米国:証券取引委員会による上流企業に対する対産油・ガス国政府支出

更新日:2016/2/17
ワシントン事務所 星 康嗣
米国:証券取引委員会による上流企業に対する対産油・ガス国政府支出の開示規則案
(各種報道)
・2015 年 12 月、米国証券取引委員会(SEC)は、米国に上場する上流企業に対して、対産油国政府への
支出について開示する規則案(以下「2015 年開示規則案」という。)のパブリックコメントを開始し、約 5 年
間にわたり懸案となっていた規則の施行に向けて動き出した。本件は、石油会社から産油国に対して支
払われた資金の透明性を高めることが目的。
・予定どおり最終案が発効された場合、開示規則は発効日から少なくとも 1 年経過後の最初の年次レポ
ートに適用されることから、対象企業は 2018 年上半期に最初の情報を公開することになるものと見込ま
れる。
・SEC は現行の 2016 年6 月施行は非常に挑戦的なものであり、それまでに最終案を承認することが困難
であるとの見解。対象企業も、産油ガス国政府に対する支出がビジネス上極めて重要な情報であり、ほと
んどの NOC が開示規則の対象に含まれないことから、NOC が入札において優位になるとして開示規則
に反対。2012 年のように、反対する企業団体が再び提訴する可能性も十分にあり、不透明性も高い。
米国証券取引委員会(SEC)は、2015 年 12 月に米国金融改革法いわゆるドッド=フランク法
(Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act)第 1504 条に基づき、石油をはじめとす
る資源採取企業による対政府支出の開示規則案(以下「2015 年開示規則案」という。)に係るパブリックコ
メントを開始し、約5 年間にわたり懸案となっていた規則の施行に向けて動き出した。パブリックコメントは
2016 年 1 月 25 日まで実施され、2 月 16 日までに返答がなされたうえで、規則は当該委員会の承認をも
って 2016 年 6 月 27 日までに施行される予定である。しかし、2012 年の規則案の公表から最終案の承認
までは 1 年半以上かかったことを念頭に、SEC は 2016 年 6 月の期限が非常に挑戦的なものであり、そ
れまでに最終案を承認することが困難であるとの見解を表明している。予定どおり最終案が発効された
場合、開示規則は発効日から少なくとも 1 年経過後の最初の年次レポートに適用されることから、該当す
る資源採取企業は 2018 年上半期に最初の情報を公開することになるものと見込まれる。
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Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
1.これまでの経緯
2010 年 7 月に成立したドッド=フランク法は、SEC が資源採取企業の対政府支出の開示規則(以下
「開示規則」という。)を 2011 年 4 月までに制定することを定めていた。この開示規則は同法第 1502 条の
紛争鉱物利用開示規則とともに、開示義務を負うこととなる資源及びエネルギー開発に関連する企業か
らの強い反発により、規則の制定が遅れることとなり、SEC は 2012 年 8 月になってようやく同法第 1504
条を履行するための規則(17C.F.R. Section 240.13q-1、以下「2012 年規則」という。)を公表した。しかし、
アメリカ石油協会(API)などは規則が不利益な情報の開示を強制するものであり合衆国憲法修正第 1 条
の表現の自由を侵害し、また費用対効果に関する不適切な分析に基づいたものであるとともに、公正な
競争を制限することを控えるという米国証券取引法の義務に違反するものであるとして提訴した。コロン
ビア特別区連邦地方裁判所は、2013 年 7 月に、レポート「公表」の義務を法の誤った解釈であり、例外を
一切認めない SEC の決定を専断的かつ恣意的であるとして規則を無効とする判決を下した。SEC は控
訴を断念する一方で、2014 年 9 月に Oxfam America は SEC の規則制定の法的義務の履行を求めて提
訴し、判決では SEC が規則の公布を違法に保留しているとされた。これを受けて SEC は行程表を提出し、
これに基づき今般パブリックコメントを実施したものである。
2. 現行案における開示義務内容
開示義務を負う発行体(issuer)は、米国証券取引法に基づき SEC に年次報告書(様式 10-K、20-F又
は 40-F)の提出義務のある米国内又は外国発行体、かつ石油、天然ガス又は鉱物の商業的開発に従
事する発行体である。また、発行体の子会社又は支配下にある別法人による支出も開示の対象となる。
なお、支配基準は SEC に対する年次報告書の監査済み財務諸表で適用される会計原則に基づき決定
される。
発行体が行った政府に対する、石油、天然ガス又は鉱物の商業開発を促進し、かつ僅少でない(同一
会計年度内で単一又は複数の支払いによる 10 万ドル以上の支払い)支払いが開示の対象となる。政府
は大臣などの個人、外国政府、外国の地方政府又は米国連邦政府を含むものとして、商業開発は探査、
採掘、精製/製錬、輸出又はそれを含む活動のライセンスの取得として定義される。また、支払いとは税
金、ロイヤルティ、手数料(ライセンスフィを含む)、生産権利金、ボーナス、インフラ改善のための支払い
も含むものとされる。
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該当する発行体は、以下の情報を開示する義務を負い、会計年度末から 150 日以内に SEC に所定の
様式で該当する支出に関する情報を提出し、公表することが要求される。
・該当する支出に係る「プロジェクト」(政府との支払い義務を規定する法的合意を主たる内容とするア
プローチとして定義され、複数の法的合意に基づく活動も含む)ごとの類型及び合計額
・該当する支出に係る政府ごとの種類及び合計額
・カテゴリーごとの支出の合計額
・支出した通貨
・支出を行った会計期間
・支出を行った発行体の事業セグメント
・支出を受け取った政府及びその所在国
・支出に関連する発行体の「プロジェクト」
・支出の目的となる資源
・「プロジェクト」の概略位置
このうち、「プロジェクト」の定義については 2012 年規則には含まれていなかったものである。2015
年規則案では明確に契約を基準とすることが示され、これまで API が主張してきたナイジェリアのデルタ
州のような地域を基準とすることは否定されたことになる。また、2015 年規則案では SEC が発行体に対し
て個々の事例に応じて適用除外の例外を認めることができるとされた。これは、2012 年規則に対する無
効の判決において一切の例外を認めないことが問題視されたことから、SEC はケースバイケースである
が適用除外を認めることとしたものである。しかし、SEC は例外を認めたが、適用除外の類型化は否定し、
外国政府との契約に基づく守秘義務についても適用除外を認めるに足る事由ではないとしている。
3.適用を受ける企業
開示規則の適用を受ける企業は1,100社以上とされ、開示規則に反対するExxonMobileなどの米国の
国際石油会社(IOC)も含まれるが、石油や天然ガスの開発に関わる事業を行う日本企業は直接的には
開示規則の影響を受けない。また、ニューヨーク証券取引所に上場している国営石油会社(NOC)も含ま
れ、Petrobras、PetroChina 及び CNOOC Ltd が開示規則の適用を受けることになる。一方で多くの NOC
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(Rosneft や Pemex など)は米国に上場してしていないことから開示規則の適用を受けないが、Statoil は
自主的に政府に対する支出を開示している。
4.業界内の反応
開示規則に反対する企業及び団体は、該当するような政府に対する支出がビジネス上極めて重要な
情報であり、ほとんどの NOC が開示規則の対象に含まれないことから、NOC が入札において優位にな
るとして開示規則に反対している。また、ExxonMobile は開示規則を該当企業が履行するためのコストが
業界全体で年間 10 億米ドルに達するとして開示規則を批判している。また、API は、加盟企業が政府に
対する支出の透明性向上を支持し、SEC の開示規則に代えて、資源採取企業だけでなく資源国政府も
参加する採取産業透明性イニシアティブ(Extractive Industries Transparency Initiative:EITI)に基づき情
報を開示することを推奨している。EITI は自主的な多国間の協力の枠組みであり、米国政府や日本政府
など 49 カ国、ExxonMobile などの IOC を始め国際石油開発帝石なども参加している。しかし、アンゴラの
ような重要な石油産出国であり汚職と透明性の欠除が懸念される資源国が EITI に参加していないという
課題もある。また、2015年に開示された最初の米国EITIに基づく報告書では、ExxonMobil,、Chevron 及
び ConocoPhillips が資源国政府に対する税金の支払いを開示しなかったとされ、資源採取の透明性向
上を求める団体などから失敗として批判されている。
5.今後の見通し
EU とカナダは、ドッド=フランク法第 1504 条を参考にして同様の資源採取企業による対政府支出開
示規則を米国に先行して制定した。米国内でも資源採取の透明性向上に係る主導権を失ったという批判
がある一方で、今般発表された 2015 年規則案は、無効の判決を受けた 2012 年規則に対して微修正さ
れたに過ぎず、判決の主たる理由の一つである公表義務に対してもほとんど緩和されていないことから、
規則に反対する企業団体が 2015 年規則案に対して再び提訴する可能性は十分にあるものと思われる。
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。