医療機関における「マイナンバー制度」

3 2015
2016 年1月より
個人番号の利用開始
医療機関における
「マイナンバー制度」
❶
❷
❸
❹
「社会保障・税番号(マイナンバー)制度」の概要
医療分野でマイナンバー活用に期待される効果
医療機関におけるマイナンバーをめぐる患者対応
組織内で進める具体的準備事項とその内容
2016 年 1 月より個人番号の利用開始 医療機関における「マイナンバー制度」
「社会保障・税番号(マイナンバー)制度」の概要
1│マイナンバー法と制度概要
(1)マイナンバー法制定の趣旨とメリット
社会保障・税番号(通称:マイナンバー)は、住民票を有する全国民に1人1つの番号
(12 桁)を付与して、社会保障・税・災害対策の分野で効率的に情報を管理し、複数の機
関が有する個人の情報が同一人の情報であることを確認するために活用されるものです。
政府は、マイナンバーを「行政を効率化し、国民の利便性を高め、公平かつ公正な社会
を実現する社会基盤」として位置づけており、医療機関を含む民間事業者においても、個
人番号を取り扱う事務に関して、様々な対応が求められています。
■マイナンバー制度で期待される効果
●公平・公正な社会の実現:所得やサービス受給状況の正確な把握、公平な支援の提供
●国民の利便性の向上:添付書類の削減など、行政手続が簡素化
●行政の効率化:様々な情報の照合、転記、入力などに要する時間・労力の大幅削減
また、マイナンバー制度の導入により、主に行政手続において次のような点でメリット
が期待されています。
①個人番号の利用による効率化
マイナンバー制度導入後は、個人番号による本人確認ができるようになり、行政機関・
自治体等では、本人であることの確認作業に係る負担が軽減されます。制度導入後は、各
機関から提出される申告書等に個人番号が記載されることから、同一人であるという識別
作業が容易になることによるものです。
個人番号を証明する手段として、全国民に「通知カード」が配布され、さらに希望者に
は「個人番号カード(本人顔写真表示 IC カード)」が交付されます。
尚、個人番号カードは、2015年10月に通知カードでマイナンバーが通知された後
に市区町村に申請すると、2016年1月以降、個人番号カードの交付を受けることがで
きます。個人番号カードは、本人確認のための身分証明書として利用できるほか、カード
のICチップに搭載された電子証明書を用いて、e-Tax(国税電子申告・納税システム)な
どの各種電子申請が行えることや、自治体の図書館利用証や印鑑登録証など、各自治体が
条例で定めるサービスにも使用できます。
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■個人番号による本人確認の運用イメージ∼住民税賦課事務の例
国税庁・税務署
国税の所得情報
住民
住民税申告書
市町村
(税務担当)
給与支払報告書
公的年金等
支払報告書
企業
年金保険者
【制度導入後】
各機関から提出される資料に記載
されることになる「個人番号(マイ
ナンバー)」をキーとして、名寄せ
を行う
個人番号は同一人であるこ
とを確実に識別することが
できるので、正確かつ効率
的な名寄せが可能
②他の情報保有機関への情報提供
現在、各種住民サービス等の申請に際しては、それぞれの機関から各種証明書を取得し、
提出することが求められていますが、番号制度導入後は、行政機関・自治体等が新たに導
入される「情報提供ネットワークシステム」による情報連携を通じ、審査に必要な情報を
取得できるようになり、また国民にとっては複数窓口での各種証明書の取得に係る負担の
軽減、各機関側にとっては個人情報の正確な把握が可能になります。
(2)個人番号の利用範囲
個人番号の利用や他情報保有機関への特定個人情報の提供は、マイナンバー法において、
第9条(個人番号の利用)、および第19条(特定個人情報の提供)で、それぞれ範囲が定
められています。
また、事務を担当する関係機関は、行政機関・自治体等が中心ではありますが、企業年
金、健康保険等は民間事業者が担う場合もあり、税分野に関しては税務当局だけでなく申
告する民間事業者側でも対応が必要になります。
■個人番号の利用範囲
【社会保障分野】
年金分野(年金の資格取得・確認、給付事務)
労働分野(雇用保険等の資格取得・確認、給付、ハローワーク等)
福祉・医療・その他分野(医療保険等の保険料徴収等の医療保険者における手続、
福祉分野の給付、生活保護の実施等低所得者対策の事務等)
【税分野】
国民が税務当局に提出する確定申告書、届出書、調書等
【災害対策分野】
被災者生活再建支援金支給事務、被災者台帳作成事務
(出典:内閣官房「番号制度の概要」)
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今回制定されたマイナンバー法においては、その利用範囲が社会保障分野、税分野、災
害対策分野に限定されており、現時点でもこの範囲内で対応準備が進められています。
しかし、
「施行日以後 3 年を目処に、利用事務の拡大を目指すこと」とも規定されている
ことから、今後は分野や利用機関の拡大が図られると想定されています。
■今後拡大が想定される分野
●戸籍に係る事務
●旅券や邦人保護等に係る事務
●金融機関における口座名義人の特定・現況確認等に係る事務
●医療・介護・健康情報の管理・連携等に係る事務
●自動車の登録に係る事務等
3│番号利用開始までの対応事項と実施スケジュール
(1)民間事業者一般における対応事項
個人番号が利用開始となる 2016 年 1 月までに、個人番号関係事務実施者として、医療
機関を含む全ての民間事業者において求められる対応事項は、大きく分類すると下記の5
項目が挙げられます。上位から順に準備を進めると、効果的な体制整備が可能です。
■民間事業者が準備すべき対応項目
1.マイナンバー制度対応の準備⇒制度の理解、体制整備等
2.個人番号を取り扱う対象事務の明確化
3.個人番号を取り扱う対象事務の運用整理⇒個人番号の適正な取扱いルール策定等
4.個人番号を取り扱う対象事務に係るシステムの改修
5.個人番号を取り扱う職員に対する研修・周知
(2)制度の理解と体制整備
個人番号を適正に取り扱うためには、マイナンバー制度の概要や民間事業者の位置付
け・役割等について、正しい内容を把握し、理解しておくことが必要です。
民間事業者が個人番号を取り扱うことができるのは「給与事務、法定調書作成等の事務
(個人番号関係事務)」のみであり、制度導入により給与や経理等、個人番号関係事務に関
わる部署において個人番号を取り扱うことになります。ただし、職員から個人番号を取得
する等の工程は組織全体へ影響するものであるため、関係部署だけに任せるのではなく、
組織的な取り組みで準備を進めることが重要です。
3
(3)対象事務の明確化と運用ルールの策定
民間事業者が個人番号を取り扱う具体的な対象事務としては、以下のようなものが挙げ
られます。
個人番号を記載する
書類の最初の提出時期
が異なる点に要注意
■民間事業者における個人番号取扱対象事務の範囲
●職員の給与所得の源泉徴収票作成
●報酬等の支払調書作成
⇒
⇒
最初の提出期限:2017 年 1 月末
2016 年 1 月以降
●健康保険、厚生年金保険、雇用保険の資格取得届作成等
⇒
2016 年 1 月以降
民間事業者では、健康保険組合、企業年金事業者等と協議の上、このような対象事務の
範囲を明確化することが必要になります。また、個人番号を取り扱う対象事務について、
具体的にどのような処理を行うのか、そのために現行の業務運用フロー等をどのように変
更するのかなどを整理することが必要です。
(4)個人番号取扱事務に係るシステム改修
個人番号関係事務を情報システムで処理している場合、情報システムの改修(例:個人
番号の入力機能等)が必要です。具体的には、人事・給与、社会保険関連、支払調書作成
の各システム等が想定されています。
また、個人番号の追加に伴い、給与所得の源泉徴収票などについて、様式変更への対応
が必要です(2014 年 7 月 9 日公布「所得税法施行規則の一部を改正する省令(財務省令第
53 号)」)。源泉徴収票の新様式では、職員の個人番号欄が追加されたことに加え、扶養控
除配偶者及び控除対象扶養親族の氏名、個人番号の記載欄追加のほか、用紙サイズが A6
から A5 に変更されています。
(5)職員に対する研修および周知
制度運用に際しては、新運用に即した各種マニュアルの策定や更新が必要です。また、
業務フローやシステム面の変更のみならず、個人情報保護関連規定やマニュアル等につい
ても見直しが必要となる可能性があります。こうしたルールや業務フロー等の変更につい
ては、運用開始までに職員に対する研修を実施しておくことが必須といえます。さらに、
個人番号の取得対象者である「職員全員」に対して、扶養家族分も含めて個人番号を提示
してもらう必要がある旨を、早めに周知しておくことが重要です。
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医療分野でマイナンバー活用に期待される効果
1│マイナンバー導入により社会保障分野でも効率化が推進
(1)情報と業務効率化への活用
社会保障分野におけるマイナンバー制度導入により、前章で紹介したように、行政機関
等や関連組織で管理していた個人情報を、マイナンバーで紐付けできるようになることか
ら、行政機関側と利用者側双方にとって、情報と業務を効率化するメリットがあります。
■マイナンバー導入により可能になる点∼社会保障分野
①行政事務の効率化
⇒社会保障関連事務の実施主体が、サービス利用者からの添付書類以外の所得情報や現金給
付受給状況等を把握でき、給付間の給付調整等を的確・効率的に行うことが可能になる
②手続の簡素化・利用者の負担軽減
⇒社会保障サービス利用者は、サービス申請等にあたって、所得証明書等の書類提出が不要
になる
■具体例
●傷病手当金の支給申請者に関する障害厚生年金等 ⇒ 給付状況確認が可能に
●国民年金保険料の免除申請手続 ⇒ 所得証明書提出が不要に
医療機関は、医療サービスの提供を通じて社会保障分野におけるマイナンバーを取り扱
う事務に関わることになるため、患者やその家族の特定情報保護について、格段の注意が
必要になります。
(2)検討対象となっている業務
【医療機関における保険資格の確認】
オンラインによる資格確認により、転記ミスや異動情報未確認による医療保険過誤請求の削減
【医療・介護等のサービスの質の向上等に資するもの】
健診情報・予防接種履歴の確認、乳幼児健診履歴の把握、行政手続等における診断書添付省略
保険証機能を搭載した IC カードに情報一元化
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2│医療情報・関連業務とマイナンバーのかかわり
(1)医療等分野におけるマイナンバー活用のメリット
●医療情報の共有化
個人を中心として医療機関相互の情報共有が進み、患者本人の選択のもとに適切で継続的な医
療が提供されるようになる
●医療関連業務の効率化
医療機関内、地域医療連携、社会保険業務、行政機関との手続等の医療関連用務が効率化され、
より便利で費用対効果の高い医療システムの実現に結びつく
●医療情報の分析活用
症例・症状別に整理されたデータの蓄積と分析により、継続的に医療の質を高め、技術の向上
を図ることができる
(2)医療機関で想定されるマイナンバー利用の場面
制度スタート時は税・年金分野に限られますが、2017年以降に予定される医療等番
号の利用が開始された場合、具体的には医療機関や地域医療連携における次のような場面
で、マイナンバーを利用することが想定されています。
①患
者:医療機関で個人番号カードを提示、登録に必要な基本情報を示して、被保険
者のオンライン資格確認を受ける
②医療機関:患者情報に含むマイナンバーを管理し、電子カルテ・レセプト等に当該番号
を付加する
③医
師:診療録や処方箋、紹介状にマイナンバーに関連付けられた医師資格情報をリ
ンクさせた署名をする
④調剤薬局:マイナンバー記載の電子処方せんで診療情報を共有でき、調剤業務の効率化
と安全で的確な服薬指導を行う
⑤地域連携:患者の同意を得てマイナンバーで紐づけた診療情報を各医療機関で共有し、
かかりつけ医・中核病院・在宅医療支援などに携わる医療機関相互が、機能
分担によるシームレスな地域医療連携を実践する
これらは、現在全国での導入に向けた検証が進められている「社会保障カード」に付加
される機能として検討されていますが、とりわけ診療情報は機微な個人情報でもあり、
「個
人番号カード」にこれら機能を持たせるかについては、早くから懸念が示されていました。
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3│医療等番号制度∼2017年7月以降の導入へ
(1)医療分野における番号制度活用の問題
マイナンバー法の成立以降、医療や介護分野での本制度活用が検討されることとなった
ものの、患者の診療情報は個人情報の中でも特に慎重な取り扱いが求められるものであり、
医療機関として、医療等分野での情報連携に関する検討状況は中止する必要があります。
現在は、健康保険証機能や医療情報の付加について、その活用法に議論が重ねられてお
り、患者の病歴等の機密性の高い情報を含むものを医療機関以外に公開されたものと同一
にする危険性や、国民に与える不安などを考慮して、利便性と情報保護の両立が課題とさ
れています。
そのため厚生労働省の「医療等における番号制度の活用等に関する研究会」では、
「医療
等 ID」という別個の番号制度の導入を検討中です。
(2)医療等番号制度導入の枠組み
マイナンバーは、2016年1月から申請に応じて個人番号カードの交付が開始されま
すが、医療・介護等に関する個人情報については、高度に機微な情報であることや、情報
提供の範囲が個人ごとになると考えられること等から、マイナンバー制度とは別個に医療
等の番号制度を設定することとし、個別法の制定も視野に入れながら、2017年7月以
降の導入を予定しています。
この医療等番号の活用方法としては、下記のようなものが挙げられています。
①医療・介護施設等の連携
②本人への健康医療情報の提供・活用
③健康・医療研究分野
④医療保険のオンラインによる資格確認
⑤保険者間の健診データの確認
⑥予防接種履歴管理
等
【例】 転居した場合でも継続的に健診情報・予防接種履歴が確認できるようになる
乳幼児健診履歴等が継続的に把握でき、児童虐待等の早期発見に資する
各種行政手続における診断書添付が不要になる
医療等番号が法制化された場合には、保険証機能を当該「医療等 ID」を記載した IC カ
ードに一元化し、その提示により医療保険証、年金手帳、介護保険証等を提示したものと
みなすとすることで、利用者の利便性の向上を図ることが期待されています。
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医療機関におけるマイナンバーをめぐる患者対応
1│マイナンバー制度導入により新たに留意すべき点
(1)医療機関でも留意を要する事務
マイナンバー制度導入にあたって対応を要する関係機関は、個人番号の利用について規
定する同法第 9 条において定められています。
■マイナンバー法第 9 条に定める個人番号利用事務実施者と利用範囲(一部略)
1.別表第一の上欄に掲げる行政機関、地方公共団体、独立行政法人等その他の行政事
務を処理する者(=いわゆる「別表第一」)
2.地方公共団体の長その他の執行機関 ⇒ 福祉、保健若しくは医療その他の社会保
障、地方税又は防災に関する事務を処理する者(=条例による「独自利用」)
3.健康保険法、厚生年金保険法、租税特別措置法、所得税法、雇用保険法、内国税の
適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律その他の
法令又は条例に定める1記載の執行機関(=個人番号関係事務実施者)
マイナンバー法第 9 条 1 項および 2 項の規定により、個人番号を利用する事務の実施者
を「個人番号利用事務実施者」といい、主な機関として行政機関・自治体等、民間事業者
の健康保険組合や企業年金の担当部署等がこれに該当します。
また、同法第 9 条 3 項の規定により、例えば職員の個人番号を給与支払報告書に記載し、
提出する事務を行う民間事業者等は、補助的に個人番号に係る事務を行う「個人番号関係
事務実施者」に該当し、医療機関の担当部署も例外ではありません。
■個人番号利用事務実施者等に該当する機関
●個人番号利用事務実施者:主体的に個人番号を利用する事務を行う機関
⇒ 行政機関・自治体等、民間事業者の健康保険組合、企業年金の担当部署等
●個人番号関係事務実施者:補助的に個人番号に係る事務を行う機関
⇒
民間事業者の人事・経理・労務管理等の部門、人材派遣等人事関連業務請負会社等
一方、医療等分野の利用場面のうちマイナンバーを用いる範囲については、上記のとお
り、現行のマイナンバー法の枠組みにおいては行政機関や医療保険者に限定されており、
医療機関が「個人番号利用事務実施者」として用いることは想定されていません。
しかし、医療機関では個人番号が記載された書類を取り扱うケースがあります。
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(2)個人番号カード・個人番号記載書類の取扱いポイント
①個人番号カード
前述のとおり、現行法上、医療機関がマイナンバーを用いる場面は想定されていません
が、実際には身分証明書として個人番号カードを活用するケースや、2017年度から医
療保険のオンライン資格確認手続きに活用する等のケースもあり、個人番号を目にする可
能性があります。
例えば、受診時に受付で個人番号カードを提示する際など、「第三者から個人番号を視
認され、不正に利用されることはないか」という患者側の懸念がありますが、これらを防
ぐためには次のような対応が望ましいとされています。
■個人番号の視認対応への取り組み例∼受付対応
●個人番号カードを預からない
⇒
特定個人情報は IC チップに内蔵するため、カードリーダーで読み取る
●表面のみが見えるカードケースの活用
⇒
氏名・住所等は表面に、マイナンバーは個人番号カードの裏面に記載
●個人番号を書き写す行為は厳禁
⇒
定められた利用目的以外での不正利用として、マイナンバー法で禁止
尚、医療機関としては、個人番号カードの読み取りのためのカードリーダーが必要にな
り、医療保険オンライン資格確認の導入までに準備しなければなりませんが、その時期に
ついては、マイナンバー制度における保険者の情報連携が稼働する2017年7月以降に
なると考えられます。
まだ準備に投下できる時間はありますが、その他の院内整備事項と並行して、計画的に
スケジュールを策定しておくことが必要です。
②個人番号記載書類の取扱い
2016 年 1 月からの個人番号利用の開始に際し、行政機関等に対する各種補助・助成申請
については、各申請書類に個人番号が記載された状態で、医療機関における手続きを進め
る可能性があります。
そのため、医療機関では個人番号を利用しない場合でも、医療機関または医師等の証明
や、医療機関作成の書類添付を要する手続については、その申請書類に個人番号が記載さ
れているものがあり、これらが医療機関の職員や他の来院者の目に触れることのないよう
に取扱いに注意が必要です。
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■個人番号が記載され、医療機関で取り扱う可能性がある書類例
●療養費支給申請書
●傷病手当金支給申請書
●特定疾病療養受療証交付申請
∼
人工透析治療患者
など
●高額療養費支給申請書
●労災保険給付関係請求書
例)療養(補償)給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届
療養(補償)給付たる療養の費用請求書
検査に要した費用等請求書(非指定医療機関用)
休業補償給付支給請求書
二次健康診断等給付請求書
アフターケアの実施期間の更新に係る診断書
ほか
●生活保護法医療券・調剤券
等
行政機関等・医療保険者での個人番号(マイナンバー)利用にあたっては、
その利用が想定されない医療機関等内で、個人番号と医療等分野に関する情報とが紐づけされ
ないように必要な対応が求められる
2│患者に対する医療サービス提供と番号制度の今後
上記書類のように行政機関等に対する申請手続であっても、医療等分野の個人情報は、
病歴や服薬の履歴、健診の結果など、本人にとって機微性の高い情報であり、公になった
場合には個人の社会生活に大きな影響を与える可能性も想定されるため、特に保護の必要
性が高い情報だといえます。
さらに、医療に関する情報の特性は、税や所得等の情報とは異なっており、患者と医療
機関・医療や介護従事者間の信頼関係に基づいて収集され、蓄積されるものです。またこ
うした信頼関係を基盤として、患者の個人情報を共有しているのであり、そのなかには第
三者に知られたくない情報も含まれていると認識したうえで、患者個人の特定や目的外で
使用されることのないように、十分な安全管理措置を講じる必要があります。
2017年7月にも開始されるオンライン資格確認だけではなく、将来的に医療機関自
身が「個人番号利用事務実施者」となる利用範囲拡大も予測されるため、患者に対しては、
①利用目的の通知または公表、②取得・利用にあたっての本人の同意、の2点について、
再度徹底を確認することが重要です。
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組織内で進める具体的準備事項とその内容
1│医療機関において求められる対応とは
(1)院内で実施する個人番号関連業務
民間事業者としての医療機関が、院内で主に実施すべき対応は次に挙げる 5 点です。
■民間事業者が実施するマイナンバー関連業務
1.給与事務、法定調書作成事務での個人番号利用
2.金融機関が作成する法定調書への個人番号利用(法第9条3項)
3.激甚災害対応での個人番号利用(法第9条4項)
4.企業年金事務に係る個人番号の利用、情報照会(法第9条1項)
5.健康保険組合の事務に係る個人番号利用、情報照会、情報提供
このうち、職員等を対象として医療機関内で実施することとなる業務は、主に給与に関
連する事務です。
個人番号の利用が必要となることから、医療機関を含む民間事業者は、2016年の早
い時期に職員やその被扶養者の個人番号を収集し、また個人番号欄の追加といった人事給
与システムの改修が求められます。
また、個人番号利用開始時より、
「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」等の各種法
定調書への個人番号の記載が求められるため、2016年1月までに、①報酬等の支払時
における個人番号の確認、②帳票への個人番号欄の追加等の運用方法の確立、③その他関
係システムの改修、の3点が必要になります。
さらに給与事務等は一般に、医療機関内でも事務部や総務課等で担当する業務ですが、
職員とその家族の個人番号を収集する必要もあり、担当部門だけで対応すべきものではあ
りません。マイナンバー対応は、組織として医療機関全体で取り組む準備を進めることが
求められています。
(2)安全管理措置の必要性
マイナンバー法第 12 条では、個人番号の漏えい、滅失または毀損の防止その他の個人番
号の適切な管理のために必要な措置を講じることが求められています。
具体的な安全管理項目としては、次の5項目が挙げられています。
(ガイドライン:2014
年 12 月「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」)。
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■安全管理措置の具体的項目∼ガイドラインが示す必要な措置
①基本方針及び取扱規程等の策定
②組織的安全管理措置
③人的安全管理措置
④物理的安全管理措置
⑤技術的安全管理措置
*委託先の監督(個人番号関係事務を委託・再委託する場合)
また、個人情報保護法では適用除外となっていた小規模な事業者であっても、マイナン
バー法では、例外なく安全管理措置を講じることが義務付けられています(法第 33 条「個
人情報取扱事業者でない個人番号取扱事業者」の安全管理措置)。
医療機関については、取り扱う個人情報の重要性から、小規模事業者に該当するか否か
に関わらず安全管理措置が義務付けられていますが、マイナンバー法ではより罰則が強化
されていることも踏まえ、これまで施していた安全管理措置の有効性を検証し、不備・不
十分なものについて、改善することが必要です。
2│変更や修正が必要な規程・ルール等
安全管理措置の不備を是正する、あるいは強化するためには、従来の規程・規則や院内
ルールを見直す必要があります。
(1)基本方針と取扱規程
ガイドラインにおいて安全管理措置として示されている基本方針と取扱規程等について
は、個人情報保護法施行時に院内掲示すべきものの一つとして基本方針が挙げられていた
ほか、保健所の立入検査でも、この数年は個人情報保護に関する取り組みを重点的に指導
されていたこともあり、既に大部分の医療機関が策定しているはずです。
しかし、今回法制化されたマイナンバーについては、特定個人情報として適正な取り扱
いの確保が求められていることから、ガイドラインに列挙された項目を網羅しているかど
うか、その内容が十分かどうかを検証し、必要に応じて見直す必要があります。
■ガイドラインが挙げる基本方針に定める項目
●事業者の名称
●関係法令・ガイドライン等の遵守
●安全管理措置に関する事項
●質問および苦情処理の窓口
等
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また取扱規程等については、院内でマイナンバーを取り扱う事務を明確化したうえで、
その流れを整理し、特定個人情報等の具体的取り扱いを定める内容とすることが求められ
ます。
■ガイドラインが示す取扱規程等の策定手法
∼「特定個人情報に関する安全管理措置」より
●取得する段階
●利用を行う段階
●保存する段階
●提供を行う段階
●削除・廃棄を行う段階
マイナンバーと特定個人情報の
ライフサイクルに対応した取り扱いの
ルールを策定することが必要
【例:源泉徴収票等作成事務フローに沿った取扱規程の内容】
①職員等から提出された書類等を取りまとめる方法
②取りまとめた書類等の源泉徴収票等の作成部署への移動方法
③情報システムへの個人番号を含むデータ入力方法
④源泉徴収票等の作成方法
⑤源泉徴収票等の行政機関等への提出方法
⑥源泉徴収票等の本人への交付方法
⑦源泉徴収票等の控え、職員から提出された書類及び情報システムで取り扱うファイル等の
保存方法
⑧法定保存期間を経過した源泉徴収票等の控え等の廃棄・削除方法
等
【対応方法のポイント】
●マイナンバー(個人番号)・特定個人情報の取扱い等を明確化
●事務取扱担当者が変更となった場合、確実な引継ぎを行い、責任ある立場の者が確認
(2)就業規則等の院内ルール
マイナンバー法には、法令違反行為に対して罰則が定められており、その内容も個人情
報保護法を上回るものとなっています(例:6 月以下の懲役又は 30 万円以下の罰金⇒4 年
以下の懲役又は 200 万円以下の罰金)。
そのため、就業規則上にも懲戒処分の対象になる行為を服務規律に列挙し、マイナンバ
ー法に定められた民間事業者としての義務違反行為を定めておくことが賢明です。
また、職員から本人やその家族のマイナンバーを収集する必要があることから、予め提
示することとされている利用目的を列挙し、明記することで「通知または公表」しておく
と、漏れもなく効率的な運用が可能になります。
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■マイナンバー法に対応した就業規則への改定例
●服務規律
第○○条
職員は、秘密を保持する義務を負い、次の各号に掲げる秘密保持および個人
番号管理に関する事項を守らなければならない。
(1)院内外を問わず、在職中又は退職後においても、当院、取引先等の秘密、機密性
のある情報、患者情報、データ、ID、パスワード、個人番号、特定個人情報及び当
院の不利益となる事項(以下、「秘密情報」という。)を第三者に開示、漏洩、提供又
は不正に使用しないこと。
(2)秘密情報のコピー等をして院外に持ち出さないこと(当院が事前許可した場合に
限り、適切な管理の下に当院が指定した方法による場合を除く。)。
(3)IDカードを当院の許可なく他の職員に貸与しないこと。
(4)当院が貸与する携帯電話、パソコン、その他情報関連機器(蓄積情報も含む。
)を、
紛失又は破損しないこと。また、当該情報関連機器を紛失又は破損した場合は、直ち
に、情報漏えいの防止の対策を行うとともに、当院に報告すること。
(5)当院の許可なく、私物のパソコン、携帯電話、その他電子機器類に顧客に関する
情報、その他秘密情報を記録しないこと。やむを得ず顧客の電話番号、メールアドレ
ス等を記録する場合は、セキュリティー管理が可能な機種を選択し、私物の機器であ
っても当院が貸与する機器と同様に、善良な管理者の注意をもって取り扱うこと。
●個人番号の利用目的
第○○条
当院が個人番号を取り扱う事務を行うに際し、本人または家族より収集する
職員およびその家族の個人番号の利用目的は、次に掲げるものである。
(1)源泉徴収票作成事務
(2)各種社会保険事務(雇用保険、健康保険、厚生年金保険加入等)
(3)・・・・・・
尚、マイナンバー法に定める事業者としての義務をめぐり、就業規則において職員が順
守すべき事項や利用目的の明記などは、上記の服務規程例のように従前の条文に追加する
方法もありますが、規定すべき項目が多岐にわたることから、別個に「第○○章
個人番
号および特定個人情報の利用」等と題した章を設けると、後日改定が必要になった際にも
整理が容易になるでしょう。
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3│制度対応のための運用上のポイント
(1)個人番号取得時の「利用目的の明示」
マイナンバー法に特段の規定がない限り、個人番号を含む特定個人情報も個人情報の一
部なので、原則として個人情報保護法が適用されます。したがって、個人番号を取得する
際には、個人情報保護法第 18 条の規定に基づいて、対象者本人に利用目的を通知、又は公
表することが必要となります。
また、同法第 16 条の規定に基づいて、ある特定の目的で取得した個人番号は、その目的
でのみ利用可能であり、同じ民間事業者内で行う事務であっても、その他の事務で利用す
ることはできません。
■個人情報保護法に定める事業者の義務
第 18 条
個人情報取扱事業者は、個人情報を取得した場合は、あらかじめその利用目的を公表
している場合を除き、速やかに、その利用目的を、本人に通知し、または公表しなけ
ればならない。
第 16 条
個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定さ
れた利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない。
マイナンバー法は個人情報保護法等に対して特別法として制定されており、特定個人情
報については定められた事務以外に利用することは認められていない点に留意が必要です。
【例】「給与所得の源泉徴収票作成」という目的のみ通知して個人番号を収集した場合
「給与所得の源泉徴収票作成のため」という目的を通知して取得した個人番号
⇒ その他の事務(健康保険等の資格取得届の作成)のためには利用不可
*あらかじめ本人の同意を得たとしても利用できない
∴
その他事務で個人番号を利用するためには、別途利用目的を通知又は公表したうえで
個人番号を取得する必要がある
(2)個人番号を取得する際の「本人確認」の方法と留意点
①本人確認の方法
マイナンバー法第 16 条では個人番号の提供を受けるときは、本人確認の措置が必要とさ
れています。本人確認の具体的な内容については、同法施行規則で示されており、手続の
対象者本人から個人番号の提供を受ける場合は、
「番号確認(=提示された個人番号は本人
のものか)」
「身元(実存)確認(=番号を提示している人は間違いなく本人か)」という 2
つの確認作業が求められています。
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■個人番号の提供時に提示を要する書類等∼本人確認の方法
【番号確認】①個人番号カード
②通知カード
③個人番号が記載された住民票写し(住民票記載事項証明書)
【身元(実存確認)
】
①個人番号カード
②運転免許証、旅券、身体障害者手帳、精神障碍者保健福祉手帳、療育手帳、
在留カード、特別永住者証明書
③官公署発行の書類で写真表示があるもの(氏名・生年月日または住所記載)
②本人確認が不要または省略可能なケース
1)「税制上の扶養家族」等の本人確認
税制上の扶養家族については、職員(職員)本人が「個人番号関係事務実施者」として、
扶養家族の本人確認を実施するため、民間事業者側が扶養家族の本人確認を行う必要はあ
りません。また、健康保険組合に対する被扶養者の届出等についても同様です。
ただし、国民年金第 3 号被保険者の届出については、事業者への提出義務者が第 3 号被
保険者と定められているため、職員は「代理人」となることから、事業者側が扶養親族の
マイナンバーについて、本人確認を行う必要があります。
2)雇用関係に基づく身元確認
医療機関と職員本人とは雇用関係にあり、通常は入職時等に身元確認を実施すると想定
されるため、「身元(実存)確認」のための書類を省略することが可能です。
これは、実施者が認める場合には、身元(実存)確認書類は要しないという考え方によ
るものです。
個人番号の利用開始までに準備すべき事項は様々ですが、準備期間は既に1年を切って
います。組織内では、適正で慎重な取り扱いが求められる個人番号を取り扱う業務を洗い
出し、規程やマニュアル等を作成・改定するほか、給与所得源泉徴収票など制度運用開始
と同時に様式が変更となる帳票については、早期にシステムの変更・改修等に着手する必
要があります。
基本方針・規程
様式変更に伴う
職員への周知・教育
就業規則の見直し
システムの変更・改修
マイナンバー収集
運用については未だ検討中の事項が残されていますが、法令だけではなく、ガイドライ
ンなど最新の情報を収集しながら具体的対応を進めることが必要です。
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