パーキンソン病の2つの原因遺伝子が神経保護する仕組み

News & Information
順天堂大学
No. 01
医療・健康
2014年 12月5日
パーキンソン病の2つの原因遺伝子が神経保護する仕組みを解明
~不良ミトコンドリアを効率よく除去するメカニズムが明らかに~
本研究成果のポイント
 若年性パーキンソン病発症に関わる2つの遺伝子PINK1とParkinの巧妙な協同作業を解明
 PINK1とParkinの協同作業が不良ミトコンドリアを効率よく分解して異常蓄積を抑える
 Parkinの活性化とミトコンドリアへの呼び寄せによるパーキンソン病の予防と治療応用の可能性
概要
パーキンソン病は中脳ドーパミン神経*1の変性を特徴とする難治性の神経変性疾患です。40歳未満
で発症する若年性遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子としてPINK1(ピンクワン)とParkin(パーキ
ン)*2が知られています。順天堂大学の服部信孝教授、今居譲先任准教授らの研究グループは、今回、
PINK1がParkinをすばやく不良ミトコンドリアへ呼び寄せ、効率よく分解する仕組みを明らかにしま
した。さらに、モデル動物で、このスイッチを入れることにより神経変性につながる不良ミトコンド
リアの異常蓄積を抑えることに成功しました。
この成果は、若年性パーキンソン病の原因の一端を明らかにし、これからのパーキンソン病の予
防・治療法の開発に大きく道を拓く可能性を示しました。本研究成果は12月4日付で科学雑誌
PLoS Geneticsに発表されました。
背景
若年でパーキンソン病を発症する家系の解析からPINK1遺伝子とParkin遺伝子が原因遺伝子として
見つかってきました。これらの遺伝子に傷がつき正常に機能しない場合には、不良ミトコンドリアが
蓄積することで中脳ドーパミン神経の変性が生じ、パーキンソン病になると考えられています。私た
ちを含む複数の研究グループは、不良ミトコンドリア*3が生じるとPINK1とParkinが共にそれを感知
し除去することを明らかにしてきました。その分子メカニズムでは、PINK1がParkinにリン酸を付加
(リン酸化)すると、Parkinにスイッチが入りミトコンドリアの分解に働きますが、Parkinのリン酸
化だけでは、なぜか効率よくミトコンドリアが除去されませんでした。そこで、 ParkinとPINK1の働
きには、まだ未解明のメカニズムがあるはずだと考え、本研究を行ないました。
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No. 02
2014年 12月5日
内容
PINK1はリン酸をタンパク質に付加(リン酸化)する酵素(キナーゼ)で、Parkinをリン酸化
することで活性化のスイッチを入れます*4。私たちが2014年6月に発表したショウジョウバエ分
子遺伝学による研究から、PINK1によってリン酸化されるタンパク質がParkin以外にもあること
が想定されました。そこで京都大学の石濱泰教授との共同研究によりPINK1がリン酸化する新た
なターゲットとなるタンパク質を探索し、ユビキチンを同定しました。ユビキチンはタンパク質
に鎖状に付加(ポリユビキチン化)されることによりタンパク質の分解シグナルとなる特殊なタ
ンパク質(図1)ですが、驚くべきことに、PINK1はユビキチンだけでなくポリユビキチン鎖を
もリン酸化することを見出しました。
さらに、ミトコンドリア上にリン酸化ポリユビキチン鎖を形成させると、それを目印にParkin
が呼び寄せられ、リン酸化ユビキチンやリン酸化ポリユビキチン鎖でParkinの2つ目のスイッチ
が入ることを明らかにしました。つまり、PINK1とParkinが協業でミトコンドリア上にリン酸化
ポリユビキチン鎖を形成することにより、素早く残りのParkinが呼び寄せられスイッチが入ると
いう、効率よい不良ミトコンドリア除去の仕組みを発見しました。
そこで、私たちは今回の発見に基づき、ミトコンドリアにリン酸化ポリユビキチン鎖を人工的
に付加することを試みた結果、パーキンソン病モデルショウジョウバエのミトコンドリアの変性
を改善させることに成功しました(図2)。
今後の展開
ドーパミン分泌が低下し、パーキンソン病の運動症状の原因となるドーパミン神経変性は、患
者さんのQOLに関わります。PINK1遺伝子やParkin遺伝子の変異が引き金となる若年性パーキンソ
ン病は、若くして発症するため、とくに早期の予防が重要です。
今回、PINK1がParkinのスイッチを入れる仕組みと、不良ミトコンドリアへのParkinの呼び寄
せの巧妙な仕組み(図3)を明らかにしました。今後は、PINK1やParkinと同じような作用をす
るタンパク質のスイッチを操作する人工的な方法を開発し、不良ミトコンドリアの除去による
パーキンソン病の効果的な早期予防に向けて、さらなる研究をしていく予定です。
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No. 03
2014年 12月5日
ユビキチン
ポリユビキチン鎖
分解
図1 タンパク質へのポリユビキチン鎖付加は、タンパク質の分解の目印となる
ユビキチンが鎖状につながり、ポリユビキチン鎖となる。Parkinはユビキチン鎖をつくる酵素。
PINK1遺伝子がないパーキンソン病モデルハエの筋肉ミトコンドリア
ミトコンドリアの変性
ParkinのスイッチOFFのまま
図2
ミトコンドリアでのリン酸化ポリユビキチン鎖の発現
ParkinのスイッチON
ミトコンドリアの正常化
パーキンソン病モデルハエのミトコンドリアの改善
黄色で塗りつぶされたエリアはミトコンドリアを示す。
(左)Parkinにスイッチをいれる役割をするPINK1がないハエでは、不良ミトコンドリアが溜まり、
ミトコンドリアの変性が起こる。
(右)リン酸化ユビキチン鎖を導入したパーキンソン病モデルハエでは、Parkinのスイッチが入り、
不良ミトコンドリアが除去され、ミトコンドリアが正常に働くようになる。
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No. 04
Parkin
2014年 12月5日
不良ミトコンドリア
PINK1
図3
リン酸化ユビキチン鎖でParkinのスイッチが入り、不良ミトコンドリアへ効率よく
呼び寄せられる仕組み
1.細胞質でParkinは不活性(スイッチOFF)の状態でいる。 2. 不良ミトコンドリア上でPINK1が活性
化し、細胞質にあるごく一部のParkinとユビキチンをリン酸化(P)する。Parkinはリン酸化ユビキチ
ンとParkin自身のリン酸化で二段階に活性化(スイッチON)され、 3. 不良ミトコンドリア上のタン
パク質(S)にポリユビキチン鎖を付加する。 4. PINK1はParkinが形成したポリユビキチン鎖をリ
ン酸化する。 5. リン酸化されたユビキチン鎖を目印に、細胞質にいる残りの不活性型Parkinが不
良ミトコンドリアへ呼び寄せられる。 6.リン酸化ポリユビキチン鎖で、Parkinのスイッチが入り、
さらにミトコンドリア上にポリユビキチン鎖をつくる。そのポリユビキチン鎖をさらにPINK1がリン
酸化する。このように6のステップの繰り返しで、速やかにParkinのスイッチが入りミトコンドリア
へ呼び寄せられる。
〒113-8421 東京都文京区本郷2-1-1
順天堂大学医学部・医学研究科
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No. 05
2014年 12月5日
用語解説
*1 中脳ドーパミン神経
パーキンソン病において神経変性が起こる神経。この神経が変性するとパーキンソン病で見ら
れる運動機能障害(手足の震え、筋肉の硬直、姿勢制御の障害など)が起こる。
*2 PINK1、Parkin
PINK1遺伝子、Parkin遺伝子から作られるタンパク質は、それぞれ同名のPINK1、 Parkinと名付
けられている。混乱しないように、ここでは、遺伝子は(例)PINK1遺伝子、タンパク質は
(例)PINK1と表記する。
*3 ミトコンドリア
細胞の活動に必要なエネルギー(ATP)を作る細胞小器官。不良ミトコンドリアとは、損傷をう
けて機能が低下した状態のミトコンドリアを示す。この器官の損傷や老化が進むと、酸化スト
レスの原因となる活性酸素種が器官内部から漏洩する。
*4 Parkinの働き
Parkinは、ユビキチンというタグをタンパク質に付加する酵素(ユビキチンリガーゼ)であり、
ユビキチンを付加されたタンパク質は、分解や輸送などさまざまな制御を受ける。
発表誌:
PLoS Genetics (http://www.plosgenetics.org/doi/pgen.1004861)
タイトル: Phosphorylation of Mitochondrial Polyubiquitin by PINK1 Promotes Parkin Mitochondrial Tethering
日本語訳: PINK1によるミトコンドリア上のリン酸化ユビキチン鎖形成はParkinをミトコンドリアへ
局在させる
著者名 :
Kahori Shiba-Fukushima, Taku Arano, Gen Matsumoto, Tsuyoshi Inoshita, Shigeharu Yoshida, Yasushi Ishihama,
Kwon-Yul Ryu, Nobuyuki Nukina, Nobutaka Hattori, Yuzuru Imai
本研究は、順天堂大学大学院医学研究科神経学講座の福嶋佳保里助教、服部信孝教授とパーキンソン病病態解明
研究講座の荒野拓研究員、井下強助教、今居譲先任准教授の研究グループにて行われました。
なお本研究は、科学研究費補助金 新学術領域・若手(B) 、持田記念医学薬学振興財団、武田科学振興財団、
第一三共生命科学研究振興財団、ライフサイエンス振興財団、大塚製薬の研究助成を受けています。
研究内容に関するお問い合せ先
取材に関するお問い合せ先
順天堂大学大学院医学研究科
順天堂大学 総務局総務部文書・広報課
パーキンソン病病態解明研究講座
担当:植村 剛士, 副島 由希子
先任准教授 今居 譲
TEL:03-5802-1006 FAX:03-3814-9100
TEL:03-5802-1045 FAX:03-3813-0421
E-mail: [email protected]
http://www.juntendo-neurology.com/n-kenkyu-syoukai.html
E-mail: [email protected]
http://www.juntendo.ac.jp