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日本総研記者勉強会
「米連邦準備制度の正常化戦略と
わが国への示唆」
2016年2月25日
株式会社日本総合研究所
調査部 上席主任研究員
河村 小百合
kawamura.sayuri@jri.co.jp
Copyright (C) 2016 The Japan Research Institute, Limited. All Rights Reserved. [tv1.0]
本リポートは、
JRIレビュー 論文
「米連邦準備制度の正常化戦略と今後の金融政策運営の考え方」
として、近日中に弊社ホームページにアップする予定です。
お問い合わせ先 : 調査部 上席主任研究員 河村 小百合
TEL : 03-6833-1577 E-MAIL : kawamura.sayuri@jri.co.jp
1
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問題意識
• 米連邦準備制度(Fed)は 2015年12月、金融危機後初めてのFFレート引き上げ
誘導を実施
• Fedはこれまで、大規模な資産買い入れ(LSAP)を断続的に実施するなかで、どの
ように先行きの正常化戦略を検討してきたのか
• 現在、それをどのように実行に移し始めているのか
• 先行きのいつ頃に正常化を完了することを見込むのか
• 正常化完了に至るまでの課題や政策運営上の制約とは何か
• Fedをはるかに上回る規模で、LSAPによる政策運営を今なお継続している日本
銀行の金融政策運営は今後いかにあるべきか、また、わが国として、今後いかなる
財政・経済政策運営が求められているのか
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構成
1.Fedが今後の金融政策運営上、直面している課題-問題の所在
2.正常化戦略の内容に関する、Fedの考え方の変化の軌跡
3.Fedが示した正常化プロセスに関する想定と財務運営等の試算結果
4.正常化局面でFedが抱える政策運営上の制約と今後の展望
5.わが国の政策運営への示唆
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1.Fedが今後の金融政策運営上、直面している課題
(1)アメリカ経済の足どりとFedの金融政策運営の足どり
• 金融危機後、米経済は1930年代の大恐慌以来ともいわれる“The Great Recession”
(大不況)に突入
• 政策金利の引き下げ余地がなくなったFedは、大規模な資産買い入れを約6年間実施
(図表1)米Fedの政策金利(FFレート・ターゲット)と米国の雇用・物価指標等の推移
(%)
12.0
QE2
QE1
10.0
テーパリング
(資産買い入れ減額)
リーマン・ショック
QE3
8.0
危機後初のFFレート
引き上げ
6.0
消費者物価
前年比
4.0
失業率
2.0
FFターゲット
0.0
▲ 2.0
米財務省証
券10年物
▲ 4.0
200
4
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
(年/月)
(資料)Datastreamを基に日本総合研究所作成.
(原資料)U.S. Bureau of Labor Statistics, Thomson Reuters.
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(図表2)FedのLSAP(大規模資産買い入れ)プログラムの内容
プログラム
QE1
(量的緩和1)
QE2(量的緩和2)
満期拡張プログラム
(オペレーション・ツイスト)
QE3(量的緩和3)
時期
買い入れ資産
2008/12/5~
GSEエージェンシー債(注)
2010/3/31 MBS
(住宅ローン担保証券)
財務省証券(=米国債)
2010/11/12~
財務省証券
2011/6/30
2011/10/3~
財務省証券(短期債を売却し、
2012/12/30 長期債を買い入れ)
2012/9/14~
MBS
2014/10/31 財務省証券
規模
(10億ドル)
$172
$1,250
$300
$600
+▲ $667
$823
$790
(資料)Stanley Fischer, Conducting Monetary Policy with a Large Balance Sheet , Remarks at
the 2015 U.S. Monetary Policy Forum Sponsored by the University of Chicago Booth School of
Business, February 27, 2015, Table 1を基に日本総合研究所作成。
(注)ファニーメイ、フレディマック等の政府支援企業(GSE)が発行する社債。
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(図表3)Fedのバランス・シートの推移
(兆ドル)
オペレーション・ツイスト
QE3
5
<資産項目>
その他資産
QE2
QE1
外貨建て資産
4
MBS
3
資
産
←
中銀流動性スワップ
Maiden Lane LLCs ネットポートフォリオ保有
ローン
レポ約定
2
財務省証券
1
アウトライト保有証券含み損益合算
MBS
連邦エージェンシー負債証券:全
財務省証券
0
銀行券
▲1
→
負
債 ▲2
金・SDR勘定・コイン合算
<負債項目>
その他負債
預金機関預金
▲3
その他預金(外国当局等)
財務省一般勘定預金
預金機関のその他預金
▲4
預金機関の定期預金
リバース・レポ約定
▲5
2
0
0
6
2
0
0
7
2
0
0
8
2
0
0
9
2
0
1
0
2
0
1
1
2
0
1
2
2
0
1
3
2
0
1
4
2
0
1
5
銀行券ネット地区連銀保有
(年/週)
(資料)Federal Reserve Statistical Release, “Factors Affecting Reserve Balances (H.4.1)”のデータを基に日本総合研究所作成.
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(2)Fedが直面する課題-問題の所在
•
約7年間にわたる、「非伝統的な手段」による金融政策運営の結果、FedのBSは大きく
膨張
•
•
•
中央銀行の膝元にある長短金融市場との関係も大きく変化
市場参加者全てが大幅な資金余剰状態にあり、金融取引は極めて発生しにくい状況
危機前と同様の手段による金融政策運営では、市場金利の誘導は困難
•
それに代わる新たな金融政策運営の手段は見出された(超過準備への付利が主力)も
のの、危機前とは異なり、Fedの金融政策運営に財務運営上のコストが伴うことに
•
そうしたなかで、いかにして金融政策運営を正常化させるか
米国経済の持続的な拡大基調を確保することと、いかに両立させるか
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(図表4)Fedのバランス・シートの大まかな見取り図の比較(2007年末と2015年末)
2007年12月末
総資産
(資産サイド)
短期債
2,419億$
財務省
中長期債
証券
4,710億$
7,546億$
2015年12月末
約8,938億ドル
総資産
(負債サイド)
(資産サイド)
約4兆4,866億ドル
(負債サイド)
発行銀行券
7,918億$
金利ゼロ
発行銀行券
1兆3,808億$
金利ゼロ
インフレ連動債
418億$
レポ約定等 670億$
その他
722億$
リバースレポ約定等 405億$
預金機関預金 114億$
その他負債・資本 500億$
財務省
証券
2兆4,616億$
中長期債
2兆3,466億$
リバースレポ約定等
4,985億$
インフレ連動債
1,149億$
預金機関預金
2兆2,087億$
超過準備
付利引き上げ
MBS
1兆7,475億$
その他証券 2,065億$
その他 710億$
その他負債・資本
3,986億$
(資料)FRB, Federal Reserve statistical release, H.4.1 Factors Affecting Reserve Balances of Depository institutions and Conditions Statement of Federal Reserve Banks, December
27, 2007およびDecember 31,2015の計数を基に日本総合研究所作成。
(注)インフレ連動債の計数にはインフレ変動による元本調整分も含む。
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2.正常化戦略の内容に関する、Fedの考え方の軌跡
(1)2010年2月のバーナンキ(当時)議長の議会証言
• この時点ですでに、現在の「正常化戦略」で実際に採用されている手段を、ほぼ正確
に認識し、米下院金融サービス委において具体的かつ明確に説明
「現下の金融拡張策が成熟すれば、Fedは、インフレ圧力の高まりを回避するため、
金融を引き締めることが必要に」
「Fedは、然るべき時が来れば、金融を引き締めるいくつものツールを有している」
「最も重要なのは、2008年10月に、議会による規程改正により、準備預金への付利
が可能になったこと。これで、全ての短期金利に押し上げ圧力をかけることが可能に」
「多額の超過準備を圧縮(排出)するための追加的なツールも開発中。
リバース・レポやターム預金など」
(2)2011年のFOMC
• 正常化戦略の検討を開始し、6月にその原則(図表5)について合意
• 当時、考えられていた正常化プロセスの手順は、
①再投資停止→②FFレートの引き上げ誘導開始。超過準備排出のオペ開始
→③MBSの売却開始。SOMAの規模・構成正常化までは所要2~3年をめど。
MBSやエージェンシー債の保有は皆無の状態に戻すことが目標
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(図表5)2011年6月のFOMCで合意された、Fedの正常化戦略の原則
○ FOMCは、その規程上のマンデートである最大雇用と物価安定の促進のために、政策正常化のタイミングとペースについて決定する。
○ 政策正常化のプロセスを開始するのに際しては、FOMCはまず最初に、SOMAにおける証券保有の元本の支払いの、一部もしくは全てを再投資
することを停止することとなりそうである。
○ それと同時に、もしくはそのある程度後に、FOMCは、FFレートのパスに関するフォワード・ガイダンスを改変する であろう。また、適切なときにFFレー
トの引き上げを実行することを支援するために、一時的な準備排出のオペレーションを開始する であろう。
○ 経済情勢が許せば、FOMCは、政策正常化の次のステップは、FFレートのターゲットの引き上げとなり、その時点から、FFレートの水準もしくはレン
ジを変化させることが、金融政策のスタンスを調節する主な手段となろう。
正常化プロセスを通じて、超過準備への付利や銀行システムにおける準備の水準を調節 することが、FFレートをターゲットに導くうえで用いられるで
あろう。
○ エージェンシー債のSOMAからの売却は、FFレートのターゲットの最初の引き上げの一定程度後に開始される こととなりそうである。
売却のタイミングとペースは、大衆に事前に伝えられ、そのペースは相対的に、段階的で堅調なもの(gradual and steady)になると期待されるが、経済
見通しや金融情勢の相当な変化に対応して、上下方向で調整されることがあり得る。
○ 一たび売却が開始されれば、売却のペースは、3~5年の期間をかけて、SOMAにおけるエージェンシー債保有を皆無にすることを目標 とし、そ
れによって、SOMAのポートフォリオが、経済の各セクターにおける信用の配分に与える影響を最小化することが期待される。
このペースでの売却によって、SOMAのポートフォリオの規模を、2~3年の期間で正常化 することが期待される。
とりわけ、証券ポートフォリオ、およびそれに関連する銀行の準備の量は、金融政策の効率的な運営と首尾一貫する、最小の水準にまで縮減
されることが期待される。
○ FOMCは、経済や金融情勢の展開の観点から必要であれば、出口戦略について調整を行う用意がある。
(資料)FRB, Minutes of the Federal Open Market Committee June 21-23, 2011, released on July 12, 2011, p3の記述を基に日本総合研究所作成。
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(3)2012年末~2013年のFOMC
• 2012年12月のFOMCにおいて初めて、FRBのスタッフが、正常化プロセスに関する
財務運営等の試算を提示
• これを機に、FOMCにおける議論のトーンは様変わりし、先行きの政策運営の慎重論
が拡大。スタッフの試算結果はFOMCメンバーにとって、相当な衝撃であった模様
• これと同じ頃、FRBは、スタッフによる正常化プロセスの試算結果を、ディスカッション・
ペーパーの形で、米国民や市場に向けて公表(3.で後述【参考資料3-1】)
• 欧米メディアも報道「正常化過程では、Fedから連邦財務省への“納付金ゼロ”の
期間が数年程度あり得る」(WSJ、The Economist等【参考資料3-2】)
• 2013年3月のFOMC…資産買い入れの有効性とコストについて詳細に議論
【参考資料4-1、2】
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• FOMC内でのこのような議論の展開を背景に、バーナンキ議長は2013年5月、米議
会の上下両院合同委で議会証言
「超低金利の持続が金融の安定を阻害する可能性を深刻に受け止めている」
「副作用の監視を強化する」、
「2013年中にも資産買い入れを縮小する可能性」
=“バーナンキ・ショック”
→米長期金利急騰(前掲図表1)
• 2013年6月のFOMC「2011年当時とは、SOMAの規模も内訳も変化。“正常化政策
の原則”を一部、見直す方向で検討」
• その後、2013年末にかけて、FOMC内で議論を詰め、2014年1月から、資産買い入
れ規模の縮小(“tapering”)を開始
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(4)2014年のFOMC
• 1月より、資産買い入れ規模の縮小を、断続的に開始(経済情勢等により、減額を見
送った月もあり)。ペースは月当たり▲100億ドル
• これと並行して、2011年6月に策定した“正常化戦略の原則”の見直しを検討
• 9月に“政策正常化の方針と計画”を公表(図表6)
• 正常化プロセスの手順、および実際に用いる手段を、2011年時点とは一部変更
-手順は、①FFレートの引き上げ誘導開始
→②SOMAの保有資産の再投資停止開始
-手段として、MBS売却は想定せず(財務運営上の悪影響を勘案した結果の模様)
• イエレンFRB議長は、この9月のFOMC後の記者会見において、正常化の目途は
2020年頃を想定と説明
• 2014年10月をもって、資産買い入れは停止。再投資によりSOMAの規模は維持
(5)2015年のFOMC
• 「政策正常化の方針と計画」の実行のあり方を検討
• 12月に、危機後初の、FFレート引き上げ誘導(0.25%→0.50%)実施
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(図表6)2014年9月のFOMCで合意された、Fedの「政策正常化の方針と計画」の内容
●
●
●
FOMCは、最大雇用の達成と物価安定という規程上のマンデートが促進されるようにするため、政策正常化-FFレートと他の短期金利を、よりノーマルな水準に引き
上げ、Fedの証券保有を減らすという意味のあるステップ-のタイミングとペースを決定する。
○
経済状況と見通しによって、金融緩和の度合いを弱めることが正当化されるようになれば、FOMCはFFレートのターゲット・レンジを引き上げる 。
○
正常化の過程において、FOMCが設定するターゲット・レンジにFFレートを誘導するための主な手段として、Fedは超過準備に対する付利水準の調
整を用いる。また、FOMCは、必要な限りにおいて、オーバーナイト・リバースレポ・ファシリティや他の補完的な手段を用いるが、FFレートのコントロール
にもはや必要でなくなれば、フェーズ・アウトすることになる。
FOMCは、Fedが保有する証券を、段階的かつ予見可能な方法で減らしていくことを企図しているが、それは主として、SOMA(システム公開市場勘定)のなかで保
有する証券の元本の再投資を停止することによって達成する。
○
FOMCは、再投資の停止ないしフェージング・アウトの開始を、FFレートのターゲット・レンジの引き上げを行った後に開始する 。そのタイミング
は、経済・金融条件や経済見通しが今後どのようになるのか次第である。
○
FOMCは現在、正常化プロセスの一部として、エージェンシーのMBSを売却することは想定していないが、長い目で考えれば、残高を減少させたり
皆無とするために、限定的に売却を行うことはあり得る。そのような何らかの売却を行う場合、そのタイミングとペースは、事前に公表される。
FOMCとしては、Fedは長期的には、金融政策を効率的かつ効果的に運営するうえで必要なだけきっちりの証券を保有するつもりである 。主として財務省証
券を保有することとなり、そうすることによって、経済の各セクターへの信用の割り当てに対するFedの保有の影響を最小化することができる。
●
FOMCは、この政策正常化のアプローチの詳細について、経済・金融情勢の観点から調整するつもりである。
(資料)Federal Reserve press release, “Policy Nomalization Principles and Plans”, September 17, 2014を基に日本総合研究所作成.
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3.Fedが示した正常化プロセスに関する想定と財務運営等の試算結果
• 2012年12月、FOMCにおいてスタッフによる、正常化プロセスに関する試算が示された
翌月の2013年1月、FRBは、ディスカッション・ペーパーの形で、スタッフの試算結果を
公表(「連邦準備のバランス・シートと収益:入門と予測」【参考資料3-1】)
• それが、FOMCで示されたものとどの程度、同じものであるかは現時点では不明
-ただし、Fedとして、この時点で、このような試算を公表しなければならない、という
制度上の義務はなし
(5年経過後、FOMCのtranscripts<議事録>とともに資料も公表される制度)
-にもかかわらず、Fedは、国民や市場関係者に対して、先行きの金融政策運営上の
重要な判断材料を共有してもらえるように公表した、との推測が可能
• スタッフの試算結果は、正常化プロセスの進展に伴い、Fedの収益が悪化する姿を提
示
• 前提とする金利シナリオにもよるが、数年間、連邦財務省への納付金がゼロとなるのみ
ならず、それ以上に損失がかさむため、「繰延資産」(deferred asset)を計上せざる
を得ない期間が発生
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(図表7)正常化プロセスのシナリオ別の試算結果の概要とその前提
ベースライン
SOMAの
SOMAの
規模が
構成が
正常化
正常化
時点(年月)
2020年8月
-
2025年の
MBS
保有額
2009~25年
累積ベースでの
納付金
金額(10億ドル)
$407
$908
納付金の
トラフ
(底、凹み)
$17
(2018)
MBS売却
2019年5月
2020年3月
$0
失業率6%
の閾値
準備排出手段
+50bp
高金利+200bp
2021年6月
-
$512
2020年8月
-
$407
ベースライン
2020年8月
-
$407
MBS売却
2019年6月
2020年6月
$0
16
$841
$0
(2018-2019)
$1,052
$31
(2019)
$870
$12
(2018)
$869
$0
(2017-2019)
$804
$0
(2017-2021)
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(図表8)正常化プロセスの各シナリオの前提
ベースライン
ベースライン+MBS売却
失業率6%の閾値(引き締め後ずれ)
現行のポートフォリオ戦略
エージェンシー債の再投資先
財務省証券買い入れ
総額(2013-2014)
エージェンシーMBS
MBS買い入れ
総額(2013-2014)
出口戦略
FFレート最初の引き上げ(Liftoff)
償還(=満期落ち)開始(=再投資停止)
MBS売却開始
MBS売却終了
(資料)Seth B. Carpenter et al, “The Federal Reserve's Balance Sheet and Earnings: A primer and
projections”, Finance and Economics Discussion Series 2013-01, Divisions of Research & Statistics
and Monetary Affairs, Federal Reserve Board, September 2013, p5 Table1,p23 Table A1.
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(図表9)金利の前提
(資料)Seth B. Carpenter et al, “The Federal Reserve's Balance Sheet and Earnings: A primer and
projections”, Finance and Economics Discussion Series 2013-01, Divisions of Research & Statistics
and Monetary Affairs, Federal Reserve Board, September 2013, p24 Figure 1.
18
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(図表10)FedのBS上の資産・負債項目の試算結果(引き締め後ずれシナリオを含む)
(グラフ中の項目等の邦訳)
ベースライン、失業率閾値6%
ベースライン+MBS売却
SOMAの保有額
10億ドル
準備預金残高
(資料)Seth B. Carpenter et al, “The Federal Reserve's Balance Sheet and Earnings: A primer and
projections”, Finance and Economics Discussion Series 2013-01, Divisions of Research & Statistics
and Monetary Affairs, Federal Reserve Board, September 2013, p25, Figure 2.
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(図表11)FedのBS上の資産・負債項目の試算結果(高金利シナリオを含む)
(グラフ中のシナリオ名の邦訳)
ベースライン、高金利
ベースライン+MBS売却、高金利+MBS売却
(資料)Seth B. Carpenter et al, “The Federal Reserve's Balance Sheet and Earnings: A primer and
projections”, Finance and Economics Discussion Series 2013-01, Divisions of Research & Statistics
and Monetary Affairs, Federal Reserve Board, September 2013, p27, Figure 4.
20
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(図表12)Fedの収益関係指標の試算結果(引き締め後ずれシナリオを含む)
(資料)Seth B. Carpenter et al, “The Federal Reserve's Balance Sheet and Earnings: A primer and
projections”, Finance and Economics Discussion Series 2013-01, Divisions of Research & Statistics
and Monetary Affairs, Federal Reserve Board, September 2013, p26 Figure 3.
21
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(図表13)Fedの収益関係指標の試算結果(高金利シナリオを含む)
(資料)Seth B. Carpenter et al, “The Federal Reserve's Balance Sheet and Earnings: A primer and
projections”, Finance and Economics Discussion Series 2013-01, Divisions of Research & Statistics
and Monetary Affairs, Federal Reserve Board, September 2013, p28 Figure 5.
22
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4.正常化局面でFedが抱える政策運営上の制約と今後の展望
• Fedの場合、中央銀行としての損失計上や連邦政府からの損失補てんは制度上、想定
されておらず、自らの先行きの収益を充当して損失を埋める形での「繰延資産」を計上
• 「繰延資産」は、どこまで計上することが許されるのか?
→「繰延資産が将来の収益によってペイ・ダウンされることに鑑みれば、
“全ての将来の収益を割引現在価値化した額”を超過することは許されない
と考えるのが妥当であろう」
(前掲2013年1月公表のFRBスタッフのディスカッション・ペーパー)
=正常化局面での政策運営上の重い制約
• アメリカの場合、中央銀行と議会の間には緊張関係が存在
-とりわけ、共和党は、危機後のFedの超金融緩和政策に批判的
-2015年11月には下院がFedの監督・改革法案を可決
• Fedの首脳陣やFOMCメンバーも、先行きのFedの収益悪化が、金融政策運営の、
政府からの独立性が損なわれることにつながりかねない点を憂慮
23
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• 大規模な資産買い入れ(LSAP)による金融政策運営は、それを実施している間、実体
経済の回復基調が捗々しくない間には問題は表面化しにくい
• ただし、いったん正常化プロセスに入り、実体経済の回復の足取りが確かなものとなって、
市場金利が上昇してくれば、中央銀行は財務運営上の困難に直面
• かつての、自由に政策金利を上げ下げ可能な環境を回復する(=「正常化」を完了す
る)ためには、収益が悪化する状態を限られた期間内で乗り切り、超過準備を解消させ
ることが必要に
(図表14)FOMCメンバーが適切と考える金融政策運営
(2015年12月のFOMC時点。FFレートのターゲット・レート仲値もしくはターゲット水準)
24
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• Fedは今後、数次にわたりFFレートの引き上げ誘導を行った後、実体経済の基調を見
極めつつ、SOMAの保有資産の満期落ち(財務省証券の満期落ち、およびMBSの繰り
上げ償還落ち)を開始し、資産規模の縮小プロセスに入る見込み
-Fedは、正常化局面入り後の政策運営を見越してか、期近で満期を迎える財務省
証券を多く保有
-MBSも繰り上げ償還による残高の相応の削減が見込める状態(図表15、16)
• その頃からは、Fedの収益状況との兼ね合いによる制約も大きくなり、正常化に向けた
金融政策運営上の困難さが一段と増す可能性
• 同時に、正常化プロセスの進展に伴い、アメリカの長短金利の水準がこのように大きく変
化すれば、わが国を含む海外経済にも大きな影響が及ぶ可能性
(図表15)再投資停止の場合、2016~17年には、どれほどの証券の満期が到来し、ロール・オフされるのか?
年/半期
2016年上半期
下半期
2017年上半期
下半期
累計
財務省証券
129
86
103
91
409
エージェンシーMBS
85
75
65
60
285
(10億ドル)
合計
214
161
168
151
694
(資料)Jane E. Ihrig, Ellen E. Maede, and Gretchen C. Weinbach, “Monetary Policy 101: A Primer on the Fed’s Changing Approach to Policy
Implementation”, Finance and Economics Discussion Series 2015-047, Divisions of Research & Statistics and Monetary Affairs, Federal Reserve
Board, Washington. D.C., June 30, 2015, Box 4の図表を基に日本総合研究所作成。
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(図表16)SOMAの満期到来額の見通し(2014年末時点ベース)
(10億$)
(10億$)
青棒グラフ:SOMAの年間満期到来額(左軸)
黒折れ線:SOMAの満期到来額累計(右軸、2015年分を含む)
2015年は満期落ちは
実施せず
(年)
(資料)Stanley Fischer, Conducting Monetary Policy with a Large Balance Sheet , Remarks at the 2015 U.S. Monetary Policy Forum Sponsored
by the University of Chicago Booth School of Business, February 27, 2015, Figure 4を基に日本総合研究所が一部加筆.
(原資料)Federal Reserve Bank of New York and Blue Chip interest rate forecasts.
(原資料注1)2014年12月31日時点のシステム公開市場勘定(SOMA)の証券保有額に基づく。
(原資料注2)MBSのペイ・ダウンのパスは、足許(当時)の連邦準備の保有、ブルーチップの金利見通し、およびRichard and Roll(1989)の早期償還モ
デルに基づく。
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5.わが国の政策運営への示唆
(日銀が直面する課題)
• 「大規模な資産買い入れ」を実施している間、実体経済の回復基調が捗々しくない間に
は問題が表面化しにくい、のは日銀もFedと同じ
• 物価情勢の好転は当面、見込めそうになく、「2%」の達成は、2017年度前半ころ、にま
でズルズルと先送り
• にもかかわらず、日銀のQQEの今後の継続を阻むいくつもの要因が、今後、表面化す
る可能性
①日銀自身の財務運営の悪化
→米国とは異なり、基礎的な財政事情が極端に悪いわが国の場合は、
国の財政運営の継続にも悪影響を及ぼしかねない情勢
②日銀が買い入れ可能な国債が、事実上の払底状態となる可能性
③今後2~3年の間における、海外金融情勢の変化の可能性
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(日銀の財務運営は、今後、どうなるのか?)
• 日銀の会計原則は「償却原価法」:今後、国債金利が上昇しても、実際に売却しない限
り、損失の計上は不要
-裏を返せば、国債の売却は、市場への悪影響のみならず、日銀の財務運営上も
相当に困難
「日銀は(2015年11月)26日、15年9月中間決算発表の席上、長期金利が1%上昇
した場合、保有国債の時価が17兆4000億円目減りすると明らかにした」
(2015年11月27日 産経新聞報道)
• 日銀が、バランス・シートを巨大に膨らませ、巨額の超過準備(市場参加者にとっての余
剰資金)を抱えている点はFedと同様
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• 今後、いずれかの時点で引き締めに転換せざるを得なくなった場合、Fedと同様の
「超過準備への付利」によらざるを得ない点は、これまでの度重なる国会審議の場で、
日銀首脳陣も是認
• ところが、現状の保有資産の加重平均利回りは0.409%(2015年9月末時点)
-付利の引き上げを開始する場合、「順ざや」のまま利上げできる余地はわずか。
無担コールO/Nを0.5%(現時点の米国のFFレートと同水準)に引き上げるだけで、
日銀は「逆ざや」状態に転落
• しかも、その「逆ざや」状態は「数年」で済む話では到底なく、「十数年」もあり得る
-日銀が保有する国債の加重平均残存年数は、2015年7月時点ですでに6.7年
(2015年8月4日の参議院財政金融委員会会議録における日銀開示資料による)
=保有国債の満期到来分を、今後、全額「満期落ち」させるとしても、日銀の資産
規模の半減に6.7年かかる計算。その後はさらに長期化
• このように、先行きの財務運営上の深刻な問題を抱えながら、日銀の金融政策決定会
合では、この問題を、メンバー全員で正面からとらえた議論は、果たしてなされている
のか?
【参考資料5、6】
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(図表17)日銀のバランスシートの大まかな見取り図の比較
(2005年末、および2015年末)
2005年12月末
総資産
資産
2015年12月末
約156兆円
総資産
負債
長期国債
国債 98.9 63.1兆円 発行銀行券 79兆円
兆円
短期国債
35.8兆円
当座預金 33兆円
買入手形 44兆円
その他
その他
資産
約383兆円
負債
発行銀行券 98兆円
うち法定準備
預金4.6兆円程度
国債 325
兆円
うち法定準備
預金8.7兆円程度
(2015年10月平残)
長期国債
282.0兆円
当座預金 253兆円
短期国債
43.0兆円
共通担保オペ 36.5兆
円
その他
その他
正常化局面で
は売出手形
(Fed
の場合の
ONRRP)を振
出し?
(資料)日本銀行『金融経済統計月報』各号の計数を基に日本総合研究所作成。
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• 日銀の木内登英審議委員(2015年12月3日の講演会の席上)
「大規模緩和の出口(終了)段階で、日銀当座預金に付ける金利(付利)を現在の
0.1%から仮に2%に上げた場合、「約7兆円の損失が出る可能性がある」との試算を
明らかにした」(2015年12月4日付産経新聞報道)
-2017年度に物価2%の目標を達成という仮定のもとでの木内審議委員の試算
-その時点(*)で想定される当座預金の規模は約400兆円、物価上昇率見合いで当座
預金の付利を2%に引き上げれば、日銀の付利負担は年8兆円、これに対して、その
時点で日銀保有の国債に対して政府から支払われる利子年1兆円を差し引いても、
年7兆円の損失を日銀は被ることに、というのが木内審議委員が示した内容
(講演会の出席者による) (*)マイナス金利導入前
• 日銀は、2015年度決算から、引当金の計上を認められることに
(…「『量的・質的金融緩和』の実施に伴って生じ得る本行(日銀)の収益の振幅を平準
化し、財務の健全性を確保する観点から」、日本銀行『引当金制度の検討要請に
ついて』2015年11月13日)
-日銀は、2015年度当初予算で、8,205億円の納付金を計上
→2015年度補正予算で、この引当金の計上分から▲4,390億円を減額し、
納付金は3,815億円に
=2015年度税収の上振れ分約1.9兆円のうちの約4分の1が、日銀の納付金の
減額で食われてしまった計算=QQEの財政コストの一角が、ついに表面化
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• 日銀の資本金は、従来から一貫して1億円、準備金は直近で3.1兆円(2015年12月
末)に過ぎず
-これに、今後、毎年度4,000億円~数千億円程度の引当金を計上していったところ
で、近い将来、いざ、「出口」ないし「正常化」局面入りとなれば、あっという間に、
これらを凌駕する損失が発生する可能性が高い状況
• 日銀の首脳陣の国会答弁:「全然問題ない」、「債務超過になることはない」、
「将来の通貨発行益があるから問題ない」
-ただし、そのように考える根拠は、一切、明らかにされてはおらず
-日銀が公的な経済主体であるため、Fedのような「繰延資産」を会計制度上導入
すれば、対応可能と考えている可能性も推察されるところ
-ただし、日銀の場合は、Fedとは異なり、今後、国内外の金融情勢が変化した際に
想定される年当たりの損失の規模は、すでにみたように巨額で、その状態の長期化も
予想されるところ
-また、海外の金融情勢が変化すれば、それに応じた政策対応を迫られる事態に至る
ことが、過去の例からみても十分にあり得る。
「損失発生の回避もしくは最小化、債務超過転落回避」最優先の金融政策運営を継続
できる可能性は極めて小さい
-そのような会計制度上の手当てで果たして乗り切れるものかどうかも疑問
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(「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」をどうみるか)
• 「貨幣の価値のプラスの値が大きくなればなるほど効用が大きい」という大前提は不変
のままで、経済活動が行われているなかで、イールド・カーブを、短期ゾーンを起点とし
て、マイナスに押し下げる状態を中長期的に持続させることは可能か?
-上記の「大前提」が不変であるなかで、「コストを払って(=マイナスの金利)を払って、
お金を預けてくれる(=貸してくれる)経済主体」がいるのか?
=個人の預金金利をマイナスにすることは可能か?
-それが可能であれば、銀行は、あらゆる取引主体との間において、イールド・カーブの
短期ゾーンを起点とするマイナス金利取引を行うことが理屈上は可能か?
-それが難しければ、銀行のマイナス金利取引は、自らの財務運営上、利益を吐き出し
つつ継続できる範囲内にとどまるか?
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• 現在、日銀は、多額の国債買い入れ続行のため、マイナス金利で国債を買い入れ
→現時点、および当面の間は、このようなオペレーションに伴う「痛み」はないが、
最終的には、当該国債の償還期到来の時点で、日銀に大幅な損失
例)パー100円の国債を、110円(マイナス金利)で仕入れた銀行が、日銀にオペで
120円(さらに大きいマイナス金利幅)で買い入れてもらえれば、10円のサヤ抜き
可能。ただし、償還期に日銀には▲20円の損失
→銀行にとっての「10円のサヤ抜き」は1回限り。
その対価として得た110円は、何らかの形で運用することが必要。
有利な運用先を見つけられなければ、マイナス金利を払って、日銀に超過準備
(補完当座預金)として預けることとなり、持続的に目減りすることに
• 補完当座預金(=超過準備。「ブタ積み」)の新規積み上げ分に対するマイナスの付利
→本質的に、「大規模な国債買い入れの続行によるマネタリーベースの増額」とは
相容れないもの
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• 2016年1月29日付『補完当座預金制度基本要領』【参考資料7】
…同日の、金融政策決定会合の決定によって全面改正
…法定準備預金のような、法的な手当は行われておらず、あくまで、日銀と民間金融
機関との当座預金取引上の約定を変更する決定に基づき実施
• 民間銀行からみれば、オペで得た資金を、超過準備として預けるよりほかにない場合に
は、国債買い入れオペに応じない方が合理的であり、自然
→果たして、実際にはどうなるのか-もうしばらく様子をみる必要
• 今回のマイナス金利の導入は、日銀にとっては、
「今後は、新たに積み上げられる超過準備分の財務運営コストを、日銀自身は負担
せず、民間金融機関に負担してもらう」
ことを意味するもの
• ただし、日銀にとって、これで財務運営コストの上積みが皆無になったわけではなし
-今後は、短期ゾーンを起点とするマイナスのイールドカーブを維持・拡大するために、
日銀自身が、マイナス金利での大規模な国債買い入れを続行せざるを得ず
-将来的な金利引き上げ局面における、超過準備分の付利コストとは別に、「マイナス
金利での大規模な国債買い入れ」の結果として、国債の償還期に発生する巨額の
コストが、日銀の今後の財務運営にさらに上乗せされることに
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(今、市場では何が起こっているのか)
• マイナス金利が新たに適用された、2月16日以降の準備預金の積み期間における国債
買い入れオペはいずれも札割れなし
• 市場関係者によれば、日銀は、国債買い入れの「量」を優先するため、その際のプライス
(マイナスの金利幅)を度外視してオペを実施している状況
• 2月16日の積み期間入り後1週間のその他の公社債の状況をみると、マイナス金利に
なっているのは国債のみ
-社債は、2月23日(火)に初めて利回りがマイナス圏に突入
-準ソブリンである地方債の金利は、マイナス金利導入前と大きくは変化せず、結果的
に各地方債の対国債スプレッドが大幅に拡大している状況
⇒「日銀がオペの対象として、マイナス金利で買い入れる債券であるか否か」が、
市場でのイールド・カーブ形成を決定的に左右する要因となっている状況
• 足許の国債のイールドカーブの日々の推移は図表18のとおり
• 「今後は、国債のイールドカーブが金融市場において本来果たすべき、リスクフリー・レー
トとして、すべての金融取引のベンチマークになるという役割は、到底果たし得ないので
はないか」との声も
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(図表18)最近1カ月の、わが国の国債のイールド・カーブの推移(スポットレート・ベース)
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1.022
1.075
1.073
1.079
1.078
1.075
1.069
1.082
1.082
1.149
1.165
1.085
1.049
1.029
1.033
0.995
0.986
0.928
(資料)Datastream.
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(参考1:欧州中央銀行による「預金ファシリティ金利」へのマイナス金利
導入)
• ECBは3本の政策金利で金融政策を運営
• 2014年6月、そのうちの下限金利である「預金ファシリティ」金利にマイナス金利を導入
し、以後、そのマイナス幅を拡大(現在▲0.3%)
-「預金ファシリティ」は銀行側の自由意思で利用できる制度
(=「スタンディング・ファシリティ」)
-他の2本の政策金利(上限金利の「限界貸付ファシリティ」金利と、市場金利誘導水準
の目安である「メイン・リファイナンシング・オペ」金利はプラスを維持)
• ECBは同じ頃から、資産買い入れプログラムを開始し、2015年3月からは、国債買い入
れも開始
• 「マイナスの預金ファシリティ金利」は、その際、超過準備の発生を極力抑制することを
企図したもの。実際にも、中央銀行のバランスシート運営上は、期待通りの結果。他方、
実体経済に与える影響はなお見方が分かれる状況
• ECBの場合、各行が、欧州債務危機以前から長期間保有していた国債を主たる対象と
して買い入れを実施。わが国のように、国が発行した国債を、銀行が落札してただちに
中央銀行のオペに出して転売するような金融取引は、そもそも想定されてはおらず
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• ECBも確かに、市場金利が低下するなか、マイナス金利での国債の買い入れを実施
-ただし、銀行側が、国債をECBに売り渡して得た資金を、超過準備に積み増して
いるわけではない
-すなわち、ECBが、「マイナス金利での国債の買い入れ」と
「(マネタリーベースを構成する)超過準備の積み上げ」を
両立している例となっているわけでは決してない
• ECBの場合、「大規模な」資産買い入れは実施しておらず、その結果、巨額の超過準
備も発生せず=Fedや日銀のように、今後の金融政策運営に巨額の財務運営コストが
伴うような事態は最初から回避することを念頭においた政策の設計
-ECBも足許、マイナス金利で国債の買い入れを行なっているため、当該国債の満期
到来時点では、日銀同様、ECB自身の財務運営上の負担にとなる見込み
-ただし、基本的な金融政策運営の手法は、危機前と変えていないため、財務運営
そのものに大きな影響が出ることはなし
• ECBは、将来的な金融政策運営の自由度を引き続き確保
-政策金利の引き上げが必要になれば、いつでも、自由に、財務運営コストを全く
気にする必要なく、引き上げられる状態
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(参考2:非ユーロ圏の欧州各国によるマイナス金利の導入例)
• デンマーク、スイス、スウェーデン
-いずれも、ユーロ圏経済に隣接しながら、独自の通貨を堅持する国々
-デンマークはERMⅡ(**)に加盟
-スイスは変動相場制
(**)ユーロには加盟しないが、自国通貨を対ユーロで、基準相場の±15%のバンド
内に収まるように、安定的に推移させるメカニズム。デンマークは±2.25%
• 3カ国とも「開放経済下の小国経済」の典型。対ユーロの為替レートが、自国経済・金融
情勢に極めて大きな影響を及ぼす国々
-金融政策の運営上、実質的には「為替レート・ターゲティング」をとらざるを得ず
• マイナス金利は、これらの国々において、ECBが金融危機、欧州債務危機、およびその
後遺症に対して、「超低金利状態」、「超金融緩和状態」での金融政策運営を余儀なくさ
れていることに呼応してとられたもの
-対外的に明示しているわけではないものの、「自国通貨高の抑制」が、事実上、
最大の政策目標に
-並行して、「大規模な資産買い入れ」を行っているわけではなし
-他方、その副作用として、金融市場での取引高の減少等がすでに顕現化
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(参考3:FRBによる、2010年時点での「マイナス金利」検討状況)
• イエレンFRB議長は、2016年2月10・11日の米議会での証言において、「FRBが201
0年にマイナス金利の採用を検討したことがある」旨発言
• FRBは、2016年1月29日、5年前の2010年中のFOMC議事録等の公表と合わせて、
FRBに対してスタッフが提出したメモも公表
-ただし、この「マイナス金利」は実際にはFRBにおいて検討されるにとどまり、FOMC
に提案されることはなかった模様
• 2010年8月5日付け、FRBスタッフ作成のメモ
「超過準備付利レート(IOER(*))の引き下げ:オプションの分析」【参考資料8】のうち、
「オプション3:IOERのゼロ未満への引き下げ」の内容を抜粋すれば、
• IOERをゼロ未満に設定することの、法的、実務上の障害としては、
①連邦準備法(The Federal Reserve Act)が、マイナスのIOERを許容しているか
どうか、明らかではない。連邦準備がこの分野で権限を有するのかどうかについては、
スタッフのさらなる分析が必要
②連邦準備や連邦財務省のシステム対応が未済
③相応の幅のマイナス金利が実施されれば、預金機関(=銀行)は、準備残高の相当
量を現金に移してしまう可能性
(*)IOER=Interest on Excess Reserves。超過準備に対する付利のこと
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• 緩やかな幅のマイナス金利(0~▲30bp)が実施された場合、預金機関は、自らの超過
準備の相当部分を現金に転換することがコスト効果的であるとは考えなくなる可能性
-そのような幅のマイナス金利は、短期金利にさらなる低下圧力をかけることもあり得る
-預金機関は、超過準備を保有するコストを、投資家や預金者に転嫁しようとするほか、
短期金融取引の一部をマイナス金利で行うかもしれず
-ただし、マイナス金利が実際に市場金利にどの程度の影響を及ぼすかは、競争上、
どの程度の圧力が働くかや、マイナス金利がどの程度の期間持続すると期待されるか、
といった点によって決定されそうである
• マイナスのIOER金利は、市場金利に影響を及ぼすほか、資金調達市場における取引
高を、劇的に減少させ、MMFsの収益性をさらに低下させ、一部のMMFs、とりわけ国
債に焦点を絞った商品は、市場から退出することになろう
以 上
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(参考文献)
• 拙論「海外主要中央銀行による非伝統的手段による金融政策運営と課題」
『JRIレビュー』(株)日本総合研究所、2014年11月25日
• 拙論「『出口』局面に向けての非伝統的金融政策運営をめぐる課題」
『JRIレビュー』(株)日本総合研究所、2015年7月6日
• 拙論「諸外国におけるインフレーション・ターゲティングをめぐる経験」
『JRIレビュー』(株)日本総合研究所、2015年11月17日
• 拙論「米連邦準備制度の正常化戦略と今後の金融政策運営の考え方」
近日中にHPに掲載予定
• 拙著『欧州中央銀行の金融政策』金融財政事情研究会、2015年1月刊
ご清聴ありがとうございました
kawamura.sayuri@jri.co.jp
http://www.jri.co.jp/page.jsp?id=2790
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