光学顕微鏡のための画像処理の研究 (特に位相差顕微鏡の画質改善法

像 処理 の研
改善 法 につ
究 い
画 質
光学顕微鏡 のための
(特に位相差顕微鏡 の画
て)
根本 幾
東京電機大学 理 工学部 教 授
1.は じめ に
本研究 の 目的 は 2つ あ る。1つ は画像処理 によ って顕微鏡画像 の 改善 を行 うた め、顕微鏡、特
に位相差顕微鏡 の 3次 元伝達関数を求 め ることであ る。他 はこの位相差顕微鏡の伝達関数の考察
よ り、位相差顕微鏡 その もの を改善す る方法 の提案であ り、 これ は コ ンデ ンサにその屈折率あ る
いは透過率 を電気的に コ ン トロー ルで きる もの を用 い、 さらに簡単 なハ ー ドウェアを顕微鏡 自体
に組み込 む ことを 要求す る もので ある。 この方法 の実現 には、 コ ンデ ンサに用 いる物質 の 開発が
必要で あ るが、 シ ミュ レー シ ョン結果 はその改 善 の大 きさを示唆 して い る。 さ らに、よ り容易に
位相差像を改善す る方法 と して、位相差用 レンズ と して従 来用 い られて いる ものよ り明 るい (透
過率 100%に 近 い もの )を 、顕微鏡 TVカ
メラと併用す る提案 もす る。理論計算 と シ ミュレー シ
ョンの結果、 その効 果 が大 きい ことが 分か った。
2.顕 微鏡 の 3次 元伝達 関数
顕微鏡 の 3次 元伝達関数が求 め られたのは1985年に もな って か らであ る、 とい うことは少 なか
1〕
らず興味深 い事実 である (Streibl〔
)。 この 関数 の導 出のためStreiblはHelmho12の波動方程
式か ら出発 して、線形近似を用 いて 以下 の一般的 な伝達関数 に到達 した。光軸方向を z軸 と した
空 間座標 を (x, z)=(xl x2 Z)と
し、対応す る空 間周波数を (μ, ζ)=(μ
とす る。 また観察対称 の散乱 ポテ ンシ ャルを V(x, z)と
Lμ 2 ζ)
しその実数部 のFourier変換を P,
-5F
S(い1,い2)
コ ンデ ンサ
光源
瞳
y(X,z)
」
餅)照
メ
寸夕
見
図 1 光 学顕微鏡 の正 規化 した座標系
- 2 2 -
r(x, 2)
像
虚 数部 の それ を A と す る。顕 微鏡 の 光源 は イ ン ヨ ヒー レン トで強度 は S ( μ ) で 与 え られ る とす
る ( 図 1 参 照 ) を 。 この とき顕 微鏡 に よ る観 察像 I ( μ , ζ) は 、
δ ( μ , ζ) 十 P ( μ , ζ) T P ( μ , ζ) 十 J A ( μ , ζνL ( μ , ζ)
r ( μ , ζ) = β
で 与 え られ る。 ここで 1 2 = _ 1 で
ぁり
”
μ
十
/∼
δ︲ 1
︱
一2
μ
初
ヽ
1
一
だ
/
/1︲︱\
″
*
μ
一2
一
ノ
︱︱︱︱
ヨ
■
、︲︲′
ヽ
/
1
μ
十一
︱︲︱
一2
μ
+
/!︱︱\
ざ
ヽ
ー
μ
/111\
一2
μ
+
FI
I L
︱︱
︱I
ヽ
ノ
ー
β
μ
/1︲︱\
.
ヽ︱︲ドーノ
ろ み
/111\
比
几一
物
2Ⅲ
β=比2S(μ
(μ
β
】
】
であ る。 ここで p ( μ ) は 代物 レンズの 瞳関数で λは照 明光 の平均波長であ る。
S t r e i b l はこれをH e l m h o l z の
波動方程式か ら出発 して線形近似を用 い、極 めて 原理的 に導 出 し
た。筆者 は顕微鏡 の 2 次 元伝達関数 は昔 か ら知 られているのであ るか ら〔
2〕
、 これか ら 3 次 元伝
達関数を導 出で きる もの と考え、S t r e i b l と同 じ結果を導 くことがで きた 〔
3〕
。 これを用 いて 位相
差顕微鏡 の 3 次 元伝達関数を求 め るの は、面倒 だが初等的 な計算 でで きる。 い ま 3 次 元物体 の 複
と す る。 これ はまた
透過関数を メ ( X , Z ) = γは, Z ) C x p [ ψ
ど( X , Z ) ]
メ(X,Z)=1+ム
(X,Z)十
み (X,z),(1+ム
(X,Z)=Rctメ
( x , Z ) 〕, み
(X,Z)=Im[メ
( X , Z ) 〕)
0 と 仮定すると
と書ける。対象が光学的に弱い、すなわち γ =1,φ
(X,Z)室
90
<<1,あ(x,Z)室
(X,Z】
(X,Z)
φ
│ム
とな る。 ム と 、
換をそれ ぞれ ら ( μ, ζ
ん) の F o u r i e r 変
) とら ( μ, ζ) とす ると、 2 次 元伝達関数 の
拡張 によ り、 3 次 元結像 に関す る式 は
r(μ
,ζ
,ζ
)
,ζ
,ζ
わ
,ζ
)+島(μ
,ζ
)TPr(μ
)=βδ(μ
)十〃
ら
『(μ
み(μ
(4)
で与 え られ る。 ここで
,み
み
恥=学恥
F=等
であ る。位相差顕微鏡 において は、 コ ンデ ンサは円輪状 のス リッ トで、対物 レンズの 瞳 はス リッ
トに対応す る部分が位相板 とな ってい る。図 2参 照。従 って 照明光 は
- 23
-
れp
コ ン デ ンサ
対
対 物 レ ンズ
図 2 位 相差顕微鏡の コンデンサ部分と対物 レンズの瞳
η
/九
)
ρ
S(μ
)=│;
・
:│モ
を
t岳
」
ど
iρ
々
で表わ され、対物 レンズの 瞳関数 は
r
l
く
l
2 1
C
ノ(μ)=
≦‖
≦れ
(″
)
μ‖
ρ/ 几
ρ/ え
t
(Otherwisc)
で表わ され る。 ここで p は 対物 レンズの 開 口数、 θは位相板 の位相遅延、 c は 位相板 の 透過率で
あ る。 これ よ り位相差顕微鏡 における結像式 の 中の T . │ と T I 」が以 下 の よ うに求 め られた。
=摘
ろ
F三
q十
粉み
′
q―
り
摘
こ こで
鴫 = 拓+ T 2 +名, 乳 = 拓 + T 4 + T 5
拓=c2[(β
l_ 「) 1 / 2 _ (lα
_F)1/2]
_r`
l(β
)1/2J
孔 =びgrθ
た_ 「) 1 / 2 _ (たα
であ り、 さらに
2 4 -
(た=2,3,4,5)
X
4
α
rほドヽ
却謝 判
げ一
ツ
にド 埜″ツ
L一
九
二 九 ″
十 + 一
レ伴 降
F F F
︱
︱
︱
す
す
X X X
a a a
好
好材一
″材一
″一
丁
一
一
一
一
一
一
m m m
α α α
2+手
/222ρ
}
一
=maXI「 ,牢
キ│
/二 九
F
n
・
l + 一
,
r
/生 九 ー
ζ 十
九
字イ t ル
脚 針一
用
用竹一
判刊 か か
I
l
n
n
m i
m
字 i
作 昨 体
空
二
_;:│
2生
であ る。筆 者 の知 る限 り、位相差顕微鏡 の 3 次 元伝達関数 の導 出は これが 初 めての もので あ る。
興味深 いの は、上の 3 次 元伝達関数 の導 出 は面倒 だが初等的 な計算 で足 りるのに、 2 次 元伝達関
数 の導 出は非常 に複雑 だ とい う ことで ある。図 3 に c 笙 0 . 4 , θ= π / 2 で
あ る位相差顕微鏡 の
│ ろ│ と 1 作│ の鳥取図を示す。後者す なわ ち位相成分 に対す る伝達関数 の絶対値が大 きい ことがわ
か る。
虚教部分( b ) の
絶対値 の鳥取図.
図 3 位 相 弟顕微鏡 の 3 次 元伝達関数 の実数部分( a ) と
対称性 によ り、 x ― y 軸 に対応す る空 間周波数 μl μ2 1 ま
μ軸 1 本 で 表わ してあ る。
- 25
3 . 位 相差顕微鏡 の結像 における非線形成分
μ
弔
P ,
・
イ 〃μ
ルz Xθ
足
, >
仰 z
鳥
>
Z
坊 =
ん 仰
τ
爪
+ ,
>
z /
O, μ
ω 十
宍
ン ダ
仰
δ j
十
一
一
r(rt,Z)
停〃
換をそ
簡単のため、2次元の結像原理によってこれを考える。あ と、
み の2次元Fourier変
れぞれら(μ
,Z),与
,Z)とし、 名 =馬 +げ
(μ
ら と するc この とき対称 の z = z に おける断
面から得られる像のFourier変
換は、
(8)
で 与 え られ る。 こ こで
τ
ん (μ ,Z)=τ
(0,一
τ (μ ,0,Z), 行
μ ,z)十
P(μ
,Z)=τ
(μ ,0,Z)一
τ (0,一
μ ,Z)
l
τ
μ
(μ
2 + ダ' Z ) Ⅲ
l '2μ' Z ) = lダ)
駅 K ( lμ+ だ, Z )(【
R2
であ り、 K は 対称 が焦点か ら距離 z ず れた ときの瞳関数で 2 次 元 の 瞳関数 p ( μ ) と は
ω
の封響 〉
とい う関係 にあ る。 ここで n t は 対称 の周囲 の媒質 の 屈折率 である。以下で は z = 0 と
(9)
仮定す る。
お いて式( 3 ) の
仮定 は必要 ない こ
す なわ ち対称 は平面的な もので 焦点 の合 った場所 にある。式( 8 ) に
お いて 右辺第 3 項 の積分 が非 線形項 であ る。 この成分を減少 さ
とに注意す る必要があ る。式( 8 ) に
せ る方法 を以下 に 3 つ 提案す る。
4 . 非 線形成分 の減少法
( 1 ) 暗 視野法
暗視野 瞳関数 は
〓
0 1
︱
∼
つ
μ
β
≦│ l‖
≦
れ
(初
ρ/ 允
ρ/ 九
μ
(OthCrwisc)
用 いて 得 られ る像を暗視野像 と呼ぶ。 この 暗視
で表わ され る。 これを式( 9 ) に
代入 しそれを式( 8 ) に
野像 を通常 の位相差像 か ら引 き算 した像 は、非線形成分が減少 した像 とな る。計算は省略す るが
後 で歪率 の低下 で これを確 かめ る。
( 2 ) 逆 位相法
通常 の 位相差像 を得 るときの対物 レンズの位相板 の位相 よ り、位相が π進んだ もの を用 いた時
の像 を逆位相像 と呼ぼ う。 この とき通常 の位相 差像 よ り逆位相像を引 く方法を逆位相法 とす る。
これ によ って井線形成分 が よ り少 ない像 が得 られ る。
-26-
増幅 ・
信号処理
図 4 非 線形成分を軽減す る位相差 顕微鏡 の構造 ( 提案)
暗視野法 な らびに逆位 相法を実現す るには、現 在 の位相差顕微鏡 を図 4 の 様 な もの に改造す る
必要があ る。 ここで 、 一番問題 になるの は位相板であ る。 この位相板 は短 時間 の うちに暗視野瞳
または逆 位相瞳 に変化 させねばな らな い。 このためには 2 種 類 の位相板を用意 して、回転 な どの
機械的方法で交換 しなが ら、同期 した電 子回路で 2 つ の像 の 引 き算を行 う必要があ る。理想的な
方式 は液 晶 な どのデバ イスを用 いた位相板を作 り、電気信号で これの特性 を 1 秒 間 に3 0 ∼6 0 回位
変化 させ る もので あ る。
( 3 ) 明 るい対物 レンズを用 い る方法
これ は単 に対物 レンズの位相板 に通 常使われて い るもの よ り光 の透過率 c の 高 い もの を用 い る
方法 であ る。通 常 は c 笙 0 , 4 であ るが、 これ は背景光 と対 象 か ら得 られ る位相差像 との コ ン トラ
ス トを得 るために経験的 に定 め られた もので ある。 しか し、 c 笙 1 と す ることによ り、感度が上
昇す るばか りでな く、非線形成分 も減少 させ られ ることが示 された。顕微鏡 T V カ メラを用 いて
オ フセ ッ トの調整を行 えば、背景光を 自由 に減 少 させ ることがで きるc 従 って顕微鏡 T V カ メラ
を の 使用 を前提 とすれば、 コー テ ィ ングによ りわざわざ透過率を低 くした位相板 を用 い るよ り、
コー テ ィ ング しない位相板を用 い る方が高画 質 が得 られ る。 これ はまだあま りよ く認識 されて い
ないよ うであ るが、顕微鏡 T V が 広 く用 い られて い ることを考えれば、顕微鏡 メー カの再考を促
した い ところであ る。
5 . 各 方法 の効果
シ ミュ レー シ ョン も行 ったが 〔
4〕
、 こ こで は歪 率 につ いて 述 べ る。純 粋 に位相成分 の み の 対
象 で、 位相遅延量が x 一 方向 に正 弦波状 に変化す る対象を考え る。すなわち
)=exp('αCOS ax)
/(I,メ
ノ
-27-
︱︲︲,
C
r(ω )=
ヽ
月
Σ 畑
とす る。 この対象 に対す る像の歪率を
で定 義す る。 ここで c ( は 像信号 の第 k 空 間高調波 の複素振幅である。各方法 による結像 の 式 に
式t 働を代入 し、結 果を F F T によ りF o u r i e r 変
換 して c k を 求 めた。図 5 に 結果を示す。
︵
さ︶ 一
0
︲
村 に
図 ( 5 - 1 )
図 ( 5 - 2 )
図 (5-3)
図 ( 5 - 4 )
図 5 提 案 した各方法 にお ける結像 の歪率特性
横軸 は空 間周波数 のを対物 レンズの 開 □数 で正 規化 した もので 、縦軸 は歪 率を% で 示 した もので
あ る。図か ら、暗視野法 と逆 位相法 の両者 ともその効果が極 めて 大 きい ことが 分か る。特 に逆 位
相法 の 効果が大 きい。 また、 明 るい位相板を用 い るだけで も、歪率をある程度改善で きることも
分か る。 明 るい位相板を用 い る方法 について は、実際 にメー カ ( オ リンパ ス光学 工 業) に 依頼 し
て、c 笙 1 で あ るよ うな位相差 レンズを製作 し、 顕微鏡 T V 像 を観察 した結 果 も、かな りの 改善
を示 した。
暗視野法 や逆位相法 は、顕微鏡の提案 だけで 実際 に製作 したわけで はないので、実験 はで きな
いが 、 シ ミュ レー シ ョンによ り、位相物体の像 が大 き く改善で きることが分か った。 さ らに位相
差顕微鏡の 3 次 元伝達関数 の逆 フ ィル タを原画像 に施す場合、非線形成分が大 きい と、処理後の
画像 は著 しいア ー チフ ァ ク トに汚染 され るが、 ここで提案 した非線形成分 の軽減法を用 い ると、
この ア ー チフ ァク トが 極 めて 小 さ くな ることも確認 された 〔
4〕
。
-28-
6.結 語
顕微鏡 の 3次 元伝達関数を、すで に知 られて い るその 2次 元伝達関数を拡張す ることによ って
求 め 、それが最近Streiblによ って求 め られ た 3次 元伝達関数 と 一
致す ることを示 した。 それを
利用 して、 位相差顕微鏡 の 3次 元伝達関数を求 めた。 さ らに、位相差顕微鏡の観察の 際問題 とな
る、非 線形成分を極 めて 効果的に減少 させ る方法 を 2つ 提案 した。 これ らの 方法 の実現 には、顕
微鏡 の 改造 が必要であ るが、共焦点 レーザ顕微鏡 のよ うな複雑で高価な もの にはな らな い と思わ
れ るの で、試 作品を製作す るメー カが現われな い ものか と考えて い る。 さらに明 るい対物 レンズ
を用 い る方法 も提案 した。 これ は顕微鏡 TVカ
メラの使用を前提 とすれば、感度を上 げ非線形歪
もあ る程度 低減 で きる方法 であ り、簡単 な方法 で もあ るので 、使われ るよ うにな って もよ い と考
えて い る。
参考文献
dimenslonal imaging by a microscope,"J.Opt.Soc.Am.A, 2,
11〕 N.Streibl, Three―
“
121-127,
1985.
The frequency response of a dofocused optical system, Proc.R.Soc.
“
〔2〕 H.H,Hopkins, “
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〔3〕 I.Nemoto, “
two―
dimenslonal imaging, J“
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contrast
〔4〕 I.Nemoto and A.Takahashi, M“
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