JPEC レポート 平成 28 年 2 月 3 日 JJP PE EC C レ レポ ポー ートト 第 第 2277回 回 222000111555年 年 度 年度 度 UAE およびオマーンの石油産業動向 7 つの首長国からなるアラブ首長国連邦 (UAE、 United Arab Emirates)は、1971 年に英国から独 立して以来、経済の大部分を豊富な石油と天然ガ ス資源収入に依存してきた。国際通貨基金(IMF) によると、2014 年 UAE の石油および天然ガス資 源の輸出収入は、約 1,927 億 US ドル(輸出全体 の約 54%)となっている。 また UAE は、世界的な金融センター(ドバイ 国際金融センター)を稼働しているという一面も 持ち、かつ中東の主要な貿易センターにもなって いる。なお、同国は、石油輸出国機構(OPEC) およびガス輸出国フォーラム(GECF)の主要な メンバーでもある。 1 UAE の石油産業 2 1-1 石油産業の概要 1-2 石油埋蔵量 1-3 石油分野の管理 1-4 UAE 産原油の性状 1-5 石油の生産 1-6 製油所 1-7 石油の輸出 2 オマーンの石油産業 2-1 石油産業の概要 2-2 石油埋蔵量 2-3 石油分野の管理 2-4 石油の生産と消費 2-5 石油の探査 2-6 石油増進回収技術 2-7 製油所と原油貯蔵基地 2-8 石油 Pipeline 2-9 石油の輸出 3 両国のシェールオイル資源 4 まとめ 4-1 UAE 関連 4-2 オマーン関連 2 2 3 3 4 5 6 8 8 8 8 9 10 10 11 12 12 13 14 14 14 オマーンは、中東地域の多くの国同様に、石油 および天然ガス資源の輸出収入に大きく依存して いる。オマーン中央銀行は、2014 年の同国の石油 および天然ガス資源の輸出からの収益が政府歳入 の 84%、国内総生産(GDP)の 47%を占めたと 報告している。一方、IMF は、同国の財政収支均 衡原油価格(Fiscal Breakeven Price for Oil)の 2014 年実績が、 (他 OPEC 諸国も同様の動きであ るが)1bbl 当り 108US ドルに上昇したと発表し ている。2015 年 IMF は、継続している原油価格の低迷が、同国の財政的圧迫につながっ ており、この影響を軽減するような財政改革を促している。 本稿では、米国エネルギー省のエネルギー情報局(EIA、Energy Information Administration)のレポートを主なベースとして、UAE およびオマーンの石油産業の動 向について紹介する。 1 JPEC レポート 1 UAE の石油産業動向 1-1 石油産業の概要 UAE は、世界第 6 位(2014 年)の産油国である(図 1 参照) 。しかしながら、今後同 国内でさらなる大型油田の発見の可能性は少ないと予測されている。 (単位:百万 BPD) 図 1 世界の産油国トップ 10 ヶ国(2014 年) (出所:EIA) 1-2 石油埋蔵量 Oil & Gas Journal(OGJ)によると、2015 年 1 月現在 UAE が保有している石油確認 埋蔵量は、世界合計の 5.8%に当たる 978 億 bbl(世界第 7 位)となっている(図 2 参照) 。 首長国の中でもアブダビは、UAE の石油埋蔵量の約 94%(919 億 bbl)を占めている。他 の 6 首長国の合計石油埋蔵量は、約 6%(59 億 bbl)に過ぎず(第 2 位がドバイで 40 億 bbl)首長国間で大きな格差がある。なお、同国憲法(1996 年制定)では、天然資源の所 有権は連邦政府ではなく、各首長国に帰属すると定められている。 (単位:億 bbl) 図 2 世界の石油確認埋蔵量トップ 10(2015 年) (出所:OGJ) 2 JPEC レポート 1-3 石油分野の管理 アブダビ首長国では、政府に石油および天然ガス産業を統括する省庁は置かれておらず、 最高石油評議会(SPC、1988年設立)が同首長国の石油関連の基本方針を決定している。 前述したように、UAEの石油産業の中心的なプレーヤーである同首長国の立場から、SPC は同国における最も重要な石油機関と言える。 アブダビ国営石油(ADNOC、Abu Dhabi National Oil Company、1971 年設立)は、 石油、天然ガスおよび石油化学分野を事業展開し、日々の業務および SPC からの指示を 実務面で執行している。なお、ADNOC は、SPC に対して助言および提案はできるが、意 志決定には関与できない関係になっている。また ADNOC は、同首長国における全ての上 流側の活動における主要な株主でもある。 ドバイ首長国とシャルジャ首長国(埋蔵量シェア:約 1%)は、減少しつつある埋蔵量 を管理するためサービス契約(開発会社が探鉱・開発を行い一定の報酬を受取り、事業リ スクは産油国が負う契約)を採用している。しかしながら、アブダビ首長国は、全てのプ ロジェクトにおいて ADNOC と民間企業間の生産物分与契約(PSC)を長期契約のベース としている。なおその他 4 首長国は、アブダビ首長国と類似の PSC を採用している。 1-4 UAE 産原油の性状 UAE は、Murban 原油(同国で最も重要な輸出原油、軽質低硫黄原油)を含む 5 原油 を保有している。2014 年 7 月 アブダビは、Das Blend 原油(加工処理している Das 島か ら命名)と称する新しい原油種の輸出を開始した。同原油は、Lower Zakum 原油と Umm Shaif 原油を混合したものである(表 1 参照) 。なお日本は、同原油を同年 8 月から継続輸 入している(2014 年輸入実績:1,269 万 kℓ ) 。 表 1 UAE 産 原油および Condensate の代表性状 原油名 API 度 硫黄分 wt% 全酸価 mg KOH/g 流動点 ℃ 動粘度(100℉ ) mm2/sec バナジウム含有量 ppm ニッケル含有量 ppm 残留炭素分 wt% アスファルテン分 wt% Lower Zakum 40.5 1.04 0.05 -24 2.86 1 1 1.31 0.03 Murban 40.3 0.78 0.03 -18 3.07 2 2 1.43 0.20 Umm Shaif 36.9 1.44 0.16 -27 3.73 4 2 1.68 0.19 Upper Zakum 34.1 1.95 0.02 -18 6.32 13 12 5.07 1.46 Das Blend 39.2 1.12 0.02 ー ー ー ー ー ー Uweinat Tamama (*) (*) 52.9 58.0 0.15 0.12 0.01 0.03 ー ー ー ー 0.3 未満 0.1 未満 0.1 未満 0.1 未満 ー ー ー ー (注意) *は Condensate 3 JPEC レポート 1-5 石油の生産 UAE では、最近の石油探査で大型油田は発見されていない。そのため、同国は、既存 油田の生産寿命を延長するため、石油増進回収(EOR)技術に重点を置いている。同技術 は、既存油田の石油回収率を向上することにより、過去 10 年間においてアブダビの石油 確認埋蔵量をほぼ倍増させ UAE の石油輸出収益に貢献している。 EIA によると、2014 年 UAE は、石油(含む他液体燃料)を約 350 万 BPD 生産し、 世界で第 6 位(OPEC 加盟国中で第 2 位)にランクされている。同生産量の内訳は、原油 270 万 BPD、残りはコンデンセート、天然ガス液および製油所処理ゲインであった。原油 生産量に限定すると、UAE は OPEC 加盟国中でサウジアラビア、イラク、イランに次い で第 4 位となる。 UAE は、2014 年後半からの石油価格が低迷しているにも拘らず、2020 年まで産油量 を 350 万 BPD で維持する計画を立てている。 2012 年 ZADCO 社は、 National Petroleum Construction 社(アブダビ)および Technip(フランス)と Upper Zakum 油田の産油量 を約 60 万 BPD から 75 万 BPD(2016 年)に上げるための拡張工事の「EPC 契約(*)」を 締結した。一方、Abu Dhabi Marine Operating 社(ADMA)は、Lower Zakum 油田の 産油量を 35 万 BPD から最終的に 43 万 BPD に拡大する予定である。 (注意) EPC: 設計(Engineering) 、調達(Procurement) 、建設(Construction)を含む建設工事請負契約を指す UAEのZakum油田は、 上下 2 油田に分かれてい る。すなわち、上部油層 を Upper Zakum 油田と 言い、下部油層を Lower Zakum 油田と称してい る。 Upper Zakum 油 田 (確認埋蔵量 約 500 億 bbl)は、UAE 最大かつ 世界第 4 位の油田であり、 海洋油田に限れば世界第 2 位の規模となる。一方、 内陸部の Bu Hasa 油田 図 3 UAE の油田の位置 および Bab 油田を合わせ て Murban 油田とも言う(図 3、表 2 参照) 。 4 JPEC レポート 表2 UAE の主要油田の概要 油田名 操業会社 石油埋蔵量 (億 bbl) 産油量 (万 BPD) Upper Zakum ZADCO 500 60 Lower Zakum ADMA 170 35 Bab ADCO 100 25 Bu Hasa ADCO 65 60 ADNOC 40 30 ADCO 36 45 Umm Shaif Asab 【操業会社の正式名称】 ZADCO:Zakum Development Company ADMA:Abu Dhabi Marine Operating ADCO:Abu Dhabi Company for Onshore Petroleum Operations ADNOC:Abu Dhabi Oil Company 1-6 製油所 UAE は、 5 ヶ所の製油所を保有し、 原油精製能力合計は 124 万 BPD である (表 3 参照) 。 同国は、自国生産だけでは石油製品の内需を満たすことができず、不足分を輸入に依存し ている。同国では、石油製品を自国生産するとともに、輸出することも目指し製油所の処 理能力増強を進めている。 表3 製油所名 UAE の製油所概要 原油精製能力 (万 BPD) オーナー 1 Ruwais 81.7 Takreer 2 Umm Al-Narr Takreer 3 Jubel Ali 4 Hamriyah Sharjah 5 Fujairah 15.0 12.0 7.1 8.2 124.0 合計 ENOC 特記事項 2015 年 11 月 拡張近代化プロジェクト完了 コンデンセート・スプリッターを 1 基有 SORC Vitol 2015 年 11 月 Ruwais 製油所では、 拡張近代化プロジェクトが完了し稼動開始している。 その結果、同製油所の原油精製能力が 40 万 BPD から 81.7 万 BPD へ拡大し、世界最大級 の製油所となっている(図 4 参照) 。Takreer 社(別称:Abu Dhabi Oil Refining)が実施し た同製油所 拡張近代化プロジェクトは、 既設プラントの西隣に新設プラント設置したもの である。装置構成は、常圧蒸留装置(41.7 万 BPD)以外に残渣接触分解装置(RFCC、 12.5 万 BPD) 、ナフサ水素化処理装置、灯軽油水素化処理装置、ブタン異性化装置、Carbon Black Delayed Coker 装置などである。 International Petroleum Investment 社(IPIC、アブダビ首長国政府所有)は、35 億 US ドルを投資し、Fujairah 製油所(20 万 BPD)新設プロジェクトを進めている。同プ ロジェクトは、前述した増え続ける石油製品の内需を満たすこと、さらにホルムズ海峡の 外側に位置し地理的優位性のある Fujairah 港から石油製品を輸出することを目的として いる。同プロジェクトの完了時期は、2018 年末予定となっている。 5 JPEC レポート Das 島 図 4 UAE の石油および天然ガスインフラ (出所:EIA) 1-7 石油の輸出 1-7-1 原油の輸出先 EIA によると、2014 年 UAE の原油輸 出量は250万BPDを超え、 そのうち約96% がアジア向け輸出となっている。 2014 年 日本は、 UAE から約 84 万 BPD を輸入しており、同国の国別輸出先では第 1 位である。また、日本にとっては、サウ ジアラビアに次ぐ第 2 位の輸入先国でもあ る(図 5 参照) 。 図 5 UAE 産原油の輸出先 (出所:EIA) 図 5 日本の原油輸入先国 (2014 年) (出所:経済産業省) 1-7-2 石油輸出基地 UAE には、7 ヶ所の石油輸出基地がある(表 4 参照) 。 ・Jebel Dhana 基地:SBM(一点係留ブイ)が 3 基あり、各ブイの最大着桟船型は 45 万 DWT 級である。 ・Zirku Island 基地:SBM が 2 基あり、各ブイの最大着桟船型は 42 万 DWT 級である ・Das Island 基地:SBM が 1 基(50 万 DWT 級)およびバースが 1 本(16.6 万 DWT 級)あり、Das Blend 原油を取り扱っている。 6 JPEC レポート 表 4 UAE の石油輸出基地 基地名 貯蔵品名 対象油田名 Fujairah 原油、石油製品、石化製品 Habshan Jebel Dhana 原油 Asab, Bab, Bu Hasa, Murban, Sahil Shah Zirku Island 原油 Upper Zakum, Umm al-Dakh, Satah Das Island 原油 Lower Zakum, Umm Shaif Ruwais 石油製品、石化製品 N/A Umm al-Nar 原油、石油製品 Bab Jebel Ali 原油、石油製品 Fateh, Southwest Fateh, Falah, Rashid 世界 3 大バンカー重油補給港で有名な Fujairah 石油輸出基地は、今後数年間にわたっ て石油貯蔵能力を大幅に拡大する計画である。同基地は、2016 年末までに原油および石油 製品合計で約 1,600 万 bbl 貯蔵する能力を持つことになる。 同基地の拡大計画には、パイプ ライン 3 本、タンカー用桟橋 6 ヶ 所およびタンカー積載用 SBM 1 基が含まれる。また、前述した Fujairah 製油所建設プロジェク トも進行中で、石油精製と貯蔵能 力の拡大に伴い、同基地は急速に 石油精製と輸出ネットワークの重 要な中枢基地になりつつある(写 真参照) 。 写真:Fujairah 石油輸出基地 1-7-3 石油輸出 Pipeline Abu Dhabi Crude Oil Pipeline(ADCOP)は、IPIC が建設した原油輸出 Pipeline である (総延長約 380km 、 送油能力:150 万 BPD、口径 48 インチ、2013 年 4 月 運用開始) 。 同 Pipeline は、西部油田地域の Habshan から石油の 海上交易上のチョークポイントとなっているホルムズ海 峡を通らずに、直接オマーン湾に面した Fujairah 石油 輸出基地に至るものである。同 Pipeline により、UAE 産原油輸出の新ルートが開発されたとともに、ホルムズ 海峡有事の際の代替ルートを兼ねるものである(図 6 参 照) 。 なお同 Pipeline は、 輸送能力を近い将来 180 万 BPD に拡大される見通しである。 7 図 6 ADCOP の経路図 JPEC レポート 2 オマーンの石油産業 2-1 石油産業の概要 オマーンは、OPEC 加盟国以外では中東最大の産油国である(図 7 参照) 。同国は、ア ラビア半島東南端に位置し、オマーン湾およびアラビア海に接している。ペルシア湾は、 世界で最も重要なエネルギー回廊にアクセスしており、特にホルムズ海峡の航路帯は、同 国の領海内を通っている。この位置関係は、世界のエネルギー供給チェーンにおける同国 の地位を強化している。同時に、同国はホルムズ海峡の外側の Duqm 近郊に、世界最大級 の石油製油所および貯蔵基地コンビナートを構築することで、同国のエネルギー戦略的な 優位性からの利益を享受しようとしている。 (単位:千 BPD) 図 7 中東諸国の石油(含むコンデンセート)生産量(2014 年) (出所:EIA) 2-2 石油埋蔵量 Oil & Gas Journal によると、 2016 年 1 月時点のオマーンの石油確認埋蔵量は 53 億 bbl 保有し、世界第 22 位(中東では第 7 位)である。2012 年 米国地質調査所によると、同 国南部に位置する「South Oman Salt Basin」に埋蔵されている未発見のエネルギー資源 量は石油 3.7 億 bbl 超、天然ガス 89 億 m3、天然ガス液(NGL)0.4 億 bbl となっている。 2-3 石油分野の管理 オマーン石油ガス省は、石油および天然ガス分野におけるエネルギー政策担当機関であ る。しかし、政策と投資に対する最終承認は、同国国王(Sultan)が決定権を持っている。 同国では、オマーン国営石油天然ガス公社(PDO、Petroleum Development Oman)が 石油埋蔵量の大部分を保有し、同国の原油生産量の 70%以上を占めている。なお、PDO 権益の 60%を同国政府が、残りを Shell(34%) 、Total(4%)および Partex(2%、ポル トガル)が保有している。 8 JPEC レポート また、Oman Oil 社(同国政府が 100%所有)が国内外におけるエネルギー投資に対し 責任を負っている。一方、Oman Oil Refineries & Petroleum Industries 社(ORPIC) が、同国の石油精製分野の管理および製油所を操業している。 2-4 石油の生産と消費 オマーンの石油生産地域は、同国全土に跨っている Oman 盆地に分布している。同国 の原油とコンデンセートを合わせた生産量は、世界第 25 位(中東では第 7 位)にランク され、OPEC 非加盟国中では中東最大の産油国となっている。 オマーンの石油(含む他液体燃料)生産量は、2000 年にピーク(97.2 万 BPD)を記録 し、2007 年 71.5 万 BPD まで減少したが、その後 増加傾向に推移している。2015 年 6 月には、初めて 100 万 BPD を超えている(図 8 参照) 。 (単位:千 BPD) 図 8 オマーンの石油生産量と消費量推移 (出所:EIA) オマーンの石油消費量は、2009 年を除く過去 10 年間 着実に伸び 2014 年には 16.4 万 BPD 消費している。同国の石油消費量は、大半がガソリンおよび留出油(ジェット燃料、 灯油、軽油)である。特に輸送用燃料の消費量は、2005〜2014 年間に倍増しており、国 内製油所の生産量では足らず輸入に依存している(図 9 参照) 。 9 JPEC レポート (単位:千 BPD) 図 9 オマーンの石油製品別 消費量推移 (出所:EIA) 2-5 石油の探査 オマーンで活動している外国企業は、Occidental Petroleum、Shell、Total、Partex、 BP、CNPC、KoGas、Repsol などが挙げられる。特に Occidental Petroleum 社(米国) は、同国で最大の独立系石油生産事業者となっている。 2013 年末までに、オマーンの 31 ヶ所の石油探査鉱区で石油探査と生産活動が実施され ている。この探査より同国は、新油田が発見され生産量が追加された。また、改良された EOR 技術がこの生産量好転を推進している。同国政府は、同技術の採用およびそれに伴 うコスト管理を続けることにより、今後 5 年間にわたり産油量レベルを維持することを目 指している。 2-6 石油増進回収技術 オマーンでは、 EOR 技術が 2000〜2007 年の産油量減少を反転させるのも貢献している。 同国の石油資源開発は、抽出技術に大きく依存している。同国では、既にポリマー、混和 流体、蒸気注入技術を含む複数の EOR 技術が活用されている。同国における産油コスト が比較的高いため、同国政府は回収困難な探査および開発事業活動に対するインセンティ ブを国際石油企業に提供している。即ち、同国政府は高度な技術と専門知識を必要とする 油田開発のため寛大な条件を提示し、新たな石油探査・生産プロジェクトに外国企業の協 力を求めている。 現在 オマーン国営石油天然ガス公社は、同一鉱区内にある Marmul 油田でポリマー注 入工法、Harweel 油田で混和流体注入工法、Qarn Alam 油田で蒸気注入工法および Amal–West 油田でソーラーEOR 工法を使用しており、4 種類の工法による EOR 技術が 10 JPEC レポート 活用されている。 ちなみに、Alam–West 油田でのソーラーEOR 工法(2012 年 完工)2013 年に試運転 された中東初の試みであった。同工法は、太陽熱を利用することにより CO2 を出さずに蒸 気を発生させ、油田にこの蒸気を直接吹き込むものである。同工法は、将来の大規模な蒸 気注入工法として活用されると推定される。 2-7 製油所と原油貯蔵基地 オマーンは 2 ヶ所の製油所を保有し、原油精製能力合計は 22.2 万 BPD である(表 5 参 照) 。IHS Energy によると、2014 年 両製油所の平均稼動率は 96%と高稼動率であった。 表5 製油所名 オマーンの製油所 原油精製能力 オーナー (万 BPD) Mina al Fahal 10.6 ORPC Sohar 合計 11.6 22.2 ORPC 特記事項 重 質残 渣はさ らな る処理 のため Sohar 製油所へ送られる アップグレード工事が進行中。 オマーンは、今後数年間に石油精製能力の拡大計画を持っている。同国は、石油精製お よび貯蔵能力を拡大することによって、アラビア半島で同国の戦略的な位置を活用するこ とを目指している。 Sohar 近郊の Oiltanking Odfjell 石油基地が 2017 年内に完成予定である。同燃料補給・ 貯蔵基地(貯蔵能力:137 万 kℓ )が 2017 年内に完成予定である。ホルムズ海峡の外側 に位置する同基地は、6 バースを有し年間約 1,000 隻の船舶(最大着桟船型:12 万 DWT) に補給可能であり、原油運送する海運会社にとって魅力的な選択肢となろう。 また ORPIC 社は、 「Sohar Refinery Improvement Project(SRIP) 」 の一部として、 Sohar 製油所のアップグレードが進行中である。2016 年 第 4 四半期までに、現在の石油精製能 力を 11.6 万 BPD から 19.7 万 BPD に拡大する予定である。増設される設備としては、常 圧および減圧蒸留装置、 水素化分解装置、 Delayed Coker 装置および異性化装置などである。 同製油所では、ナフサ、LPG、ガソリン、灯油および軽油などの増産をする予定である。 Oman Tank Terminal 社は、2019 年までにアラビア海に面した Duqm 経済区に Ras Markaz 原油貯蔵基地(貯蔵能力:2,500 万 bbl)および製油所(23 万 BPD)を新設する 計画である。同原油貯蔵基地は、2018 年内に稼動開始の予定で、完成すれば世界最大級の 原油貯蔵基地となる(図 10 参照) 。 11 JPEC レポート 図 10 オマーンのエネルギー関係インフラの配置 (出所:EIA) 2-8 石油 Pipeline オマーンは、国際石油 Pipeline は保有していないが、国内石油 Pipeline は保有してお り下記能力拡大計画がある。 現在、Muscat Sohar Product Pipeline(総延長 280km)が建設中で、2017 年中に完成 する予定である。同 Pipeline は、複数の石油製品を双方向輸送用であり、Mina al-Fahal 製油所〜Sohar 製油所間のタンカーおよびトラック輸送を減らすことを目的としている。 また同 Pipeline は、Muscat 国際空港向け Jet 燃料の輸送にも使用される。なお、同プロ ジェクトの第 2 段階では、同国の石油備蓄量が最大で 30 日分確保できるよう、新たに複 数の石油貯蔵施設を建設する計画も含まれている。 2-9 石油の輸出 2-9-1 オマーン産原油の性状 オマーン産の唯一の輸出原油種は、Oman Blend 原油である。同原油は、中質で比較的 高硫黄分であり、その代表性状は API 度 34、硫黄分 2.0wt%である。なお、同原油は、 Dubai 原油とともに Platts 社が公表するアジア市場での指標原油になっている。 12 JPEC レポート 2-9-2 石油の輸出先 オマーンは、アジア市場への最重要な石 油輸出国の 1 つである。2014 年 同国は、 原油とコンデンセートを合わせて 80.1 万 BPD 輸出したが、そのうちの 57.9 万 BPD が中国向けであった(図 12 参照) 。 石油輸出量 80.1 万 BPD (2014 年) 日本からみると、2014 年 オマーンから は 264 万 kℓ 輸入しており、国別では第 6 位の輸入先国となる。 図 12 オマーンの石油輸出先 (出所:EIA) 3 両国のシェールオイル資源 EIA は、世界中の技術的に回収可能なシェールオイルおよびシェールガス資源の評価地 域の拡大を継続している。2015 年末 従来の 42 ヶ国の評価国(シェールオイル合計:3,639 億 bbl)に加え、新たにオマーンを含む 4 ヶ国(他国:UAE、カザフスタン、チャド)の シェールオイル資源を追加指定している(図 13 参照) 。 カザフスタン UAE、オマーン チャド 図 13 シェールオイルおよびシェールガス評価地域 (出所:EIA) EIA がこれら 4 ヶ国の地層を評価した結果、世界のシェールオイル可採埋蔵量は 556 億 bbl 増え 4,195 億 bbl となったと発表している。UAE およびオマーンのシェールオイル可 採埋蔵量は、それぞれ 226 億 bbl と 62 億 bbl であるが、両国とも未だ経済的に成り立た ないとしてシェールオイルの資源探査は行っていない。 13 JPEC レポート 4 まとめ 4-1 UAE 関連 UAE の石油確認埋蔵量は 978 億 bbl で世界第 7 位、産油量は世界第 6 位である。同国 は、日本にとってはサウジアラビアに次ぐ第2位の石油輸入国であり、また最大の自主開 発油田の権益保有国でもあり、エネルギー安全保障上 重要な産油国である。 UAE では、今後 大型油田発見の可能性が少ないため、石油増進回収(EOR)技術によ り成熟油田からの石油回収率を上げ、石油生産量の維持をしている。 UAE は、石油製品の内需を自国製油所だけでは自給できない状況を改善するため、製 油所の増強に取り組んでいる。2015 年 11 月 Ruwais 製油所の拡張近代化プロジェクトが 完了し、世界最大級の製油所(81.7 万 BPD)となった。また、新しい Fujairah 製油所(20 万 BPD)建設プロジェクトが進行中で、2018 年末完成の予定である。 既に世界最大級の燃料補給港となっている Fujairah 石油輸出基地は、今後数年間にわ たって石油貯蔵能力を大幅に拡大する計画である。また、石油精製能力の拡大に伴い Fujairah は急速に石油精製と石油供給港として重要になりつつある。 2012 年 Abu Dhabi Crude Oil Pipeline(ADCOP)を経由して Fujairah 石油輸出基地 に至る UAE 産原油の世界市場への新ルートが確立された。同 Pipeline の開通により、同 国西部油田地帯からホルムズ海峡を通らずにオマーン湾に直接接続し、世界市場に輸出が 可能になったものである。 4-2 オマーン関連 オマーンは、石油精製および石油貯蔵能力を拡大することによって、アラビア半島での 戦略的な位置を活用することを目指している。2016 年第 4 四半期までに、Sohar 製油所 は 19.7 万 BPD に精製能力が拡大される。また、ホルムズ海峡の外側にあるオマーン湾に 面した Sohar 近郊に、Oiltanking Odfjell 石油基地が 2017 年内に完成予定である。さら に、2019 年までにアラビア海に面した Duqm 近郊に製油所(23 万 BPD)および世界最 大級の原油貯蔵基地(2,500 万 bbl)を新設する計画である。 オマーンの石油開発も UAE と同様に EOR 技術に大きく依存しており、ポリマー注入 工法、混和流体注入工法、蒸気注入工法、ソーラーEOR 工法など複数の工法が活用され ている。 オマーンは、国際石油 Pipeline を保有していないが、Mina al-Fahal 製油所〜Sohar 製 油所間のタンカー輸送およびトラック輸送を減らす目的で、 2017 年中に完成予定の両製油 14 JPEC レポート 所を繋ぐ国内石油製品用 Pipeline を建設中である。 <出典および参考資料> UAE 関連 (1)米国 DOE・エネルギー情報局(EIA)レポート 、UAE Country Analysis Brief 、 http://www.eia.gov/beta/international/analysis.cfm?iso=ARE 、 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