ジェイムズ・キャッスル展

ジェイムズ・キャッスル展
2015 年 6 月 13 日(土)〜 7 月 18 日(土)
Untitled, Found paper, soot, 14.3 x 25.1 cm © James Castle Collection and Archive LP
<作品紹介>
ジェイムズ・キャッスル(1899-1977)はドローイング、コラージュの立体作品、ハンドメイドの本などを、独学でその一生を通じ制作
しました。生まれた時から耳が聞こえなかった彼は、通常のコミュニケーションの方法をもたず、また正式な美術教育も受けませんでし
たが、70 年近くもの作家人生で類を見ない様々な作品群を残しました。ドローイングには暖炉のすすと唾液を混ぜた独自の「インク」
を使用し、尖った棒や丸めた綿などを使って描きました。とらえがたさ、鈍さと鋭さ、動き、新鮮さ。素材と関わる際の触覚を生かした
ドローイングは、非常に豊かで様々なテクスチャーとトーンを持っています。これらのドローイングはキャッスルが過ごしたアイダホ州の
地方における、彼の身の回りのもの—農園の風景、家の中、人物、静物など—を、20 世紀前半のアメリカ北西部に共鳴するノスタルジ
アや遠い記憶を思わせる、まるで色あせた写真のように描いています。また、彼自身 10 歳で耳が聞こえなくなったアーティストのジョセフ・
グリグリーが言うように、これらは「人間存在のはかない瞬間、そして何十年にもわたる様々な経験に支えられた豊かな日常の凝縮」で
もあるのです。
キャッスルはガーデン・バレーという地域で彼の家族が営んでいた商店と郵便局で手に入った、食べ物や製品の包装、マッチ箱、手紙
等を使って、コート、人物、動物などのコラージュの立体作品も制作しました。これらはユニークで、中にはシュールなものもあります。
2009 年のニューヨーク・タイムズ紙で美術評論家のロベルタ・スミスは、
「構造、動くパーツ、そして見慣れたフォルムの抽象化の理解
において、アレクサンダー・カルダーがワイヤーを扱ったように、キャッスルは卓越したやり方で段ボール紙を使った」と評しました。ま
た彼は観察や語りによって事物を描写するだけではなく、見たものを分解し、彼自身のやり方で時には抽象的に再構築していました。
当時流通していた大量消費文化によるイメージが作品には認められるため、主流であったポップアートや前衛芸術との共通点が想像でき
ますが、彼の一貫した表現方法の模索は彼自身の独特の感覚で行われ、全くオリジナルな視覚言語を生み出しました。著名なキュレーター
であるリン・クックは以下のように述べています。
「キャッスルの制作においては無尽蔵の好奇心が中心にあったように思われる。彼の作品を前にするとその好奇心、驚きの感
覚に圧倒される。まずは作品の様々な豊かさ、そして技術の素晴らしさに目を奪われ、そしてゆっくりと、それらの作品が提
示する知的な挑戦の深さと複雑さに気づくのである。圧倒される驚きとは違い、好奇心は認識上の情熱だ。それに感染したら
もう、“ 目は見ることだけで満足できなくなる ”」
。
キャッスルの豊かな作品群との出会いは、特別な対話、そして想像の純粋な喜びを与えてくれます。
<この展覧会について>
この度小山登美夫ギャラリーは、日本で初めてとなるジェイムズ・キャッスルの展覧会を開催いたします。キャッスルはタイトルや日付をそ
れぞれの作品に残しませんでした。本展ではモノクローム、カラーを含む 30 点近くの彼の重要なドローイングと、コラージュの立体作品
「無
題(バスケット)
」を展示いたします。
<プロフィール>
ジェイムズ・キャッスルは 1899 年、アメリカ・アイダホ州のガーデン・バレーに生まれました。生まれた時より耳が聞こえなかった彼は、
1910 年から15 年の間アイダホの Gooding School という聾・盲学校に通います。生涯ずっとアイダホ州に住み、3 つの家で生活しま
した。キャッスルの作品が初めて知られたのは、オレゴンのポートランドの美術学校に通った甥のボブ・ビーチによって教授たちに紹介さ
れた際であり、この後アメリカ北西部の美術館やギャラリーなどで作品が展示され、評価されます。キャッスルの死後、増え続ける依頼
に応えきれず、キャッスルの家族は 20 年間もの間作品を公開しませんでしたが、1998 年にニューヨークのアウトサイダー・アートフェ
アにおいて再び作品が紹介され、その後は全米をはじめ各地で展覧会が多数開催されています。主な展覧会に「James Castle: House
Drawing」
(ドローイングセンター、ニューヨーク、2000 年)
「
、James Castle: A Retrospective」
(フィラデルフィア美術館、2008 年)
、
「James Castle: Show and Store」
(Museo Nacional Centro de Arte Reina Sofia、マドリッド、スペイン、2011 年)
、
「Untitled:
The Art of James Castle」
(スミソニアン美術館、ワシントン D.C.、2014 年)があります。また 2013 年のヴェニス・ビエンナーレの
「The Encyclopedic Palace」
、
「Rosemarie Trockel: A Cosmos」
(ニューミュージアム、ニューヨーク、2012 年、その後 Museo
Nacional Centro de Arte Reina Sofia、
マドリッド、
スペイン、サーペンタイン・ギャラリー、ロンドンへ巡回)などで展示。現在ニューヨー
クのホイットニー美術館で開催中の展覧会「America Is Hard To See」に出展中です。作品はニューヨーク近代美術館、ナショナル・ギャ
ラリー
(ワシントン D.C.)、フィラデルフィア美術館、
スミソニアン美術館等多数の重要なパブリックコレクションに収蔵されています。キャッ
スルの作品については、以下を含む重要な文献が多数、またアーティストのテリー・ウィンタース、詩人のジョン・ヤウ、美術評論家のロバー
ト・ストア等が出演するドキュメンタリー映画「James Castle: Portrait of an Artist」
(ジェフリー・ウルフ監督、2008 年)があります。
Lynne Cooke. “Castle’s Place.” James Castle Show and Store, Museo National Centro de Arte
Reina Sofia, Madrid, 2011
Ann Percy. “Unfolding the Familiar: James Castle Reintroduced.” James Castle: A
Retrospective, Philadelphia Museum of Art in association with Yale University Press, 2009*
Joseph Grigely. “Right at Home: James Castle & Slow Life Drawing.” James Castle, The
Douglas Hyde Gallery Trinity College, Dublin, 2010
Roberta Smith. “Recreating His World in Soot, Paper and String.” Arts. New York Times,
March 27, 2009
Untitled (house), Found paper, color of unknown origin, 12.4 x 17.1 cm
Untitled (figure), Found paper, color of unknown origin, soot,6.3 x 10.2 cm
Untitled (school), Found paper, soot, string, 8.6 x 7.9 cm
©James Castle Collection and Archive LP
* 協力:The James Castle Collection and Archive