分野別研究組織成果報告(2012 年度) 14・15世紀の宗教文学と一般信徒の信仰 :写本文献の伝播と変容に基づく研究 Religious Writings and Lay Devotionalism in Fourteenth- to Fifteenth-CenturyEngland: A Study through Manuscript Texts 田口 まゆみ (TAGUCHI Mayumi) 成果 論文名: ‘The Choice and Arrangement of Texts in MS Pepys 2125, Magdalene College, Cambridge: A Tentative Narrative about its Material History’ 掲 載 書 名 : Simon Horobin and Linne R. Mooney 編 , Literary and Learned: Texts in Transition in the Later Middle Ages, a festschrift dedicated to Toshiyuki Takamiya on his 70th Birthday (York: York Medieval Press, 2014) <2014 年刊行されます> 概要 14世 紀 末 から15世 紀 末 にかけて転 写 された52本 の文 献 を収 録 するケンブリッジ、モード リン・カレッジ図 書 館 、サミュエル・ピープス蔵 書 、写 本 2125は、典 型 的 後 期 中 世 のコンピレ ーション写 本 であるとともに、非 一 般 的なヴァージョンを収 録するという点において特 殊な写 本 でもある。本 稿 では、この写 本 が1世 紀 以 上 に渡 って変 容 を続 けた過 程 を詳 細 に検 証 し、写 本 の制 作 者 、所 有 者 、使 用 された場 所 、使 用 目 的 などを考 察 することにより当 時 の信 仰 形 態 の特徴の変化について仮説を立てた。 まず、本写本の歴史が5人の写字者 A~E による次の5段階を経ていることについて詳細に 述べた。(1)写字者 C、folios 40-145、紙製、14世紀末~15世紀前半、おそらく男性隠修士 の個 人 的 使 用 目 的 のために集 められた、悔 悛 、救 済 、黙 想 、マリア・キリスト崇 拝 および信 仰 生 活 に関 する基 本 的 文 献 と贖 罪 付 き祈 りなど多 数 の文 献 から成 る。使 用 者 が自 ら写 本 した 可能性もある。(2)写字者 A、folios 1-38、羊皮紙製、15世紀前半、男子修道院で制作され、 使用されたと思われる。本来 他の写 本の一部であったものを、2本の長いテキストから成るこの 部分のみ、上記(1)の紙製写本の上に乗せる形で製本されている。(3)写字者 B、folio 39、 紙 製 、15世 紀 半 、写 本 (1)の第 1番 のテキストの第 1葉 目 を修 復 したものである。(4)写 字 者 D、folios 143-45 の白紙部分に書き加えられている。15世紀末。「キリストの受難に際する聖 母 の4つの嘆 願 」(フランス語 からの翻 訳 )。(5)写 字 者 E、遊 紙 (flyleaf)への加 筆 。15世 紀 末。 上 記 (1)が写 本 主 要 部 分 であり、(2)~(5)の部 分 が後 に追 加 された。これらの文 献 が付 け加 えられた理 由 について考 察 し、また欠 損 している部 分 については、先 行 文 献 と関 連 付 け ながら、異 端 的 内 容 を含 んでいたことが削 除 の理 由 であるかどうかについて検 証 した。方 法 と しては、収 録 文献の内 容を詳 細に調べ、これまで誤って伝えられてきた意見を訂 正し、明 らか に さ れ て い な か っ た 内 容 を 補 足 し つ つ 、 文 献 の 内 容 面 か ら 考 察 す る と と も に 、 material philology、つまり写 本 の材 料 や製 本 の仕 方 、テキストの選 択 や並 べ方 などもテキスト解 釈 に 組み込 んでいく、近 年 の文 献 学の手 法を導 入 し、写 本(1)が現 在の状 態へと形を変 えていっ た過 程 や背 景 、変 化 に伴 う役 割 の変 化 について述 べ、後 期 中 世 の信 仰 書 録 の多 様 性 と、マ リア信 仰 、キリスト崇 拝 を軸 とする黙 想 による信 仰 形 態 が男 子 修 道 者 の間 においても継 続 的 に主流であったことを論じた。
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