CDP 2016 ワークショップ 基調講演 平成28年2月25日 環境省 水・大気環境局長 高橋 康夫 0 水リスクを巡る国内外の企業の動き 水に関する危機意識は世界的に年々上昇傾向 例) 世界経済フォーラムによる「グローバルリスクレポート2015」(平成27 年1月)では、最も影響が大きいと思われるリスクとして「感染症」や 「地域間紛争」を押さえて「水リスク」が1位。 世界的機関投資家の水リスクへの関心 欧米を中心に、企業の事業活動の継続性や持続的成長の視点に、水資源の利用状況等を重視。 下請けや子会社(サプライチェーン)、仕入れから流通まで(バリューチェーン)を含めた「水リスク」の評価や 情報開示を求める動きが活発。 「水リスク」に関する情報開示と、日本企業の取組促進 英国のNGO「CDP」が、世界の主要企業に対し、水リスクの認識やパフォーマンスに関する質問書を送付。 回答結果は全世界へ公表され、世界の機関投資家の投資判断などに活用。 ※日本企業に対しては、2014年より、150社を対象に質問書が送付。 (2014年度回答率は43%(65社)) 今後国内企業でも、事業活動における取水量、水の消費量、排水などに関する データの把握と、自社や下請け(サプライヤー)を含めた「水リスク」への対応が求められる。 1 世界の水問題 • 世界では渇水、洪水、水環境の悪化に加え、これらに伴う食料不足、 貧困の悪循環及び病気の発生等が問題となっている地域が存在 • 人口増加や経済成長などの要因がそれらの問題が深刻化 (%) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 安全な飲料水を継続的に利用できない人々の全人口に対する割合 50 44 52 1990 32 28 13 7 13 11 30 27 10 2015 7 15 5 15 5 15 5 24 11 9 注:The Millennium Development Goals Report 2015, United Nations を元に国土交通省水資源部作成 ○依然として世界全体で約6.6億人の人々が安全な飲料水を継続的に利用できない状態 ミレニアム開発目標(MDGs)では、水に関する具体的なターゲットとして「2015年(平成27年)までに、安全な飲 料水及び基礎的な衛生施設を継続的に利用できない人々の割合を半減する」とされており、この目標は達成。 世界の水問題が日本企業に与える影響 • 海外の生産拠点における問題 日本企業の生産拠点が海外にある場合、水需要の増加が見込まれ る地域においては水リスクが高まる。 • サプライチェーンでの問題 日本企業の多くは、原材料や部品を海外のサプライヤーに依存してい る。水不足が深刻となっている国から原材料等を輸入する企業は水リス クが高まる。このほか、洪水による水リスクも存在。 ※例えば、125mLのコーヒー1杯をつくるのに必要な水は約132Lとの計算もあり、 コーヒー豆の栽培や輸送など、消費者の手元に届くまでに多くの水が消費される。 水リスクを回避するため、世界の企業においては、 ・自社における資源調達、生産、消費の過程で使用する水利用状況 の把握 ・原材料生産に係る水量の減少、生産拠点の変更 などの対応事例がある。 日本の水資源の現状 –世界と比較した水資源量・ 日本の年間降水量は約1,700mmと世界平均の約2倍。 ・ 1人当たり年降水総量は、日本では約5,000m3/人・年となり、世界の約15,000m3/人・年 の3分の1程度 3,000 降水量(mm/年) 2,000 世界 813mm/年 日本1,668mm/年 1,000 0 0 世界 カナダ ニュージーランド オーストラリア マレーシア スウェーデン アメリカ合衆国 ルーマニア オーストリア インドネシア タイ フィリピン スイス フランス 日本 スペイン イギリス 中国 イラン インド エジプト サウジアラビア 一人当たり年降水総量・水資源量(千m3/人・年) 10 20 30 40 世界 15.2 日本 4.9 50 60 70 80 90 100 千m3/人・年 152 103 177 千m3/人・年 1人当たり年降水総量 1人当たり水資源量 世界各国の降水量及び水資源量等の比較 1. FAO(国連食糧農業機関)「AQUASTAT」2015年7月時点の公表データをもとに国土交通省水資源部作成 2. 「世界」の値は「AQUASTAT」に「水資源量[Total renewable resources(actual)]」が掲載されている181カ国による 日本の降雨および河川の特徴 ・ 降水量は地域的、季節的に偏っており、水資源を安定的に利用する面からは容 易ではない条件 ・ 地形が急峻であることから、降った雨は一気に流れるなど、流量の変動が大きい といった特性 河川の勾配 日本の年間降水量 東京 mm 350 常願寺川 ℃ 富士川 35.0 300 吉野川 信濃川 最上川 利根川 木曽川 コロラド川 30.0 1000 250 台風 25.0 メコン川 200 梅雨 20.0 150 15.0 100 10.0 合計:1529mm 50 5.0 0 0.0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 (note) 月 Prepared by the MLIT’s Water Resources Department, based on materials by the Japan Meteorological Agency. The precipitation is the average from 1981 to 2010 . 気温 降水量 800 ナイル川 デュランス川 標 高 600 ミシシッピ川 (m) アマゾン川 セーヌ川 400 200 200 日本の川 400 600 800 1000 1200 1400 河口からの距離 (km) 資料:高橋 裕『河川工学』 東京大学出版会 1990 河川の汚染(高度成長期) 昭和36年当時の隅田川は、“川というよ りドブのようだ”、“メタンガスの泡がポコ ポコと音をたてて浮かび上かっていた” という状況となった。 (出典:(財)日本ダム協会HP) 45年頃の多摩川は、水面に洗剤の泡が 浮かび、あたりに異臭を放つなど河川環 境は最悪の状態となった 。 水質の改善に向けた取り組み 高度成長期に全国各地で水質汚濁が深刻化 水質の改善に向けた取り組み ○公共用水域の水質の保全に関する法律(昭和33年) ○工業排水等の規制に関する法律(昭和33年) ○水質汚濁防止法(昭和45年) ○汚濁の著しい河川、湖沼における水質の浄化 ○下水道の整備等、汚水処理の普及促進 水質浄化のさまざまな取り組みにより、河川の水質が改善 水循環基本法の制定 ○都市への人口集中、産業構造の変化、地球温暖化に伴 う気候変動等の要因により水循環が変化 ○渇水、洪水、水質汚濁、生態系への様々な問題 ○健全な水循環を維持又は回復するための施策を、 総合的かつ一体的に推進することが必要 水循環基本法の制定(平成26年7月1日施行) 水循環基本法について 水循環基本法(平成26年4月2日公布、7月1日施行)のポイント 1.水循環に関する施策を推進するため、水循環政策本部を設置 2.水循環施策の実施にあたり基本理念を明確化 3.国、地方公共団体、事業者、国民といった水循環関係者の責務を明確化 4.水循環基本計画の策定 5.水循環施策推進のための基本的施策を明確化 水循環施策の総合的かつ一体的推進 水循環政策本部-内閣に設置- 健全な水循環の維持又は回復 目 水循環に関する施策を“集中的” かつ“総合的” に 的 推進するため。 経済社会の健全な発展 国民生活の安全向上 第1回水循環政策本部会合(2014年7月18 日) で挨拶する安倍内閣総理大臣 <官邸HPより> 組 織 水循環政策本部長:内閣総理大臣 水循環政策副本部長:内閣官房長官及び 水循環政策担当大臣 水循環政策本部員:すべての国務大臣 事 務 水循環基本計画の案の作成及び実施の推進 関係行政機関が水循環基本計画に基づいて 実施する施策の総合調整 水循環に関する施策で重要なものの 企画及び 立案並びに総合調整 “健全な水循環”とは <水循環> 水が、蒸発、降下、流下 又は浸透により、海域等に 至る過程で、地表水又は 地下水として河川の流域 を中心に循環すること。 <健全な水循環> 人の活動及び環境保全に果たす水の 機能が適切に保たれた状態での水循環。 水循環基本法(5つの基本理念) 水循環の重要性 健全な水循環への配慮 水については、水循環の過程において、地球上の生命 を育み、国民生活及び産業活動に重要な役割を果たし ていることに鑑み、健全な水循環の維持又は回復のた めの取組が積極的に推進されなければならない。 水の利用に当たっては、水循環に及ぼす影響が回 避され又は最小となり、健全な水循環が維持される よう配慮されなければならない。 水循環施策の 取り組みイメージ 流域の総合的管理 水の公共性 水が国民共有の貴重な財産であり、公共性の高いも のであることに鑑み、水については、その適正な利用が 行われるとともに、全ての国民がその恵沢を将来にわ たって享受できることが確保されなければならない。 水の適正利用、有効利用に向けた取組例 ・水利用の合理化 ・用途内及び用途間の水の転用 ・雨水・再生水の利用促進 ・節水 水は、水循環の過程において生じた事象がその後 の過程においても影響を及ぼすものであることに鑑 み、流域に係る水循環について、流域として総合的 かつ一体的に管理されなければならない。 水循環に関する国際協調 健全な水循環の維持又は回復が人類共通の課題 であることに鑑み、水循環に関する取組の推進は、国 際的協調の下に行われなければならない。 水循環基本計画の枠組み 総論 ○ 水循環と我々の関わり ○ 水循環基本計画の位置付け、対象期間と構成 第1部 水循環に関する施策についての基本的な方針 1 2 3 4 5 流域における総合的かつ一体的な管理 健全な水循環の維持又は回復のための取組の積極的な推進 水の適正な利用及び水の恵沢の享受の確保 水の利用における健全な水循環の維持 国際的協調の下での水循環に関する取組の推進 第2部 水循環に関する施策に関し、政府が総合的 かつ計画的に講ずべき施策 1 流域連携の推進等 -流域の総合的かつ一体的な管理の枠組み(1) 流域の範囲 (2) 流域の総合的かつ一体的な管理の考え方 (3) 流域水循環協議会の設置と流域水循環計画の策定 (4) 流域水循環計画 (5) 流域水循環計画の策定プロセスと評価 (6) 流域水循環計画策定・推進のための措置 2 貯留・涵養機能の維持及び向上 (1) 森林 (2) 河川等 (3) 農地 (4) 都市 3 水の適正かつ有効な利用の促進等 (1) 安定した水供給・排水の確保等 (2) 持続可能な地下水の保全と利用の推進 (3) 水インフラの戦略的な維持管理・更新等 4 5 6 7 8 9 (4) 水の効率的な利用と有効利用 (5) 水環境 (6) 水循環と生態系 (7) 水辺空間 (8) 水文化 (9) 水循環と地球温暖化 健全な水循環に関する教育の推進等 (1) 水循環に関する教育の推進 (2) 水循環に関する普及啓発活動の推進 民間団体等の自発的な活動を促進するための措置 水循環施策の策定及び実施に必要な調査の実施 (1) 流域における水循環の現状に関する調査 (2) 気候変動による水循環への影響と適応に関する調査 科学技術の振興 国際的な連携の確保及び国際協力の推進 (1) 国際連携 (2) 国際協力 (3) 水ビジネスの海外展開 水循環に関わる人材の育成 (1) 産学官が連携した人材育成と国際人的交流 第3部 水循環に関する施策を総合的かつ計画的に 推進するために必要な事項 1 水循環に関する施策の効果的な実施 2 関係者の責務及び相互の連携・協力 3 水循環に関して講じた施策の公表 水の適正かつ有効な利用の促進 (環境基準・排水規制等) 環境基準 環境基準の見直し 国民の実感に合った新しい指標の検討 底層溶存酸素(底層DO) 魚介類等の水生生物保全の観点か ら底層溶存酸素量の指標が有効。 沿岸透明度 藻場の生育や親水機能発揮のため に沿岸透明度の指標が有効。 排水規制 排水基準の見直し 工場・事業場からの排水の排 出実態等を的確に把握しつつ、 暫定排水値の検証、見直し排 水処理技術開発の促進 青潮 水質総量削減 人口・産業が集中する広域的な 閉鎖性海域の水質汚濁を防止 青潮により大量斃死したアサリ 水質常時監視 排出水を排出する特定事業所に排水の監視を義務付け。 生活排水対策 ①市民への普及啓発 ②汚水処理施設の整備 ③直接浄化等の対策を推進 13 健全かつ持続可能な水循環に係る官民連携プロジェクト <目 的> 「水循環基本法」に基づき、健全かつ持続可能な水循環を 「JAPAN Water Style」と表し、その維持・回復を図るた め、官民連携プロジェクトを発足させ、「官民連携の機会の 場を創出・提供」していくことで、「民間の主体的・自発的取 組の促進」を図るとともに、民間が主体となった啓発等によ る国民の意識醸成を図る母体となるプロジェクト。 国際的な連携の確保及び国際協力の推進 アジア水環境パートナーシップ(WEPA) 我が国の優れた水処理技術の海外展開支援 東アジア地域13各国の協力のもと、当該地域の水環境ガバ ナンス強化を目指す。 「気候変動と水環境」「生活排水処理」に関するワークショップ 等を通じた情報共有、課題の特定、ベストプラクティスの共有 等により各国における課題解決を図ってきている。 高成長が見込まれる途上国の水ビジネス市場への、 我が国 の優れた水処理技術の海外展開を支援( 「インフラシステム 輸出戦略」(平成25年5月17日)の一環) 水処理技術等の海外展開事業を公募 水環境 改善事業 工場排水処理 モニタリング 中小規模生活排水処理(浄化槽等) 水域直接浄化 実現可能性調査(FS) バンコクWEPAセッション ( H26.11.27 ) パートナー国(13ヵ国) カンボジア、中国、 インドネシア、韓国、ラオス、ミャンマー、タイ、マレーシア、 フィリピン、ベトナム、ネパール、スリランカ、日本 インドネシアの水産加工場におけるコベネフィッ ト型排水処理対策協力 インドネシアの水産加工場における適切な排水・汚濁処理対 策協力とともに、温室効果ガスの排出削減の取り組み ・ ジュン ブラナ 現地実証試験 ビジネスモデル構築へ アジア水環境改善ビジネスセミナー (H27.5.25 於東京、約130名が参加) 国連大学拠出金 (低炭素型水環境改善システム研究事業) アジアの途上国が、人口増加・都市化・低炭素化等を総合的 に考慮した自国内の排水管理・水質保全政策を進めるための 情報整備・政策評価手法の提供。 バリ島 デンパ ・ サール 実証を行う魚粉工場 15 環境情報の開示促進 ●環境報告書作成の取組を支援-環境配慮促進法(2005年施行) ●投資家等に環境情報が活用されるようにするための情報基盤整備を開始(2013年度~) ・財務報告で広く採用されているXBRL*を活用 *eXtensible Business Reporting Language :財務報告の作成・流通・利用が容易となるコンピュータ用語。世界約50カ国で導入が進んでいる。 ・CDPの質問票等を参考に、関係者にとって効率的・効果的なツールを目指す 企業 情報 環境情報等の非 財務情報 情報開示 環境報告書 など ・GHG排出量と 削減状況 ・ガバナンス ・リスク機会 など ・売上 ・営業利益 ・利益率 ・純資産 など 中長期 投資家 整備に着手 企業・金融機関の参 加を得て試行 資金 情報開示 財務情報 投資家等 開示基盤 情報 有価証券 報告書など 開示基盤 日本版スチュワードシップ コードの公表などで、国内 も増加方向へ 有報検索 システム 短期 投資家 (EDINET) 資金 Copyright © 2014 NTT DATA Corporation 16 16 H26.2.26 連合第3回ワーカーズキャピタル 責任投資推進会議 ご清聴ありがとうございました。
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