業績概要(PDF:293KB)

気候変動と魚種交替をつなぐ生物学的メカニズムに関する研究
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受賞者
氏名(年齢):髙須賀 明典 氏(39歳)
所属:国立研究開発法人 水産総合研究センター 中央水産研究所
資源管理研究センター 資源生態グループ グループ長
〒236-8648 神奈川県横浜市金沢区福浦 2-12-4 TEL 045-788-7639
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業績の概要
主な業績
略歴:平成15年東京大学大学院農学生命科学研究科
博士後期課程修了。独立行政法人水産総合研究セン
ター中央水産研究所 研究員、主任研究員を経て、平
成26年より現職。平成23年より東京海洋大学客員准
教授を兼務。博士 (農学)。
カタクチイワシとマイワシの間で優占魚種が入れ替わる「魚種交替」現象は気候変動
に起因する。しかし、環境変動に魚がどのように反応して魚種交替に至るかという生物
学的メカニズムには不明点が多い。「何故、同じ海洋条件下で、カタクチイワシは繁栄
し、マイワシは崩壊し、そして入れ替わるのか?」「何故、異なる海洋生態系間で魚種交
替は同期するのか?」独自の視点から魚種交替の生物学的メカニズムの解明に取り組んだ。
● 既存の有力説はカタクチイワシとマイワシで摂餌生態が異なることに着目した「栄養
動態」仮説であった。これに対し、カタクチイワシとマイワシの間で初期生活史におけ
る成長速度最適水温が異なることに着目した「成長速度最適水温」仮説を提唱した。
● 様々な小型浮魚類 (カタクチイワシ、マイワシ、サバ類、マアジ) の最適水温値と資源
高水準期、適水温範囲と資源変動規模が密接な関係にあることを示し、仮説を拡張した。
● 様々な環境要因 (水温、塩分、餌) に対するカタクチイワシとマイワシの産卵特性を魚
種間および海洋生態系間 (黒潮海流域とカリフォルニア海流域) で比較した結果、水温お
よび塩分に対する特性では、両海流域間でカタクチイワシとマイワシの魚種間関係が逆
転していた。太平洋の東西で水温の高低の関係が逆であるにもかかわらず、魚種間関係
が逆転しているため、魚種交替が同期するというシナリオを考案した。産卵現場の餌の
量に対する特性では、産卵へのエネルギー割り当て戦略の違いも明らかになった。
● 同じカタクチイワシ属あるいはマイワシ属の魚種でも、海流域が異なれば生物特性は
劇的に異なる。環境要因に対する生物特性は海流域ごとに魚種特有であることを示した。
主要論文・特許
• 「Optimal growth temperature hypothesis: Why do anchovy flourish and
sardine collapse or vice versa under the same ocean regime?」Canadian
Journal of Fisheries and Aquatic Sciences, 64: 768–776(2007)
• 「Contrasting spawning temperature optima: Why are anchovy and sardine
regime shifts … ?」Progress in Oceanography, 77: 225-232(2008)
• 「Occurrence and density of Pacific saury larvae and juveniles in relation to
environmental factors …」Fisheries Oceanography, 23: 304-321(2014)
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受賞評価のポイント
カタクチイワシとマイワシの間で優先魚種が入れ替わる「魚種交替」現象の生物学的
メカニズムについて、既存の仮説では説明できない現象を説明する新たな仮説を提唱
し、様々な魚種や環境要因について比較を行い、今後の資源変動予測に貢献しうる成
果を上げられた点が高く評価された。
業績概要
「魚種交替」
気候変動に伴ってカタクチ
イワシとマイワシの間で優
占魚種が入れ替わる現象。
背景
カタクチイワシ
マイワシ
「何故、同じ海洋条件下で、カタクチイワシは繁栄し、マイワシは崩壊し、そして入れ替
わるのか?」「何故、異なる海洋生態系間で魚種交替は同期するのか?」環境に対する魚の
反応に着目して、これらの疑問をできる限り単純かつ直接的に説明する経路を探索した。
成果
「成長速度最適水温」仮説
黒潮海流域
(日本)
1.0
成長速度 (mm day–1)
カリフォルニア海流域
(カリフォルニア)
魚種交替は
太平洋を越えて同期
気候変動に起因する
地球規模の現象
フンボルト海流域
(ペルー)
高水温
低水温
負偏差
正偏差
80
40
3.0
カタクチイワシ仔魚
22ºC
0.4
マイワシ仔魚
16ºC
0.2
15
20
表面水温 (°C)
黒潮海流域
カリフォルニア海流域
(カリフォルニア)
カタクチ
イワシ
マイワシ
2.0
カタクチ
イワシ
1.0
0.5
0.0
2.5
太平洋の東西で水温の
高低の関係が逆であるに
もかかわらず、魚種間関
係が逆転しているため、
魚種交替が同期する。
カリフォルニア海流域
2.0
1.5
フンボルト海流域
(ペルー)
マイワシ
1.5
産卵適水温の指標値
カタクチ
イワシ
60
50
40
30
20
10
0
マイワシ
マイワシ
25
様々な環境要因 (水温、
塩分、餌) に対するカタク
チイワシとマイワシの産
卵特性を魚種間および海
洋生態系間で比較した。
水温特性の場合の例
2.5
黒潮海流域
(日本)
成長速度最適水温
カタクチイワシとマイワシで初期生活史における成長速度最
適水温が6ºC異なる。異なる成長速度最適水温の間で水温
変動が起こることにより、魚種の有利・不利が入れ替わる。
PDO
index
カタクチイワシ
漁獲量 (105 t)
120
カタクチイワシ
0.6
0
10
太平洋気候
変動指標値 PDO相
2
1
0
-1
-2
6
5
4
3
2
1
0
10
8
6
4
2
0
160
マイワシ
0.8
カタクチ
イワシ
マイワシ
1.0
マイワシ
0.5
カタクチ
イワシ
0.0
5
0
1900 1920 1940 1960 1980 2000
年
太平洋の東西で水温の高低の関係が逆である
にもかかわらず魚種交替は同期する。
10
15
20
25
30
産卵現場の餌の量に対
する特性では、産卵への
エネルギー割り当て戦略
の違いも明らかになった。
表面水温 (°C)
同じカタクチイワシ属あるいはマイワシ属の魚種でも、海流域が
異なれば生物特性は劇的に異なる。魚種間関係逆転すらある。
環境要因に対する生物特性は海流域ごとに魚種特有である。
太平洋を越えた魚種交替メカニズムの解明と予測に向けて
 太平洋を越えて魚種交替パターンが酷似する黒潮海流域とフンボルト海
流域の比較に焦点を当て、ペルー海洋研究所との強固な共同研究体制の
下、産卵生態、初期生態、資源生態、海洋環境、数理モデルを含む研究
課題を推進中。他海域 (チリ、ブラジル、モロッコ) へも活動は波及。
 太平洋を越えた魚種交替メカニズムを解明しつつ、海洋分野および数理
モデル分野との連携によって、資源変動の将来予測につなげる。