乳腺超音波の世界を広げる画像処理技術

Ⅱ 先進技術が可能にする超音波診断
1.画 質
乳腺超音波の世界を広げる画像処理技術
求められる B モード画質と“TSO”
“SMI”の
臨床経験
何森亜由美 高松平和病院乳腺外科
近年の超音波画像診断装置の技術進歩
査と経過観察の判別が難しくなる。
「視認性」を求めるべきであると考える
により,乳房超音波では,
「低エコーの腫
「分解能」を上げると点描画のように
(図 1)
。
瘤」を評価するだけではなく,非腫瘤性病
なり,慣れないと病変がわかりにくいよ
変や正常構造も詳細に観察することが可
うに感じる。しかし,乳腺の「乳管-小
能になった。ここでは,最近の画質に関
葉構造-周囲間質」といった繊細な正
する臨床面での私見を述べる。
常構造から逸脱した所見に気づくために
“T i s s u e S p e c i f i c O p t i m i z a t i o n
は,分解能の良い画質でわずかな構造の
(TSO)
”
(東芝メディカルシステムズ社
変化をとらえることが必要となる。さら
製)は,フォーカスを補正して方位分解
「視認性」と「分解能」
「画質」は,
「グレイスケール分解能」
TSO
に,この正常構造からの逸脱した所見を
能を向上させるアプリケーションである
精査対象とするのか,正常のバリエーショ
(図 2)
。乳房は脂肪の多い臓器であるた
「方位分解能」
「時間分解能」の 3 要素
ンや経過観察でよいとするのかの判断は,
め,音速の違いによる画像のにじみが生
を向上させつつ,良好な「視認性」を得
内部構造の構築を詳細に見る必要があ
じるが,それを演算処理により補正して,
ることが重要である。
「視認性」と「分
る 1)。
シャープに表現することができる。
解能」は相反する関係にあり,適切なバ
したがって,乳 腺 超音波に必要な
ランスの設定が難しい。
「視認性」を上
B モード画質は,正常構造を素直に表
1.脂肪性乳房
げると病変の境界部は明瞭となるが,内
現し,内部構造の構築を評価できる高
脂肪の多い部位では,乳腺組織の多
部構造は塗りつぶしたようになり,要精
い「分解能」を前提とした上で,程よい
い乳房の中心に比べて音速は遅くなるた
生体特性(音速など)に
より,フォーカスが甘く
なってしまう場合がある。
b
実際の beam
想定 beam
補正がない場合
a
c
beam 演算(遅延時間)を
補正することで,より細
かく絞れる。
補正後の
beam
TSO 調整後
図 2 TSO の仕組み
図 1 「視認性」と「分解能」の関係(乳腺症)
aは,
「分解能」の良い画質。内部構造が均質であることがわかる。bとc のよ
うに「視認性」を上げる画像処理を強くかけすぎると,内部に高エコーと低
エコーが出現する。
42 INNERVISION (31・3) 2016
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