長期保存性が期待されるきのこ酵素由来チーズ 山梨大学 生命環境学域 准教授 中村 生命農学系 和夫 1 従来技術とその問題点(1) 現在使用されている 凝乳酵素 問題点 動物由来レンネット 価格上昇・動物愛護 微生物レンネット チーズ収量が少ない・苦味・毒性 遺伝子組換レンネット 消費者視点での安全性 酵素生産能のあるウスバタケとスエヒロタケはヒト感染の恐れがあり、 チーズ製造には使用できない。 以上の問題点を解決するために 酵素生産能を有する安全な食用きのこ株の選抜 2 従来技術とその問題点(2) 一方、我が国のナチュラルチーズは消費期限の限られた外国製品に依 存しており、保存安定性に欠けるのが現状である。特に輸入ナチュラル フレッシュチーズは輸送中の品質不安定性が問題であり、賞味 期限が短く、冷蔵保存も難しい。 また、これまでの我が国のチーズ製造法は、乳酸菌とレンネットを用いた 欧米の伝統的技術に依存し、日本独自の製造技術がないのが現 状である。 このため、国際競争力のある日本独自の製品化技術による保存安 定性に優れた新しいチーズの創製が望まれている。 3 新技術の特徴・従来技術との比較 従来技術の問題点であったチーズの保存不安定性を、食用きのこの 凝乳酵素を用いた製造法によってチーズ保存不安定性の解消に成功した。 安全な食用きのこのヤマブシタケが凝乳酵素を生産することを発見 した。本酵素を用いて作製したチーズは特に真菌類に抗菌性を示し、 長期の品質保存が可能となった。 2. 従来は低温殺菌乳の凝乳によってカードを作製してきたが、本酵素 は超高温殺菌乳の凝固が可能であった。本酵素はレンネットとは異な る凝乳機構(カゼイン分解法、熱安定性)とカードの力学的性質を示し た。ヤマブシタケの菌糸体の添加によって食味が向上した。 3. よって、ヤマブシタケ由来凝乳酵素によりカードを形成し、あるいは ヤマブシタケの菌糸体を含有させて、食品としての安全性を担保し、 抗菌性を備え、滑らかな食感を実現し、安全性、保存性、おいしさに優 れたチーズの製造法が開発できた。 1. 4 凝乳酵素を生産する食用きのこ株の選抜 凝乳酵素を生産する食用きのこ株の選抜 MCA PA MCA/PA 菌株名 (U/ml) (U/ml) 241 0.150 1,607 ヤマブシタケ NBRC 100328 17 0.022 792 マスタケ NBRC 6494 17 0.056 307 マイタケ NBRC 70400 16 0.074 223 シイタケ NBRC 6654 29 0.170 171 ヒラタケ YFH 060301 8 0.101 80 キクラゲ NBRC 100150 ヤマブシタケ8株の凝乳活性 菌株 MAFF420247 MAFF424242 MAFF430233 MAFF430234 MAFF435037 MAFF435060 MAFF435083 NBRC100328 凝乳活性 (MCA) (U/ml) 220 0 235 364 0 418 0 343 山伏茸 カーフレンネットの代替え酵素となる凝乳酵素を、初めて安全な食用きのこの ヤマブシタケ(Hericium erinaceum)が生産することを発見した。 5 チーズの作製法方法 13℃, 30days 熟成 ヤマブシタケの菌糸体 凝乳 低温殺菌牛乳 (乳酸菌無添加) ヤマブシタケ 由来 凝乳酵素液 熟成 カード 加塩 チーズ チーズ製造に乳酸菌スターターとレンネットを使用しないで 食用きのこの凝乳酵素と菌糸体を用いた新規なチーズ製造 技術を開発した。 6 ヤマブシタケの凝乳酵素の性質 レンネット ヤマブシタケ 超高温殺菌乳の 凝乳可能性 ホエイ中のGMPの分析 mAU at 214nm GMP peak 標準GMP レンネット ホエイ 残存活性(%) 酵素の 熱安定性 100 80 ヤマブシタケ酵素 ホエイ 60 40 ●きのこ酵素 20 ●レンネット 0 0 10 20 30 40 50 60 70 保存温度(℃) RT (min) ヤマブシタケの凝乳酵素は超高温殺菌牛乳(120℃、3秒間)の凝乳が 可能であった。ホエイ中にグリコマクロペプチド(GMP)が殆ど検出されず、 レンネットとは異なる凝乳機構であった。 7 作製したチーズの食味(13℃ 1ヶ月間熟成) 使用 酵素 酵素液のみ 酵素液 +菌糸体混合 酵素液 +菌糸体塗布 市販レンネット レンネットのみより はまろやか 苦い 刺激あり 塩辛い まろやかな味 苦い 刺激あり ヤマブシタケ酵素 塩辛い 菌糸体を加えると、苦みが軽減し遊離アミノ酸量が増加した 8 菌糸体を含むチーズの風味の比較 使用酵素: MAFF 435060株が生産する酵素 NBRC 100328 ・酸味のある香り ・まろやかな味 MAFF 430234 ・熟成された香り ・他のチーズより苦い MAFF 420247 ・匂いは殆どしない ・癖のない味だが ざらつきがある MAFF 435060 ・すっと消える香り ・食感、味ともに癖が無い MAFF 430233 ・つんとした香り ・食感は柔らかめ レンネットで 作製したチーズ ・粉のようなパサつき有 ・酸味が強い 加える菌糸体によって 風味や食感が変化する 9 カードの物性に及ぼす酵素と菌糸体の影響 1 (粘性率 / 弾性率)比 (G”/G’) レンネット レンネット+菌糸体 きのこ酵素 きのこ酵素+菌糸体 きのこカード レンネットカード ヤマブシタケの酵素で作製したカー ドの物性はレンネットで作製したカード に比べて、(粘性率/弾性率)比が高く 損失弾性率の寄与が高いため、柔ら かく滑らかな食感を示した。 さらに菌糸体添加によって貯蔵弾性 率の寄与が高まった。 G’: 貯蔵弾性率(弾性) G”: 損失弾性率(粘性) 温度(℃) 0.1 温度(℃) 10 雑菌 なし きのこ酵素チーズ 雑菌が 発生 レンネットチーズ ヤマブシタケの凝乳酵素を用いて作製したチーズは 熟成過程において雑菌繁殖が見られず、特に真菌 類に対して抗菌性を示した。 11 被試験菌: Penicilium caseicolum A B E F D C チーズサンプル: A 市販レンネットのみ B きのこ酵素のみ C 市販レンネット+菌糸体 D きのこ酵素+菌糸体 E 市販レンネット+作製後に菌糸体 F きのこ酵素 +作製後に菌糸体 ヤマブシタケ酵素を用いたチーズのみに抗菌活性が存在した 酵素には抗菌性は存在しなかった 熟成中に徐々に抗菌物質が生産された 12 想定される用途 1.安価な超高温殺菌乳原料の利用性と乳酸菌添加の有無に 依存しない日本独自のチーズ製造技術の展開が期待できる。 2.輸入フレッシュチーズの欠点を補う、雑菌繁殖がなく品質管 理が容易で、食感に優れた賞味期限の長い日本独自の製品と しての国産ナチュラルチーズが生産できる。 3.抗菌物質の生成によって、賞味期限が長期間になり流通可 能な食品のみならず、食品添加物、化粧品および医薬品への利 用が期待される。滑らかな食感で栄養に富んだ高齢者に優しい 食品の創製が期待される。酵素と菌糸体の添加量の組み合わ せによって風味、食感が多様化した食品の提供ができる。 4.ヤマブシタケ菌糸体は認知症予防機能が報告されており、菌 糸体を含むチーズの摂取により、高齢化社会における健康問題 への貢献が期待される。 13 実用化に向けた課題 1.現在、ヤマブシタケを用いたチーズに抗菌性が存在すること を明らかにできた。しかし、抗菌物質生成機構、抗菌物質の分 離精製・構造決定および作用機作の解明が未解決である。 2.ヤマブシタケの凝乳酵素を精製して新規な酵素の性質を明 らかにし、低温殺菌乳および超高温殺菌乳におけるカゼインの 分解・凝乳機構を解明する。 14 企業への期待 1.ヤマブシタケを用いたチーズのヒトへの食品安全性評価分 析が商品化するためには不可欠である。特に抗真菌物質のヒト への影響を動物実験で明らかにする。 2.新規チーズの低温および室温における長期保存安定性を 検証し、流通利便性を検討する。 3.きのこ酵素由来チーズを産業化するには、ヤマブシタケの 凝乳酵素・菌糸体生産条件の検討および大量生産技術の開発 が必要である。 4.ヤマブシタケ由来チーズの認知症予防改善効果を明らかに するためには、チーズを用いた動物臨床実験による検証が必 要である。 15 本技術に関する知的財産権 • • • • 発明の名称 :チーズ及びその製造方法 出願番号 :特願2015-146446 出願人 :山梨大学 発明者 :中村 和夫、谷本 守正 小林 奈保子、金丸 京弥 16 お問い合わせ先 国立大学法人 山梨大学 社会連携・研究支援機構 社会連携・知財管理センター 統括コーディネータ 還田 隆 TEL:055-220-8758 産 FAX:055-220-8757 Industry E-mail:[email protected] 官 学 University Administration 17
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