昭和 63 年 06 月 16 日 判時 1295

昭和 63 年 06 月 16 日
判時 1295-110
義務違反・共同利益背反行為
京都地判
共用部分の使用(バルコニー等への設置物)
規約に違反してルーフテラスに設置されたサンルーム等につき、撤去請求が認められた事例
区分所有法 4 条 6 条 13 条 18 条 30 条 57 条
【主文】
一
被告らは原告に対し、別紙物件目録記載(1)の構築物及び同目録記載(2)の屋外空調機
1台を撤去せよ。
二
訴訟費用は被告らの負担とする。
【事実】
第一
当事者の求めた裁判
一
請求の趣旨
1
主文一、二項と同旨の判決
2
仮執行宣言
二
請求の趣旨に対する答弁
1
原告の趣旨を棄却する。
2
訴訟費用は原告の負担とする。
第二
一
当事者の主張
請求原因
1
原告は、X1 スカイマンション(以下「本件マンション」という。
)の区分所有者全員を組合員
とし、管理組合規定と、これに従って選出された役員をもつ権利能力なき社団であり、本件マンショ
ンの区分所有者は、「建物の区分所有等に関する法律」に基づき、その建物、敷地及び付属施設の管
理または使用等について X1 スカイマンション規約(以下「本件マンション規約」という。
)を定め
ている。
2
本件マンション規約によれば、各区分所有者及び代理占有者はバルコニーに建造物、構築物等
を建設または設置し、バルコニーに改造、改良を加えることを禁止されている(第 29 条第8号)
。ま
た同規約によれば各区分所有者または管理者(組合の理事長)は違反行為の差止め及び妨害の排除を
請求できるし(第 31 条)
、X1 スカイマンション管理組合規定(以下、「本件組合規定」という。
)に
よれば、組合員が規約等に違反したとき、原告が当該組合員に対して必要な措置をとることができる
(第 15 条)と定められている。
3
被告らは、本件マンション 402 号室の区分所有者であり、入居に際して本件マンション規約の
遵守を約した。
4
被告らは、昭和 57 年9月中旬、上 402 号室に接するバルコニー(ルーフテラスもバルコニー
とその構造及び機能的に同一視すべきである。
)一杯に、四辺をガラスで覆った床面積約 12.22 平方
メートルのサンルーム様の大きな構築物(別紙物件目録記載(1)-以下「本件サンルーム」という。
)
を設置した。
また、被告らは上設置にともない、従前バルコニーに設置してあった共有の手すりを勝手に撤去し、
かつ従前はルーフテラス内に設置してあった被告ら共有の屋外空調機(別紙物件目録記載(2))を勝手
にルーフテラス外に移動させ、専用使用権のない、避難梯子のすぐそばの共用部分に設置した。
5
そこで原告は被告らに対し、本件サンルーム及び屋外空調機(以下「本件構築物等」という。)
の撤去を求める。
二
請求原因に対する認否
1
請求原因1ないし3の事実は認める。
2
同4につき、被告らが 402 号室に接するルーフテラスにガラス張りの本件サンルームを設置し
たこと、上設置にともない従前バルコニーに設置してあった共有の手すりを撤去したこと、また従前
はルーフテラス内に設置してあった被告ら所有の屋外空調機移動させて設置したことは認めるが、そ
の余は否認する。しかし、本件構築物等は、本件マンション規約において設置等を禁止された構築物
等には該当しない。
即ち、本件サンルームの設置が問題となっているルーフテラスは、各区分所有者が専用使用権を有
する部分であり、第一次的な維持管理は専用使用権を有する各区分所有者が行い、その使用方法につ
いても、建物の基本構造を変更したり、構造上の安全面に影響を及ぼすような建造物や構築物を設置
することなく、建物全体の美観や風格を損なわず、防犯上または非常時に支障をきたすことなく、下
階や上階及びその他の住人に悪影響を及ぼすものでないかぎり各区分所有者の自由使用が認められ
る。そして本件サンルームについてみるに、402 号室北側のルーフテラスのうち、被告らの専用使用
に属する部分の一部である鉄製手すりで囲まれた部分の床から庇部分まで黒色の高級アルミサッシ
の枠を設置し、同枠内に透明ガラスとステンドガラスを入れたものであり、外見上からは本件マンシ
ョン及び周辺の美観を損なわない形状や色に、構造的には本件マンション自身の構造や下階に悪影響
を及ぼさないように配慮して作り、総費用は約 367 万円を要した。勿論現状回復が可能であり、本件
マンションの基本構造を変更したものではなく、構造上の安全面や防犯上または非常時に支障をきた
すものでもなく、階下や上階及び他の住人に何ら悪影響を及ぼす可能性もない。そして本件マンショ
ン全体の美観や風格の点においても違和感を感じない。これが形式上は規約違反に該当するとしても、
実質的には違反は認められないというべきである。
三
抗弁
1
(原告の承諾)
仮に本件構築物等が本件マンション規約において設置等を禁止された構築物等に該当するとして
も、被告らは昭和 57 年5月、本件構築物等設置工事の開始に先立ち、本件マンション管理人を通じ
て原告理事長の承諾を得ており、また管理人が2回被告らの室を訪れて工事内容につき熱心にアドバ
イスをなし、昭和 57 年9月 10 日から工事を開始し、同月 16 日完成した。
2
(正当事由)
本件マンションは、以下に述べるとおりその構造上多くの欠陥を持ったマンションであり、プライ
バシーの確保と防犯対策、及び結露による健康問題を解決するために本件構築物等を設置した。
(1) 被告らは本件マンションに入居以来、プライバシーの確保及び防犯対策の点から非常な苦痛
と不安を味わって来た。即ち、
被告らの所有する 402 号室及びその西側に隣接する 403 号室との間には、ルーフテラス上
①
に仕切り壁が存しないため、隣接ルーフテラスから 402 号室がまる見えであった。
②
各室が面するルーフテラス部分の仕切りとしては高さ約1メートル位の鉄柵状手すりが設
けられているだけで、しかも 403 号室の手すりのうち最も東側(402 号室のすぐ際)の幅約 80 セン
チメートル位の部分が開閉自由な扉となっている。
402 号室と 403 号室との間には、5階ルーフテラスから4階ルーフテラスに下りるための避
③
難口と避難梯子が存するが、その管理や使用がまったくルーズで、ほとんどいつも避難口が開いたま
まであるとともに、工事職人や管理人が常時使用している。
④
通りを挟んで本件マンションの北側に立っている5階建のビルの屋上から、402 号室の状況
が手にとるように見え、被告らは同ビルの住人からプライバシーを守るために苦労して来た。
(2) 本件マンション建築時の欠陥工事のため、各室や廊下で水漏れや壁面のひどい結露が発生し
ている。
四
抗弁に対する認否
原告の承諾があったこと及び正当事由が存することについては否認する。
第三
証拠《略》
【理由】
二
一
請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。
請求原因4につき、被告らが 402 号室に接するルーフテラスにガラス張りの本件サンルームを
設置したこと、上設置にともない従前バルコニーに設置してあった共有の手すりを撤去したこと、ま
た従前はルーフテラス内に設置してあった被告ら所有の屋外空調機移動させて設置したことは当事
者間に争いがない。
《証拠略》を総合すると以下の事実が認められ(る。
)《証拠判断略》
1
本件マンションは昭和 51 年 10 月に新築完成した鉄筋コンクリート造陸屋根5階建の建物であ
り、被告らは本件マンションの4階 402 号室の区分所有者として新築当初から本件マンションに入居
した者である。原告は、被告らを含める本件マンション入居者全員を組合員として構成された、管理
組合規定とこれに基づき選出された役員をもつ権利能力なき社団であり、各入居者は入居にあたり本
件マンション規約及びこれに基づく本件組合規定、本件マンション使用細則(以下「使用細則」とい
う。
)を遵守することを約している。
2
本件マンション規約によれば、区分所有権の対象となる専有部分は住宅に属する附属物とされ、
ただし、各住戸に接続するバルコニーは除かれており(第2条)、上以外の部分はバルコニーを含め
共用部分とされている(第3条)。さらに共用部分につき専用使用権が認められる部分があり、バル
コニーについても専用使用権が認められており(第8条)、これについてはバルコニーに直接接続す
る区分所有者が使用細則に従って無償で専用使用することが認められている(第 12 条)
。そして各区
分所有者及び代理占有者に対し、バルコニーに建造物、構築物等を建設または設置し、バルコニーに
改造、改良を加えること、廊下、階段室等共用の場所を不法占有し、または物品を放置することが禁
止事項の1つとして定めら(第 29 条第8号、第6号)
、共用部分は、それぞれの目的に従った用法に
て使用するものと義務づけられている(第 27 条本文)
。また使用細則によると、バルコニーの使用に
あたっては建物全体の美観と風格をそこなわないこと、非常時の避難場所として支障のない使い方を
すること等とされ、クーラーの室外機以外の重量物を置くことや、建具、構作物等を取りつけること
が禁止され(6(8))
、バルコニーの避難経路になる場所、隣家との間仕切板附近に物を置かないこと
(8d)と規定されている。
3
本件マンション規約添付の図面によると、本件マンション4階部分及び5階部分にはバルコニ
ー以外にルーフテラスと表示された部分が存するが、同規約上ではルーフテラスと明示した規定はな
いが、上ルーフテラス部分は区分所有の対象となる部分ではなく、区分所有者の専用使用権が認めら
れた共用部分であり、階下の屋根の部分が階上のテラスとして使用され、高さ約1メートルの鉄製フ
ェンスで囲われているがその構造上バルコニーと同様避難場所としての役割を果たしている。被告ら
所有の 402 号室のルーフテラスは縦 1.3 メートル、横 10.4 メートルであり、402 号室と西隣の 403
号室との北側共用部分には、5階から4階に下りる非常時のための避難口及び避難梯子が設けられて
いる。
4
被告らは、本件マンションがその構造上結露や水漏れが激しく、また北側の5階建の建物から
402 号室の内部が覗かれプライバシーの確保が困難であり、避難口から避難梯子を伝って不特定の人
間が入り込んでくるおそれがあり、防犯上も問題があるとして、昭和 57 年5月頃、被告らの専用使
用権が認められているルーフテラスの部分にサンルームを設置することを計画した。同年6月頃、本
件マンション管理人である訴外上Aに対し、ガラスのフェンスを設置したいのでその旨原告の理事長
の承諸を得て欲しい旨依頼したが、理事長は上施設は規約に違反するものであるから認められない旨
同管理人を通じて被告らに申し渡した。しかし、被告らは同年9月 11 日上工事に着手し、同月 15
日に本件マンション理事会の工事の中止と施設の撤去要請にもかかわらず、同月 16 日、本件サンル
ームを完成させた。本件サンルームは、被告らの専用使用が認められたルーフテラスのうち、別紙物
件目録添付図面の赤線部分に設置されていた鉄製フェンスを撤去したうえ、同赤線で囲まれた部分に
コンクリートを上積みし、縦 1.3 メートル、横 9.4 メートル、床面積 12.22 平方メートルの大きさで、
アルミサッシ枠を設け、ガラスを組み入れ、風雨が入り込まないようにされており、床にタイルを張
った構造で、費用 360 万円を要して設置された。被告らは、上サンルーム内部に椅子、机、鉢植え等
を置いて利用している。また本件サンルームの設置にともない、従前ルーフテラス内にあった被告ら
所有の屋外空調機を、別紙物件目録添付図面記載のとおり、403 号室との間にある避難口附近の共用
部分に移動させて設置した。
上認定の事実によると、被告らが本件サンルームを設置したルーフテラス部分は、規約上では何ら
特別に明示の規定はないものの、専用使用権が認められた共用部分であり、その機能上からはバルコ
ニーと同様の性格を有するもので、規約上はバルコニーの使用と同様の利用制限に服すべきものであ
ると解するのが相当である。そして、被告らの設置したサンルームが、上認定のとおりの構造である
以上、ルーフテラスが非常時に果たす役割の重要性に照らし、本件マンション規約第 29 条第8号で
その設置を禁止された構築物に該当するものであるというべきである。また、被告らの移設した屋外
空調機の設置場所は、被告らに専用使用権が認められていない共用部分であり、しかも避難口、避難
梯子のすぐそばであるから、非常時において障害物となることは当然予測されるから、これも非常時
における重要性に照らし、本件マンション規約第 27 条で遵守を義務づけられた目的に従った用法に
よる使用に違反するものというべきである。
三
次に抗弁につき検討する。
1
被告らは、本件サンルーム設置につき原告理事長の承諾を得ている旨ね主張し、被告 Y2 本人
尋問の結果にはそれに副う供述が認められるが、上供述部分は《証拠略》に照らしにわかに採用し難
く、他に上主張を認めるに足る証拠はない。
2
また被告らは、本件サンルームが現状回復が可能な施設であり、本件マンションの基本構造を
変更したものではなく、構造上の安全面や防犯上または非常時に支障をきたすものでもなく、プライ
バシーの確保上も必要であり、また階下や上階及び他の住人に何ら悪影響を及ぼす可能性もない旨主
張し、被告 Y2 本人尋問の結果によると 402 号室の内部に結露が生じ、北側のビルから内部を覗かれ
る可能性があることは認められるものの、それらの予防、防止等の対策には本件サンルームが必ずし
も必要かつ有効なものであるとは認め難く、むしろルーフテラスの非常時において予想される避難場
所、避難通路としての重要性に鑑みると被告らの主張する本件サンルーム設置の正当性を認めること
はできない。また《証拠略》によると、被告ら以外にもバルコニー等にブロックを設けて花壇として
利用したり、簡易物置を設置したりしている居住者が存在することが認められるものの、それらはい
ずれも被告らの設置したサンルームと比較して規模も小さく、構造も異なるうえ、他の居住者に違反
行為が認められるからといって被告らの正当性を裏付けるものでもなく、他に被告らの正当性を基礎
づける事実を認めるに足る証拠はない。
四
本件マンション規約によると、各区分所有者または管理者は、他の区分所有者または代理占有
者が本件マンション規約または使用細則に違反する行為を行ったときはその行為の差し止め及び妨
害の排除を請求することができるとされ(第 31 条)
、また本件組合規定によると、組合員が規約等に
違背したときは、組合は当該組合員に対して必要な措置をとることができる旨規定されている(第
15 条(1))ことは当事者間に争いがないから、原告が被告らに対し、本件構築物等の撤去を請求する
ことができることは明らかである。
五
以上のとおりであるから、本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民
訴法 89 条、93 条を適用し、仮執行の宣言については相当でないからこれを却下して、主文のとおり
判決する。
(裁判官
森
真二)