[みずほインサイト]民主党の不安はトランプ氏の失速~アイオワ党員

みずほインサイト
米 州
2016 年 2 月 3 日
民主党の不安はトランプ氏の失速
欧米調査部 部長
アイオワ党員集会後の米大統領選挙
03-3591-1307
安井明彦
[email protected]
○ 2016年2月1日、米アイオワ州で予備選挙の初戦となる党員集会が行われた。トランプ旋風に揺れる
共和党が落ち着きを取り戻しつつある一方で、民主党は不透明感が強まった。
○ 共和党ではトランプ旋風が小休止、クルーズ氏の勝利とルビオ氏の健闘によって、「ティー・パー
ティー」対「主流派」という旧来からの対立の構図が浮上しつつある。
○ 民主党ではサンダース氏の健闘が目立つ。クリントン氏は有権者の信頼を獲得しきれておらず、本
選挙に向けた不安材料となっている。
1.いよいよ始まった予備選挙
2016年2月1日、米アイオワ州で、予備選挙の初戦となる党員集会が行われた。7月に行われる各党の
党大会における指名候補の正式な選出、そして、11月8日に行われる本選挙の投票に向けて、いよいよ
選挙戦が熱を帯びてきた。
共和党の党員集会では、「トランプ旋風」が小休止した。得票率でトップとなったのは、テッド・
クルーズ上院議員。実業家のドナルド・トランプ氏は、二番手に止まったのみならず、マルコ・ルビ
オ上院議員に差を詰められた(図表1)。
図表 1
図表 2
共和党における得票率
民主党における得票率
クルーズ
クリントン
トランプ
サンダース
ルビオ
カーソン
オマリー
ポール
0
10
20
30
0
20
40
(%)
60
(%)
(資料)New York Times 資料により作成
(資料)New York Times 資料により作成
1
民主党の党員集会では、ヒラリー・クリントン前国務長官が辛勝した。バーニー・サンダース上院
議員との得票率の差は1%に満たず、サンダース氏の健闘が目立った(図表2)。
2.共和党は「ティー・パーティー」対「主流派」に回帰?
トランプ旋風の小休止により、アウトサイダーの台頭に揺れた共和党は、やや落ち着きを取り戻し
つつある。これまでの「アウトサイダー」対「既成の政治家」という対立の構図から、「ティー・パ
ーティー」対「主流派」という旧来からの構図に回帰する可能性が浮上してきた。
トランプ氏の敗北は、既成の政治家の枠をはみ出したアウトサイダーの限界を示している。党員集
会でのトランプ氏は、穏健派の支持こそ集めたものの、保守派からの支持が伸びなかった(図表3)。
公的年金・医療保険の削減に反対する等、トランプ氏の政策は保守的とは言えない。共和党の主流派
のみならず、「小さな政府」の色彩が強いティー・パーティーの立場とも一線を画してきたことが、
得票率の伸び悩みにつながった。
勢いのピークが早すぎたことも、トランプ氏には災いした。党員集会が近づいてから投票先を決め
た有権者では、トランプ氏を支持した割合は低い(図表4)。全国的な支持率の高さもあり、党員集会
前の段階では、トランプ氏の勝利を予測する声が強まっていた。そのことが、かえってトランプ旋風
への危機感を高める結果となり、ティー・パーティー支持者(図表3では「極めて保守」)ではクルー
ズ氏、主流派(同じく「やや保守」)ではルビオ氏に票が流れたようだ。
トランプ氏は、正念場を迎える。引き続き全国的な支持率は高いが、アウトサイダーであるが故の
限界が示されたことで、急速に失速する可能性は否定できない。次の予備選挙は2月9日にニュー・ハ
ンプシャー州で行われるが、現時点で優勢が伝えられるトランプ氏が、ここでも結果が出せないよう
だと、いよいよトランプ旋風にも終わりがみえてくる。
図表 3
政策志向による得票率
図表 4
(%)
(%)
50
45
45
40
40
35
35
30
25
30
20
25
15
20
トランプ
5
極めて保守
やや保守
穏健
(資料)New York Times 資料により作成
(資料)New York Times 資料により作成
2
当日
ルビオ
0
数日以内
トランプ
ルビオ
一週間以内
0
一ヵ月以内
クルーズ
一ヵ月以上前
5
クルーズ
10
15
10
支持決定時期による得票率
トランプ旋風の小休止によって浮上してきたのが、「ティー・パーティー」対「主流派」の対立の
構図である。勝利を納めたクルーズ氏はともかく、アイオワ党員集会の最大の勝者は、前評判を上回
る強さを見せたルビオ氏だろう。ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事等の他の主流派候補は惨敗して
おり、ルビオ氏を軸とした主流派一本化の流れが強まりそうだ。ティー・パーティーの支持が強いク
ルーズ氏との対決となれば、「ティー・パーティー」対「主流派」という、旧来からの対立の構図へ
の回帰となる。慣れ親しんだ対立の構図であり、その意味でも共和党は落ち着きを取り戻しつつある。
トランプ氏が踏みとどまり、アウトサイダー(トランプ氏)・ティー・パーティー(クルーズ氏)・
主流派(ルビオ氏)の三つ巴(どもえ)となるのか。それとも、吹き荒れた嵐が過ぎ去り、旧来から
の「ティー・パーティー」対「主流派」の構図が浮かび上がるのか。ニュー・ハンプシャー州の結果
が試金石となる。
3.クリントン氏の弱さ
混沌としているのは民主党である。アイオワ州では、大本命である筈のクリントン氏が苦戦、敗北
こそ免れたものの、サンダース氏の健闘が目立った。アイオワ党員集会の結果では、リベラル色が強
まるほど、サンダース氏を支持した割合が高い(図表5)。党員集会が近づいた時点で投票先を決めた
有権者では、両者の得票率はきっ抗しており、勢いに差は見られない(図表6)。
現時点では、サンダース氏が民主党の候補者指名を獲得すると見る向きは、それほど多くない。サ
ンダース氏の支持は、白人に集中している。次のニュー・ハンプシャー州で勝利を納めたとしても、
マイノリティの存在感が強い州では、クリントン氏が圧倒的に有利であると目されている。
民主党陣営にとって気になるのは、有権者の信頼を獲得しきれないクリントン氏の弱さだろう。ア
イオワ州では、「正直で信用できること」を重視する有権者の8割以上が、サンダース氏を選んだ。そ
うしたクリントン氏の信頼感の無さは、本選挙に向けた大きな不安材料である。
図表 5
図表 6
政策志向による得票率
(%)
(%)
70
60
60
50
50
40
支持決定時期による得票率
30
40
20
30
10
20
0
極めてリベラル
ややリベラル
穏健
(資料)New York Times 資料により作成
(資料)New York Times 資料により作成
3
当日
サンダース
数日以内
10
サンダース
一ヵ月以内
0
一ヵ月以上前
クリントン
クリントン
民主党の悩みは、いくら不安があると言っても、クリントン氏に代わる候補がいないことだ。民主
党の予備選挙は、既にクリントン氏とサンダース氏の一騎打ちになっている。しかし、「社会主義者」
を自称するサンダース氏が本選挙で勝つことは、そう簡単ではないという見方が一般的である。アイ
オワ党員集会でも、本選挙で勝つことを重視した有権者は、8割近くがクリントン氏を選んでいる。本
選挙を考えれば、民主党にはクリントン氏の他に選択肢は無い。
これまでの選挙戦では、トランプ旋風に揺れる共和党の混迷ばかりに焦点が当たってきた。トラン
プ氏が失速し、共和党が落ち着きを取り戻すとすれば、クリントン氏に頼らざるを得ない民主党のぜ
い弱性に、改めて注目が集まることになるだろう。
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