ASEAN諸国における実用新案制度について教えて

藤本昇特許事務所 小山 雄一◇弁理士
ASEAN諸国における実用新案制度について教えてください。
1.はじめに
中国の実用新案制度について
(大阪府 N.S)
登録要件は新規性と産業上利用可能
性のみで、進歩性は問われません。
5.インドネシア、フィリピン
いずれの国も保護対象は特許と同じ
は、以前、高額な損害賠償請求が認め
なお、特許と実用新案を両方同時に
であり、進歩性は要求されません。権
られた判決が出て以来、日本でも関心
出願することはできません。権利存続期
利存続期間はインドネシアが出願日から
が高まっており、実際に活用している
間は出願日から6年ですが、2年の延長
10年、フィリピンは出願日から7年です。
企業も多くなっています。
を2回行うことができます
(最長10年)
。
6.シンガポール
その特徴として、初歩審査のみで早
期登録される、無効にされにくい、特
3.ベトナム
許との併願が可能、日本のような注意
保護対象は特許と同じです。出願日
義務違反で無効となった際の損害賠償
(または優先日)から36カ月以内に実
責任の規定がない、といった点が挙げ
体審査を請求する必要があります。
られ、中国は日本と比べて実用新案を
新規性と産業上利用可能性のみの実
利用しやすい状況にあるといえます。
体審査が行われ、進歩性については審
では、ASEANの主要6カ国の実用
査されません。権利存続期間は出願日
新案制度はどのようになっているのか、
から10年です。
国ごとにその概要と注意すべき点につ
いて簡単に紹介したいと思います。
実用新案制度はありません。
7.まとめ
このように、ASEAN主要6カ国で
は、シンガポールを除いて実用新案制
度が設けられています。
注目すべきは、どの国でも保護対象
が特許と同じであり、方法の発明も保
護対象となること、および進歩性が登
4.マレーシア
録要件ではないことです。
保護対象は特許と同じです。出願日
つまり、特許で必要とされる進歩性
から18カ月以内に審査請求しなけれ
を有していなくても登録され、排他的
小特許
(petty patent)
という制度があ
ばなりません。新規性と産業上利用可
権利として有効活用できる場合がある
り、これが実用新案に相当します。保
能性のみが審査され、進歩性は問われ
のです。
護対象は特許と同じであり、方法の発
ません。また、他国での登録に基づく
このように、仮に日本で進歩性が否
明も保護されます。実体審査を経ること
修正実体審査も選択できます。特許と
定されて拒絶査定になった案件であっ
なく登録となります(無審査登録制度)
。
実用新案の併願はできません。
ても、前述したASEAN主要5カ国に
2.タイ
利害関係人は、小特許の付与が公告
権利存続期間は出願日から10年で
おいては有効な権利として活用できる
された後、1年以内に、特許庁に対し
すが、実際に使用されていることを条
可能性がありますので、これらの国で
て登録要件を満たしているか否かの見
件として、5年の延長を2回行うこと
は実用新案制度を利用することも一考
解を求めることができます。
ができます(最長20年)
。
に値するのではないでしょうか。
2016 No.2 The lnvention 67