が落ち込み信用供与が減少します。
2008 年の金融危機以降、恐らく米国と英国を例外として、各国の中央銀行はこ
のアプローチを無視した政策を採ってきました。その結果、当社の個人顧客は
株式の保有比率を引き上げながら、持続可能な配当、価格決定力、そして強
な財務体質を持った優良銘柄を選択するようになりました。
その理由は、私たちは、当社のお客様には、たとえ深海に潜らなくてはならな
い場合でも、あまり多くのリスクを取らないでほしいと思っているからです。
スタイルボックス型の投資はもはや最重要ではありません。西側諸国で生活必
需品セクターに分類されている銘柄は、中流層が急速に拡大しているアジアで
は成長株なのです。
第 2 に、当社のお客様は、利回り向上に向けてマルチアセット・クラス型のファ
ンドを採用するようになってきました。ポートフォリオのおよそ半分は(ハイ
イールド債と住宅ローン担保証券を含む)固定利付債券のみに投資されており、
残り半分は先進国と新興国の大型株、絶対リターンを狙うヘッジファンド、マ
ネージド・フューチャーズ、直接融資、変動利付債券など様々な商品に向けら
れています。一般にこのファンドの目標リターンはキャッシュ・プラス 4%です。
しかし、このアプローチには二つの欠点があります。
資産を 50 カ国の 1,000 以上のあらゆる銘柄に投資していながら、これらの
ファンドは、株式 60%、債券 40%というポートフォリオに類似した、従来
のバランス型のリスク特性を狙うようになってしまうのです。全く制約のな
い枠組みでも、ファンドは積極的に管理され、パフォーマンスが毎年大きく
振れるかもしれません。
低流動性プレミアムを取ることによってリターンを高めようとします。米国
以外の住宅ローン担保証券とハイイールド債は流動性がはるかに低くなりま
す。このように、当社のお客様はインカムと流動性とのバランスを取るとい
う難しい課題を抱えているのです。したがって、アジアでは、保険付きのマ
ルチアセット・クラス型ファンドを販売して、実質的なロックイン(償還禁
止)をつくり出しています。
株式や流動性の低い資産に依存することは、定期的なインカムを求める投資家
の皆様にとって最適な選択肢ではありません。しかし、低利回りの環境のため
他に手段がほとんど残されていないのです。今日の投資は、多くの面で直感に
反しています。実質利回りが低い間は、当社のお客様は次善のソリューション
を追わざるを得ません。現在の環境ではそれが私たちにできる精一杯のことな
のです。
‒ アジアに拠点を置くオランダのウェルス・マネージャー
「流動性 ( 換金性 ) が高く評価され過ぎて 「 ジ ェ ネ レ ー シ ョ ン X と ジ ェ ネ レ ー 「金融教育をもっと行わないと、中国
います。当社のお客様は流動性の低い資
ション Y が目立たないのは、彼らの はファンドの超大国になれないでしょ
産から組成した流動性の高い商品を求め 投資が比較的少額だからです。」
う。」
ています。しかしそのようなものをつく
り出せる魔法の粉は存在しないのです。」
35
富裕層では絶対リターンが主な目標になる
世界中で、富裕層の投資家セグメントは、良い時も悪い時
もそこそこのリターンを実現する、他の資産クラスと相関
性のない絶対リターンに強い関心を持つでしょう。けれど
も、リスク選好度については地域間で明確な差があります。
東側のリスク選好度は常に高く、投資家は自分の獲得した
財産への高リターンを追求してリスクカーブを昇っていく
でしょう。西側のリスク選好度は低く、投資家は引き継い
だ財産を守るために、既存のリスク・バスケットからより
多くのリターンを絞りだそうとするはずです。
• ETF(スマートベータを含む)(49%)
全体で見ると、3 つの資産クラスが 5 人のうち少なくとも
2 人の回答者によってオポチュニズム向けとして選択されて
いるようです(図 3.8)
。
• アクティブ運用ファンド(56%)
• コモディティ・ファンド(43%)
• 通貨ファンド(41%)
一方、6 つの資産クラスが、回答者の少なくとも 2 人に1人
によって中期の資産配分向けに選択されているようです。
• 不動産(63%)
• プライベート・エクイティ(55%)
• マルチアセット・クラス型ファンド(54%)
・ ヘッジファンド(54%)
• 従来型のパッシブ運用ファンド(54%)
図 3.8 世界中の富裕層投資家が、今後 3 年間で短期的なオポチュニズム
目的と中期的な資産配分目的に選択する可能性が最も高い資産クラスと
投資商品
不動産
21
株式・債券のアクティブ運用
中期的な資産配分に関する地域ごとの内訳は図 3.4 に、各地
で主に選択される資産クラスが示されています。
• 北米:アクティブ運用ファンドと不動産
63
28
• 欧州:不動産とマルチアセット・クラス型ファンド
56
• 日本:元本保証型ファンドと配当重視型ファンド
プライベート・エクイティ
30
55
27
ヘッジファンド
• アジア(日本を除く)
:アクティブ運用ファンドとプラ
イベート・エクイティ
54
マルチアセット・クラス型ファンド
12
54
従来型のパッシブ運用債券/株式ファンド
14
54
配当重視型ファンド
18
元本保証型ファンド
18
前述したように、2012 年以降確定給付年金(DB)によって
追求されている主要な投資テーマは株式関連です。富裕層の
投資家の場合、高リターンの実現です。2012 年、富裕層は
低リターンに対する寛容度は低いものでした。2013 年には、
市場が急速に回復しリスク選好度を高めました。2014 年に
は、高リターンに加えてそれ以上の目標を追い始めました。
今年は、絶対リターンがコアのターゲットになっています。
48
40
オポチュニズム
49
ETF
コモディティ・ファンド
(金を含む)
39
43
通貨ファンド
16
41
60
50
40
30
20
アジア(日本を除く)では、多くの富裕層が、緊縮財政で
低成長の時代になると考え、オポチュニズムの投資では金、
原油および通貨のトレーディングに集中するでしょう。イ
ンタビュー参加者のおよそ 45%が、金と原油を優れたヘッ
ジ手段として捉えています。
11
10
0
10
20
30
回答者の割合(%)
オポチュニズム 資産配分
40
50
60
70
インタビュー参加者の 45%が、北米、欧州、日本ではオポチュ
ニズムは ETF に集中するとみています。投資家は、インデッ
クス投資並みの手数料で市場を上回るリターンを実現する
という魅力的な約束によって(ETF 戦略内の)スマートベー
出典:プリンシパル ®/CREATE リサーチ調査 2015
インタビューからの引用:
「アジアの富は 2014 年に 17%増加し 「金は今後ともインドと中国の人々を
て、15 兆米ドルというとてつもない
引きつける資産となり、積極的に取引
額に達しました。これを所有している
もされるでしょう。」
のは 440 万人です。
」
36
「不動産は、洋の東西を問わず、裕福
な投資家にとって主要な投資テーマと
して浮上しています。」
タ戦略に引きつけられるでしょう。ETF を、キャッシュ・エク
イタイゼーション(流動資産の株式化)商品とみている投資家
もいます。
インサイト
スマートベータ:結論はまだ
資産配分
二つの資産クラスが少なくとも 2 つの地域で選好されそうで
す。一つは不動産です。不動産は、元本の成長、定期的なイン
カム収入、低ボラティリティ、インフレ防衛など様々な目標の
達成をねらうハイブリッド資産とみられるようになってきまし
た。REIT も、過去 30 年にわたってプライベート・ファンドの
リターンを 5%上回ってきたため高い関心を集めそうです。
その他ではヘッジファンドがあります。とりわけアジア(日本
を除く)のロング・ショート戦略ファンドと北米および欧州の
低ボラティリティ・オプションが選好されています。ヘッジファ
ンドに対する認識は、圧倒的なリターンを提供する資産クラス
から、元本の保全と成長を実現する低ボラティリティの資産ク
ラスへと今後も変わっていくでしょう。
アジア(日本を除く)の富裕層は、低流動性プレミアムを得る
ためにプライベート・エクイティを選好するとともに、市場に
勢いがある場合には、アジアと中南米の株式市場で圧倒的なリ
ターンを追うべくアクティブ運用ファンドを選好するでしょ
う。
一方、北米と欧州の富裕層は、債券と高配当株式での「ゴー・
エニウェア(Go-anywhere)
」(あらゆる地域と商品に投資でき
る)委任の獲得を目指して、アクティブ運用戦略を選好するは
ずです。利回り上昇は今後も主要目標になるでしょう。しかし、
2011 ∼ 2012 年には市場が極端に変動したため、投資家は従来
の時価総額比重によるパッシブ運用ファンドよりも、生まれた
ばかりのスマートベータ戦略への興味を示し始めました(
「イ
ンサイト」をご覧ください)。
過去 20 年をカバーしたバックテストに基づくリターンは、魅
力的に見えます。ところが、定期的なリバランスに伴う取引コ
ストも、戦略実施の市場インパクトも考慮しておりません。結
局、投資家自身の行動と反応が、他の投資家の反応ともども新
たなリスクを呼び込むのです。
一つの投資戦略として、スマートベータが幅広い関心を集めています。従来の時
価総額加重によるパッシブ運用では高リターンが望めないという厳しい現実に、
富裕層のお客様が気づいたのです。
パッシブ運用ファンドは、FTSE 100 種指数や S&P 500 種指数などの従来の市場
指数を追跡しているため、割安な中小型銘柄よりも割高な大型株の保有比率を高
めます。大企業は、その本源的な価値よりも単に規模が大きいという理由だけで
新たな資金を引きつけます。その結果、上昇局面では市場価値が過度に膨張しが
ちになります。一方、下降局面に入るとボラティリティが不必要に高まり、その
後の調整が本源的価値を大きく割り込むのです。
2000 年代半ばから、価値、質、モメンタム、低ボラティリティのようなプレミ
アム要素を取り込むために、ベータ指数を重みづけする別の手法が様々な装いの
下に現れました。これらは、様々なプレミアムを捉える新しい方法と見なされて
います。さらに、スマートベータでは、主観的な判断に基づいてポジションを定
期的にリバランスし、選択した比重を維持することが必要です。
ところが、投資家がスマートベータに魅せられているのは、時価総額加重による
指数のパフォーマンスを上回って既存の資産から多くの果実を搾り出せる、とい
うアイデアの方なのです。これこそが投資家の目標にほかなりません。つまりさ
らなるベータのリスクを取ることなく追加のアルファを獲得し、インデックス投
資並みの手数料で市場を上回るリターンを得る、ということです。
スマートベータは現在、米国株式に投資する上場 ETF 資産の 18%に相当する 3,000
億米ドルを占めています。欧州は今後素晴らしい成長率を(元々の基準はかなり
低いのですが)達成すると予想されています。ファクター・ベース(要素に基づく)
投資によって、投資家はリターンの実現要素とリターンを刈り取る方法を獲得し
ました。ところが、輝くものがすべて金とは限りません。
最も基本的なレベルでは、リバランス費用はリターンを容易に浸食します。リバ
ランスはリターンの主な源泉ですが相応のコストがかかるのです。さらに、資産
クラスではなく要素に沿って資産を配分することの方がはるかに難しいのです。
この組み替えには、高度なリスク・モデルの設定が必要です。最後に、スマートベー
タ戦略が用いているルールに基づくアプローチは、いわゆる「先取り売買」には
弱くなります。
さらに、スマートベータ戦略を取ると、以前には考慮していたリスクとは別のリ
スクにさらされます。たとえば、多くのバリュー戦略は財務的に破綻した企業を
狙います。株価が下落すると投資家は買い増すことで当初の比重を回復し、価格
が平均に戻るのを待つわけです。しかしそうはならないことも多いのです。
最後に、バリューを重視すると、財務的に破綻した企業を、過去の価格に比べて
現在の時価が「割安」に見えると考えてつい購入してしまう場合があります。そ
のようなルール重視の運用手法は、市場モメンタムが効いているときに、それに
反した投資行動を取ることをも意味します。
スマートベータ戦略はまだ生まれたばかりであり、当社のお客様は少額を投資し
ている段階です。大きな市場の下落が起きた時にどの程度の成果を上げるかを見
てから、本格的に取り組むかどうかを決めようと考えています。
‒ スイスのウェルス・マネージャー
「不動産と英 10 年国債利回りとの利回
り格差は、過去平均を優に超えた状態
が続いています。」
「スマートベータが安易に獲得できる 「 時 価 総 額 加 重 し た イ ン デ ッ ク ス の
アルファなど存在しません。そんな 有効性は疑わしいですね。集中リスク
ものはどこからやってくるのでしょ とモメンタム・リスクにかなりさらさ
う?」
れていますので。」
37
地域ごとのポイント
ここまでの 4 つのサブセクターでは、4 つの投資家セグメントが選択する可能性が高い資産クラスと各地域の背景に注目
しました。本章は、株式に関する私たちのインタビューから浮かび上がった構造的な投資テーマを取り上げます。互いに
重なり合い、全体として大きなテーマにつながるものもあれば、地域特有のテーマもあります。
全体像
まず、「株の時代」は終わっておらず、同じ意味で、他の
資産クラスの時代も終わっておりません。2000 ∼ 2002 年
の下落相場以来私たちが目撃してきたのは「投資家が追っ
ているのはリターンであり、資産クラスではない」という
言い古された言葉の再確認です。
1950 年代と 1982 ∼ 1999 年までの長期上昇相場を 2 度経
験した株式は、熱狂的な支持を集めるようになりました。
株はまた、60 対 40 という分散ポートフォリオから一定の
利益が得られるという期待感が確立し、この保有比率が運
用の規範となりました。過去 10 年の間で、この期待が覆
されたのはわずか 7 年間で 2 度起きた厳しい下落相場の時
だけでした。
地域を問わずに株式への関心が最近高まっているのは、な
りふり構わず一定のリターンを求める投資家の動きにけん
引されているからにほかなりません。
私たちのインタビューから現れた二番目の主要テーマは、
高齢化の進むあらゆる地域で期待できる、退職者用投資商
品の新たなイノベーションです。これらの商品は、定期的
なインカム、低ボラティリティ、元本の成長、インフレ防
衛のうち一つ以上の実現を目指します。
すべての主要年金市場で、トップのアンニュイティー(年
金)商品から一番下の低コストの分散配当ファンドまで、
4 種類の商品の新たな階層が明らかになっています(図
3.9)。
• 分散配当ファンドは、パッシブ運用ファンド、または
アクティブ運用ファンドもしくは単一戦略ファンド、ま
日本にも、株式が熱狂的な人気を集めた時代があり、1989
たはマルチアセット・クラス型ファンドもしくはトータ
年には日経平均構成銘柄の中には PER が 200 倍を超える
ルリターン型ファンドを用いて株と債券を混合した商品
企業もあったほどです。日経平均は 1989 年の年末に 3 万
です。積立残高の低い退職者には特に魅力的なファンド
8,915 円の史上最高値(終値ベース)をつけた後下落に転
です。
じ、2003 年 4 月の 7,831 円まで容赦なく下がり続けました。
したがって、その後の治癒プロセスが相当長くかかったの
も当然と言えます。日本の株式市場の栄光を取り戻すには • マネージド・ドローダウン・ファンドには 2 つの特
徴があります。一つ目は、毎年元本の一定割合を提供し
「3 本の矢」のような野心的な取り組みが必要でした。
ようとするものです。その割合は 3 ∼ 7%で、大半の退
職者にとっては一般的な「バーンレート」
(毎年消費する
株式が現在好調に推移しているのは、過去に何度もあった
割合)と言えるでしょう。バーンレートが高いと、それ
ように、他の資産よりも株式の方が優れた結果を出してき
に応じてファンドを組成しているポートフォリオに占め
たからです。一方、株式に対する熱狂は英語圏諸国と最近
る株式の割合が高くなります。天井は 60%に設定されて
の新興国以外で強かったことはありません。たとえば、欧
おり、このポイントを超えると、ポートフォリオのボラ
州の大部分では、リスクを取ることに二の足を踏み貯蓄
ティリティが高まって、退職者が投資ポートフォリオよ
を選ぼうという気運が強かったため、債券が長くオーバー
りも長生きする確率が上昇します。二つ目の特徴は、引
ウェイトのポジションを享受してきました。アジアと中南
き出し額を絶対金額で設定し、一定期間(通常は 10 年、
米諸国も同様で、これらの諸国ではおおむねこの 25 年の
20 年または 30 年)で投資資産を取り崩していく、とい
間に金融市場ができました。多くの国では、株式投資の歴
う点です。いずれにせよ、株式の配分は高配当、優先株、
史がそれほど長くないのです。
そして REIT を選好します。
インタビューからの引用:
「ほとんどの投資家にとって、主な投 「株式は全天候型のソリューションで
資対象資産は株式と債券でしょう。他
はないですし、これまでもそうであっ
の資産クラスは大量な売買ができませ たことはありません。ただし、他の資
ん。」
産クラスと同様、日の当たる場所(銘
柄やセクター)は常にあるのです。
」
38
「これから退職する人々がどんどん増
えて行くので、分散配当ファンドは魅
力ある商品として広く知られていくと
思います。」
• パスウェイ・ファンドは、次の階層に入ります。これ
に含まれるのは、ターゲット・デート型ファンドで、現
在は世界中で 9,500 億米ドル近く保有されています。退
職が近づくと、定期的なインカムを提供するためにファ
ンドの保有比率が見直され、株式の比率が高まってきま
す。
• 年金(アニュイティー)は、バケット・アプローチの
中で使われています。この方法では、退職ファンドは一
部を年金(アニュイティー)に配分して日々の基本的な
費用を賄い、一部をドローダウン・ポートフォリオに投
資してまとまった支払いを賄います。
地域ごとの微妙な差異
北米
• 米国は株式カルチャーを今後も保持するでしょう。エネ
ルギーの自給自足、製造業ルネサンス、諸外国よりも有
利な人口構成が、中期的には米国株式の押し上げ要因に
なるでしょう。米国市場の流動性は厚いため、安全港を
求める投資家にとって今後も大きな魅力になるはずで
す。
• けれども、私的年金プランはリスクを削減し続けると思
われます。多くの私的年金プランは、債券への資産配分
が事前に設定していた水準を超える場合には株式の配分
を段階的に増やしていく、年金負債対応投資(LDI)に依
存するでしょう。
私的年金と公的年金は、いずれも FRB による利上げを想
定して、調達比率を防衛または改善するためにこのよう
な動きをすると思われます。
図 3.9
退職者用投資商品に現れてきた階層
アニュイティー
固定アニュイティー
ディファード・アニュイティー
変動アニュイティー
• リーマン・ショック以降、ジェットコースターのような
市場を何度も経験してきたため、個人投資家は新たなリ
スクに辟易してしまいました。けれども、有利な投資機
会を追うことはあきらめておりません。個人投資家が利
回りを求めると、優良銘柄の株価を押し上げるでしょう。
大半の人々は、米国経済が改善を続け現在の株価収益率
を維持すると予想しています。
マネージド・
ドローダウン・ファンド
固定割合
固定金額
上下制限付き
パスウェイ・ファンド
ターゲット・デート型退職ファンド
ターゲット・インカム型ファンド
分散成長ファンド
分散配当ファンド
パッシブ運用ファンド
アクティブ運用ファンド
独立ファンド
マルチアセット・クラス型ファンド
トータルリターン・ファンド
出典:プリンシパル ®/CREATE リサーチ調査 2015
「今この場で将来を予想することは賢 「日本の公的年金は、株式市場の目覚 「中国政府は株式に基づく投資文化を
明ではありません。けれども、日本の
ましい復活とともにリスクカーブを上 促進するためにあらゆる障害物を取り
投資家が株式に向ける目は明るくなっ 昇しています。」
除こうとしています。」
てきています。日経平均は 2012 年以
来順調に来ていますから。」
39
欧州
• 債務増大スパイラルにはまり込んだ欧州の確定給付年
金(DB)プランが増加しています。けん引しているのは
(1)積立水準が最低積立要件を下回っている、(2)人口
高齢化による資金流出、
(3)ユーロ圏の量的緩和プログ
ラムによってソブリン債の 4 分の 1 の利回りがマイナス
になっているという三重苦です。
• その結果、株式を増やそうというオポチュニスティック
な動きが明確になってきました。ドイツにおける企業の
景況感が力強く反発するとともに欧州大陸全般で信用状
況が改善し、株式に有利な経済成長の兆候が明確になっ
てきました。その結果、2015 年 4 月に、株式は 15 年ぶ
りの高値をつけたのです。
• 米国のように、欧州でも個人投資家には、警戒心とオポ
チュニズム(ご都合主義)が混在しています。マルチア
セット・クラス型ファンドとインカム型ファンドへの関
心は人口の高齢化とともに強まり、目標利回りは 3 ∼ 7%
になると思われます。
• 英国では、2015 年 4 月に強制年金を終了する新たな規
制が施行されたため、当初は分散配当ファンドに有利な
状況となっています。時間の経過とともに、新たな税制
優遇措置を利用しようと確定給付年金(DB)プランか
ら確定拠出年金(DC)プランへの移行が増え、およそ
3,500 億米ドルが確定拠出年金(DC)プランの退職者向
け市場に入ってくるでしょう。この動きは、図 3.9 に示
されている新たな階層のすべてのセグメントに浸透して
いくと思われます。
日本
• 日本では、資産額が 1 兆 3,000 億米ドル(世界最大)に
およぶ年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の改革
が広範囲に進んでおり、日本における株式投資の歴史に
とって大きな転換点が刻まれようとしています。こうし
た動きは日本で深く進行している 2 つの変化の現れと言
えるでしょう。
(1)長年この国に染みついていたデフレ
から抑制されたインフレへの脱却と(2)抱え込んでい
た現金の生産的な投資への投入です。
• 今回の改革では、株式に向けた明確な動きが進んでいま
す。国内株式への投資比率は、これまでの 12% から倍増
の 25% へと変更になります。同様に、外国株式の比率も
これまでの 12%から倍になると見込まれています。債券
全体の比率は 71%から 50%へ、現金比率は 5%から 0%
へといずれも低下します。他の公的年金も GPIF に追随
しました。各企業の記録的な利益に支えられて国内株式
市場が 20 年来の高値に向かっている今、私的年金プラ
ンは、資産配分を見直すかも知れません。
• 日本では債券投資が長く資産配分の主流を占めてきまし
た。現在は、各種年金プランが GPIF の事例に倣い、ア
プローチも高度化してきました。今後は株式、オルタナ
ティブ、グローバル資産への分散投資も行われそうです。
しかし、進 スピードは速くありません。最大の課題は、
思い切った分散投資を実施するために必要なスキルとガ
バナンス構造の構築です。世界株式への分散投資はまだ
始まったばかりです。時間がたつとともに、他の資産ク
ラスへの投資も始まるでしょう。
• 最後に、非課税優遇枠のついた個人貯蓄口座(NISA)の
導入は、個人資金の運用市場の幕開けを告げるものとな
るでしょう。日本では個人は専ら国債に投資し、運用市
場は長くその りを食ってきました。
オーストラリア
• 情報技術(IT)バブルが 2000 年についにはじけた時、
オー
ストラリアの株式市場は欧州、日本、米国のような被害
を受けませんでした。ASX 200 指数は中国ブームを背景
に重力に逆らっていたからです。オーストラリアにおけ
る「株の時代」が続いたのは、税制優遇制度のおかげも
ありました。
• 退職年金ファンドのポートフォリオに占める株式の割合
は、50%近辺で推移することが予想されています。こ
れは企業年金にしては最も高く、自己運用年金としては
最も低い保有比率です。現在、退職年金ファンドの管理
資産額は総額でおよそ 1 兆 4,000 億米ドルです。これは
2033 年までに 4 倍になる見込みで、株式の圧倒的な割合
が落ちる気配は全くありません。
インタビューからの引用:
「中国 A 株を MSCI 新興国株価指数に 「インドの構造改革が順調に進めば、 「アジア(諸国)の株式への関心が幕
組み入れると中国の比重は 2 倍以上に 株式市場は今後 5 年間で 2 倍になるか
開けしようとしています。」
なるでしょう。」
もしれません。」
40
中国
その他の新興国
• 中国の政策当局は、株式市場を押し上げるため、国民に
株式投資を促す政策を協調して実施してきました。取引
手数料を値下げし、新規口座開設時にはさらに安くし、
最大手の銀行による投資家向け説明会を主催してきたの
です。新たなルールが施行され、投資家は株式、投資信
託、その他の有価証券を対象する統合口座を持つことも
認められるようになりました。
• インドの NIFTY 指数は 2014 年に 30%上昇し、インドに
おける新たな上昇相場の誕生を告げるものでした。輸入
原油価格の大幅下落による 500 億米ドルの利益にも支
えられました。営業レバレッジは将来の利益の伸びを押
し上げます。また成長率が加速するにしたがって余剰生
産力が低下していきます。
・ その主な目的は、不動産や最近影の銀行システムで急成
長している規制の緩い理財商品への投機的な投資を抑え
込むことにあります。政府はまた、資本市場改革の重要
な一貫として、外国の資金を引きつけられるような活気
のある市場を持ちたいと考えています。
・ 中国本土株式(A 株式)は、今後 2 年間で世界中の株価
指数に組み入れられるかもしれません。A 株式は FTSE
新興国指数に加えられた場合、中国株式はその 40% を
占めます。いずれは世界のポートフォリオもこの割合に
リバランスされるようになると思われます。昨年 11 月
に上海・香港市場の株式相互取引が始まり、さらに今年
後半には深圳との「直接取引」も開通する予定で、A 株
の格上げを阻むあらゆる障害が今や取り払われたと言え
そうです。これらの取り組みが、
株式の巨大なクロスボー
ダー取引を大きく後押ししています。上海総合指数の株
価収益率(PER)の中央値は最近 44 倍まで上昇しまし
た。同じ時期の S&P500 種指数の PER の中央値はおよそ
20 倍でした。
・ 韓国国民年金公団は国内株式への配分比率を 950 億米
ドル増加する計画です。債券への投資金額は 15%、不
動産は 18%減少することになります。
• インドネシアの年金基金と保険資産も、現地の資本市場
を育成する計画の一環として、リスク資産への投資が認
められています。
・ マレーシアは、東南アジアで初めて完全にシャリア(イ
スラム金融の教義に)適格の ETF を導入しました。これ
はインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポー
ルの市場パフォーマンスに追随します。この ETF で、マ
レーシアは世界中のシャリア適格市場のトップ・プロバ
イダーとしての地位を確立しました。現在の運用資産は
1,400 億米ドルに達しています。
• あまりにも長い間、新興国の投資家は(政府系ファンド
を除き)強い国内バイアスを維持してきました。グロー
バル資産への関心はまだ十分な資産配分となって現れて
おりません。ガバナンス構造、スキル・セット、および
国の規制は抑制的な要素として働いています。資産規模
が増えるとともに、こうした制約要因は弱まっていくと
思われます。当初は、グローバル株式と不動産が制約の
緩和による恩恵を主に受けると思われます。
中国とシンガポールの政府系ファンドはインフラを対象
とする株式資産として拡大を続けるでしょう。主な標的
資産は欧州の空港(ハブ空港と地方空港)と世界中の主
要ビジネスセンターの不動産です。
「東南アジアは他の新興国の私的年金
にとって優れたお手本になります。」
「インドでは、個人投資家は退職所得 「分散配当ファンドへの需要は 2020 年
用にターゲット・リスク型ファンドを
まで加速を続けるでしょう。」
使い始めています。
」
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CREATE リサーチ(CREATE-Research)による
その他の刊行物
以下のレポートおよびグローバル投資における新たなトレンドをテーマとした多数の記事やその他の論文は、
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• Why the Internet Giants will Not Conquer Asset
Management (2015年)
• Globalisation of Funds: Challenges and Opportunities
(2007年)
• Alpha behind Alpha: Rebooting the Pension Business
Models (2014年)
• Convergence and Divergence Between Alternatives and
Long Only Funds (2007年)
• Not All Emerging Markets Are Created Equal (2014年)
• Towards Enhanced Business Governance (2006年)
• Investing in a High Frequency Trading Environment
(2014年)
• Tomorrow s Products for Tomorrow s Clients (2006年)
• Upping the Innovation Game In A Winner
Takes All World (2013年)
• A 360 Degree Approach To Preparing For Retirement
(2013年)
• Comply and Prosper: A Risk-based Approach to
Regulation (2006年)
• Hedge Funds: A Catalyst Reshaping Global Investment
(2005年)
• Raising the Performance Bar (2004年)
• Investing in a Debt-Fuelled World (2013年)
• Revolutionary Shifts, Evolutionary Responses (2003年)
• Fixing Broken Cultures in the Finance Sector (2013年)
• Market Volatility: Friend or Foe? (2012年)
• Innovations in the Age of Volatility (2012年)
• The Death of Common Sense: How Elegant Theories
Contributed to the 2008 Market Collapse? (2012年)
• Investment Innovations: Raising the Bar (2011年)
• Harnessing Creativity to Improve the Bottom Line
(2001年)
• Tomorrow s Organisation: New Mindsets, New Skills
(2001年)
• Fund Management: New Skills For A New Age (2000年)
• Good Practices in Knowledge Creation and Exchange
(1999年)
• Exploiting Uncertainty in Investment Markets (2010年)
• Competing Through Skills (1999年)
• Future of Investments: the Next Move? (2009年)
• Leading People (1996年)
• DB & DC Plans: Strengthening Their Delivery (2008年)
• Global Fund Distribution: Bridging New Frontiers (2008年)
問い合わせ先:
アミン・ラジャン教授
[email protected]
電話:+44 (0) 1892 52 67 57
携帯電話:+44 (0) 7703 44 47 70
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現実主義の支配
∼株式上昇と
ご都合主義的な解釈の拡大∼
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