7 ■現地見学会コース案内 防止事業として,調査と対策が実施されて 第 54 回研究発表会及び現地見学会実行委員会 おります。対策工は地すべり規模と地質構 次のとおり 3 コースにて現地見学会を実 造から,排水トンネルを主体とした落し込 施します。いずれのコースも,JR山形駅 みボーリングや建上げボーリング,集水井 西口駅前広場(図-1)を起点として貸切りバ 工などによる立体排水工が施工されてお スで移動します。 り , 平 成 26 年 ま で に 排 水 ト ン ネ ル L=5,043m,集水井 27 基が完成しておりま す。また,表層の地すべり対策として杭打 工,アンカー工,法枠工が施工されている ほかに,森林の早期復旧のための山腹工, 治山ダム工,護岸工が実施されております。 豊牧地すべりでは古くから地すべり災害 が多発しており,昭和 37 年から国土交通省 (旧建設省)によって直轄地すべり対策事業 として調査と対策が進められてきました。 こ れ ま で 集 水 井 77 基 , 排 水 ト ン ネ ル L=2,177m,水路工 L=38,800m などが整備さ れ,地すべりは沈静化し事業も概成に近づ いております。地内には美しい棚田地形が 広がっており,「四ヶ村の棚田」として日 本の棚田百選に選定されております。 現地見学会ではシラス地帯の地すべり地 形・地質を観察するとともに,施工された 対策施設や維持管理システムなどを見学す 図-4 現地見学コース る予定です。 また,最上峡は富士川や球磨川と並んで ★A コース「肘折カルデラ周辺の地すべり< 日本三大急流とも呼ばれる最上川の中流域 銅山川・豊牧>」 に位置する峡谷であり,特に紅葉の季節に 地すべり地の南西に肘折カルデラが存在 は多くの観光客が訪れる名所となっており し,その中に温泉郷として親しまれている ます。最上峡は谷の高さ約 320m,長さ約 15 肘折温泉があります。周辺一帯には約一万 ㎞で,両岸に山地が迫る深い峡谷をなして 年前の噴火による火山堆積物(シラス)が おります。ここでは新第三紀中新世の草薙 厚く堆積(最大 120m)しており,地質が極 累層に属する硬質な珪質泥岩が観察できま めて脆弱であるほか,地形・気象等の特性 す。地質構造は典型的な箱形褶曲をなし, により,融雪期や豪雨期には地すべり災害 中央部は水平で,「白糸の滝」の岩壁でこ が頻発しております。 れを確認できます。 銅山川地すべりは,山形県大蔵村南山地 見学会では最上川舟下りにて,川の流れ 区に位置し,地すべりブロックの長さが約 とともに,峡谷の地層にも関心を持って頂 1.3km,幅が約 1.1km の大規模地すべりで, ければ幸いです。 平成 4 年より林野庁の民有林直轄地すべり -7- 8 地下水涵養量が極めて多いことから,地す べりが融雪期に活発化するという共通性が あります。 志津地すべりは山形県西部,出羽三山の 主峰月山の南西側山麓斜面に位置し,厚い 脆弱な火山岩屑(火山噴出物)が広く覆って おり,大規模な地すべりが頻発しておりま す。国土交通省の直轄地すべり対策事業と して調査,対策が行われており,調査の進 図-5 銅山川地すべり全景 捗に伴い,志津地すべりでは極めて複雑な 地質構成条件が判明してきております。地 すべり機構解析においても,月山火山活動 に関する地史的視点からの新たな知見が数 多く得られており,火山活動と地すべり機 構に関する考察も報告されております。対 策工は集水井を主体とする地下水排除工が 進められておりますが,国立公園内に近接 する観光地であることから,環境や動植物 の貴重種に対する配慮がなされるなど興味 深いところがあります。 また,七五三掛地すべりは月山の西麓に 図-6 豊牧地すべり全景 位置し,平成 21 年の融雪期に七五三掛集落 を頭部域とする地すべりブロック(B-1 ブロ ック:長さ 700m・幅 400m・深さ 40m)が活 発化し,大規模な地すべり災害を引き起こ しました。災害発生時の移動量は最大で 1 日 10cm に及ぶ活発な活動(累積移動量は 6.2m)を示したことから,集落の 8 世帯 33 人が避難しました。その後,直ちに東北農 政局により調査と対策工事が着手され,災 害ブロックについては,地すべり活動はほ 図-7 仙人堂付近より望む最上川 ぼ沈静化し営農も開始されております。現 在は,災害ブロックに隣接した D ブロック ★B コース「月山周辺の地すべり<志津・七 (長さ 1,100m・幅 700m・深さ 120m)の活動 五三掛>」 が顕在化したために,各種調査が進められ, 志津地すべりと七五三掛地すべりは,そ 対策工事として排水トンネル L=2,900m と れぞれ東北地方を代表する大規模地すべり 集水井工 22 基などによる立体排水工が施工 であり,ともに最大積雪量が 2mを超える豪 中であります。 雪地帯にあって広大な集水面積を有すると 現地見学会では,これら大規模地すべり いう特徴があります。そのため,融雪期の の地質的な特徴や気象との関係などを踏ま -8- 9 えて,地すべり地における対策工事の進捗 いて,宮城県と山形県の両県南部の県境に を見学する予定です。また,七五三掛地区 位置する山々です。地質的には玄武岩,安 には湯殿山詣でが盛んな頃に隆盛を極めた 山岩の成層火山群の活火山であり,主峰は 注連寺があります。鉄門海上人の即身仏や 山形県側に位置する熊野岳(1,841m)ですが, 多くの文化財が遺されており,あわせて参 宮城県側の五色岳(1,672m)にはエメラルド 拝する予定です。 色の「御釜」と呼ばれる火口湖があります。 山麓には火山の恩恵である温泉が両県の裾 野に数多く存在し,スキー場も多く,四季 を通して両県における主要観光地の 1 つと なっております。 その一つである蔵王温泉周辺には,過去 の噴火に伴う火山泥流に起因した地すべり が数多く見られ,代表的なものとして鴫の 谷地地すべりやトヤ沢地すべり,小倉地す べりなどがあります。これらの地すべり地 では酸性土壌対策を施した対策工事が検討 図-8 志津地すべり全景 され,集水井工や杭打工に採用されており ます。また,腐食に対する機能低下を防止 するための大口径排水ボーリング工の採用 や,既設集水井の更新(小口径集水井の内挿) も行われております。 蔵王火山については,「蔵王樹氷火山総 合研究所」が設立され,地球温暖化などが 樹氷の形成に与える影響のほか,蔵王の火 山活動に関する歴史を調査し防災などに役 図-9 七五三掛地すべり全景 立てる計画です。これらの新たな知見につ いてもご紹介することができればと思いま す。 現地見学会では地すべり地での対策工事 の状況を見学するとともに,蔵王温泉の湧 出箇所や御釜なども巡りながら,活火山蔵 王の今を巡る予定です。 ただし,蔵王火山の活動状況によっては 一部コースを変更する場合がありますので 図-10 注連寺本堂 予めご了承ください。 ★C コース「蔵王火山周辺の地すべり<鴫の 谷地・トヤ沢>」 山形市の東方にそびえる蔵王連峰は,東 北地方の中央を南北に連なる奥羽山脈にお -9- 10 図-11 鴫の谷地地すべり:集水井補 修状況 図-12 写 真 -6 夏 の 五 色 岳「 御 釜 」 - 10 -
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