概要版 - 物質・材料研究機構

材料イノベーションを加速する
先進計測テクノロジーの現状と動向
物質・材料研究のための先進計測テクノロジー
概要版
国立研究開発法人 物質・材料研究機構
NIMS-RAO-FY2016-3
自然の成り立ちやあり方を理解し、説明するには、それらを観察し、客観的なものさしで表現する
必要がある。そのための計測技術の発展は、知られていなかった現象の発見をうながし、自然科学の
進歩に寄与してきた。この計測技術がもたらす知識を体系化した科学は新たな技術革新を促し、その
結果生産性を向上させ、生活水準が高まり、社会に実益をもたらしている。さらに、世界規模の競争
がさまざまな分野で激しさを増すなか、今後も社会に実益をもたらし得る新たな価値を日本が創造し
つづけるには、日本における計測技術の発展が不可欠である。
ただ単に “対象を量的に測る” だけが、計測技術ではない。“対象を特徴付ける”、もしくは “対象の
状態の変化をとらえる” といった統合作業も、特定の目的のために事物を量的にとらえる計測技術で
ある。量的・統合的にとらえるということは、特徴・状態の変化を数値として表現可能にするという
ことであり、自然環境や社会環境など広範囲の対象を数値化し、可視化することにもつながる。計測
技術は、常に、高度化、小型化、低価格化、量産化などが図られており、科学の深化のための技術と
してのみならず、より身近に使える技術として、あるいは多角的に物質・材料を見るための技術として、
さらには社会活動を記述するための技術として、大きな期待が寄せられている。
さらに、物質・材料イノベーションの基盤として重要な位置を占めてきた計測技術は、新たに大規
模データとインフォマティクスの概念が加わることによって、計測によって得られたデータを活用し
てイノベーションにつなげるという、マテリアルズ・インフォマティクスの先進計測テクノロジーと
して、新しい局面を迎えつつある。つまり、今までの計測データに別の視点を加え、新たな価値を生
み出そうとしている。この先進計測テクノロジーは、科学技術の発展や国際競争力の向上をもたらし、
ひいては、持続可能社会への円滑な転換につながると考える。
これらの背景から、国立研究開発法人 物質・材料研究機構(以下、NIMS)調査分析室では、『物質・
材料研究のための先進計測テクノロジー』をテーマに、NIMS に在籍する研究者の協力を得て、新たな
価値を創造するための計測テクノロジーとは何かを客観的立場で調査・分析・考察し、報告書『材料
イノベーションを加速する先進計測テクノロジーの現状と動向』としてまとめた。報告書の構成は次
のとおりである。
第1部「計測テクノロジー」の現状とビジョン
計測テクノロジーとは何か、また、これまでのイノベーションにどう計測が貢献したかを紹介し、
次世代の計測テクノロジーのビジョンを考察する。
第1章「計測テクノロジー」とは
:計測テクノロジーとは何かの紹介。
第2章 材料イノベーションと先進計測テクノロジー :計測テクノロジーがイノベーションへどう貢
献してきたかを紹介し、新たな価値を創造するための計測テクノロジーのビジョンについて考察する。
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第2部 計測テクノロジー最前線
様々な先進計測テクノロジーをテーマとして取り上げ、紹介する。それぞれの節では、概要、世界
や日本における研究開発動向を俯瞰した上で、ニーズを考察し、将来課題、特に、材料イノベーショ
ンに向けた課題や今後の展望について述べている。各計測テクノロジーは以下の第 1 章から第 6 章に
分類した。取り上げた先進計測テクノロジーと執筆者は以下の通り。
第1章 原子一つにせまるテクノロジー
原子の電流をはかる - STM -
藤田 大介
原子間の力をはかる - AFM -
清水 智子、
クスタンセ オスカル
原子の並びを直視する - アトムプローブ -
大久保 忠勝、宝野 和博
原子を削って重さを測る - SIMS -
坂口 勲、渡邉 賢
光をあてて原子・分子の特性を測る - 分光計測 -
野口 秀典
分子や結晶中の原子を識別して化学結合を見える化する - 表面分析法 吉川 英樹、岩井 秀夫
原子核ごとの磁気を測る - NMR-
丹所 正孝、端 健二郎
後藤 敦、清水 禎
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第2章 電子を用いたテクノロジー
原子一つ一つをみる電子を使った顕微鏡 - 高分解能 TEM -
木本 浩司
実際に働いている様子を原子レベルで捉える顕微鏡 - Operando TEM -
三石 和貴
細く絞った電子ビームでスキャンする顕微鏡 - SEM -
関口 隆史
遅い電子で表面をみる顕微鏡 - LEEM・PEEM -
山内 泰
第3章 先進計測のための粒子ビームテクノロジー
励起した原子のビーム技術 - 準安定原子ビーム -
山内 泰
状態を制御した分子のビーム技術 - 分子ビーム -
倉橋 光紀
スピンが偏極したイオンのビーム技術 - イオンビーム -
鈴木 拓
電子ビーム発生技術 - ナノエミッター -
張 晗
第4章 大型施設によるビームテクノロジー
高輝度の X 線を用いて高精度の測定をする - シンクロトロン放射光 -
坂田 修身
多様なイメージングを可能にする超高輝度 X 線 - シンクロトロン放射光・自由電子レーザー 桜井 健次
原子の並びをみる中性子のビーム技術 - 中性子ビーム -
北澤 英明
素粒子ミュオンを用いて材料内の磁場をみる - ミュオン -
北澤 英明
第5章 社会応用のための計測テクノロジー
環境因子を電気信号に変えてとらえる - 環境センシング -
篠原 正、川喜多 仁
材料を壊さないで中の状態を調べる - 非破壊検査 -
志波 光晴、渡邊 誠
非破壊で透視して3D 化する - クロノイメージング -
川喜多 仁
いつでもどこでもだれでも使える - 化学センサ -
吉川 元起
第6章 マテリアルズ・インフォマティクスのための計測テクノロジー
マテリアルズ・インフォマティクスのための計測技術
知京 豊裕
データ活用型材料探索のための計測テクノロジー - 計測とデータ -
吉武 道子、
柳生 進二郎
データ活用型材料探索のための合成テクノロジー - 合成とデータ -
長田 貴弘
高輝度放射光とデータ
山下 良之
計測データフォーマット標準化
吉川 英樹
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原子一つにせまる
テクノロジー
マテリアルズ・
インフォマティクスのための
計測テクノロジー
電子を用いた
テクノロジー
社会応用のための
計測テクノロジー
先進計測のための
粒子ビームテクノロジー
大型施設による
ビームテクノロジー
高度な人材
高度な人材
これからの「先進計測テクノロジー」のために
将来にわたって材料イノベーションを継続・発展させるために必要とされる、今後日本が取り組ま
なければならない先進計測テクノロジーと、それを開発・推進するにあたっての課題をまとめる。
本報告書によって、材料イノベーションに貢献する計測テクノロジーが広く認知されるようになり、
社会や科学技術の発展の一助となれば幸いである。
調査分析室
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アドバイザー
室町 英治、藤田 高弘、藤田 大介、村川 健作
企画・分析・検討・編集
山内 泰、三石 和貴、川喜多 磨美子
本レポートに関するお問い合わせ先
国立研究開発法人 物質・材料研究機構 調査分析室
〒305-0047 茨城県つくば市千現1-2-1
TEL: 029-859-2000 ( 代表 )
FAX: 029-859-2049
調査分析室 [email protected]
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