図書館情報学文献渉猟 ︵上︶ 大学 図書館 の 業務分析

本書では、伝統的な業務に関する内容
において間接的には言及されている。
を読み替えれば機能的には、個々の業務
鶴見大学 長谷川 豊祐
図書館情報学文献渉猟︵上︶
大学図書館の業務分析
1.
﹃大学図書館の業務分析﹄
⒜﹃大学図書館の業務分析﹄の構成
Ⅲ . 広報活動
10
9
Ⅳ . 資料の収集と選択
11
Ⅴ . 資料の受入と処分
15
Ⅵ . 分類と目録
Ⅶ . 資料の装備
21
6
Ⅷ . 資料の配置
9
Ⅸ . 閲覧と貸出
11
Ⅹ . 利用者への援助
ⅩⅠ. 参考業務
10
12
ⅩⅡ. 文献情報管理
18
9
ⅩⅢ. 資料の保存と保管
図 書 が 本 書 で あ る。
﹃大学図書館の業務
基本的な性質や特徴によって類型化され、 れ て い る。﹁ 司 書 職 制 度 な ら び に 待 遇 改
務の操作手順を記述した業務マニュアル
館長会議の運動情況年誌﹂
︵ p.164-209
︶
には、議論の内容と結果の概要や、関連
善に関する日本図書館協会︵主として大
実、専門職制度の確立、大学図書館の業
と違って、本書では個々の業務の意義と
学図書館部会︶および全国国立大学図書
務内容の向上・改善に資するという﹁思
文献の書誌事項も含まれているため、報
よ り 学 び 取 る こ と の で き る 思 想、 方 法、
運動としての諸点をまとめた解説、以上
の 部で構成される綿密な研究もなされ
て い る。﹁ 中 小 レ ポ ー ト ﹂ の 影 響 力 の 大
きさは明らかであるが、大学図書館にお
ける業務の意義と内容を網羅的にまとめ
て い る﹃ 業 務 分 析 ﹄ の 価 値 と 必 要 性 は、
現時点でこそ見直されるべきである。
2.伝統的業務に関わる知識の必要性
大学図書館をあまり知らない人に対し
⒜ 一般利用者
て、図書館職員として図書館のサービス
や 業 務 内 容 に つ い て、 更 に 一 歩 進 ん で、
運営全般について説明を求められる場合
は明快で迅速な対応のしかたをすること
として、行動規範的に﹁利用者に対して
図書館としては極めて重要な業務の一つ
︶
関しては先行研究がなされている 2。
し
﹃ 業 務 分 析 ﹄ の 成 立 の 過 程 と、 評 価 に
⒝﹃大学図書館の業務分析﹄の価値
熱意と共に臨場感をもって伝わってくる。 護者の方たちに学校見学や入試説明を行
がある。簡単なケースでは、高校生や保
電子ジャーナル、リテラシー教育、ラー
が大切である。これらの業務が適切に行
かし、通称﹁中小レポート﹂として知ら
え ば﹁ 利 用 者 の 要 望 と 苦 情 の 処 理 ﹂ は、 告書作成の進行状況と背景が、関係者の
ニング・コモンズなど、新しい業務への
われるためには、図書館活動の細部に精
れている﹃中小都市における公共図書館
︶ に は、 業 務 分 析 に 関 連 す る
p.97-209
学は好評であり、保護者の方によっては、
本の選び方や、大学の構成員にサービス
対象が限定される理由などを質問される
潔に説得力をもって、図書館のあり方を
こともある。外部の人たちに対して、簡
説明するには、図書館職員として業務の
全体像を把握しておく必要がある。
⒝ 関連業界
図 書 館 の 改 修 や、サ ー ビス・運 営 の 再
構築について、建築の専門家からの意見
を参考にしようと、建築家の若い友人を
案内して、大学図書館を見学に出かけた
へ の イ ン タ ビ ュ ー 記 録、 ⑵ 討 議・ 会 議
域の図書館が絵本を大量に所蔵していて、
館を專門にしているわけではないが、地
ことがある。彼は、特に公共建築や図書
記録などの関係資料、⑶﹃中小レポート﹄
︵ 1998
︶ は、﹁ 中 小 レ ポ ー ト ﹂ の 成 立
に 関 し て、 ⑴ 報 告 を ま と め た 委 員 た ち
なうオープンキャンパスでも、図書館見
直接的な言及はないものの、媒体や技術
通し、外部の人々に対して、図書館のあ
﹁ 中 小 レ ポ ー ト ﹂ に 関 し て、 こ れ ま で
にも文献は多数発表され、議論は今でも
章 大学図書館の業務
が網羅されている。
︵
章︵ p.17-︶
29では、﹁司書職制度に関す
る特別委員会﹂の経緯が解説され、付録
の成立とその時代﹄
分析﹂︵ p.30-︶
96における部門の名称と、 る公共図書館の運営﹄
4︶
部門に含まれる業務の個数を示す。第
表 に は、﹁ 第
継続している。更に、
﹃﹃中小都市におけ
1
2
13
3︶
り方を説明できる見識と態度が必要であ
の 運 営 ﹄︵ 1963
︶ と 比 較 す れ ば、 現 場
の図書館員から忘れ去られた報告書と
部門に分類され、現在の伝統的な業務
る﹂との記述がなされている。この例示
年 以 上 前 の 内 容 な の で、
3
言っていいだろう。
1968年と
内容がコンパクトに記述されている。例
業務全体を組織的に把握できる。単に担
160
13 部門 160 業務
想﹂に基づいてつくられている。発行は
当業務の範囲を記述した業務分掌や、業
現在では入手困難な基準や答申が再録さ
19
Ⅱ . 人事管理
積・利用に必要な大学図書館の整備・充
が全てであるが、個々の業務が共通する
業 務
部 門
分析﹄1︶は、広範な学術情報の収集・蓄
大学図書館業務を考える際の貴重な
Ⅰ . 経営管理
のような説明形式により、160業務が
40
14
丸善ライブラリーニュース 第 14 号
サービスを提供している施設であるとい
就学前のお嬢さんのために、有用な住民
ばならない。
きるまで、知識を咀嚼し発展させなけれ
の立場や理解レベルに合わせた説明がで
解の基盤として﹃業務分析﹄は有用である。
ける配分の優先度を判断する際の共通理
域に及んでいる。図書館の業務構造や図
は、図書館という枠を超えて全学的な領
書館を取り巻く環境が変わっているにも
う 認 識 はもっていた。ただ、自 身の 専 門
類の調査に関連して、レファレンスサービ
や、建築の仕事に関する地域資 料や規程
料が公共図書館でも提供されていること
分野である建築関係の雑誌などの専門資
度も貸し出されない本が書架に並んでい
効 率 的に買 う 方法はないのか。何 故、一
のか。何故、学術雑誌は値上がりするのか。
は購入する本をどうやって選定している
何 故、本は増 え 続 けるのか。図 書 館で
が 経 験 した 時 代 は、学 び と 実 務 が一体 化
電算化以前から図書館職員であった我々
の業界における学びの構造を考えてみる。
図 書 館 業 務の電 算 化 を 例に、これまで
う。業務モジュールごとに課題を明確に
を改善し、全体を組み換える必要があろ
で達成感のある業務へ、業務モジュール
意味するところを明らかにして、効果的
けではなく、既存業務や既存サービスの
かかわらず、図書館職員や組織が上手く
スが利用できることも全く知らなかった。
るのか。何 故、図 書 館の人 員は減 らせな
実務と学びが乖離し、個々の業務や職員同
していた牧 歌 的な時代であった。現代は、
3.学びの構造の転換
また、普段は目にすることのないテク
必 要 なのか。現 在ほど、図 書 館に関 する
いのか。何故、そんなに多くの職員の数が
類の業務を担当する職員が存在すること
ている時代はなかったのではなかろうか。
学 びが、図 書 館 職 員 自 身に強く求められ
を前提とした協力関係が見失われている。
士の連携も希薄で、個々の業務相互の連携
改善策を実行するほうが、短期的で部分
し、全体的な解決策を発見し、効果的な
短期的な視点や、部分効率化の観点だ
対応出来ていないのではなかろうか。
前線であるパブリックサービスと、二種
ニカルサービスと、図書館サービスの最
など、図書館職員の仕事の内容について
的な効率化より有効である。
⒟ 業務の再構築
大学図書館業務の電算化は、図書館全
は深く考えたこともなかったそうである。
広がっている昨今では、図書館で提供さ
には見えてこない。図書館の活動範囲が
ビスや蔵書構築などは、意識しても簡単
一方で、
人的支援であるレファレンスサー
は一般的なサービスとして理解しやすい。
活 用 し た 情 報 サ ー ビ ス で あ る OPAC
や、
図書館We bサイトによる情報発信など
基本的なサービスである貸出、ICTを
料費は減少傾向にあり、人的な資源の配
大学から図書館に配分される運営費や資
ルバイトなどの多様な雇用形態の職員が
時、嘱託、委託、派遣、パート、学生ア
業務委託などの一般化に伴い、専任、臨
変化の中に身をおいた図書館職員は、段
ナル、更に、機関リポジトリと図書館業
点として、インターネット、電子ジャー
盤となる総合目録の形成をひとつの到達
より推進され、相互協力と目録業務の基
が 必 要 に な っ て い る と 考 え る。 例 え ば、 あった。電算化は、全図書館員の協力に
様々な事情から、組織や業務の再構築
階的に新たな図書館業務、関連知識、情
固 定 化 し な い 状 況 に な っ て い る。 ま た、 務が融合する基盤となった。この一連の
図書館で働き、毎年の業務配分・分担が
報技術を、各種プロジェクトや日常的業
1︶ 全国国立大学図書館長会議編。大学図書
参考文献
る第一歩であると確信している。
読みなおすことが、大学図書館を変革す
要 な 作 業 で あ る。﹃ 業 務 分 析 ﹄ を 丁 寧 に
れないが業務の本質を理解するために必
業の中から掴みとることは、迂遠かもし
順︶だけではなく、仕事の意味を日常作
図書館業務のオペレーション︵操作手
れている様々なサービスについて、図書
分も同様に減少傾向にある。雇用形態の
務によって学び、咀嚼し、身体化できた。
体における一番大きなプロジェクトで
館員が広義の業界関連の人たちに、分か
多様化と資源配分の減少が、業務の再構
図書館本来の社会的な機能や効果を丁寧
ている。図書館業務における量的な部分
館の直接的なコントロールから遠ざかっ
共有することは、現状では不可能である
全員で協議して、考え方の調整や知識を
電算化と同様に、相当な時間をかけて
386p.
︵ ︶
年 報。 1998, 44
1 p.32-48. <http://
ci.nii.ac.jp/naid/110001818905>
3︶ 中 小 都 市 に お け る 公 共 図 書 館 の 運 営 中
:
小公共図書館運営基準委員会報告。日本
図書館協会、 1963, 217p.
4︶ オ ー ラ ル ヒ ス ト リ ー 研 究 会 編。﹃ 中 小 都
市における公共図書館の運営﹄の成立
と そ の 時 代。 日 本 図 書 館 協 会、 1998,
館の業務分析 日
. 本図書館協会、 1968,
209p.
2︶ 大 庭 一 郎﹁ 大 学 図 書 館 の 業 務 分 析 ﹂ 日
本の大学図書館における専門的職務と非
専 門 的 職 務 の 分 離 の 試 み。 図 書 館 学 会
︵鶴見大学図書館事務長︶
りやすく説明する機会は増えている。
また、業務内容も向上するという成果を
実感しつつ、特に意識的に学ぶことなく、
築を促進する。
伝 統 的 な 業 務 の 多 く は、 業 務 委 託 や
⒞ 学内他部署
特に、設置母体の財務担当部局からの
学びに関わる一連の流れの全てを、業務
に分り易く説明し、図書館運営に経費の
の大半はこれらの伝統的業務であり、そ
し、そのような全館的なプロジェクトも
を遂行する中で自然に経験できた。
かさむ仕組みを了解してもらわなければ
こには多くの運営資源が配分されている。
ない。また、機関リポジトリの活動領域
厳 し い コ ス ト 削 減 要 求 に 対 抗 す る に は、 電算化システムによって運営され、図書
を な ぞ る 程 度 の 表 面 的 な 知 識 で は な く、 配分の量から考えて、業務の再構築に際
ならない。そのためには、教科書の定義
しては、伝統的業務の内容や、再構築にお
自館の利用状況などと関連づけて、相手
丸善ライブラリーニュース 第 14 号
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