必要不可欠なレアメタル

第 1 章 必要不可欠なレアメタル
第
1章
必要不可欠なレアメタル
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1 レアメタルとは
現在は「レアメタル」という言葉が市民権を得て、あまりこれまで金
属材料に関わらなかった一般の人にまで浸透している。ただ、レアメタ
ルの定義は広範で都合が良い分、人によってはあいまいであり、具体的
な対策を検討する場合には優先順位などを明確に認識しにくい場合があ
る。
レアメタルの捉え方は立場に寄って大きく変わる。資源エネルギー庁
で所管の総合資源エネルギー調査会鉱業分科会レアメタル部会では、以
前備蓄を行っていたニッケル(Ni)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、マ
ンガン(Mn)
、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、バナジウム
(V)
、インジウム(In)、ガリウム(Ga)の 7 鉱種と追加 2 鉱種に、白金
(Pt)
、レアアースなどを加えて 31 鉱種をレアメタルとしている。日本
のレアメタルを周期表に記載したものを図 1-1 に示す。ただ、従来の備
蓄 7 鉱種は、鉄鋼の添加元素としての必要量が大きく、一般のレアメタ
ルのイメージとは異なる。多くの人々のレアメタルに対するイメージ
は、元素としての発見が新しくかつ資源量が少なく、そのためにコスト
が高く生産量が少ないということであろう。後ほど詳細に示すが、一般
に使用例としては磁石に使用されるネオジム(Nd)、ジスプロシウム
(Dy)などの希土類金属がすぐにイメージされる。ただ、この 31 鉱種
の指定は、日本独自の対応であり、学術的にはほとんど意味を持ってい
ない。したがって、国際学会において英語で“Rare Metal”といっても
通用しないのは当たり前である。
EU では主に“Minor Metals”が普通であった。日本が火をつけた感
があるこの分野では、“Critical Metals(1) ,“Critical Materials(2)”など
の言い方で欧米でも注目されている。元々アメリカは資源セキュリティ
には厳しい国であり、日本より古く“Critical Minerals(3)”の提案を
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(レアアースは17元素で1鉱種)
Ⅰ A Ⅱ A Ⅲ B Ⅳ B Ⅴ B Ⅵ B Ⅶ B
Ⅷ
Ⅰ B Ⅱ B Ⅲ A Ⅳ A Ⅴ A Ⅵ A Ⅶ A
O
7
6
5
4
3
2
1
4 Be
20 Ca
21 Sc
24 Cr
鉄
25 Mn 26 Fe
マンガン
27 Co
28 Ni
コバルト ニッケル
銅
29 Cu
亜鉛
30 Zn
ガリウム
31 Ga
アルミ
ニウム
ゲルマ
ニウム
32 Ge
ケイ素
13 Al 14 Si
炭素
ヒ素
33 As
リン
セレン
34 Se
イオウ
酸素
臭素
35 Br
塩素
36 Kr
クリプトン
アルゴン
フッ素 ネオン
15 P 16 S 17 Cl 18 Ar
窒素
5 B 6 C 7 N 8 O 9 F 10 Ne
ホウ素
ヘリウム
ジルコ
ニウム
ランタ ハフニウム タンタル タングス レニウム オスミウム イリジウム
ノイド
テン
フラン
シウム
アクチ
ノイド
白金
金
水銀
タリウム
カドミウム インジウム
鉛
85 At 86 Rn
ヨウ素 キセノン
ビスマス ポロニウム アスタチン ラドン
アンチモン テルル
82 Pb 83 Bi 84 Po
スズ
図 1-1 レアメタル部会指定のレアメタル 31 種(総合資源エネルギー調査会鉱業分科会のまとめ)
ラジウム
87 Fr 88 Ra 89~103
セシウム バリウム
銀
78 Pt 79 Au 80 Hg 81 Tl
ニオブ モリブデン テクネ ルテニウム ロジウム パラジウム
チウム
55 Cs 56 Ba 57~71 72 Hf 73 Ta 74 W 75 Re 76 Os 77 Ir
ルビジウム ストロン イットリ
チウム
ウム
37 Rb 38 Sr 39 Y 40 Zr 41 Nb 42 Mo 43 Tc 44 Ru 45 Rh 46 Pd 47 Ag 48 Cd 49 In 50 Sn 51 Sb 52 Te 53 I 54 Xe
23 V
チタン バナジウム クロム
22 Ti
レアアース(RE)
カリウム カルシウム スカンジ
ウム
19 K
ナトリウム マグネ
シウム
11 Na 12 Mg
リチウム ベリリウム
3 Li
水素
アル
アルミ
アル
チタン バナジ クロム マンガ 鉄 族( 4周期)
ハロ 不活性
カリ 希土族
銅 族 亜鉛族 ニウム 炭素族 窒素族 酸素族
族 ウム族 族
ン族 白金族(5・6周期)
ゲン族 ガス族
カリ族
土族
周期 族
1 H
2 He
族
レアメタル31鉱種
元素の周期表
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レアメタルを直接的・間接的に使用
する産業部門の生産額
100兆円
材料
レアメタルを含む
2次製品部門の生産額
42兆円
素材
レアメタル素材
の生産額
17兆円
図 1-2 クリティカルメタルの影響を示すツリー
(金属鉱物、フェロアロイ、銅、鉛・亜鉛、アルミニウム、その他の非鉄金属地金)
行っていた。いずれにせよ、欧米では資源セキュリティの感覚が強い。
その点を見落としては、レアメタルの代替材料開発、リサイクルも最終
目的を失うことになる。
特にレアメタルを使用した機能性材料、その材料を使用した高度な工
業製品の生産は国の基幹産業になる場合が多く、産業的には重要な意味
を持つ。NEDO がレアメタル調査した最近の結果をもとに、日本のレ
アメタル素材―材料―最終製品の売り上げの総計をツリー状に並べたも
のを図 1-2 に示す。これから、素材だけではたかだか 17 兆円、材料でも
42 兆円であるが、最終製品に関わる産業の総売上は 100 兆円にも達して
いた。当然であるが、素材→材料→最終製品と高度になるほど出荷価格
は大きくなり、特に部材と最終製品の間で大きな飛躍がある。そこに大
きな付加価値のあることがわかる。いかに日本がレアメタルを含む金属
素材の恩恵を受けているかが理解できる。この小さな経済分野が大きな
経済活動を行っている分野に直接、間接的に関わっていることが「レア
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メタルショック」を生んだともいえる。
例として挙げれば、希土類元素のネオジムとジスプロシウムは現在実
用レベルでもっとも強力な永久磁石である Nd-Fe-B 系磁石の原材料であ
り、そのほぼ 100%を中国からの輸入に依存している。その後、輸入さ
れたそれら原材料を用いて国内で Nd-Fe-B 系磁石が製造され、省エネ家
電製品やハイブリッド車にモーターとして使用されている。地球環境問
題を考えるとこれからも大きく需要が伸びる製品と予想され、産業上非
常に重要な位置づけとなる。要は、クリティカルメタルそのものの産業
としての規模は大きくないが、それが関わる製品の裾野が広く、どちら
かというと日本の基幹産業の製品に使用され、その結果産業構造上欠か
すことができない原材料といえる。特にレアメタルは「産業のビタミ
ン」とも称せられるが、供給が止まると製造業を中心とした産業活動が
麻痺する可能性が高い。
ここで、再確認しておきたいが、レアメタルは必ずしも資源量が少な
いわけではない。表 1-1 に地殻中の元素の存在量を示す(4)。もちろん正
確な値ではないが、概ね順位は変わらないといえる。この表から見ると
セリウム(Ce)
、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)
などの軽希土類元素は、 従来、「ベースメタル」 と呼ばれている銅
(Cu)
、亜鉛(Zn)とほぼ同じレベルであり、鉛(Pb)より大きな値を
持っている。この事実から見てもレアメタルは必ずしも本質的な資源量
と結びついてないことがわかる。それでは、一体どんな金属をレアメタ
ルと呼んでいるのであろうか。主に 表 1-2 のようにグループ分けでき
る。
この中である意味やっかいなのが、⑤であり、本当に重要なのは①と
考えられる。このような分類を考えると、日本でレアメタル指定はされ
ていないが、金、銀の貴金属やスズ(Sn)などもレアメタルに入れて
もおかしくない。これらの金属は、貴金属を除くと市場規模が小さいの
で世界経済の中で投機の対象となりやすく、その素材、材料が持つ本質
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レアメタルの供給問題のボトルネック
レアメタルの生産と供給に関するボトルネックについて考えるにあ
たって、考慮しなければならない主な項目は以下の 3 点である。
①資源供給制約(Resource Supply Restriction)
②技術制約(Technological Restriction)
③環境制約(Environmental Restriction)
上記の①②③の制約は、それぞれ独立して存在するのではなく、レア
メタルの生産を商業化するにあたっては、互いに密接に関連している。
要するに、上記①②③の制約すべてを解決することが不可欠である。
しかし、最近の海底レアアース泥の報道の事例からもわかるように、
日本では①の資源供給制約のみでレアメタルのボトルネックを議論する
事例が多い。ボリビアのウユニ湖からのリチウム(Li)の採取・製錬の
可能性も、②の技術制約や③の環境制約を無視して、①のみが報道され
ている典型的な事例の一つである。
技術が進歩すれば、深い深度の地底の資源を利用できるようになり、
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