第2回 次期計画WG サイエンス勉強会(播磨尚朝・神戸大院理)

H27/11/11:14:00〜
平成 27 年度次期放射光光源に関する利用研究勉強会「次期計画 WG セミナー」
パリティ非保存の物性物理学
神戸大理
播磨尚朝
[講演概要]
物性物理学というと大まかには物質の巨視的な性質を微視的な観点から研究
する学問として 100 年近い歴史がある。この間、金属電子論、半導体物理学、金
属磁性、超伝導理論、近藤効果、量子ホール効果など多くの理論体系が産まれて、
その結果として様々な応用にも使われている。近年では、マルチフェルロイック
スやスキルミオンなどの実験的理論的研究が盛んである。この最近の研究の流
れを「パリティ非保存の物性物理学」の誕生と捉えてみたい。
物性の多くは外場に対する電子系の応答として捉えられる。巨視的に空間反
転対称性が無い場合は、原子位置にも反転対称性は無い。原子位置に空間反転対
称性が無い場合は、偶奇の波動関数が混合した状態が固有状態となる。これにス
ピン軌道相互作用を加えてスピンも混合した状態の進行波を考えると、それぞ
れの状態のスピン自由度に関する縮退は解ける。ただし、時間反転対称性があれ
ば全体での磁化は生じない。ここに電場/磁場をかけると、磁化/電流が誘起され
るが、これが電気磁気相関である。巨視的にパリティが保存していないが、その
原因は微視的な空間反転対称性の欠如にある。
さて、空間反転対称性が欠如している系が原子位置から離れた点の空間反転
操作でつながった系と合わせて、全体として空間反転対称性がある系となった
場合を考えよう。この時、微視的にはパリティが保存しないが、巨視的には保存
している。ハシゴやジグザグの構造と呼ばれる系がそれにあたる。ハシゴの系は
微視的にもパリティ保存系に帰結されるが、ジグザグ構造はそれが出来ない。空
間反転対称性を有する孤立要素の散乱問題から出発して巨視的な系の記述を行
えない系である。近年の新奇な超伝導体である、ウラン系超伝導体(URhGe、UCoGe、
UGe2、UPt3、UBe13)、鉄系超伝導体、β-YbAlB4 等がその例であるが、この他にも
古くから知られている A15 型超伝導体もジグザグ構造であることに注目したい。
巨視的にパリティが保存していないだけでなく、微視的にパリティが保存しな
いことに起因した特異な物性を総称して「パリティ非保存の物性物理学」と名付
け、今後の研究の展開を期待する。