講演会概要 - フード特区機構

講演「アジアの中の北海道」要旨
日時:平成27年3月10日(火)
場所:TKP 札幌カンファレンスセンター6階
講師:㈱オーシャン代表取締役 井上雅之
◆梅光軒の歩みと海外事業
・株式会社オーシャンは2006年に設立。社名
の由来は、梅光軒が海を渡ることを目的として
作ったためオーシャン(海)とした。
・翌2007年に初の海外進出を果たす。シンガ
ポールのボートキー地区に1号店を開店。
・開店に先立ち、2006年9月にシンガポール
を視察したが、人の活気と高い消費意欲は、日
本のバブル景気を彷彿させる熱があった。即座
に出展を決め、同年11月に再渡航。
・日本と違い、シンガポールを初めとするアジア各国では、take over と言って、営業中の既存
店が持っている(不動産の)権利について、半年後に辞める、1年後に条件が合えば売る、と
いった情報を不動産エージェントが持っている。
・現在の1号店における前オーナーから、1階と2階の2フロアと付属設備一式込みで売りたい
との連絡があったが、即座に高いと言って価格交渉した結果、購入に至った。
・購入後には造作工事を行う訳だが、今でこそ厨房機材メーカー等の現地体制が整っているもの
の、当時は少なく、なかなか企業を見つけることができなかったが、丁度同じ時期にシンガポ
ールに進出してきた企業と会うことができ、造作工事を実施してオープンに漕ぎつけた。
・資本金から開店準備費用を差し引いた残りをランニング費用に充てる算段でスタートしたが、
1日の客数が40~50名で、赤字が半年間続き、ランニング費用が底をついたら撤退を覚悟
していた。
・市場が無尽蔵であれば、資本も無尽蔵に必要となる可能性がある。したがって、海外ビジネス
に取り組む際には、上限を決めて取り組むべき。
・国内で商売している時は自社や自店のことしか考えていなかったが、海外で商売するうちに、
旭川のため、北海道のため、さらには日本人として負けたくない、といった気持ちが出てくる。
それが赤字であっても頑張ろうという気持ちの支えになっていた。
・そうして頑張るうちに7ヶ月目に転機が訪れた。梅光軒の常連だったシンガポールのテレビ局
「チャンネル8」のディレクターから取材依頼があり、取材を受けることになった。今では日
本ラーメンは28ブランド50店舗以上あるが、当時は梅光軒を含め3ブランドしかなく、中
華ヌードルの延長線程度のイメージしか持たれておらず、認知度は低かったため、味ではなく、
歴史や作り方に焦点を当てた特集を組みたいということであった。
・(テレビ局のラーメン特集の反響を受けて)その翌日から来店客が増加。さらに、口コミや現
地グルメ雑誌「エキピュア」の日本ラーメントップ10で1位を獲得するなどし、業績はV字
回復。当初見込みより少し早く、3年半で初期投資を回収することができた。
・アジアにおいて日本ブランドは強い、という話は確かにあるが、日本ブランドとして本当に市
場に参入したと認められる為には、「日本初」であり、どこでも良いので「アジアの1か国で
実績・結果を出している」ことが必要。
・日本人はビジネスマインドにおいてアジア諸国とは異なる。日本人は判断が遅く、一様に、商
談で決定しなければならない条項を持ち帰り検討してメール等で後日連絡すると言うなど、や
る気を疑うといった声を聞く。
・日本人は、一度白と言ったら、後から黒と言ってはいけないと思いがちだが、そうではない。
アジア人は白か黒であり、白と言ったものを、後で平気で黒と言うこともある。従って、皆さ
んがアジアで商談をする際には、まず「出来る」と言って欲しい。日本人は最初から出来るか
どうか断言をしないが、そこでやる気をみられている面もあるのではないか。
・シンガポール2号店は、オーチャード高島屋の地下2階にある。シンガポール高島屋の社長が
1号店の常連で、シンガポールにおいても日本ブランドが浸透してきたので、高島屋のフード
ディビジョンでの取扱を、日本ブランドに変更していきたいと考えていたようであり、出店の
誘いがあった。経費について便宜を図ってもらう代わりに、おいしいラーメンを作ることが条
件と言われて応諾し、2010年に開店した。
・こういった人との繋がりがアジアでビジネスをする際の素晴らしさ。日本人同士が情報や人脈
を伝え合いながら海外で生き残っていく状況下では、より親密なコミュニケーションが図られ
るというのが海外ビジネスの大きな特徴ではないか。
・次は香港店。シンガポール高島屋2号店と同じフロアにあるジェイソン(東南アジア最大のス
ーパーマーケット「ウェルカムグループ」のアッパーがジェイソンという業態)のマネージャ
ーから、香港出店の誘いがあり、2012年8月、ハイサンプレイスで出店。カウンター10
席(11坪)に対し、家賃は高いが、東アジアにおけるブランディングを行う上で、香港は重
要な地域と捉えている。なぜならば、香港で認められた商品や業態は、中国大陸に連動してい
くため。中国への直接参入はリスクがあるので、香港経由で目指すという三か国間貿易も1つ
の手段と言える。
・同年秋には、台北にも出店。フード特区機構から道内企業の台湾進出へ向けたプロモーション
強化等について協力要請があり、その取組みに協力する中で、台湾に進出している北海道系の
企業と会う機会に恵まれ、出店に至った。
・実は台北には以前から目をつけており、8年前に台湾の百貨店で10日間の物産展に参加。1
日250食、10日間で2,500食を見込んで現地に輸出したが、1日20食しか売れなか
った。結局商品が余ったので、子分けにして無料で食べてもらい、アンケートをとった。これ
が後の台湾出店に際し、大きな財産となった。
・翌年も物産展に参加したが、やはり売れなかったため、相場を調べることにした。少し値下げ
してもほぼ変わらず1日20食。さらに値下げしても少し増える程度だったが、もう一段階値
下げしたところで100食売れたことで、当時の台湾人が日本ラーメンに出せる許容範囲を知
ることができた。ただ、その値段ではビジネスにならないレベル。以降、開業まで毎年続けて
物産展に参加した結果、最終的には8年前に設定した以上の価格でも最大1日900食売れた。
・アジアの市場は常に進歩している。3年前に認められなかったものが3年後は分からない。ま
た、競合も多くなるので、先行者利益、早く行ってポジショニングを作る、ビジネスになりき
らないうちに参入する、ということが重要ではないか。
◆これからの海外事業
・日本もアジアの一員であるにも関わらず、
「日
本」対「アジア」と考える人が多いのではない
か。また、日本より2~3ランク下であるとい
う意味合いも込めて「アジア」と呼んでしまっ
ている。ところが 1 人当たりGDPを見ても、
日本は香港、シンガポールに敵わないうえに、
ダブルインカム世帯が多いことを考えると、彼
らは相当な消費力を持っている。
・このようなアジアのA~D国の中で、D国で
事業をやろうと思う企業はいないの
ではないか。実は、今の梅光軒の醤
Price
Work for Hour
油ラーメンはD国。香港やシンガポ
(値段)
(時給)
ールが豊かな理由は、値段にほかな
A国(香港)
1,493
785
らないことが、これらの数字を見る
B国(シンガポール)
1,319
615
と一目瞭然である。
C国(台湾)
799
521
・アジアの中の北海道で考えた時に、 D国(日本)
730
850
国というよりもどの地域でビジネスをするべきか。次は、V・I・P(ベトナム・インドネシ
ア・フィリピン)と言われている。インドネシアはハラルの問題があって豚骨のラーメンは分
が悪いため、ベトナム、フィリピンへの進出を考えている。市場調査をすると、ベトナムは、
値段と時給の差が非常に大きい地域ということが分かるし、消費意欲も高い。
・外食産業が成功するためにはGDP5,000$以上と言われており、ベトナムはまだ届いて
いないので、やや時期尚早ではあるが、先行者利益とポジショニングをとらないと、中華系に
やられてしまう可能性がある。