LPガス保安優良事業者を訪ねて 北海道エア・ウォーター株式会社

LPガス事業団広報 No.202
LPガス保安優良事業者を訪ねて
今回は北海道札幌市の「北海道エア・ウォーター株式会社」
を訪問し、曽我部康社長にお話を伺いました。
───── 訪問先 ─────
北海道エア・ウォーター株式会社
曽我部 康 社長
jjjjjj リスクマネジメントとレベルアップが武器 jjjjjj
(編):これまで御社は保安優良LPガス販売
にフィードバックするという仕組みで
事業者として、国をはじめ各種の表彰を
す。レベルアップについては、個人の知
受賞されています。改めて保安に対する
識量を増やすため必須資格を取得させて
基本的な考え方をお聞かせください。
います。ここでいう必須の資格とは「高
曽我部:自社の弱点を洗い出し、不安な要素
圧ガス第二種販売主任者」
「液化石油ガ
を徹底的に排除するリスクマネジメント
ス設備士」
「丙種ガス主任技術者」
「乙種
を核にしながら保安に当たっています。
第四類危険物取扱者」です。ただ資格を
一方、不安要素を素早く見抜ける資質が
有しているというだけでは、レベルアッ
社員に求められるため、個々の知識と技
プにはつながらないので、資格試験のた
術を向上させるレベルアップにも努めて
めだけの知識から「蓄えた知識を現場で
います。当社はリスクマネジメントとレ
きちんと使える」資質の育成に尽力して
ベルアップを武器にした保安体制を敷い
いるところです。
ています。
(編)
:現在、保安について特に重点的な施策
(編):リスクマネジメントとレベルアップに
や消費者に対する周知は、どんな取り組
ついて、もう少し具体的にお願いします。
みをされているのでしょう。
曽我部:当社のリスクマネジメントは日ごろ
曽我部:保安は順法精神ありきの考え方で遂
の期限管理を主とする保安関連業務管理
行しています。なかでもメーター、警報
の徹底が最低条件となっています。迅速
器の期限管理などは、細心の注意を払い
に弱点を把握するためにも、現場と管理
ながら当たっています。供給設備の事故
部門が情報の共有を通して、常に共通認
防止については、調整器や高圧ホースの
識を持つことが求められます。さらに両
期限管理、不燃防止未着機器の交換など
者が互いに課題を確認するダブルチェッ
全社的に取り組んでいるところです。事
クの実施も重要です。現場が確認し、管
故防止に対する消費者への周知は、基本
理部門が全体の状況を把握して再度現場
的に毎月の検針時などに配布するパンフ
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レット『ハローガスらいふ』の紙上、あ
るいは北海道LPガス協会が年に1度作
成する周知文書を全戸に配布し、広く呼
びかけています。近年、雪害とともに飲
食店などの業務用での一酸化炭素中毒事
故の防止のため、現場に足を運びながら
「換気」の必要性をお伝えしています。
(編):雪害のお話が出ました。どんな対策を
とられているのですか。
夏場でも冬の雪害に向けた
緊急対応訓練に取り組んでいる
曽我部:一時に比べ、消費者への周知が奏功
した部分もあって、確実に雪害由来の事
ンターを維持してきましたが、現在は社
故は減少傾向にあります。しかし近年は
外に委託しています。
「無落雪住宅」での事故が毎シーズン一
定数発生するようになってきました。こ
の住宅は屋根に雪を貯めることで、文字
(編)
:保安の今後について課題はあります
か。
通り落雪しない仕組みです。しかし、大
量の雪が屋根に積もった場合は非常に危
曽我部:雪害のところでも触れたように、カ
険です。風にあおられた雪が屋根を飛び
ンフル剤的な応急措置では追いつかない
出し「ひさし」のようになる状態を「雪
部分が出てきています。
当社でもかつて、
庇(せっぴ)」というのですが、2月の
落雪が直撃しても破損しない堅牢な収納
後半から徐々に気温が上昇し始めると、
ボックスを試験的に開発しましたが、莫
これが溶けて落下するのです。200キロ
大なコストがかかるため普及を断念した
グラムから、場合によっては1トン近い
経緯があります。事故を未然に防ぐ設備
重量になりますので、容器に直撃すると
改善の観点から、業界を挙げて堅牢かつ
甚大な被害をもたらします。当社では、
安価な収納設備や供給設備の開発に取り
豪雪地帯の住宅については、常に容器の
組む必要があるのでは、
と考えています。
収納ボックスを被害の受けにくい場所を
また、高齢者世帯の増加にともなって容
見極めながら再設置するなどの措置を取
器交換の際の除雪など、北海道ならでは
っています。ただ、数年前からは、異常
の課題も鮮明になりつつあります。広大
気象の影響もあるのか、毎シーズンのよ
な面積ゆえの遠隔地の問題もあります。
うに豪雪地帯が移り変わるため、合板製
法令では、緊急時には30分以内に現場
のパネルを収納ボックスに立てかけて、
に駆けつけることが原則求められていま
落雪をそらすなどの応急措置を導入して
すが、現実に照らし合わせると極めて厳
います。
しい部分もあります。
(編):集中監視システムの取り組みについて
(編)
:減少傾向にあるとはいえ、LPガス事
故そのものはなかなか根絶されません。
はいかがですか。
曽我部:2年ほど前まで、当社で集中監視セ
曽我部:これは極めて憂慮すべき事態と考え
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ています。事故発生の確率は「10,000
う販売事業者が数多く存在していますの
戸 の 顧 客 が あ れ ば10年 に 1 度、1,000
で、事業者によってはコストをかけて未
戸なら100年に1度」の確率などと、業
然に事故を防ぐというごく当たり前で基
界内では言われているようです。しか
本的な部分をなかなか直視できていない
し、実際に保安講習会などに参加してみ
のかな、と率直に感じることもしばしば
ると、供給設備の自主期限管理などにつ
あります。
いては、事故に遭遇したことがないとい
jjjjjj 「保安」と「経営」は同じ土俵に jjjjjj
(編):LPガス業界の現在の保安に対する取
おいても決して無視できない課題であ
り組みについて、思うところはあります
り、現実に後継者が不足してしまうとい
か。
った課題も連鎖して発生し始めていま
す。
これだけは業界の自助努力だけでは、
曽我部:2015年度の国の「保安対策指針」
では、2020年に向けての目標「死亡者
解決できない問題なので、行政とも歩調
ゼロ、負傷者25人未満」が示されました。
を合わせながら抜本的に解決できればと
しかし、業界では保安の具体的な数値を
考えています。
ともなう定量的な目標ではなく、数的な
束縛のない定性的な目標に切り替わって
(編)
:これまで一番印象に残っている出来事
はありますか。
いた時期があります。そのため、弊社で
は、「○年度は設備改善を○件実施する」
曽我部:やはり東日本大震災です。あまりの
といった事業者個々に自主的な定量目標
惨状に言葉になりませんでした。当社
を設定していたのです。「保安なくして
は5年前の発生直後の3月25日から5
経営なし」と言われるように、保安あっ
月25日までの2カ月間で延べ396人の
ての経営ですが、北海道はLPガスの消
社員を現地に派遣して、復旧作業に当た
費量が少ないといった収益面での影響も
らせました。ゴールデンウィークを挟ん
あって、企業の規模によっては、どうし
でいたのにもかかわらず、多くの社員が
ても保安に力を注ぐことが難しい状況も
志願してくれたことで大いに感動しまし
あるようです。しかし、
基本的に「保安」
た。
は業界が築く経営そのものと、同じ土俵
にしなければならないと考えています。
(編)
:社長の信条、趣味などを教えてくださ
い。
(編)
:併せて行政について要望はあります
曽我部:困難にぶつかるたびに、
「困難は乗
り越えられる者にしか与えられない」が
か。
曽我部:先にも述べた通り、少子高齢化にと
脳裏に浮かびます。天が与えてくれた試
もなって北海道では近年、過疎地問題が
練だと、前向きに考えることで積極姿勢
大きくなり始めています。経営戦略上に
になれるような気がします。趣味につい
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ては短期集中型でしょうか。これまで手
プレーヤーになっていたかもしれません
がけてきたのは帆船模型、ウクレレの演
(笑)
。今はクラシック音楽の鑑賞と完全
奏などです。これだと思った事柄はとこ
に聴く方に回り、合間を見ながら写真撮
とん追求してきました。ウクレレは熱意
影にも取り組んでいます。
が冷めなければ、もしかすると世界的な
SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS
規模、質ともに北海道を代表するLPガス販売事業者の1つである。保安の面で、業界をリー
ドするのはもちろんのこと、災害への対応も親会社のエア・ウォーターが開発したLPガス仕様
の移動電源車を活用する仕組みづくりを進めている。こうした一歩も二歩も先を見通す姿勢が消
費者から高く評価される理由だ。
(会社の基本情報)
社 名 : 北海道エア・ウォーター株式会社
所 在 地 : 札幌市中央区北3条西1丁目2番地
設 立 : 平成22年(2010年)4月
資 本 金 : 3億円
従業員数 : 712名
事業内容 : LPガス、燃油販売、産業・医
療ガス販売、医療機器の販売、
各種燃焼機器販売、住宅リフォ
ーム、生活関連商品販売
事 業 所 : 道央産業支店、道央エネルギー
卸支店など8支店。道央エア・
ウォーター㈱、道北エア・ウォ
ーター㈱など、主にエネルギー
を扱う地域事業会社が6社
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