フランス - 海外電力調査会

フランス
1. エネルギー政策動向
フランスは他の欧米諸国と同様、第一次石油危機を契機として輸入石油への依存を軽減
させるために、国内資源の開発、省エネルギーの促進、供給源の多角化の三つを柱とする
エネルギー政策を実施してきた。特に原子力の開発に一貫した努力が傾注され、1980 年代
以降、原子力発電の増加とともにエネルギー自給率は著しく改善され、現在では 50%以上
にも達している。
一方、1990 年代以降は温室効果ガス削減が大きなテーマとなっており、フランスは 1997
年の京都議定書で定められた温室効果ガス(GHG)排出削減目標、1990 年比で 2008 年
~2012 年に 0%(1990 年レベル維持)の達成が義務付けられた。
「エネルギー政策指針法」
:原子力維持、再エネ開発、省エネ推進を規定
この気候変動問題への対応、および原子力開発継続の確認する必要から、2003 年には国
民の意見を聴取するため「エネルギーに関する国民討論」が開催され、2005 年にはこの結
果を踏まえて「エネルギー政策指針法」が制定された。
同法では、2050 年までに GHG を 75%削減する長期目標達成のため、①省エネ:最終
エネルギー消費の原単位を 2015 年まで毎年 2%削減、2030 年まで毎年 2.5%削減、②再
生可能エネルギー(再エネ)開発:エネルギー、発電での再エネ比率を 2010 年までにそ
れぞれ 10%、21%にまで引き上げ、③2020 年に向けた原子力発電オプションを維持する、
などが規定された。
「環境グルネル法」
:省エネ、再エネ開発の具体策を規定
続いて 2007 年には「環境グルネル会議」が開催され、政府は「原子力なしの気候変動
問題への挑戦は幻想」として原子力は不可欠と強調しつつも、EU のエネルギー政策を踏
まえ、フランスも再エネ開発に注力する方針を示した。この「環境グルネル会議」を受け
て具体的な目標を盛り込んだ「環境グルネル実施計画法(グルネルⅠ法)
」が 2009 年に、
また「グルネルⅠ法」で示された目標を具体的な施策として盛り込んだ「環境に対する国
内取組法(グルネルⅡ法)
」が 2010 年に制定され、省エネ、再エネ開発の推進にドライブ
が駆けられた。
「エネルギー移行法」
:2015 年 8 月に制定
福島事故後の 2012 年に政権に就いたオランド・社会党政権は、エネルギー政策として
「エネルギー移行」を掲げ、前政権からの再エネ開発、省エネ推進に加えて、電源多様化
の観点から原子力発電比率の低減、最も古いフェッセンハイム原子力発電所の閉鎖などを
打ち出した。同政権は、これらの政策を法制化するに先立ち、国民の意見を広く聴取する
ため、2012 年 11 月~2013 年 7 月まで「全国討論会」を開催し、同 7 月には同討論会の
結果を総括した報告書が発表された。
この報告を受けて、2014 年 8 月に「エネルギー移行法案」が政府によって策定され、
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2015 年 8 月に「エネルギー移行法」が制定された。同法は、社会党のオランド大統領が
2012 年の大統領選で公約に掲げた、再エネの導入拡大、省エネの推進、原子力発電比率の
低減(現行の 75%から 2025 年に 50%へ)および国内最古のフェッセンハイム原子力発電
所の閉鎖などを柱とする
「エネルギー移行」政策に沿って大部分を法制化したものである。
同法では、主に以下の数値目標が定められた。
・GHG 排出量を 2030 年までに 40%、2050 年までに 75%削減(対 1990 年)
・最終エネルギー消費量を 2030 年までに 20%、2050 年までに 50%削減(対 2012 年)
・化石燃料の消費量を 2030 年までに 30%削減(対 2012 年)
・最終エネルギー消費量に占める再エネ比率を 2020 年に 23%、2030 年に 32%(発電量
ベースは 40%)へ
・原子力発電比率(発電量ベース)を 2025 年までに 50%へ
また、原子力発電比率の低減に当たり、原子力発電設備量の導入上限値を現行水準の
6,320 万 kW とすることも盛り込まれた。
2. 地球温暖化防止政策動向
温室効果ガス削減目標:2020 年までに 20%、2050 年までに 75%削減
前述のように、フランスは京都議定書に基づき 2008 年~2012 年における温室効果ガス
(GHG)
の排出量を 1990 年比で 0%に抑制することが求められているが、
2012 年は 11.4%
減となり約束期間を通じて目標を達成した。
今後の削減については、長期目標として 2005 年の「エネルギー政策指針法」で 2050
年までに GHG を 75%削減、また中期目標として、2009 年の「環境グルネル実施計画法」
で 2020 年に GHG を 1990 年比で 20%削減とされ、さらに、2015 年の「エネルギー移行
法」では、2030 年に 1990 年比で 40%削減、2050 年までに 75%削減との数字が掲げられ
ている。これらの目標値は EU 全体の目標値と平仄を合わせたものである。
また、フランスは欧州大で導入されている「EU 排出量取引制度(EU-ETS)」の下で発
電など特定の産業部門(EU-ETS 部門)における GHG 排出量の削減に取り組んでいる。
3. 再生可能エネルギー導入政策・動向
再エネ導入目標:2020 年までに最終エネルギー消費量の 23%に引き上げ
前述のように、フランスは近年、発電では原子力に加えて再エネ開発にも積極的に取り
組んでいる。2014 年現在、水力 2,542 万 kW のほか、その他の再エネ電源は風力 926 万
kW、太陽光 530 万 kW、その他 158 万 kW を含めて合計 1,614 万 kW に達している。再
エネと水力と合わせると 4,155 万 kW となる。
今後の再エネ開発目標は、2009 年「EU 再エネ利用促進指令」で 2020 年までに最終エ
ネルギー消費量の 23%を再エネで賄うことがフランスに義務付け(2005 年の再エネ比率
は 10.3%)られ、これを受けて制定された 2009 年「環境グルネル実施計画法」でも、
「2020
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年には最終エネルギー消費量の最低 23%を再エネで賄うために、再エネ生産量を現行の
2,000 万トン(石油換算)から 2020 年に 3,700 万トン(石油換算)に引き上げる」との規
定が盛り込まれた。また、発電では 2020 年までに再エネ比率を 27%まで引き上げること
が計画されている。さらに、2015 年の「エネルギー移行法」では、2030 年にはエネルギ
ーで 32%、発電で 40%に引き上げることが謳われている。
固定価格買取制度を導入
フランスでは再エネ電源の開発支援策として、固定価格買取制度(FIT)および電源入
札制度が採用されている。FIT は、太陽光、風力、小水力、バイオマス等の再エネ電源に
幅広く適用されている。
一方で、電源入札制度も併用されており、政府が策定する「多年度発電設備投資計画」
で計画されている電源別の発電容量が目標値に達していない場合に、政府が主体となって
入札を実施している。入札で落札された発電事業者は、フランス電力会社(EDF)に落札
条件に基づき発電電力を売却する。2005 年以降、政府はバイオマス、洋上風力、陸上風力
や洋上風力の電源に対して入札制度を実施している。
4. 原子力開発動向
フランスの原子力政策の背景・特徴
フランスは日本同様、1970 年代の石油危機を契機として原子力発電の大規模開発にまい
進した。その結果、2014 年現在、58 基 6,313 万 kW の原子力発電設備を運転しており、
発電電力量の 77%を占めるに至っている。
このように、大規模な原子力開発が行われた背景には、自国に化石燃料などのエネルギ
ー資源が乏しかったことに加え、フランスの地政学的な状況として、当時は、豊富に石油・
天然ガスなどを産出する北海油田に権益を有する英国と、石炭資源の豊富なドイツに囲ま
れた環境下での欧州における主導権争いの中で、基軸となるエネルギー源の確保を目的と
して原子力発電を導入したという事情がある。また、政治的な側面では、ブルボン朝以来
の強力な中央集権体制に加え、強大な大統領権限などから迅速な政策の実行が可能であっ
たことが挙げられる。経済政策面では、当時の政府が計画経済手法を取り入れ、エネルギ
ー産業など国家関与の強い分野については「エネルギー計画」を策定し、長期的な観点か
らの政策決定・実行が可能であったことも理由の一つと考えられる。原子力に対する世論
の面では、フランスは第二次世界大戦前から原子力の研究・開発の歴史を有し、大戦後は
自前の核を保有するという国防の観点から米国、旧ソ連に次いで原子力開発を行ってきた
という経緯がある。
欧州加圧水炉(EPR)の建設
フランスでは、1986 年のチェルノブイリ事故による原子力開発への影響はなく、逆に順
調な開発によって、原子力発電が国内供給分を上回って発電される事態となった。そのた
め、余剰発電分は輸出に回されるとともに、新規建設は 1991 年以来途絶えることとなっ
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た。しかし、2005 年には将来電源の中心として原子力開発を継続することが決定し、次世
代炉として EPR1基が建設されることになった。サイトは既設炉のあるフラマンビルで、
現在その 3 号機として建設が進められており、2018 年末に運転開始の予定である。
前述の「エネルギー移行法」では、原子力は発電量比率(kWh)で 2025 年には現在の 75%
を 50%にまで引き下げるとされている。しかし、設備容量(kW)では現在の 6,320 万 kW
を維持すると規定されており、閉鎖する炉があれば、その分の新規建設が可能である。
5. 電源開発状況
電源は原子力が中心
前述のように、フランスは石油危機以降、原子力中心の電源開発を行ってきているが、
近年は再エネ電源の開発も活発化している。
2014 年末の総発電設備容量は 1 億 2,842 万 kW であり、
その内訳は、
水力 2,542 万 kW、
火力 2,374 万 kW(石炭 451 万 kW、石油 889 万 kW、ガス 1,034 万 kW)、原子力 6,313
万 kW、風力 926 万 kW、太陽光 530 万 kW、その他再エネ 158 万 kW となっている。
2014 年末の原子力発電設備は 58 基あり、その内訳は PWR90 万 kW 級 34 基、
PWR130
万 kW 級 20 基、N4 シリーズの PWR150 万 kW 級 4 基となっている。なお、フランスで
は電力需要の落ち込む夏季を中心に、原子力発電所の出力調整運転を行っている。出力調
整運転は当初、90 万 kW 級で行われてきたが、1988 年からは 130 万 kW 級、1995 年か
らは 90 万 kW 級 MOX 装荷炉でも行われている。
6. 電気事業体制
EDF の株式会社化、部分民営化
従来、フランスの電気事業は、1946 年「電力・ガス事業国有化法」により設立された国
有企業 EDF(旧フランス電力公社、現フランス電力会社)が発送配一貫体制の下、全国的
に電力供給を行ってきた。しかし、1990 年代に入り EU 大で電力市場自由化が始まり、
フランスでも電力自由化が行われることとなった。この自由化に伴い、EDF は欧州各国へ
の進出を図ったが、国有企業であることが障害となるケースも出てきた。そのため、2004
年に「EDF・GDF 株式会社化法」により EDF は株式会社化され、一部の株式(約 15%)
が一般公開された。
送配電は法的分離
また、2004 年「EDF・GDF 株式会社化法」で送電系統運用部門、ガス輸送導管運用部
門の法的分離(子会社化)が規定されたことを受けて、EDF は 2005 年、送電部門を分離
し子会社(RTE)とした。
また配電部門は、2006 年「エネルギー部門法」により法的分離が規定されたことを受け
て、2008 年に「eRDF」を 100%子会社として分離した。なお、フランスには EDF 以外
に配電事業を行っている地方配電事業者(配電部門)が 160 社程度存在しており、配電電
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力量のシェアは EDF が約 95%、地方配電事業者が約 5%となっている。
発電・小売部門:依然として EDF が圧倒的なシェア
発電事業者には EDF のほか、CNR(仏 GDF スエズ社系)
、SNET(ドイツ E.ON 社系)
などが存在するが、依然として EDF が国内発電電力量の約 80%を占めている。
EDF は 2014 年末時点で国内発電設備 9,677 万 kW(水力 1,995 万 kW、火力 1,370 万
kW、原子力 6,313 万 kW)を所有し、2014 年の EDF の国内発電電力量は 4,604 億 kWh
(水力 375 億 kWh、火力 69 億 kWh、原子力 4,159 億 kWh)となっている。
また、小売供給事業については、自由化以前は、EDF および地方配電事業者がその管轄
地域内において独占的に需要家に対して電力供給を行っていた。しかし、2000 年の「電力
自由化法」により小売電力市場が段階的に自由化されたことから、EDF など既存事業者を
離脱して新規参入者から電力供給を受ける需要家が増加した。2013 年末時点の新規参入者
による販売シェアは、産業用・業務用需要家向けで 21.5%、家庭用需要家向けで 7.4%と
なっている。なお、フランスで小売供給事業を行う事業者は EDF や地方配電事業者(小
売供給部門)等の既存事業者が約 160 社と新規参入者が約 20 社存在する。
7. 電力自由化動向
自由化は段階的に実施
フランスでは「電力自由化法」が 2000 年 2 月に制定されたものの、
「EU 電力自由化」
指令では 1999 年 2 月から小売電力市場の自由化が規定されていたため、実質的には 1999
年 2 月からフランスでも自由化が開始された。
自由化は段階的に実施され、市場開放率は 1999 年 2 月以降約 20%(年間消費電力量 1
億 kWh 以上の需要家約 200 軒が自由化対象)
、2000 年 5 月以降約 30%(1,600 万 kWh
以上の需要家約 1,600 軒が自由化対象)
、2003 年 2 月以降約 37%(700 万 kWh 以上の需
要家約 3,300 軒が自由化対象)と拡大された。2004 年 7 月以降は、家庭用需要家を除く
産業用・業務用需要家が自由化され、2007 年 7 月以降は全面自由化が実施された。
小売電気料金の水準は微増するも安定的
フランスの小売電気料金は、産業用、家庭用とも 1990 年代中頃から低下した後、2000
年頃から横ばいの状態となっている。ただし、2002 年以降、「電力公共サービス拠出制度
(CSPE)
」の課徴金が増加傾向にあることから、小売電気料金(税込み)は若干上昇する
傾向にある。
しかし、フランスでは原子力発電比率が高いことから、他の欧州諸国と比較して 2000
年代前半以降の燃料費高騰の影響を受けてはいない。欧州委員会統計局(Eurostat)のデ
ータによると、2015 年上半期におけるフランスの家庭用電気料金は税込みで 16.24 ユー
ロ・セント/kWh、また産業用電気料金(年間消費電力量 2,400 万 kWh)は税込みで 9.22
ユーロ・セント/kWh と、EU で最も安い部類に入る。
大口需要家への規制料金の廃止、EDF による原子力発電を部分開放
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フランスでは全面自由化がすでに実施されているものの、供給先変更など自由化の権利
を行使していない需要家については、政府が認可する「規制料金」が適用されている。一
方で自由化の権利を行使した需要家(新規参入者に変更した需要家、既存事業者と交渉に
より再契約した需要家)は、卸電力市場価格の変動等が反映された「市場料金」が適用さ
れている。しかし、近年において「市場料金」よりも「規制料金」が割安であるため、EDF
から新規参入者に乗り換える需要家は限定的な状況が続いている。欧州委員会は、大口需
要家に対する規制料金によって小売市場での競争が歪められているとして、再三フランス
政府に規制料金の廃止を求めてきた。
これを受けて、2009 年、フランス政府は大口需要家への規制料金を 2016 年以降に廃止
(家庭用は継続)するとともに、新規参入事業者に EDF の原子力発電電力量の一部を売
却する新しい卸電力制度を開始した。2010 年の「電力市場新組織法」では、2025 年まで
年間 1,000 億 kWh(EDF 発電電力量の 25%に相当)を上限として EDF の原子力発電電
力量を発電原価に基づく価格で小売供給事業者
(フランス国内の需要家への供給分に限定)
に卸販売することが規定された。なお、2011 年 7 月から適用される原子力発電電力の売却
価格については 4.0 ユーロ・セント/kWh、2011 年 1 月以降については 4.2 ユーロ・セン
ト/kWh となっている。
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電力供給体制
(発電)
(卸売)
EDF、新規参入者(GDF スエズ、SNET)等
相対取引(内部取引含める)
取引所取引(EPEX)
(送電)
送電網:RTE(EDF 子会社)
(配電)
配電網:eRDF(EDF 子会社)
、地方配電事業者
(小売)
EDF、国内外の小売供給事業者
需要家
海外電力調査会作成
(2016 年 1 月更新)
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