再度確認!これからの水管理といもち病対策

再度確認!これからの水管理といもち病対策
○イネの生育過程
~イネの生育の模式図~
・移植後は出穂するまでの間、イネは次々と新しい葉を抽出・展開し、それと
ともに分げつを増やしていく。
・分げつを順調に増やすことが穂数を確保することにつながる。
・移植後の分げつを十分に確保するためには、生育状況に応じた水管理をす
ることが基本となる。
<分げつの出方>
・分げつは主茎の下位節から1本づつ出る。
・主茎から出る分げつを1次分げつといい、1次分げつから出る分げつを2
次分げつ、2次分げつから出る分げつを3次分げつという。
・葉が伸長するときにその葉より3枚下の葉の節から分げつが出てくる。
<分げつの増え方>
・分げつは、主茎の葉数の増加とともに増えて
いく。
・分げつ数が最も多くなる時期を「最高分げつ
期」という。
・最高分げつ期以降に株内や株間の養分や光の
受光競争が強くなるため、弱い分げつを中心
に穂をつけることなく枯死して、茎数が減少
する。
「無効分げつ」:最高分げつ期以降に穂をつけずに枯死する分げつのこと
「有効分げつ」:出穂期に穂をつける分げつのこと
・幼穂形成期に入り穂の節間が伸び始めると分げつの出現はなくなる。
<無効分げつの影響>
・無効分げつが多くなることで、株が過繁茂の状態になりやすく、光が当たら
ずに枯死する葉が増加したり、呼吸増加により光合成でつくられた同化産物
の消費が増える。そのことにより登熟不良による収量の停滞や低下につなが
る可能性がある。
○分げつ確保のための水管理
<イネの栽培期間中の水管理の模式図>
深
水
浅水
中干
し
7 日程
間断かんがい
間断かんがい
深
水
落
水
度
出穂 出穂
出穂後
前 40 前 30
出穂
30 日
日
日
※間断かんがい:常時水を湛えず、入れたり切ったりを繰り返すかんがい方法。
田植
・イネの生育状況に応じた水管理をすることで、分げつを確保し、健全な稲体
づくりにつながる。
・生育ステージ別の水管理のポイントは次表のとおり。
生育ステージ別の水管理
生育ステージ
田植え期から活着期
(田植え後約1週間)
水管理のポイント
・水分の蒸散による植え痛みを防ぎ、活着を促進する
ため、やや深め(5㎝前後)の水管理とする。
活着期から分げつ
・日中は浅水、夜間は深水とし、3~6㎝程度の水深
盛期(田植え後1週~1
を基本に水管理を行う。平坦地で水温が35℃を超
ヶ月頃)
える場合には掛け流しかん水を行う。
有効分げつ終止期
・中干しを7日程度行い、田面に2㎜ほどの軽い亀裂
(出穂前45~30日
が入るくらいで、田面に足跡がつく程度に堅くなる
頃)
まで行う。
・黒ボク土壌等の水はけの悪いほ場はやや強めに、砂
質土壌等で水はけの良いほ場では控えめに行う。
・中干し後は間断かんがいを基本とし、水分の補給と
酸素の供給による根の活力支持を図る。
幼穂形成期から出穂期
(出穂前25日頃~)
・間断かんがいを基本として水管理を行う。
・標高の高い地域では、17℃以下の低温が予想され
る場合には深水管理とし、幼穂を低温から保護す
る。
・出穂10~14日前頃の花粉の減数分裂期は特に低
温に弱い時期なので、注意して深水管理をする。
出穂期から黄熟期
・出穂、開花期間中はやや深めの水管理とする。出穂
(出穂後30日頃まで)
終了後は間断かんがいを基本とする。
・平坦地域で登熟期間中に極端な高温が続く場合は掛
け流しかん水を行い、稲体の温度を下げるようにす
る。
・落水時期は、出穂後30日前後とするが、落水後も
高温乾燥が続く場合は収穫までに走水程度のかん
水を行う。
※出穂前何日という日の判断の仕方
主な品種ごとの出穂日(ほ場全体で50%の穂から出穂している日)概ね次
のとおりであるが、移植日や栽培地域により違いがある。
コシヒカリ:8月10日~15日頃、あさひの夢:8月20日~25日頃
ヒノヒカリ:8月22~25日頃
そのため、ご自分の例年の栽培状況から起点となる出穂日を考慮願います。
なお、出穂日が不明である場合には、品種名、移植日、移植時の葉数のデータ
を入力することにより出穂期の予測ができる次ページのようなホームページ
(http://pc25.cgk.affrc.go.jp/rgp/)があるので、そちらで予測していただくこ
とも可能です。このページを見られない方は普及センターにご相談願います。
~水管理不足によるイネの生育への影響~
活着期
・植え傷みの発生や、活着の遅れにつなが
(田植後5日~10日間)
る。
最
も
水
を
必
要
と
す
る
時
期
幼穂形成期
・枝梗や頴花のもとの形成が始まる時期に
(出穂前25日~15日、
あたり、この時期に干ばつを受けると一
幼穂長0.1~1.5㎝)
穂籾数の減少や頴花の奇形につながる。
穂ばらみ期
・幼穂が急速に伸長する時期で干害を受け
(出穂前15日~出穂始
やすい。
め)
・特に穂ばらみ期の初期は乾燥により花粉
形成が不能になり、出穂しても一部は受
粉できずに減収につながる。
出穂開花期
(出穂始め~出穂揃い)
・この時期に干ばつを受けると穂の抽出が
妨げられて、出すくみになったり、開花
や受精が妨げられて不稔になる。
水
分
を
必
要
と
す
る
時
期
要
と
し
な
い
時
期
水
分
を
あ
ま
り
必
有効分げつ期
・この時期に干ばつを受けると分げつの増
(活着後から田植後25
加が阻まれ、穂数が減少する。
日~33日頃まで)
登熟前期
・米粒の長さや厚さが決まり、乾物重が最
(出穂開花期後20日頃
も増加する時期
まで)
・この時期に干ばつを受けると米粒の充実
が劣り、粒重が軽くなってくず米が多く
なる。
登熟後期(出穂開花後20 ・出穂後30~35日頃までは土壌が乾い
日~落水期(成熟期前5日
ても、見た目が黒っぽいような状況(湿
~7日))
り気がある状態)を保つ。
無効分げつ期(田植後25 ・有効分げつ期を過ぎ、最高分げつ期から
日~33日から幼穂形成
幼穂形成期の前までの時期は、最も干ば
期)
つに強い時期であり、多少水分がなくて
も収量への影響は少ない。
・生育ステージごとに水分の必要量が異なり、必要な水分が確保されない場合
は、上記の表のように生育へ影響がある。
・生育ステージに応じた水管理をすることが良い生育を確保することにつなが
り、十分な収量を得ることに結びつく。
○中干しの意味と方法
<常時湛水によるイネの生育への影響>
・水稲は、有効分げつが終わる出穂前45日頃から根がたくさん出て、稲の
土台づくりの時期になる。
・この時期に湛水状態を継続すると、土壌が酸素欠乏になり、土壌還元によっ
て発生する硫化水素や有機酸などの有害物質が発生して根腐れが生じたり、
根張りが悪くなるため、その後の生育不良や倒伏に対する耐性が弱くなる。
<中干しの効果>
・中干しをすることにより、土壌の還元状態を解消して有害物質の発生を抑
制する他に、次のような効果がある。
土壌中のアンモニア態窒素が減少し、窒素を過剰吸収することを抑制
↓
①無効分げつの発生や過繁茂の抑制
②下位節間の伸長抑制による受光態勢向上、倒伏防止
田面が露出し土壌が乾燥することにより土壌が固められる
↓
①収穫期の機械導入が容易になる。
②倒伏防止につながる。
<中干しの時期>
・出穂前45~30日頃の有効分げつ終止期であり、出穂前日数から判断する
のが基本となる(出穂前日数については、前述の生育ステージ別の水管理
の表の下の記述を参考に願います)。
・イネの生育状況から中干しの時期を判断するために参考とできることは次
のとおりである。
~目標茎数を参考に中干しをする~
・各品種の品種特性から有効分げつ終止期に確保する目標茎数が確保され
ているか観察する。
品種名
㎡当たりの穂数
(品種特性表より)
1株当たりの目標茎数
コシヒカリ
393
22本
あさひの夢
376
21本
ヒノヒカリ
353
20本
※目標茎数は畦間30㎝、株間18㎝で算出したもの
○注意○
・茎数は、移植時期や施肥条件、生育の進み具合により変わってくるの
で移植時期ごとに次の表を目安に、目標の茎数が確保されていなくて
も中干しの実施を優先する。
・なお、表にある時期は目安なので、併せて前述の出穂期の予測ができ
るホームページによる出穂日の予測も併せて行い、判断する時期が出
穂何日前にあたるかの確認をお願いします。不明な場合は、峡南農務
事務所にご連絡願います(電話055-240-4116)
移植時期
5月下旬移植
6月上旬移植
6月中旬移植
品種名
中干し時期
コシヒカリ
7月5日頃
あさひの夢
7月15日頃
ヒノヒカリ
7月20日頃
コシヒカリ
7月10日頃
あさひの夢
7月20日頃
ヒノヒカリ
7月25日頃
コシヒカリ
7月15日頃
あさひの夢
7月25日頃
ヒノヒカリ
7月30日頃
<中干し時期の遅れによる影響の回避>
・中干し時期が幼穂形成期以降となると、乾燥することにより籾数の減少
や頴花の奇形につながるなどの影響があることから、中干し時期が遅れ
てしまった場合は、茎を剥いて幼穂の発現の有無を確認し、幼穂がみら
れた場合は中干しの実施は避ける。
※中干しのことを「土用干し」と言われることがあるが、暦でいう土用の
頃に夏の土用の期間に中干しをすると幼穂形成期にかかる恐れがある
ため、幼穂の形成の有無を確認して中干しの実施の可否を判断する。
「幼穂の確認の仕方」
<中干しの方法>
・中干しを行う期間は7日程度とする。
・中干しの程度は田面に2㎜幅ほどの軽い亀裂が入るくらいで、田面に足跡
が付く程度に硬くなるまで行う。
・水はけの悪いほ場はやや強めに、水はけのよいほ場では控えめに行う。そ
の他、中干しの強さの程度の判断は次の条件による分類を参考にする。
※草型とは、品種ごとの穂数と穂重の性質を表すもの
穂数型:穂数が多く、1穂当たりの重さが軽い品種(例:コシヒカリ)
穂重型:穂数は少なく、1穂当たりの重さが重い品種(例:あさひの夢)
中間型:穂数型と穂重型の中間の品種(例:ヒノヒカリ)
○いもち病の防除
<生態と防除のねらい>
・いもち病菌の生育及び分生子形成適温は 28℃前後、発病の最適温度は 25℃
で乾燥に強い。
・苗いもちは主に種子伝染によると考えられ、箱育苗では播種後 10 日頃より
萎凋、褐変枯死する。罹病籾や発病苗上に形成された分生子が、箱内感染
源となって葉いもちの発病の一因となる。
・葉いもちは主に育苗後期に発生し、はじめ灰色の小斑点を生ずるが、密播
のため急速に病勢が進展し、ズリコミ症状になることがある。
・重症籾は塩水選で除去できるが、正常に稔実した籾でも保菌している場合
があり、特に穂いもち多発ほ場の籾では保菌率が高い。さらに箱育苗では
育苗期間が短いため、育苗期には病徴が認められないにもかかわらず、移
植後に発病する場合があることから、薬剤による種子消毒の徹底が重要で
ある。
<伝染経路>
・いもち病菌は菌糸の状態でわらやもみの罹病組織中で越冬している。罹病
組織が水分を吸収すると表面に胞子ができ、これが第一次伝染源となる。
~苗いもち~
・罹病種子が播種されると、もみの表面に胞子ができ、発芽後最初に出てく
る鞘葉や不完全葉に発病し、そこに形成された胞子からほかの苗に感染し
て発病する。
~葉いもち~
・感染及び発病には16℃以上の温度が必要であり、温度が確保されていれ
ば、苗いもちの持ち込みによる伝染はもちろん、罹病わらなどによる外部
からの胞子によって発病する。
・発病した病斑に胞子が形成され、その胞子が広がることにより次の感染に
つながる。
・分げつ期には、生育が進むにつれ新しく展開する葉に広がっていく。
~穂いもち~
・穂の半分くらいが出穂した頃になると、もみ、枝梗及び穂首への感染が始
まり、出穂が終わるころにはそれらへの感染が最も多くなる。
・この時期に雨が降ると穂首へ感染が広がる。
<本田期の防除の考え方>
・主な伝染源は、罹病苗の持ち込み、放置された補植用苗及び隣接する発生
圃場からの胞子の飛び込みである。
・発生誘因としては気象要因が大きく、夏季の低温、多雨、日照不足は多発
生の原因となる。このほか窒素過多も多発生の原因となる。
・いもち病菌は菌糸の発育適温 25℃と低いこと、多湿の場合は胞子形成が盛
んになること、日照不足や窒素過多では稲体が罹病しやすくなることなどが
その理由である。
・発生源をなくすため本田に罹病苗を持ち込まず、補植用苗の除去は早めに
行うようにする。
・葉いもちに対する薬剤防除は発生初期ほど効果が高い。穂及び節いもちは
出穂前後に、あくまでも予防的に防除しないと効果がない。また、降雨が
続き、粉剤や液剤の散布が困難な場合は、粒剤で早めの対応を行う。
~これからの管理でできるいもち病発生を抑制する環境づくり~
1.補植用苗は早めに除去する。
2.施肥基準を守り、追肥での窒素肥料の過用は行わない。
3.冷水灌漑を避ける。
4.罹病わらは伝染源となるが、収穫後、早期にわらを埋没すれば、菌は4
カ月程度で死滅する。または、焼却するのもよい。
~薬剤による防除方法~
・地域でのいもち病の発生時期を参考に、発生する前に予防散布をする。例
年地域で発生したり、ご自分の田んぼで発生しやすい場合は特に予防散布
を徹底する。
・水管理をしながら、イネをよく観察し葉に病斑が確認されたら、早急に茎
葉散布剤による防除を行い、上位葉への進展を防ぐようにする。
防除薬剤例
「予防散布」
・6月下旬から7月上旬にかけて予防ために防除する。
・山梨県病害虫防除所では、水稲いもち病発生予測システム(BLAST
AM)によるいもち病の発生予測データをホームページ上で公開しており、
そのデータにおいていもち病の「好適感染日」とされた日から7日~10
日後にいもち病の発生が予測される。
・いもち病の予防防除は初発が予想される7~10日前をされていること
から、好適感染日を予防散布の実施時期の参考とする。
病害虫防除所ホームページアドレスは次のとおり。
(http://www.pref.yamanashi.jp/byogaichu/index.html)
~予防散布剤例~
コラトップ粒剤5(予防剤)
オリゼメート粒剤(予防剤)
オリゼメートパック(予防剤)
10a 当たり3㎏散布
10a 当たり3㎏散布
10a 当たり20パック散布
※処理後は水深を3㎝以上確保し、薬剤の成分がしっかりイネに吸収さ
れるよう、少なくとも4~5日は湛水状態を保ち、散布後7日間は落
水、掛け流しをしないようにする。
※パック剤は、藻や浮き草が発生している水田では薬剤が広がりにくく、
効果が劣る可能性があるので使用しない。
「治療・予防散布」
ブラシン粉剤DL(治療・予防剤)
10a 当たり3㎏散布
~水稲いもち病発生予測システム(BLASTAM)について~
・このシステムは、いもち病の発生時期を予測するシステム。
・いもち病の感染には、適当な気温と、葉が一定時間以上濡れていること
が必要。
・このシステムでは、アメダスのデータ(気温、降水量、日照時間、風速)
を用い、いもち病の感染に好適な以下の条件を満たすかどうかを判定す
る。
いもち病の感染好適日(表中の●)
次の条件を全て満たす。
・葉面湿潤時間が 8 時間以上
・葉面湿潤時間中の平均気温が 15~25℃
・(ただし、21℃以下の場合は湿潤時間が 9~15 時間必要)
・前 5 日間の平均気温が 20~25℃
準感染好適日(表中の○)
好適条件に続く感染に適した気象条件が整った日で、条件の違いにより
次の 1~4 に分類される。
1 湿潤時間は 10 時間以上だが、前 5 日間の平均気温が 20℃未満
2
湿潤時間は 10 時間以上だが、前 5 日間の平均気温が 25℃以上
3 湿潤時間は 10 時間以上だが、湿潤時間中の平均気温が 15~25℃の
範囲外
4
湿潤時間が湿潤時間中の平均気温ごとに必要な時間数よりも短い
感染好適日が出現すると次のことが予想ざれる。
感染好適日→(7~10 日後)→発生開始期→(7~10 日後)→急増期
(期間中に強い低温または高温があった場合を除きます)