「公立高校が国際バカロレア認定校を目指す際の課題」の整理 服部 1 はじめに 俊之 の場所に移動する形式が一般的である。したがって、 本研究において、IBの制度を研究することによ 全ての科目ごとに教室を用意する必要がある。さら り、公立高校がIB認定校を目指すにあたっての課 に、今回の調査研究で訪問したIB認定校では、そ 題が明らかになってきたので、ここに整理する。 れぞれの教室に、それぞれの科目に必要な教材が全 2 認定校に向けての課題 て生徒数分整備されていた。また、ICT機器も充 (1)ヒト 実しており、設備投資にはかなりの費用が費やされ ~教員の確保と育成~ これまでDPの使用言語は、英語、フランス語、 る。今回訪問したシンガポールのIB校には、最新 スペイン語であったが、日本語で授業を行う「日本 の3Dプリンタが複数台、大型のレーザーカッター 語DP」が大幅に認められることになり、言語に対 などが常備されていた。ヒトの問題にも関連するが、 するハードルはかなり下がった。しかし、6科目中 教員にはより高度なICTスキルが求められる。 2科目は英語で授業を行わなくてはならないという (4)カリキュラム実施上の課題 制約がある。そのため何らかの科目を英語で授業が 日本の学習指導要領における1単位時間が 50 行える教員を確保する必要がある。そのうえ、IB 分であるのに対して、DPは 60 分である。この 認定校において授業を行う教員は、必ずIBO主催 10 分の差を埋めるための工夫が必要である。ま のワークショップを受講しなくてはならない。日本 た、授業時数に関してはSL(スタンダードレ 国内でのワークショップ開催は、定期的ではないこ ベル)が2年間で 150 時間、HL(ハイヤーレ と、1回のワークショップで開催される科目が限ら ベル)が2年間で 240 時間とされており、学習 れていることなどから、資格取得のハードルはかな 指導要領の1単位35時間から考えれば、SL り高い。海外でのワークショップに参加することも で5単位、HLで7単位と1科目あたりの単位 可能であるが、日本語では行われない。 数はかなり大きい。10 分の差、必要とされる授 さらに、公立高校においては、教員の人事異 業時間数を考慮して教育課程を編成する場合、 動がある。IB認定校においては、この点にお 週あたりの授業時間数が30時間では不足する いて教育委員会の十分な配慮が必要となる。 ことになる。 (2)カネ ~十分な資金確保~ DPのカリキュラムには、教科科目の学習以 IB認定校を目指す大きな障害として資金面 外にTOK(Theory of Knowledge)、EE(Exten での課題も上げられる。まず、IB認定校は、IB ded Essay)、CAS(Creativity,Action,Servic Oに対し年間1万ドル以上を支払う必要がある。ま e)が必須である。このうちCASが認定校を目 た、教員養成のためのワークショップへの参加には、 指す上では課題となる。Creativity(創作)、A 600 ドル以上が必要となる。支払いに関しても、通常 ction(行動)については、日本における部活動 ドル建て・キャッシュカード払いであるので、管理 に類似しているため指導しやすいが、Service 機関の支払制度をこれに対応させる必要がある。 (奉仕)に関しては、多くの場合、校外での奉 (3)モノ ~設備と教材~ 仕活動が中心であり、生徒自らが主体となり企 授業1講座あたりの生徒数は、多くても20人 画・調整を行うことが求められるため、指導に (ほとんどがそれ以下)であることが、国内外のI 工夫が必要となる。 B認定校訪問を通じて分かった。しかも、日本の学 校のように教員が教室を移動するのではなく、それ ぞれの科目ごとに教室が用意されており、生徒がそ 43
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