世界遺産 富士山の環境と観光のあり方検討会 中間

世界遺産 富士山の環境と観光のあり方検討会
報
告
書
平成 27 年 5 月
目 次
世界遺産 富士山の環境と観光のあり方検討会 提言 ...................................... 1
1.はじめに ........................................................................ 5
2.検討対象エリア ................................................................. 13
3.調査体制 ....................................................................... 15
4.富士山および山麓地域における現状の課題と取組状況 ............................... 19
4.1 環境 ..................................................................... 19
4.1.1 環境に対する提言 ..................................................... 19
4.1.2 環境に関する現状 ..................................................... 20
(1)富士山における夏季のマイカー規制 ......................................... 20
(2)富士山五合目等におけるライフラインの現状 ................................. 25
(3)山麓地域における自動車交通の状況 ......................................... 27
(4)富士山および山麓地域における清掃活動の取組み ............................. 31
(5)その他の環境保全に関連する地元の取組み ................................... 32
4.1.3 環境に関する課題 ..................................................... 39
4.2 景観 ..................................................................... 41
4.2.1 景観に対する提言 ..................................................... 41
4.2.2 景観に関する現状 ..................................................... 42
(1)湖岸 ..................................................................... 42
(2)山麓地域における建築及び屋外広告規制 ..................................... 53
(3)山麓地域内における沿道景観 ............................................... 57
(4)歴史・文化遺産の保全状況 ................................................. 67
(5)民間活力を活用した景観・街並み改善 ....................................... 68
4.2.3 景観に関する課題 ..................................................... 79
4.3 観光 ..................................................................... 81
4.3.1 観光に対する提言 ..................................................... 81
4.3.2 観光に関する現状 ..................................................... 82
(1)富士山における登山者数・観光客数 ......................................... 82
(2)山麓地域における観光客数 ................................................. 89
(3)山麓地域における宿泊客数 ................................................. 98
(4)富士山及び山麓地域における歴史・文化観光 ................................. 99
(5)交通アクセス ............................................................ 103
(6)国際観光地にむけた取組み ................................................ 117
4.3.3 観光に関する課題 .................................................... 140
4.4 安全対策 ................................................................ 143
4.4.1 安全対策に対する提言 ................................................ 143
4.4.2 安全対策に対する現状 ................................................ 144
(1)雪崩・土砂・落石対策 .................................................... 144
(2)火山噴火対策 ............................................................ 149
(3)その他の災害対策 ........................................................ 152
(4)災害時の情報提供のあり方 ................................................ 154
4.4.3 安全対策に関する課題 ................................................ 157
5.富士山および山麓地域における交通ネットワークのあり方 .......................... 159
5.1 交通ネットワーク見直しの必要性 .......................................... 159
5.2 富士山および山麓地域における交通が果たすべき役割 ........................ 160
(1)富士山および山麓地域における観光のあり方 ................................ 160
(2)交通が果たすべき役割 .................................................... 160
5.3 交通ネットワークの改善に向けた基本方針 .................................. 167
(1)広域交通ネットワーク .................................................... 167
(2)山麓地域内周遊交通ネットワーク .......................................... 167
(3)富士山四、五合目アクセス交通 ............................................ 168
5.4 富士山四、五合目アクセス交通におけるモードの検討 ........................ 169
5.5 富士山四、五合目アクセス交通改善による地域への効果 ...................... 177
(1)前提条件 ................................................................ 177
(2)登山鉄道整備等の施策実施による観光客の行動変化およびそれに伴う波及効果 .. 179
6.おわりに ...................................................................... 181
世界遺産 富士山の環境と観光のあり方検討会
提言
~世界遺産 富士山を守り、世界に冠たる観光地へと飛躍するために~
我が国の象徴であり、恵みの山である富士山が世界遺産に登録された。世界遺産への登録は、神聖な
富士山を人類共通の財産として後世へ継承することを世界に約束するものであり、富士山および山麓地
域における環境や文化的景観の保全と改善に万全を期すことが求められる。
一方、富士山および山麓地域における観光客が増加傾向にある中、我々は環境と文化的景観との調和
を図りつつ、ハイグレードな世界的観光地づくりを目指していくべきである。
これらの実現に向け、以下の施策を推進することを提言する。
1.富士山及び山麓地域における環境負荷の抜本的改善策
富士山では、夏季の一定期間にマイカー規制が実施されているものの、車両からの排出ガスは無視し
えない状況である。また、大量の登山客、観光客により登山道や五合目周辺で渋滞・混雑が発生してい
る。富士山の環境を確実に保全していくためには、マイカー規制では限界があり、抜本的な交通アクセ
スの見直しが必要である。そのため、以下の施策を推進すべきである。
(1)入山者数を確実にコントロールし、自動車の排気ガス、廃棄物不法投棄等の環境問題を抜本的に
解決するため、スバルラインに鉄道を整備する。また、鉄道整備完了後は、緊急車両を除く一般
車両の通行を禁止する。なお、富士山五合目アクセスを自動車・バスから鉄道に転換することで
年間約 1 万 2 千トンのCO2を削減できる。
※1 スバルライン上への鉄道敷設は、既存資料等をもとに検討した結果、土木技術的に実現可能である。
※2 スバルラインを活用することで新たな開発行為を最小限に抑えることができる。
(2)鉄道整備に際しては、鉄道による物資や廃棄物の輸送を考慮するとともに、上下水道、電力供給、
廃棄物処理等のライフライン施設を同時に整備する。
(3)山麓地域において道路交通円滑化、安全性確保の観点からパーク&ライド駐車場等の交通結節点
を適切に配置し、環境にやさしい公共交通機関へのシフトを促進する。
(4)登山鉄道の建設期間中は、CNG(圧縮天然ガス)バスや燃料電池バス等をシャトルバスに投入
し、富士山五合目へのアクセスを確保するとともに、早期の環境負荷の低減に努めるべきである。
(5)富士山五合目より山頂にかけての山小屋等への物資輸送については、環境配慮型運搬システムへ
の転換を図るべきである。
2.富士山及び山麓地域における景観阻害要因の改善策
イコモスより指摘を受けている富士山や山麓地域における景観を阻害している要素を改善し、文化的
景観の保全に努めていく必要がある。そのため、以下の施策を推進すべきである。
(1)理想的な湖畔周辺の景観形成に向け、湖岸の修景を実施する。
①十分に活用されていない桟橋の集約、遊覧船・ボートの総量規制、ボート類の持ち込み規制、湖岸の
駐車場の再配置等の計画的な実施。
②遊歩道、自転車道の整備による、観光客や地元住民が安心して湖畔沿いを歩け憩える空間の形成。
(2)富士山周辺の指定された区域(指定地域)における建築、屋外広告の規制強化並びに電線の地中
化を着実に実施する。
(3)指定地域における地域住民の生活や観光客に支障を及ぼす通過交通の排除に向け、有料道路のバ
イパスとしての活用に向けた料金施策等を実施する。
(4)指定地域において富士山が美しく見えるビューポイントを整備するとともに、ビューポイントマ
ップ等の整備により、情報を広く国内外に発信する。
(5)登山道にある神社や山小屋等の歴史的・文化的遺産の修復・保存を実施する。
(6)民間活力で景観改善と街並み保全を一体的に推進する支援体制を充実させる。
※指定地域は、富士五湖を中心として歴史・文化遺産や富士山の眺望が魅力的なエリア等を含む一定範囲の地域を想定している。
今後地元において選定を行っていく必要がある。
1
3.世界に冠たる観光地を目指して
スバルラインに登山鉄道を整備することで富士山五合目までの通年アクセスが可能となり、富士山お
よび山麓地域は通年対応の観光地への展望が開けることになる。また、登山鉄道自体が観光資源でもあ
り、観光地としてのポテンシャルはさらに高まることが期待されることから、地域的・季節的な集中を
避け、長期滞在型の観光地への転換を、地域をあげて目指すべきである。そのため、以下の施策を推進
すべきである。
(1)通年観光地への転換を図り、季節的集中を平準化するため、氷や雪の活用等、寒さを逆手にとっ
た冬季観光アイテムを充実させ、国内外に積極的に情報発信することにより、冬季の来訪者数の
底上げを図り、年間来訪者の総数を増加させる。また、域内での周遊性を高め地域的な集中を避
けるため、交通アクセスの充実を図る。
(2)富士山中腹域や麓における登山道・トレッキングコースの再整備とこれらに関する観光情報を発
信する。
(3)歴史・文化遺産の修復・保全を進めると同時に、これらに関する情報を発信し、歴史・文化遺産
に触れる機会を創出する。
(4)交通アクセスの充実
①首都圏方面だけでなく静岡方面やリニア中央新幹線駅方面等、多方面からの広域アクセスネットワーク
を充実する。
②観光客が山麓地域内においてゆったりと長期滞在を満喫できるよう、周遊バス等二次交通としての公共
交通ネットワークを充実させ、登山鉄道と山麓地域の結びつきを強化する。
③一次交通と二次交通の結節点となる登山鉄道の山麓駅においては、高速バスや自動車から、登山鉄道、
地域内周遊バスへのスムーズな乗継を確保する。また駅を中心とした地域の新たな賑わいを創出する。
④登山鉄道の建設にあわせて、富士山五合目周辺を環境や景観に配慮した形で一体的に整備する。
⑤多方面からの山麓地域へのアクセスや山麓地域内の周遊観光をスムーズに行えるよう、情報提供におけ
る多言語化と情報のシームレス(寸断がない)化を図る。
(5)観光施設や宿泊施設、飲食店、お土産店等におけるサービスの向上を図る。
(6)地元産品を活用した食事やお土産物等の観光関連情報を積極的に発信するほか、外国人が安心し
て旅行できるよう、救急医療体制の整備を進め、その情報提供もあわせて行う。
(7)MICE誘致や文化交流等を推進し、
「国際会議観光地」化を実現する。
4.安全対策
富士山および山麓地域における災害リスクを低減し、住民・観光客等が安心できる体制作りを進める
べきである。そのため、以下の施策を推進すべきである。
(1)火山噴火や雪崩、落石等の災害危険箇所を特定すると共に、災害リスクを低減する防災施設(シ
ェルター、擁壁等)を整備し、登山鉄道の安全運行を阻害しないような対策を講じる。あわせ
て、登山鉄道の駅にシェルター機能を整備することで、防災施設としての役割を担うことがで
きる。
(2)気象庁より富士山を対象とした「火山の状況に関する解説情報(臨時)」や「噴火警戒レベル2
以上」が発表された際の、富士山五合目等の山中にいる観光客・事業者等への対応を検討する。
なお、避難の手段としては、鉄道の大きな輸送力を活用できるよう検討する。
※気象庁の発表する「火山の状況に関する解説情報」は、火山活動が活発な場合等に火山の状況を知らせる情報である。火
山性地震・微動の発生状況等の観測結果から、火山の活動状況の解説や警戒事項について、必要に応じて定期的または臨時
に解説している。
(3)登山鉄道の安全・安定輸送のために、検知センサー等を整備し観測体制を強化するほか、気象
等の情報と監視観測データを活用し、火山噴火や雪崩、落石等の災害リスクに関する情報をプ
ッシュ型で住民や観光客に情報発信できる仕組みを検討する。また、外国人観光客の対応とし
て、サインの色等で、災害の危険度がわかるような仕組みについても検討する。
2
5.実現に向けて
以上の施策を円滑に推進するため、山梨県に「富士山環境・景観保全基金」
(仮称)を設置し、その原
資に充てるため、登山鉄道の利用者等から「環境・景観維持改善負担金」
(仮称)を徴収する仕組みづく
りを検討すべきである。
2016 年 2 月 1 日までにイコモス勧告に対する保全状況報告書を提出することが求められている。
富士山及び山麓地域の環境、文化的景観の保全を確実に行っていくことをアピールする意味でも、
あり方検討会の本提言が保全状況報告書に盛り込まれるよう関係者の努力に期待したい。
また、2020 年は、東京オリンピック・パラリンピックの開催年であり、海外から多くの観光客が
我が国を訪問する。2020 年までに本提言における施策を相当程度進めておくことは、富士山および
山麓地域の魅力を世界に発信する絶好の機会となる。建築、屋外広告の規制や電線の地中化、歴史・
文化遺産の修復・保存等、関係者の合意が得やすい施策からスピード感を持って実施していくこと
が必要である。また、登山鉄道については、計画が進行していることを PR することで、再訪したい
という意識を高めリピート率の向上につながることが期待できる。そのため、県や国が中心となっ
て、登山鉄道に関する技術的検討、フィジビリティスタディ、地元関係者との合意形成に向けた調
整、資金調達方法、環境・景観維持改善負担金の設立等に関する詳細な検討を早々に開始すべきで
ある。
富士山及び山麓地域が環境と文化的景観との調和のとれた、ハイグレードな世界的観光地への飛
躍に向け、地元住民、企業、行政が一体となってこの提言の実現に邁進すべきである。
平成 27 年 5 月
世界遺産 富士山の環境と観光のあり方検討会
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1.はじめに
富士山は古来より広く人々に崇敬され、信仰の山としてあまねく知られる名山である。ま
た、様々な文学・芸術の対象として描かれ、19 世紀後半における浮世絵は、ヨーロッパの芸
術界にも多大な影響を与えたと言われている。さらに、広大な裾野には伏流水等の恵みに生
きる農業、林業、水産業、食品業、製紙業等の工業や観光業等の諸産業が栄え、山麓地域の
人々の生活を根底から支える大いなる恵みの山でもある。このように我が国の象徴であり、
恵みの山である富士山が、平成 25 年 6 月の第 37 回世界遺産委員会において「富士山-信仰
の対象と芸術の源泉」との名称で文化遺産として世界遺産に登録された。世界遺産への登録
は、富士山を人類共通の財産として後世へ継承することを世界に約束するものであり、富士
山および山麓地域における環境や文化的景観の保全に万全を期すことが求められる。
世界遺産の登録に当たり、世界遺産委員会から富士山の文化的景観の保全に関する指摘・
勧告がなされた(p.6 参照)(以降、イコモス勧告とよぶ)
。これに対し、関係自治体、関係団
体、土地保有者、住民等で構成される「富士山世界文化遺産協議会」では、6 つの戦略(開
発の抑制、来訪者管理戦略、登山道等の総合的な保全手法、巡礼路の演出、情報提供戦略、
危機管理戦略)を立て、それぞれに対する具体的方策の検討を進め、2014 年 12 月にその内
容がとりまとめられたところである。(p.7~11 参照)これらの検討内容は、保全状況報告書
として 2016 年 2 月 1 日までにユネスコ世界遺産センターに提出することになっている。
一方、富士山および山麓地域の観光客・宿泊者数は年々増加傾向にある。この地域が世界
的な観光地として世界中の人々に認知され、人々を惹きつける魅力的な地域としてさらに発
展していくためにも、イコモス勧告を踏まえながら、中長期的な視点に立って、恵まれた自
然環境、文化的景観の保全と調和した形での観光地づくりについて、地域が一体となって議
論し検討していくことが必要である。
平成 25 年 12 月より、有識者・地元自治体・関係団体・山梨県・国を構成員とする「世界
遺産 富士山の環境と観光のあり方検討会(事務局 一般社団法人 富士五湖観光連盟、社会シ
ステム株式会社)
」
(以下、あり方検討会)では、富士山および山麓地域の自然環境・文化的
景観の保全と魅力的な観光地づくりについて検討を行っている。本報告書は、検討の最終と
りまとめとして、富士山および山麓地域の現状の課題について、環境・景観・観光・安全対
策の 4 つのテーマから調査・分析した結果を整理するとともに、これらの課題改善に大きく
寄与すると期待される富士山及び山麓地域における交通ネットワークのあり方について検討
した結果をとりまとめたものである。
5
<参考:イコモス勧告>
以下の点を尊重しつつ、資産を一つの存在として、また文化的景観として管理するための
管理システムを実施可能な状態にすること。
a)アクセスの利便性・レクリエーションの提供と神聖さ・美しさの質の維持と相反する要請
に関連して、資産の全体構成(ヴィジョン)を定めること。
…提言における関連箇所(注) 3.(1)・ 3.(2)・ 3.(4)
b)神社・御師住宅及びそれらと上方の登山道との関係に関して山麓の巡礼路の経路を特定し、
それらがどのように認知・理解されるのかについて検討すること。
…提言における関連箇所 2.(5)・3.(3)
c)上方の登山道の受け入れ能力を研究し、その成果に基づく来訪者管理戦略を定めること。
…提言における関連箇所 1.(1)
d)上方の登山道及びそれらに関係する山小屋、トラクター道のための総合的な保全手法を定
めること。
…提言における関連箇所 1.(2)・1.(5)
e)個々の構成資産において来訪者施設(ビジターセンター)の整備及び解説を促進するため
に、個々の構成資産が資産全体の一部分を成し、富士山の山頂から山麓にわたる巡礼路全
体の一部分を成すことがどのように認識・理解できるのかを周知するために、情報提供戦
略を策定すること。
…提言における関連箇所 2.(5)・3.(2)・3.(3)
f)景観の神聖さ及び美しさの両側面を維持するために、経過観察指標を強化すること。
…提言における関連箇所 2.(1)・2.(2)・2.(4)
2016 年の第 40 回世界遺産委員会において審査できるように、2016 年 2 月 1 日までに世界
遺産センターに保全状況報告書を提出すること。報告書には、文化的景観の手法を反映した
資産の総合的な構想(ヴィジョン)
、来訪者戦略、登山道の保全手法、情報提供戦略、危機管
理戦略の策定に関する進捗状況を含めるとともに、管理計画の全体的な改定の進展状況を含
めること。
(資料)文化庁報道発表
「富士山」の世界遺産一覧表への記載決定について(平成 25 年 6 月 22 日)
(注)…提言における関連箇所:勧告文に対応する本検討会での提言箇所(p.1~3)を示す。
6
<参考:富士山 -信仰の対象と芸術の源泉
ヴィジョン・各種戦略>
山梨県・静岡県等により構成される富士山世界文化遺産協議会は、イコモス勧告に対する
今後の対策を、平成 26 年 12 月に開かれた第 5 回協議会で「富士山-信仰の対象と芸術の源泉
ヴィジョン・各種戦略」としてとりまとめた。以下に、今後の対策の概要を示す。
1.下方斜面における巡礼路の特定
(1)総合的な調査・研究の継続
・ 構成資産間のつながりの多様性を明らかにするため、各巡礼路の位置や変遷過程だけではなく、
各時代の信仰形態に応じて重層的に形成された構成資産間の歴史的な関係性を検討し、これらの
結果を調査・研究の成果として示す。
・山梨県・静岡県がそれぞれ設置する富士山世界遺産センター(仮称)が中心となり、博物館や関
係市町村等との連携の下に総合的・学際的な調査・研究の推進、報告書の作成・公刊、それらの
成果を発表・公開・紹介できる場の準備等について実行可能な計画を策定し、確実に実施する。
・山梨県・静岡県及び富士山世界遺産センター(仮称)が中心となり、関係市町村が 実施する調査・
研究の集約を行い、必要に応じて関係市町村に対して調査・研究の側面から指導・助言を行う。
・山梨県・静岡県及び関係市町村は、富士山世界遺産センター(仮称)及び関係市町村の調査・研
究に係る体制を充実させる。
(2)情報提供戦略等への反映
・来訪者・登山者が登山道・巡礼路の位置・経路・機能等に関する全体像、構成資産間の関係性・
つながりを認知・理解できるように、富士山世界遺産センター(仮称)が中心となって、関係市
町村の連携の下に地域に根ざした人材として世界遺産ガイド等を養成し、パンフレット・ガイド
ブック等を作成・活用するなど、効果的な情報提供手法を確立する。
・山梨県・静岡県が中心となり、学校教育とも連携して学習講座を実施する。また、両県下の博物
館・美術館等が、企画展・研究発表会等を開催する。
・把握した「登山道・巡礼路の位置・経路」に基づき、富士山地域におけるガイドライン等と調和
した統一的・系統的な案内板・道標・歩道・情報提供広場の整備等を行うことにより、潜在化し
たルートを顕在化し、来訪者を誘導する方法を検討する。
2.来訪者管理戦略
(1)収容力の研究・設定
・夏季における五合目以上の上方の山域への来訪者(登山者)について、動態調査・意識調査を継
続して実施する。また、3年を目途に「上方の登山道の収容力」の調査研究(分析)を行い、登
山道ごとの1日当たりの登山者数をはじめとした多角的な視点から指標(項目・望ましい水準)
を収容力として設定する。
(2)収容力に基づく施策の実施
「上方の登山道の収容力」の実現を目指し、現時点においては、以下の施策を実施中である。
・平準化の推進…山麓の駐車場と五合目との間のシャトルバス運行時間の短縮、山麓からの登山の
推奨、情報提供戦略との緊密な連携の下、山麓の構成資産への訪問を誘導
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・普及啓発の推進…各登山ルートの混雑状況及び山小屋の予約状況を紹介、弾丸登山の自粛要請、
登山時の服装及び留意点など安全・安心な登山を行うための情報提供、ごみの持ち帰りなどの登
山者のマナー啓発等
・自家用車の通行規制…「上方の登山道の収容力」の実現にも寄与する自家用車の通行規制の実施
・利用者負担の実施…登山者から任意の協力を求める「富士山保全協力金」の実施、富士山の環境
保全、登山者の安全確保等を図るための事業推進
(3)収容力・施策の見直し
概ね5年を目途として、現状・問題点の変化に対応するために「上方の登山道の収容力」につい
て評価・見直しを行うとともに、着実な前進・改善を達成するために施策の実効性・持続可能性
についても評価・見直しを行う。
3.上方の登山道等の総合的な保全手法
(1)来訪者管理戦略の確実な実施
地域社会の合意形成の下に、山梨県・静岡県を中心として来訪者数の平準化を図る対策等を講じ
ることにより、来訪者による登山道への影響の抑制を図る。
(2)展望景観等に配慮した材料・工法の選択
ア 登山道
・山梨県・静岡県は、パトロール等により登山道の浸食箇所の状況を継続的に把握し、維持補修業
務に適当な材料・工法を反映させるなどの維持管理の充実を図る。
・山梨県・静岡県は、多様な分野の専門的知見を総合しつつ、落石防護壁等の人工構造物の外観が
展望景観へ与える影響を緩和するための材料・工法を定める。
イ 山小屋
・神聖な雰囲気を維持し、さらなる展望景観との調和を図るため、関係者が協働して山小屋の施設
外観・看板類等の現状を把握するとともに、改善を行う。
ウ トラクター道
・関係者が協働してトラクター道等の現況を把握し、展望景観への影響の程度を分析する。
・自然環境への負荷の低減及び展望景観との調和を目指し、貨物用車両の効果的な運行方法及び低
騒音・低排出ガス車両の導入等の対策に関係者が協働して取り組むための協議・検討を継続する。
4.情報提供戦略
(1)調査・研究の推進及びその成果の反映
ア 調査・研究の推進
・山梨県・静岡県は、博物館及び関係市町村等との連携の下に、巡礼路の特定等を含めた総合的な
調査・研究が進められるよう調査・研究体制を確立するとともに、長期的な視野に基づき調査・
研究計画の策定及び学際的な調査・研究の活動を推進する。
・山梨県・静岡県及び関係市町村は、富士山の顕著な普遍的価値に関する来訪者の認知・理解度を
把握するため、来訪者への意識調査を実施する。
イ 調査・研究成果の還元
・山梨県・静岡県は、収集した文献及び調査・研究成果の蓄積・公開活用を推進するとともに、そ
のための有効な手法として調査・研究成果のデータベース化を検討する。
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(2)顕著な普遍的価値の伝達及び適切な情報提供の実施
ア 内容
①顕著な普遍的価値の伝達…富士山信仰の形態及び歴史的な変化に着目しつつ、自然(富士山)と人
間との関わりが独特の信仰を育み、優秀で多様な芸術作品を生み出した事を紹介すると共に、巡
礼路の特定により描き出された構成資産間の関係性について来訪者の認知・認識を促進すること
により、来訪者を山の上方のみならず、山麓の構成資産へと誘導する。
②保全の取組み…各登山ルートの混雑状況及び山小屋の予約状況を紹介するとともに、弾丸登山
の自粛を求め、登山時の服装及び留意点など安全・安心な登山を行うための情報提供、ごみの持
ち帰りなどの登山者のマナー啓発等を行う。
イ 体制の整備及び人材育成
情報発信の拠点として、富士山世界遺産センター(仮称)を建設し、センターの事業活動を担う職
員の配置及び他の博物館等の関係施設と連携した顕著な普遍的価値の伝達及び保全の取組みに関
する適切な情報提供を行うとともに、地域に根ざした人材として世界遺産ガイド等を養成する。
ウ 手法
山梨県・静岡県が中心となり、構成資産間の関係性を分かりやすく紹介したパンフレット等の提
供、キッズ・スタディプログラムや富士山学習など学校教育と連携した授業・講座の実施、富士
山世界遺産センター(仮称)や博物館・美術館等における企画展・研究発表会等を開催するとともに、
来訪者を山麓の構成資産へと誘導する方法を検討・実施する。
5.危機管理戦略
(1)噴火及びそれに伴う災害
2014 年 2 月に公表した「富士山火山広域避難計画」の考え方に基づき、防災訓練の実施により
計画の検証を行い、噴火切迫時には避難対象者を円滑に避難させる。山梨県・静岡県は、2014 年
9 月に発生した御嶽山の噴火を受け、突発的な噴火等の際の登山者への情報伝達及び避難施設の
在り方、並びに登山者への事前の啓発活動等の検討を進めている。今後、富士山火山防災対策協
議会において協議し、その結果を「富士山火山広域避難計画」に反映していく。また、その内容
は本戦略にも反映させる予定である。また、国及び山梨県、静岡県は連携して「富士山火山噴火
緊急減災対策砂防計画」の策定を進めるとともに、監視カメラ等による監視及び整備を行う。
(2)土砂災害
ア 砂防施設の設置…大沢崩れにおいて、展望景観に配慮しつつ、浸食防止及び山腹崩壊防止を目的
とした対策工を実施するとともに、富士山山麓部において土石流災害の防止を目的とした砂防堰
堤・沈砂地を設置し、住民の生命・財産の保全を図る。
イ その他の土砂災害・落石…土砂流出の防備のため、立木等の伐採を制限するとともに、展望景観
に配慮しつつ、導流堤・防護壁・防護柵等の施設を設置する。
(3)地震
「静岡県地震・津波対策アクションプログラム 2013」に基づき、ハード・ソフトの両面から地
震・津波対策を充実・強化する。また、地域防災計画に基づき、地震対策を推進する。
(4)火災
山火事に対しては市町村及び関係機関等と連携し、山火事予防運動による啓発活動を徹底する。
野焼きに対しては、害虫駆除や野火防止のために欠かせないものであり、その実施にあたっては、
作業指導要綱や安全対策マニュアルなどに基づき作業者の安全を確保し、延焼を防止する。
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6.開発の抑制
(1)緩衝地帯内における開発圧力への対策
国、山梨県・静岡県及び関係市町村が連携して、富士山の価値の保全の観点から、法令上の各種
行政手続の見直しに向けて再点検を早期に図る。具体的には、行為の届出、事前協議、公聴、学
識経験者等によって組織される審議会等における専門的見地からの審議等、各段階の行政手続を
効果的・重層的に実施することにより、潜在的な開発圧力の早期把握、合意形成に向けた調整、
経過観察などの側面から、開発の制御の効果を促進する。
また、景観法に基づく景観計画及び景観条例が策定されていない地域については、早期に各市町
村が景観計画及び景観条例を策定し、良好な景観形成のための基準を設定する。これらの対策の
実施にあたっては、地域社会の多様な主体との合意形成に十分留意するが、その過程を通じ富士
山の顕著な普遍的価値の保全に対する世論の喚起及び社会全体の機運醸成を図るとともに、各事
業者における社会的責任への理解を促進することとする。
(2)個別事項への対策
・富士五湖…山梨県及び関係者等は、
「明日の富士五湖創造会議」等において、湖の使用方法及び湖
岸の修景方法を検討している。また、山梨県は条例を改正し、湖に動力船を乗入れようとする者
に対し、毎年度、山梨県知事への「航行届」の提出を義務付け、乗入れの実態を的確に把握でき
るようにした。
・忍野八海…忍野村は、天然記念物忍野八海整備活用計画に基づき、湧水周辺の建築物その他の工
作物の修景等を実施している。
・吉田口五合目諸施設…山梨県が中心となって関係者による協議の場(四合目・五合目部会)を設
置し、建築物その他の工作物の意匠及び機能等の観点から、法令等の基準に適合した修景 に関す
る自主ルールの策定に向けて協議を実施している。
・標識・案内板…山梨県は、屋外広告物の設置許可基準を強化する地域を「景観保全型広告規制地
区」として指定し、2015 年(平成 27 年)4 月に施行するほか、屋外広告物ガイドラインを策定
した。基準に適合しなくなった屋外広告物の改修、ガイドラインに沿った屋外広告物の修景など
の景観改善を行う事業者に対しては助成を行う。
・電柱…山梨県は、富士北麓地域における電線類の地中化を進めている。
・登山道へ向かう自家用車…五合目の登山口へ通じる富士スバルライン(吉田口)、富士山スカイラ
イン(富士宮口)、ふじあざみライン(須走口)において、自家用車の乗り入れを規制するマイカ
ー規制期間を延長した。
・山麓に沿っての開発制御…2016 年(平成 28 年)を目途として、構成資産及び緩衝地帯の全域に
わたり、関係市町村は景観法に基づく景観計画及び景観条例を策定し、建築物の意匠・外壁の色
彩等を規制することとしている。
また、昨今広がりつつある大規模太陽光発電設備(メガソーラー)の設置の動きに対して、山梨
県は条例を改正し、富士北麓地域の自然公園法普通地域内における一定規模を超える太陽光発電
設備の設置について山梨県知事との協定の締結や届出が必要となるよう制度を構築した。
・北口本宮冨士浅間神社周辺地域
北口本宮冨士浅間神社境内の北側を通過する国道138号の拡幅が計画されている。この拡幅を
契機として、国、山梨県、富士吉田市、地元関係者及び学識経験者による協議の場を設置し、沿
道景観及び歩行空間の整備などを含めた周辺地域のまちづくりの在り方について協議を実施して
いる。
10
7.経過観察指標の拡充・強化
(1)展望景観の定点観測地点の追加
富士山(山体と山麓の全ての構成資産を含む範囲)全体の神聖さ・美しさの維持・改善の状況を
把握し、良好な展望景観の維持のための施策を評価・修正するため、信仰及び審美性の側面の観
察に適切な観測地点を複数設定し、目視・写真撮影などの手法を用いて、展望景観の変化につい
て定点観測を行う。
具体的には、古来の展望地点の保護のための調査研究等を踏まえ、推薦書等に記載した顕著な普
遍的意義を持つ図像と直接的に関連し、富士山域に対する代表的な2つの主要な展望地点である
本栖湖北西岸の中ノ倉峠及び三保松原に加え、次の3つの観点から新たな観測地点を選ぶ。
ア 各方面から富士山を展望する地点
富士山の顕著な普遍的価値の説明に寄与する場所又は近代において新たな展望地点となった場
所を観測地点に追加し、富士山に対する展望景観の定点観測を行う。
イ 富士山から構成資産及び緩衝地帯を展望する地点
構成資産及び緩衝地帯の大部分の範囲を展望できる富士山域(構成資産1)内の複数の場所を観
測地点として設定し、構成資産及び緩衝地帯に対する展望景観の定点観測を行う。
ウ 構成資産から当該構成資産及びその周辺地域を展望する地点
課題がある構成資産の内部又はその周辺の場所を観測地点に設定し、構成資産又はその周辺地域
に対する展望景観の定点観測を行う。
(2)富士山信仰に関わる宗教行事の実施状況の把握
富士山の顕著な普遍的価値に関連する無形的な要素として、富士山信仰に関わる宗教行事の伝達
及び継承の行為が維持されていることを確認するため、適切な富士山信仰に関わる行事を選び、
参加人数について継続的に調査を行う。
(3)来訪者の意識調査の実施
来訪者に対する情報提供の施策を評価し、課題がある場合には適切に修正するために、富士山の
顕著な普遍的価値及び構成資産間の相互のつながりに関する来訪者の理解の状況についてアンケ
ート調査を行う。
(4)上方の登山道の収容力の設定・見直し
富士山の上方の登山道の収容力として、登山道ごとの1日当たりの登山者数をはじめ多角的な視
点に基づく指標を設定するとともに、定期的に評価・見直しを行う。
(5)各種戦略・方法等の実施状況の把握
各種戦略・方法等に定めた対策の進捗状況を継続的に把握するため、富士山包括的保存管理計画
において定めた経過観察指標のモニタリングを確実に実施するとともに、各施策の実効性・持続
可能性の観点から必要な経過観察指標を追加・反映し、関係市 町村等との連携の下に定期的かつ
体系的な経過観察を実施し、定期的に評価・見直しを行う。
(資料)富士山世界文化遺産協議会
富士山-信仰の対象と芸術の源泉
ヴィジョン・各種戦略(平成 26 年 12 月 24 日)
11
12
2.検討対象エリア
本あり方検討会では、富士山および山麓地域を対象エリアとするが、山麓地域については、
富士五湖周辺の富士吉田市・富士河口湖町・山中湖村・鳴沢村・忍野村を対象として、各テ
ーマに関する取組み状況や関連データの収集を行うこととする。
河口湖
本栖湖
精進湖
西湖
山中湖
富士山
N
図 2-1 検討対象エリア
ImageⒸ2013DigitalGlobe
Ⓒ2013Cnes/Spot Image
〈参考:山麓地域の人口規模・年間観光客数等〉
山麓地域は山梨県の南東部に位置しており、山麓地域内の自治体は併せて約 9 万人の人口
を有している。伝統的な産業として富士山の湧水を利用した野菜栽培や絹織物が有名な他、
山麓地域の広大な土地に工場を構える電子部品・デバイス等の精密機器製造業や以下に挙げる
観光関連サービス業も盛んである。
また、山麓地域は富士箱根伊豆国立公園に含まれており、富士山をはじめ豊かな自然環境
が広がっている。さらに、河口湖や山中湖、忍野八海、富士浅間神社などの自然、文化、観
光レクリエーション施設も集積しており、これらの観光資源を求めて山麓地域を訪れる年間
観光客数は約 1 千万人にのぼり、国内有数の観光地となっている。
表 2-1 山麓地域の概要
自治体名
面積
人口(H22 国勢調査)
総人口(万人)
年間観光客入込数
高齢化率
(H25 山梨県観光入込統計 延べ人数・万人)
富士吉田市
121.83 ㎢
5.0 万人
23.5%
450.8 万人
富士河口湖町
158.51 ㎢
2.5 万人
20.9%
396.1 万人
鳴沢村
89.56 ㎢
0.2 万人
25.1%
221.7 万人
忍野村
25.15 ㎢
0.8 万人
14.9%
10.4 万人
山中湖村
53.05 ㎢
0.5 万人
24.2%
80.2 万人
計
448.1 ㎢
9.3 万人
21.7%
1,159.2 万人
13
14
3.調査体制
検討に当たっては、一般社団法人 富士五湖観光連盟、社会システム株式会社を事務局とし
て、有識者・地元自治体・関係団体・山梨県・国で構成される「世界遺産 富士山の環境と観
光のあり方検討会」を立ち上げるとともに、あり方検討会の下にワーキンググループを設置
し、実務的な議論等を行っている。あり方検討会・ワーキングの構成員は以下の通りである。
15
世界遺産 富士山の環境と観光のあり方検討会
委員
会
長
岩 村
敬
一般財団法人環境優良車普及機構 会長
座
長
森 地
茂
政策研究大学院大学政策研究センター所長・東大名誉教授
特別顧問
西室 泰三
日本郵政株式会社 取締役兼代表執行役社長
顧
鈴木 康雄
日本郵政株式会社 取締役兼代表執行役副社長
〃
佐藤 禎一
国際医療福祉大学大学院教授 学事顧問
事務局長
堀内 光一郎
一般社団法人富士五湖観光連盟 会長・富士吉田商工会議所 会頭
問
富士急行株式会社 代表取締役社長
委
員
天野 康則
忍野村長
〃
池 谷
一般財団法人砂防・地すべり技術センター 研究顧問
〃
石坂 直人
ANAホールディングス株式会社 上席執行役員 調査部長
〃
大口 清一
一般社団法人日本海員掖済会 常務理事
〃
金丸 康信
株式会社テレビ山梨 代表取締役社長・山梨県商工会議所連合会 会長
〃
小 林
武
鳴沢・富士河口湖恩賜県有財産保護組合 組合長
〃
小 林
優
鳴沢村長
〃
佐藤 幸三
富士吉田市外ニヶ村恩賜県有財産保護組合 組合長
〃
鹿野 久男
元・環境庁審議官
〃
清水 哲夫
首都大学東京 都市環境学部教授
〃
杉尾伸太郎
株式会社プレック研究所 取締役会長
〃
高村 文教
山中湖村長
〃
中井 雅彦
東日本旅客鉄道株式会社 常務取締役鉄道事業本部副本部長
〃
中村 一政
株式会社山梨放送 代表取締役専務
〃
野口
健
アルピニスト
〃
堀内
茂
富士吉田市長
〃
本保 芳明
首都大学東京 都市環境学部特任教授
〃
丸山
空港施設株式会社 代表取締役社長
〃
見並 陽一
公益社団法人日本観光振興協会 理事長
〃
宮田 年耕
首都高速道路株式会社 代表取締役専務執行役員
〃
渡邊 凱保
富士河口湖町長
浩
博
オブザーバー
〃
市 川
満
山梨県知事政策局 理事
〃
越智 繁雄
国土交通省 関東地方整備局長 (前任者 深澤 淳志)
〃
又野 己知
国土交通省 関東運輸局長
(前任者 原
喜信)
(五十音順・敬称略)
16
事 務 局
〃
上野 裕吉
一般社団法人富士五湖観光連盟 専務理事
〃
皆本 泰寿
一般社団法人富士五湖観光連盟
〃
古屋 喜正
一般社団法人富士五湖観光連盟
〃
小 泉
社会システム株式会社
〃
早崎 詩生
社会システム株式会社 取締役・執行役員・統括部長
〃
山下 良久
社会システム株式会社
都市・地域交通グループ 課長
〃
梅﨑 良樹
社会システム株式会社
交通行動グループ 課員
〃
山田 真也
社会システム株式会社
都市・地域交通グループ 課員
〃
野地 広志
日本交通技術株式会社
環境調査計画部 課長
啓
17
会長
世界遺産 富士山の環境と観光のあり方ワーキング 委員
主 査
清水 哲夫
首都大学東京 都市環境学部教授
委 員
礒村 洋之
富士吉田市外ニヶ村恩賜県有財産保護組合 総務部長
〃
伊 東
誠
一般財団法人 運輸政策研究機構 調査室 主席研究員
〃
栗 原
剛
東海大学 観光学部観光学科 講師
〃
小林 正宏
山中湖村 観光課長
〃
古屋 広明
富士河口湖町 観光課長
〃
堀内 哲夫
富士急行株式会社 代表取締役副社長
〃
三浦 勝一
鳴沢・富士河口湖恩賜県有財産保護組合総務部長
〃
山 﨑
東日本旅客鉄道株式会社 東京工事事務所 開発調査室長
〃
渡辺 雅彦
富士吉田市 産業観光部次長 (前任者 渡辺 金男)
〃
渡辺 一博
鳴沢村 企画課長 (前任者 渡辺 伸一)
〃
渡邉 広人
忍野村 企画課長
淳
(前任者 高村 高夫)
(五十音順・敬称略)
オブザーバー
長 田
公
山梨県知事政策局 富士山保全推進課 総括課長補佐
(前任者 中村 克己)
後藤 貞二
国土交通省 関東地方整備局 道路部長
澤 井
国土交通省 関東運輸局 企画観光部長(前任者 鈴木 史郎)
俊
(五十音順・敬称略)
事務局
上野 裕吉
一般社団法人 富士五湖観光連盟 専務理事
皆本 泰寿
一般社団法人富士五湖観光連盟
古屋 喜正
一般社団法人富士五湖観光連盟
早崎 詩生
社会システム株式会社 取締役・執行役員・統括部長
山下 良久
社会システム株式会社 都市・地域交通グループ 課長
梅﨑 良樹
社会システム株式会社
交通行動グループ 課員
山田 真也
社会システム株式会社
都市・地域交通グループ 課員
野地 広志
日本交通技術株式会社
環境調査計画部 課長
18
4.富士山および山麓地域における現状と課題
4.1
環境
4.1.1
環境に対する提言
富士山では、夏季の一定期間にマイカー規制が実施されているものの、車両からの排出ガ
スは無視しえない状況である。また、大量の登山客、観光客により登山道や五合目周辺で渋
滞・混雑が発生している。富士山の環境を確実に保全していくためには、マイカー規制では
限界があり、抜本的な交通アクセスの見直しが必要である。そのため、以下の施策を推進す
べきである。
環境に対する提言
(1)入山者数を確実にコントロールし、自動車の排気ガス、廃棄物不法投棄等の環境
問題を抜本的に解決するため、スバルラインに鉄道を整備する。また、鉄道整備
完了後は、緊急車両を除く一般車両の通行を禁止する。なお、富士山五合目アク
セスを自動車・バスから鉄道に転換することで年間約1万2千トンのCO2を削
減できる。
※1 スバルライン上への鉄道敷設は、既存資料等をもとに検討した結果、土木技術的に実現可能
である。
※2 スバルラインを活用することで新たな開発行為を最小限に抑えることができる。
(2)鉄道整備に際しては、鉄道による物資や廃棄物の輸送を考慮するとともに、上下
水道、電力供給、廃棄物処理等のライフライン施設を同時に整備する。
(3)山麓地域において道路交通円滑化、安全性確保の観点からパーク&ライド駐車場
等の交通結節点を適切に配置し、環境にやさしい公共交通機関へのシフトを促進
する。
(4)登山鉄道の建設期間中は、CNG(圧縮天然ガス)バスや燃料電池バス等をシャ
トルバスに投入し、富士山五合目へのアクセスを確保するとともに、早期の環境
負荷の低減に努めるべきである。
(5)富士山五合目より山頂にかけての山小屋等への物資輸送については、環境配慮型
運搬システムへの転換を図るべきである。
19
4.1.2
環境に関する現状
(1)富士山における夏季のマイカー規制
・富士北麓方面から富士山五合目へのアクセス
表 4-1-1 マイカー規制期間の実施状況
マイカー規制実施日数
道路である富士スバルラインでは、富士山の
自然保護と交通渋滞解消を目的として、平成
6 年から夏季の一定期間にマイカー規制を
実施している。
(表 4-1-1 参照)
・平成 23 年には、東富士五湖道路富士吉田I
C近くに 1,400 台を収容できる山梨県立北
麓駐車場が整備され、マイカー規制期間中は
(7~8 月)
平成 24 年
15 日間
平成 25 年
31 日間
平成 26 年
53 日間
※対象外車両:バス(乗車定員 11 人以上のマイク
ロバスを含む)
、ハイヤー、タクシー、軽車両、指
定車、許可車、身体障害者乗車車両
当駐車場より五合目に向けたシャトルバス
表 4-1-2 マイカー規制期間中の大型
が 30 分間隔で運行されている。
・マイカー規制期間の拡大により、富士スバル
車・特大車通行台数(1 日平均・片道)
大型車
特大車
計
平成 24 年
149 台
161 台
310 台
期間中には 1 日当たり片道 300 台を超すバス
平成 25 年
129 台
184 台
313 台
が五合目と麓間を往来している。(表 4-1-2
※大型車:路線バス、シャトルバス含む
ラインにおける夏季の自動車通行台数は、
年々減少しているものの(図 4-1-1 参照)、
特大車:観光バス
参照)
(出典)山梨県道路公社資料
・表 4-1-2 の数字をもとに、平成 25 年における
マイカー規制期間 31 日間のバスによる二酸化炭素排出量を推計注 1)すると、約 246 トン
の二酸化炭素が排出された結果となった。これは、成長した杉の木が 1 年間に吸収する
二酸化炭素量注 2)で換算すると、杉の木 4,797 本分に相当する量が排出されていることに
なる。
・また、酸性雨の原因であり植生の成長にも影響を与える窒素酸化物については、マイカ
ー規制期間中と期間外の大気濃度を測定した調査結果が報告されている。これによると、
期間外に渋滞が発生した地点においては、期間中の方が 60%程度大気中濃度が低下して
いるものの、渋滞が発生していない地点においては、規制期間中の方が 30~40%程度大
気中濃度が高いという結果が得られている(図 4-1-4 参照)。さらに、窒素酸化物排出量
の時間変動を見ると、環境基準を超える量が観測された時間帯があることも報告されて
いる注 3)。
・この原因として、バス等の大型車両の増加が指摘されている。シャトルバス・路線バス
においては、窒素酸化物を排出しない CNG バスが使われているが、観光バスの中には排
ガス規制強化前の車両(排ガス規制については表 4-1-3 参照)や整備不良等の車両も少
なからず存在している。そのため、独自の排出基準を設定するとともに、それに満たな
い車両は乗り入れを禁止する等の規制の強化がすぐにでも実施すべき対策として考えら
れる。
20
・中長期的には、富士山の環境保全の観点から考えると、交通アクセスによって入山者数
をコントロールできることが重要であり、マイカー規制では限界がある。鉄軌道であれ
ば、運行ダイヤの設定や座席指定により需要をコントロールすることが可能であり、富
士山地域の環境問題を抜本的に解決することができる。
注 1)鉄道プロジェクトの評価手法マニュアル 2012 年改訂版(国土交通省)における計算方法を
もとに、自動車速度を 36km/h、1 日当たり通行台数を 313 台(片道)として 31 日間の排出量
を推計。
注 2)大きく成長した杉の木(50 年で、高さが約 20~30m)が 1 年間に平均して吸収するCO2
量(約 14kg/本)をもとに換算。換算係数(http://www.ecogate.jp/technique/syogen/)より。
注 3)和田龍一ら:富士山山岳道路沿道における車両通行規制に伴う窒素酸化物の濃度変化, 大
気環境学会誌, 第 49 巻 第 5 号, pp.218-223, 2014.
平成24年
(15 日間)
85,751 台
平成25年
(31 日間)
63,744 台
平成26年
(53 日間)
35,147 台
0
7月上旬
2
7月中旬
4
7月下旬
6
8月上旬
8
8月中旬
8月下旬
10(万台)
(出典)山梨県道路公社資料
図 4-1-1 富士スバルラインにおける夏季における自動車通行台数の推移
(出典)富士山-信仰の対象と芸術の源泉 ヴィジョン・各種戦略
図 4-1-2 マイカー規制の実施前後のスバルラインの様子
21
表 4-1-3 排出ガス規制の基準値
車両区分
単位
乗用車
g/km
中量車
g/km
(1.7t<車両重量≦3.5t)
重量車
(車両重量>3.5t)
g/kWh
窒素酸化物(NOx)
粒子状物質(PM)
ディーゼル車
ガソリン・LPG 車
ディーゼル車
ガソリン・LPG 車
0.11
0.08
0.007
0.007
0.08
0.05
0.005
0.005
0.20
0.10
0.009
0.009
0.15
0.07
0.007
0.007
0.90
0.90
0.013
0.013
0.70
0.07
0.010
0.010
※ポスト新長期規制の規制値を示す。
※上段:許容限度値(個々の車両が満たさなければならない基準)下段:平均基準値(量産車が満たさなければならない基準)
(出典)自動車排出ガス対策関係のガイドライン(2014 年 3 月 (一財)日本自動車研究所)
<鉄道と自動車の二酸化炭素排出量の比較>
・平成 25 年度の富士山五合目の年間入込客数注 4)をもとに、スバルライン(全長 24km)を走
行する自動車注 5)と鉄道を敷設した場合の年間二酸化炭素排出量を算出すると、自家用自動
車は年間で 14,231 トン排出するのに対して、鉄道は 2,139 トン排出する。スバルライン上
の交通モードを自動車交通から鉄道にした場合、年間で 85%の二酸化炭素を抑制する事が
できる。(表 4-1-4 参照)
表 4-1-4 自動車と鉄道の二酸化炭素排出量の比較
自動車
鉄道
【自家用自動車】
輸送量当たりの CO₂排出量注 6)
168g-CO2/人キロ
22g-CO2/人キロ
【バス】60g-CO2/人キロ
年間 CO₂排出量
14,231 トン
2,138 トン
注 4)平成 25 年度山梨県観光入込統計では 405 万人とされている
注 5)自動車の CO₂排出量算出にあたっては、マイカー規制が行われている夏季(8 月)1ヵ月は、
流入した自動車をすべてバスとし、その他の月はすべて自家用自動車が走行したとして算
出を行った。
注 6)国土交通省ホームページ「運輸部門における二酸化炭素排出量」公表値。旅客輸送におい
て、各輸送機関から排出される CO₂排出量を輸送量(人キロ)で割り、単位輸送量当たり
の CO₂排出量を試算したもの。また、CO₂排出量と輸送量を計測するバスの対象は、乗車
定員 11 名以上の車両とされている。
22
<路線バス・シャトルバスの環境負荷への取組み>
・スバルラインを走行する路線バスやシャトルバスには、自然への負荷を軽減するために、
平成 7 年より全国の国立公園内では初めて黒煙を排出しない低公害 CNG(圧縮天然ガス)
バスが導入されている。また、ディーゼルエンジンとモーター(電動機)を組み合わせた
ハイブリッドシステムを採用した低公害ハイブリッドバスも平成 17 年より導入されてい
る。
・現在、42 台の CNG バスと、11 台のハイブリッドバスが運行されている。
(出典)富士急行ホームページ
図 4-1-3 富士登山バスで使用されている CNG バスとハイブリッドバス
23
注)赤の強調線については事務局にて追記
(出典)2014 年 8 月 20 日
図 4-1-4 マイカー規制による窒素酸化物に関連する記事
24
読売新聞
(2)富士山五合目等におけるライフラインの現状
①上下水道
・かつて富士山の五合目以上のトイレは、し尿が適
切に処理されない地下浸透式であった。山頂から
垂れ流された登山者のし尿とトイレットペーパ
ーは、白い筋となって山肌にこびりつき、「白い
川」と呼ばれ、富士山の深刻な環境問題を表す代
名詞であった。
・この問題に対し、山梨、静岡両県が協力し、環境
省の補助金等を活用して平成 18 年度にすべての
民間山小屋で環境配慮型トイレ(バイオトイレ)
の整備を完了した。これにより、富士山における
し尿問題は相当程度改善してきたが、近年では、
(出典)環境省
図 4-1-5 富士山頂付近の「白い川」
トイレの処理能力を超える登山者数により、トイ
レの機能低下が指摘されるようになっている。
・飲料水については、観光客にはペットボトルの水
を提供しており、その他については給水車で運ん
だり、雨水を貯水タンクに貯め煮沸をして使用し
ている。貯水タンク内で浄化する取組みを進めて
いるが、飲める段階までにはなっていない。
②電気
・五合目等の宿泊施設・飲食施設等における電気は、
(出典)環境省
自家発電により賄われている。発電のための燃料
はタンクローリー等により麓から運搬されてい
図 4-1-6 環境配慮型トイレ
る。発電や燃料運搬による大気汚染への影響も懸
念される。
③廃棄物
・山小屋等で出るゴミや料理等の残り物等に関する山中で焼却処理方法や焼却灰の処理方
法、回収したゴミの運搬方法についても検討する必要がある。
④五合目以上の物資の運搬
・五合目以上の物資運搬は一般の自動車で行うことができないため、キャタピラー付きの
トラクターが用いられている。それらが通行するトラクター道は、山小屋の設置・経営
者が組合方式で運営しており、山小屋の経営に必要な物資等の運搬や、緊急傷病者の搬
送にも利用されている。トラクターの運行が登山道に影響を与えているため、現在同組
織によりトラクターの運行回数を必要最低限に留めるなど、環境負荷を抑制する取組み
がなされている。
25
・スイスの山岳観光地であるユングフラウでは、鉄道施設と併設する形で上下水道菅が整
備され、山頂付近では水洗トイレが整備されている。また、山頂で発生したゴミは鉄道
によりまとめて麓地域に運搬されている。このような取組みにより、標高の高い場所に
おいても、環境への負荷が小さく、かつ観光客への質の高い食事や休憩・宿泊施設の提
供が可能になっている。
・このように、鉄道の敷設は、付帯的に上下水道や電気設備等のライフライン施設を整備
できる可能性がある。
<スイスの山岳地における上下水道整備について>
・スイスにおける山岳観光施設は、連邦政府により給水、排水等に関して厳しい基準が設
けられている。ツェルマット地域の山岳観光スポットであるゴルナーグラード展望台(標
高 3,089m)では、山頂付近で発生した下水は地下 1m を通るパイプラインを通じて麓地域
の下水処理場に運ばれる。このパイプラインは、1980 年代に国内の環境意識の向上や国
外からの観光需要の増加を受けて、地元の農業団体等によって整備された。これにより
標高の高い地域においても質の高い食事・休憩・宿泊施設の提供を可能にしている。
(以
前は、下水の山麓への垂れ流しが行われていたこともあった。
)
・また、ユングフラウ鉄道の終着駅ユングフラウヨッホ駅においても同様の排水パイプラ
インが設置されている。ユングフラウの排水パイプラインも、ゴルナーグラード展望台
同様に 1980 年代に敷設された。一方で、給水に関しては、かつてはユングフラウ鉄道に
より山頂に運ばれていたが、2013 年に給水ポンプが鉄道のトンネル内に敷設されそれに
より山頂への給水が行われるようになった。
(出典)2014 年 8 月
事務局撮影
図 4-1-7 スイス・ユングフラウヨッホ駅(標高 3,454m)における上下水道関連施設
26
(3)山麓地域における自動車交通の状況
・国土交通省が 5 年おきに実施する幹線旅客純流
動調査データによると、富士五湖を含む山梨県
郡内ゾーンへの流入交通の交通機関分担率は、
95%が自動車となっている。この数字からも、
富士山麓地域が自動車に大きく依存した地域で
あることが読み取れる。
(図 4-1-8 参照)
・山麓地域内の一般道における主要渋滞箇所を見
ると、地域の主要な道路である国道 137 号、139
号における複数の地点、区間が渋滞発生箇所と
なっている(図 4-1-9 参照)
。また、これらの箇
所では過去に交通事故が発生しており、安全面
での問題も指摘されている。
・また、国道 138 号とそのバイパス道路である東
富士五湖道路(有料道路)が併走する山中湖村
では、本来であればバイパス道路に回るべき大
型車等の通過交通が、国道を利用しているよう
な状況も散見される。
・現在、地元では渋滞発生箇所において道路幅員
の拡幅等の道路事業により、渋滞解消を図ろう
※出発地-目的地(207 生活圏)純流動表(年間)
代表交通機関別データより作成
※代表交通機関で集計したデータであるため、郡
内地域への流入交通の中に航空利用がわずか
に含まれていた(2 万/人)
。この数を除いて分
担率を計算
※郡内ゾーンに含まれる自治体
富士吉田市、都留市、大月市、上野原市、道志村、
西桂町、忍野村、山中湖村、鳴沢村、富士河口湖
町、小菅村、丹波山村
(出典)平成 22 年度幹線旅客純流動調査
図 4-1-8 山梨県郡内ゾーンへの流入交通
とする取組みが進められているところであるが
における交通機関分担率
(図 4-1-10、11 参照)
、中長期的には、地域内交通における自動車交通の位置づけを見
直すことが、環境保全および道路交通の安全性確保の観点から必要と考えられる。
・例えば、マッターホルンの麓であるスイスのツェルマットでは、環境保護のため内燃機
関を用いた自動車の乗り入れを禁止し、地域内の移動においては、電気自動車であるバ
スやタクシー等の公共交通が利用されている。また、ツェルマット駅の一つ手前の駅周
辺にパーク&ライド駐車場を整備し、旅行者は当該駅で自動車から鉄道に乗り換えツェ
ルマットへ向かう移動形態となっている。
・一方、我が国における三大都市圏では、圏内で登録された自動車は NOx や PM に関する排
出基準が独自に設けていたり、その他の地域でも同様の取組みがみられる(次項における
富山県の排ガス規制の取組み参照)。
(表 4-1-5 参照)
・山麓地域においても、このような海外や我が国の他地域における事例等を参考に、山麓
地域独自の排出ガス規制に関して検討するとともに、パーク&ライド駐車場を整備し自
動車から環境に優しい公共交通に乗換える仕組みを整備していく必要がある。
・また、地元事業者等において低排出ガス車への買い替えが進むよう、補助金を交付する
等の助成措置を検討する必要がある。
27
<凡例>
渋滞箇所
渋滞区間
(出典)国土交通省関東地方整備局ホームページ
「平成 24 年度 山梨県の主要渋滞箇所の特定結果」より山麓地域を抽出
図 4-1-9 山麓地域内の渋滞箇所・渋滞区間
<他地域における地域独自の排ガス規制に関する取組み ~富山県における排ガス規制条例~>
富山県は、県南東部にある中部山岳国立公園内の立山有料道路を走行するバスが、排出ガ
スに含まれる窒素酸化物等を抑制し、自然環境への負荷の軽減を図るため「立山におけるバ
スの排出ガスの規制に関する条例」を制定し、平成 27 年 4 月より施行している。以下は条例
の概要説明を県ホームページから抜粋したものである。
<目的>
立山有料道路等において運行されるバスから排出される窒素酸化物及び粒子状物質の排出を抑制し、
これらによる自然環境への負荷の軽減を図るためバスの運行に関し必要な規制を行うことにより、
立山の貴重な自然環境及び優れた景観の保全並びに適正な利用の推進に寄与することを目的としま
す。
<規制内容>
バス事業者は、自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等
に関する特別措置法(自動車 NOx・PM 法)に規定する窒素酸化物排出基準及び粒子状物質排出基準
(以下単に「排出基準」
)に適合しないバスを立山有料道路等において運行し、又は運行させること
ができません。
<バス事業者への支援>
県は、バス事業者が行う立山有料道路等において運行されるバスから排出される窒素酸化物等の排
出量の抑制を図る取組に対し、必要な支援を行うよう努めることとしています。支援として、県内
バス事業者に対する改造費の補助や購入資金の融資制度などを設けています。
28
表 4-1-5 自動車 NOx・PM 法による大都市地域に対する自動車排出ガス対策
車種規制の概要
対策地域
8 都府県(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、三重県、大阪府およ及
び兵庫県)の一部の地域
排出規制物質
NOx、PM
規制開始年月
平成 14 年 10 月
新規登録:平成 14 年 10 月から
規制の内容
使用過程車:平成 15 年 10 月から排出ガス基準に適合しない車は、対策地域内で
は、車検に通らない。
ただし、原則として初度登録から車種に応じ 8~12 年間の猶予期間がある。
対象自動車
対策地域内に使用の本拠の位置がある自動車
トラック、バス、特種(乗用車ベースはディーゼル車のみ)
対象車種
※
燃料の種類は問わない
ディーゼル乗用車
NOx
規制値
(ディーゼル車)
上限値:NOx5.9g/kWh
PM
3.5 トン超:上限値:0.49 g/kWh
3.5 トン以下:上限値:0.175 g/kWh
規制の担保手段
罰則
車検
6 月以下の懲役または 30 万円以下の罰金
(出典)九都県市青空ネットワークホームページ
29
<渋滞解消を目的とした道路事業の一例>
a.国道 138 号 新屋拡幅
・国道 138 号の 2 車線区間における慢性的
な渋滞を解消することにより、観光産業
等の地域経済の振興や地域住民の利便
性・安全性の向上を目的とした拡幅事業
である。
・事業により渋滞の緩和だけでなく周遊バ
ス等の公共交通の遅延解消といった運行
改善や災害時の避難路の確保といった効
果が期待できる。
・平成 25 年度から国、山梨県、富士吉田
市、地元関係者及び学識経験者により「国
道 138 号新屋拡幅に伴う周辺まちづくり
検討委員会」が組織され、御師住宅と北
(出典)国土交通省関東地方整備局甲府河川国道事務所
ホームページ
口本宮冨士浅間神社等との関係性・つな
図 4-1-10 新屋拡幅整備箇所
がりへの配慮、景観の保全と自然・歴史
資源の活用等の観点も含めた検討が行わ
れている。
b.主要地方道河口湖精進線
扇崎道路改良事業
・富士河口湖町河口を起点とし同町精進青木ヶ原に至る全長約 17.9km の幹線道路であり、河
口湖北岸、西湖北岸を通り青木ヶ原を結ぶ観光周遊ルートとなっており交通量が非常に多
い。
・また、緊急輸送道路に指定されているものの、当該箇所は幅員狭小で歩道もなく交通隘路
となっていたため、平成 22 年度から 26 年度にかけて、災害時の輸送機能の向上及び通行
の安全を確保することを目的としたトンネル整備や道路拡幅を実施された。
(出典)山梨県
図 4-1-11 河口湖精進線
平成 21 年度公共事業等事前評価調書
河口湖精進線(扇崎トンネル)
扇崎道路改良事業における整備区間と整備前の沿道の状況
30
(4)富士山および山麓地域における清掃活動の取組み
・富士山地域における清掃活動は、以前より地元の財団法人、自治体、企業、団体が清掃
活動を継続的に実施しており、年間 100 トン近いゴミが収集されている。
・また、ゴミを拾いながら五合目付近を散策し来訪者の環境美化意識の向上を図ろうとす
るトレッキングコースが複数提供されている。
160
140
120
100
80
60
40
20
0
80
清掃活動範囲拡大
(山中湖岸で実
施)による増加
土
石
流
復
旧
工
事
の
た
め
未
実
施
70
60
50
40
30
20
10
0
処理総量(t)
参加人数(千人)
(出典)公益財団法人富士山をきれいにする会ホームページより作成
図 4-1-12 清掃活動の実績
表 4-1-6 エコトレッキングコースの例
コース名
登山体験
コース
御中道
コース
歴史の道
コース
森林探索
コース
奥庭
コース
ルート
所要時間
距離
概略
45分
1.6km
登山の気分を味わいながら家族
で楽しめる
90分
2.9km
富士山頂、富士五湖、南アルプ
スが一望できる
210分
9.2km
富士登山の歴史、古跡が残る
登山道
富士スバルライン五合目
→森林登山道→三合目
100分
3.8km
シラビソ・コメツガ等の原生林を
みることができる
奥庭→三合目
90分
富士スバルライン五合目→
登山道→六合目
富士スバルライン五合目→
御庭
→富士スバルライン五合目
富士スバルライン五合目→
馬返し→中の茶屋(一合
目)
31
(出典)富士の国やまなし
観光ネット
寄生火山跡地の奥庭から雄大
2.4km
な富士山頂を望むことができる
(5)その他の環境保全に関連する地元の取組み
①大気汚染対策、気候の温暖化対策
a.原因物質の経過観察
・山梨県では、大気の汚染状況を常に把握し、公害の未然防止を図るため、昭和 46 年か
ら大気常時監視測定局を設け、大気汚染の状況を監視する取り組みを行っている。
・また、大気の汚染状況の測定結果を速報値として公開している。
(出典)山梨県ホームページ
図 4-1-13
大気汚染状況常時監視測定局の設置場所(上)大気汚染状況測定結果公開ページ(下)
32
b.造林事業
・山梨県、恩賜林組合では間伐等の森林経営を行い保有林の健全性を確保することによ
り、森林の二酸化炭素吸収量を増大させる取り組みが行われている。
・また間伐による二酸化炭素の吸収量について、国の推進するオフセットクレジット
(J-VER)制度に基づきクレジット化を行いそのクレジットの売却収益をさらなる環境
保全や持続可能な森林経営の費用に充てている。
(出典)
「やまなし県有林活用温暖化対策プロジェクト」紹介パンフレット
図 4-1-14 山梨県内の造林事業
33
②山麓地域におけるごみ問題対策
・地元自治体では富士山、麓地域の環境美化を促進するためにゴミの散乱防止に関して取
り組むための条例を制定している。
表 4-1-7 地元自治体のごみ問題に対する条例
自治体名
富士吉田市
名称
富士吉田市ごみの
散乱のないさわや
かなまちづくり推進
に関する条例
関連条項
第7条及び第
12条
施行日
目的
罰則内容
平成12年10 富士山憲章の推進及び国際観光都市に 5万円以下の
月1日
ふさわしい富士吉田市の恵まれた環境を 罰金
守り育むため、ごみの散乱防止について
必要な事項を定め、環境美化の促進を図
り、市民の良好な生活環境を確保するこ
とを目的とする。
富士河口湖町
富士河口湖町自然 第4条
環境を守り育む条
例
鳴沢村
鳴沢村空き缶等の
散乱防止及び回収
に関する条例
第3条及び第4
条
昭和60年4
月1日
空き缶等の散乱防止及びその回収に関
し、必要な事項を定めることにより、地域
の環境美化の促進を図り、もって良好な
生活環境を保全することを目的とする。
忍野村
忍野村空き缶等の
散乱防止及び回収
に関する条例
第3条及び第4
条
昭和60年4
月1日
空き缶等の散乱防止及びその回収に関 罰則なし
し必要な事項を定めることにより、地域の
環境美化の促進を図り、もって良好な生
活環境を保全することを目的とする。
平成15年11 富士山憲章の推進及び国際観光地にふ 罰則なし
月15日
さわしい富士河口湖町のさわやかな環境
を守り育むことについて、町、町民等及び
事業者の権利と責務並びに環境への負
荷の軽減を進めるとともに、生活環境の
美化についても必要な事項を定め、もっ
て町民の健康で快適な生活の確保に寄
与し、富士河口湖町の豊かな自然を後世
に引き継ぐことを目的とする。
罰則なし
(出典)各自治体ホームページ
・富士吉田市では週 3 回の巡回(夜間パトロール)で不法投棄物の回収を実施している。
回収量は年々減少傾向にあるものの、依然として 20 トン近い不法投棄物が回収されてい
る
(t)
140.0
120.0
100.0
80.0
60.0
40.0
20.0
0.0
H12
H13
H14
H15
可燃物
H16
H17
不燃物
H18
H19
H20
H21
H22
処理困難物
(出典)富士吉田市ホームページより作成
図 4-1-15 富士吉田市によって回収された不法投棄物回収量の推移
34
図 4-1-16 投棄された産業廃棄物
③水質保全対策
・忍野村では、古来より恵まれた湧水資源を農業用水、生活用水等に利用してきた。現在
でも地下水を利用した給水システムにより給水がされている。そのため、村による定期
的な水質検査が行われている。
・また、忍野八海においては、環境省により湧水量・水質調査が行われており、水質の維
持向上が図られている。さらに、地元住民やボランティア団体等による定期的な清掃活
動や、忍野村教育委員会による保全活動も積極的に行われており、忍野八海の水質維持
がなされている。
(出典)日本ユネスコ協会ホームページ
図 4-1-17
2013 年 10 月に行われた忍野八海の清掃活動の様子
35
④野生動物・害虫対策
a.ニホンジカの生息管理
・生息数が過多となり生態系に対して影響を与えているニホンジカについて、山梨県は
富士山地域を生態系保全ゾーンに設定し、この地域では、シカの生息密度を低減し、
林床植生を早急に回復させることを目標に保護管理事業を実施することとしている。
実施事業としては「シカの生息密度を低減させるための個体数調整の実施」
「植生防護
柵の設置」が挙げられる。
同調査(2010 年度)の糞塊密度
調査結果。色が赤い箇所ほど糞
塊密度が高いことを示す。
数字は糞塊密度(糞塊数/km)
(出典)山梨県ホームページより
図 4-1-18 山梨県が行っているニホンジカの密度調査図
b.松くい虫の被害
・山梨県、各市町村が保全すべき松林を指定し、松くい虫の被害拡大を防ぐための被害
対策事業(被害木の伐倒駆除、予防のための薬剤樹幹注入)を実施している。
・特に富士北麓地域では、富士山麓の貴重な松林を守るために、被害対策事業とあわせ
て周辺にある松林を他の樹種に変える樹種転換事業を推進している。
(出典)山梨県ホームページ
図 4-1-19 松くい虫の被害を受けたアカマツ(左)と対策(薬剤散布)の様子
36
⑤環境教育
・富士山ボランティアセンター(山梨県観光部観光資源課富士山分室)では、地域の児童・
学生、住民、企業等が富士山に関する知識を高めるとともに富士山の環境保全に対する
意識を育むことを目的とした環境学習支援プログラムを提供している
図 4-1-20 富士山ボランティアセンターにおいて提供されている環境学習支援プログラム
37
⑥協力金
・環境保全や登山者の安全対策に役立てるため、2013 年より試験的に登山者から任意で千
円(富士山保全協力金)を徴収する取組みを、山梨県、静岡県両県で実施しており、2014
年の夏からは、富士山の環境保全や登山者の安全確保のために必要な事業を行うための
資金として登山者に協力を求める「富士山保全協力金」として本格導入し、富士山の神
聖性の維持を推進している。
・また、山梨県では、富士山文化遺産の構成資産の保存管理および整備活用、周辺環境の
保全事業に充てる名目で、保存活用推進募金を募集している。
表 4-1-8 2014 年の山梨・静岡県における保全協力金の実施状況
(出典) 富士山-信仰の対象と芸術の源泉 ヴィジョン・各種戦略
(出典) 富士山-信仰の対象と芸術の源泉 ヴィジョン・各種戦略
図 4-1-21 富士山保全協力者に配布されたバッジ(2014 年)
38
4.1.3
環境に関する課題
以上の現状より、富士山及び山麓地域における環境に関する課題として以下が挙げられる。
①富士山における自動車乗り入れによる環境負荷
・富士山においては、夏季の期間にマイカー規制が実施されているものの、排ガス規制強
化前の車両を用いた観光バスの乗入れ等により、排出される二酸化炭素や窒素酸化物は
無視できない状況にある。
②大量の登山者・観光客の入山
・また、大量のバスが五合目に乗入れることにより、多くの登山者、観光客が五合目以上
に入山している。登山道にあるトイレは処理能力を超える登山者数になっており、トイ
レの機能低下が生じている。
③富士山におけるライフラインの未整備
・富士山五合目以上においては、ライフラインが整備されておらず、発電用の燃料を麓か
ら運搬したり、廃棄物を山中で焼却処理する等の対応がとられている。これらが少なか
らず富士山の環境に影響を及ぼしていると共に、五合目以上で提供できるサービスに制
約を生じさせている。
④山麓地域における交通渋滞
・山麓地域においては、国道 137 号、139 号等の主要幹線道路において、日常的に交通渋
滞が発生しており、地域住民や観光客の円滑な移動、及び安全性の確保について支障が
生じている。
⑤富士山及び山麓地域における廃棄物の不法投棄
・富士山及び山麓地域においては、依然として産業廃棄物等の不法投棄が散見される。
39
40
4.2
景観
4.2.1
景観に対する提言
イコモスより指摘を受けている富士山や山麓地域における景観を阻害している要素を改善
し、文化的景観の保全に努めていく必要がある。そのため、以下の施策を推進すべきである。
景観に対する提言
(1)理想的な湖畔周辺の景観形成に向け、湖岸の修景を実施する。
①十分に活用されていない桟橋の集約、遊覧船・ボートの総量規制、ボート類の
持ち込み規制、湖岸の駐車場の再配置等の計画的な実施。
②遊歩道、自転車道の整備による、観光客や地元住民が安心して湖畔沿いを歩け
憩える空間の形成。
(2)富士山周辺の指定された区域(指定地域)における建築、屋外広告の規制強化
並びに電線の地中化を着実に実施する。
(3)指定地域における地域住民の生活や観光客に支障を及ぼす通過交通の排除に向
け、有料道路のバイパスとしての活用に向けた料金施策等を実施する。
(4)指定地域において富士山が美しく見えるビューポイントを整備するとともに、
ビューポイントマップ等の整備により、情報を広く国内外に発信する。
(5)登山道にある神社や山小屋等の歴史的・文化的遺産の修復・保存を実施する。
(6)民間活力で景観改善と街並み保全を一体的に推進する支援体制を充実させる。
※指定地域は、富士五湖を中心として歴史・文化遺産や富士山の眺望が魅力的なエリア等を含む一定範囲の地域
を想定している。今後地元において選定を行っていく必要がある。
41
4.2.2
景観に関する現状
(1)湖岸
1)桟橋及びボート
・富士五湖の湖畔には十分に活用されていない老朽化した桟橋が多数存在するため、湖
畔の良好な景観を阻害しているだけでなく、使用上の観点からも危険性が高い。今後
これらの桟橋を集約し統合していくことを検討する必要がある。
(出典)2015 年 2 月 事務局撮影
図
4-2-1 湖畔の桟橋の様子
・また、湖畔に停泊している手こぎボートについては、故障しているものや所有者が不
明と考えられるものが多くあり、これらのボートの撤去を検討する必要がある。また、
所有者のわかる手こぎボートについても、湖畔に放置されているものも多く、所有・
管理の方法についてのルールを検討する必要がある。
(出典) 2014 年 11 月 事務局撮影
図
4-2-2 河口湖畔の手こぎボートの様子
42
<湖岸における景観改善に向けた取組み>
・山梨県は昭和 63 年に、富士五湖の自然の静けさの保護を目的として、富士五湖を航行する
動力船(モーターボートや水上バイク)の騒音を規制する山梨県富士五湖水上安全条例を制
定しており、西湖・精進湖・本栖湖における動力船の持ち込みや乗入れを禁止しており、河
口湖と山中湖でも自治体への届出を義務化している。平成 27 年 4 月以降は毎年度の届け出
を義務化している。(表 4-2-1、図 4-2-3 参照)
・現在「明日の富士五湖創造会議」や「河川法の特例法」により、富士五湖の桟橋やボート
等のあり方の検討が行政と権利者の間でなされている。 (表 4-2-2 参照)
表 4-2-1 富士五湖の動力船に関する規制状況
河口湖
規制の種類
備考
届出制度
毎年度届け出が必要
山中湖
西湖
自主ルールによる乗入れ規制
精進湖
自主ルールによる乗入れ規制
本栖湖
自然公園法による乗入れ規制
許可船(漁業船等) 以外の乗入れ不可
(出典)山梨県ホームページ
(出典)富士河口湖町ホームページ
図 4-2-3 河口湖への動力船乗入れに関する条例の改正を告知するポスター
表 4-2-2 明日の富士五湖創造会議の精進湖会議で決定された内容
対象
決定内容
桟橋
現状より増やさない(釣り船桟橋6本、カヌー用桟橋3本)
桟橋の長さ
上限25メートル
桟橋の色
濃い茶色か濃い灰色
釣り船用手こぎボート数
上限400隻
(出典)山梨日日新聞 2013.12.26
43
2)駐車場
・富士五湖周辺における湖畔の土地利用の特徴として、湖畔沿いに駐車場が整備され、
道路を挟んで反対側にレストランや旅館等が配置された形態になっているところが多
い。
(図 4-2-4 参照)そのため、道路では駐車場に出入りするバスや自動車により渋滞
が発生し、またそのような混雑が歩道の安全性を低下させている。観光客や地元住民
が安心して湖畔沿いを歩け憩える空間を形成していくことが課題である。
図
4-2-4 河口湖畔の土産物店と駐車場の様子
44
3)遊歩道・自転車道
・山中湖畔では、昭和 48 年より国及び山梨県による自転車歩行者道が整備が道路事業と
して進められ、山中湖湖岸一周約 14km が整備されたが、国道 138 号沿いの約 2km が未
整備(明神前交差点~役場前交差点間)となっていた。
・未整備区間について、平成 24 年度より事業が開始され平成 26 年 7 月に約 150m 区間に
ついて完成した。(図 4-2-5 参照)
・湖側の防護柵にはワイヤを使って眺望を確保したほか、足元には茶色の木材を使用し
景観に配慮した造りになっている。(図 4-2-6 参照)
・なお、他の湖についても遊歩道や自転車道の整備を進め、それらをネットワーク化し
ていくことで、自転車・徒歩で山麓地域内を周遊できるようになり、それが新たな地
域の魅力になる可能性がある。
(出典)国土交通省
関東地方整備局
記者発表資料
図 4-2-5 山中湖自転車歩行者道整備箇所
(出典)国土交通省
関東地方整備局
図 4-2-6 山中湖自転車歩行者道整備箇所現況写真
45
記者発表資料
<山中湖村における湖畔地域の景観改善に向けた今後の方向性>
・平成 22 年 3 月に策定された山中湖村における山中湖村景観計画では、湖畔周遊道路、サイ
クリングロード、遊歩道、駐車場、樹林帯など、山中湖の沿岸部の構成要素ごとに、周辺
と調和する沿道の風景づくりを推進するための構想が示されている。例えば、現在、駐車
場等の人工物が設置されているところを湖畔から離し、遊歩道や緑地を整備するといった
将来の構想がある。(図 4-2-7 参照)
・観光客等歩行者の安全性をさらに高めるためには、次頁に示す中禅寺湖湖畔のように駐車
場を湖畔から離れた場所に移設する等の抜本的な土地利用改変が必要である。
・今後の湖畔沿いの景観改善の方向性として、湖畔エリアの景観に関する将来像を関係者が
共有した上で、その将来像に向けて段階的に取り組んでいく必要がある。
・例えば、周辺施設の更新時期と併せる形で湖畔沿いのいくつかの駐車場を集約した立体駐
車場を整備し、最終的には、その駐車場自体を湖畔から離れた場所に移設するといった段
階整備等が考えられる。
(出典)山中湖村景観計画
図 4-2-7 山中湖村の景観計画における将来の湖畔の風景イメージ
46
<中禅寺湖における景観改善事例>
栃木県日光市の中禅寺湖において栃木県が主体となって様々な景観改善に向けた取組みを
行った。以下では、当時の県担当者からのヒアリング結果をもとに①景観整備前の状況・課
題、②景観整備の内容、③景観整備後の状況について示す。
①景観整備前の状況・課題
【桟橋・ボート】
・中禅寺湖の湖畔は、昭和 20 年代に栃木県が園地として整備したが、次第に地元住民・ボー
ト業者が桟橋の設置やボートや資材を置き始めて、観光客が湖畔を散策できるような場所
ではなくなっていった。
・桟橋は各ボート事業者が所持する 30 の桟橋があり、中には老朽化しているものも多数あっ
た。
(出典)栃木県資料
図 4-2-8 中禅寺湖畔の土地利用の様子(昭和 60 年頃)
【駐車場】
・中禅寺湖を含む奥日光地区は、戦後に大衆観光地化した国立公園のひとつで、旅館や湖畔
の手こぎボート等の大衆向け施設が多く作られ、良好な景観が阻害されていた。
・整備前は湖畔沿いの土地利用として湖→駐車場→道路→商店の順に並んでおり、湖側の道
路に並行してあった長さ 800mほどの駐車場は、渋滞のボトルネックになっていた。この
駐車場は元来栃木県が園地として整備していた湖畔沿いの場所だったが、各商店が私物化
し、県に対して道路渋滞や商店の駐車場の私有化に対する苦情が多数寄せられていた。
(出典)栃木県資料
図 4-2-9 中禅寺湖畔沿い道路の土地利用の様子(昭和 60 年頃)
47
②景観整備の内容・効果
・当時の県知事や地元の若手メンバーに良好な景観形成に対する意識が共有され、平成元年
に「国際観光地『日光』活性化基本計画」が策定された。同計画では中禅寺湖のある中宮
祠地区が最重要課題地区に定められ、活性化に関する事業が展開された。(表 4-2-3 参照)
表 4-2-3 中宮祠地区活性化事業の実施状況
事業分類
内容
事業期間
適正利用の促進と情報の提供
日光自然博物館の整備
S63~H3
渋滞対策と電線地中化
湖畔道路、山側道路整備、駐車場の整備拡充、
H6~H10
電線地中化
湖畔整備と近代遺産を活用した取組み
廃業ホテルの購入、跡地の園地化
H9~14
湖畔桟橋の整理・統合、湖畔園地整備
イタリア大使館別荘記念公園、西六番園地、中
禅寺湖ボートハウス等の整備
(出典)栃木県資料
【湖畔整備と周辺景観の改善】
・湖のボートの放置や、桟橋の撤去は、条例などの規制は設けずに、県費と市の負担金を使
用し、湖畔沿いのボートや資材などに、撤去を告知する張り紙を貼り、3 カ月後に各所有
者で撤去がされていなかった場合は、県によって撤去が行われた。
・桟橋を撤去した代替として、統合桟橋を東側湖畔と西側湖畔に一つずつ整備し、補償とし
て撤去に協力したボート業者で協同組合を結成し、桟橋の使用権が与えられた。
・桟橋については、所有者と調整し了解が得られたものは撤去し、了解が得られなかったも
のは現在も残っている。
図 4-2-10 湖畔における桟橋の統合結果
桟橋統合前
桟橋統合後
(出典)栃木県資料
48
表 4-2-4 湖畔における動力船の撤去状況
動力船の種類
規制前(1991年) 2010年使用許可
住民所有動力船
漁協承認船
9隻
0隻
839隻
267隻
遊覧船
25隻
免許講習船
151隻
既保有船
12隻
0隻
大学水上スキー部
計
2隻
0隻
1001隻
304隻
(出典)栃木県資料
・近代遺産の修復には環境省の緑のダイヤモンド事業を活用し、バブル崩壊後に廃業・廃屋
となって湖畔の景観を阻害していた旅館や商店などを県が購入し撤去を行った。撤去した
廃屋跡地の活用としては、中禅寺湖にある文化財(イギリス大使館別荘)をモチーフにし
た交番や、イベントスペースとして使用する広場などが整備された。
・以前は環境省の緑のダイヤモンド計画による補助対象には、廃屋等の用地取得費は含まれ
ていなかったが、県担当者が環境省と交渉し用地取得費も認めてもらったことにより廃屋
の撤去が進んだ。
(出典)栃木県資料
図 4-2-11 湖畔沿いの道路における建造物の撤去・再整備状況
49
表 4-2-5 中宮祠地区活性化事業の実施状況
事業内容
事業主体
国際観光地「日光」活性 駐車場整備
栃木県
化事業
環境事業団
事業費
0.5 億円
11.4 億円
園地整備
栃木県
4.3 億円
桟橋整備
栃木県
3.2 億円
道路整備
栃木県
24.1 億円
日光市
0.8 億円
栃木県
22.9 億円
その他
自然博物館
8.8 億円
小計
緑のダイヤモンド計画
76.0 億円
駐車場整備
栃木県
2.3 億円
園地整備
栃木県
14.9 億円
桟橋整備
栃木県
10.1 億円
その他
栃木県
0.9 億円
小計
28.2 億円
合計
107.2 億円
(出典)栃木県資料
・整備後は湖畔を散策する観光客が増加し、観光客の行動範囲の向上、滞在時間の増加がみ
られた。当時の県担当者によると、景観整備の効果で観光客が増加したことにより湖畔沿
いの商店街の方々も景観整備の重要性に気付くようになったとの事である。
表 4-2-6 中禅寺湖を訪れる観光客の行動範囲・滞留時間の変化
年度
行動範囲
滞留時間
行動内容
96年(H8年) 192.2m
60分
見学中心
99年(H11) 649.0m
107分
散策中心
(出典)栃木県資料
(出典)栃木県資料
図 4-2-12 整備当初の中禅寺湖の様子
50
【駐車場の移設による歩道の拡幅・園地整備】
・湖畔を走る国道の渋滞緩和を目的として、湖と反対側の山側に立体駐車場の整備、道路と
並行して存在していた駐車場の撤去、歩道の拡張、園地整備などが行われ、良好な景観形
成、街の周遊性の向上が図られた。
・当初の計画では、渋滞対策として山側の道路を拡張整備し、湖側の道路はすべてプロムナ
ードにする予定であったが、地元からの反対があり湖側の道路のプロムナード化は実現で
きず、道路は残し駐車場撤去と歩道拡張に留まっている。
①
山側道路(国道120号バイパス)
活性化事業で新たに整備した駐車場
①栃木県営湖畔第 1 駐車場:229 台
②栃木県営湖畔第 2 駐車場: 58 台
③栃木県営華厳第 1 駐車場:150 台
④栃木県営華厳第 2 駐車場: 81 台
②
④
③
湖畔側道路(国道120号)
図 4-2-13 湖畔周辺の土地利用(現状)
51
③中禅寺湖における近年の状況
・整備事業から 10 年以上が経過した現在は、湖畔沿いの園地スペースに自動車の乗り入れや
手こぎボート等の事業者の資材置き場となっている箇所が見られる。また、湖畔沿い道路
のバス停として整備していたスペースが商店の駐車場として使用されているなど、整備当
初は守られていた住民の間でのルールや景観意識が時間の経過とともに薄れていることも
伺える。
バス乗降場所が
駐車場として利用
施設の老朽化
湖畔への車の乗入、
ボート等の資材置き
のぼりの使用
(出典)2014 年 12 月事務局撮影
図 4-2-14 中禅寺湖の現状
・中禅寺湖の景観整備事例は当時の県知事の強いリーダーシップのもと行政主導により湖畔
駐車場のプロムナード化、桟橋の統合、電線の地中化、湖畔園地の整備など一体的な景観
整備がなされ、滞留時間の向上などの効果があった。また、当時の緑のダイヤモンド計画
のような実施主体側で事業の取組みを設定できる国の支援があったことにより、廃屋の撤
去等の地域固有の課題が早期に解決できたことが伺える。
・しかしながら、行政主導で取組みを早急に進めたこともあり、地域住民への景観形成に対
する気運の醸成が間に合わないうちに整備事業が完了してしまった。地域の景観持続的保
全していくためには、地域のリーダー的人材の育成や、住民主体で取組みが継承されてい
くような仕組みづくり等、ソフト面の対策も重要であることを示唆している。
52
(2)山麓地域における建築及び屋外広告規制
1)山麓地域の自治体における景観計画策定状況
・現在、山麓地域の自治体では、富士河口湖町、山中湖村、忍野村が景観計画を策定し
ている。計画の中では、地域内をいくつかのゾーンに区分した上で、各自治体が目指
す景観の将来像・目標に基づき、各ゾーンでの景観形成の基本方針が定められており、
建築物、工作物の高さや色彩に対する規制が設けられている。(表 4-2-7 参照)
表 4-2-7 山麓地域の自治体における景観計画の概要
届出が
必要な
行為
富士河口湖町
山中湖村
忍野村
<建築物>
・高さ 10m または床面積の合計
が 250 ㎡を超えるもの
<工作物>
・塀の類:高さ 2m を超えるもの
・電柱等:高さ 15m を超えるもの
<建築物、工作物>
・新築、増築、改築、移転に
ついては、全ての建築物・
工作物が対象
・外観の変更については、高
さ 10m を超えるもの
<建築物>
・新築、増築、改築、移転につい
ては、建築面積が 10 ㎡を超え
るもの
・外観の変更については、全てが
対象
<工作物>
・塀の類:高さ 3m または長さ 30m
を超えるもの
・広告塔等:高さ 5m を超えるもの
<屋根>
色相
基準
焦 茶 色 等 自 低明度
然素材が持
つ色
<外壁>
色相
基準
白、黄土色、
茶系統等自
―
然素材が持
つ色
建築物、 <基調となる部分
工 作 物 (全体の 3 分の 2)>
におけ
色相
基準
る色彩
橙系
彩度 4 以下
赤、黄系
彩度 3 以下
上記以外
彩度 2 以下
<屋根>
色相
基準
灰黒系また 彩度 6 以下
は焦茶色
明度 2 以上
<壁面・工作物>
色相
基準
茶系、ベージ 彩度 6 以下
ュ 色 、 ク リ ー ム 明度 2 以上
色、灰系
※1 平成 27 年 4 月現在において、景観計画を策定済みである自治体は、富士河口湖町、山中湖村、忍野村であり、
富士吉田市・鳴沢村は策定作業中である。
※2 表 2 では、富士河口湖町については「湖水・湖畔景観形成地域」
、山中湖村については「山中湖面および湖岸
地区」における基準を示す。
53
2)屋外広告規制
・山梨県では屋外広告物等が富士山の眺望景観を妨げている問題を受けて、県道 139 号
線、富士見バイパス、御師住宅沿道、富士河口湖富士線地区を『景観保全型広告規制
地区』に定め、道路沿道に設置される屋外広告物の高さや面積、色彩等の規制を強化
している。平成 27 年 4 月より規制を施行しており、今後も規制の確実な実行と対象範
囲の拡大を検討していくことが必要である。(図 4-2-15 参照)
(出典)山梨県ホームページ
図 4-2-15 規制強化内容と規制強化後イメージ
54
・さらに、山梨県では屋外広告規制の役割を県民に理解してもらうための屋外広告物ガ
イドラインを平成 26 年に策定、公表した。この中では、富士山周辺地域において富士
山眺望を阻害せず、文化財との調和を乱さないようにするための広告設置に関する配
慮事項が示されている。
(出典)山梨県 屋外広告ガイドライン
図 4-2-16 屋外広告物ガイドラインにおける富士山地域において配慮すべきポイント
・また、
「景観保全型広告規制地区」の指定に伴い、基準に合わなくなった既存広告物を
改善する場合や、屋外広告物ガイドラインに沿った修景を行う広告主に対し、市町村
と県が補助を行う制度(世界文化遺産景観支援事業)が平成 26 年度より設けられており、
さらなる北麓地域の景観の改善を促進している。
55
<看板の集約化に関する取組み事例>
・河口湖や山中湖畔地域では統一性のなかった
看板の集約化が行われ、国道 138、139 号沿道
においては、電線の地中化による眺望の確保、
歩行空間の創出等の取り組みが行われている。
(出典)2014 年 7 月
図 4-2-17 富士河口湖町における看板の集約化
56
事務局撮影
(3)山麓地域内における沿道景観
1)交通渋滞
・山麓地域内の一般道における主要渋滞箇所を見ると、地域の主要な道路である国道 137
号、139 号における複数の地点、区間が渋滞発生箇所となっている(図 4-2-18 参照)。
また、これらの箇所では過去に交通事故が発生しており、安全面での問題も指摘され
ている。
・また、国道 138 号とそのバイパス道路である東富士五湖道路(有料道路)が併走する
山中湖村では、本来であればバイパス道路に回るべき大型車等の通過交通が、国道を
利用しているような状況も散見されることから、バイパス道路に誘導するような料金
施策を検討する必要がある。 (表 4-2-8、図 4-2-19)
・現在、地元では渋滞発生箇所において道路幅員の拡幅等の道路事業により、渋滞解消
を図ろうとする取組みが進められているところであるが、中長期的には、地域内交通
における自動車交通の位置づけを見直すことが、環境保全および道路交通の安全性確
保の観点から必要と考えられる。
・山麓地域における交通渋滞は、麓からの富士山の眺望を阻害する一つの要因であり、
上述のような利便性、安全性の視点に加え、景観の視点からも改善すべき課題である。
<凡例>
渋滞箇所
渋滞区間
(出典)国土交通省関東地方整備局ホームページ
「平成 24 年度 山梨県の主要渋滞箇所の特定結果」より山麓地域を抽出
図 4-2-18 山麓地域内の渋滞箇所・渋滞区間(再掲)
57
表 4-2-8 東富士五湖道路における料金
富士吉田 IC~山中湖 IC 山中湖 IC~須走 IC
距離
利用料金
8.4km
9.6km
普通車
530 円
530 円
大型車
800 円
800 円
特大車
1,940 円
1,940 円
軽車両等
通行不可
通行不可
(出典)NEXCO 中日本料金・ルート検索
※東富士五湖道路の料金所は富士吉田 IC と須走 IC にあり、流入時に山
中湖 IC までの、流出時に山中湖 IC からの料金を支払う方式となって
いる。
国道 138 号
山中湖 IC
東富士五湖道路
(出典)2014 年 12 月事務局撮影
図 4-2-19 国道 138 号における渋滞の様子(北口本宮冨士浅間神社付近)
58
2)電線・電柱の地中化
・山麓地域内における電線・電柱の地中化については、平成 23 年度から平成 26 年度ま
での 4 年間で 4.3km の整備目標を掲げ、平成 25 年度までに 6.2km の整備を行い、目標
に対して約 140%の進捗状況であった。また、平成 26 年度については、1.3km を整備
しており、4 年間で目標を上回る 7.5km の整備を目指している。国土交通省では、富士
山北麓地域において、平成 23 年度から平成 24 年度で 7.2km の整備を事業化し、設計
及び工事を進めた。また、国道 138 号の拡幅区間についても、無電柱化を行うために
関係機関と調整を図っているところである。注1)
・しかしながら依然として、富士山信仰の一体的なつながりを体感する山麓地域の構成
資産からの富士山付近には電線が残っている箇所があり、さらなる取組みの継続を図
る必要がある。
注1)富士山-信仰の対象と芸術の源泉 ヴィジョン・各種戦略
(出典)2014 年 12 月事務局撮影
図 4-2-20 河口浅間神社からの富士山の眺望
59
<電線・電柱の地中化の取組み事例>
a.忍野村
・忍野村では国土交通省の街なみ環境整備事業による阿原川の防護柵の修景や中参道・鏡池
周辺における電柱の地中化、また山梨県の景観形成モデル事業による道路構造物の修景や
看板の更新、建築物の色彩変更等に取り組んできている。
河川防護柵の修景(阿原川)
電柱の地中化(中参道)
電柱の地中化(鏡池周辺)
(出典)忍野村資料
図 4-2-21
国土交通省の補助を使った電柱の地中化・防護柵の修景事例(街なみ整備事業)
道路構造物の修景
(村の事業)
看板の更新
(忍草漁業協同組合の事業)
建築物の色彩変更
(住民の事業)
(出典)忍野村資料
図 4-2-22 山梨県補助を使った景観の修景(景観形成モデル事業)
60
b.国道 139 号線
・国道 139 号線における富士山の景観の向上を図るため、国土交通省甲府河川国道事務所は、
電線共同溝の設置および無電柱化事業を実施している。整備区間は国道 139 号の富士河口
湖町船津~富士吉田市上吉田区間(7.4km
区間①)と鳴沢村前原~富士河口湖町船津
(7.1km 区間②)の 2 つの区間であり、区間①については平成 24 年度より事業が開始さ
れており、区間②は平成 26 年に工事着手している。
現状の沿道の様子(左:図中①付近、右:図中②付近)
(出典)甲府河川国道事務所資料
図 4-2-23 国道 139 号富士吉田における事業区間と沿道の現状
c.国道 138 号線
・平成 25 年度から国、山梨県、富士吉田市、地元関係者及び学識経験者により「国道 138
号新屋拡幅に伴う周辺まちづくり検討委員会」が組織され、御師住宅と北口本宮冨士浅間
神社等との関係性・つながりへの配慮、景観の保全と自然・歴史資源の活用等の観点も含
めた検討が行われている。
61
3)ビューポイントの整備状況
・富士河口湖町では富士山の良好な眺望場所を掘り起こすことを目的に、町民からの公
募等によるビューポイントの選定を行い、富岳百景と称して富士河口湖総合観光情報
サイトで公開している(2015 年 5 月現在 22 箇所を紹介)。
(図 4-2-24 参照)
・今後は、さらにビューポイントを増やすとともに、富士五湖観光連盟や他のサイトで
紹介されているポイントも集約化して情報提供していくことが必要である。例えば、
全国の地方整備局が主体となり進めている「とるぱ」では、富士山麓地域のビューポ
イントも紹介されており、これらの既存サイトとの連携を図っていくことが必要であ
る。(図 4-2-27、4-2-28 参照)
・また、海外の観光地で行われているようなビューポイントマップの提供や音声による
ビューポイント周辺の歴史や文化を紹介するような仕組み等の検討も考えられる。
(図
4-2-29 参照)
62
⑥大石公園
⑤長崎公園
②産屋ヶ崎
⑦もみじトンネル
63
①天上山
(出典)富士河口湖
図 4-2-24 富岳百景(一部抜粋)
総合観光情報サイト
<地方整備局による取組み「とるぱ」>
・国土交通省道路局は平成 16 年度より、安全に駐車できる駐車場と、そこから歩いていける
撮影スポットがセットになった場所(フォトスポット&パーキング(とるぱ))の情報提供
を全国の地方整備局が主体となり実施している。
・背景として、道路沿いから見える美しい景色を撮影できる場所についての情報提供が少な
いことに加え、撮影スポットや駐車場を探すために迷走・脇見運転、Uターンや路肩駐車
等が発生し、危険を伴うことが挙げられる。
・とるぱでは、一般人がドライブの途中でみつけた美しい風景や、地元の人だけが知ってい
る景色が撮影できる場所(フォトスポット)と、そこに一番近い駐車場(パーキング)情
報を専用のホームページに投稿し、収集した情報を選定した後、ホームページでの紹介・
現地の案内標識などを整備し、地域の活性化につなげることを目的としている。
・
「とるぱ」の情報提供を行うことにより、迷惑駐車の防止や、渋滞・交通事故の減少などの
効果も期待されている。
「とるぱ」指定の流れ
1. 一般から候補のスポットを募集する
2. 道路管理者等(行政職員や道守会員)が駐車場や撮影スポット周辺の安全性等を現地
確認
3. 適していると判断された場合、「とるぱ」スポットとして認定
4. 「とるぱ」情報の提供(インターネットや携帯端末で)、現地の案内標識や案内板などの
整備を行う
(出典)九州とるぱホームページ
図 4-2-27 とるぱの標識と設置例(左)九州とるぱにて提供されているおすすめコース(右)
64
・関東地方整備局が事務局を務める「関東とるぱ」における山麓地域の登録フォトスポット
は、
「河口湖逆さ富士」
「河口湖円形ホール」
「大石公園」
「西湖いやしの根場」
「西湖野鳥の
森公園」「精進湖の子抱き富士」
「本栖湖」等のタイトルで付近の駐車場からの富士山の眺
望が登録されており、同ホームページでは撮影場所の地図や、おすすめの撮影時期、駐車
場の料金・収容台数・利用時間などが紹介されている。
(出典)関東とるぱホームページ
図 4-2-28 関東「とるぱ」における山麓地域の選定箇所
65
<他地域における事例~車窓からのビューポイントの解説システム~>
スイスの氷河地域を走る観光列車”氷河特急”では、車内で配布するパンフレットに、車窓
からの風景の良いビューポイントを記載した地図を掲載し、鉄道が地図に表記されている番
号付近に近付くと、座席に備えつけのイヤホンからドイツ語・フランス語・英語・イタリア
語・中国語・日本語による音声アナウンスがそれぞれ言語で行われる。また、場所によって
は列車が徐行、または停止する。
(出典)2014 年 8 月 事務局撮影
図 4-2-29 パンフレットに記載されているビューポイント(左側図 42 番のビューポイント)
66
(4)歴史・文化遺産の保全状況
・吉田口登山道における山小屋等の建築物は、戦前からの富士山信仰を現代に伝える歴史
的遺産であるが、以下に示すように老朽化が進んでおり、これらの修景を早急に行って
いく必要がある。
(出典)2014 年 8 月 事務局撮影
図 4-2-30 修景が必要と考えられる吉田口登山道(一合目~五合目)にある
歴史的遺産や登山道の様子
67
(5)民間活力を活用した景観・街並み改善
・各自治体の定める基本方針に基づいて景観形成を進めていくためには、民家の外観等の
修景も必要になる場合があることから、住民や地元企業等との合意形成が大きな課題に
なるが、イコモス勧告への対応を考慮すると、少しでも景観の改善に向けて前進してい
くことが必要である。
・景観改善を進める上で、地域コミュニティや地元企業の活用が極めて重要である。景観
改善に前向きなコミュニティ、企業の取組みについて行政が後押しし、早期に実行に移
していくことで、他のコミュニティにも良い刺激を与えることが期待できる。
・以下には、我が国の他地域において、民間活力を活用した景観・街並み改善事例を示す。
これらの事例を参考に山麓地域においても民間活力を活用した景観街並み改善の仕組
みづくりを進めていく必要がある。
68
<地域住民・企業が主体となって景観・街並み改善に取り組んでいる事例>
①熊本県阿蘇市 阿蘇神社
一の宮門前町商店街
【概要】
熊本県阿蘇市にある一の宮門前町商
店街において、阿蘇神社に続く商店街の
振興を図るために、平成 13 年頃より地
元の若手商店主が中心になり景観整備
を進めるとともに、イベントなどの人が
集まる企画を行っている。
【主な取組み内容】
一の宮商店街の活性化のきっかけは
地元の商店主たちによるイベントを
主催した事によるため、取組み内容も
地元商店が主催するイベントが主と
なり、それに付随して自主的な景観整
備が行われている。主な取組みとして
は、観光客の食べ歩きによる”30 分滞
在時間”を目指し、限定食品の開発・
PR などの「食」の取組みである。景観
に関する取組みとしては、阿蘇地域に
おいて豊富な湧水をくみ取るための
「水基」を各商店の前に整備するもの
(出典)財団法人地域活性化センター
や、各商店の店頭に桜を植樹するなど
地域活性化ガイドブック
の補助金に頼らない景観整備が進めら
図 4-2-31 商店街の様子(上)お座敷商店街(下)
平成 24 年度
れている。(図 4-2-31、図 4-2-32 参照)
【取組み主体】
商店街の 2 代目店主で結成された商店街組合の「若きゃもん会」が主体となり、イベント
の企画や、地域住民に向けてイベントや景観整備への参画を促している。
また、一の宮地区全体のタウンマネジメント機関である「㈱まちづくり阿蘇一の宮」も宿
泊・イベント・グルメの情報提供の他、商店街の空き店舗解消のための新規商店への店舗斡
旋などを行っている。
(出典)財団法人地域活性化セン
ター
平成 24 年度 地域活性化ガ
イドブック
図 4-2-32
各商店の前に整備された水基
69
【取組み効果】
①来訪者の増加
…平成 24 年 10 月開催のイベント「蚤の市」には 1 日で 2.5 万人が来訪しており、近接
する阿蘇神社の年間入込者数も平成 13 年で 30 万人前後だったものが平成 24 年では約
50 万人に増加している。
②空き店舗の解消
…門前町商店街の営業している店舗数:平成 10 年は 22~23 件程度であったが、平成 20
年代に入り 10 件以上が新しく出店している。
③独自の商店街景観の創出
…「水基」の整備や店頭への植樹を行ったことにより、独自の景観が作りだされている。
(出典)財団法人地域活性化センター
平成 24 年度 地域活性化ガイドブック
図 4-2-33 各商店の前に植樹された街並み
【取組みに関する全体フレーム】
若きゃもん会
若手経営者による商店街組合
・「食」の取組の推進
・お座敷商店街などの企画
・「水基」の活用
働きかけ
地域住民・商店主
参加
㈱まちづくり阿蘇一の宮
イベントなどの
情報共有
タウンマネジメント機関(TMO)
宿泊・イベント・グルメの案内。門前
町散策(町歩き)の案内
空き店舗の斡旋
イベントの開催
新規参入
店舗
設立補助
空き店舗対策補助金
家賃の1/2補助
最長3年間
情報発信(ホー
ムページ、街歩
きマップ等)
阿蘇市
イベント開催費など一部補助
空き店舗の活用
地域住民・商店主が主体となった取組み
【ハード】
・水基の整備
・店舗前への植樹
・空き店舗の解消
観光客
【ソフト】
・「食」に関する商品開発
・イベントの開催
図 4-2-34 一の宮門前町商店街における取組みのフレーム
70
②三重県伊勢市 伊勢神宮内宮おはらい町
【概要】
三重県伊勢市にある伊勢神宮・内宮の鳥居前町である
おはらい町では、伊勢神宮門前街の衰退を受けて、昭
和 54 年頃から地元老舗企業が先導して、街並み整備の
ための委員会を設立し、住民も活用可能な景観修繕基
金の創設を行政に働きかけた結果、地元住民の景観改
善意識の向上・景観改善に向けた取組みの促進が図ら
れた。
(出典) 伊勢市観光協会ホームページ
図 4-2-35 おはらい町の様子
【主な取組み内容】
整備面で道路再舗装(石畳)工事、住宅や店舗の建て替え・増改築、電線の地中化、車両
通行規制の実施、
“おかげ横丁”の建設が行われた。制度面では、住民が伝統様式「伊勢造
り」再生のために行う住宅や店舗の建て替え、または増築に対する資金融資制度(伊勢市ま
ちなみ保全事業基金)が創設され、住民の景観改善に向けた取組みを支援した。
また、赤福によりおはらい町の一画に「おかげ横丁」と呼ばれる、江戸から明治にかけて
の伊勢路の代表的な建築物や街並みを再現したエリアを開発し、地域の魅力向上に努めた。
(出典)国土交通省 地域いきいき観光まちづくり 2011
図 4-2-36 「伊勢造り」の商店街店舗
【取組み主体】
取組みは、おはらい町に本社を置く老舗の和菓子店の赤福が主導して商店街関係者や地元
住民などが参加する内宮門前町再開発委員会を設立し、同委員会が伊勢市に景観整備や基金
創設を求める要望書を提出し行政に働きかけた。
【取組み効果】
昭和 50 年代は年間 20 万人だったおはらい町への観光客は、平成 22 年には 400 万人以上に
増加した。また、住民が活用できる修繕基金を創設することにより住民の景観改善意識の向
上に効果があった。
また、平成 21 年よりおはらい町通りの観光客増加に伴い、伊勢警察署はそれまで年末年始
のみ実施していた軽車両を除く車両規制をすべての土・日・祝日の(10:00~16:00)に拡
大し、歩行者の安全性を高めている。
71
【取組みに関する全体フレーム】
赤福
・地元にある老舗企業
・本店がおはらい町に立地
伊勢市 都市政策課
寄付(5億円)
条例の制定
主催
内宮門前町再開発委員会
創設
内宮門前町街並
み保存について
の要望書提出
㈲伊勢福
・おかげ横丁の整備・運営
まちなみ保全条例
伊勢市まちなみ保全事業基金(3.5億円)
参加
・住民が伝統様式「伊勢造り」再生のために行う
住宅や店舗の建て替え、増築に対しての資金
融資(3,000 万円まで、年利 2%)に活用
地元商店・住民
基金の活用
おかげ横丁の整備
・江戸から明治にかけての伊勢路
の代表的な建築物をおはらい町の
一画に移築・再現(創設費用140億)
交通社会実験の実施、おは
らい町通り交通規制の企画
景観整備の促進・歩行空間の安全性向上
伊勢市 交通政策課
電線地中化
道路石畳舗装
図 4-2-37 おはらい町における取組みのフレーム
72
三重県
<景観改善に向けて取組んでいるが新たな課題が生じている事例>
③滋賀県長浜市 黒壁スクエア
【概要】
「黒壁銀行」の愛称で地元住民に親しまれた
旧百三十銀行長浜支店が取り壊しの危機に際し、
昭和 62 年頃に地元企業と自治体の出資により
第三セクター「黒壁」が作られ、同銀行の建物
を買収した。これをきっかけに、第三セクター
が主体となって北国街道の伝統的街並みとガラ
ス工芸を組み合わせた観光スポット「黒壁スク
エア」を整備、その後周辺店舗に拡大し良好な
景観が形成されたものの、現在、直営飲食店の
高コスト体質などにより第三セクターの経営課
題に直面している。
(出典) 黒壁ホームページ
図 4-2-38 黒壁ガラス館(旧国立第百三十銀行長浜支店)
【主な取組み内容】
黒壁銀行の保存・改修を機に周辺の伝統的建造物の保存・活用や、ガラスをテーマにした
まちづくり、飲食・小売等の直営、テナント経営等、第三セクターによる多角的な取組みが
なされている。
【取組み主体】
地元企業 8 社と、長浜市の出資により、第三セクターの「株式会社黒壁」が設立され、現
在は店舗不動産業などを行う関連グループ会社で運営されている。
「歴史性」、
「文化芸術性」、
「国際性」を、まちづくりのコンセプトとして商店街の活性化を目的としている。
【取組み効果】
「黒壁銀行」を中心として周辺の街並み整備を行った結果、ガラスの街として有名になり、
平成元年では 9 万人だった来街者は、平成 23 年には 244 万人に増加している。一方で、直
営飲食店の高コスト体質や、他地域における街づくり事業への投資等を行った結果、経営的
に行き詰まりを見せている。
(出典)黒壁ホームページ
図 4-2-39 黒壁スクエアにある商業施設「黒壁五号館」
73
【取組みに関する全体フレーム】
地元企業8社
長浜市
出資(9千万円)
出資(4千万円)
創設
第三セクター(株)黒壁
・黒壁銀行の保存
・ガラスをテーマにしたまちづくり
・飲食、小売等の直営
・テナント経営 等
・商業パイロット推進事業
・美しい観光地づくり推進事業
・にぎわいの街づくり事業
設立・出資
新規
参入店
会費
店舗誘致コ
ンセプト・店
舗外観の条
件
景観整備に活用
黒壁グループ協議会
長浜まちづくり㈱
株式会社新長浜計画
賃料
・不動産関連事業
借家
商店街
建物
所有者
良好な景観形成、空き店舗の解消
図 4-2-40 黒壁スクエアにおける取組みのフレーム
74
<景観に関する新たな課題に対し改善に向けた取組みを進めた事例>
④大分県由布市湯の坪街道地区
【概要】
「湯布院」への観光客が増加するにつれ、
観光客を目当てとした外部資本による開発
で、沿道景観の混乱、歩行安全性の低下、
商売マナーの悪化、生活環境の悪化等の問
題が発生していたため、地元住民が中心と
なり景観や商売に関するルール・マナーを
定めた地域独自の紳士協定を策定し、景観
維持・街並み保全に努めている。
【主な取組み内容】
商店街で経営を行う商店主で構成される「湯
の坪街道周辺地区景観づくり検討委員会」に
(出典) 由布市ホームページ
図 4-2-41 湯の坪街道地区
よって、
「湯の坪街道周辺景観計画」が検討され、景観法に基づく地区内の看板などの基準
や、外部資本も含めた商業関係者が遵守すべき商業マナーなどの「紳士協定」が明記されて
いる (図 4-2-42 参照) 。景観協定運営委員会は、紳士協定を守ることを条件に、3つの景
観協定を満たした店舗 を「景観協力店」と認定し、認定プレートと三ツ星特製パネルを授
与している。2つ以下の協定を満たした場合は「協定加盟店」とされ、認定プレートのみが
配られる (図 4-2-43 参照) 。
・景観計画…景観法に基づく規定
・屋外広告物設置基準…景観法に基づく規定
・景観協定(商い協定)…商品の陳列・植樹等に関する規定
・景観協定(看板協定)…看板の高さ、枚数、のぼりに関する規定
・景観協定(看板色彩協定)…看板の色彩に関する規定
・紳士協定(おもてなし協定)…声掛け客引き、音楽、駐車スペースに関する規定
(出典) 湯布院観光経済新聞ホームページ
図 4-2-42 住民主体で定めた「湯の坪街道周辺景観計画」の内容
(出典) 湯布院観光経済新聞ホームページ
図 4-2-43「景観協力店」に授与される認定プレート
75
【取組み主体】
取組み主体は「湯の坪まちづくり協議会(検討委員会・ワーキング)」であり、この協議会
は、地区内でまちづくり活動を行う住民団体の代表者、およびこれまで地区で景観形成活動
を行ってきた住民、行政関係者等で構成される。
【取組み効果】
看板の減少や縮小等、地区内の景観が向上したことに加え、住民主体で行政への働きかけ
や、店舗関係者との協議により、当事者意識の向上や取組みに対する理解が深まった。それ
により、地区内で自主的に店舗改修する店が増加し、地区外に立地する銀行やコンビニなど
の外部資本が自主的に看板を改修する等、取組みが地区外へ波及している。
【取組みに関する全体フレーム】
湯布院町の交通社会実験(H14年実施)
参加
地元住民・商店
・パーク&バスライド
・パーク&レールライド
・観光自動車の中心部乗り入れ規制
・レンタサイクル実験
・交通景観のトータルデザインコントロールの実施 等
旧湯布院町
企画・実施
主催
住民の交通,景観に対する
関心の高まり
主催・
参加
地域振興に関する
活動補助金の付与
由布市
都市・景観推進課
湯の坪街道デザイン会議(H16設置)
湯の坪街道周辺地区景観づくり検
討委員会(H18設置)
・現地調査による建物の高さ、色彩等の基準づくり
・地区住民・店舗関係者に関する説明会の開催
湯の坪街道周辺景観計画
地区内景観条
例の制定手続き
景観法に関する技
術的なアドバイス
地区内の店舗・住民に景
観ルール・マナーの浸透
・景観計画、景観協定の策定
図 4-2-44 黒壁スクエアにおける取組みのフレーム
76
由布市
湯布院振興局
大分県
景観推進室
周辺地域・
外部資本への浸透
<ドレスデンの世界遺産登録抹消について>
ドイツのドレスデンでは世界
遺産登録以前より、中心市街地の
交通渋滞解消・既存の橋梁の自動
車通行による構造的負荷の解消
を目的とした橋梁の建設計画が
進められていた。その後、エルベ
峡谷の文化的景観を世界遺産登
録に申請する動きが市議会によ
り始められ 2004 年に世界文化遺
産された。
(出典)2010・国土交通省 国土交通政策研究所・ドイツ・エルベ川におけ
る橋の建設と世界遺産タイトルの抹消についての調査
図 4-2-45 問題となったヴァルトシュレスヒェン橋
(2013/8/26 開通)
登録後、世界遺産域内における橋梁の建設が具体化されていく中、ユネスコにより、橋の
建設が景観の広がりを分断・限定すると判断され 2006 年に危機遺産登録、2009 年に世界遺
産登録が抹消された。なお、世界遺産登録直後に行われた住民投票では約 6 割の住民が橋梁
の建設に賛成している。また、ユネスコにより橋梁の代替案としてトンネルの建設が推奨さ
れた。それを受けて市議会が「ヴァルドシュロスのエルベトンネルにより世界遺産を維持」
という住民請求を採択し、市側は橋梁に代わるトンネルの建設を州方監督部局に提案したが、
ザクセン州法監督部局が同住民請求は形式上も内容も憲法に反すると判定し、住民投票の実
施や橋の建設停止には至らなかった。
表 4-2-9 ドレスデンにおける橋梁建設と世界遺産(ユネスコ)に関する動き
年月
橋梁建設に関する事業手続き
1872
市交通計画図に路線が提示
2002.11
市議会により計画決定、予算化決定
世界遺産に関する動き
2002.12
エルベ渓谷の世界遺産への登録申請を市議会で決議
2003.1
州政府がユネスコに世界遺産登録申請
2004.7
2005.3
ユネスコがエルベ渓谷を世界遺産に登録
住民投票:住民の 67.9%が橋の建設に賛成
2005.11
ユネスコが橋建設への批判表明
2006.7
ユネスコがエルベ渓谷をレッドリスト
(危機にさらされた世界遺産)※に登録
2007.6
2007.11
ユネスコがトンネルによる解決を推奨
ヴァルトシュレスヒェン橋の工事着手
2008.4
市議会「トンネルによる世界遺産の維持」の住民請求認可
2008.9
州法監督部局により、トンネル建設に関する住民請求は違法と
判断される
2009.6
2013.8
ユネスコがエルベ渓谷の世界遺産からの登録抹消
ヴァルトシュレスヒェン橋完成
(出典)2010・国土交通省 国土交通政策研究所・ドイツ・エルベ川における橋の建設と世界遺産タイトルの抹消
についての調査
77
■景観改善に関するこれまでの取組みと今後の方向性
・世界遺産登録前、登録後に地元で行われた景観改善事例および今後景観改善に向けて取り
組んでいく必要があると考えられる事項について以下に整理した。
表 4-2-10 景観改善に関するこれまでの取組みと今後の方向性
取組み状況・今後の方向性
・景観計画の策定(富士河口湖町、山中湖村、忍野村)
・電柱の地中化(忍野八海等)
・案内、商業看板の集約化(富士河口湖町等)
世界遺産登録前
・河川防護柵の修景(忍野村)
・道路構造物の修景(忍野村)
・店舗看板、注意喚起看板の更新(忍野村)
・建築物の色彩変更(忍野村)
・湖畔沿いの自転車・歩行者道整備(山中湖村)
・景観保全型広告規制地区の指定(屋外広告規制の強化)(山梨県)
・電柱の地中化(富士吉田市、富士河口湖町等)
・富士山五合目商業施設のリニューアル(雲上閣)
世界遺産登録後
・湖畔沿いの自転車・歩行者道整備(山中湖村)
・河川整備(桂川等)
・登山道、巡礼路の修景
・構成資産の修景
地域内に優先的に景観改善エリアを設定した上で、そのエリアにて以
下の改善策を図る必要がある。
・電柱の地中化
・富士五湖地域共通の案内看板表記デザイン等に関するルール作り
・商業看板の集約化
今後
・湖畔沿いの駐車場移設および園地・遊歩道・自転車道の整備(河口
湖、山中湖)
・ボート桟橋の集約(河口湖・山中湖)
・建築物の色彩、高さ等の制限にもとづく商業施設、宿泊施設のリニ
ューアル
・景観に溶け込んだ交通拠点、交通システムの整備
78
4.2.3
景観に関する課題
以上の現状により、富士山及び山麓地域における景観に関する課題として以下が挙げられる。
①湖畔における桟橋の集約・ボート規制
・河口湖や山中湖においては、民間の桟橋が多く設置されており、その中には老朽化して、
現在使用されていないものや、保存状態は良いものの十分に活用されていないものが存
在する。
・桟橋の中には、多くの遊覧船やボートが停泊している箇所もあり、それらが湖畔からの
富士山の眺望を阻害している側面もある。
・また、冬季においては、利用されていないボートが湖畔に置き去りにされている状況も
みられる。
②湖畔の土地利用
・湖岸沿いの中には、湖→駐車場→道路→レストラン等施設という順の土地利用になって
いる地域があり、観光客が湖畔をゆっくりと散策したりする環境が整っていない。
③湖畔の遊歩道・自転車道のネットワーク化
・山中湖においては湖畔における遊歩道や自転車道の整備が進められているが、他の湖に
おいては一部に留まるなど、十分に進んでいない状況となっている。
・また、各湖畔をつなぐ自転車道の整備も十分ではない。
④山麓地域における建築物・屋外広告規制の徹底
・山麓地域における各自治体では、景観計画を策定しており、県では新たな屋外規制を設
ける等して精力的に取組みを進めているが、これらの適用範囲を広げ着実に実行してい
く必要がある。
⑤道路渋滞における景観悪化
・山麓地域内の主要幹線道路である国道 138 号、139 号では、日常的に交通渋滞が発生し
ており、それが麓における景観や、麓からの富士山の眺望を阻害している。
⑥沿道における電線の地中化、ビューポイントの整備
・電線の地中化については、これまでも精力的に進められており、今後も継続的に実施し
ていく必要がある。その際、富士山のすばらしい眺望が確保されるビューポイントや構
成資産の周辺等を優先して実施していくことが重要である。
79
⑦歴史的・文化的遺産の保全・修復
・登山道等にある歴史的建築物や登山道自体において老朽化が進んでおり、これらの保全・
修繕が必要である。
⑧民間活力を活用した景観・街並み改善
・山麓地域においても、一部で住民等が主体となって電柱の地中化等を進めようとする動
きがみられるが、このような取組みをさらに拡大していく必要がある。
・他地域における民間活力を活用した、景観・街並み改善事例を参考に、このような地元
住民・企業が主体となった取組みを後押しする行政の役割を検討する必要がある。
80
4.3
観光
4.3.1
観光に対する提言
スバルラインに登山鉄道を整備することで富士山五合目までの通年アクセスが可能となり、富
士山および山麓地域は通年対応の観光地への展望が開けることになる。また、登山鉄道自体が観
光資源でもあり、観光地としてのポテンシャルはさらに高まることが期待されることから、地域
的・季節的な集中を避け、長期滞在型の観光地への転換を、地域をあげて目指すべきである。そ
のため、以下の施策を推進すべきである。
観光に対する提言
(1)通年観光地への転換を図り、季節的集中を平準化するため、氷や雪の活用等、寒
さを逆手にとった冬季観光アイテムを充実させ、国内外に積極的に情報発信する
ことにより、冬季の来訪者数の底上げを図り、年間来訪者の総数を増加させる。
また、域内での周遊性を高め地域的な集中を避けるため、交通アクセスの充実を
図る。
(2)富士山中腹域や麓における登山道・トレッキングコースの再整備とこれらに関す
る観光情報を発信する。
(3)歴史・文化遺産の修復・保全を進めると同時に、これらに関する情報を発信し、
歴史・文化遺産に触れる機会を創出する。
(4)交通アクセスの充実
①首都圏方面だけでなく静岡方面やリニア中央新幹線駅方面等、多方面からの広域アクセス
ネットワークを充実する。
②観光客が山麓地域内においてゆったりと長期滞在を満喫できるよう、周遊バス等二次交通
としての公共交通ネットワークを充実させ、登山鉄道と山麓地域の結びつきを強化する。
③一次交通と二次交通の結節点となる登山鉄道の山麓駅においては、高速バスや自動車から、
登山鉄道、地域内周遊バスへのスムーズな乗継を確保する。また駅を中心とした地域の新
たな賑わいを創出する。
④登山鉄道の建設にあわせて、富士山五合目周辺を環境や景観に配慮した形で一体的に整備
する。
⑤多方面からの山麓地域へのアクセスや山麓地域内の周遊観光をスムーズに行えるよう、情
報提供における多言語化と情報のシームレス(寸断がない)化を図る。
(5)観光施設や宿泊施設、飲食店、お土産店等におけるサービスの向上を図る。
(6)地元産品を活用した食事やお土産物等の観光関連情報を積極的に発信するほか、
外国人が安心して旅行できるよう、救急医療体制の整備を進め、その情報提供もあ
わせて行う。
(7)MICE誘致や文化交流等を推進し、「国際会議観光地」化を実現する。
81
4.3.2
観光に関する現状
(1)富士山における登山者数・観光客数
1)登山者数
・富士山における夏季(7,8 月)の登山者数は各ルート合計で約 31 万人(平成 25 年・
八合目計測)であるが、そのうち約 6 割は山梨県側の吉田ルートからの登山者であ
る(図 4-3-1 参照)
。
・なお、平成 26 年の 7,8 月における吉田口六合目通過人数は約 17 万人で、前年の約
23 万人に比べ約 5 万人(24%)の減であり、平成 19 年度以来の 10 万人台の登山者
数であった。減少した要因としては、登山シーズンはじめに残雪が多かったこと、
山頂のトイレが開いていないといった情報により登山者が 7 月初旬の登山を敬遠し
たこと、台風等による天候不順、マイカー規制の日数拡大等が考えられる(図 4-3-2
参照)。
350,000
(人)
300,000
250,000
200,000
150,000
100,000
50,000
0
H17
H18
御殿場ルート
H19
H20
須走ルート
H21
H22
H23
H24
H25
富士宮ルート
吉田ルート
(出典)関東地方環境事務所
図 4-3-1 各年 7 月 1 日~8 月 31 日の八合目通過人数
(万人)
30
25
20
15
10
5
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
0
(出典)富士山安全指導センター
図 4-3-2 吉田口登山道六合目における通過人数の推移(7,8 月)
82
<富士山中腹域における登山道・トレッキングコースの現状>
・スバルライン五合目周辺には、奥庭コースや精進コース等富士山ならではの生態系に触れ
ることのできるトレッキングコース(図 4-3-3 参照)があるが、初めての来訪者にとって
はコースの入り口が分かりにくく、またこれらのコースから眺望できる景色、観察できる
植物等の情報が来訪者に十分に伝わっていないという課題がある。
・上記のトレッキングコースと結節する交通拠点としては、スバルライン、滝沢林道、吉田
口登山道にある駐車場やバス停留所が挙げられる。例えば、旧登山道である吉田口登山道
には、二合目と中の茶屋の間にある馬返しにバス停があり、五合目から徒歩で下山した場
合、馬返しのバス停でバスに乗ることができる。
・なお、開山期間中には馬返りにおいて市民ボランティアによる「富士山お休み処」を開設
している(図 4-3-4 参照)。来訪者に対し給水サービスや周辺案内などを行うことにより山
麓からの登山を行うための環境整備を行うとともに、パンフレット・ホームページ等によ
り「山麓からの登山」の周知を実施している。注1)
・また、吉田口登山道五合目までにある倒壊した山小屋を撤去し、その跡地に山小屋の由来等を
記した案内板を設置し、富士登山の歴史に対する理解の促進を図っている(図 4-3-5 参照)。
注1)
・山梨県・静岡県及び関係市町村等は、富士山一周など富士山周辺を歩いて楽しんでもらう
ためのルートを掲載したマップを作成し(富士山一周ロングトレイル)
、その後、安全性の
検証と富士山の眺望箇所の追加を行った上で、完成版として、
「ぐるり富士山トレイル」に
名称変更し、2014 年(平成 26 年)2 月に更新した(図 4-3-6 参照)
。注1)
注1)富士山-信仰の対象と芸術の源泉 ヴィジョン・各種戦略
(出典)富士山みはらしホームページより作成
図 4-3-3 スバルライン五合目付近のトレッキングコース
83
(出典)富士山-信仰の対象と芸術の源泉 ヴィジョン・各種戦略
図 4-3-4 登山道における休憩所・案内所の整備
(出典)富士山-信仰の対象と芸術の源泉 ヴィジョン・各種戦略
図 4-3-5 登山道における案内看板の設置
(出典)富士の国やまなし 観光ネット ホームページ
図 4-3-6 富士山一周ロングトレイル
84
<登山鉄道と公共交通を活用した観光形態の提供事例>
・登山道や散策路と公共交通を上手く結節した事例として、スイスにおけるユングフラウ登
山鉄道やゴルナーグラード鉄道が挙げられる。例えば、ゴルナーグラード鉄道では、麓駅
であるツェルマットから、山頂駅であるゴルナーグラード駅までに 4 つの駅があり、それ
らの駅を拠点として複数のトレッキングコースが整備されている。乗車客の中には途中駅
で降車し、各々の体力に合わせてトレッキングコースにある湖や自然等を楽しみながら山
頂を目指す人もおり、登山の観光形態が多様なものになっている。また、列車の中には自
転車置き場が設置されており、山頂付近でサイクリングを楽しむことも可能である。
・このような海外事例を参考に、交通拠点を整備するとともに、交通拠点と登山道・散策路
を接続し、これらの観光資源を活用していくことが重要である。
(出典)ゴルナーグラート鉄道ホームページより作成
図 4-3-7 ゴルナーグラート鉄道と並走するトレッキングコースと観光客
・なお、ユングフラウ鉄道は、標高 2,061m の麓駅から 3,454m までの標高差約 1,400m を鉄道
で一気に登ると、乗客が高山病にかかる恐れがあるため、登りの電車では中間駅 3 箇所に
それぞれ 10 分ほど停車し、登山客が高度気圧に順応するような仕組みがとられている。ま
た、鉄道事業者は、列車が中間駅で停車している間に、乗客に対して、列車を一時降車し
てからホーム内にある麓の景色の眺望が望める窓まで歩行運動をすることを推奨しており、
乗客も中間駅からの眺望を楽しむことができる。
85
(出典)ユングフラウ鉄道パンフレットより作成
図 4-3-8 ユングフラウ鉄道にある中間駅の位置とホームから眺望窓まで歩行運動を行う乗客
86
2)五合目の観光客数
・山梨県側の富士山スバルライン五合目には、年間約 400 万人の入込があり(図 4-3-9
参照)
、その多くは夏季に集中している(平成 25 年 8 月の入込客数約 81 万人、図
4-3-10 参照)
。
・冬季において、五合目の観光客が激減する理由として、スバルラインが路面凍結等
により通行止めになることが挙げられる。
・また、冬季においては、富士山四合目・五合目からの眺望が一つの観光資源になる
と考えられるが(図 4-3-11 参照)、スバルラインの路面凍結等でアクセスできる日
が限定されることから(図 4-3-12 参照)、このような資源が十分に活用できていな
い。
(万人)
450
405
400
393
350
307
300
250
291
288
251
232
206
200
366
323
207
150
100
50
0
H15
H16
H17
H18
H19
H20
H21
H22
H23
H24
H25
(出典)山梨県観光入込統計
図 4-3-9 富士山スバルライン五合目 年別入込観光客数 (延べ人数)
(万人)
90
78
81
80
70
53
60
43
50
33
40
30
20
10
32
30
25
13
11
3
3
1月
2月
0
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月 10月 11月 12月
(出典)山梨県観光入込統計
図 4-3-10 富士山スバルライン五合目 月別入込観光客数 (延べ人数)
※山梨県観光入込統計調査における五合目入込人数は、スバルラインの通行台数をもとに算出されている。
スバルラインの通行台数は、山梨県道路公社によりスバルラインを通行する自動車の往復台数で計測されて
いるため、入込人数が 2 倍に算出されている可能性がある。
87
(五合目から富士山頂の眺望)
(五合目駐車場から南アルプス方面の眺望)
2013 年 12 月 事務局撮影
図 4-3-11 冬季における五合目からの眺望
35
30
営業日数(日)
<通行止め内訳>
路面凍結 71%
積雪 20%
降雪 7%
強風 2%
25
20
15
10
5
0
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 合計
全線休業
3
3
1
0
0
0
0
0
0
0
10
2
19
一合目営業
16
16
0
3
0
1
0
0
0
0
0
11
47
四合目営業
12
9
30
17
2
0
0
0
0
0
0
4
74
五合目営業(一部時間帯)
0
0
0
2
0
1
0
0
2
2
6
0
13
五合目営業
0
0
0
8
29
28
31
31
28
29
14
14
185
(出典)山梨県道路公社富士山有料道路管理事務所ホームページ
図 4-3-12 スバルラインにおけるスバルライン五合目までのアクセス可能日数
(℃)
25
21.3 22.1 18.4
17.4
山頂
20
13.9
12.4
河口湖
15
9.3
7.1
10
4.9 6.2 3.2
3.6
2
1.1
5 -0.6 0.2
-2.8
-3.4
0
-8.7
-9.2
-5
-14.2
-10
-15.1
-17.8
-15 -18.4
-20
-25
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
(出典)気象庁
図 4-3-13 富士山山頂と河口湖の月別平均気温(1981 年から 2010 年)
88
(2)山麓地域における観光客数
・山麓地域へは、年間約 1,300 万人の観光客が来訪しているが、富士山五合目同様、夏季
に年内観光客の約 3 割が集中している(図 4-3-13 参照)。
・これらの原因として冬季における観光資源・アクティビティが限定されることが挙げら
れる。一年間のアクティビティやイベントを見ると、イベントは年間を通じて開催され
ているものの、山麓地域や富士山でしか体験できないアクティビティに関しては、富士
登山、トレッキング、キャンプ、アウトドアスポーツ等夏季に盛んなものが多く、冬季
にはその種類や内容がかなり限られている(図 4-3-14 参照)。
・現在、各自治体では冬季の観光客減少を受けて様々な取組みやイベントを行っている。
例えば山中湖村では、10 月中旬から 2 月末の日没時にみられるダイヤモンド富士の時
期に湖畔のイベントスペースを活用したキャンドルイベント「山中湖 Diamond Fuji
Weeks&アイスキャンドルフェスティバル」を開催するなどしている。また、富士河口湖
町では、1 月中旬から 2 月末まで河口湖畔を活用して「河口湖・冬花火」や「雪まつり」
を開催している。しかしながら、いずれの施策も冬季の観光客を大幅に増加させるに至
っていないのが現状である。
・また、博物館や美術館などの富士山に関する研究や資料の保管、情報を発信する場所も、
冬季は、訪問客が少ないため営業時間の短縮・休業等を設けているところが多い(表
4-3-1 参照)
。
・冬季における山麓地域の観光客を確保するために、例えば、富士河口湖町と富士五湖観
光連盟による雪まつりで検討されているように富士山四合目・五合目を観光スポットと
して活用するとともに、それと麓でできるウィンタースポーツ等とを組み合わせた観光
メニューを開発する等、検討に値する課題は多いと考えられる。
・また、富士河口湖町観光連盟、富士河口湖町観光課では、インターネット上で、冬季観
光にフォーカスした特集ページを設立し情報提供しており、このような取組みを今後も
進めていく必要がある(図 4-13-15、16)
。
・通年観光化に取り組んだ国内の事例として、冬季の入込増加が課題であった京都の施策
が挙げられる。京都では、冬季観光客の入込増加策である「京の冬の旅」や、夏季の入
込増加策のライトアップイベント「花灯路」等、開催時期と場所(東山・嵐山等)を変
えてイベントを実施することにより、観光入込の平準化やリピーターの創出に成功して
いる(<他地域における観光振興に関する取組み ~京都市における観光入込平準化策
~>参照)
。
・山麓地域においても、富士山の登山道、散策路、巡礼路や湖、山麓地域の自然、神社、
御師住宅、四合目・五合目、ウィンタースポーツ、魅力的な交通アクセス等の観光アイ
テムを活用し、季節や場所による魅力の違いを打ち出し情報発信していくことも必要で
ある。
・また、近年北海道等では、雪を観光目的のひとつとして、東南アジアからの観光客が増
加していることから(図 4-3-18 参照)、富士山及び山麓地域においても寒さを逆手にと
った観光戦略を検討することが重要である。
89
・富士五湖周辺や富士山中腹エリアには、魅力的な山歩きコースが多数存在しており、富
士山の眺望を様々な場所から楽しむことができる。(<富士五胡周辺の山歩きコース>
参照)。
(万人)
180
富士山五合目
富士吉田・河口湖・三つ峠周辺
本栖湖・精進湖・西湖周辺
山中湖・忍野周辺
160
140
120
100
80
60
40
20
0
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月 10月 11月 12月
(出典)山梨県観光入込統計
図 4-3-13 月別観光入込客数(平成 25 年 延べ人数)
イベント
春
富士芝桜まつり
つつじ祭り
夏
秋
火祭り
花の都
ハーブフェスティバル
花火大会
収穫祭
アクテビティ
冬
ダイヤモンド富士 樹氷まつり
冬花火
もみじ祭り
収穫祭
流鏑馬
雪まつり
イルミネーション
7,8月
スキー
富士山登山
わかさぎ釣り
4,5~10,11月
バーベキュー
アウトドアスポーツ
エコトレッキングツアー クライミング
キャンプ
通年
ハイキング
登山
パラグライダー
ガイドウォーク
釣り(川)
釣り(湖)
カーリング
(出典)関連ホームページ(富士の国山梨観光ネット、富士五湖観光連盟、富士五湖レジャーナビ)より作成
図 4-3-14 山麓地域における年間アクティビティ・イベント
90
表 4-3-1 山麓地域における博物館・美術館の営業状況と外国語対応状況
施設名
区分
年間営業状況(休館日は除く)
館内外国語表記
富士山レーダードーム館
科学館
通年
なし
富士吉田市歴史民俗博物館
博物館
通年
H27リュニューアル後に
英語表記
フジヤマミュージアム
博物館
通年 (12~2月は営業時間短縮)
なし
河口湖木ノ花美術館
美術館
通年 (12~2月は営業時間短縮)
なし
河口湖ミューズ館・与勇輝館
美術館
通年
英語
河口湖オルゴールの森
博物館
1/16~2/27は冬季休業
英語・中国語
山梨宝石博物館
博物館
通年 (11月~2月は営業時間短縮)
英語(音声ガイド)
河口湖テディベア館
博物館
通年
-
河口湖美術館
美術館
通年
なし
河口湖北原ミュージアムHappy Days
博物館
通年
なし
クリスマスの森サンタクロースミュージアム
博物館
1、2月は冬季休業、3~7月は土日祝のみ営業
不明
久保田一竹美術館
美術館
通年(12~3月までは営業時間短縮)
英語・中国語・韓国語・仏
語
河口湖ハープ館
博物館
通年(11~3月までは営業時間短縮)
-
三島由紀夫文学館
博物館
通年
常設コーナーは英語
(出典)各施設ホームページと電話ヒアリングにより作成
91
<地元における冬季観光情報の発信~富士河口湖 冬物語 2014→2015~>
・富士河口湖町観光連盟、富士河口湖町観光課では、インターネット上で、冬季観光にフォ
ーカスした特集ページを設立し、情報提供している(図 4-13-15、16)
。
・トップページでは、
「花火と光、氷雪、祈り・願い・開運・グルメ、アート・カルチャー・
エンターテイメント、冬のこだわりプログラム、富士山の日」とコンテンツが分離されて
いる。これにより、ホームページ利用者が冬季において、どのようなジャンルのイベント
が開催されているのか探しやすくなっている(図 4-13-15、赤枠①)。
・また、イベントごとに写真つきで表示されていることで、イベント内容のイメージがしや
すくなっている(図 4-13-16、赤枠②)。
・イベントスケジュール一覧ページを設け、イベント開催期間を一元的に整理しており、イ
ベント開催日時の把握がしやすくなっている(図 4-13-16、赤枠③)。
・英語表記のページを設けており、外国人旅行者対応の取組みを進めている(図 4-13-15、
赤枠④、⑤)
。
・冬季観光の魅力を伝えるための工夫として、USTREAM や YouTube を用いた動画による観光
情報の発信もされている(図 4-13-16、赤枠⑥)
。
①
④
⑤
(出典)富士河口湖町ホームページ
図 4-3-15 富士河口湖 冬物語 2014→2015 (1)
92
③
②
⑥
(出典)富士河口湖町ホームページ
図 4-3-16 富士河口湖 冬物語 2014→2015 (2)
93
<他地域における観光振興に関する取組み
~京都市における観光入込平準化策~>
・京都市は課題であった冬季と夏季の観光客の減少を解決するために「京の冬の旅」
「京の夏
の旅」や「花灯路」
、
「京の七夕」等の事業を展開し、さらなる観光資源の発掘、情報発信
の強化を図った。
表 4-3-2 京都市における冬・夏の観光客増加策
イベント名
京の冬の旅
期間(昨年実施)
平成 26 年 1/10~3/18
開始年
内容
昭和 42 年 1 月~
非公開の文化財の公開や冬
/夏の京料理・特別ツアーの
京の夏の旅
平成 26 年 7/12~9/30
昭和 50 年 7 月~
割引
花灯路
3/6~3/15(東山地区)
平成 15 年 3 月~
東山地区において「灯り」を
12/12~12/21(嵯峨・嵐山
※嵯峨・嵐山地区は平成
テーマとした各観光資源の
地区)
17 年より実施
ライトアップ
平成 26 年 8 月 2 日(土)
平成 21 年 8 月~
堀川地区・鴨川地区など市内
京の七夕
~11 日(月)
複数個所に設置された七夕
飾りのライトアップ
(出典)各イベントホームページ
(写真)左:花灯路
右:京の七夕
・その結果、平成 15 年における冬(12,1,2 月)の観光入込数は、最多入込月の 11 月と比較
すると約 3 倍程の差が生じていたが、平成 25 年には 1.2 倍まで縮小しており、年間を通じ
て入込数の平準化に成功している。
(出典)平成 25 年度
京都観光総合調査報告書
図 4-3-17 京都市における平成 15 年と平成 25 年の月別観光客数
94
<北海道における東南アジアからの観光客の推移>
東南アジア 5 カ国(タイ、マレーシア、ベトナム、
(万人)
フィリピン、インドネシア)
12
訪日ビザ免除・緩和 2013 年 7 月 1 日
10
9.88
8
6
3.7
3.64
1.77
2.35
3.56
1.24
2.2
4
2.88
2
2.17
1.84
0
2010年度
0.97
2011年度
2012年度
シンガポール
マレーシア
2013年度
タイ
(出典)北海道経済部観光局統計
図 4-3-18 北海道における東南アジアからの観光入込客数推移(実人数)
95
<登山道・トレッキングコースの魅力>
・富士五湖周辺および富士山山麓中腹エリアの山歩きとして、多くのトレッキングコースが紹介されている。
・トレッキングコースでは、様々な角度、場所から富士山の眺望や自然景観を楽しむことができる(表中赤枠で囲むコースから望むことができ
る富士山や自然景観の眺望を次項に示す)
。
96
(出典)富士五湖周辺の山あるき(大人の遠足 BOOK JTB パブリッシング)
図 富士五湖周辺のトレッキングマップ
図 「No.2 鉄砲木ノ頭~高指山」高指山山頂からの富士山の眺望
図 「No.27 富士山五合目~御中道」カラマツが黄葉に輝く晩秋の御中道)
97
図
「No.8 三ツ峠山~府戸尾根」
トウゴクミツバツツジに彩られる三ツ峠山上からの富士山の眺望
図
「No.22 浩庵荘入口~パノラマ台」
綾線台の展望台からの富士山の眺望
(3)山麓地域における宿泊客数
・山麓地域の宿泊状況を見ると、年間約 325 万人の宿泊者数となっているが(図 4-3-19
参照)、観光客数に対するその割合は 2~3 割程度である。また宿泊日数については、山
梨県全体の数字であるものの 1 泊が約 8 割となっており短期滞在となっている注2)
。
・山麓地域における観光を宿泊型・長期滞在型にしていくためには、観光客にとってこの
地域を周遊する際に外せない観光スポット数の増加と、各観光スポットでの滞在時間を
伸ばすことが必要である。
・たとえば、スイスの山岳観光地では、山頂にある観光スポットにおける滞在時間を伸ば
すために、高質なサービスを提供する飲食施設や休憩施設、アミューズメント施設等を
整備するとともに、山頂までのアクセス交通を鉄道に限定して食事やアクティビティと
連動した旅行商品やチケットを企画することにより、観光スポットでの滞在時間を伸ば
す工夫がなされている(図 4-3-20 参照)
。
・通年観光、長期滞在化を実現していくためには、富士山観光の各アイテムを磨き上げる
とともに、域内の観光スポットを周遊しやすい交通手段や富士山での滞在時間をコント
ロールする交通手段、ハイグレードな観光サービスの提供等を検討し、富士山から麓ま
で楽しめるようにすることが重要である。
注2)平成 25 年山梨県観光入込客統計調査報告書
(万人)
325
350
300
271
282
H23
H24
250
200
150
100
50
0
H25
(出典)山梨県観光入込統計
図 4-3-19 山麓地域の推計宿泊客数の推移(実人数ベース)
2014 年 8 月 事務局撮影
図 4-3-20 スイス・ユングフラウ鉄道の終点駅(標高 3,454m)で提供されている施設
(右:名産のチョコレート博物館 中:雪に触れることのできるエリア 左:氷河の中を体験できるアイスパレス)
98
(4)富士山及び山麓地域における歴史・文化観光
1)歴史・文化遺産の活用状況
・富士山および山麓地域における観光としては、登山や湖でのアクティビティなど、自
然を活用したものが多くの観光客に認知されている。一方、文化遺産として世界遺産
に登録されたものの、イコモスからの勧告にもあるように、神社・御師住宅と巡礼路
の文化的・歴史的な関係性等が観光客に認知・理解されていないのが現状である。
・山麓地域における観光のあり方として、文化観光を強化していくことが必要である。
そのためには、富士山信仰や芸術に関連する施設の修景、ビューポイントからの富士
山の眺望の確保等が重要な課題と考えられる。
・例えば、吉田口登山道にある山小屋等の建築物は戦前からの富士山信仰を現代に伝え
る歴史的遺産であるが老朽化が進んでいる(図 4-3-21 参照)。また、富士山信仰に関
係のある河口浅間神社から仰ぐ富士山の眺望にも電柱・電線が映りこんでおり、富士
山と関連した構成資産としての歴史的一体性を欠く部分がある(図 4-3-22 参照)。こ
れらは景観に関する課題であるが、観光振興の観点からも非常に重要な課題である。
そのため、歴史遺産等の修景や富士山眺望の確保について取り組んでいく必要がある。
(出典)2014 年 8 月
事務局撮影
図 4-3-21 吉田口登山道(一合目~五合目)にある歴史的遺産の様子(再掲)
(出典)2013 年 12 月
図 4-3-22 河口浅間神社からの富士山の眺望(再掲)
99
事務局撮影
2)文化遺産に関する情報を提供する取組み
・文化観光の振興を図るためには、富士山及び構成資産の文化的・歴史的関係性の意味
合いを理解する機会の提供が必要である。
・現在、富士吉田市歴史民俗博物館、富士吉田市では、富士山の自然や信仰の歴史を普
及させることを目的として、観光客・地元住民を対象に構成資産である旧外川家など
を活用して「御師の家で富士山学!」を行っている。平成 26 年は計 4 回が歴史民俗
博物館近くにある御師の家で同講座が開催されており、各回自然や歴史に関する講義
が大学等の講師により行われている(図 4-3-23 参照)。このような取組みを今後も継
続していくことが重要である。
・また、文化観光をひとつの観光スタイルとして浸透させていく取り組みも必要である。
例えば、熊野古道や由布院では、観光のコンセプトを明確に打ち出し、それを軸に様々
な観光施策を展開している。このような他地域での事例を参考に文化観光の振興を推
進していくことが重要である。
(出典)歴史民俗博物館ホームページ
図 4-3-23 「御師の家で富士山学!」の様子
100
<他地域における観光振興に関する取組み
~熊野古道における観光の質の転換~>
・熊野古道は、世界遺産登録に際して観光客の増加による本来の巡礼道の荒廃・乱開発等を
危惧し、
「ブームよりルーツ」
、
「インパクトよりローインパクト」
、
「乱開発より保存・保全」、
「マスより個人」
、
「量より質」を基本姿勢とした観光開発を以下のポイントに絞って行っ
た。
取組みのポイント
○地域資源の保全と観光振興の両立による持続的な観光地づくり
⇒欧米豪の個人旅行者をターゲットに絞る
⇒海外の個人旅行を対象とする旅行代理店やメディアに、和歌山県等とともに売り込み
○外国人に「合わせず」地元のルールを「伝える」ワークショップを開催
○各観光協会と田辺熊野ツーリズムビューローとの役割分担
(出典)和歌山県田辺市「持続的な観光地づくり」
図 4-3-24 田辺市における観光振興に関する取組体制
・上記の取組の結果、田辺市の観光客総数は、世界遺産に登録された 2004 年以降増加してい
ったん落ち込むものの、近年ではほぼ横ばいとなっている。
・田辺市によると、世界遺産登録直後は、熊野古道に多くの団体旅行者が訪れ、ゴミのポイ
捨て、遺産への落書きや、草花がちぎられるなど、旅行者のマナーが問題視されたが、現
在では個人旅行者が多くなり、落書きやゴミもほとんどなくなり、マナーが改善されたこ
とが報告されている。
(出典)和歌山県田辺市「持続的な観光地づくり」
図 4-3-25 熊野古道を構成する自治体の観光客総数の推移
101
<他地域における観光振興に関する取組み ~由布院における観光地形成~>
・由布院は、田園風景を残して、独自の景観や雰囲気のある観光地を作ることをテーマに自
治体・老舗旅館(玉の湯・亀の井別荘)が主体となり、1980 年代より観光地形成を行って
きた。1980 年代当時、近隣温泉地である別府等多くの温泉地が団体観光客に合わせた高層
ホテルや歓楽施設、ゴルフ場等を建設しリゾート化していった。しかし、由布院温泉は、
観光ターゲットを少人数旅行に絞り、
「田舎暮らし」体験型の観光をコンセプトを貫き、ゴ
ルフ場建設への反対運動や住民主体で開催する「湯布院映画祭」を開催するなど独自の施
策を行ってきた。
・90 年代になり日本の観光スタイルが団体から個人・少人数スタイルに変わると、由布院の
観光が広く認知されるようになり観光客も増加した。
※「湯布院」…旧「由布院町」と「湯平村」の合併により「湯布院町」が誕生した。
(現在は由布市)旧湯布院町の自治
体に関連するものは湯布院が多い。
※「由布院」…旧「由布院町」地区に関連する名称に使用さている。由布岳・由布院駅等に使う。
(出典)平成 24 年 湯布院地域の景観まちづくりの現状と課題
図 4-3-26 由布院の”田園風景”をテーマとした景観
・由布院温泉の人気上昇に合わせ、JR 九州は、博多と由布院・大分を鹿児島本線・久大本線
経由で結ぶリゾート特急「ゆふいんの森」
号の運転を開始し、由布院温泉を訪れる観
光客に利用されている。
・一方で、”田園風景”をテーマに観光開発
を行ってきた由布院では、年々観光客が増
加し、外資本等による大規模なホテル開発
や景観を阻害する看板等も一部に発生し
景観問題となっている。それを受けて、自
治体ではさらなる景観計画や、パーク&バ
スライド(トレインライド)等の社会実験
を行い、新たな交通対策を検討している。
(出典)平成 24 年
湯布院地域の景観まちづくりの現状と課題
図 4-3-27 由布院の観光入込数と宿泊施設数の推移
102
(5)交通アクセス
1)一次交通
・現在、各方面から山麓地域へのアクセス(一
次交通)については、鉄道、自動車、高速バ
スが利用可能であるが、来訪者の 9 割以上は
自動車によるものとなっている。(図 4-3-28
参照)
・鉄道を利用して各方面から山麓地域にアクセ
スする場合、複数回の乗換えが必要である(図
4-3-29 参照)
。これに対し、千葉や大宮方面、
成田空港から JR を経由し富士急線に乗入れる
等、乗換を軽減する取組みも進められており
(図 4-3-30 参照)
、このような事業者間の連
携によるサービス向上を今後も進めていくこ
とが必要である。
・また、山麓地域に至るまでの車内において車
窓から景色を楽しめ快適にくつろげるような
空間の提供についても検討が必要と考えられ
※出発地-目的地(207 生活圏)純流動表(年間)
代表交通機関別データより作成
※代表交通機関で集計したデータであるため、郡
内地域への流入交通の中に航空利用がわずか
に含まれていた(2 万/人)
。この数を除いて分
担率を計算
※郡内ゾーンに含まれる自治体
富士吉田市、都留市、大月市、上野原市、道志村、
西桂町、忍野村、山中湖村、鳴沢村、富士河口湖
町、小菅村、丹波山村
る。
・一方、高速バスについては、首都圏方面だけ
でなく大阪・京都、北陸方面など各地からの
(出典)平成 22 年度幹線旅客純流動調査
ネットワークが充実しているが、高速道路の
図 4-3-28 山梨県郡内ゾーンへの流入
渋滞等により、所要時間が変動する場合もあ
交通における交通機関分担率(再掲)
り(表 4-3-3 参照)
、このような状況が生じた
場合の旅客に対するサポート等を充実していくことも必要である。
・海外からの観光客に対しては、成田・羽田空港から五湖地域までをアクセスしやすく
することが重要である。上述の鉄道における乗換を軽減する取組みに加え、出発前に
自国でチケットの購入や座席の指定等ができるサービスの提供の検討が必要である。
なお、JR 東日本は外国人向けに
「ラウンドトリップチケット」を発売している(図 4-3-32
参照)
。同チケットは富士急行線・富士登山バスがフリーエリアとなり 2 日間乗り降り
自由、また東京都区内から山麓地域(フリーエリア)までの往復には中央本線の特急
列車が利用可能であるが、自国においてチケットを購入できない等の課題がある。
・さらに、航空会社と鉄道会社の連携も重要である。ルフトハンザ航空は、国際線を利
用の旅客に、ドイツ鉄道(DB)と提携し、ルフトハンザ便の運航するドイツ国内空港~
各都市間の列車チケットを割安料金で販売している。このチケットは航空券の予約と
同時に鉄道乗車券の予約が可能であり、乗車券には列車指定や目的地の指定がなく、
状況に応じて希望する列車に乗車することが可能である(図 4-3-34 参照)。このよう
な先進的な取組みを参考に、世界から山麓地域へのアクセスサービスを高めていくこ
103
とが重要である。
・首都圏や中京圏以外からの観光客を増加させるためには、周辺地方空港を活用した集
客が望まれる。富士山周辺には羽田空港・成田空港の他に富士山静岡空港や信州松本
空港があるが、これらの地方空港からの一次交通アクセスを充実する必要がある。
・平成 29 年度(2017 年)には中部横断道が開通するため、東海方面からのアクセスが改善
される。また、中部横断道開通により、身延温泉などの周辺観光地との連携が可能と
なり、外国人に対する新たな観光コースとして誘客向上につながることも期待される
(図 4-4-33 参照)。
・平成 39 年(2027 年)に開業を目指すリニア中央新幹線の整備によって、東京-山梨間の
移動時間が大幅に短縮されることから、首都圏方面や名古屋方面から山梨県へのアク
セスが増加することが考えられる。リニア山梨県駅から富士山・山麓地域へのアクセ
ス利便性の向上が課題であり、山梨県は山梨県リニア活用基本構想の中で、国道 137
号や国道 358 号などの新駅付近から富士山・山麓地域へのアクセス道路の整備推進が
検討されており、
「リニア新駅開業を見据えたバスネットワークの再編」地域の一つと
して富士山・山麓地域が挙げられている。
浅草
在来線
有料特急線
大宮
時間計:2時間23分
費用計:4,160円
乗換計:4回
駅名
富士山駅への所要時間
運賃・料金(IC利用時)
乗換回数
甲府
大月
乗換計:4回
宇都宮線
新宿
八王子
立川
中央線
時間計:1時間53分
費用計:3,987円
乗換計:1回
東北新幹線
東京
時間計:2時間22分
費用計: 4,160円
乗換計:2回
横浜線
富士五湖地域
富士山
日光
時間計:4時間51分
地下鉄銀座線 費用計:9,040円
埼京線・武蔵野線・
中央線
富士急行線
河口湖
時間計:3時間33分
費用計:3,905円
乗換計:3回
横浜
時間計:2時間31分
費用計: 3,640円
乗換計:2回
品川
京浜急行線
羽田空港
時間計:3時間32分
費用計:4,567円
乗換回数計:3回
成田エクスプレス
(新宿まで91分)
成田空港
時間計:4時間22分
費用計:7,194円
乗換回数計:2回
※ 乗換回数の少なさ・特急を優先、各出発駅を 9:00 出発で検索した場合
(出典)乗換サイトジョルダンより作成
図 4-3-29 鉄道による首都圏からのアクセス
104
(実線)定期的に運転する直通列車
(点線)過去に運転実績のある直通列車
成
田
空
港
千
東
※千葉・高崎は本年も運転予定
新
高
大
河
口
葉
京
宿
尾
月
湖
普通列車 1往復/毎日
※東京~高尾間快速
普通列車 2往復/毎日
中央線系統
快速列車
1往復/土休日のみ
※7/26-11/30の土休日
宇
高
小
大
成田エクスプレス
1往復/土休日のみ
東神奈川
横浜線経由
川
南武線経由
崎
都
宮
山
宮
武蔵野線系統
※12月~3月中旬は運休
崎
快速列車
1往復/土休日のみ
図 4-3-30 直通運転により乗換を軽減するサービスの取組
甲府南
至 松本
JCT
中央自動車道
約27分(甲府南→大月)
大月
JCT
八王子
JCT
中央自動車道
約48分(初台→大月)
初台IC
富士五湖地域
河口湖IC
国道139号
“富士パノラマライン”
中央自動車道
富士吉田線
約19分(大月
→河口湖・富士吉田)
新富士IC
東名自動車道
首
都
圏
H26.6.28開通
山中湖IC
国道138号・東富士五湖道路
約39分(御殿場→山中湖)
須走IC
至 名古屋
首都圏中央
連絡自動車道
(圏央道)
海老名
JCT
池尻IC
御殿場JCT
(出典)NEXCO 中日本所要時間計測サイトより作成
図 4-3-31 自動車による首都圏・名古屋方面からのアクセス
105
表 4-3-3 東京・名古屋を 2014/8/9(土)9:00 出発とした場合の渋滞予測
出発
到着
使用ルート
距離
通常料金
通常時間
渋滞予測加味時間
東京
(初台IC)
河口湖IC・
富士吉田IC
中央
100.6km
3,200円
1時間18分
2時間36分
東京
(池尻IC)
山中湖IC
東名・国道138
号・東富士五湖
114.7km
3,710円
1時間42分
2時間31分
名古屋
(名古屋IC)
山中湖IC
東名・国道138
号・東富士五湖
256.3km
5,930円
3時間
3時間19分
(出典)NEXCO 中日本渋滞予測サイトより作成
(出典)JR 東日本外国人向けチケット紹介サイト
図 4-3-32 JR 東日本の外国人向けのサイトで紹介されているラウンドトリップチケット
106
参考1
<富士山および山麓地域の位置図(広域)>
富士山静岡空港
中部国際空港
羽田空港
成田空港
東京都
ターミナル駅
神奈川県駅
山梨県駅
長野県駅
岐阜県駅
名古屋市
ターミナル駅
信州まつもと空港
茨城空港
107
富山きときと空港
高速道路(富士山および山麓地域に関連すると考えられる道路)
事業中の高速道路(富士山および山麓地域に関連すると考えられる道路)
リニア中央新幹線
図 4-3-33 地方空港からの広域交通アクセス
外国人が自国(出発国)にいながら旅行先の航空券と鉄道乗車券の予約を可能にしたシステム
・ルフトハンザ航空は、国際線を利用の旅客に、ドイツ鉄道(DB)と提携し、ルフトハンザ便
の運航するドイツ国内空港~各都市間の列車チケットを割安料金で販売している。
・このチケットは航空券の予約と同時に鉄道乗車券の予約が可能であり、乗車券には列車指
定や目的地の指定がなく、状況に応じて希望する列車に乗車することが可能である。
(出典)ルフトハンザ航空ホームページ
図 4-3-34 ルフトハンザ航空とドイツ鉄道(DB)の連携事例
108
2)山麓地域の周遊交通(二次交通)の状況
①バス
・山麓地域内の世界遺産を周遊するバス路線として、
「世界遺産ループバス」をはじめ
とした路線バスが運行されている。
・山麓地域内の周遊性を高めるためには、バス路線間(図 4-3-35 参照)の乗継利便性
を向上させる仕組みを検討する必要がある。例えば、以下のような検討項目が考え
られる。
→行き先、目的地が分かりやすい乗り場配置やサイン類の整備
→乗車券を含む多言語化や通訳の配置等外国人観光客への対応強化
→周遊バスを使用した観光モデルコースの提案
・また、河口湖や山中湖については船舶を活用した周遊交通も検討に値すると考えら
れる。
河口湖美術館前
Kawaguchiko Art Of Museum mae
※富士五湖関連の地域および
世界遺産構成資産のみを表示
世界遺産構成資産
(出典)富士急山梨バスホームページ
図 4-3-35 山麓地域で運行されているバス路線
109
②タクシー
・山麓地域内を周遊する観光タクシーの一つとして、
「山梨おもてなしタクシー」が運
行されている。この観光タクシーは、社団法人やまなし観光推進課および山梨県タ
クシー協会が実施する講習(①歴史・文化・山梨県についての基礎情報等の基礎知
識、②食文化、③山梨県各地域の知識、④観光動向・ドラマ映画の撮影場所等の最
近の話題、⑤接客・接遇教育)を受け、試験に合格したドライバーが観光プラン別
に案内している。
・富士急山梨ハイヤー株式会社が提供する観光プランは、在籍するおもてなし認定ド
ライバー16 名のうち、富士山エリアについての観光知識や経験等により、さらに 5
名のドライバーを選抜して、作成している。
・選抜ドライバーこだわりの観光プランの内容は、
「~コンパクトに富士山を楽しもう
~」、「~じっくり富士山を楽しもう~」というコンセプトが設定され、さらにそれ
ぞれにおいて開運、歴史/文化、眺望/写真等のテーマが設定されており、観光客の
多様なニーズに対応できるものとなっている。
(出典)富士急山梨ハイヤーホームページ
図 4-3-36 山麓地域を周遊する観光プラン
110
【コラム】明治から昭和初期にかけて富士山北麓地域と御殿場地域を結んでいた馬車鉄道
明治 5 年に日本発の蒸気鉄道が新橋-
大月
横浜間に導入されてから 17 年後の明治
22 年(1889 年)に東海道本線が新橋-神戸
間で開通した。それに付随する形で東海
富士馬車鉄道
道線の各駅から地方を結ぶ馬車鉄道が
河口湖
小沼
西湖
敷設されていった。馬車鉄道は馬力を動
精進湖
鳴沢
であり、低コストで敷設可能であったた
富北軌道
上吉田
力とした貨客車が軌道の上を動く鉄道
本栖湖
都留馬車鉄道
山中湖
め、明治から大正にかけて日本各地に敷
設された。
篭坂峠
富士山周辺でも、東海道線の停車場で
ある御殿場駅から須走方面に伸びる御
御殿場馬車鉄道
殿場馬車鉄道が明治 31 年(1898 年)に開
業した。次いで、明治 33 年(1901 年)に
御殿場
は都留馬車鉄道が、籠坂から上吉田(現:
参考-1 富士山周辺の馬車鉄道網
富士山駅)間で開通、明治 36 年(1903 年)
には中央線の八王子-大月間の開業に合わせて富士馬車鉄道が大月・小沼の間で開通した。
これらの馬車鉄道は須走口からの富士登山や富士五湖巡りなどの観光面で活用され、東海
道方面から多くの観光客を多く集めた。さらに、東海道線から御殿場馬車鉄道、都留馬車鉄
道を利用して北麓地域に運ばれる荷物の運送にも重要な役割を果たしていた。(明治 34 年の
御殿場馬車鉄道の年間乗車客数は 7.8 万人とされている。)
昭和に入ると乗合自動車・貨物自動車の進出したことにより、利用者数が減少し、富士山
周辺に敷設されていた馬車鉄道は全線が撤廃された。
参考-2 右:都留馬車鉄道 左:上吉田通り(現:国道 137 号 富士みち付近)
(出典)御殿場馬車鉄道 御殿場市教育委員会
111
3)富士山五合目へのアクセス交通
・現在、富士スバルライン五合目までのアクセス手段としては、マイカー、タクシー、
路線バス、シャトルバス、観光バスの手段があるが(表 4-3-4 参照)、一年のうちで入
込客数が最も多い 7、8 月は先述のとおりマイカー規制が実施されており、マイカーを
除いた交通手段しか通行できない。
・マイカー規制期間中は、1 日あたり 300 台(片道)を超すバスが五合目に乗入れており、
環境負荷が非常に大きくなっている。また、シャトルバスは高頻度で運行されている
ものの、最混雑時には北麓駐車場や五合目においてシャトルバスを待つ観光客で長蛇
の列が生じている(図 4-3-37 参照)。環境保全および観光客へのサービス向上(利便
性、快適性等)の観点から五合目へのアクセスサービスの見直しが必要である。
・一方、富士山からの眺望は、夏季は霧等により視界が悪いものの冬季は非常にきれい
に見える日が多い。そのため、四合目や五合目は絶好のビューポイントであると考え
られるが、
冬季は路面凍結等によりアクセスできる日が非常に少ない(図 4-3-38 参照)
。
・通年観光を実現する上で、冬季における四合目・五合目からの眺望は一つの魅力づく
りになる可能性が高い。そのため、冬季における五合目へのアクセスについては、観
光活性化の観点からも重要な課題と考えられる。その際、麓の拠点となるターミナル
周辺において新たな賑わいを創出する整備をあわせて検討する事も重要である。
・なお、平成 27 年の秋から 9 月~11 月末までの平日において、スバルラインが無料化さ
れる。観光客の増加が期待されるが、一方で、これによる環境への影響、麓の周遊交
通への影響を注視する必要がある。
表 4-3-4 富士山五合目までのアクセス手段
手段
路線バス
区間
所要時間
富士山駅
(河口湖駅経由)~富
士スバルライン五合目
上り:約60分
下り:約45分
距離
30.8km
運賃
運行頻度
1,540円
18本/日
(7.8月繁忙期)
7本/日
(通常期(7.8月
以外))
スバルライン通
行止め日
以外
67本/日
(H25.7~8月平
均)
マイカー規制期
間中
(片道)
2,100円
(往復)
シャトル
バス
富士山北麓駐車場~
富士スバルライン五合
目
上り:約50分
下り:約40分
27.7km
1,440円
(片道)
1,860円
運行期間
(往復)
観光バス
(任意)~富士スバルラ
イン五合目
-
-
-
【通行台数】
180~190台/日
※マイカー規制
時
スバルライン通
行止め日
以外
自動車
(任意)~富士スバルラ
イン五合目
-
-
2,060円
【通行台数】
900~1200台/日
※マイカー規制
日外7.8月
マイカー規制期間
以外、スバルライ
ン通行止め日以
外
富士山駅~富士スバル
ライン五合目
上り:約50分
下り:約40分
-
スバルライン通
行止め日
以外
(普通車)
タクシー
(普通車)
(往復)
※スバルライン
通行料
30.8km
11,200円
+2,060円
※運賃+スバルラ
イン通行料
(出典)各交通事業者ホームページより作成
112
(出典)2014 年 8 月
事務局撮影
図 4-3-37 シャトルバスを待つ来訪者(左:北麓駐車場、右:スバルライン五合目)
35
30
営業日数(日)
<通行止め内訳>
路面凍結 71%
積雪 20%
降雪 7%
強風 2%
25
20
15
10
5
0
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 合計
全線休業
3
3
1
0
0
0
0
0
0
0
10
2
19
一合目営業
16
16
0
3
0
1
0
0
0
0
0
11
47
四合目営業
12
9
30
17
2
0
0
0
0
0
0
4
74
五合目営業(一部時間帯)
0
0
0
2
0
1
0
0
2
2
6
0
13
五合目営業
0
0
0
8
29
28
31
31
28
29
14
14
185
(出典)山梨県道路公社富士山有料道路管理事務所ホームページ
図 4-3-38 スバルラインにおけるスバルライン五合目までのアクセス可能日数(再掲)
113
<駅を中心とした地域の賑わいの創出
~京都府長岡京市における阪急新駅「西山天王山駅」周辺整備事業~>
【概要】
長岡京市では、阪急新駅「西山天王山駅」周辺整備
事業として、駅前広場や駐輪場等を含めた区域を都市
再生特別措置法に基づく都市再生整備計画として位
置づけ、平成 20 年度から平成 25 年まで事業を実施し
た。
事業を進めた長岡京市は、まちづくり功労者(国土
交通大臣表彰:魅力あるまちづくりの推進に努め、特
に著しい功績のあった個人又は団体に対して行われ
る)を受賞した。
鉄道と高速道路とを組み合わせた新たな交通結節
拠点を形成し、交通の利便性を格段に向上させ、京都
府北部を始め広域的な地域との交流の活性化に貢献
したことが評価された。
(出典)長岡京市資料
図 4-3-39 西山天王山駅位置図
【事業の内容】
○新駅設置事業
・駅の基本形式としては相対 2 面 2 線形式、8 両編成対応でホーム長は 162m
・駅舎施設は上下線ともに改札口があり、連絡構内通路で相互の行き来が可能
・昇降施設は上下ホームとも構内エスカレーター、構内エレベーターおよび構内階段
・事業主体は阪急電鉄であるが、事業費約 20 億円については、覚書により阪急電鉄と長岡
京市の費用負担割合は 2 分の 1 ずつとした。
○駅前広場等整備事業
・東側駅前広場は約 4,700m2 でメイン広場としてバス等の公共交通を主体としており、バ
ス停と待機場を設けており、タクシー乗降場や待機スペース、自家用車の乗降場を設け
ている。
・西側駅前広場は約 3,300m2 でサブ広場として、自家用車とタクシー主体で、タクシー乗
降場や待機スペース、自家用車の乗降場を設けている。
・東西の駅前広場は、軌道下となる東西自由通路を整備し、バリアフリー経路を確保して
いる。
・駐輪場としては、自転車が 1000 台、ミニバイクが 200 台収容できるように東西合わせて
3 箇所を整備している。
・東駅前広場に隣接して、一般車 40 台が駐車できる P&R 駐車場を整備した。
・東側駅前広場内において、京都第二外環状道路の高架橋上に高速バスストップのプラッ
トホームを整備した。
114
(出典)長岡京市資料
図 4-3-40 西山天王山駅整備計画図
【事業の効果】
①新駅乗降客数の増加
阪急新駅「西山天王山駅」の開業に合わせ、駅および周辺の施設整備、バス路線の新設
を行った結果、多方面からのアクセス性の向上が図られた。
新駅乗降客数は、平成 25 年度末時点の目標値として設定された 8,000 人/日に対し、平
成 25 年度末の実績は、5,800 人/日と目標値を達成しなかったものの、平成 26 年 10 月時点
においては 9,900 人/日と、目標値を大きく上回る乗降客数となっており、増加傾向がみら
れている。
②市民活動人数の増加
阪急新駅設置や京都第二外環状道路関連の事業が目に見える形として進展しているため、
地域住民が行うまちづくり活動が一過性に終わることなく継続されて定着したとされてい
る。
115
4)五合目の景観の現状
・五合目には、飲食店、土産物店、宿泊施設、神社、フォトスポットなどの様々な観光
資源があり夏季の登山シーズン以外の GW にも多くの観光客が訪れる場所となっている
が、イコモスからの勧告にも示されている通り、デザインが様々な建造物が立ち並ん
でおり、周囲の景観と建物の調和がとれていない状況にある。
・イコモス勧告を踏まえて山梨県は、景観デザインに加え、安全対策などの全体構想を
つくる「富士山四合目・五合目グランドデザイン検討委員会」を平成 26 年 12 月に設
置した。この委員会では、景観工学や環境計画学などの専門家により、店舗の色や形
などの整備と安全性や満足度などを高めるためのソフト事業について協議され、平成
27 年 10 月に全体構想がまとめられる予定である。
(出典)山梨県道路公社ホームページ(左)
2014 年 8 月事務局撮影(右)
図 4-3-41 スバルライン五合目の案内図と建物
・また、マイカー規制期間以外は自家用車の五合目への乗り入れが多いため、300 台近く
の自動車を収容できる駐車場が併設されている。鉄道が敷設されることにより、これ
ら五合目の道路や駐車場などの自動車に関連する敷地を活用した空間利用も可能とな
る。
(出典)2009 年 8 月事務局撮影
図 4-3-42 マイカー規制期間外の五合目駐車場の様子
116
(6)国際観光地にむけた取組み
1)多言語化への対応状況
①交通機関
・外国人観光客が空港や首都圏などの都心から鉄道・バスなどの公共交通機関を利用して
山麓地域へアクセスする場合、成田空港や羽田空港から複数の駅、列車、鉄道会社、バ
ス会社を乗り継いで来訪するため、外国人は、駅構内、列車内の表示、アナウンス等に
従って移動や乗換等を行うことが考えられる。
・外国人観光客が鉄道を利用し山麓地域へ来訪する場合を想定し、各施設、列車等の多言
語対応状況をみると、駅や列車内での案内広告、放送で使われる言語が統一されておら
ず、外国人にとっては情報の分断が発生しているものと考えられる。
(表 4-3-5 参照)
・列車・事業者に関わらず、駅構内、列車等における言語表示やアナウンスを統一する必
要がある。
表 4-3-5 新宿駅から山麓地域への多言語対応状況
多言語化対応
駅構内
案内所
有無
新宿駅
改札内なし
駅外あり
案内所
係員
パンフレット
日本語、英
語、中国語、
韓国語
日本語、英語、
中国語、韓国
語、タイ語
駅構内
放送
駅構内サイン
日本語
日本語、英
語、中国語、
韓国語
日本語
日本語、英
語、中国語、
韓国語
JR中央線
大月駅
車内放送
日本語
なし
車内掲載
路線図
○
日本語、英語
改札内なし
駅外あり
無料公衆無
線LAN
列車内
日本語
×
特急:日本語、
英語、中国語、 日本語、英
韓国語
語、中国語、
韓国語
普通(一部):日
本語、英語
富士急行線
×
×
富士山駅
改札内なし
駅外あり
日本語、
英語
日本語、英語、
中国語、韓国
語
日本語
日本語、英
語、中国語、
韓国語
○
河口湖駅
改札内なし
駅外あり
日本語、
英語
日本語、英語、
中国語、タイ語、
フランス語
日本語
日本語、英
語、中国語、
韓国語
○
(出典)各社ホームページ、現地情報、電話ヒアリングにより作成
・また、鉄道移動に際して大幅な遅延や運休等が生じた場合、現状では日本語によるアナ
ウンスのみの状況説明であり、外国人等に対して運行の情報提供が行われていない。非
常時に外国人に正確な運行情報を提供するために車掌による英語アナウンス、または自
動アナウンス装置を使用した外国語アナウンスも検討する必要がある。
・スイスの氷河地域において氷河急行などの観光列車を運行するレイティッシュ鉄道は、
災害が発生し観光列車が停車した場合、列車の乗客の予約状況から乗車している観光客
の国籍を確認し、その国籍に対応する言語通訳者や心理カウンセラー等を現場に派遣し、
乗客のメンタルケアを念頭にした緊急時の情報提供を図っている。
・なお、JR 東日本では、NEX や山手線において Wi-Fi の整備を進めるとともに、多言語対
応については 2020 年のオリンピックに向けて対応を進めている。また、全社員にタブレ
ット端末を配布し自動翻訳を利用して案内を行う取組みも進められている。
117
②飲食店等
・富士山および山麓地域が世界遺産登録を受けたことや、東南アジア向けのビザが解禁さ
れたことにより、今後当地域を訪れる外国人が増加することが考えられる。そのため、
域内の観光スポットにおける外国語併記は、外国人への観光の質の向上を図る上で重要
な課題である。とりわけ、現地での消費向上につながるお土産品の品名表記や飲食店に
おけるメニュー表記などは多くの言語に対応する必要がある。
・富士山麓地域のお土産店等では、値札等が英語や中国語等の外国語表記をしているとこ
ろが多いが、富士山五合目・山小屋等では、日本語表記しかないところも依然として残
っており、さらなる改善が必要である(図 4-3-43 参照)
。
・また、飲食店やお土産店における商品名や値札の外国語表記、税込価格の表示等の表記
に関する統一したガイドラインを作成し、山麓地域内で表記の統一を図ることにより外
国人に誤解を与えないようにすることも重要である。
(出典)2013 年 12 月(左)2014 年 8 月 事務局撮影
図 4-3-43 各施設における値札等の表記(左:山麓地域の土産物店 右:山小屋のメニュー表)
118
2)地域特有の物産の開発
・
「食べ物」については、吉田のうどん(富士吉田市)をはじめ、シビエ料理(富士河口湖
町)
、鳴沢菜のおやき(鳴沢村)
、忍野そば(忍野村)、山中湖ワイン(山中湖村)等、地
元の食材を生かした商品開発等の取組みが進められている(図 4-3-44 参照)。また、ネ
クタイや大石紬等の工芸品も有名である(図 4-3-45 参照)。しかしながら、これらの地
元特有の食材や工芸品について外国人観光客の認知度は低く、また、日本人観光客の満
足度も高いと言えない状況である。
・海外の観光地では、地元の工芸品や特産物を専門に扱うお土産品店があり(図 4-3-46 参
照)
、観光客が立ち寄るスポットになっている。このような事例を参考に、地元特有の品
物を専門に扱う店舗等を増やしていくことも検討に値すると考えられる。
・また、新たな土産物の開発については、行政の支援も重要である。現在でも商品開発を
支援する取り組みは行われているが、継続していくとともに競争を促す仕組みを検討す
ることが重要である。
(図 4-3-47 参照)
・また、京都の茶筒や岩手の南部鉄器では、外国人の嗜好に合わせたデザインを採用する
ことで、海外からの人気を集めている。このような買い手の嗜好を意識した地域の工芸
品やお土産品のアレンジについても検討を行っていくことが必要である。(図 4-3-48、
49 参照)
○富士吉田市
「吉田のうどん」
○忍野村
「忍野のとうふ」
「ふじやまビール」
○富士河口湖町
「ジビエ料理」
「かっぱめし」
「忍野そば」
○山中湖村
「山中湖の天然うなぎ」 「山中湖ワイン」
○鳴沢村
「鳴沢菜のおやき」「モロコシまんじゅう」
「わかさぎ料理」
(出典)富士五湖観光連盟ホームページより作成
図 4-3-44 山麓地域における郷土料理・開発料理等
図 4-3-45 富士五湖地域における工芸品の一例
(左:富士吉田市のネクタイ、右:富士河口湖町の大石紬)
119
<地域の工芸品等を専門に扱うお土産店~スイス・ユングフラウヨッホ駅構内にある専門お土産品店~>
・スイスのユングフラウ鉄道のユングフラウヨッホ駅(標高 3,454m)には、スイスの伝統工芸
品である「アーミーナイフ」や「腕時計店」、「チョコレート店」などの専門品販売に特化した
土産物店があり、海外の観光客に自国の商品の購入を促している。
(出典)2014 年 8 月
事務局撮影
図 4-3-46 ユングフラウヨッホ駅に設置されているスイスの工業製品店
(左:アーミーナイフ店 右:腕時計店)
<行政の取組・支援を活用した土産物の開発>
・山梨県では、やまなし観光土産品コンクールを実施し、新たな商品開発等を促進する取組
みが行われている。一方、国では、経済産業省により地域にある伝統工芸等を海外に積極
的に展開する取組みを支援する制度が創設されており、富士吉田商工会議所はこの制度を
活用し、伝統工芸品である繊維製品の海外展開に取り組んでいる。
(出典)中小企業庁ホームページ
図 4-3-47 富士吉田市で新たに開発された繊維製品『Fuji-faconne(フジ・ファソネ)』
120
<外国人の嗜好に合わせた工芸品のアレンジの事例>
①京都の茶筒の事例(海外へのPR事例)
・銅や真ちゅう製の茶筒で約百四十年前の創業当初
から製法の変わらない工芸品。
・価格は一万円以上の高級品で海外では 1.5~3 倍の
値段で販売している。
・英国の有名デザイナーの店舗で販売を行ったとこ
ろ販売先は欧米を中心に世界各地に広がり、売り
上げの 10~15%は海外となっている。
・お土産品としてだけではなく、ニューヨーク国際
現代家具見本市(ICFF)
」に日本企業 16 社からな
る「ジェトロ・ジャパン・パビリオン」を出展す
る等海外展開をはかっている。
②岩手の南部鉄器の事例(海外向けの商品開発の事例)
図 4-3-48 京都の茶筒
・岩手県の 400 年以上の伝統をもつ工芸品。
・約 20 年前、フランスの有名な紅茶販売店からの注
文で、鋳物の肌合いを残しながら色を付けることに
成功。海外でヒット商品となる。
・赤やオレンジ、紫など、色とりどりの急須を海外向
けに製造。
・現在では欧州、米国、アジア等、年間約十億円の売
り上げの 50%を海外が占める。
図 4-3-49 外国人向けにアレンジされた南部鉄器
121
3)サービスの高質化
・山梨県が実施した観光客に対する満足度調査によると、山麓地域が含まれる富士・東
部地域は、山梨県内の他地域に比べ、
「食べ物」、
「おもてなし(旅館、観光施設、お土
産品店)
」等に関する満足度が低い結果となっている。(図 4-3-50 参照)
・おもてなしについては、旅を印象付ける一つの要素であり、リピーターおよび口コミ
での評価を広げる意味でも極めて重要である。
・そのため、地元における観光施設、宿泊施設、飲食店、お土産物店等では、一層の接
客技術の向上を図っていく必要がある。
・また、海外の観光地における観光施設や宿泊施設、食事等を参考にそれらの質を世界
水準に高めていくことが重要である
温 泉
宿のサービス
食べ物
おもてなし(旅館)
富士・東部
富士・東部
富士・東部
富士・東部
峡北
峡北
峡北
峡北
峡南
峡南
峡南
峡南
峡東
峡東
峡東
峡東
峡中
峡中
峡中
峡中
0%
50%
100%
0%
おもてなし(観光施設)
50%
100%
おもてなし(バス)
0%
50%
100%
おもてなし(タクシー)
0%
富士・東部
富士・東部
富士・東部
峡北
峡北
峡北
峡北
峡南
峡南
峡南
峡南
峡東
峡東
峡東
峡東
峡中
峡中
峡中
峡中
50%
100%
0%
50%
100%
0%
50%
100%
0%
50%
(出典)平成 25 年山梨県観光入込客統計
図 4-3-50 山麓地域における満足度調査結果
122
100%
おもてなし(土産品店)
富士・東部
0%
50%
100%
<海外の山岳観光地における質の高いサービス~スイス ゴルナーグラート展望台~>
スイスのゴルナーグラート鉄道の山頂駅であるゴルナーグラート駅(標高 3,089m)付近に
は、ホテルやオープンレストランが立地している。レストランでは、ワインやコース料理と
いった地上と同レベルのものが提供されている。ホテルにおいてもシングルルームやダブル
ルーム等の部屋があり、全室にシャワーやトイレ、TV、電話や Wi-Fi が完備されており、質
の高い食事・宿泊サービスが提供されている。
このような上質なサービスが提供できる背景には、4.1 環境で述べたように、上下水道等の
ライフラインが整備されていることがある。
(出典)2014 年 8 月
事務局撮影
図 4-3-51 ゴルナーグラート展望台にあるホテル・レストランの様子
123
<観光関連施設における接遇サービス向上に向けた取組み>
富士山・富士五湖観光圏整備推進協議会は、山麓地域の観光関連施設のサービス向上を目
的として観光関連事業者向けの「サービス観光サービス・ステップアップ・セミナー」を開
催しており、平成 22 年に上記セミナーの内容をまとめた「接遇マニュアル」を公表している。
マニュアルでは、サービススキルの基本的な考え方から、外国人、高齢者向けの対応方法な
ど様々な視点からサービスの向上に関する方法を紹介している。
(出典)富士五湖観光連盟ホームページ
図 4-3-52 観光客向けの接遇マニュアル
124
4)情報提供
①ガイドブック
・外国人向けに観光情報を提供するガイドブックには、ロンリープラネットジャパン・
ミシュラングリーンガイド等が挙げられ、山麓地域もそれらの中で紹介されている。
・しかしながら、山麓地域内には数多くの観光地があるものの、上記の海外のガイド
ブックで紹介されているのは 1/3 程度であるため、海外ガイドブックにより多くの
情報が掲載されるよう、情報発信を積極的に行っていく必要がある。(図 4-3-53 参
照)
・また、日本政府観光局(JNTO)の訪日外国人に対して行ったアンケート調査による
と、日本の食事に大きな期待を持って来日する外国人が非常に多いとの結果となっ
ている(表 4-3-6 参照)
。しかしながら、海外の旅行ガイドブック等で紹介されてい
る山麓地域における飲食施設数は非常に限られている(図 4-3-54 参照)
。JNTO が行
った別のアンケート調査では、
「レストランを見つけるのが難しい」といった意見も
収集されており、外国人への食に関する情報提供のあり方を検討することが必要と
考えられる。
・また、JNTO が実施した日本を訪れた外国人へのアンケート調査によると、飲食施設等で
の外国語対応や支払等で不便を感じたといった意見が収集されており、これらへの対応
も重要な課題と考えられる。
● ●富士五湖観光連盟HPで紹介
されている観光地・・・78件
※図中では一部の観光地を名前表記している
●
そのうち海外観光情報媒体でも紹介
されている観光地・・・25件
ミシュラングリーンガイド
ロンリープラネットジャパン
Japan-guide.com
JNTO official guide
(出典)各種海外観光ガイド・外国人向けガイドブックより作成
図 4-3-53 海外のガイドブックで紹介されている富士五湖地域の観光地
125
表 4-3-6 外国人観光客の日本食に対する意識
順位
訪日前に期待したこと(複数回答)
割合(%)
1
食事
62.5
2
ショッピング
53.1
3
歴史・伝統的な景観、旧跡
45.8
4
自然、四季、田園風景
45.1
5
温泉
44.3
回答数:12,238
(出典)日本政府観光局(JNTO)「訪日外客訪問地調査2010」報告書
→赤井 居酒屋
(訳)とても小さな
“居酒屋“で、地元
で人気。興味深い
煮魚や、イカ焼き
そばを提供してい
る
→ほうとう不動
Lonely planet Japan
→山麓園
(出典)ロンリープラネットジャパンより作成
図 4-3-54 海外の日本旅行ガイドブックで紹介されている飲食店
126
・また、富士五湖観光連盟では、外国人観光客の食に関するニーズに対応するために、
外国人向けレストランガイドを作成している。レストランガイドでは「英会話が可能」
「英語のメニュー表がある」など、外国人観光客でも利用しやすいレストラン 59 店舗
を紹介しており、
「フリーWi-Fi が使えるかどうか」「ベジタリアン対応の有無」「クレ
ジットカード使用の可否」等についても紹介している。
(出典)富士五湖観光連盟ホームページ
図 4-3-55 観光客向けの接遇マニュアル
127
②インターネット
・観光客が情報を得る手段としてインターネット(ホームページ・アプリケーション)
が挙げられる。
・山梨県が運営するインターネットサイト「富士の国やまなし 観光ネット」では英語、
中国語(簡体字・繁体字)
、韓国語、インドネシア語に対応したサイトを提供してお
り、日本国内用サイトと海外用サイトに分けて山梨県の観光情報を発信している。
海外サイトのお勧めルートでは「忍野八海」「西湖いやしの根場」「久保田一竹美術
館」等が紹介されている。また、海外サイトのトップページでは宿泊施設予約サイ
ト(Booking.com)の検索機能が使えるようになっている。
(図 4-3-56 参照)
・また、富士急行株式会社が運営するインターネットサイト「フジヤマナビ」では、
交通情報、観光名所、宿泊情報、地域の歴史等の情報を提供しており、対応言語も
英語、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語があり、国別のニーズに合わせたお勧めの
観光スポット・モデルコースを紹介している。(図 4-3-57 参照)
・一方、海外の観光地における観光案内所のサイトでは、営業時間、電話番号だけで
なく、担当者の顔写真を公開しており、観光客に対し安心感を与えることに寄与し
ているものと考えられる。
(図 4-3-58 参照)
・海外のホームページ(ツェルマット)と日本のホームページ(山梨県観光サイト)
を比較すると、日本のホームページはトップページに多くの情報を掲載しすぎる傾
向がある。そのため、外国人が得たい情報を見つけにくく、地域の魅力等が十分に
伝わらない可能性が考えられる。海外の観光サイトを参考に外国人向けのホームペ
ージの設計について検討することが必要である。
(図 4-3-59 参照)また、スマート
フォン対応のホームページ作成についても今後重要な課題になると考えられる。
図 4-3-56 山梨県が運営する「富士の国やまなしネット」(左:日本語サイト 右:英語サイト)
128
観光
コース
の紹介
観光スポット
英語版では、
歴史的な施設
を紹介
韓国語版では、
温泉施設を紹介
英語版
韓国語版
(出典)フジヤマ NAVI ホームページ
図 4-3-57 フジヤマ NAVI で紹介されている外国人向けコンテンツ(左:英語
右:韓国語)
・インターラーケンの鉄道案内所 (カスタマーセンター)
・団体予約案内所
http://www.jungfrau.ch/de/winter/tourismus/
図 4-3-58 スイス
ユングフラウエリア公式サイト
129
山梨県の紹介
山梨県へのア
を選択
クセスを選択
トップペー
鉄道によるアクセス方法を示すページ
ジで計画を
選択
オンライン予約などが可能
タブで鉄道を選択
図 4-3-59 各サイトで現地へのアクセス方法を調べる場合のページの移動(上:山梨県 下:ツェルマット)
130
③現地での情報提供
・観光客への情報提供としては、現地での情報提供も重要である。
・多くの外国人の情報取得手段である無料 Wi-Fi 設置箇所に関しては、山梨県と静岡
県の富士山に隣接する自治体・企業等で「Fujisan Free Wi-Fi」プロジェクトを発
足させ、富士山周辺の整備対象エリアを中心に整備を推進している。設置箇所数は
2014 年 1 月現在で 378 箇所であり、順次拡大している。(図 4-3-57 参照)
(出典)
Fujisan Free Wi-Fi プロジェクトホームページより作成
図 4-3-60 山麓地域における無料 Wi-Fi 整備状況
・また、このプロジェクトを発展させる形で「Fuji-sun!富士山世界文化遺産お天気周
遊ガイド」や協力お土産店でのクーポンの発行やECサイトの構築などの新たなサ
ービスの試験的な取り組みも行われている(図 4-3-53,54 参照)
。SIM フリーの検討
が進められていることを踏まえると、外国人向け情報提供サイトの充実に力を入れ
ていくことも重要と考えられることから、これらの取り組みの成果と以下に示す他
地域の事例も踏まえながらより良い情報提供サービスを発展させていくことが求め
られる。
・札幌市では、外国人観光客向けの無料 Wi-Fi サービスを開始するとともに、観光産
業関係者から観光スポット・飲食店情報を収集し、地図、アクセス、クーポンと共
に観光情報を集約して提供するスマートフォン向けアプリ「Sapporo Info」を開発
し、現地での情報発信を集約、強化している。(図 4-3-55 参照)
・また、八ヶ岳観光圏では、1 つのアプリで旅行プランの作成、旅の記録、SNS での情
報の発信が可能なスマートフォンアプリ「八ヶ岳日記」を提供しており、観光情報
の発信に加え、観光客自身による情報の発信、観光客同士の情報交換が可能である。
(図 4-3-56 参照)
131
<地元における新たな情報提供の取り組み①
~Wi-Fi スポットにおける外国人観光客向けサービスのフィールドトライアル~>
・外国人観光客の集客および購買促進を目的に 20 の協力店舗・施設等の Wi-Fi スポット
において、外国人観光客向け「クーポンカタログ」、
「口コミレビューサイト」および「お
土産購入 EC サイト」を提供するサービスを山梨県、NTTデータ及びNTT東日本の
共同で平成 24 年 11 月より開始。
・平成 25 年 3 月 31 日までトライアルサービスを実施し、協力店舗の増加やコンテンツの
充実などの事業化の検討が行われている。
(出典)山梨県ホームページ
図 4-2-61 トライアルサービス概要
132
<地元における新たな情報提供の取り組み②
~観光スポットごとの最新天気予報を付加した観光情報配信サービス~>
・富士山世界文化遺産構成資産を中心に、その周辺の観光スポットの天気予報を組み合わ
せ、スマートフォンやタブレット端末で情報提供を行うサービス「Fuji-sun!富士山世界
文化遺産お天気周遊ガイド」を平成 24 年 11 月 1 日から開始した。
・現在同サービスは終了しているが天気情報については「FujisunWatcher-富士山世界文化
遺産-」にて引き続き提供されている。
(出典)FujisunWatcher-富士山世界文化遺産-ホームページ
図 4-2-62 観光情報配信サービスの画面
133
<情報の「発掘」と「加工」を組み合わせた情報提供事例~札幌市における Sapporo Info~>
・アプリの内容
市内、周辺の主要な観光スポットを動画で紹介
電子地図やパンフレットをアプリ内で閲覧
位置情報を利用したナビゲーション機能
イベント情報やお勧め情報
観光施設や飲食店のお得なクーポン情報
・多言語対応状況
日本語・英語・中国語・韓国語・タイ語
・利用状況
ダウンロード数54544件(2013年7月18日時点)
※日本以外のダウンロードが64.7%と6割を超える。
・市内の飲食店などの店舗情報を行政がまとめることに
より観光地・地元産業の一元的な情報提供を実現している
(出典)札幌市観光サイト
図 4-3-63「Sapporo Info」の対応端末(上)アプリ画面(下)
<旅行者同士での旅行の情報共有が可能なスマートフォンアプリ~八ヶ岳日記~>
・1 つのアプリで旅行プランの作成、旅の記録、SNS での情報の発信が可能なスマートフォン
アプリ「八ヶ岳日記」。
・地元の観光産業情報の発信も同アプリで行っており、観光産業に関わる事業者と説明会を
開き発信するコンテンツの強化も図っている。
(出典)八ヶ岳観光圏ホームページ
図 4-3-64 スマートフォンアプリのチラシ(左)事業者への説明会の様子(右)
134
<風評被害等を防ぐための積極的な情報発信>
・2014 年 9 月に御嶽山の噴火があったが、このような他地域における災害により、富士山周
辺も危険ではないかとの風評被害が生じる可能性がある。そのため、富士山が安全である
という情報を発信することが必要である。
・富士山が安全であるという情報を、富士山の周辺だけでなく、成田や東京、直行便が出て
いる場所等で提供する等、影響を最小限に抑える努力が必要と考えられる。
注)赤の強調線については事務局にて追記
(出典)2014 年 10 月 1 日
図 4-3-65 御嶽山噴火による風評被害の懸念を伝える新聞記事
135
読売新聞
5)その他の情報提供に関連する地元の取組み
①パンフレット等の作成
・山梨県、静岡県の両県で構成された富士山世界文化遺産登録推進両県合同会議は、
世界遺産紹介パンフレットを作成し、構成資産の概要や位置等について両県にまた
がり紹介し、住民や観光客の理解を深める取組みを行っている。
図 4-3-66 富士山世界文化遺産登録推進両県合同会議により作成された世界遺産パンフレット
②現地ガイドの養成
a.富士河口湖町公認ネイチャーガイドツアー
・青木ヶ原樹海等を散策する人が、自然環境にできるだけ負荷をかけずに樹海の魅
力を楽しめるようにすることを目的として、富士河口湖町は、平成 15 年より利用
者に正確な情報を伝えながら樹海を案内する公認ネイチャーガイド制度を創設し
ている。その後、毎年更新研修会が行われている。
・ガイドツアーには定時ガイドツアーと予約ガイドツアーがあり、定時ガイドツア
ーは一人につき 500 円、予約ガイドツアーは 1 時間あたり一人につき 500 円で提
供されている。西湖畔から出発し青木ヶ原樹海の中を散策するガイドコースが原
則として年中無休で提供されている。
136
(出典)富士河口湖町観光協会ホームページ
図 4-3-67 ネイチャーガイドコースとガイドの様子
b.世界遺産ガイドの育成
・世界遺産登録を見据えて、平成 24 年より世界遺産ガイドの募集・講習会等による
ガイドの養成が山梨県によって行われ、世界遺産登録後の平成 25 年 8 月からボラ
ンティアによるガイド活動が開始されている。ガイドは 20 代から 70 代の 29 人(平
成 25 年 8 月時点)で構成されており、富士ビジターセンター内で、構成資産を紹
介する展示パネルなどを使い、来訪者に富士山の自然や文化、芸術などの文化的
価値などを説明している。
③情報提供施設の運営
・山梨県は訪問者に富士山及び富士山北麓の地形、地質、動植物、歴史・文化等につ
いて紹介するために富士ビジターセンターを設置している。ビジターセンターは国
際観光振興機構から「ビジット・ジャパン」案内所として指定を受け、外国からの
来訪者にも理解が深まるよう外国語での対応も行っている。
(出典)2013 年 12 月
図 4-3-68 富士ビジターセンター
137
事務局撮影
④住民への情報提供
・山梨県富士山保全推進課は、小中学校や高校、一般県民からの要請に応じて県の職
員を派遣し、富士山の自然や文化、世界遺産の基礎知識等を説明する取組みを世界
遺産登録前の平成 19 年度より行っており、世界遺産登録後も継続して行われている。
平成 25 年度には 65 の学校や組織等で講座が開かれた。
(出典)山梨県ホームページ
図 4-3-69 富士山世界文化遺産出前講座の様子
6)国際会議の誘致
・富士山や富士五湖などの素晴らしい景観に恵まれた当地域の魅力を更に向上させ、日
本を代表するグレードの高い国際会議観光地の形成を目指す構想が山梨県によって検
討されている。この構想は地域の統一的な意思形成を図り、地域住民、民間団体、市
町村、県等の各主体が連携・協力した具体的な取り組みを進めるため、「富士吉田市、
道志村、西桂町、忍野村、山中湖村、鳴沢村、富士河口湖町」の地域を対象に平成 22
年に策定された。
・この構想では地域の将来像を、
『国際交流ゾーン「世界と富士が出会うまち・富士北麓」』
とし、以下の図 4-3-70 に示すように 4 つの地域イメージと地域イメージを支えるため
の具体的な取り組みを提示している。
・この構想を進めていく上で国際コンベンションビューローのような地域・組織の枠を
超えて地域の魅力を一貫して発信していく組織・体制の強化が必要であると考えられ
る。
138
(出典)富士北麓国際交流ゾーン構想
富士北麓国際交流ゾーン構想策定委員会、山梨県
図 4-3-70 富士北麓国際交流ゾーン構想における地域イメージと具体的な取り組み
139
4.3.3
観光に関する課題
以上の現状により、富士山及び山麓地域における観光に関する課題として以下が挙げられる。
①富士山における観光
・夏季にはマイカー規制を実施しているものの、多くのシャトルバス・観光バスにより大
量の登山者、観光客が入山しており、季節的集中を平準化する必要がある。また、シャ
トルバス・観光バスは麓と五合目をピストン輸送しているため、歩いて下山し、途中か
らバスに乗車する等の多様な観光形態がとれない状況にある。
・山梨県の富士スバルライン五合目の入込客数の多くが夏季に集中しており、冬季におい
て、五合目の観光客が激減する理由として、スバルラインが路面凍結等により通行止め
になることが挙げられる。そのため、冬季においても五合目にアクセスできる交通の検
討が必要である。
②山麓地域における観光
・山麓地域における観光入込客数においても、富士山地域同様、夏季に集中している。こ
の原因として、山麓地域や富士山でしか体験できないアクティビティについて、富士登
山、トレッキング、キャンプ、アウトドアスポーツ等、夏季に盛んなものが多く、冬季
はその種類や内容がかなり限られていることが挙げられる。また、夏季においても、山
麓地域内で周遊する観光地が限定的であるため、山麓地域内の周遊性を高める必要があ
る。
・山麓地域における宿泊客、宿泊日数は少なく、短期滞在型となっている。山麓地域にお
ける観光を宿泊型・長期滞在型に転換させていくためには、観光客にとってこの地域を
周遊する際にはずせない観光スポット数の増加と、各観光スポットでの滞在時間を伸ば
すことが必要である。
③トレッキングコースを活用した観光
・スバルライン五合目周辺には、複数のトレッキングコースがあるが、初めての来訪者に
とってコースの入り口が分かりにくく、また、これらのコースから眺望できる景色、観
察できる植物等の情報が来訪者に十分に伝わっていないという課題がある。
・トレッキングコースを活用した観光振興を図る必要がある。海外の事例では、鉄道駅が
拠点となり、途中駅で降車し、各々の体力に合わせてトレッキングコースにある湖や自
然等を楽しみながら山頂を目指す人もおり、登山の観光形態が多様なものとなっている。
140
④富士山・山麓地域における歴史・文化観光
・吉田口登山道にある山小屋等の建築物は戦前からの富士山信仰を現代に伝える歴史的遺
産であるが老朽化が進んでいる。文化観光振興の視点から、富士山信仰や芸術に関連す
る施設の修景が重要な課題である。
・文化遺産として世界遺産に登録されたものの、イコモスからの勧告にあるように、神社・
御師住宅と巡礼路の文化的・歴史的な関係性等が観光客に認知・理解されていないのが
現状である。
⑤交通アクセス
a)山麓地域へのアクセス(一次交通)
・首都圏や中京圏以外からの観光客を増加させるためには、周辺地方空港を活用した集客
が望まれる。富士山周辺には羽田空港・成田空港の他に富士山静岡空港や信州松本空港
があるが、これらの地方空港からの一次交通アクセスを充実する必要がある。
b)山麓地域の周遊交通(二次交通)
・山麓地域内の周遊性を高め、ゆったりとした観光を実現するためには、バス路線の定時
性や乗り継ぎ利便性を向上させる等の仕組みを検討する必要がある。
c)富士山五合目へのアクセス(二次交通)
・マイカー規制期間中には、シャトルバスが高頻度で運行されているものの、最混雑時に
は北麓駐車場や五合目においてシャトルバスを待つ観光客で長蛇の列が生じており、観
光客へのサービス向上(利便性、快適性)の観点から、五合目アクセスサービスの見直
しが必要である。
⑥国際観光地化
a)多言語対応
・富士山および山麓地域が世界遺産登録を受けたことや、東南アジア向けのビザが解禁さ
れたことにより、今後当地域を訪れる外国人が増加することが考えられ、域内の観光ス
ポットにおける外国語併記は、外国人への観光の質の向上を図る上で重要な課題である。
・外国人観光客が鉄道を利用し山麓地域へ来訪する場合を想定すると、駅や列車内での案
内広告、放送で使われる言語が統一されておらず、外国人にとっては情報の分断が発生
していると考えられる。
141
b)地域特有の物産の開発
・地元食材を活かした商品開発等の取組みが進められているものの、地元特有の食材や工
芸品について外国人観光客の認知度は低く、また日本人観光客の満足度も高いと言えな
い状況にある。
c)サービスの高質化
・山麓地域が含まれる富士・東部地域は、山梨県内の他地域に比べ、
「食べ物」、
「おもてな
し(旅館、観光施設、お土産品店)
」等に関する満足度が低い結果となっている。観光施
設、宿泊施設、お土産品店等では、一層の接客技術の向上やサービスの質を高めていく
ことが必要である。
d)情報提供
・海外ガイドブックにおいて、山麓地域内の観光地や食に関する情報の紹介は少なく、よ
り多くの情報が掲載されるよう、情報発信を積極的に行っていく必要がある。
・日本のホームページはトップページに多くの情報を掲載しすぎる傾向がある。そのため、
外国人が得たい情報を見つけにくく、地域の魅力等が十分に伝わらない可能性が考えら
れる。海外の観光サイトを参考に外国人向けのホームページの設計について検討するこ
とが必要である。
・現地での情報提供も重要であるため、無料 Wi-Fi の設置とともに、外国人向け情報提供
サイトの充実と図っていく必要がある。
・国際会議の誘致のために、地域の将来像である『国際交流ゾーン「世界と富士が出会う
まち・富士北麓」
』の実現のために構想を進めることが重要であり、国際コンベンション
ビューローのような地域・組織の枠を超えて地域の魅力を一貫して発信していく組織・
体制の強化が必要であると考えられる。
e)救急医療体制
・外国人旅行者が安心して登山や観光ができるように、外国人観光客が利用しやすい病院
の整備が必要である。
142
4.4
安全対策
4.4.1
安全対策に対する提言
富士山および山麓地域における災害リスクを低減し、住民・観光客等が安心できる体制作りを
進めるべきである。そのため、以下の施策を推進すべきである。
安全対策に対する提言
(1)火山噴火や雪崩、落石等の災害危険箇所を特定すると共に、災害リスクを低減す
る防災施設(シェルター、擁壁等)を整備し、登山鉄道の安全運行を阻害しない
ような対策を講じる。あわせて、登山鉄道の駅にシェルター機能を整備すること
で、防災施設としての役割を担うことができる。
(2)気象庁より富士山を対象とした「火山の状況に関する解説情報(臨時)」や「噴
火警戒レベル 2 以上」が発表された際の、富士山五合目等の山中にいる観光客・
事業者等への対応を検討する。なお、避難の手段としては、鉄道の大きな輸送力
を活用できるよう検討する。
※気象庁の発表する「火山の状況に関する解説情報」は、火山活動が活発な場合等に火山の状況を知らせる情
報である。火山性地震・微動の発生状況等の観測結果から、火山の活動状況の解説や警戒事項について、必要
に応じて定期的または臨時に解説している。
(3)登山鉄道の安全・安定輸送のために、検知センサー等を整備し観測体制を強化す
るほか、気象等の情報と監視観測データを活用し、火山噴火や雪崩、落石等の災
害リスクに関する情報をプッシュ型で住民や観光客に情報発信できる仕組みを
検討する。また、外国人観光客の対応として、サインの色等で、災害の危険度が
わかるような仕組みについても検討する。
143
4.4.2
安全対策に対する現状
(1)雪崩・土砂・落石対策
・富士山では度々大規模な雪崩が発生し、それにより道路や施設が崩壊する災害が生じて
いる(表 4-4-1 参照)。平成 26 年 3 月には四合目の大沢駐車場にある休憩施設に雪が入
りこむ等の被害が発生した。2 月の大雪の影響で一合目から上が通行止めになっていたこ
とにより人的被害は幸いにも発生しなかったが、温暖化の影響により大規模な雪崩が発
生するリスクは高まっていると推察される。
・また、平成 27 年 4 月 21 日には、五合目より約 1.2km 地点にある青草洞門で雪崩が発生
した。人的被害は幸いにも発生しなかったが、全長約 80m が被災した。除雪及び残雪等
による被災を防ぐため大型土の設置により対策し、4 月 24 日に開通した。
・登山者等の安全対策及び登山道の保全における落石防護壁等の人工構造物にあたっては、
周辺の山肌に合わせた塗装を行うなど、展望景観に配慮した方法を取り入れて実施され
ている(図 4-4-1 参照)
。注1)
・災害による被害を最小限に抑えるため、これまで国土交通省中部地方整備局富士砂防事
務所や、山梨県砂防課、静岡県砂防課においても、浸食や崩壊が進む谷地形の下流域に
おいて、渓岸浸食の防止、不安定土砂の固定及び土石流の拡散防止のための土砂災害防
止施設を整備し、土砂災害からの下流域の保全を図っている。また、富士山南西野渓に
おいて土砂災害対策を実施している(図 4-4-2 参照)。注1)山梨県においても、宮川や
浅間沢といった土石流の危険性の高い場所において、流路工などの対策が行われている
(図 4-4-3 参照)
。今後も災害発生の危険性のある箇所に対し、適切な防災施設の整備を
進めることが重要である。
注1)富士山-信仰の対象と芸術の源泉 ヴィジョン・各種戦略
144
表 4-4-1 富士山で過去に発生したスラッシュ雪崩
年
月
日
タイプ
斜
面
規模
(注 1)
備
1940.5.3
春
W
極大
レ
富士大沢
1952. 3.18
〃
W
極大
レ
〃
潤井川筋
1956.5.5
〃
W.E
大
レ
〃
太郎坊
1961. 3.19
〃
N
中
レ
宮川筋
〃
N
大
レ
宮川筋
〃
E.W
大
〃
4.4
1972. 3.20
考
潤井川筋
御殿場で 24 人死亡
〃
5.1
〃
W
大
レ
富士大沢
〃
5.5
〃
W
大
レ
〃
〃
6.8
〃
W
大
レ
〃
〃
7.12
〃
W
大
レ
〃
4 回で 85.0 万 m3 流出 (注 2)
1976. 3.20
〃
W.S
中
〃
市兵衛沢
1979.4.8
〃
W
大
レ
〃
〃
〃
W
大
レ
〃
1980. 4.14
〃
N
中
1981. 3.20
〃
W.N.E
大
1982.11.30
初冬
W
中
〃
1984.4.9
春
E
中
太郎坊
1987. 5.23
〃
W
中
富士大沢
1988.4.13
〃
W.E
中
〃
1990.2.11
〃
E
中
太郎坊,スキー場陥没
1991.11.28
初冬
W
大
レ
富士大沢
1992.12.8
初冬
W.N.E
大
レ
栗の木沢, スバルライン, 太郎坊
1995.3.17
春
E
大
レ
太郎坊
1996. 3.30
春
W.N.E.S
大
レ
風祭川, スバルライン, 太郎坊
1996. 6.20
春
W
大
レ
富士大沢
1996.11.26
初冬
W
大
レ
〃
1998.4.15
春
W
中
2000.11.21
初冬
W
大
レ
〃
28.0 万 m3 流出
2004.12. 5
初冬
W.N.E
大
レ
〃
11.0 万 m3 白草流,大流,太郎坊
2007.3. 25
春
W
大
富士大沢
2014.3.14
春
N
大
スバルライン
5.8
白草流
レ
富士大沢,
白草流,大流,太郎坊
,太郎坊
18.2 万 m 3 流出
約 35.0 万 m 3 流出
25.0 万 m3 流出
19.9 万 m3 流出
〃
(注1)
レ印 スラッシュ・ラハール
(注2) 流出土砂量は下流部扇状地での堆積土砂容量
(出典)安間荘 2007 富士山で発生するラハ-ルとスラッシュ・ラハール
145
(出典)富士山-信仰の対象と芸術の源泉 ヴィジョン・各種戦略
図 4-4-1 落石防護壁の景観に配慮した修景
表 4-4-2 富士砂防事務所の砂防施設で捕捉された土石流等一覧
気象要因
河川名
連続雨量
(mm)
日雨量
(mm)
最大時間雨量
(mm/h)
堆積土砂量
(千 m3)
流出形態
低気圧
大沢川
226
166
39
182
土石流
融雪
栗ノ木沢
246
231
37
1996 年(平成 8 年)
3 月 30 日
融雪
風祭川
138
137
27
18
雪代
1997 年(平成 9 年)
6 月 20 日
台風
大沢川
321
221
63
195
土石流
1997 年(平成 9 年)
11 月 26 日
低気圧
大沢川
298
283
33
199
土石流
2000 年(平成 12 年)
11 月 21 日
低気圧
大沢川
260
149
37
280
土石流
2004 年(平成 16 年)
12 月 5 日
低気圧
大沢川
162
106
31
110
土石流
土石流発生年月日
1991 年(平成 3 年)
11 月 28 日
1992 年(平成 4 年)
12 月 8 日
雪代
(出典)富士砂防事務所ホームページ
146
(出典)富士山-信仰の対象と芸術の源泉 ヴィジョン・各種戦略
図 4-4-2 大沢崩れをはじめとする富士山麓における砂防施設の整備
147
(出典)山梨県
図 4-4-3 山梨県砂防課による土石流防止への取組み
148
砂防課
(2)火山噴火対策
・2014 年 9 月の御嶽山噴火で重要性が指摘されているシェルターについては、富士山には
多くの側火山(大きな火山体をもつ火山において、山頂火口以外の山腹や山麓で火山噴
火が起きた際に作られた小火山。富士山には 70 以上あると言われている)が存在するこ
とから、整備すべき場所の選定やシェルターの構造(噴石、溶岩流への耐性)、シェルタ
ー内に配備すべき備品等についての検討が必要である。
・なお、新たな施設整備や既存施設の耐震性強化等に当たっては、国、県、自治体、恩賜
林組合等複数の主体にある規制を考慮する必要がある。このような整備を促進するため
には、現存の規制の緩和を検討することも必要である。
・一方、富士山の火山噴火対策については、平成 24 年 6 月に「富士山火山防災対策協議会」
(山梨県、静岡県、神奈川県)が設立され、平成 26 年 2 月に「富士山火山広域避難計画」
が策定された。同計画は、噴火警戒レベル 3 以上の状況について、火山噴火の規模に応
じ一般住民・観光客・登山者別の 1 次から第 4 次までの避難エリアを定めている(図 4-4-4
参照)
。また、避難に際しての避難方法や避難先等が示されている(図 4-4-5 参照)。
・しかしながら、2014 年 9 月に発生した御嶽山噴火での被災状況を踏まえると、噴火警戒
レベルに関する情報をしっかりと発信するとともに、火山の状況に関する解説情報(臨
時)や噴火警戒レベル 2(火口周辺に影響を及ぼす噴火が発生、あるいは発生すると予想
される)が発表された際には、山中にいる登山者や営業活動を行う事業者等に対し避難
を促すような検討も必要と考えられる(図 4-4-5)
。
・避難に際しては、複数の手段でできることや、不慣れな観光客については個々に避難行
動をとるとかえって被害を大きくしてしまう可能性が高いことから纏まって避難できる
方法等について検討が必要である。四合目、五合目への交通アクセスのあり方の検討に
当たっては、避難時対応の観点も含めた検討が必要である。
149
(出典)富士山火山広域避難計画
図 4-4-4 火山噴火の段階に応じた避難対象エリア(左)富士山の噴火警戒レベル(右)
150
(出典)富士山-信仰の対象と芸術の源泉 ヴィジョン・各種戦略
図 4-4-5 火山現象別の避難計画の概要
151
(3)その他の災害対策
1)地震対策
・山梨県では県内 64 カ所に設置した計測震度計の地震情報を気象台へ伝送することで、
報道各社を通じて広く県民に知らせるとともに、職員の非常参集システムと連携し地
震発生時の情報伝達、対応の迅速化を行っている。
・また、地域衛星通信ネットワークや防災行政無線を活用することにより、震度情報を
瞬時に市町村等へ伝達する体制を整備している。
・気象庁では、富士山の火山活動に関連する地震を把握するため地震計、傾斜計、空振
計、GPS、遠望カメラを設置し、監視・観測を行っている。
(出典)甲府地方気象台(左)
、気象庁(右)
図 4-4-6 山梨県の震度観測点(左)と富士山周辺の地震観測地点(右)
2)風対策
・富士山南麓では 1996 年(平成 8 年)9 月の台風 17 号により大規模な風倒木被害が発
生し、壮齢ヒノキ林を中心に約 90,000m2 が被害を受けた。富士山南麓の自然林を復元
するため「富士山 3776 自然林復元大作戦」と称し、御殿場口及び須走口 5 合目の火山
荒原等における植生復元が、平成 9 年から平成 13 年にかけて行われ、これまでに延べ
4,000 人の県民の参加を得て、約 33,500 本の苗木が植えられてきた。
・山梨県側でも、スバルライン沿線の緑化等の活動が実施されている。
152
3)山火事対策
・山火事対策として山梨県では「森林保全巡視員・森林火災防止巡視員・恩賜林保護団
体・林務環境部職員等による予防パトロールと広報活動」及び「標識板・ポスター等
の設置による啓発活動」等を、地域の気象条件等を考慮しながら実施している。
・野焼きの延焼防止対策として、野焼き(火入れ)を実施する場所が所在する市町村で
は、それぞれが火入れに関する条例を制定している。これにより、機器により風速と
湿度を計測し、基準値を超えた場合に作業を中止することや火入れ作業に従事する者
の配置・役割などの実施体制、防火帯の設置等を定め、延焼防止の対策を講じている。
注1)
・また、野焼きを安全に行うための注意事項を記した安全対策マニュアルを作成・配布
し、参加者に対して注意喚起を図っている。注1)
・野焼きの実施する場所が所在する近隣の市町村においても、周辺の森林・草原への延
焼防止のために十分な幅の防火帯を設けるなどの対応を行っている。注1)
・山麓の構成資産における災害対策として、神社等の建造物の火災については、所有者
又は文化財保護法に基づき管理団体に指定された地方公共団体が自動火災報知設備等
の防災施設の整備及び自主防火組織の整備等の対策を進めている。これらの防火施設
の維持・管理については、世界遺産登録以前から継続して所有者又は管理者に対する
補助事業を実施している。注1)
・また、静岡県では、2011 年度(平成 23 年度)に救済ネットワークの組織を立ち上げ、
2012 年度(平成 24 年度)から文化財救済支援員養成講座を開催している。なお、2013
年度(平成 25 年度)は静岡県総合防災訓練において文化財救済支援員と救済ネットワ
ーク構成団体、2014 年度(平成 26 年度)は救済ネットワーク構成団体による文化財
被災情報収集訓練を実施した。注1)
注1)富士山-信仰の対象と芸術の源泉 ヴィジョン・各種戦略
153
(4)災害時の情報提供のあり方
・防災や災害時の情報提供に当たっては、
「富士山火山広域避難計画」の内容を、住民・観
光客に伝えるため富士山噴火時の避難方法等について日本語と英語版等のパンフレット
を作成し観光案内所やインターネット上で提供されている(図 4-4-7 参照)。また、富士
吉田市HPでは、防災に関する情報を英語、中国語、韓国語に加えてポルトガル語でも
情報提供している(図 4-4-9 参照)。
・今後も多くの外国人観光客が来訪することを踏まえると他の言語や様々な媒体での災害
情報提供を行うとともに地域住民が外国人観光客をサポートするような体制づくりが必
要と考えられる。
・なお、来訪者に対する火山災害対策として、富士山噴火に対する、火山防災知識の普及
や噴火時の避難方法等の周知・啓発のために「富士山火山ガイドマップ」の日本語版・
英語版・中国語版・韓国語版を作成し、道の駅や観光スポット等を中心に約 25 箇所に設
置した。これまでに約 10 万部の配布が行われている。注1)
注1)富士山-信仰の対象と芸術の源泉 ヴィジョン・各種戦略
・災害時の避難方法やシェルターの位置、トレッキングや登山に関する注意事項等の情報
については、インターネット、パンフレットだけでなく、宿泊部屋や駅などの交通結節
点等、多くの人の目に入りやすい場所で情報を提示していくことが必要である。例えば、
スイスのツェルマットにあるゴルナーグラード登山鉄道では、麓の登山鉄道始発駅に山
頂からの眺望の様子を映す映像装置や、雪崩の危険性のある場所をリアルタイムで示す
電光掲示板が設置されており、観光客は目的の観光スポットに行く前に情報を得ること
ができるようになっている(図 4-4-8 参照)。
・また、山中においては避難に関する情報を登山者や観光客が探し求めるといった状況に
ならないよう、プッシュ型で情報が発信されることが重要であり、ICT を活用した情報提
供のあり方についても検討が必要である。
・さらに、登山者や観光客に対し、事前(入山前)に山で生じる災害リスクの周知や、災
害が発生した際に自力で避難できるような教育・指導も重要である。また、災害リスク
に関連する情報を観光業者や交通業者等と情報共有していくことも重要と考えられる。
(出典)富士山火山広域避難計画
図 4-4-7 富士山火山防災協議会により提供されている英語版のハザードマップ
154
<麓駅での雪崩の危険度を知らせる掲示版~スイス・ゴルナーグラード鉄道麓駅~>
・スイスのツェルマット市から標高 3,089m のゴルナーグラード展望台を結ぶゴルナーグラ
ード鉄道の麓駅には、登山鉄道沿線にある複数のトレッキングコース・スキー場におけ
る雪崩や土砂崩れ等における災害発生の危険度を示す掲示板がある。この掲示板には地
図上にサイン点灯装置が色と記号により 5 段階で示しており、観光客が登山する前に目
的地の情報を入手可能となっている。
(出典)2014 年 8 月
事務局撮影
図 4-4-8 山岳観光スポットの雪崩の危険度を示す掲示板
(出典)富士吉田市ホームページ
図 4-4-9 富士吉田市ホームページ
155
<突然の噴火に備えて落石シェルターを設置している事例>
・熊本県阿蘇市にある阿蘇山の火口付近の観光スポットでは、阿蘇山が突然噴火した場合
に備えて、噴煙や噴石から身を守るための退避壕は鉄筋コンクリート製の退避壕が設置
されている。
・総務省が平成 26 年に行った調査では、気象庁が火山活動を常時監視している 47 火山の
うち、噴火時に登山者や観光客を守る避難シェルターが整備されているのは、阿蘇山や
有珠山(北海道)
、桜島(鹿児島県)などの 12 火山にしか整備されていないことが判っ
ている。常時観測火山の中に富士山も含まれており、突然の噴火対策に備えておく必要
がある。
※総務省消防庁は、御嶽山噴火を受け、避難シェルターの整備に活用できる「消防防災施
設整備費補助金」を、平成 26 年度補正予算と平成 27 年度当初予算において計上した。
(出典)阿蘇市ホームページ
図 4-4-10 阿蘇山の火口付近にある退避壕
(出典)気象庁ホームページ
図 4-4-11 火山監視・情報センターが火山活動を 24 時間体制で監視している火山
156
4.4.3
安全対策に関する課題
以上の現状により、富士山及び山麓地域における安全対策に関する課題として以下が挙げら
れる。
①雪崩・土砂・落石対策
・富士山では度々大規模な雪崩が発生し、それにより道路や施設が崩壊する災害が生じて
いることから、土砂対策事業を継続し、今後も災害発生の危険性のある箇所に対し、適
切な防災施設の整備を進めることが重要である。
②火山噴火対策
・富士山には多くの側火山が存在することから、整備すべき場所の選定やシェルターの構
造(噴石、溶岩流への耐性)
、シェルター内に配備すべき備品等についての検討が必要で
ある。
・火山の状況に関する解説情報(臨時)や噴火警戒レベル 2 が発表された際には、山中に
いる登山者や営業活動を行う事業者等に対し避難を促すような検討も必要と考えられる。
③災害時の情報提供
・今後、多くの外国人観光客が来訪することを踏まえると、多言語で情報提供することが
必要と考えられる。しかし、来訪する外国人観光客の様々な国籍の言語全てに対応する
ことは難しい。そのため、例えば、言語がわからずとも危険を色で認識できるような仕
組み等が検討されるべきである。また、地域住民や観光業者が外国人観光客をサポート
するような体制づくりが必要と考えられる。
157
158
5.富士山および山麓地域における交通ネットワークのあり方
5.1
交通ネットワーク見直しの必要性
4 章において富士山および山麓地域における現状と課題について、
「環境」、
「景観」
、
「観光」、
「安全対策」の側面から整理を行ってきたが、下図に図示するように、地域が抱える課題に
対し交通が大きく関係している。
このことから、富士山および山麓地域の環境・景観を保全しつつ、世界に冠たる観光地へ
と発展していくためには、交通ネットワークの見直しは避けては通れない課題と言える。
夏季
富士山四、五合目
アクセス
富士山中における大量
のCO2 、NOXの排出
マイカー規制を実施しているものの、
排ガス規制前の車両を用いた観光バ
ス等が乗入
登山道、五合目の混雑・
渋滞
シャトルバス・観光バスにより大量の
登山者、観光客が入山
五合目以上にあるトイレ
の処理能力オーバー
麓と五合目をピストン輸送
冬季
スバルラインの路面凍結等により乗入
が制限
観光客が特定の
場所に集中
冬季における観光客の
大きな落ち込み
その他
マイカーが乗入
観光客の滞在時
間の短時間化
山中における不法投棄
物資はトラック等で五合目まで運び、
それ以上はトラクターで運搬
山麓地域内交通
観光客が特定の
時期に集中
歩いて下山し途中でバス
に乗車する等の多様な
観光形態がとれない
五合目における大規模
駐車場の確保
主要幹線道路での日常
的な交通渋滞
地域内への流入交通の9割以上が自
動車利用
湖畔等における駐車場
の確保
災害時の交通渋滞
山麓地域における環境
悪化
五合目の魅力を
高める施設等を
整備する空間が
ない
地域内周遊バス
等の定時性低下
山麓地域内にお
ける歩行空間の
安全性低下
山麓地域内の景
観悪化
湖畔における親
水空間、遊歩道、
自転車道等に対
し十分な空間が
確保できない
現状
図
課題
5-1-1 富士山および山麓地域における交通の現状と関連する課題
159
5.2
富士山および山麓地域における交通が果たすべき役割
富士山および山麓地域における交通ネットワークのあり方を検討するに当たり、当地域が
今後目指すべき観光地としての方向性に対し、交通がどのような役割を果たせるかという視
点から検討することが重要である。
そこで、ここではまず初めに富士山および山麓地域における観光のあり方について、富士
山および山麓地域における現状・課題およびあり方検討会での意見を踏まえ、観光地として
の方向性を提示する。次に観光地としての方向性に対し、交通が果たすべき役割を整理する。
(1)富士山および山麓地域における観光のあり方
富士山および山麓地域における課題については、4 章、5.1 で示した通りであるが、最終
的にはその影響が観光に帰着する結果となっているが当地域の特徴と言える。最終的に観光
に対し以下の a~c に示す 3 つの課題が生じている。これらを改善し、世界的観光地へと発
展していくために、①~③に示す観光地としての方向性が必要である。
観光地としての方向性
富士山および山麓地域における
観光に関する課題
a.特に夏季の富士山地域において過度の観光
客が入山しており、マイカーや観光バスによる
大気汚染、トイレの処理能力の限界、ゴミ投棄
等の環境への大きな負荷が生じている。
①富士山における環境とのバランスがとれた観光地
②多様な観光ニーズの受け皿をもった観光地
b.冬季は富士山の乗入日数が限定されるため、
観光客が大きく減少する。
③観光客が安心して長期間滞在できる観光地
c.年間を通じて、富士山および山麓地域におけ
る観光客の滞在時間が短い。
図 5-2-1 富士山および山麓地域における観光地としての方向性
(2)交通が果たすべき役割
上記で示した 3 つの観光地としての方向性に対し、それを実現していくために必要となる
施策の方向性ならびにその施策の中で交通が果たすべき役割を次頁表に整理する。富士山お
よび山麓地域における交通が果たすべき役割としては大きく 9 つの役割があると考えられ
る。
<富士山および山麓地域における交通の役割>
①環境保全、②演出軸、③観光資源、④視点場、⑤利便性、⑥需要コントロール、
⑦土地利用コントロール、⑧地域生活基盤、⑨非常時対応
160
表 5-2-1 富士山および山麓地域における交通が果たすべき役割の整理
観光地としての方向性
①富士山における環境と
のバランスがとれた観
光地
施策の方向性
観 光 客 の 分 季節の分散
散化
観光形態の
分散
観光客の環境意識の醸成
環境負荷の低減
②多様な観光ニーズの受
け皿をもった観光地
山頂に登るだけではない富
士山の楽しみ方の提供
161
富士山に登れない、富士山
が見えないときでも楽しめ
る麓の魅力づくり
③観光客が安心して長期
間滞在できる観光地
国際マーケットを意識した
取組みに力を入れる
富士山および山麓地域が一
体となって周遊性を高める
災害時の対応力を高めてい
く
交通が果たすべき役割
・年間を通じて安全で安定的な五合目へのアクセスを確保する
・交通拠点とトレッキングコースとの連携を図る
・アクセス交通モード自体が観光資源となる
・車内からの眺望を確保する
・車内等で富士山に関する環境問題に関する情報を提供する
【需要コントロール】
【観光資源】
【視点場】
【環境保全】
・大気汚染等環境に対する負荷をかけず輸送する
【環境保全】
・物資を輸送する
【地域生活基盤】
【需要コントロール】
・ダイヤや予約システム等の運用で需要をコントロールする
・交通施設とセットで上下水道等のインフラを整備する
・交通モード自体が観光資源となる
【観光資源】
・年間を通じて安全で安定的な五合目へのアクセスを確保する 【需要コントロール】
・交通拠点とトレッキングコースとの連携を図る
【視点場】
【土地利用コントロール】
・車内からの眺望を確保する
・四合目、五合目の空間利用をコントロールする
【利便性】
【観光資源】
・麓にある観光スポットをスムーズに移動できる
【土地利用コントロール】
・周遊するための交通モード自体が観光資源となる
・地域内の公共交通を充実させ自動車からの転換を図ることで、湖畔駐車場等の
土地利用を改変し親水空間を確保する(湖畔の空間利用をコントロールする)
・空港や新幹線駅、リニア駅からのアクセスを確保する
【利便性】
・多言語での案内やアナウンス等により情報をシームレスに提供する
【利便性】
・富士山四合目、五合目および麓をスムーズに移動できる
・災害時等に纏まって大量の人を輸送できる
・山中の交通拠点が避難場所として機能する
【非常時対応】
<参考:観光地にとっての交通の役割>
既往文献では、観光地にとっての交通の役割として以下の7つが挙げられている。あり方検討
会では、富士山および山麓地域における特殊性を勘案し、これらに加え「環境保全」、「非常時対
応」を交通の役割として追加している。
①観光地演出軸としての交通
・小説や演劇が時間を追って演出されるように、観光地は観光客の移動に沿って演出される。
・観光地の入口の演出、移動に伴う風景の見せ方、観光資源の楽しませ方の順序、休憩・食事・
宿泊場所の配置等、移動の時間推移すなわち交通軸上で演出される。
②観光資源としての交通
・蒸気機関車、船、馬、人力車等乗り物自体が観光資源として導入される。さらには乗り物と
してのみならず見る対象としても意味を有する。
③視点場としての交通空間
・観光資源を見る場所の多くは交通空間である。海岸線や山岳地の道路や鉄道・航空機の車窓
のように結果的に美しい風景を見せる場を提供しているのみならず、ロープウェイや観光船
のように風景を見せるために導入された交通施設、交通機関もある。
④利便性向上のための交通
・観光地の魅力の構成要素として、アクセスのしやすさ、観光地内の移動のしやすさは重要で
ある。
・都市内交通と同様、速く、快適に、安くという要請がある一方、特に観光地では、これらを
犠牲にしても交通の他の役割を重視すべき場合も多い。
⑤観光需要のコントロール手段としての交通
・観光資源から見た容量に対する過剰需要の問題に対応するために、需要抑制が不可避な場合
が多い。その手段として交通を介してコントロールすることがしばしば行われる。
・流入、交通手段、経路の時間的・空間的抑制は、交通のみならず、観光施設配置や情報ある
いは料金による抑制も組み合わせることで効果的となる。
・また、交通サービスにより来訪者の量のみならず、質もコントロールされる。
⑥観光地の土地利用コントロール手段としての交通
・交通サービスレベルにより来訪者の量や質が規定されることは、その間接的影響として土地
利用もコントロールされることを意味する。
・我が国では都市計画的土地利用規制が農山村や自然地域で十分制度化されておらず、多くの
観光地における面的整備手法を欠いている。
・また、既存土地利用の再開発は歴史的景観や地形的制約等のため、都市内のような方法論が
取り入れにくい。
・したがって、観光地の土地利用規制手段としては、自然地域における開発抑制と交通による
抑制手段が極めて重要である。
⑦地域生活基盤としての交通
・観光地の交通施設は、観光旅行者のみならず、地域に居住する人々の生活交通や物流のため
の役割も果たしていることにも留意しておく必要がある。
・地域の生活交通と観光交通の混在が地域住民と観光来訪者の両方にとって問題発生源となっ
ている場合が多い。
(出典)森地茂・伊東誠・毛塚宏:魅力ある観光地と交通(技法堂出版)
162
<参考:富士山および山麓地域における交通ネットワークの現状・課題>
以下では、4章で整理した富士山および山麓地域における交通ネットワークの現状・課題
について再掲する。
広域ネットワーク
①東京方面からのアクセス
<現状>
・東京方面からの自動車による富士山・山麓地域へのアクセスでは、中央自動車道もし
くは東名高速道路が利用される。
・鉄道は、JR中央線で大月駅から富士急行線に乗換えるルートがあるが、東京~河口
湖間(1 日 2 往復)や高尾~河口湖間(1 日 1 往復)では、毎日直通運転が実施されて
いる。また土休日には、新宿や大宮等から河口湖までの直通運転も実施されている。
さらに、昨年の 7 月下旬~11 月末には成田空港~河口湖駅までの直通運転も実施され
た。
・高速バスは、羽田空港から 1 日 4 往復運行されている。その他、東京駅、新宿駅、渋
谷駅、南大沢駅、横浜駅、国府津駅、センター北駅、大宮駅等を発着とする路線が運
行されている。
・なお、東京方面から富士山へのアクセスは、東海道新幹線を利用した静岡側からのル
ートもある。
<課題>
・中央自動車道の渋滞発生箇所における渋滞緩和(調布IC付近や小仏トンネル付近)
・首都圏の主要拠点駅や国際空港から山麓地域への鉄道による直通運転やバスネットワ
ークのさらなる充実
・リニア中央新幹線の山梨県駅から富士山・山麓地域へのアクセシビリティの向上
②静岡・名古屋方面からのアクセス
<現状>
・名古屋・静岡方面から富士山へは、自動車(東名高速道路、新東名高速道路を利用)
や新幹線、高速バスを利用したルートがある。
・富士山・山麓地域への高速バスとしては、名古屋方面からは名鉄バスセンターを発着
とし、また静岡方面からは三島駅、静岡駅等を発着とする路線が運行されている。
・富士山静岡空港から富士山・山麓地域へのアクセスでは、空港からの直行バスはない
(空港からのバスは静岡駅まで)。
・現在、中部横断自動車道が事業中であり平成 29 年度に全線開通予定となっている。こ
れにより、富士山を中心とした南北のネットワークができる。
<課題>
・富士山静岡空港から富士山・山麓地域へのアクセシビリティの向上
・リニア中央新幹線の山梨県駅から富士山・山麓地域へのアクセシビリティの向上
・中部横断自動車道から富士山・山麓地域方面へのアクセシビリティの向上
163
③松本方面からのアクセス
<現状>
・自動車によるアクセスでは中央自動車道が利用される。
・松本方面からは、安曇野スイス村を発着とする高速バスが運行されている。
※北陸方面は、北陸新幹線の開業により、富士山への潜在的観光需要を抱える地域に
なっていく可能性がある。
<課題>
・北陸方面から富士山・山麓地域へのアクセシビリティの向上
山麓地域内周遊交通ネットワーク
<現状>
・自動車交通が中心であり、地域内の主要幹線道路で日常的に渋滞が発生している。
また、渋滞発生箇所では過去に交通事故が発生している。
・国道 138 号のバイパス道路である東富士五湖道路が十分に活用されていない。
・地域内の観光資源を周遊するバスが運行されているものの、渋滞により定時性が確
保できない場合がある。
・地域内の観光資源を周遊するバスの運行本数は、十分ではない。
・湖畔沿いでは、駐車場に出入りする大型バス等による渋滞や、歩道の安全性低下等
が生じている。
・河口湖等では、湖畔の遊歩道が非連続的であり、車道脇を歩行しなければならない
箇所もある。
<課題>
・通過交通のバイパス利用を促す施策の検討(料金施策等)
・自動車交通と公共交通との結節性の向上
・鉄道駅や北麓駐車場等の交通拠点から山麓地域内へのアクセシビリティの向上
・地域内を周遊するバスの定時性確保
・乗り継ぎ利便性向上
(例:・行先、目的地がわかりやすい乗り場配置やサイン類の整備
(例:・乗車券を含む多言語化や通訳の配置等外国人観光客への対応強化
(例:・周遊バスを使用した観光モデルコースの提案)
・湖畔沿いのサイクリングロードや遊歩道の連続性の確保
・船舶を活用した周遊交通の検討(河口湖、山中湖)
164
富士山四、五合目アクセス
<現状>
・五合目までのアクセス手段としては、マイカー、タクシー、路線バス、シャトルバス、
観光バスがあるが、一年のうちで入込客数が最も多い 7、8 月はマイカー規制により、
マイカーを除いた交通手段でしか通行できない。
・マイカー規制期間中は、1 日あたり 300 台を超すシャトルバス・観光バスが五合目へ乗
り入れている。観光バスの中には排ガス規制強化前の車両等が少なからず存在し大気
汚染の一因となっている。
・シャトルバスは高頻度で運行されているものの、最混雑時には北麓駐車場や五合目に
おいてシャトルバスを待つ観光客で長蛇の列が生じている。
・夏季のシャトルバスは、五合目と北麓駐車場間をノンストップで運行されているため、
トレッキングコース(例えば五合目~奥庭駐車場)とバスを組み合わせたような観光
形態が取れない。
・北麓駐車場において五合目からのシャトルバスと、山麓地域内を周遊するバスとの乗
り継ぎが確保されていない(夏季)
。
・今年から登山シーズンが終了した 9 月中旬~11 月末まで、平日のスバルラインの通行
料を無料にすることから、マイカーによる渋滞発生が懸念される。
・富士山からの眺望は、夏季は霧等により視界が悪いものの冬季は非常にきれいに見え
る日が多い。そのため、四合目・五合目は絶好のビューポイントであると考えられる
が、冬季(1~3 月)には、スバルラインの路面凍結等により四合目、五合目へアクセ
スできる日がほとんどない。
<課題>
・年間を通じた富士山への環境負荷の抑制
・アクセス交通とトレッキングコースとの結節性の確保
・四、五合目アクセスにおける観光資源的要素の強化
・四、五合目アクセスと山麓地域内周遊交通との結節性の確保
・四、五合目アクセスにおける年間を通じた安全性・安定性の確保
165
166
5.3
交通ネットワークの改善に向けた基本方針
5.2 で整理した交通が果たすべき役割を踏まえ、広域交通ネットワーク、山麓地域内周遊
交通ネットワーク、富士山四、五合目アクセス交通を改善する上での基本方針を以下に整理
する。
(1)広域交通ネットワーク
①ゲートウェイから富士山および山麓地域へのアクセシビリティを向上させる
<ゲートウェイ>
・東京方面:羽田空港、成田空港、主要拠点駅、リニア駅
・静岡、名古屋方面:富士山静岡空港、東海道新幹線駅、リニア駅
・北陸方面:信州まつもと空港、北陸新幹線駅、リニア駅
<考えられる方策>
・中部横断自動車道、須走・御殿場バイパス等道路整備の着実な進捗
・直通列車の増発・新規運行
・高速バスの充実
・航空会社と鉄道・バス会社が連携したチケット・切符の販売
等
②案内・情報提供のシームレス化を図る
・ゲートウェイから富士山・山麓地域までの過程において、情報の寸断が生じないよ
う、多言語表記での案内やアナウンス等の充実を図る。
・また、Wi-Fi 環境の整備を進めるとともに、スマートフォン等で閲覧する観光案内サ
イトの充実を図る。
(2)山麓地域内周遊交通ネットワーク
先に整理した富士山および山麓地域における交通が果たすべき 9 つの役割に照らし、山麓
地域内周遊交通ネットワークの基本方針としては以下が挙げられる。
①麓の自然環境への交通による負荷を抑制する【環境保全】
・自動車から環境にやさしい公共交通機関へのシフト
・パークアンドライド駐車場の適切な配置
・排ガス規制の検討
・歩行空間、自転車空間の整備
②移動自体が一つの観光目的となるような楽しみを提供する【視点場】【観光資源】
・交通モードの観光資源的要素の充実
→車体・車内・チケットのデザインの工夫、座席や窓のサイズ・配置の工夫、車
内アナウンスの工夫 等
167
③幹線道路での渋滞緩和を図りスムーズな地域内移動を確保する
【利便性】
【地域生活基盤】【非常時対応】
・東富士五湖道路における料金施策
・鉄道とバスの乗継利便性の向上
→運行本数の増加、ダイヤの工夫、フリー乗車券のサービス拡充等
・自動車とバスの結節性の向上
→パークアンドライド駐車場の整備、周遊バスの路線・運行本数の拡充、駐車場と
周遊バスをセットにしたチケット、手荷物配送サービス等
※パークアンドライド駐車場が麓の拠点となるよう周辺に観光施設や飲食施設、情報
発信施設等の誘導を図ることも重要になる
(3)富士山四、五合目アクセス交通
先に整理した富士山および山麓地域における交通が果たすべき9つの役割に照らし、
富士山四、五合目アクセス交通の基本方針としては以下が挙げられる。
①富士山の自然環境への交通による負荷を抑制する【環境保全】
②車窓から雄大な景色を提供する【視点場】
③アクセスの過程自体が一つの観光目的となるような楽しみを提供する【観光資源】
④誰もが多様な観光形態をとれるようにする【利便性】
⑤需要管理が可能なサービスを導入するとともに、年間を通じたアクセスを確保するこ
とで特定時期の集中を平準化する【需要コントロール】
⑥麓における交通拠点や四合目、五合目において適切な空間利用を誘導する
【土地利用コントロール】
⑦物資を確実に輸送するとともに観光産業等の活性化に寄与する【地域生活基盤】
⑧非常時に五合目等にいる観光客、事業者等を安全に避難誘導する【非常時対応】
168
5.4
富士山四、五合目アクセス交通におけるモードの検討
富士山および山麓地域における課題を抜本的に改善するためには、当地域の中で最も吸引
力のある富士山四、五合目へのアクセス交通が非常に重要になる。
そこでここでは、富士山四、五合目アクセス交通に焦点を当て、5.3 で整理した改善に向
けた基本方針に沿って、交通モードの検討を行う。なお、ここでは交通モードとして「バス」、
「ロープウェイ」
、
「ケーブルカー」
、
「LRT」、
「モノレール」、「鉄道」を取り上げる。
次頁表では、交通が果たすべき役割および基本方針に基づき、交通が具備すべき要件を挙
げた上で、各モードが具備すべき要件をどの程度満たすことができるかを示している。各要
件において優位と考えられるモードについては赤字で示している。これらを概観すると、交
通モードそれぞれの長所、短所があるが、ここでの整理を見る限り、基本方針に沿った改善
を行っていく上では、
「鉄道」が交通モードとして適している可能性が最も高いと考えられる。
169
表 5-4-1 富士山四、五合目アクセスにおける交通モードの比較
交通の
役割
環境保
全
基本方針
交通モードが具備
すべき要件
バス
新たな開発等を必要とせず
に環境負荷を抑制する
スバルライン上へ
の敷設
可能
NOx、PMの排出
低減
CNGバスや電
気バス等を導入
することで可能
ロープ
ケーブル
ウェイ
カー
急角度の線形箇所は導入が難
しい
※曲線半径が緩やかである必
要があるため、導入する場
合には、新たな開発が必要
になる。鉄塔が自然景観を
害する可能性がある。
不可
(スバルラ
インの最急
勾配 80‰に
対応できな
い)
モノレール
可能
※車両基地
や変電設
備のため
の用地確
保が必要
鉄道
可能
※車両基地や
変電設備の
ための用地
確保が必要
可能
170
エネルギーの再利
用
LRT
不可
ブレーキをか
けた際に得ら
れる回生エネ
ルギーを、変
電所内の装置
に蓄え、他の
列車の加速や
駅舎照明など
に利用可
表 5-4-1 富士山四、五合目アクセスにおける交通モードの比較
交通の
役割
視点場
基本方針
車窓から雄大な景色を提供
する
交通モードが具備
すべき要件
ゆったりと眺望や
会話を楽しめる座
席空間
眺望が確保される
大きな窓
富士山の自然景観
と調和した車内・車
外のデザイン
171
観光資
源
アクセスの過程自体が一つ
の観光目的となるような楽
しみを提供する
富士山の自然景観
と調和した車内・車
外のデザイン
車内でしか体験で
きない希少なサー
ビス(例えば飲食
等)
富士山の自然景観
と車両を撮影でき
るフォトスポット
バス
ロープ
ウェイ
一人当たりの占有スペースは狭
い
ケーブル
LRT
モノレール
鉄道
カー
座席の配置や車両構造を工夫することによりゆったりとし
た空間を設けることが可能
※ただし輸送力が小さくなる可能性がある
他のモードに比
べ、眺望を確保
車両構造を工夫することで設置可能
する窓は設置し
※地下式を採用した場合、視点場としての役割は果たせない
づらい
特徴的なデザインを車体や車内に導入するには
面積的な限界がある。
ロープウェイ、ケーブルカーは、構造上線形が緩
導入可能
やかであることが条件となるため、新たな開発が
必要になるとともに、鉄塔が自然景観を害する可
能性がある。
特徴的なデザインを車体や車内
・車内や車外をデザインすることは可能
に導入するには面積的な限界が
・鉄道は、これらの中でも観光資源としての価値が高い(乗
ある
ること自体が目的の一つになる)
サービスを提供するのに必要な
空間的余裕が乏しい
導入可能
※ただし、他モードに比べ、車両
等のデザインに特徴を持たせ
ることに限界がある
座席の配置や車両構造を工夫し必要な空間を確保でき、かつ
サービスを提供できる乗務員の乗車や車両の振動が小さい
等の条件が満たせれば提供可能
導入可能
表 5-4-1 富士山四、五合目アクセスにおける交通モードの比較
交通の
役割
利便性
172
需要コ
ントロ
ール
基本方針
誰もが多様な観光形態をと
れるようにする
需要管理が可能なサービス
を導入するとともに、年間
を通じたアクセスを確保す
ることで特定時期の集中を
平準化する
交通モードが具備
すべき要件
乗降のしやすさ(バリ
アフリー)
バス
ロープ
ケーブル
ウェイ
カー
LRT
整備可能
※車いす利用者が車内を移動で
きるほどの空間確保は難しい
車内の快適性
一人当たりの占有スペースは狭
い
観光資源との結節
性
一般的なバス停
留所では、右記の
ような機能を具
備することは難
しい
座席の配置や車両構造を工夫することによりゆったりとし
た空間の確保や眺望が確保される車窓の設置、富士山の自然
景観と調和した車内デザインの導入等が可能となるため高
い快適性が確保される可能性が高い
構造上直線線形が条件とな
るため、既存のトレッキン
グコース付近に駅を設置で
きない可能性が高い
観光資源との結節性を確保するためには、山
中の交通拠点において休憩機能や情報発信
機能が具備される必要があり、駅のような一
定の空間が確保された交通拠点が必要であ
る。これらのモードにおいては、交通拠点に
一定の空間が必要となるため、観光資源との
結節性を確保できる可能性が高い
導入可能
多様な運賃制度の
導入
導入可能
予約システムの導
入
導入可能
タイヤチェーンを装着し
て輸送可能であ
るが、道路路面の
除雪・融雪が必要
強風に対す
る特別な対
策が必要
鉄道
整備可能
柔軟な運行ダイヤ
年間を通じた安
全・安定運行
モノレール
大雪に対しては除雪車等に
よる除雪が必要であるが、
少々の積雪には影響を受け
ない
跨座式:積雪
や凍結に対
し弱く、走行
路の除雪、融
雪が必要
懸垂式:走行
装置が箱型
軌道桁内に
あり、大きな
問題はない
大雪に対し
ては除雪車
等による除
雪が必要で
あるが、少々
の積雪には
影響を受け
ない
表 5-4-1 富士山四、五合目アクセスにおける交通モードの比較
交通の
役割
土地利
用コン
トロー
ル
基本方針
麓における交通拠点や四合
目、五合目において適切な空
間利用を誘導する
交通モードが具備
すべき要件
バス
ロープ
ケーブル
ウェイ
カー
LRT
モノレール
鉄道
173
麓における交通拠
点が地域の拠点と
なるような強いイ
ンパクトを持つ
インパクトは
それほど大き
くない(現状
において北麓
駐車場周辺に
おける集積状
況から)
山中における駅・停
留所の設置
停留所は設置
可能だが、観
光資源との結
節機能を持た
せることは困
難
山中の観光資源との結節機能や災害時のシェルター機能を持った交通拠点
(駅)の設置が可能
五合目における空
間利用・空間配置を
検討する上での中
心的な存在となり
うる
五合目の空間
利用を変更す
るようなイン
パクトはない
五合目の空間利用、空間配置を大きく変えるインパクトを与える可能性があ
る
強いインパクトを与える可能性がある
表 5-4-1 富士山四、五合目アクセスにおける交通モードの比較
交通の
役割
地域生
活基盤
基本方針
物資を確実に輸送するとと
もに観光産業等の活性化に
寄与する
交通モードが具備
すべき要件
バス
ロープ
ケーブル
ウェイ
カー
物資や廃棄物輸送
物資や廃棄物を輸送すること
が可能な運行計画、
は現実的ではない
車両設備の導入
LRT
モノレール
鉄道
運行計画や車両構造を工夫することで物資や廃棄物を輸送す
ることが可能
※鉄道においては、鉄道施設内に上下水施設を付帯的に整備
し処理することも可能性として考えられる。
跨座式:積雪
や凍結に対
して弱く、走
行路の除雪、
融雪が必要
大雪に対し
ては除雪車
等による除
雪が必要で
あるが、少々
の積雪には
影響を受け
ない
麓の交通拠点にお
けるバス等への乗
継利便性
麓の交通拠点において周遊バス乗り場の整備や、富士山アクセス交通と周遊バスとのダイヤ調
整、乗継運賃の導入等を行うことで乗継利便性を高めることが可能
174
年間を通じた安
全・安定運行
タイヤチェーンを装
着して輸送可
能であるが、
道路路面の除
雪・融雪が必
要
強風に対す
る特別な対
策が必要
大雪に対しては除雪車等に
よる除雪が必要であるが、
少々の積雪には影響を受け
ない
懸垂式:走行
装置が箱型
軌道桁内に
あるため、特
に大きな問
題はない
表 5-4-1 富士山四、五合目アクセスにおける交通モードの比較
交通の
役割
非常時
対応
基本方針
非常時に五合目等にいる観
光客、事業者等を安全に避難
誘導する
交通モードが具備
すべき要件
緊急車両通行空間
避難時に大きな輸
送力を発揮できる
救援が必要な人数、
属性(国籍、年齢等)
等を把握できる
バス
可能
ロープ
ケーブル
ウェイ
カー
スバルライン上に敷設でき
ないため、通行可能
他のモードに比べて 1 車両当
たりの輸送力を大きくするこ
とには限界がある
LRT
モノレール
緊急車両が
通行できる
軌道構造に
することで
通行可能
整備方法次
第で通行可
能(軌道桁の
配置等に工
夫が必要)
鉄道
緊急車両が
通行できる
軌道構造に
することで
通行可能
緊急時には立位状態での乗車も認めることで 1 編成当たりの
輸送力を高めることが可能
予約システムを導入することで可能
175
176
5.5
富士山四、五合目アクセス交通改善による地域への効果
ここでは、富士山四、五合目アクセス交通改善が実施された場合に、地域にどのような効
果が発現し、波及する可能性があるかを定性的に整理する。これらの効果については、今後
詳細なデータ収集等を行い、定量的に分析していく必要がある。
(1)前提条件
ここでは 5.4 において、富士山四、五合目アクセス交通として最も適している可能性が
高いと位置づけられた「鉄道」に焦点を当て、登山鉄道が整備された場合について検討を
行う。登山鉄道のルート並びに建設計画イメージを以下に示す。
1)ルート
富士登山鉄道の路線イメージを以下に示す。
図 5-5-1 路線のイメージ
177
2)建設計画
・自然環境への負荷:建設に当たっては、開発行為を最小限に抑えることが必要であ
る。スバルラインを活用することで新たな開発を抑えることができる。
・技術的可能性:五合目付近は地質が砂礫の箇所もあるが、基盤面が露出している箇
所もあり、土木工事は技術的に可能である。
・ピーク時輸送への対応:複線とすることで現在の夏季のピーク時需要を輸送するこ
とができる。
・緊急車両の通行:軌道敷設後、アスファルト舗装等を行うことで、緊急車両は通行
できる。
・既存土木施設の活用:スバルライン上の橋りょうについては、設計荷重が自動車に
対応したものであり、現在の鉄道設計基準に適合しない。そのため、現在の橋りょ
うを残したまま外側に新たな橋りょうを構築し、架け替えを行う必要がある。
一方、洞門は現在の施設をそのまま使用する。
・麓の主な道路との交差部:麓のターミナル駅から富士山までの間にある主な道路と
の交差部については、立体交差を想定する。
7.5m
3.5m
0.5m
3.5m
7.5m
0.5m
3.25m
3.25m
0.5m
図 5-5-2 スバルライン標準断面図(現況)
178
図 5-5-3
登山鉄道導入イメージ
(2)登山鉄道整備等の施策実施による観光客の行動変化およびそれに伴う波及効果
登山鉄道整備等の施策を実施した場合に、観光客の行動がどのように変化し、それが地
域においてどのような波及効果をもたらすかについて定性的に整理を行う。検討の対象と
する施策は以下の通りである。
<検討対象とする施策>
・スバルラインへの登山鉄道整備
・鉄道運行による入山者数のコントロール
・富士山における上下水道等のライフライン整備
・山麓地域におけるパーク&ライド駐車場等の交通結節点整備
・湖畔および山麓地域の景観改善
<表の見方>
○施策の内容および波及効果
・観光客の行動変化
施策実施による観光客の行動変化の内容
・観光客の行動変化がもたらす地域への波及効果
観光客の行動変化により各主体にどのような効果が発現するかを整理
○施策実施に関連する費用等
観光客の行動変化により生じる地域の各主体への効果から生じる金銭的な変化
179
表 5-5-4 登山鉄道整備等の施策実施による観光客の行動変化およびそれに伴う波及効果
観光客の行動変化がもたらす地域への波及効果
観光客の行動変化
宿泊業者
スバルラインへ
五合目観光の通年化
の登山鉄道整備
企業・組合・事業者
飲食業者
物販業者
その他関係者
・需要の平準化
・需要の平準化
・年間需要の増加(宿
・年間需要の増加(宿
・年間需要の増加
泊・飲食業者よりも
泊・飲食業者よりも
→年間を通じた経営の
→年間を通じた経営の
増加幅は小さい)
増加幅は小さい)
安定化、経営状態の
安定化、経営状態の
→年間を通じた経営の
→年間を通じた経営の
改善・向上
改善・向上
安定化、経営状態の
安定化、経営状態の
改善・向上
改善・向上
・需要の平準化
・需要の平準化
・年間需要の増加
地域住民
自治体
・富士山における良好
・富士山における良好
な環境の保全
・冬季における雇用機
会の拡大
な環境の保全
・雇用拡大による居住
人口の増加
国
登山鉄道事業者
・富士山における良好
な環境の保全
通年需要の確保
・訪日外国人の増加
・生活環境の改善・向
施
策
の
内
容
お
よ
び
波
及
効
果
需要の平準化
需要の平準化
需要の平準化
需要の平準化
上(道路渋滞の緩和、 雇用拡大、良好な生活
鉄道運行による
他の時期へのシフト
→年間を通じた経営の
→年間を通じた経営の
→年間を通じた経営の
→年間を通じた経営の
安全性の向上等)
環境による居住人口の
夏季のピーク時
安定化
安定化
安定化
安定化
・冬季における雇用機 増加
における入山者
会の拡大
数のコントロー
ル
他の観光形態へのシフ
冬季における雇用機会 雇用拡大による居住人
―
ト
―
五合目での高質なサー
富士山における
ビス提供が可能になる
上下水道等のラ
宿泊日数の増加
ことによる滞在時間の
イフライン整備
需要増
増加
山麓地域におけ
・自動車から公共交通
るパーク&ライ
への転換
宿泊日数の増加
ド駐車場等の交
・周遊観光の活性化
通結節点整備
湖畔および山麓
地域の景観改善
宿泊日数の増加
―
需要増(宿泊・飲食業者よ
需要増(宿泊・飲食業者よ
りも増加幅は小さいと考え
りも増加幅は小さいと考え
られる)
られる)
需要増(宿泊・飲食業者よ
需要増(宿泊・飲食業者よ
上(道路渋滞の緩和、
活環境による居住人
りも増加幅は小さいと考え
りも増加幅は小さいと考え
安全性の向上等)
口の増加
られる)
られる)
の拡大
・富士山における良好
な環境の保全
・雇用機会の拡大
・生活環境の改善・向
需要増
・湖畔における滞在時
間の増加
―
需要増
・周遊観光の活性化
・雇用機会の拡大
登山鉄道建設・
運賃負担(-)
事業費
登山鉄道建設以
環境・景観維持改善負
外のインフラ整
担金(-)
備
波及効果による
収入増(+)
収入等の変化
支払賃金増(-)
税金
・雇用拡大による居住
・運行本数の平準化
―
富士山における良好な
環境の保全
―
人口の増加
・雇用拡大、良好な生
―
―
―
―
・山麓地域内における
良好な環境の保全
・雇用拡大、良好な生
需要増(宿泊・飲食業者よ
需要増(宿泊・飲食業者よ
上(良好な地域景観
活環境による居住人
りも増加幅は小さいと考え
りも増加幅は小さいと考え
等)
口の増加
られる)
られる)
・山麓地域内における
地域景観の保全
補助金の負担(-)
補助金の負担(-)
運賃収入(+)
補助金の受入(+)
整備費用の支出(-)
負担金による整備資金
整備費用の支出(-)
(+)
収入増(+)
収入増(+)
収入増(+)
支払賃金増(-)
支払賃金増(-)
支払賃金増(-)
土 地
関 連
税
そ の
他税
な環境の保全
・生活環境の改善・向
・雇用機会の拡大
―
・通年需要の確保
・富士山における良好
・地主の資産価値向上
・地主の資産価値向上
施
策
実
施
に
関
連
す
る
費
用
・
収
入
・
税
口の増加
―
法人税、所得税の増
法人税、所得税の増
法人税、所得税の増
法人税、所得税の増
(-)
(-)
(-)
(-)
180
運賃収入(+)
所得増(+)
地主の税金増(-)
税収増(+)
所得税の増(-)
税収増(+)
税金の支払(-)
税収増(+)
税金の支払(-)
6.おわりに
世界遺産 富士山の環境と観光のあり方検討会では、聖なる山である富士山の環境と文化的
景観を保全しながら、富士山及び山麓地域が世界的な観光地へと飛躍するための具体的方策
について、5つの観点から提言を行った。特に登山鉄道整備に当たっては、地元における関
係者間の合意形成、整備主体・運行主体の検討、建設計画・運行計画、事業費および資金調
達方法、災害時における避難方法等、より具体的な検討段階へとステップを進めていくこと
が必要である。山梨県、地元自治体、国が連携し、検討が進められることを期待する。
2016 年 2 月 1 日までにイコモス勧告に対する保全状況報告書を提出することが求められて
いる。富士山及び山麓地域の環境、文化的景観の保全を確実に行っていくことをアピールす
る意味でも、あり方検討会の本提言が保全状況報告書に盛り込まれるよう関係者の努力に期
待したい。
また、2020 年は、東京オリンピック・パラリンピックの開催年であり、海外から多くの観
光客が我が国を訪問する。2020 年までに本提言における施策を相当程度進めておくことは、
富士山および山麓地域の魅力を世界に発信する絶好の機会となる。建築、屋外広告の規制や
電線の地中化、歴史・文化遺産の修復・保存等、関係者の合意が得やすい施策からスピード
感を持って実施していくことが必要である。また、登山鉄道については、計画が進行してい
ることを PR することで、再訪したいという意識を高めリピート率の向上につながることが期
待できる。そのため、県や国が中心となって、登山鉄道に関する技術的検討、フィジビリテ
ィスタディ、地元関係者との合意形成に向けた調整、資金調達方法、環境・景観維持改善負
担金の設立等に関する詳細な検討を早々に開始すべきである。
181
世界遺産 富士山の環境と観光のあり方検討会
報 告 書
平成 27(2015)年 5 月
世界遺産 富士山の環境と観光のあり方検討会
事務局:一般社団法人富士五湖観光連盟・社会システム株式会社