世紀初頭ドイツにおける技術者の原価計算について 20

【研究報告Ⅱ①―中嶌】
20 世紀初頭ドイツにおける技術者の原価計算について
中嶌道靖(香川大学)
Ⅰ
はじめに
最近刊の『ドイツ経営経済学の 100 年』 (Lingenfelder, M.(Hrsg.), 100 Jahre
Betriebswirtschaftslehre in Deutchland 1898-1998, Verlag Franz Vahlen München (1999))
において、シュバイツァーとヴァゲナー (Schweitzer, M. & K. Wagener) によって「会
計の歴史」という一章が書かれている。そのなかで 19 世紀から 20 世紀にかけてのド
イツ原価計算史はドルン(Dorn, G.)の文献*)を基礎に次のように叙述されている。
ドイツ原価計算の発展段階として、
① 原価計算の起源から 20 世紀の転換期まで
② 20 世紀初頭から民族社会主義の始まりまでの発展
③ 民族社会主義期の発展
④ 現在までの発展
という四段階があり、当然のことではあるがこれまでのドルンの論述同様に上記の②
の時期において、①の時期における「経営簿記」(Betriebsbuchhaltung) としてではな
く簿記 (Bilanzrechnung) とは分離した体系的かつ科学的な原価計算 (Kostenrechnung)
へと発展したと論じている。さらにその重要な役割を経営経済学者のシュマーレンバ
ッハ (Schmalenbach, E.) が主に果たしたとその業績を高く評価している。
本発表は、このようなドイツでの一般的な原価計算史の認識に対して、ドイツ技
術者協会雑誌上で、20 世紀初頭のほんの短い期間に現れた「技術者による原価計算
に関する叙述」の史的分析を通して新たなドイツ原価計算史を提示し、経営経済学の
定義をもとにした一連の発展過程とは違った視点を見出そうとするものである。
Ⅱ 原価計算史における技術者の役割とドイツの技術者について
(1) これまでの原価計算史における技術者の役割とその評価
(2) ドイツ企業における「技術者 (Ingeniuer)」の存在意義
製造現場の変化と職長 (Meister) に対する技術者の登場
ドイツにおける技術的知識人としての技術者の社会的地位とその特質
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【研究報告Ⅱ①―中嶌】
Ⅲ
ドイツ技術者協会雑誌 (Zeitschrift des Vereines Deutscher Ingenieure) 掲載の原価
計算に関する論文について
この雑誌において原価計算全体について最初に触れている叙述は、私見によれ
ば、ベンジャミン (Benjamin, L.) による「製造業での原価見積もり実践」に関
する論文 (1903 年) である。その後、主に賃金計算について触れる短い論説が
いくつか散見でき、1908 年にメルツァー (Meltzer, H.) による原価計算に関する
数十頁にわたる一連の論文が現れる。この数年間の短い論説の検討も含めて、特
に他と比べて大著であるこのメルツァーの論文の検討を通してドイツ技術者およ
びこの協会の原価計算に対する当時の考え方を考察する。
Ⅳ
結びにかえて
本研究の今の段階ではその対象が時期的にも短く限定しており、さらにドイツ技
術者協会雑誌という非常に限られた資料範囲に基づいた考察であるので、早々にドイ
ツ原価計算史における技術者の役割とその特色、そしてドイツ原価計算自体の特性を
普遍的に結論付けることは不可能ではある。しかしながら、アメリカにおいて技術者
が管理会計の生成発展に役割を果たした際に自らの知識と経験とアイデアを発表する
場としてアメリカ機械技術者協会 (ASME) の機関誌を使ったようにドイツの技術者
が自らの意見を発表する場として協会誌を利用し、どのように原価計算について論じ
ていたかを考察することは重要である。
将来的には、企業の原資料を含む更なる資料の収集と検討を通して、またさらに
アメリカ・イギリス・ドイツの比較検討によって、ドイツ原価計算の独自性と「技術
者による原価計算」のもつ共通性を明らかにしその歴史的含意を明らかにしたい。
《注》
*)
Dorn, G., Die Entwicklung der industriellen Kostenrechnung in Deutschland, Berlin 1961
(久保田音二郎監修・平林喜博訳『ドイツ原価計算の発展』同文舘, 1967 年).
Dorn, G.,Geschichdiche Entwicklung der Kostenrechnung, in: W. Männel (Hrsg.), Handbuch Kostenrechnung, Wiesbaden 1992, S. 97-104.
Dorn, G.,Geschichte der Kostenrechnung, in: K. Ghmiekwicz, M. Schweitzer (Hrsg.),
Handwörterbuch des Rechnungswesens, 3.Aufl., Stuttgart 1993, S.722-729.
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