特許申請の補正の制限のうち「新規事項追加の制限

藤本昇特許事務所 北田 明◇弁理士
特許申請の補正の制限のうち「新規事項追加の制限」について教えてください。
1.条文
(神奈川県 K.W)
的に確保しようとしたもの」です。
「新規事項追加の制限」とは、
特 許 法17条 の 2 第 3 項 に お い て、
が明記されている場合や、当初明細書
等に「ばね」や「ゴム」について云々
3.新規事項の基本的な考え方
記載されており、これらの記載を総合
「……明細書、特許請求の範囲又は図
基本的には「
『当初明細書等に記載
面について補正をするときは、……願
した事項』の範囲を超える内容を含む
明な事項として導き出せる場合には、
書に最初に添付した明細書、特許請求
補正」は、新規事項を含む補正である
当該補正は、新たな技術的事項を導入
の範囲又は図面……に記載した事項の
として許されません。
するものではないとして、
許されます。
範囲内においてしなければならない」
と規定されています。
補正が当初明細書等に記載した事項
の範囲を超えるか否かの判断は、当該
補正が、当業者によって総合的に導か
2.制度趣旨
本制度の趣旨は、特許庁の「特許・
実用新案審査基準」によれば、おおむ
ね以下のようなものです。
「補正について
『願書に最初に添付し
た明細書、特許請求の範囲又は図面に
記載した事項
(以下、
「当初明細書等に
記載した事項」という。
)
の範囲内におい
しかしながら、当初明細書等に「ば
ね」についてしか記載されておらず、
「弾性体」という技術的事項が自明な
れる技術的事項との関係において、新
事項ではない場合であって、
「弾性体」
たな技術的事項を導入するものである
という補正によって新たに含まれるこ
かどうかを基準としています。
とになる「ゴム」が、
「ばね」にはな
なお、
詳細は以下をご参照ください。
い特有の技術的意義を有するような場
第Ⅲ部 明細書、特許請求の範囲又
合には、当該補正は、新たな技術的事
は図面の補正 第Ⅰ節 新規事項
項を導入するものであるとして、許さ
(https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/
れません。
kijun2/pdf/tjkijun_iii.pdf)
5.留意事項
て』しなければならないと定めることに
より、出願当初から発明の開示が十分
して「弾性体」という技術的事項が自
4.具体的な判断手法
新規事項の補正についてのリスクを
に行われるようにして、迅速な権利付
新たな技術的事項を導入しないもの
軽減するには、出願当初から可能な限
与を担保し、出願当初から発明の開示
(許される補正)には、
「
『当初明細書
りの実施例や変形例などを盛り込んで
が十分にされている出願とそうでない
等に明示的に記載された事項』だけで
出願との間の取扱いの公平性を確保す
はなく、
『当初明細書等の記載から自
るとともに、出願時に開示された発明の
明な事項』
」も含まれます。
範囲を前提として行動した第三者が不
測の不利益を被ることのないようにし、
先願主義の原則
(特許法第39条)
を実質
例えば、
「弾性体」という文言を追
加する補正の場合を例に説明します。
出願することをお勧めします。
また、新規事項追加補正は無効理由
ともなりますので(同法123条1項第
1号)
、権利化段階で補正する際には
十分に注意する必要があります。
当初明細書等に「弾性体」との文言
2015 No.7 The lnvention 71