待ったなし!在宅医療 薬局を認知症の困りごとが気軽に相談できる場に

薬局は地域の健康情報拠 点とし
て、認知症で困っている人たちの
薬局を認知症の困りごとが
気軽に相談できる場に
相 談 に 乗 る 場 であ る べき ─。
仙台市 薬 剤 師 会では、認 知 症の
疑 いが ある人や 家 族 に、早 期 発
見・治 療 のため の 働 き掛 け や 服
薬 の自己 中 断を防止する取り組
みを行っている。
一般社団法人仙台市薬剤師会は、
「認知症患者および
けでは生き残れないという危機感を持ち、薬局の機能を
その家族の支援活動アクションプラン」を策定し、2014 年
高めたいと考える若い世代が集まってくれた」と同薬剤師
4月から薬局での認知 症の早期発見や服薬継 続率のサ
会副会長の高橋將喜氏。薬局が介入することで認知症の
ポートに取り組んでいる。薬剤師が相談に乗ることで、早
早期治療や服薬中断防止に貢献したいと意欲的に考える
期の治療に結びつけることができたなど成果を上げてい
メンバーが取り組み始めたという。
る。
ワーキンググループでは、定期的なミーティングを重ね
て、認知症の早期発見と服薬継続の支援について、薬剤
● 調剤だけではない薬局の機能を模索
認知症患者や家族の支援を会として始めた理由につい
師の介入の流れと、介入のためのツールを作成した。
● 早期発見・治療は声掛けから
て、同 薬 剤 師 会 会長 の北 村 哲 治氏は、
「認知 症 患 者は
年々増えている。85 歳以上では 4 割が発症するともいわ
早期発見のためには、薬局で高齢者やその家族に「認
れており、国家的な対 策も進められているが、そのプロ
知症でお困りではないですか」と声を掛けて相談を受け
ジェクトに薬剤師が含まれていないことが多い。高齢者が
ることから始める。認知症の疑いがあれば、地域包括支
多く訪れる薬局は、健康拠点として認知症対策に貢献で
援センターやかかりつけ医に相談するためのサポートを行
きると考えた」と語る。
う。
同薬剤師会では、会員薬剤師に呼び掛けてワーキング
声を掛ける上で、認知症の疑いを見逃さず適切に対応
グループを立ち上げ、①薬局を訪れる人たちの中から認
するために、ワーキンググループでは初期認知症の早期
知症の疑いがある人を拾い上げ早期治療に結びつける、
発見マニュアルとして、
「薬局における認知症の気づき場面
②抗認知症薬が処方されている患者の服薬継続をサポー
集」を作成した。
トする─ の 2 つを目標に掲げて取り組むことを決めた。
場面集には、薬局を訪れてから帰るまでの間の患者の
ワーキンググループは手上げ式で募集したところ、20 代、
行動の中で、①入店から処方箋受付まで、②薬を交付し
30 代の若い薬剤師を中心に約 20人が集まった。
「調剤だ
薬の説明や状態を聞くとき、③一般的な会話、④店内で
の様子─などの場面に分け、それぞれ認知症が疑われ
る言動について示している。さらに、患者がある行動を
とったときにどのように声を掛けるか、その声掛けに対す
る患者の返答についてどう判断すべきか、得られた情報
を元にどうアクションを起こすかなどが具体的に記載され
ている。
仙台市薬剤師会会長の北村哲治氏
2 ファーマシストぷらす 2015 No.2
例えば、毎回、服薬指導時に同じ薬の質問をしてくる人
図1 認知症早期発見のための患者様フォローリスト「声かけリスト」
イニシャル 気付き日
気付きポイント
図 2 病識を高めてもらための説明ツール
次回
(具体的に)その後の状況フォロー欄
来局日 声かけ日 判定 対応
1 N・A 5/14 身だしなみが不自然 6/14
△
2 N・A 6/17 薬が違うと言う
7/17
△
3 N・A 7/16 薬が飲めてない
8/22
×
4 N・A 8/22 薬が足りない
9/22
×
仙台市薬剤師会宣言
本人らしく得意なことが続けられる環境作りを目指す
今出来ていること
5
6
★ 得意なこと?
7
★ 大好きなこと?
仙台市薬剤師会 WG 作成資料
には、
「薬がたくさんあって大変ですよね。飲みやすいとか
加齢によるもの忘れ
ケアの力+薬剤師の力
(多職種連携)
★ 自慢していること?
★ 生甲斐にしていること?
★ やりがいを感じていること?
気に入っている形の薬はありますか」と、剤形の好みにつ
治療した場合
いての質問をしてみる。それに対して具体的で納得できる
アルツハイマー型認知症
(何も治療しない場合)
答えが返ってきた場合は認知症の疑いは薄いが、関心が
ないような素振りを見せたり、的外れな回答を示した場合
仙台市薬剤師会 WG 作成
には要注意といった具合だ。同薬剤師会では、会員の薬
局で実際に始める前に、このマニュアルに基づいてロール
説明を行い、病識を高めてもらい服薬へのモチベーション
プレイを行い、対応を学んだ。
を持続してもらうように働きかける方法を検討し、その際
気になる患者に声を掛けたら、その患者のフォローリス
に使用する説明ツールを用意した。ツールには、アルツハ
トを作成する。フォローリストには、気になる言動が見られ
イマー型認知症の場合、服薬による治癒は見込めないが、
た日付と、その言動がどのようなものだったか、さらに対
治療をしない時に比べて、病気の進行を遅らせられるこ
応した薬剤師による判断、どのように対応したかなどを記
とが、グラフで示されている(図 2)。ここでの働きかけの
載する。薬剤師の判断の欄は、認知機能に問題ないと判
ポイントは、本人が得意なこと、大好きなこと、自慢に思っ
断した場合には○、疑わしい△、かなり疑わしい×の 3 段
ていること、生甲斐にしていること、やりがいを感じてい
階で評価する(図 1)。
ることなど、今出来ていて大切にしていることに着目して
状態が日によって違うことがあり、1、2 回の観察では確
いる点だ。
信が持てないことも多い。
「地域包括支援センターへの相
薬局の窓口や在宅で、ツールを使いながら、本人が大
談や専門医師への受診を勧めるに当たっては、何回か観
切にしていることを聞き、それらを続けられる期間をでき
察し、複数の薬剤師が見て状況を把 握することも必要。
るだけ長く維持するために服薬が大切であること、服薬
フォローリストはそのためのツール」と高橋氏は説明する。
中断によって病気が急激に進行すると、それらができなく
記録があれば、ケアマネジャーや医師に、いつどんな状態
なる時期が早まることを説明し、患者や家族に服薬継続
だったのかを具体的に伝えられる。薬局では、このフォ
の重要性を感じてもらう。
ローリストをその患者の薬歴といっしょにファイルするな
どして管理する。
● 自己中断を防ぐには?
● 検討会で問題点を解決
同薬剤師会では、さらに認知症に関する学術研修会を
開催して認知症の薬物治療やケアのための知識を高めた
一方、抗認知症薬の服薬継続率向上についての取り組
うえで、2014 年 4月から認知 症に関する取り組みを本 格
みは、服薬の重要性を繰り返し説明することが中心とな
的にスタートさせた。さらに毎月、実施状況や実施した結
る。
「認知症には根本治療がなく、薬の効き目が実感でき
果、出てきた困難事例を解決するために、認知症患者へ
ないことから、中断してしまう人が多い。それを防ぐには、
の取り組み状況検討会を実施している。
服薬の重要性を理解してもらう、いわゆる服薬アドヒアラ
検討会では、
「認知症に関する問題を抱えている人にう
ンスを高めることが重要となる」
( 北村氏)。
まくアプローチできない」
「包括支援センターとの連携が
そこで、ワーキンググループでは、抗認知症薬が処方さ
難しい」などの声が挙がった。そこで、薬局内に認知症コー
れた初回と3カ月後、6カ月後と定期的に認知症に関する
ナーを設置し、そこに立ち寄り興味を示した人に声を掛け
ファーマシストぷらす 2015 No.2 3
期集中支援チーム設置推進モデル事業を実施している。
仙台市では、認知症の人やその家族に早期から関わる
「認
知症初期集中支援チーム」を配備し、早期診断・早期対
応に向けた支援体制を構築することを目的としたモデル
地区に指定されたが、そのチームに全国で初めて薬剤師
仙台市薬剤師会副会長の高橋將喜氏
が参加した。安倍晋三首相の肝煎りで今年1月からスター
トした「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」
るといった方法を取ることを提案。コーナーには、行政の
では、
「早期診断・早期対応のための体制整備」や「医療・
認知症に関する告知や製薬会社のパンフレットなどの認
介護等の有機的な連携の推進」などの具体的な施策の中
知症に関する情報を集約させた。
「ワーキンググループの
に薬局の役割が盛り込まれている。
「今以上に多くの薬局
メンバーの薬局で実際に試してみて、うまくいった方法を
が関わっていけるように、会員薬局に働きかけていきた
紹介し、会員の取り組みがスムーズに進むようにサポート
い」と北村氏は話している。
している」
( 高橋氏)。
包括支援センターとの連携に関しては、高橋氏や同副
会長の上畑日登美氏がその地域の薬剤師とともに包括支
援センターを訪問して、取り組みの主旨や概要を説明。認
知症関連で悩みを抱えている患者や家族を薬局で見つけ
たときには、包括支援センターに連絡をすれば対応しても
らえるように話し合い、連携の一歩とした。
「一度、顔を合
わせておくことで、連絡や相談がしやすくなる。実際に訪
問することも大切」と高橋氏は話す。
● 新オレンジプランでは
薬局の役割に期待
仙台市薬剤師会では、以前から、薬局を健康情報の発
信および受信拠点とし、市民と行政の間の橋渡しをする
役割を果たす場所であるべきと考えてきた。
「行政は健康情報などを多く発信しているが、必要な人
に必要なタイミングで届いていないことも多い。薬局には、
健康に関する情報に関心を持つ人が多く集まるため、相
談を受けながら、行政の情報を伝える役割を果たすこと
ができる」
(北村氏)との考えからだ。そこで、
「ハートヘル
ス プラザ」と名付け、薬局の健康情報拠点化を構想して
きた。この「認知症患者およびその家族の支援活動アク
ションプラン」は、その一環といえる。北村氏は、
「今後は、
認知症に取り組む薬局を増やすとともに、認知症での成
功事例をもとに、認知症以外の疾患についても情報コー
ナーを設置し、気軽に相談できる場にしていきたい」と話
す。
一方で北村氏は、認知症の国や地域での取り組みに薬
剤師が関わっていくことの重要性も説く。厚生労働省は
「認知症施策推進 5 か年戦略(オレンジプラン)」を策定。
オレンジプラン推 進のための方策の1つとして認知 症初
4 ファーマシストぷらす 2015 No.2
事例検討会で報告されたケース
薬剤師による早期発見で
早期の服薬開始につなげる
■事例①
糖尿病や高血圧で受診中の 82 歳男性。妻は骨粗
鬆症で受診中。薬局で 2 人の処方箋を応需している。
ある日、妻が薬局内の認知症コーナーに展示してある
資材を手に取って見ていたため、薬剤師が声を掛け
たところ、夫に認知症が疑われる旨の相談を受けた。
2 週間後に夫が来局した際に、声を掛けたところその
場を取り繕うような反応を示し慌てて帰ってしまっ
た。その後、何度か妻からの相談を受けたため、専
門医による精査を受けるよう勧めたところ、大学病院
を受診。抗認知症薬が処方された。
■事例②
高脂血症で受診中の 77 歳女性。夫が来局し薬局
内に常設の認知症コーナーから認知症について勉強
したいと資料を持ち帰った。それらの資料により、も
の取られ妄 想や近似記憶障 害など該当する症状が
あったので、病院の認知症疾患センターを受診した。
認知 症と診断され、抗 認知 症 薬が処方されたもの
の、主治医から詳しい説明がなかったため、娘さんが
薬局に相談に訪れた。薬局では、認知症の見守り記
録帳などの資材を利用して生活の様子を確認、記録
することを勧め、家族には明るく見守るように指導。
困ったことは薬局に相談できることを知ってもらっ
た。