薬剤師 腎膿瘍の既往歴があり、一方が萎縮していて殆ど片腎の患者さま

薬剤師
腎膿瘍の既往歴があり、一方が萎縮していて殆ど片腎の患者さまがおられるのですが、この場合
腎臓が2個だった時の何%くらいの働きを正常な腎臓が担っているものなのでしょうか?一般
的に後天的に片腎になった場合の%が知りたいのです。というのはこの患者さんにワルファリン
を投与しなくちゃいけないのか、イグザレルトを投与できるのかを知りたいものですから…。
平田
一般的に僕たちは慢性腎不全モデルラットとして 5/6 腎摘モデルを作りますが、5/6 腎摘をして
安定した状態でも腎機能は半分残っています。ということは 1/6 にネフロンの数が減っても1つ
1つのネフロンが 3 倍の仕事をして腎機能の低下を防ごうとしているのです。でも 3 倍の仕事が
ネフロンにとって過剰労働になって、まともに働くネフロン数が徐々に少なくなるから、かなり
時間がたつと尿毒症で死んでしまうラットも出てきます。ヒトでも透析をしなくちゃいけなくな
った子供さんのためにお父さんやお母さんが1つの腎臓を自分の子供にあげることがあります
が、片腎になった親が透析をしなくてはならなくなったという話はほとんど聞きません。ですか
ら 2 倍くらいの仕事はあまり負担にはなっていないと考えてよいでしょう。
ただしこの患者さんの片腎になっても例えばこの患者さんの血清クレアチニン値がどれくら
いであるのか、また年齢が 40 歳か 80 歳かで話は変わりますし、体重も知りたいですね。でない
とはっきりした答えが出せません。
薬剤師
患者さんは 80 歳代の男性で4年前に片腎になられたそうで、血清クレアチニン値は 0.7mg/dL だ
そうです。
平田
でしたら腎機能に問題ないですね。片腎でほぼ 100%の腎機能を保てています。ただし高齢者で
すから腎機能が正常とは言いにくく eGFR は 50 くらいじゃないでしょうか?
薬剤師
Q.eGFR は 52 ですね。
平田
それは 52mL/min/1.73m2 ではないでしょうか?体表面積補正 eGFR は薬物投与設計には向きません。
患者さんの身長・体重は分かりますか?
薬剤師
体重は 50kg 以上あります。でも身長は・・・・。
平田
カルテには身長が記載されていないことが多いですね。この場合、服薬指導をした時にあなたよ
りもどれくらい身長が高いか低いかで判断してもかまいません。日本腎臓病薬物療法学会のホー
ムページを利用して体表面積補正のない eGFR を算出してください。この場合、単位は mL/min に
なりますね。腎機能は中等度低下と思われますので、イグザレルトを処方することはできます。
常用量は 15mg を 1 日 1 回ですが、おそらく eGFR は 50mL/min 未満になりますので、10mg を 1 回
でよいのではないでしょうか?
薬剤師
でも片腎ですので、もっと減量を考慮しなくていいのですか?
平田
片腎であっても eGFR が 50 足らず有るのですから、それに合った投与量にすべきです。さらに減
量すると血栓症を起こすことが危惧されます。抗凝固薬は出血の副作用を防げばいいのではなく
て、血栓症を作らないように効かせることはもっと重要なことかもしれません。
薬剤師
後天的に片腎になった場合はクレアチニン値は腎臓が2個ある時より上がりやすいものなので
しょうか?
平田
この患者さんも 80 歳代とはいえ、現状では年齢相応の腎機能を保っています。でも同じ 80 歳以
上でももともと腎機能が低かった人であれば、片腎になったことで腎機能が徐々に低下してしま
うこともあり得ますね。ですから患者さんによってクレアチニンが上がる人もあれば上がらない
人もあると思います。
薬剤師
腎排泄の薬剤の用量などはクレアチニン値が正常範囲であれば 2 個ある場合と同じと考えてよい
のでしょうか?
平田
実際に片腎なのですから 2 個あるとは考えにくいのですが、現段階ではほぼ 2 個分の腎機能を示
しています。ただし加齢に伴う腎機能低下はありますので、腎排泄型薬物を投与する場合、それ
なりの減量は必要です。尿中排泄率 42%のイグザレルトの場合、やや減量して 10mg/日を投与す
るのがよいと思います。消化管出血のモニタリングに関してはしっかり服薬指導してくださいね。
薬剤師
わかりました。ありがとうございます。