【マイナンバー制度】 ◇市民でも 知っておくべき マイナンバー◆ 今回のテーマは,「マイナンバー制度」です。 マイナンバー制度については,実務的な対応の話が先行しがちで,その重要性がいま ひとつ分かりにくい部分があります。 そこで,本稿では,私たちの日常生活に,マイナンバーがどう関わってくるのかを, 取り上げてみます。 なお,日本弁護士連合会(日弁連)は,過去にマイナンバー制度に反対の立場で会長 声明を出しています。また,日弁連は,近時,政府提出の,金融機関に対して預貯金口 座情報をマイナンバー又は法人番号によって検索できる状態で管理しなければならない ことを義務付け,金融機関が預貯金者等に対してマイナンバーの告知を求めることがで きるようにすることなどを内容とする法案にも,反対する会長声明を出しています。 しかし本稿では,制度自体への賛否の議論には触れないこととして,現行法を前提と した説明をします。 1 そもそもマイナンバー制度とは? 「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」に基 づき導入される制度です。 ここでいうマイナンバーとは,「住民票と紐付けされた,各個人に固有の(=他人と 重複しない)番号」です。 この制度は,社会保障,税,災害対策の分野での行政の効率化を目的としていて, 法律上,マイナンバーの利用範囲は左の3分野に限定されています。 平成27年10月から,マイナンバーが付された全個人に番号の通知がされ,平成 28年1月から,行政手続でマイナンバーの利用が開始される予定です。 また,平成29年1月から,自分のマイナンバーを含む情報の利用履歴をインター ネットによって調べられるサービス(マイナポータル)の運用も開始される予定です。 将来的には,民間のオンライン取引などに利用が拡大される可能性もあります。 2 マイナンバー制度との接点(一般市民にとって) 前記のとおり,住民票がある個人であれば,必ずマイナンバーも付されることにな ります。マイナンバーは,住民票にも記載されます。 では,一般の市民が生活していく上で,マイナンバー制度とはどの程度接点がある でしょうか? まず,給与生活者であれば,源泉徴収などの給与事務,社会保険関係の各種手続の ために,勤務先にマイナンバーを提示する必要があります。 他にも,不動産の賃料や株式配当金などの収入がある場合など,支払元から支払調 -1- 書が発行される場合にも,支払元にマイナンバーを提示する必要があります。 また,確定申告が必要な場合には,申告書にもマイナンバーを記載することになり ます。 もっとも,マイナンバーを毎月ごとに提示するような方法が想定されているわけで はありません。例えば勤務先へのマイナンバーの提示は,初めに1回するだけで,後 は勤務先の側でそれを諸手続に利用する,という形になります。 3 マイナンバー制度との接点(法人・個人事業主にとって) 法人・個人事業主にとってのマイナンバー制度との接点は,前項の裏返しといえま す。 つまり,従業員を雇用する立場である限り,給与事務・社会保険事務などで,各従 業員のマイナンバーが必要となります。また,個人の取引先に支払調書を発行する場 合にも,相手先のマイナンバーが必要となります。 また,個人事業主の場合は,これらに加えて,確定申告等の納税に関する手続でも, 自身のマイナンバーが必要となります。 したがって,事実上,現に営業している全ての法人・個人事業主にとって,マイナ ンバー制度への対応は不可避といえます。 また,個人のマイナンバーを含む情報については,不正な提供,盗用,漏洩,不正 取得などの行為について刑事罰が定められています。これらが犯罪となるのは,故意 の場合のみで,過失の場合(例えば過失による漏洩)には犯罪とはなりませんが,民 事上の責任は問題になり得ますし,事業者としての社会的信用が低下することも避け られません。 そこで,法人・個人事業主にとっては,マイナンバーを取り扱う社内体制の整備や, 社外に税務申告等を委託する場合には委託先に対する監督が必要になります。 4 市民にとっての注意点:マイナンバーとなりすましの危険 制度上,マイナンバーを授受する際には,同時に本人確認が必要とされています。 これは,どちらかといえば法人・個人事業主側での事務手続ですが,市民の側から見 ても,一定の注意が必要です。 というのも,マイナンバー自体が特定の個人を特定できる情報ですので,裏を返せ ば,マイナンバーを利用したなりすましの危険がある,ということでもあるからです。 例えば,ある人のマイナンバーが記載される書類は,次の3種類があります。 個人番号カード 通知カード マイナンバーの記載がある住民票 通知カードは,マイナンバーを有する個人全員に交付されるもので,顔写真は表示 されません。 個人番号カードは,本人から申請をした場合に交付されるもので,顔写真が表示さ れます。 そして,通知カードまたはマイナンバーの記載がある住民票の提示によってマイナ -2- ンバーを提供する場合には,同時に免許証・パスポートなどの本人確認書類の提示も 必要とされます。 これに対して,個人番号カードの提示によってマイナンバーを提供する場合には, 個人番号カードによって本人確認書類の提示も兼ねることになります。 したがって,個人番号カードが盗難されたり無断利用されると,比較的容易になり すましが成立してしまう危険があるわけです。 個人番号カードは申請しなければ発行されませんが,仮に申請をして発行された場 合にも,注意して保管する必要がありそうです。持ち歩く場合は,通知カードと免許 証などを組み合わせる方が安全でしょう。 前記のとおり,将来的には,インターネットを利用して自分のマイナンバーの利用 履歴を調べられるようになる予定ですし,民間のオンライン取引などにも利用が拡大 される可能性がありますので,自分自身のマイナンバーの保管には注意しておくべき です。 (注)本コラムは,個別の事案についての結論を保証するものではありませんので,具 体的な事案について疑問がある場合には必ず専門家にお尋ねください。 〒848-0041 佐賀県伊万里市新天町615-1 弁護士法人いまり法律事務所 弁護士 圷悠樹(佐賀県弁護士会所属)【文責】 -3-
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