新たな総合評価落札方式の 実施状況と効果について

土木学会論文集 F4(建設マネジメント), Vol. 71, No. 4, I_235-I_240, 2015.
新たな総合評価落札方式の
実施状況と効果について
大野 真希 1・森田 康夫 2・冨澤 成実 3・横井 宏行 4
1
正会員 国土技術政策総合研究所 建設マネジメント技術研究室(〒305-0804 茨城県つくば市旭一番地)
E-mail:[email protected]
2
正会員 国土技術政策総合研究所 建設マネジメント技術研究室(〒305-0804 茨城県つくば市旭一番地)
E-mail:[email protected]
3
非会員 国土技術政策総合研究所 建設マネジメント技術研究室(〒305-0804 茨城県つくば市旭一番地)
E-mail:[email protected]
4
正会員 株式会社建設技術研究所 マネジメント技術部(〒103-8430 東京都中央区日本橋浜町 3-21-1)
E-mail:[email protected]
国土交通省直轄工事においては,平成 17 年 4 月に施行された「公共工事の品質確保の促進に関する法律」の
基本理念に基づき,透明性の確保,技術競争の促進等の改善効果を期待して総合評価落札方式の適用拡大を図
り,平成 19 年度以降はほぼ全ての直轄工事で総合評価落札方式を適用してきたところである.
平成 25 年度からは,総合評価落札方式の諸課題に対応するために,新たな施策として「二極化」を打ち出し,
全国的に本格運用を開始した.本稿では,二極化により期待される効果の現時点での発現状況等を確認するこ
とを目的として平成 25 年度の総合評価落札方式適用工事に関するデータを基に調査・分析・影響の整理を行っ
た結果,①施工能力評価型では一定の効果が発揮されている②技術提案評価型では引き続き改善を図る必要が
あるという実態を確認した.
Key Words:Bill for ensuring the quality of public works, Overall evaluation bid method, Bipolarization
1. はじめに
国土交通省直轄工事においては,平成 17 年度に施行さ
れた「公共工事の品質確保の促進に関する法律」
(以下「品
確法」という)の基本理念に基づき,価格及び品質が総
合的に優れた内容の契約を目的とした総合評価落札方式
の適用拡大を図り,平成 19 年度以降はほぼ全ての直轄工
事で同方式を適用してきたところである.
(図-1)
国土交通省直轄工事で総合評価落札方式が定着してい
く中で,その効果や課題については,多角的な視点から
様々な分析が行われてきた.とりわけ,石原ら 1)は平成
2 年から平成 25 年までの総合評価落札方式の変遷を踏ま
えた落札者決定方法,評価値の算定方法,評価項目と評
価方法,基礎点と加算点の重み付け等に着目して,その
効果等を分析することにより,総合評価落札方式の全般
的な課題を明らかにしている.
また,国土交通省では,
「総合評価方式の活用・改善等
による品質確保に関する懇談会」
(座長:小澤一雅東京大
学大学院工学系研究科教授)を設置し,公共工事の入札・
契約に関する諸課題への対応について有識者から意見を
聴取し,総合評価落札方式の制度改善に反映してきた.
更に,平成 23 年度には,技術提案書の作成や審査に係
る競争参加者・発注者双方の事務手続きの負担増大,民
間の技術力活用の理念からの乖離,品質確保の理念から
の乖離といった課題に対応するため,タイプの適用の見
直し(二極化)を含む総合評価落札方式の改善方針を打
ち出した.
14,000
総
合 12,000
評
価 10,000
落
札 8,000
方
式 6,000
の
4,000
実
施 2,000
件
数
0
I-235
97.1% 98.8% 99.2% 99.2% 98.7% 99.4% 99.2%
(件)
100%
総
76.2%
80% 合
評
価
60% 落
札
40% 方
式
の
16.9%
20% 適
用
0% 率
H17
H18
H19
H20
H21
総合評価落札方式の実施件数
H22
H23
H24
H25
総合評価落札方式の適用率
図-1 年度別総合評価落札方式実施状況(適用率・件数)
簡易型
標準型
高度技術提案型
従来
発注者が示す標準的な仕様(標準案)に対し社会的要請の高い特定の
課題について施工上の工夫等の技術提案を求める場合
確実な施工に資する簡易な施工計画
社会的要請の高い特定の技術的課題に関する施工上の工夫等に係る提案
高度な施工技
術等により社
会的便益の
相当程度の
向上を期待す
る場合
し 事高
てで 度
いあ 技
るる 術
工が 提
事 案
標
型
準
適
型用
を対
適象
用
工
、
企業が発注者の示す仕様に基づき、
適切で確実な施工を行う能力を有
しているかを確認する場合
提案内容
評価方法
点数化して評価
ヒアリング
必要に応じ実施
予定価格
設計図書に定める標準案に基づき予定価格を作成
Ⅱ型
施工方法に加え、工事
目的物そのものに係る
提案
Ⅲ型
Ⅱ型
見直し
技術提案評価型
施工上の特定の課題等に関
して、施工上の工夫等に係る
提案を求めて総合的なコスト
の縮減や品質の向上等を図
る場合
企業が、発注者の示す仕様に基づき、適切で確実な
施工を行う能力を有しているかを、施工計画を求め
て確認する工事
施工上の工夫等に係る提案
施工計画
部分的な設計変更を
含む工事目的物に対
する提案、高度な施
工技術等により社会
的便益の相当程度の
向上を期待する場合
部分的な設計変更や
高度な施工技術等に
係る提案
有力な構造・工
法が複数あり、
技術提案で最
適案を選定する
場合
実績で評価
可・不可の二段階で評価
ヒアリング
実施しない
必要に応じて実施(施工計画の代替も可)
WTO対象工事は必須※1、
それ以外は必要に応じて実施
必須
段階選抜
実施しない
ヒアリングの適用に際し必要に応じて実施
WTO対象工事は必須※2、
それ以外は必要に応じて実施
必須※2
点数化
標準案に基づき作成
標準案に基づき作成
Ⅱ型
通常の構
造・工法で
は制約条
件を満足で
きない場合
施工方法に加え、工事目 3
的物そのものに係る提案
評価方法
予定価格
Ⅰ型
施工能力に加え、技術提案を求めて評価する
施工能力評価型
提案内容
通常の構
造・工法で
は制約条
件を満足
できない
場合
技術提案に基づき予定価格を
作成
Ⅰ型
施工能力を評価する
企業が、発注者の示す
仕様に基づき、適切で
確実な施工を行う能力
を有しているかを、企
業・技術者の能力等で
確認する工事
高度な施工
技術等に係
る提案
有力な構
造・工法が
複数あり、
技術提案で
最適案を選
定する場合
Ⅰ型
S型
技術提案に基づき作成
AⅢ型
AⅡ型
AⅠ型
図-2 総合評価落札方式の二極化のイメージ
各地方整備局等(北海道開発局,沖縄総合事務局含む.
以下同じ)では,平成 24 年度から改善方針に基づく試行
に順次取り組んでおり,平成 25 年度からは全国的に本格
的な運用を開始している.
〔総合評価落札方式の改善の方針〕
①施工能力の評価と技術提案の評価に二極化
②施工能力の評価は,大幅に簡素化
③技術提案の評価は,品質向上が図られることを重視
④評価項目は原則,品質確保・品質向上の観点に特化
なお,国土技術政策総合研究所(以下「国総研」とい
う)では,岡野ら 2)が,現在本格運用されている新たな
総合評価落札方式(以下「新方式」という)の基礎とな
る改善案を提案するとともに,その改善案に基づく試行
状況について報告している.さらに,田嶋ら 3)4)により,
総合評価落札方式適用工事における工事特性と落札率の
関係性,落札者の過去の工事成績評定点と当該工事に対
する工事成績評定点の関係性に関する分析が行われてお
り,総合評価落札方式の運用に関する課題等が抽出され
ている.
本稿は,こうした制度運用の状況や先行研究の内容を
踏まえ,国土交通省直轄工事における総合評価落札方式
の落札結果データ等に基づき,新方式の取り組み状況と
効果に関する調査・分析・影響の整理を行うものである.
2. 総合評価落札方式の二極化について
総合評価落札方式の二極化とは,図-2 に示すように,
従来は「簡易型」
,
「標準型(Ⅰ型,Ⅱ型)
」
,
「高度技術提
案型(Ⅰ型,Ⅱ型,Ⅲ型)
」の 3 区分に分かれていた方式
を,
「施工能力評価型」と「技術提案評価型」の 2 区分に
再編したものである.
施工能力評価型は,過去の実績等に基づき競争参加者
の技術的能力を評価するタイプであり,施工計画を求め
ない「施工能力評価型(Ⅱ型)
」と,施工計画の適切性を
審査するものの点数化は行わない「施工能力評価型(Ⅰ
型)
」に分類した.技術提案評価型は,施工上の工夫に係
る提案を求める「技術提案評価型(S 型)
」と,高度な施
工技術に係る提案を求める「技術提案評価型(A 型)
」に
分類した.
また,新方式における価格以外の要素の評価項目は,
タイプに関わらず,次の 3 つの観点に基づき,公共工事
の品質確保・向上に対する重要性等に応じて設定するこ
とを基本とした.
①企業の能力等,②技術者の能力等,
③技術提案(施工計画)
配点の考え方は次のとおりであり,各タイプの具体的
な配点割合の例を図-3 に示す.
・総合評価は,品質確保・向上の観点に特化する.
・品質確保の観点からは,企業に蓄積する技術力,工事
の支援体制等が重要である一方,配置技術者の能力が
重要であることから,
「企業の能力等」と「技術者の能
力等」の配点割合を同等に配分する.
・施工能力評価型(Ⅰ型)で求める施工計画は,原則,
「可」
,
「不可」で評価し,点数化しない.
・技術提案評価型では,品質向上の観点から,技術提案
の配点を高く設定する.
・特に,技術提案評価型(A 型)では,民間の高度な技
術力を活用して品質向上を図る観点から,技術提案の
I-236
<配点割合>
総合評価対象 40(30)
段階選抜対象 40(30)
施工能力評価型
施工計画※
企業の能力等※
20(15)
技術者の能力等
20(15)
※ 施工計画は、可か不可のみを評価する。
※ 施工体制確認型でない場合は、()内の点数とする。
※ 「地域精通度・貢献度等」の評価は「企業の能力等」の中で必要に応じて設定する。
総合評価対象60(50)
段階選抜対象 30(20/30)
技術提案
評価型(S型)
技術提案※
30(20/30)
企業の能力等※
15(10/15)
技術者の能力等
15(10/15)
※施工体制確認型でない場合は、()内の点数とする。
※ 「地域精通度・貢献度等」の評価は「企業の能力等」の中で必要に応じて設定する。(WTO対象の場合設定しない。)
※WTO対象の場合、企業の能力等及び技術者の能力等は段階選抜での評価のみに利用し、総合評価では評価しない。なお、WTOの配点は
別途設定する。
総合評価対象70(50)
技術提案
評価型(A型)
段階選抜対象 40/60
簡易な技術提案※
20
技術提案
70(50)
企業の能力等
20
技術者の能力等
20
※簡易な技術提案は段階選抜で必要に応じて評価
※施工体制確認型でない場合は、()内の点数とする。
図-3 二極化後の各タイプにおける配点割合の例
表-1 二極化後の施工能力評価型における期待される効果と懸念される弊害に対する調査・分析方法
手続の簡素化による競争参加者・発
注者双方の事務負担の軽減
期待される効果
施工能力
評価型
平成23年度と平成25年度に全国の地方整備局等で契約された工事に
「技術者の能力等」の配点拡大による
おいて,落札者と非落札者の得点(率)差を比較することにより,新しい
適切な企業選定
配点基準や評価基準の適用効果を分析⇒3.(2)
施工計画を求めない(点数化しない)
ことによる品質低下の懸念
懸念される弊害
二極化前(簡易型)と二極化後(施工能力評価型Ⅱ型)での工事成績
平均点を比較し,工事目的物の品質(成績)低下の発生状況を把握⇒
3.(3)
平成23年度と平成25年度に全国の地方整備局等で発注された一般
実績を重視したことによる受注企業の 土木工事(3億円未満、CDランク)を対象に比較整理を行った「受注件
偏り・新規参入機会の阻害
数が多い上位20%の企業が受注した割合」と「新規参入企業が受注し
た割合」のデータから現状を確認⇒3.(4)
表-2 アンケート調査の概要
調査時期 平成26年1月15日~2月14日
調査対象
調査・ 分析方法
平成25年度上半期に,新方式により入札・契約手続が行われた工事
の競争参加者(534者)及び発注者(226者)を対象に実施したアンケー
ト結果から現場の状況を確認⇒3.(1)
平成25年度上半期に、新方式により入札・契約手続きが行わ
れた工事の競争参加者及び発注者
・負担軽減の状況(競争参加者、発注者)
調査項目 ・特定の企業への受注偏りの懸念(発注者)
・評価項目の設定状況と配点(競争参加者)
回答状況 競争参加者534件、発注者226件(全タイプ計)
みで評価する.
・WTO 対象工事についても,原則,技術提案のみで評価
する.
以上の背景を踏まえ,施工能力評価型については,表-1
に内容を示すとおり総合評価落札方式の二極化により
“期待される効果”と“懸念される弊害”を設定すると
ともに,その実態を把握するための調査・分析を行った
結果を以下に報告する.また,技術提案評価型について
は,平成 25 年度に技術提案評価型(S 型)で発注された
工事に関するデータを基本として,二極化による影響を
整理した結果について報告する.
3. 施工能力評価型に関する調査・分析
(1) 競争参加者・発注者の負担軽減効果について
二極化による競争参加者・発注者双方の負担軽減効果は,
その評価方法の違いにより施工能力評価型(Ⅱ型)と施
工能力評価型(Ⅰ型)で異なる.施工能力評価型(Ⅱ型)
は,従来の簡易型で求めていた施工計画を求めずに技術
的能力を評価するため,負担軽減効果が発現することは
自明と言える.
一方,施工能力評価型(Ⅰ型)では施工計画を求める
ものの点数化は行わずに可・不可の審査のみで活用する.
簡易型に比し,競争参加者にあっては施工計画の記載内
容が簡素になること,発注者にあっては審査資料の準備
や審査・評価に要する技術的判断が容易になることで負
担軽減効果が発現すると考えられるが,その実情は明ら
かではない.
このため,競争参加者及び発注者を対象に行われた既
往のアンケート調査(概要は表-2 参照)に基づき施工能
力評価型(Ⅰ型)における負担軽減効果を評価する.ア
ンケート結果は図-4 に示すとおりであり,競争参加者・
発注者ともに「負担は変わらない」との回答が過半数以
上を占めているものの,
「負担が軽減した」との意見も一
定の割合で確認できる.特に,競争参加者が行う施工計
画の作成では 39%,発注者が行う審査資料の準備では
44%,審査・評価では 49%が「負担が軽減した」と回答
しており,施工計画を求めるタイプの施工能力評価型(Ⅰ
型)においても一定の負担軽減効果が得られていると評
価できる.また,具体的な意見として,競争参加者から
は「1 工事当たりの施工計画書の作成時間が約 3.6 時間短
I-237
負担が増加
1件
2%
テ
|
マ
の
設
定
発
注
者
変わらない
36件
67%
負担が増加
0件
0%
審
査
資
料
の
準
備
負担が軽減
17件
31%
施
工
計
画
書
の
作
成
競
争
参
加
者
変わらない
59件
54%
工
事
成
績
評
定
点
負担が軽減
24件
44%
負担が増加
0件
0%
審
査
・
評
価
負担が軽減
43件
39%
5.0
4.0
加
算
点
2.0
19%
20%
13%
(
10%
10%
10%
得
点
率
10% の
差
5%
施工計画
技術提案
企業の
能力等
技術者の
能力等
0.5 点
施工能力評価型(Ⅱ型)
0.8 点
簡易型
3.5 点
施工能力評価型(Ⅱ型)
0.5 点
簡易型
1.9 点
施工能力評価型(Ⅱ型)
施工能力評価型(Ⅱ型)
簡易型
1.2 点
簡易型
)
1.0
0.1 点
75.3 点
74.7 点
74.7 点
74.0 点 74.1 点
H21末
工事成績評定 要領改正
72 点
H18
H19
H20
H21
H22
H23
H24
H25
15%
6%
0.0
74 点
において,より同種性の高い実績を優位に評価する等の
工夫が講じられていることが想定される.
以上より,総合評価落札方式の改善によって,技術者
評価についても企業評価と同様に重視した適切な企業選
定の仕組みになってきていると言える.
25%
11%
76.3 点 76.4 点 76.5 点
図-6 工事成績の経年変化(簡易型、施工能力評価型(Ⅱ型)
)
得点率の差
3.0
75.9 点
76 点
H17
負担が軽減
26件
49%
(施工能力評価型Ⅰ型)
得
点
の
差
H24 新方式 試行
H25 新方式 本格運用
70 点
変わらない
27件
51%
図-4 二極化前後の事務的負担に関するアンケート結果
得点差
H17 品確法施行
総合評価方式本格実施
78 点
変わらない
30件
56%
発
注
者
負担が増加
8件
7%
80 点
0%
地域性等
図-5 落札者と非落札者の得点差及び得点率の差
(施工能力評価型Ⅱ型)
縮された」
,発注者からは「総合評価審査委員会の審議回
数が減少した」などの回答があった.
(2) 施工能力評価型の加算点から見る適用効果について
図-5 に落札者と非落札者の得点差及び得点率差を整理
し,二極化前の簡易型と二極化後の施工能力評価型(Ⅱ
型)で比較した結果を示す.
まず得点差に着目すると,
「企業の能力等」と「技術者
の能力等」は簡易型に比べ施工能力評価型(Ⅱ型)の得
点差が大きくなっていることが分かる.特に「技術者の
能力等」ではその傾向が顕著であり,改善方針に基づき
技術者の能力等に係る配点を高めた影響が評価結果に表
れたものと考えられる.
次に得点率の差に着目すると,
「技術者の能力等」で施
工能力評価型(Ⅱ型)の得点率の差が高まっている結果
が見て取れる.配点を拡大しただけでは得点率に変化は
見られないため,施工能力評価型(Ⅱ型)では簡易型に
比べて技術者間の優劣を付け易い評価基準が採用されて
いるものと考えられる.具体的には,技術者の施工実績
(3) 施工能力評価型における工事品質低下の懸念について
施工能力評価型(Ⅱ型)は,施工計画を求めないこと
で事務負担の軽減が期待されている一方,これまで施工
計画の審査により確保されてきた工事品質が損なわれる
ことも懸念される.
しかし,二極化後の工事成績評定点に関しては,図-6
に施工能力評価型(Ⅱ型)及び簡易型の工事成績平均点
の経年変化を示すように,二極化以前と同等の評定点を
維持しており,傾向の変化は見られない.施工能力評価
型(Ⅱ型)においては,施工計画の審査を行わないもの
の,前述のとおり技術者の能力等に関する配点の拡大や
競争参加者間の差が付き易い評価基準への見直しなどの
工夫が講じられているため,懸念されていたような工事
品質の低下が生じるような事態は発生していないものと
考えられる.
(4) 実績重視評価による工事受注者の偏りの状況について
総合評価落札方式を二極化することにより,技術提案
書の提出を求めない施工能力評価型においては,図-7 に
アンケート結果(アンケート調査の概要は表-2 参照)を
示すように,競争参加者・発注者の双方から「工事を受
注できる企業が特定の企業に偏るのではないか」
,
「実績
や表彰のある企業が有利となるため新規参入企業(本稿
では,新規参入企業とは過去 3 年間における同整備局・
同工事種別の発注工事の受注がない企業をいう.以下同
じ)が受注できないのではないか」との懸念があった.
上記の懸念に対する現状を把握することを目的として,
図-8~10 に工事受注企業の偏りの状況や新規参入企業の
受注状況について,二極化前後を比較して示している.
図-8 には,予定価格 3 億円未満の一般土木工事におい
て,受注件数が多い上位 20%の企業が受注した割合を示
I-238
施工能力評価型(Ⅱ型)
発注者
からの回答
施工能力評価型(Ⅰ型)
参加企業のうち新規参入企業の割合
懸念が減少
1件
2%
懸念が減少
2件
2%
4000社
3500社
参
加
企
業
数
どちらとも言
えない
52件
76%
どちらとも言
えない
81件
75%
50%
4500社
懸念が増加
15件
22%
懸念が増加
25件
23%
新規参入割合37%
3000社
新規参入割合35%
2570社
30%
2500社
2000社
1806社
1000社
974社
0%
0社
・企業の基礎評価点そのものが受注につながるため、受注出来る企業が固定化してしまう
・受注実績の少ない中小企業にとっては、工事表彰等の加点が大きく影響している
・企業が工事実績(より高い同種性)を持っていない場合には大差が生じる
①新規参入企業
②新規参入企業以外
平成25年度
③参加企業に占める新規参入企業の割合
図-9 予定価格 3 億円未満の一般土木工事の
図-7 施工能力評価型における工事受注者の偏りに関する
競争参加者のうち新規参入企業の割合
アンケート結果
発注工事のうち新規参入企業の受注工事の割合
受注件数の上位企業20%の受注件数割合は、1%減少
上
全
位
体
企
受
業
注
の
件
受
数
注
に
件
占
数
め
割
る
合
100%
50%
4000件
80%
60%
29%
30%
47%
3500件
46%
工
事
件
数
54%
53%
0%
2500件
2000件
平成25年度
30%
3298件
2829件
1500件
1000件
平成23年度
40%
3000件
17%
17%
40%
20%
新
規
参
入
企
業
の
割
合
10%
1507社
500社
平成23年度
競争参加者
の主な意見
20%
1500社
・受注する企業に偏りが発生する懸念がある
・企業及び技術者の表彰が有効期間内に複数回使用できるため、特定企業が有利となる
・施工実績のある業者が今まで以上に優位となり、新規企業の参入が不利となる
発注者の
主な意見
40%
新規参入割合9%
20%
新規参入割合10%
10%
500件
0~10%
20~100% 10~20%
10~20% 20~100%
0~10%
0件
図-8 予定価格 3 億円未満の一般土木工事で受注件数が多い
344件
310件
平成23年度
平成25年度
①新規参入企業が受注
上位 20%の企業が受注した割合
0%
新
規
参
入
企
業
が
受
注
し
た
工
事
の
割
合
②新規参入企業以外が受注
③新規参入企業が受注した工事の割合
す.図-8 から,受注件数が多い上位 20%の企業が受注し
たことを示す数字は,二極化前後で特に変化していない
ことがわかる.このことから,二極化により特定の企業
に受注が偏るといった傾向は現状では発生していないと
言える.
図-9 には,予定価格 3 億円未満の一般土木工事に競争
参加した企業のうち新規参入企業の割合を示す.図-9 か
ら,新規参入企業の割合は二極化前後で大きな変化がな
く,二極化による弊害で新規参入企業自体が減っている
という事実は確認できない.
図-10 には,予定価格 3 億円未満の一般土木工事におい
て新規参入企業が工事を受注した割合を示す.図-10 から,
新規参入企業が受注した割合に関しても,二極化前後で
傾向の変化がなく,二極化によって新規参入企業の受注
が減ったという事実も確認できない.
以上のことから,二極化当初に競争参加者・発注者の
双方から懸念されていた「特定企業への受注の偏り」や
「直轄工事の実績がない新規参入企業が受注しづらくな
る」等の弊害については,二極化が直接の原因となって
企業への弊害が大きくなっているというような現象は確
認できない.
図-10 予定価格 3 億円未満の一般土木工事のうち新規参入
企業が受注した割合
4. 技術提案評価型に関する二極化の影響の整理
技術提案評価型に関しては,現時点では二極化後に発
注されたほとんどの工事が完成まで至っておらず,二極
化による効果の分析等を行うには時期尚早であるため,
本稿では技術提案評価型における二極化の影響を整理し
た結果について以下に示す.
まず,技術提案評価型(旧標準Ⅰ型及び高度技術提案
型)で発注された工事件数について整理した結果を示す.
二極化前の平成 22 年度から平成 24 年度に技術提案評価
型で発注された工事が平均約 300 件であるのに対し,二
極化後の平成 25 年度は約 500 件に伸びており,二極化に
よる各タイプの適用基準の再編により,より多くの工事
に技術提案評価型が適用されていることが確認できた.
次に,技術提案評価型で平成 24 年度に発注された工事
(旧方式 405 件)と,平成 25 年度に発注された工事(新
方式 14 件)の平均成績表定点について整理した結果を示
す.平均成績評定点に関しては,旧方式で 78.2 点,新方
式で 78.2 点となっており,現時点では傾向の変化は確認
できなかった.
I-239
最後に,技術提案を求めるタイプで以前から課題とな
っていた「技術評価点の 1 位同点者が複数となり,その
結果として価格競争と同じ状況になり,
『企業の技術力を
競わせてより良い技術を採用する』という技術提案評価
型の理念から乖離する状況」の発生状況について整理し
た結果を示す.平成 25 年度に二極化後の技術提案評価型
(S 型)で発注された工事において,技術評価点の 1 位同
点者が複数となった工事について整理した結果,WTO 対
象工事で 1 位同点案件が約 46%(175 件中 81 件)と多く
発生しており,工事種別では「鋼橋上部」
,
「PC」
,
「道路
改良」
,
「橋梁下部」
,
「トンネル」で 1 位同点案件が特に
多い結果が確認できた.これらの工事種別は,高度な知
識や専門性が求められる構造物工事が中心であり,専門
的な技術力・マネジメント力を有する民間企業に対して
高度な技術提案を求めることで,価格と品質により優れ
た成果(工事目的物)を期待する工事である.このため,
発注者としても高度な技術提案を適切に審査・評価する
ための体制を構築するとともに,民間企業の持つ高度な
技術力・マネジメント力を引き出すためのテーマ設定等
に努めてきたところであるが,昨今の業務量の増加や職
員数の減少の影響も相まって,必ずしも十分な成果があ
げられていない場面も見受けられ,技術提案評価型の運
用面における更なる改善の必要性を示唆するものと言え
る.
期待された効果が発揮されつつある」ことから,一定の
効果が発揮されていることが分かった.しかし,技術提
案評価型に関しては,
4 章で示したように未だ改善を必要
とする部分があることも明らかになった.
国土交通省としては,これらの課題に柔軟に対応し,
日本の入札・契約制度をより良くしていくために,運用
の多様性も考慮した試行等の取り組みを考えていく必要
がある.
国総研では,今後も総合評価落札方式の二極化につい
てフォローアップを継続し,その効果の検証を行うこと
で総合評価落札方式の更なる質の向上を目指すとともに,
地方公共団体を含めた統一基準化等にも取り組んでいく.
5.おわりに
3)
謝辞:今回の分析を行うにあたり,各地方整備局の方々
にはデータ提供について多大なご協力を頂きました.こ
こに深く感謝の意を表します.
参考文献
1) 石原康弘・森田康夫・久保尚也:総合評価方式の変遷から見
た技術評価方法の課題と改善に関する考察,土木学会論文
集 F4(建設マネジメント)
,Vol.70,No.4,I_157-I_169,2014.
2)
岡野 稔・田嶋崇志・森田康夫:直轄工事における総合評価
方式の改善の方向と試行状況(速報)について,第 30 回建
設マネジメント問題に関する研究発表会・討論会講演集,
2012.
田嶋崇志・森田康夫・岡野 稔・横井宏行:総合評価落札方
式における実施状況報告,第 68 回年次学術講演概要集,
平成17年の品確法の施行を受けて適用拡大が図られて
から 10 年が経過した総合評価落札方式であるが,先述し
たように,総合評価落札方式の新たな施策である二極化
を全国運用して約 1 年間分のデータを整理・分析した結
果,施工能力評価型では「懸念された弊害は発生せずに
CD-R,2013.
4)
田嶋崇志・森田康夫・大平和明・横井宏行:国土交通省発
注工事の入札と成績の動向について,第 69 回年次学術講演
概要集,CD-R,2014.
(2015.5.18 受付)
Implementation and Effectiveness of the New Overall Evaluation Bid Method
Masaki ONO, Yasuo MORITA, Narumi TOMISAWA, Hiroyuki YOKOI
The Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism has been expanding the application of the overall
evaluation bid method, based on the principal of the ”Bill for Ensuring the Quality of Public Works", enacted in 2005,
and the method has been applied for almost all the works ordered by the Ministry since 2007.
The bipolarization was introduced in 2013 to resolve the problems of the overall evaluation bid method and it has been
implemented throughout the country. In order to clarify the effect of the bipolarization, survey and analysis using the
data of FY 2013 were conducted and this pater reports that (1) it was verified a certain degree of effectiveness for the
construction capacity evaluation type and (2) improvement is continuously required for the technical proposal
evaluation type.
I-240