1 タイトル ドイツの脱原発がよくわかる本 著 者 出 版 社 発 売 日 ページ

タイトル
著
者
ドイツの脱原発がよくわかる本
日本が見習わってはいけない理由
かわぐち
え
み
川口 マーン 恵美
AE
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E
出 版 社
草思社
発 売 日
2015 年 4 月 22 日
ページ数
222 頁
福島第一原発事故(2011 年 3 月 11 日)後、全国の原発が次々と停止したため、日本の
エネルギー・電力の需給環境は非常事態で、政府のエネルギー政策は迷走している。
3.11 以前、電源構成の 37%を占めていた原子力がほとんど使えなくなった。そのため火
力中心のエネルギー構造となり、燃料輸入が 100 億円/日も増加して日本の貿易収支を押し
下げている。
原発に関する多くの国民の関心は、一つは、大震災後、原発がいきなり全部止まって、
発電のための原油輸入料金と液化石油ガスの支払いが激増し、日本の貿易収支が赤字に転
落したことである。
日本が貿易赤字に苦しむ主因が、原発停止にあることは全国民が知っているのに、反原
発の世論を前にして、誰も大きな声で言わないことである。
もう一つは、事故から 4 年も経つというのに、危険性の科学的確定も、エネルギー政策
としてのメリット・ディメリットに関する客観的な見通しも一向に出ていない。評者のよ
うな素人が原発問題の概要を知ろうにも、結論先にありきの本ばかりで、信頼できる啓蒙
書すらほとんどない。一体日本の知識界は何をやっているのだろうか。
著者が、読者に伝えたいことは本書の後半にうまくまとめられている。著者の狙いは、
・ドイツの脱原発をけなすことではない。
・ドイツの脱原発が失敗だと言いたいわけではない。
著者が本書に託しているのは、日本は絶対にドイツの脱原発を見習ってはならない。な
ぜなら、ドイツと日本の置かれている状況があまりにも違うので、日本がそのままドイツ
の真似をすれば、必ず命取りになるからだという。
さて、さっそく目次を見てみよう。
1
まえがき リスクマネージメントとは何か?
1.ドイツが脱原発を決めるまでの紆余曲折
2.脱原発を理解するための電力の基礎
3.ドイツの夢見た再エネが直面した現実
4.今、ドイツで起こっていること
5.ドイツの再エネ法が 2014 年に改正されるわけ
6.
「再エネ先進国」を見習えない理由
7.原発はどれだけ怖いのか?
8.ドイツの放射性廃棄物貯蔵問題はどうなっているか
9.日本の原発を見に行く
10.日本の電力供給、苦闘の歴史と現在
11.ドイツの脱原発を真似てはいけない理由
12.日本の豊かさを壊さない賢明な選択を
あとがき
参考 Web サイト・参考文献
かっての民主党政権は、CO2 排出量を削減するために原子力の比率を 50%以上に引き上
げようとしていた。その民主党が事故が起こった途端に、原発停止に急転換してしまった。
民主党政権が残した負の遺産のもう一つが、再生可能エネルギー(再エネ)施策である。
再生エネと原子力は「正」と「邪」という対立概念でとらえがちだが、再生エネにして
も電気料金値上げという国民の負担が生じる。この光と影の両面を冷静に議論する政党が
国民に一番信頼される。
自民党は公約で、原発依存度を可能な限り低減させる一方で、原発を「安全性の確保を
大前提に、ベースロード電源との位置づけの下、活用する」と明記している。
リスクマネージメントとは、リスクをゼロにすることではない。リスクがあるというこ
とを前提に、ありとあらゆるリスクに対して、事前に対策を立てることである。
リスクを限りなく少なくするための努力はする。しかし、出発点はあくまでも、どんな
に努力しても、リスクはゼロにできないという認識である。
日本人は、リスクというとまず自然災害が頭に浮かぶ。地震のリスクをゼロにすること
は不可能だ。だから、我々はそれに対しての対策を考える。
ところが、人為的ミスに関しては、ゼロにできるような思い込みが強い。何かをする限
り、リスクはゼロに出来ないのである。
自然界にリスクが存在するのと同じように、すべての技術にはリスクが存在する。すな
わち、いかなる技術システムでも、100%の安全はあり得ない。
2
福井地裁は、関電大飯原発 3、4 号機の運転差し止めの判決を下した。この判決文は、100%の安
全がなければ、原発の運転を認めないという論旨で、これは、科学否定の暴論である。
最高裁は、かって伊方原発の安全審査を巡る訴訟の判決で、
「原発問題は高度で最新の科学的、技術的な
知見や、総合的な判断が必要で、行政側の合理的な判断に委ねられている」との判決を下している。すな
わち、司法が関わるべきではないとしているのである。
ドイツは、早急に脱原発を決めたがために、今多くの困難を抱え込んでいる。ドイツも
日本と同じで、メディアは常に、脱原発の決定は正しいということを強調する。それは原
則としては確かに正しいが、それは非常に長いスパンで見ればの話である。
ドイツはこれからも、どれほどの困難にぶつかっても、きっとこの道を何が何でも進ん
でいくだろう。彼らには、その能力と、根性と、そして、財力がある。だから、修正に修
正を重ねながら、いつか立派に成功に導くと思うと著者はいう。
しかし、日本では、いかに能力と根性と財力があっても、それを成功に持っていくこと
は、今のところ出来ない。それに気づかず盲信すれば、まず財力が尽きる。経済力がなく
なった国は、瞬く間に国際資本に食い荒らされて、いつかギリシャのようになってしまう。
その理由の幾つかを挙げておこう。まず、日本の再生エネ開発は注意深く進めるべきだ
と言ったのは、ドイツの経済エネルギー省エネルギー政策担当局長であったと著者はいう。
というのは、日本には、電気が足りなくなったとき、あるいは、余った時に融通をつけ
・・・・・。
合える隣国がない。
また、日本には自前の資源がない。原発がなくなったおかげで、2013 年の火力発電は、
全電力量の 88.3%にも達した。老朽火力をすべて動員して、点検の暇も惜しんで電力を調
達している。おかげで 13 年の燃料費は、10 年比で 4.1 兆円も増えた。
日本人の金が、4.1 兆円も燃料費となって消え、海外へ流出したのである。2014 年にな
って、石油の国際価格は下がったが、安心する理由にはならない。石油やガスに関しては、
・・・・・。
日本に決定権のない状況は、一向に変わらないからである。
日本のエネルギーの自給率は 6%程であるが、ドイツは自前の燃料を持っており、発電の
電源は、約 45%がドイツ国内産の石炭と褐炭によるものである。日本で大規模停電が一度
・・・・・。
でも起これば、産業の立地としての価格は下がり、企業は一目散に海外に逃げていく。
国が貧乏になるとはどういうことだろうか。日本には「貧乏になっても良いじゃないか」
という人が結構いる。もちろん、質素に暮らすのは、その人の自由である。しかし、質素
に暮らすか、贅沢に暮らすか、その選択ができるのは、国が豊かであるからだ。国の富を
さら
外国資本に 浚 われたら、そんな選択はできない。
現実の世界では、貧乏になった国には世界の投資家が群がる。そして、その海外の投資
家と結びついている一部の日本人だけが、莫大な利益を得ることになるだろう。日本は安
3
い労働力を提供する国になり、今まで何だかんだといいながらも保たれてきた国民間の信
頼も、見る見るうちに崩れていく。そして、ハイテクは外国に流出する。日本の技術を欲
しがっている国は、世界にたくさんあるからである。
2013 年 10 月、トルコで日本とトルコ政府が原発 4 基の受注で合意した。韓国、中国と競り合う中、
耐震性などの日本の技術力が評価された結果だった。受注を受けた交渉が進められていた時期に起
きたのが 2011 年 3 月の東電福島第一原発事故だった。事故直後、日本政府関係者は「あれほどの事故のあ
った日本が、恥ずかしくて原発を売ることは出来ない」と交渉の停止を申し入れた。しかし、トルコ政府
高官は「われわれは日本が困難を乗り越える姿を見たい。1 年待てばいいのか」と日本への信頼が変わら
ないことを伝えたという。
福島第一原発事故後も、原発ラッシュは新興国を中心に続いている。2013 年 1 月現在、近隣諸国でも
稼働中
建設中
計画中
中国
15
32
23
韓国
23
4
5
台湾
6
2
-
などとなっている。イギリスでは地球温暖化対策などを理由に、凍結していた原発新設を 30 年ぶりに再開
する計画を打ち出している(日本原子力産業協会調べ)
。
「原子力を学ぶ留学生の受け入れ人数を増やして欲しい」とベトナムから申し入れがあった。ベトナム
は 30 年までに 10 基の原発を建設する方針で、技術者育成が急務になっているという。日本政府は、アラ
ブ首長国連邦(UAE)と原発の安全性向上に協力するという覚書も交わしている。
経済成長の著しい新興国は、エネルギー確保のために原発建設に乗り出している。2030 年までに最大で
350 基程度増えるとの予測もある。
日本の技術やノウハウを世界の原発の安全性向上にどう生かすのか。新興国の日本への期待は大きい。
上記の記事を読むと、世界の原発の安全に貢献していこうという技術者が勇気づけられ
るような雰囲気をつくるべきである。前向きなミッションを持った技術者集団ができれば、
日本はこの分野で最強になれる。つまり、原発を有力なインフラ輸出商品とすることがで
きる。官民合同で後押しするような政策を決定する空気に変えていく必要がある。
日本で反原発派は、
「足るを知る社会へ」とか「成長より成熟へ」という種類の聞こえの
いい理念とともに、エネルギーの縮小が語られる。
しかし、その問題の答えは明らかである。エネルギーを縮小すれば、日本の経済水準は
まるまるその分縮小し、
多くの人が生きていけなくなる。エネルギー使用量は基本的に GDP
と対応する。
「エコ」とか「地球にやさしい」などというスローガン以前に、想像を絶する
規模の産業が失われ、技術も失われる。
したがって、政治的には、エネルギー使用量は基本的に維持し、GDP の伸長に伴い発展
4
させるという選択肢しかないのである。
朝日新聞は日本のリベラル論調をリードしている。即ち、朝日は反原発である。朝日は報じないが、
朝日と緊密な関係にあるニューヨーク・タイムズは、社説で「原子力に危険が伴うのは事実だ。し
かし、過去に起こった原子力事故は石炭、ガス、石油といった化石燃料が地球に及ぼすダメージとは遠く
及ばない」と分析しており、さらに「再生エネルギーが化石燃料に取って代わる日ははるかに先であり、
それまでは原子力が大気中の温室ガス増加対策で貴重な発電手段であり続ける」と結論づけている。
朝日や世間一般の論調はこの点をあえて無視している。CO2 を排出しない主要電源は原発と水力しかな
いことが分かっているのに、一切触れない。
大震災の翌年、週刊朝日に「黒い森」と題して、ドイツ礼賛の連載記事を見かけた。日本の反原発イン
テリやマスコミによってドイツの現状がいかに歪められているかを示す格好の材料であった。その要旨は、
ドイツ人から恣意的に集めたコメントを編集し、原発のない生活がいかに素晴らしいかを、読者に刷り込
もうとする朝日の何時ものやり方だった。
脱原発国ドイツでは、隣国フランスやチェコの原発から電気を未だに輸入し続けているという自己矛盾
を抱えていることも、一切触れない。
資源小国である日本にとって、原子力発電のあり方は国家の存続を左右するような問題
である現実から目を背けるわけにはいかない。
また、原発をなくすことは、エネルギー安全保障が脅かされ、研究者の流出にもつなが
る。核融合や放射線治療など原子力の研究は今後も必要だ。将来の世代にあらゆる選択肢
を残せるよう、最低限の規模を維持すべきだはないだろうか。
ドイツの太陽光発電の問題点もさることながら、日本の太陽光発電の問題点も留意すべ
きだ。ドイツと同じく海外勢が日本に注目している。というのも、日本は主要国の中で、
電力を最も高く買い取ってくれるからである。
今、日本では再生可能エネルギーの普及という目標は脇に追いやられ、「制度を使ってい
かに儲けるか」というマネーゲームの様相を呈している。
原発を動かさなくてはいけないと主張している人達は、別に原発が好きで言っているわ
けではない。原発を動かさず、ドイツのように産業国の根幹であるエネルギーを他国に依
存している限り、国が疲弊するだけでなく、本当の意味での安全保障は達成できないから、
原発を動かさなくてはならないと言っているのである。
しかし、原発に反対している人達は、原発を止めて、どうして産業を回していくのか、
どうやって国民の生活を守っていけるのか、その解決法を一切出さない。
再エネでは、産業は回らない。産業が回らなければ国民の生活は守れない。日本は沈没
・・・・・。
してしまう。助けてくれる国はどこにもいない。
2015.6.24
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