胸骨圧迫心臓マッサージのみに単純・短時間化した心肺蘇生法講習会の

シンポジウム2
胸骨圧迫心臓マッサージのみに単純・短時間化した心肺蘇生法講習会の効果の検討
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国立循環器病センター心臓血管内科、2京都大学医学研究科予防医療学分野、3大阪大学医学部附属病院高
度救命救急センター、4大阪医科大学附属病院救急医療部、5大阪府立泉州救命救急センター、6済生会千里
病院千里救命救急センター、7京都大学医学研究科医学教育推進センター、8行岡病院
石見 拓1、川村 孝2、西山 知佳2、梶野 健太郎3、林 敏雅4、西内 辰也5、林 靖之6、平出 敦7、行岡 秀和8、
野々木 宏1、J-PULSE investigators
心停止症例を救命するためには、迅速な救急システム
の起動、 迅速な心肺蘇生、 迅速な除細動、 迅速な2
次救命処置からなるChain of survival(救命の連鎖)が
有効に機能する必要がある。中でも心停止から除細動
までに要する時間がもっとも重要な予後の規定因子
であり、迅速な除細動が可能な救急システムの確立が
重要視されている。昨今、病院で提供される医療の質
に注目が集まり、施設の安全対策に対しても厳しい目
が注がれるようになっている。心停止をはじめとした
院内での急変症例に対する対応は施設の安全対策を
評価するうえで目安となるものであり、安全管理上も
っとも重要なテーマのひとつである。こうした中、医
療施設にもAED(Automated External Defibrillator、自動
体外式除細動器)が積極的に配備され、その効果が期
待されている。
しかし、救命率を上昇させるためには、AEDをただ
設置するだけでなく、有効に機能させる必要がある。
AEDを有効に機能させるためには、職員の救命意識の
向上を図り、AED到着までの間、心肺蘇生を実施でき
るようにするための心肺蘇生法講習会の開催など
AEDを救急システムの一環として捉えた上での取り
組みが必要である。しかし、多くの施設では、こうし
た職員に対する心肺蘇生法教育は十分になされてい
ないのが現実である。その原因のひとつとして、現在
の心肺蘇生法講習会が標準的なもので3時間と多大な
時間と労力、コストを要するものであるということが
あげられる。短時間で開催可能な講習会を開発するこ
とができれば、多くの講習会の開催が可能となり、よ
り多くの職員の救命意識の向上、心肺蘇生手技の向上
が期待でき、心停止症例の救命率向上に寄与すると考
えられる。
従来、心肺蘇生法は人工呼吸と胸骨圧迫心臓マッサ
ージから構成されるものとして普及してきたが、近年、
心停止後の心拍再開、救命率向上には、質の高い胸骨
圧迫を絶え間なく行うことが重要であると強調され
ている。動物実験では、胸骨圧迫に伴う冠灌流圧の上
昇は胸骨圧迫を連続して行うことで得られ、胸骨圧迫
を中断すると一気に灌流圧が低下してしまうこと、胸
骨圧迫を中断することで救命割合が大きく低下する
ことが報告されている。こうしたことから胸骨圧迫継
続の重要性が強調されるとともに、人工呼吸を行うこ
とで胸骨圧迫が中断される弊害も指摘されている。実
際の蘇生現場では人工呼吸をはじめとした他の蘇生
処置による中断もあって、有効な胸骨圧迫は蘇生処置
経過中の半分の時間もなされていないことが明らか
にされ、問題となっている。こうした中、心肺蘇生実
施率向上をもたらすことが期待されるとともに、実際
の蘇生現場で胸骨圧迫を確実に連続して行うことを
可能とする単純化した心肺蘇生法として胸骨圧迫の
みを行う蘇生法の有用性に注目が集まっている。胸骨
圧迫のみの人工呼吸を省略した蘇生法は、人工呼吸の
抵抗感を減らすだけでなく,手技が単純・u桙ナあり,
習得・維持し、実行することが容易であると期待され
ており、また、短時間で指導・習得することが可能で
あると考えられる。
我々は、1998年5月より、大阪府(人口 880万
人)全域を網羅する形で救急隊員の関わる全ての病院
外心停止症例の蘇生に関する記録を国際的に標準化
されたフォーマットであるウツタイン様式に基づい
て、記録・集計するプロジェクトを継続し、病院外心
停止に関するさまざまな疫学的なデータを報告する
とともに、地域の救急システムの検証を行ってきた。
このプロジェクトで得られたデータをもとに、①居合
わせた市民による心臓マッサージのみの心肺蘇生法
が従来の人工呼吸付の心肺蘇生法と同様に心原性病
院外心停止患者の転帰改善と関係していること、②心
臓マッサージのみの心肺蘇生法が心停止発生から15
分程度までであれば、人工呼吸付の心肺蘇生法と同等
の効果を有することを明らかにした。さらに、こうし
た臨床データをもとに、胸骨圧迫のみに単純・短時間
化した講習会プログラムを開発し、その効果を検証す
るとともに、胸骨圧迫のみの心肺蘇生法の普及啓発活
動を進めている。院内で発生する心停止症例に対して
は、短時間のうちに、救急蘇生チームが現場で心肺蘇
生を引き継ぐことが可能であり、第一発見者は確実な
救急システムの起動、胸骨圧迫の実施に集中すること
が現実的であると考えられるため、胸骨圧迫のみに単
純化した心肺蘇生法教育を活用することは有用であ
ると考えられる。ここでは、こうした胸骨圧迫のみに
単純化した講習会の有用性と今後の展望について述
べる。