アメリカが G7 の脱石炭の道を先導する中で孤立する日本

プレスリリース Embargoed until 13.00 CET, 21st October, Bonn conference centre
アメリカが G7 の脱石炭の道を先導する中で孤立する日本
歴史的な脱炭素化宣言を実現する
石炭の段階的な廃止に向けた G7 のパリへの道
ボン:本日、G7による石炭火力発電への依存からの脱却の進展を評価する初め
ての報告書が発表された。1 か国の例外を除く先進 7 か国の脱石炭の取り組みを
先導するアメリカが第 1 位となった。新たに 27GW(2,700 万 kW)の石炭火力
発電設備の建設計画をもつ日本は孤立し、最下位の7位につけた。
6位のドイツは、既存の石炭火力に対する追加的な対策が必要であることを認
識し、前進に向けて苦闘している。5位、4位、3位となったイタリア、カナダ、
イギリスは、今後 10 年をかけて連携して石炭の段階的廃止に向かう立場を取っ
ている。2位のフランスでは、政府が株式の一部を保有する半国営の電力会社
ENGIE (元 GDF スエズ)が新規の石炭火力発電への投資から撤退することを発表
した。しかし、COP21 の議長国となるフランスには、電力会社による石炭火力の
海外投資からの撤退や、国内の石炭火力の廃止を約束するなど、さらなる取り組
みが求められる。
今年6月、すべての G7 参加国は、今世紀末までに世界経済の脱炭素化を図る
と宣言した。この宣言は、先進 7 か国が危険な気候変動を回避するために、石炭
火力発電の段階的廃止を先導することを意味している。本日発表されたスコアカ
ード(得点表)の評価は、先進7か国がどのようにこの宣言の実現に向けた挑戦
を開始したかを評価し、各国の発電部門の石炭利用の現状を明らかにしている。
E3G のプログラム・リーダー、クリス・リトルコットは次のように語る。
「G7 の全参加国において、石炭火力発電所の建設計画を撤回したり、既
存の石炭火力発電所を閉鎖するなど、石炭からの脱却を図ろうとする構
造的転換が起きている。日本は、石炭の段階的廃止をめざす他の参加国
とは対照的に、石炭に執着し、孤立している」
「イギリス、カナダ、イタリアには、今後数年の間に既存の石炭火力発
電設備の閉鎖を加速させる大きな可能性がある。イギリスでは、老朽化
した石炭火力発電所が閉鎖の時期を迎えている。カナダでは、オンタリ
オ州に続いて、アルバータ州でも脱石炭化をめざしている。イタリアで
は、電力会社の Enel が 2030 年までに石炭火力発電所を閉鎖する必要性
を認めた。これらの G7 参加国が連携すれば、世界で石炭からの転換を図
る政治的な推進力を生みだすことができる」
各国の現状の分析と、その結果に基づくスコアカードは、気候ネットワーク、
NRDC(自然資源保護委員会)の協力により、環境シンクタンクの E3G が行い、
気候変動の国連交渉が行われているドイツ・ボンで発表された。COP21 の気候交
渉は、G7 サミットから半年後の今年 11 月末から開催される。このような状況に
おいて、先進 7 か国の脱石炭化への取り組みは、気候の安定を守るコミットメン
トを世界に示す重要性をもつ。
この分析は、G7 参加国が石炭の段階的廃止を加速させるという前向きなシグ
ナルを送ることになる。日本を除けば、石炭火力発電からの転換は 2010 年から
始まっている。市場の変化と各国政府の政策の連動は、この潮流が継続していく
ことを示している。もはや新規の石炭火力発電所が経済成長をもたらす事例は見
られない。
カナダ、アメリカ、イギリスでは、「CCS(二酸化炭素回収貯留技術)なくし
て石炭火力の新設なし」という政策が実施に移され、市場でも新規の石炭火力は
投資としての魅力を失っている。フランス、ドイツ、イタリアでは、新規の石炭
火力への投資意欲が喪失しており、ドイツの電力会社が行った投資は巨額の損失
を生み、資産価値の低下を招く事態になっている。これらの国々では、まだ石炭
火力を公式に規制してはいないが、その実現は容易であろう。
日本は完全に異端児だ。日本では現在、27GW(2,700 万 kW)の石炭火力発電
所の計画があるが、そのほとんどはまだ着工していない。よりクリーンなエネル
ギーへの移行を図る他の主要経済大国とは対照的に、日本は高額なのに不良資産
になる投資に固執するリスクに陥ろうとしている。
気候ネットワーク理事の平田仁子は、次のように言う。
「新たに 48 もの石炭火力発電所を計画している日本は、先進 7 か国のな
かで石炭火力発電の拡大をめざす唯一の国になった。日本は明らかに他の
G7 参加国に遅れを取っている。『クリーン・コールは(気候変動の)解
決策だ』という議論は、もう止めるべきだ。石炭産業が地球を危険にさら
すことは誰もが知っている。日本は世界の潮流に目を向け、気候を安定さ
せるためだけでなく、国際的な孤立を避け、国内でグリーン経済を育成す
るためにも、現在の政策を転換すべきだ」
ドイツは、石炭火力の段階的廃止が不可避であることを認識しながら、その実
施に苦闘している。新規の石炭火力発電所は、巨額の損失を抱えたまま運転を開
始した。石炭火力発電の削減をめざす政府の方針に電力会社が反対しているため、
政策の実現は難しい。政府は電力会社が所有する褐炭火力発電所に 2.7GW(270
万 kW)の発電枠を与えたため(発電枠の割当を使い切った発電所から閉鎖され
ることになり)、2020 年には閉鎖されることになっている。しかし、国外に建
設する石炭火力発電に対する支援は、依然として行われている。
E3G ベルリン代表のサブリナ・シュルツは、次のように語る。
「石炭火力の段階的廃止の政治的議論はドイツで始まっている。しかし、
新しい提案には EU 委員会の承認が必要であり、それが承認されるかは不
透明だ。そのうえドイツには、2020 年以降の明確な計画がない。電力会
社や投資家には、この問題に関する明確な見通しが必要であり、影響を
受ける地域や労働者には、変化に適応するための時間や支援が必要であ
り、ドイツの気候政策は信頼の回復を取り戻すことが求められている」
石炭からの撤退という事実を示すと、先進 7 か国では、2010 年から現在まで
に 63GW(6,300 万 kW)もの石炭火力発電所の計画が撤回された。さらに、2020
年までに 124GW(2 億 12,400 万 kW)の老朽化した石炭火力発電所の閉鎖が予定
されている。
アメリカは、既存の石炭火力の設備容量の巨大さゆえに大きな困難を抱えてい
るにもかかわらず、この問題をリードしている。同国の石炭火力発電所の
288GW(2 億 8,800 万 kW)もの設備容量は、他の G7 参加国の設備容量の 2 倍以
上である。それにもかかわらず、アメリカは、石炭火力による大気汚染の軽減や、
再生可能エネルギーへの投資の枠組みをつくる新しい政策の下、2020 年までに
80GW(8,000 万 kW)以上の石炭火力発電所の閉鎖を発表するなど、G7 参加国の
なかで最も進んだ取り組みを行っている。
アメリカはまた、石炭火力への資金援助を制限する国際的な努力を先導してい
る。2015 年 9 月、アメリカと中国の両国は、中国が国内外で炭素集約度の高い
エネルギープロジェクトへの資金援助を厳格に管理することを含む一連の気候変
動対策を発表した。
NRDC(天然資源保全委員会)の国際局長、ジェイク・シュミットは、次のよ
うに語る。
「アメリカは再生可能エネルギーへの飛躍的な転換を図ろうとしており、
アメリカの主要な電力源は再生可能エネルギーになるだろう。国外の石
炭火力発電所への最大の公的資金拠出国だったアメリカはまた、(石炭
火力発電への公的資金の拠出からも)撤退している」
スコアカード報告書は、G7 参加国が COP21 までの間に、(エルマウ・サミッ
トで行った)石炭からの撤退を図るという宣言を実行に移すための対策を提案し
ている。
- 日本は、最初に取るべき根本的な行動として、新規の石炭火力発電所の計画
を撤回する必要がある。
- すべての G7 参加国は、即時に、日本、ドイツ、イタリア、カナダの約束を
取りつけ、パリ会議の前に、OECD の輸出信用機関が石炭プロジェクトへの
国際的な開発資金の制限を強化するために協力すべきである。
- カナダ、イギリス、イタリアには、パリ会議の前に、石炭火力の段階的廃止
の明確な工程を約束するチャンスがある。この 3 か国の状況は似ており、石
炭からの移行を効率的に行い、脱石炭化の潮流を広げるために共同で取り組
める可能性がある。
- COP21 の議長国であるフランスには、いつ、どのように国内の石炭火力を閉
鎖し、国営の電力会社が海外で行う石炭火力の開発を削減するかという圧力
がかかっている。
政策と市場動向の両方の観点に基づき、スコアカードの順位は、次の 3 つの基
準(石炭火力発電のリスク、既存の石炭火力の閉鎖、国外の石炭火力への資金援
助)に基づいてつけられた。このスコアカードは、石炭の段階的廃止を実現する
ための各国の対策の進展の透明性を確保するため、毎年、あるいは重要な機会に
再評価する予定である。
注:
1.スコアカードの完全版と2ページの各国評価は次のホームページに掲載している。
http://www.e3g.org/showcase/coal-phase-out
2. 本報告は、E3G の G7 参加国それぞれの国内外の石炭に関するパフォーマンスを評価した
ものである。詳細な分析は、G7 サミットに際し Oxfam の報告書‘Let them eat coal’への分析協
力として行われ、その更新版は、E3G のウェブサイト http://www.e3g.org/showcase/coalphase-out に掲載している。
3. Carbon Tracker, Coal: Caught in the EU Utility Death Spiral, June 2015
http://www.carbontracker.org/wp-content/uploads/2015/06/CTI-EU-Utilities-Report-v6-080615.pdf
E3G について www.e3g.org
E3G は、気候外交とエネルギー政策に関する独立した専門家グループであり、経
済の低炭素化への移行を加速させる活動を行っている。
E3G は、この移行を加速させ、成果を出すために分野を横断した連合体を組織し
ている。
E3G は、地球規模の視野と領域をもつヨーロッパの団体である。現在、ロンドン、
ブリュッセル、ベルリン、ワシントン DC に支部があり、中国でも活動している。
連絡先
E3G:
Chris Littlecott, Programme Leader
[email protected]
+44 (0)7920 461 812
Sabrina Schulz, Head of E3G Berlin
[email protected]
+49 (0) 1578 686 7370
Kiko Network: kikonet.org
平田仁子、理事
[email protected]
+81-90-8430-7453
Natural Resource Defense Council: nrdc.org
Jake Schmidt, International Program Director
[email protected]
+1 202-425-1515