続報 - 順天堂大学

News & Information
順天堂大学
No. 1
2016年 1月29日
医療・健康
糖尿病治療薬が動脈硬化を抑えることを発見 (続報)
~心筋梗塞や脳梗塞の発症が予防できる可能性~
概要
順天堂大学大学院医学研究科・代謝内分泌内科学の三田智也准教授、綿田裕孝教授らの研究グ
ループは、2型糖尿病患者さんの動脈硬化が、経口糖尿病治療薬で抑制されることを発見し、アメリカ
糖尿病学会雑誌「Diabetes Care」のオンライン版(日本時間:2015年12月2日)で発表しました。今回、そ
の発表に引き続き、「インスリン治療中の2型糖尿病患者さんにおいても、経口糖尿病治療薬で動脈硬
化を抑える」という新しい知見が得られましたので、ここに報告いたします。本研究成果は「Diabetes
Care」オンライン版(日本時間:2016年1月29日)で公開されました。
本研究成果のポイント
・糖尿病治療薬(DPP-4阻害薬)がインスリン治療中の2型糖尿病患者の動脈硬化を抑える
ことを発見
背景
糖尿病は心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベントの発症を増加させます。従って、糖尿病の治療に
おいて、動脈硬化の発症・進展を回避することは重要な課題です。血糖を低下させるホルモンであるイ
ンスリンを注射で補充するインスリン治療は、効果的な血糖管理を行えます。しかし、インスリン治療に
おいても十分な血糖管理が行えない場合が多く、血糖が下がりすぎてしまう低血糖や体重が増加しや
すいなどの欠点があります。インスリン治療の2型糖尿病患者さんの多くは病歴が長く、動脈硬化があ
る程度進行しており、また、インスリン治療のそのような弱点が、動脈硬化をさらに促進させる可能性が
あります。そのため、インスリン治療に経口糖尿病治療薬を併用し、インスリン治療の欠点を減らすこと
が重要になってきます。しかし、これまでのインスリン治療では、経口糖尿病治療薬を併用しても、動脈
硬化を抑制するのは困難でした。
News & Information
No. 2
2016年 1月29日
内容
私たちのグループは、最近、2型糖尿病患者さんにDPP-4阻害薬を投与することで、動脈硬化
の進展を抑制することを報告しました(Diabetes Care:doi:10.2337/dc15-0781. および2015年12
月2日発表のリリース参照)。一方で、インスリン治療中の2型糖尿病患者さんの多くは、動脈硬化
が進展しており、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベントの発症の危険性が高いと考えられます。
従って、DPP-4阻害薬が、インスリン治療中の2型糖尿病患者さんの動脈硬化の進展を同じよう
に抑制できれば、心血管イベントの発症の危険性を減少させる可能性があります。
そこで本研究では、インスリン治療中の2型糖尿病患者さんを対象に、DPP-4阻害薬(シタグリプ
チンリン酸塩水化物)を用いた治療法が動脈硬化に及ぼす影響を評価しました。 比較試験では、
DPP-4阻害薬を投与しない通常治療群を対照とし、動脈硬化の指標として、頸動脈の超音波検
査により簡単に測定できる頸動脈内膜中膜複合体肥厚度(IMT)を用いました。この試験は、日本
全国の糖尿病専門医が診療する12施設で行われ、282名の心血管イベントの既往のないインスリ
ン治療中の2型糖尿病患者さんが参加しました。 そのうち、 DPP-4阻害薬のシタグリプチン投与
群142名および通常治療群140名に割り付けました。2年間の治療後、通常治療群と比較した結果、
シタグリプチン投与群では、頚動脈のIMTの進展を有意に抑制していることを発見しました(図)。
つまり、インスリン治療中の2型糖尿病患者さんにおいても、DPP-4阻害薬を投与すると動脈硬化
が抑制されることがわかりました。
今後の展開
将来的には、経口糖尿病治療薬で治療中の患者さんのみならず、インスリン治療中の動脈硬化
が進行してしまっている患者さんにDPP-4阻害薬を投与することで、心筋梗塞や脳梗塞などの心
血管イベント発症リスクを低下させ、患者さんの様々な負担を軽減することが期待できます。
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No. 3
2016年 1月29日
0.05
平均IMTの変化 (mm)
0.04
0.03
0.02
0.01
減少
0
-0.01
-0.02
-0.03
-0.04
-0.05
通常治療群
シタグリプチン投与群
-0.053mm(-0.090, -0.016),平均変化量(95%CI) P=0.005
図:DPP-4阻害薬はIMTを減少させる
通常治療群に比較して、シタグリプチン投与群は総頚動脈の平均IMTの進展を有意に抑制していま
した。
〒113-8421 東京都文京区本郷2-1-1
順天堂大学医学部・医学研究科
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No. 4
2016年 1月29日
本研究成果は、アメリカ糖尿病学会雑誌『Diabetes Care』オンライン版(日本時間2016年1月29日)
リンク先: http://care.diabetesjournals.org/ で公開されました。
doi: 10.2337/dc15-2145
英文タイトル
Sitagliptin attenuates the progression of carotid intima-media thickening in insulin-treated
patients with type 2 diabetes mellitus: The Sitagliptin Preventive study of Intima-media
thickness Evaluation (SPIKE): a randomized controlled trial
著者
Tomoya Mita, Naoto Katakami, Toshihiko Shiraiwa, Hidenori Yoshii, Tomio Onuma, Nobuichi
Kuribayashi, Takeshi Osonoi, Hideaki Kaneto, Keisuke Kosugi, Yutaka Umayahara, Tsunehiko
Yamamoto, Kazunari Matsumoto, Hiroki Yokoyama, Mamiko Tsugawa, Masahiko Gosho, Iichiro
Shimomura,and Hirotaka Watada
共同研究先
大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学、白岩内科医院、那珂記念クリニック、
三咲内科クリニック、大阪警察病院、大阪府立急性期・総合医療センター、関西労災病院、佐世保中央病院、
横山内科クリニック、順天堂東京江東高齢者医療センター、市立池田病院、筑波大学
研究助成先
一般社団法人 日本PRO研究会(ノボノルディスクファーマ株式会社、小野薬品工業株式会社、
田辺三菱製薬株式会社)
研究内容に関するお問い合せ先
取材に関するお問い合せ先
順天堂大学大学院医学研究科 代謝内分泌内科学
順天堂大学 総務局総務部文書・広報課
准教授 三田 智也 (みた ともや)
担当: 植村 剛士 (うえむら つよし)
TEL:03-5802-1579 FAX:03-3813-5996
TEL:03-5802-1006 FAX:03-3814-9100
E-mail: [email protected]
http://www.juntendo.ac.jp/graduate/laboratory/labo/taisya_naibunpitsu/
E-mail: [email protected]
http://www.juntendo.ac.jp
参考資料
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順天堂大学
No. 1
2015年 12月2日
医療・健康
糖尿病治療薬が動脈硬化を抑えることを発見
~心筋梗塞や脳梗塞の発症が予防できる可能性~
概要
順天堂大学大学院医学研究科・代謝内分泌内科学の三田智也准教授、綿田裕孝教授らの研究グ
ループは、2型糖尿病患者さんの動脈硬化が、経口糖尿病治療薬で抑制されることを発見しました。
糖尿病治療において、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管系の病気である心血管イベント⋆ 1の発症を回避
することは重要な課題です。経口糖尿病治療薬であるDPP-4阻害薬⋆ 2を投与し、動脈硬化の進展を抑
制することで、将来の心血管イベントの発症を予防できる可能性があると考えられます。なお、この研究
は大阪大学などとの共同研究で行われました。本研究成果はアメリカ糖尿病学会雑誌「Diabetes Care」
のオンライン版(日本時間:2015年12月2日)で公開されました。
本研究成果のポイント
・ 糖尿病では動脈硬化が進行する
・ 糖尿病治療薬(DPP-4阻害薬)が2型糖尿病患者の動脈硬化を抑制することを発見
・ 本薬剤により心筋梗塞や脳梗塞の発症が予防できる可能性がある
背景
糖尿病は心筋梗塞や脳梗塞のなど心血管イベントの発症を増加させるため、糖尿病の治療において
動脈硬化の発症・進展を回避することも重要な課題です。経口糖尿病治療薬であるDPP-4阻害薬は、
インクレチン濃度を上昇させることで、膵β細胞からインスリン分泌を促進させる、あるいは、膵α細胞か
らのグルカゴン分泌を抑制し、血糖値を低下させる新しいタイプの薬剤(インクレチン関連薬⋆3 )で、本邦
では2009年に上市されました。一方で、インクレチンホルモンは、血管を動脈硬化から保護する作用が
あることが、私たちを含め多くのグループから動物や細胞の実験で報告されています。そのため、実際
の2型糖尿病患者さんにおいてDPP-4阻害薬が血糖値の低下だけでなく、動脈硬化の進展についてど
のような効果をもたらすのかわかっていませんでした。
参考資料
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No. 2
2015年 12月2日
内容
糖尿病患者の死因として多い心筋梗塞や脳梗塞の発症を予防することは重要です。 言い換
えると、動脈硬化の進行を抑制する治療法の開発が重大な課題となっています。そのため、もし
実際の2型糖尿病患者さんにおいて、DPP-4阻害薬が単に血糖値を下げる効果だけでなく、動脈
硬化の進展において抑制する効果を示せれば、患者さんの予後改善に大変有用と考えられます。
そこで、本研究では、2型糖尿病患者さんを対象に、DPP-4阻害薬(アログリプチン安息香酸塩)
を用いた治療法が動脈硬化に及ぼす影響を評価しました。 比較試験では、DPP-4阻害薬を投与
しない通常治療群を対照とし、動脈硬化の指標として、頸動脈の超音波検査により簡単に測定で
きる頸動脈内膜中膜複合体肥厚度(IMT) ⋆ 4を用いました。この試験は、日本全国の糖尿病専門
医が診療する11施設で行われ、341名の心血管イベントの既往のない2型糖尿病患者さんが参加
しました。 そのうち、 DPP-4阻害薬のアログリプチン投与群172名および通常治療群169名に割り
付けました。2年間の治療後、通常治療群と比較した結果、 アログリプチン投与群では、頚動脈
のIMTの進展を有意に抑制していることを発見しました(図)。つまり、DPP-4阻害薬を投与すると
動脈硬化が抑制されることがわかりました。
今後の展開
本研究により、DPP-4阻害薬が2型糖尿病患者さんの動脈硬化の進展を抑制することを見いだ
しました。もし、心血管イベントを起こしてしまうと、患者さんの寿命が短くなる、あるいは生活の質
が大きく損なわれることもあり、経済的な負担も増加してしまいます。そこで、今後の課題としては、
動脈硬化の進展を抑制する作用をもつDPP-4阻害薬が、実際に心血管イベントの発症を減らし
たかどうかの検証が必要です。将来的には、動脈硬化が進行する前の早い段階よりDPP-4阻害
薬を投与することで、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベント発症リスクを低下させ、患者さんの
様々な負担を軽減することが期待できます。
参考資料
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No. 3
2015年 12月2日
平均IMTの変化 (mm)
0.02
0.01
減少
0
-0.01
-0.02
-0.03
-0.04
通常治療群
アログリプチン投与群
-0.030mm(-0.057, -0.007),平均変化量(95%CI) P=0.022
図:DPP-4阻害薬はIMTを減少させる
通常治療群に比較して、アログリプチン投与群は総頚動脈の平均IMTおよび右左の最大IMTの進展
を有意に抑制していました。
(アログリプチン投与群 vs通常治療群 平均IMT-0.026 mm vs 0.005 mm, P=0.022)
用語解説
⋆ 1. 心血管イベント
心血管イベントとは、心筋梗塞や脳梗塞などに代表される心血管系の病気のことです。糖尿病患者
さんではこのような心血管イベントによる死亡が多いため、心血管イベントの発症を回避することは
糖尿病治療において重大な課題です。
⋆ 2. DPP-4阻害薬
インクレチンホルモンは、血中でDPP-4(ジベプチルペプチターゼ-4:Di Peptidyl Peptidase-IV)という
酵素によって速やかに分解され、血中で長く作用することはできません。DPP-4阻害薬は、この
DPP-4の作用を抑制し、インクレチンホルモンの分解を阻止することで、インクレチンホルモン濃度
を上昇させます。その結果、膵臓のβ細胞 よりインスリン分泌が促進し、血糖が低下します。本研
究で使用したアログリプチンは、DPP-4阻害薬に分類される薬剤の一つです。
参考資料
〒113-8421 東京都文京区本郷2-1-1
順天堂大学医学部・医学研究科
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No. 4
2015年 12月2日
⋆ 3. インクレチン関連薬
インクレチンホルモンは、経口摂取した栄養素に反応して小腸下部に存在するL細胞から分泌される
GLP-1(glucoagon-like peptide-1)と小腸上部に存在するK細胞から分泌されるGIP(glucose-dependent
insulinotropic polypeptide)の総称です。このインクレチンホルモンは膵臓のβ細胞に作用してインスリン
分泌を促進させて血糖を低下させる作用があります。インクレチン関連薬はインクレチンの作用を高め
ることにより血糖を低下させる新しいタイプの薬剤です。
⋆ 4. 頸動脈内膜中膜複合体肥厚度(IMT)
動脈壁は、内膜、中膜および外膜の3層で構成されております。動脈硬化が進行すると内膜と中膜の部
分が肥厚します。超音波により頸動脈を観察し、頸動脈内膜中膜複合体肥厚度(intima-media
thickness:IMT)を測定することで動脈硬化の進行具合がわかります。このIMTが厚い人ほど将来に虚血
性心疾患(心筋梗塞など)や脳卒中(脳梗塞など)の発症する確率が高まることが知られております。簡
便および非侵襲的に検査が行えることから動脈硬化のスクリーニング検査として臨床の現場でも広く行
われております。
本研究成果は、アメリカ糖尿病学会雑誌『Diabetes Care』オンライン版(日本時間2015年12月2日)
リンク先: http://care.diabetesjournals.org/ で公開されました。
doi:10.2337/dc15-0781.
英文タイトル:Alogliptin, a dipeptidyl peptidase-4 inhibitor, prevents the progression of carotid
atherosclerosis in patients with type 2 diabetes mellitus: The Study of Preventive Effects of
Alogliptin on Diabetic Atherosclerosis (SPEAD-A)
著者:Tomoya Mita, Naoto Katakami, Hidenori Yoshii, Tomio Onuma, Hideaki Kaneto, Takeshi Osonoi,
Toshihiko Shiraiwa, Keisuke Kosugi, Yutaka Umayahara, Tsunehiko Yamamoto, Hiroki Yokoyama,
Nobuichi Kuribayashi, Hideaki Jinnouchi, Masahiko Gosho, Iichiro Shimomura,and Hirotaka Watada
共同研究先:大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学、横山内科クリニック、
那珂記念クリニック、三咲内科クリニック、大阪警察病院、大阪府立急性期・総合医療センター、
関西労災病院、白岩内科医院、順天堂東京江東高齢者医療センター、陣内病院、筑波大学
研究助成先:アステラス製薬、アストロゼネカ株式会社、バイエル薬品株式会社、第一三共株式会社、
大日本住友製薬、日本イーライリリー株式会社、MSD株式会社、日本べーリンガーインゲルハイム株式会社、
ノバルティスファーマ株式会社、ノボノルディスクファーマ株式会社、ファイザー株式会社、サノフィ株式会社、
三和化学研究所、シオノギ製薬、武田薬品工業株式会社
研究内容に関するお問い合せ先
取材に関するお問い合せ先
順天堂大学大学院医学研究科 代謝内分泌内科学
順天堂大学 総務局総務部文書・広報課
准教授 三田 智也 (みた ともや)
担当:植村 剛士
TEL:03-5802-1579 FAX:03-3813-5996
TEL:03-5802-1006 FAX:03-3814-9100
E-mail: [email protected]
http://www.juntendo.ac.jp/graduate/laboratory/labo/taisya_naibunpitsu/
E-mail: [email protected]
http://www.juntendo.ac.jp