私がフルボキサミンを使う理 由

特別企画
2015年9月17日
シリーズ
提供●共和薬品工業株式会社
伝えたい経験知
ワ
ケ
私がフルボキサミンを使う理由
日本初の選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)フルボ
キサミンの登場から16年が経過,SSRIはうつ病に対する薬物
東洋英和女学院大学
治療における第一選択の地位を確立している。一方,近年で
人間科学部教授
横浜尾上町クリニック院長 はうつ病の病態はますます多様化しており,その1つに社交
や ま だ
か ず お
山田 和夫 氏
不安症 ※ などの併存がある。そのため,併存疾患の有無を考
慮した適切な治療介入と薬剤選択が求められる。近年のうつ
病患者急増の背景や患者像,社交不安症の併存,うつ病治療
における SSRI の位置付け,フルボキサミンを上手に使いこな
す上でのポイントについて,東洋英和女学院大学人間科学部
教授 / 横浜尾上町クリニック院長の山田和夫氏に解説しても
らった。
※「社会不安障害」
は,日本精神神経学会において2008年に「社交不安障害」
に,2014年
にDSM-5の翻訳に当たり「社交不安症」
と名称変更されました。
日本精神神経学会監修:DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル,医学書院,2014年
私がフルボキサミンを使う理由
注意すべき副作用と対処法
日本初のSSRIであり使用経験が豊富
服薬初期の嘔気・悪心→スルピリドや消化管運動機能改
社交不安症など不安症状に対応可能
善薬の併用
食欲不振や胃腸症状が見られるケース→フルボキサミン
フルボキサミンの使い方
服用前にスルピリド+消化管運動機能改善薬から開始,
初期 用量
(50mg)から開始して経 過を見ながら最 大
胃腸症状が改善してからフルボキサミンの服用を開始
150mgまで増量,症状の改善が得られたら漸減しながら
肝機能・腎機能が低下傾向にある高齢者→慎重に増量
服薬を終了する。治療終了までの期間はうつ病では6∼
12カ月,社交不安症では3∼6カ月
つ病は働き盛りの年代に多いだけでなく,子供や高
齢者にも顕著な増加傾向が見られます。
社会構造の変化に伴いうつ病患者が急増
うつ病患者の様相にも変化が見られるようになりま
した。従来のうつ病患者は,性格的には執着気質と
21世紀に入ってから,うつ病患者が急増していま
す。厚生労働省が3年ごとに発表している患者調査
いわれ,几帳面,真面目で秩序を重んじる努力家タ
によると,うつ病の入院・外来総患者数は1999年の
イプが多く,責任感から過剰適応に陥りうつ病を発症
23.9万人から2002年には44.1万人,2008年には70万
するパターンが大半でした。一方,いわゆる現代型
人,2011年には70.4万人となっています。急増の理由
などと呼ばれるうつ病患者は,若干過保護な環境で
としては,過重労働の増加,非正規雇用者の急増な
成長した人が,社会に出たとたんにグローバリゼー
どの雇用形態の不安定化など,常に強いストレスに
ションによる競争激化と過重労働にさらされ,メンタ
さらされる社会構造の変化が考えられます。また,う
ル不調に陥るパターンが多く,自己愛が強く他罰的な
1
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プロセスマゼンタプロセスイエロー
プロセスイエロープロセスブラック
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傾向にあり,自ら保障を求めて受診するケースが多い
症などを併発する可能性があることも見逃せない事
という特徴があります。そのため,適応障害の1つと
実です。
も捉えられますし,打たれ弱さの現れともいえます。
精神疾患の中でも不安症の兆候は幼少期から見ら
れ,社交不安症の初発は思春期であることも明らか
になっています
(図2)
。特に,就活期に社交不安症
うつ病より有病率が高い社交不安症
を抱えている場合,本来の能力を発揮できず人生を
うつ病の年間有病率は
5%といわ れ ています
図1 うつ病と社交不安症の併存の割合と社交不安症の合併症
が,社交不安症は13%と,
うつ病
社交不安症
社交不安症の合併症
うつ病を大きく上回りま
気分症
70%
す。うつ病が治りにくい
パニック症
40%
全般性不安症
38%
強迫症
11%
うつ病患者の
社交不安症患者の
といわれる理由の1つに
28%
70%
は,不安症の併存があり
に社交不安症が併存2)
にうつ病が併存1)
アルコール依存症 24∼35%
ます。不安症に併存する
社交不安症の有病率
うつ病は過眠・過食・強
社交不安症とうつ病併存
い
90%は社交不安症が先に発症1)
怠感を示す非定型う
つ病が多い傾向がありま
す。社交 不安 症患者は
〔1)Van Ameringen M, et al.
1991; 21: 93-99
2)Kessler RC, et al.
2009; 17: 1-13より山田和夫氏作図〕
1年有病率
8%
生涯有病率
13.3%
(National Comorbidity Survey)
70%が後にうつ病を発症
するという報告もあり
(図
図2 恐怖症(Fear Circuit Disorder)
の発症年齢と併存症(Comorbidity)
1)
,社交不安症を持つ
うつ病とのComorbidity
うつ病患者の治療に際し
ては,社交不安症の治療
寛解率
を主体と捉えてうつ病治
56.3%
72.0%
(Grant, et al. 2005)
(Moffittt, et al. 2007)
24.1%
21.1%
(Trivedi, et al. 2006)
(Trivedi, et al. 2006)
73.0%
(Kessler, et al. 2006)
17.2%
(Trivedi, et al. 2006)
療を行うという視点が重
広場恐怖を伴う
パニック障害
要となります。
社交不安症は,人前に
出て話す,食べる,書く
などの場面で強い不安や
GADとのComorbidity
15.0%
25歳前後
全般性不安障害
恐怖を感じ,動悸,震え
SADとの
Comorbidity
8.4%
や発汗,めまいなどの身
体症状が現れることで日
常生活に大きな支障を来
社交不安障害 (Grant, et al. 2005)
特定の恐怖症との
Comorbidity
Comorbidity
5.4%
38.1%
(Grant, et al. 2005)
10歳前後
します。性格上の問題で
特定の恐怖症 (Grant, et al. 2005)
あれば経験を積むことで
次 第に慣れ ていきます
が,社交不安症の場合は
分離不安
(Kessler, et al. 2006)
Comorbidity
75.2%
(Kessler, et al. 2006)
(Kessler, et al. 2006)
何らかの
Comorbidity
不安障害との
7.5%
Comorbidity
(Grant, et al. 2005)
54.1%
こもりや,学齢期では不
登 校 の 原因にもなりま
す。社交不安症を放置す
Comorbidity
66.5%
分離不安との
Comorbidity
23.5%
5歳前後
慣れることがなく,引き
(Kessler, et al. 2006)
人見知り
Comorbidity
93.6%
(Kessler, et al. 2006)
(Grant, et al. 2005)
ると,うつ病だけでなく,
不安体質
過活動膀胱や過敏性腸
症候群,アルコール依存
(貝谷久宣氏による, 2010)
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に悩む若者に対しては「就活までに治らなければ薬物
薬から開始,胃腸症状改善後にフルボキサミンを開
療法を考慮しましょう」
と伝えています。
始します。その後,フルボキサミンは症状に応じて1,
2週間ごとに漸増して最大用量150mg/日まで増量,
スルピリドは1カ月程度で終了します。フルボキサミ
フルボキサミンが選択される理由
ンでの治療だけでは治り切らないうつ病に対しては,
2015年 9月 17日
用いる前に少量のスルピリド+消化管運動機能改善
大きく左右してしまいます。そこで私は,
“あがり症”
主にセロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬
私はうつ病も社交不安症も脳の病気であり,適切
(SNRI)
やミルタザピンの追加を考慮します。
な治療によって治せることを強調して伝えています。
端的に言えば,うつ病は脳神経の疲労,社交不安症
うつ病の場合は服薬2,3カ月でほぼ寛解し,半年
は扁桃体の過敏反応です。私はこれらに対する薬物
から1年程度で服薬を終了します。社交不安症の場
療法ではフルボキサミンを中心に処方しています。
合は服薬1カ月で改善し,6カ月程度で治療終了しま
うつ病の薬物療法に関しては,日本初のSSRIであ
す
(図3)
。
り,使用経験が豊富でさまざまな場面に対応可能で
待たせない,選ばない,断らない,そして治す
あることがフルボキサミンを用いる理由です。SSRI
については,その他,体重増加を配慮しセルトラリン
厳しい社会情勢が続く中,メンタル不調を訴え精
を女性患者に用いたり,副作用はやや多いものの比
較的効果発現が早い印象があるパロキセチンを用い
神科クリニックを受診する人がますます増加すると危
ることもあります。
惧しています。個々の患者の重症度はさまざまです
社交不安症の薬物療法においては,フルボキサミ
が,うつ病は地獄の苦しみと表現されるほどつらいも
ンは欠かせません。2005年に日本で初めて「社会不安
のであるため,私は「待たせない,選ばない,断らな
障害※」
の効能が追加されて以来,フルボキサミンで
い」
を方針に掲げています。そのためには,受診を希
治せると知った患者が全国から当院を訪れ,これま
望する数多くの患者の状態を的確に把握し,適切な
でに2,000人以上が社交不安症の治療を受けて90%は
治療に導くための診療体制が必要です。
私のクリニックでは,受診を希望する患者からの電
完治しています。
話相談の段階で,受付スタッフが現在の症状,症状
服薬初期の嘔気には
スルピリドや消化管運動機能改善薬を併用
の経過,過去の通院歴,家庭構成などの患者背景に
フルボキサミンの服薬方法については,初めの1週
察前に自記式の質問票に記入してもらうなど,診察
間は少量から開始し,服薬による問題がないことを患
前に診断に必要な多くの情報を取りまとめています。
ついて十分に時間をかけて聞き取り,来院時には診
者自身にも確認してもら
い,安心して継続できる
図3 フルボキサミンの使い方
ようにしています。フル
症状改善が安定したら減量・休薬
ボキサミンはうつ病の場
最大150mg/日まで症状に応じて増量
合,服 薬 初 期に嘔 気・
悪心の発現が時にありま
す。こうした症状は食欲
フルボキサミン
不振のある場合に発現
しやすいので,食欲不振
初期投与量から開始
を伴う場合には,フルボ
スルピリド/
消化管運動機能改善薬
キサミンの服薬開始時に
少量のスルピリドや消化
食欲不振・胃腸症状がある場合はフルボキサミン服用前から
治療終了の目安
うつ病:6∼12カ月
社交不安症:3∼6カ月
管運動機能改善薬など
を併用しています。ある
1カ月
いは,フルボキサミンを
2カ月
3カ月
(山田和夫氏監修)
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プロセスブラック
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2015年 9月 17日
治療難渋例や夫婦間の問題など人間関係上の障壁が
ますよ」
と患者に伝えていますし,事実,診察ごとに
背景にある場合には,臨床心理士による調整や心理
症状は改善しています。
療法も行っています。服薬心理教育も臨床心理士に
そのように治療効果を医療者と患者の間で明確に
担ってもらっています。
共有できるようになったのは,薬物療法の進歩による
私は診察室に患者が入る前にそれらの情報を把握
ところが大きいと感じます。病態像を的確に捉え,適
した上で,患者の顔つき,足取りや座り方などから病
切な薬剤を選択する上でも,あらゆる薬物に関する
像や重症度を捉え,薬物療法の必要性とその意味を
知識をしっかり持つことが重要であり,特にフルボキ
説明します。さらに服薬方法,治療期間の目安につ
サミンの使い方を熟知する意義は大きいといえます。
いて説明します。問診の目的は,単に時間をかけて傾
聴することではなく,治療に取り組む上での信頼関係
メッセージ
動画を公開
しています
の構築であり,患者に対して精神科医がなすべきこ
とは,うつ病や社交不安症を治すことに尽きると私は
考えています。
「次の診察時には今より良くなってい
URL: http://www.amel-cns.net/
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