平成 27 年度全国障害学生支援セミナー専門テーマ別セミナー【1】 障害者差別解消法施行後の発達障害学生への支援を考える (筑波大学 ダイバーシティ・アクセシビリティ・キャリアセンター キャリアサポート 部門・山岸 由紀) 筑波大学の取組ということで、キャリア形成支援についてお話します。 本学では、キャリア形成支援として低学年から卒業まで年次発達段階に応じてた取り組み を重視しておりますが、その最終段階である就職の支援というところが、皆さんのご関心 事ではないかと思いますので、そのあたりについて、重点的にお話をしたいと考えていま す。 まず前段として私が、所属しているキャリアサポート部門の話をして、続いて本論である 発達障害及びそのグレーゾーンにある学生への支援をご紹介したいと思います。 まず、キャリアサポート部門の紹介です。 ダイバーシティ・アクセシビリティ・キャリアセンターの一部門となっております。ダイ バーシティ・アクセシビリティから始まっているので、特別なニーズを持つ学生さんへの サポートだと思う方もいらっしゃると思いますが、キャリアサポート部門に関しては、普 通の大学のキャリア・就職支援部門と同様の機能です。 特別なニーズを必要とする学生も含みますが、全ての学生を対象としたキャリア支援策を 講ずるところだとご理解ください。 いわば一般的なキャリアセンターであり、発達障害のある学生を援助するプロ集団ではあ りません。 学内の専門的な支援部門や専門の先生方と連携した支援が、本学のキャリア・就職支援の 1 つの特徴になります。 簡単に陣容についての説明します。 キャリアサポート部門自体は、部門長と、私はその専任教員ですが、各 1 名で、その他、 各教育機関から兼任の先生方が委員として入られている、割と小さな組織です。 しかし、この小さな組織を学生部就職課が支えてくれていて、キャリア支援、就職支援の 活動自体は、就職課の方たちと、一体となって行う体制です。 キャリア支援の方針ですが、まず、学生の自立と武者修行支援を掲げています。 キャリア形成とは豊かな学生時代の経験に上に次のキャリアが成り立つ、という考え方で す。 豊かな経験を通して、なるべき自分を見つけて、それを実現させる 1 つの方策として就職 がある。 それを決めるのは、他ならぬ学生自身ということで、1 人ひとりの自立を大事にして、学生 1 の自立性を尊重し、能力を最大限に発揮させる。 そして、学生のニーズ、要望に応えていく、ということを、大きな方針としています。 また、キャリアサポート部門のビジョンとしては、日本の高等教育機関において、モデル となるキャリア形成支援プログラムを作りたいと考えています。 この部門は一般の学生を対象とした支援については、ある程度のサポートができてるかな と思うところまできています。 ここから先は限られた特別なニーズを持つ人、ポスドクもそうですし、外国人留学生もそ うですし、それと並んで障害のある学生、それを担うプログラムを作っていきたいと考え ています。 2 つ目が各教育組織における教育支援を側面から支援するということです。各教育組織が主 役だということは大きく掲げています。 キャリア形成は、大学時代に何を身につけたかが問われます。 それをサポートするメインの舞台は当然、教育組織となります。 キャリアサポート部門では、教育組織ができないこと、あるいは、各教育組織でやらなく ても集中化することで効率的に実現できることをやっていく、というスタンスでいます。 もう少し全体像の話をします。 まず入学時から卒業後まで発達的な全てのプロセスを支援する。 これが大事であると考えています。 各段階に応じた積み上げ、これが卒業後のキャリアを拓く。 低年次から主に視野を広げ、自己を高めることを授業科目で実現していきます。 そして、将来に向けて具体的に実現するという高年次を迎えます。 授業と学生指導の融合が必要になってきます。 さらに学生の経験を統合するために、キャリアポートフォリオが必要になり、自ら意味づ けして、自分の将来について考えていく。 その有効な援助資源となるのが、先を歩いている OB や OG ですので、卒業生を組織して その人的リソースを十分に活用できるようにしています。 就職活動支援のメニューとしては、ガイダンス・セミナーが 1 つの柱、もう一つの柱が個 別の相談、という 2 本立てです。ガイダンス・セミナーは全学生向けとニーズ別とがあり、 その 1 つとして、発達障害の学生の支援講座があります。 ここから、発達障害およびそのグレーゾーンにある学生の支援についてお話します。 学内支援リソースの1つが私たちキャリア支援部門になります。 この部門の役割は学生を社会につなぐところです。 出口から見て、どのように学生を、いるべき場所へ着地させていくかです。 2 障害に関しても専門家集団ではありません。学内連携に支えられています。 1 つは学習面で支える障害学生支援、もう 1 つは心理面で支える学生相談、精神科が主な連 携リソースです。 キャリアサポート部門の対象学生ですが、今後の進路選択などを必要とする学生と言うこ とで、就職活動について相談を求めて来る学生すべてが対象になっています。 この中に誰が含まれるか。まずは、働くことや、就職活動に苦悩すると思われる学生です。 感覚的な表現で恐縮ですが、私も面談を担当していますが、面談をしていると、この子は 苦労するだろうな、主にコミュニケーションの部分や、突飛なことを言ったりして社会性 の課題がある場合があります。 これは就活の面接を超えていけるだろうか、働き始めて会社の人とうまくやっていけるだ ろうかという学生群になります。 そしてこの学生群の中に発達障害やグレーゾーンの学生がいます。 特に診断がある発達障害の人たちだけを対象に支援をやっているのではなく、このような 構図で、困難を抱える学生に対する支援の一環としてやっています。 発達障害のある全ての学生が対象ではありません。 発達障害があっても、キャリアセンターの支援を受けずに社会に出ていく学生は、相当数 いるのではないかと考えています。 私どもは研究型大学であり、世の中を変えるような偉大な発明は、研究者が並外れた集中 力やこだわる力を発揮し実験を何千万回繰り返すことで、生まれてきているという側面が あります。発達障害のある学生の中にはこのすぐれた研究的才能の芽を有する者もおり、 その部分を評価されてそのまま社会に出て行くケースもある。 ですから、発達障害の診断があるからといって、全員を支援対象としましょうという流れ ではありません。 次に、発達障害学生の来談経路です。 直接来談するケースと、紹介で来談するケースがあります。 紹介の場合は、学内の支援組織や指導教員、保護者からということになります。 大体割合を言うと今は半々ぐらいです。 数で言うと、今年度に入って非常に濃いグレーゾーンも含めて 20 名程度来談しています。 この数はだんだん増えているという実感があります。 2 年前は通年で半分でした。 2 年で約 2 倍になったと認識しています。 これは発達障害の学生が増えたと言うより、発達障害に対する支援の連携が密になり関係 各部門からのご紹介が増えて、診断がついている学生が増えたことが 1 つの要因になって いると考えています。 私どもキャリアサポート部門へ相談に来るのは、就活が気になり始める 3 年次または修士 3 課程 1 年次の春から冬にかけてが多いです。 また、就職活動を経て発達障害に気づくというケースがあります。 採用面接を受けても、受けても、受けても落ちるという学生が、どのように対処して良い かわからないと、またすべての面談に落ちるとなりますので、精神的にも追い詰められて いるケースがあります。 続いて、何をやっているかです。 発達障害学生の支援、取組について、ここ 2~3 年の事例をいくつかご紹介します。 1 つは、学内の有機的連携の推進です。 これは、どのようにやってきたかというと、障害学生キャリア形成支援 WG を置いて、保 健管理センター、精神科、学生相談、障害学生支援室の実際に学生に接している先生方に 集まっていただき、社会へ繋ぐ、という視点から、何をやるべきかを議論するところから やってきました。 少し詳しく説明します。 まず、1つ目として、平成 25 年度に WG を作りました。26 年度も継続していますが、25 年度は、主に基盤作りで、発達障害学生に対する相談体制はどうあるべきかの議論と、合 理的配慮に対して、将来に繋ぐということでも、外に働きかけていく必要があると感じて いましたので、これらの勉強を進めてきました。 そして、26 年度が、最初の取組を開始する年となりまして、学内外の支援リソースを整理 し、足りないものは何かを考えて、具体的に少しずつ組み立てていくということで動き出 しました。 合理的配慮に関しても、企業に啓発をということで、パンフレットを配布するということ をやってまいりました。 2 つ目として、発達障害学生に対する就職支援の充実策として、発達障害学生のための就職 活動準備講座を試行してきました。これは後ほど紹介します。 3つ目として、教職員の啓発で、FD 研修、発達障害学生に対する理解と支援ということで、 学内への働きかけをしてきました。 最後が、企業の意識・調査ということで、企業にリーフレットを配りました。 リーフレットは A4 三つ折りで、障害のある学生の雇用についてと採用時における合理的配 慮のお願い、筑波大学の障害学生支援について、大きくこの 3 部構成です。 企業にリーフレットを配るときに配慮したことは、合理的配慮について、声高にお願いし すぎないことです。 やはり、企業の方は、若干、用心しているかなというところもあり、慎重にやっていく必 要があるのではないかということで、「採用時における配慮をお願いします」というお願い と同時に、筑波大学ではそのためのご相談を受けますということを打ち出しています。 もし、本学の障害がある学生の採用にご関心があれば、是非私どもにご連絡いただいて、 4 一件一件、ご相談させていただきたいというスタンスです。 次に就職活動準備講座です。 まず、一般の学生に対する就職活動の支援のプロセスは、「筑波式の就活」、と呼んでいま すが、まず、業種研究、企業研究、環境理解で視野を広げ、さらに自分が何をしていくか 自己理解を深める。 そして、応募する企業が決まったら、エントリーシートを書いて、面接を受け、そして内 定をもらって終了、この各プロセスを支援していくことが就職支援の中核です。 発達障害学生の主なニーズや困りごとを挙げてみます。 まず、働くことについては、人との関わりが苦手で、職場でうまくやれるか不安。 これは、就労した後に感じる不安です。 2 点目、生活リズムが崩れやすく、毎日、朝行けるかという不安。 これは就労以前の部分、基本的生活の部分です。疲れやすくて残業がある会社は無理、と いう学生もいます。就職活動についても、たくさんの不安を持っています。これは一般学 生も持っているものですが、不安の程度が発達障害学生は非常に深刻だと感じています。 友だちが作れず、孤立しているケースも多くみられ、情報戦と言われる就職活動を闇の中 で孤独に戦っている。 でも、普通に就職したいという思いは強くあると感じていまして、ここから中核的な就職 支援に加え、発達障害のある学生にどのような支援策を講じるべきか、ということを議論 しまして、モデルを作りました。 まず、就職活動支援に入る前の就業準備性の向上支援です。 2 つ目は、一般就職と並行して障害者雇用枠での就職も視野に入りますので、その、雇用枠 を視野に入れた就職支援。3 つ目は卒業後のフォローアップです。 発達障害学生の場合、必ずしも卒業と同時に就職が決まるという状況には、残念ながらな っておりません。 卒業してから就職活動をするということもありますので、外部連携機関とつながり、学校 も手を離さずに……その手をいつ離していいのかも今後検討すべき悩ましい問題なのです が、繋がっていくための策作りです。 支援の上で大事にしていることとしては、4つあります。 1つ目は、いつも伴走していることです。 これも、感覚的な言い方ですが、キャリアセンターは非常にオープンで、学生がいつでも 訪ねられるようにローカウンターがあって、パーテーションも立てずに職員が座っていて、 学生がいつでも会いに来られる、という物理的な環境を整えています。 予約相談が基本ですが、発達障害のある学生には予約外でも来ていいよと言っています。 就職活動時期になると、面接がうまくいかないことが続いたり、突然の予定変更やマルチ 5 タスクで複数社の選考を進めていかなければならないことも出てきて、精神的に非常に不 安定になるケースがあります。 そんな学生たちに、何かあったらいつでも行っていいんだ、と思ってもらえる関係と環境 を作るよう努力しています。 2 つ目は、本人の意志を大切にすることです。 夢ばかりではいけないのですが、大げさに言うと、世界を変える発明をするかも知れない 人なのに、出来ない方に目を向けると言うのも違う、ということで、夢と現実のバランス、 一般就職と障害者雇用枠での就職など、情報提供しながら、本人の意思を大事に進めてい くということをやっています。 3 つ目は、メンタルヘルスの状態に常に注意することです。 大学やそれ以前の学校生活の中でつらい経験をしたり、就職活動で大きな壁にぶつかった ことが原因となって抑うつ傾向を生じている学生もおり、保健管理センターや障害学生支 援室と連携しながら、前向きな取組み姿勢が維持できるよう、支援するということをやっ ています。 4 つ目は、時にはブレーキとなることです。 学生は非常に焦ります。できれば卒業と同時に就職したい、それは当然持っている学生の 願望でもあり、こちらとしてもなんとかその希望がかなえられるよう支援をしていきます。 ただ、こちらがブレーキにならなければいけないこともあります。 大事なことは体調、元気であれば何でもできる。だから体調を維持する。 次は卒業です。卒業できなければ、就職が決まっても取消しになることもあります。 頑張って卒業したことは、生涯にわたる自信となります。 就活はいつでもできるよ、ずっと決まるまで一緒にやるからと、やっていきます。 体験を積みつつ、もう少しゆっくりやろうというように一緒にやっていくことを大事にし ています。 就職準備性をピラミッドで考えると、一番上に職業適性、次に基本的労働習慣、対人技術、 日常生活管理、一番下に健康管理となります。 通常の就職支援の場合、自己理解と環境理解を進めながら職業適性の部分に焦点を当てて やっていきますが、発達障害のある学生の場合はその下の部分が非常に重要であると思っ ています。特に基本的労働習慣と対人技能の部分、コミュニケーションの部分を早く課題 に気付いて自分から取り組んでいく気づきの機会をもうけられないかということで 2014 年 度から就職活動準備講座という試みを始めました。 株式会社 Kaien という発達障害学生の支援をやっている事業者と話し合いを重ねて、職場 でのコミュニケーションをシュミレーションできるプログラムを開発して実施しています。 初年度の実践をベースに、より効果的で実践的なプログラムとなるよう、2015 年度は中間 面談と事後面談、支援者会議を組み合わせる形で、少し形を整えて、11 月から 2 年目の講 6 座を始めたところです。 最後に今後の課題です。 1 点目は、入学時からのトータルの支援プログラムの構築です。 入学時からいろいろな支援はありますが、キャリア、社会につなげることを前提にしたも のができないか。その具体策として、 2015 年度中に何とか手を付けたいと思っているのが、 成長暦の蓄積と「学生紹介書」への展開です。 これは本人が配慮要望も含めて、企業が安心して学生を受け入れられるような自己紹介書 を作成できる支援ノウハウを確立し、加えて、学修や学生生活を支えてきた支援者からみ た客観的な評価や能力を活かせる体制・配慮に関する所見も付加できないかと検討してい ます。トレーニング開発というのは、障害保障とのバランスを取りながらやっていかない といけないのですが、社会に出るときは、報・連・相プラス質問のスキルと言われていま す。本質的な発達ではなくても認知的カバー、そこまで持ってくるプログラムが何とかで きないかと考えております。 2 点目が職業体験機会をすることで、豊かな体験を積ませる。 3 点目が合理的配慮に対する雇用側の啓発を進める。 これに関しては、合理的な win-win のバランスポイントはどこかを大事にしたいと考えて います。企業のニーズも個々人のニーズも異なるので、どちらも win-win になるバランス ポイントについてともに考え、企業の理解を深めていくことが大事ではないかと考えてい ます。 7
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