パブリック・マネジメント・フォーカス PPP/PFI 編 2016.2.19 PPP/PFI「優先的検討」が促す官民連携対話 福田裕之 みずほ総合研究所 社会・公共アドバイザリー部 PPP 事業推進室長 政府は 2015 年 12 月、一定規模以上の公共施設を整備する際、PPP/PFI 手法の採用を 優先して検討するよう求める「指針」を策定した。限られた財源の中で、より効率的 に利便性の高い施設整備の促進を目指す。この「優先的検討」の実効性を高めていく うえで、従来にも増して民間の知見やノウハウを取り入れる仕組みづくりが重要だ。 分野では関西国際空港や仙台空港などで案件が組成さ PPP/PFI 事業の停滞打破へ 「優先的検討」の仕組みを導入 れましたが、道路(愛知県道路公社)や下水道(浜松 市)の分野では実施方針が取りまとめられた段階にあ ―― 政 府 の「 民 間 資 金 等 活 用 事 業 推 進 会 議 」は、 り、分野によって進捗にばらつきがあります。 2015 年 12 月に「多様な PPP/PFI 手法導入を 一方、内閣府によると、1999 年の PFI 法制定以来、 優先的に検討するための指針」を策定しました。 PFI の導入事例は 500 件を超えましたが、PPP/PFI の 福田 2015 年6月に策定した「骨太の方針 2015」で 実績がゼロの地方自治体もあるなど、すそ野が十分に 掲げていた仕組みの構築を実行に移した形です。指針 広がっているとはいえない状況です。 は、国や人口 20 万人以上の地方公共団体が新たに公 ――「優先的検討」の導入は、 PPP/PFI 手法の導入・ 共施設を整備したり、老朽化した設備を更新したりす 活用の起爆剤となるのでしょうか。 る際に、従来の一般的な公共事業の手法に優先し、民 福田 優先的検討をどう進めるかは公共施設整備事業 間企業の資金や経営・技術的能力を活用する PPP/PFI を所管する大臣がガイドラインを策定することになっ 手法の採用を検討するプロセス(優先的検討)を導入 ていますが、地方公共団体の中には、 「知識・ノウハ するよう求めています。 ウ不足」や「必要性を感じていない」といった理由で ―― 政府は、2013 年にも「PPP/PFI の抜本改 PPP/PFI 事業を推進しないとか、推進していないとい 革に向けたアクションプラン」を策定して、PPP/ うところがあります(次ページ図1) 。また、指針が PFI 手法の活用を推進してきましたが、どのような 対象とするのは、人口 20 万人以上の普通地方公共団 状況なのですか。 体および特別区の 181 団体が行う、①事業費総額が 10 福田 アクションプランでは 2014 年度からの3年間 億円以上②単年度の事業費が1億円以上――の事業で を「集中強化期間」に設定し、公共施設等運営権制度 す。 「優先的検討」を導入しただけでは、PPP/PFI 事 (コンセッション)を活用した PFI 事業の数値目標を 業が飛躍的に増加するということは期待しづらいで 前倒しで実施することを掲げました。空港、上下水道、 しょう。 道路の各分野で導入することにしており、すでに空港 ―― 地方公共団体内部での検討には限界がある、 1 パブリック・マネジメント・フォーカス 2016.2.19 ということですか。 川上段階で実現可能性を議論する 官民対話「地域プラットフォーム」の活用 福田 例えば、地方公共団体が公共設備を整備する際 に、PPP/PFI 手法がなじむかどうかは「導入可能性調 ―― そうであれば、民間との適切な意思疎通がより 査」を行って判断します。調査を行うには予算が必要 重要となってくるのではないですか。 ですが、事前にある程度の導入可能性が見えないと、 福田 確かに、事前に民間企業などの意見を聞ければ、 予算は獲得できません。しかし、地方公共団体だけで 導入可能性について、ある程度の感触を得ることがで は、成算があるかどうかの判断は難しいというジレン きます。 「民間の反応が芳しくないので PPP/PFI の導 マがあります。 入を断念する」という判断も可能になります。 欧米では、民間から公共への転職も活発なため、民 「優先的検討」の実効性を高めるためには、 官民の「対 間の感覚を持った地方公共団体の職員もいますが、 「純 話」が不可欠だと考えます。実際、PPP/PFI 事業の一 粋培養」が多い日本では、公共の世界しか知らず、事 方の担い手である民間からも、事業の構想を練る「川 業の採算性に対する知識は限定的になりがちです。地 上段階」での対話を求める声が上がっています。 方公共団体の意識では「PPP/PFI 手法は難しいだろう」 ―― 各地で官民の「対話」はうまくいっているの と考える事業でも、民間であれば「こうすればできる」 ですか。 という提案が可能かもしれません。逆に、地方公共団 福田 現時点では、事業の発案段階で官民がオープン 体が「やりたい・できる」と考える事業でも、民間の に情報交換し、 意識を共有する「場」は限られています。 目線では「難しい」とされるケースも出てくるでしょ 地方公共団体が PPP/PFI の実施を決めて公募手続き う。こうした官民の認識のギャップが、PPP/PFI 事業 に入る前に、特定の企業だけにそうした情報を伝えて のハードルを高くしている側面があります。 意見を聞こうとすれば、公平性の観点から問題が生じ ることになるからです。 ■図 1 地方公共団体が PPP/PFI 事業を推進しない ・ 推進していない理由 そこで注目したいのが、地方公共団体と地元企業、 (%) 60 学識経験者、金融機関などで構成する「地域プラット フォーム」の活用です。官民がオープンに意思疎通を 50 図れる場を設ければ、川上段階で PPP/PFI 手法につ 40 いて民間の意見を聞き、実現可能性を探ることができ 30 ます。 「指針」でも、PPP/PFI 事業を拡大するうえで 留意する点として、産官学金で構成する「地域プラッ 20 トフォーム」の設置に言及しています。 10 のような点にあるのでしょうか。 わからない その他 地元企業の 受注が減る 必要性を 感じていない ノウハウがない 0 ――「地域プラットフォーム」を活用する意義はど 福田 まず、地方公共団体が民間の意見を吸い上げる ことで、PPP/PFI 手法に関する官民の考え方の違いを 解消することができます。前述のとおり、ある公共施 設の整備・運営が PPP/PFI になじむかどうかをめぐり、 注:複数回答。回答団体数 789。 資料:経済財政諮問会議「非社会保障分野 WG 資料」より、みずほ総合研究所作成 官民の意見が異なるケースがあります。事業の大枠を 2 パブリック・マネジメント・フォーカス 2016.2.19 検討する段階で意見を交換することができれば、双方が ―― さまざまな業種の企業の参加が必要です。 満足できる事業スキームが構築しやすくなるでしょう。 福田 民間からの参画は地元企業が中心になります また、図1でも示したように、PPP/PFI を導入する が、PPP/PFI 事業に関するノウハウの蓄積やスタッフ と「地元企業の受注が減る」という意識があります。 の数などが限られるため、事業を統括する代表企業の 提案書作成などに手間もかかるため、 「大企業しか対 役割をいきなり担わせるのは難しいでしょう。プラッ 応できず、地元にメリットはない」とも思われがちで トフォームの範囲をどこまで広げるかは地域の特性に す。しかし、PPP/PFI にはさまざまな業務が含まれ、 よりますが、すでに関連ノウハウを持っている大企業 地元企業が担う役割も大きいのです。例えば、PPP/ も加われば、より実践的な議論ができるのではないで PFI は、公共施設の設計から建築、運営、維持、管理 しょうか。事業施設についてのノウハウを有する企業 までを包括的に発注するため、受注側は複数の企業が や有識者を幅広く集めるというスタンスで構えた方が グループを組んで引き受けることになります。その過 よいでしょう。幅広く人材を集めることで、事業に関 程では、地域のどの企業が、どの業務に対応できるか、 するアイデアを相互に検証し合うことも可能になり、 などの情報を共有し、マッチングする必要があります。 より実効性のある議論が期待できます。 その際、取引先企業についての豊富な情報を持ってい ――「地域プラットフォーム」の検討や設置はどの る地方銀行などの地元金融機関が加わる意義は大きい 程度進んでいるのですか。 といえます。 福田 全国で多くの地方自治体が設置の検討を行って いる段階ですが、先進事例としては福岡市の取り組み ■図2 「福岡 PPP プラットフォーム」の設置・運営 会員企業 ・A社 ・B社 ・C社 経済界 (商工会議所) 福岡市 [委託] [場の設置] が知られています。福岡市は継続的に PPP/PFI 事業 に取り組んでおり、地元企業や大学を巻き込んだ「福 岡 PPP プラットフォーム」を形成しています(図2) 。 地元の九州大学は、産官学連携に熱心で、PPP/PFI の [参加] ノウハウを提供して事業を進める組織を持っており、 実務的な役割を担っています。 プラットフォーム運営事務局 金融機関 福岡市 その他 地域プラットフォームの普及に向け、政府も形成支 援に乗り出している。内閣府は、 地域プラットフォー ムの形成にモデル的に取り組もうとする地方公共団 建築設計 事務所 福岡 PPP プラットフォーム (官民対話の場) 体を募集し、立ち上げに必要な調査やセミナーの開 催など予算面などでの支援を行っている。また、国 土交通省では、地方自治体ごとのプラットフォーム 建設会社 とは別に、 全国を8つの地方ブロックに分け、 ブロッ ●PPP のノウハウ蓄積 設備設計 事務所 ●企画提案力・技術力の向上 ●個別事業の情報提供と意見交換 ●異業種間のネットワークの形成 ビル管理 会社 管工事 会社 クごとにプラットフォームを形成する取り組みを進 建設 コンサル タント めている。こうした「地方ブロックプラットフォー ム」は、地方公共団体や企業に人材や情報、ノウハ ウが欠けていることに対応するためにも、ブロック 内の優良案件に関する情報やノウハウを蓄積し、セ 電気工事 会社 ミナーなどを開いて各地域に横展開させる役割を担 う。2015 年 12 月には全国に先駆けて中部の地方 ブロックプラットフォームが発足した。 資料 : 福岡市「官民協働事業(PPP)への取組方針(平成 26 年 4 月版) 」より、みずほ総合研究所作成 3 パブリック・マネジメント・フォーカス 2016.2.19 ――「地域プラットフォーム」を効果的に機能させ ているほか、公有資産活用においては「サウンディン るポイントはどこにありますか。 グ調査」という民間事業者の意見を募集する機会を設 福田 まず、PPP/PFI の対象となる具体的な事業を継 け、その結果を事業化の際の条件設定に活用していま 続して複数検討することです。案件がないまま検討を す(表) 。また、流山市では、対象施設や事業概要な 進めても、単なる情報交換に終わってしまいます。ど どを定めず、市内の公共設備で実現可能なことを自由 の地方公共団体にも公営住宅や学校はあり、老朽化に に提案してもらう「FM施策の事業者提案制度」を導 伴う建て替えニーズも出てきます。こうした案件を掘 入しています。これは、事業として採用されれば、提 り起こすことが重要です。そのうえで、発注する側の 案者が受注できる仕組みとなっており、効果的・効率 地方公共団体が事業の目的を明確に打ち出し、情報を 的な施設整備の実施につながっています。 共有した地域企業が主体的に参加することが求められ ―― こうした地方自治体の取り組みが広がれば、 ます。 民間にとっても積極的に事業を提案するインセン また、プラットフォームの立ち上げでは、国の支援 ティブになります。 を期待できますが、維持するための費用は自ら賄う必 福田 PPP/PFI 手法は、公共事業に民間の創意工夫 要があります。発注側の地方公共団体が一定程度を負 を活用することで、従来より質の高い施設を低コスト 担するのはもちろんですが、民間がまったく負担しな で整備・運営できるメリットがあります。今回、政府 くてよいということにはならないでしょう。大きな額 が導入した「優先的検討」という仕組みを実効性の高 にはなりませんが、どこがどれだけ負担をするのか、 いものにするには、 「地域プラットフォーム」などの 財政面の対応も検討しておく必要があります。 官民対話の場を活かすことが重要です。 みずほ総研では、PPP/PFI 事業の立ち上げに関わる サウンディング調査、事業者提案制度…… 各地で進む官民連携の推進施策 支援を行っています。まず、どのような手順で進める のが最適かといったアドバイスから、事業の川上段階 ―― PPP/PFI 事業を推進するうえでは、民間が から実施段階まで、幅広くノウハウの提供を行ってい 事業案を提案しやすい環境整備も大切です。 ます。<みずほ>のネットワークは全国に広がってい 福田 民間が地方公共団体に PPP/PFI 事業を提案す るため、さまざま地域で「官民対話」の場づくりに貢 る仕組みはありますが、十分に活用されていません。 献できると考えます。 地方公共団体は、民間の提案に対する見解を回答する ■表 官民連携事業の推進に関する先行事例 義務こそありますが、ある企業が事業案を提案したか 実施主体 らといって確実に受注に結びつくわけではないので 実施方法 主な実施事業例 サウンディング型 市場調査 ・小学校跡地活用検討 ・旧関東財務局建物活用検討 課題解決型公募 ・土地活用検討 こうした状況を打開しようと、独自の推進施策を 大阪府立 病院機構 公募型のアンケート +ヒアリング調査 ・粒子線がん治療施設整備事業 行っている地方自治体もあります。例えば、横浜市で 流山市 FM 施策の事業者 提案制度 ・防災備蓄倉庫整備促進事業 ・防災カフェ整備運営事業 す。せっかく民間が優れた案を持っていても、最終的 横浜市 に公募になるのであれば、積極的に地方公共団体に提 案しようとは思わないでしょう。 は、民間事業者から提案された内容を評価・採用する 資料:国土交通省総合政策局「官民連携事業の導入円滑化のための情報整備方策等検討業務報告 書」よりみずほ総合研究所作成 「パートナーシップ方式」と呼ばれる取り組みを行っ みずほ総合研究所 総合企画部広報室 03 - 3591 - 8828 [email protected] c 2016 Mizuho Research Institute Ltd. 4
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