改正案 - 日本溶接協会(JWES)

WES 9009-4:20XX
T
溶接,熱切断及び関連作業における安全衛生
AF
第4部:電撃及び高周波ノイズ
DR
Safety and health in welding thermal cutting and allied
processes
Part 4 : Electroshock and high frequency noise
WES 9009-4:20XX
平 成 27 年 X 月 X 日 制 定
一般社団法人 日本溶接協会
The Japan Welding Engineering Society
(1)
WES 9009(溶接,熱切断及び関連作業における安全衛生)シリーズ
改正原案作成委員会
所
属
学校法人 早稲田大学
一般社団法人 日本溶接協会
(株)重松製作所
(株)神戸製鋼所
学校法人 東洋大学
(株)巴コーポレーション
日酸TANAKA(株)
公益社団法人 日本保安用品協会
興 研(株)
山本光学(株)
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
(株)ガステック
日鐵住金溶接工業(株)
柴田科学(株)
(株)理研オプテック
公益社団法人 産業安全技術協会
中央労働災害防止協会
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
(株)日立製作所
十文字学園女子大学
住友重機械マリンエンジニアリング(株)
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
元 柴田科学(株)
興 研(株)
アキレス(株)
国立大学法人 埼玉大学
T
氏
名
名古屋 俊士
小笠原 仁夫
山田 比路史
宮崎 邦彰
神山 宣彦
新井 聡
石井 幸二
磯部 満夫
岩崎 毅
上田 勝彦
奥野 勉
加山 慎一郎
栗本 孝
左成 信之
清水 一孝
鈴木 克巳
芹田 富美雄
鷹屋 光俊
竹中 剛
田中 茂
中垣 憲人
中村 憲司
新関 満
村川 勉
山田 真義
山根 敏
DR
AF
( 委員長 )
( 委 員 )
構成表
WES9009-4改正原案作成WG
(主
査)
山根
(委
員)
小笠原仁夫
(一社)日本溶接協会
宮崎 邦彰
山田 幸敏
加瀬
充
上原
昇
㈱神戸製鋼所
元 パナソニック溶接システム㈱
元 ㈱OBARA
(一社)日本溶接協会
(事務局)
敏
埼玉大学
協会規格を他書へ転載する場合のご注意
本規格の内容の一部又は全部を他書に転載する場合には,当協会の許諾を得るか,又は本規格からの転載であることを明示
してください。このような処置がとられないと,著作権及び出版権の侵害となります。
制定年月日
:平成 27 年 X 月 X 日
原案作成委員会:一般社団法人日本溶接協会安全衛生・環境委員会(委員長
WG(主査:山根
審議委員会
名古屋俊士)WES9009-4 原案作成
敏)
:一般社団法人日本溶接協会
規格委員会(委員長
小俣和夫)
この規格についてのご意見又はご質問は,一般社団法人日本溶接協会業務部(〒101-0025
田佐久間町 4-20)にご連絡ください。
(2)
東京都千代田区神
目
次
ページ
1
適用範囲························································································································· 1
2
引用法規及び規格············································································································· 1
3
用語及び定義··················································································································· 2
4
電撃の危険性··················································································································· 4
5
電撃の防止対策················································································································ 6
5.1
一般 ···························································································································· 6
5.2
溶接機等の設置場所 ······································································································· 6
5.3
溶接機等の設置方法 ······································································································· 6
T
5.4 溶接機等の取扱い ············································································································ 7
服装と保護具 ················································································································ 8
5.6
保守点検 ······················································································································ 8
AF
5.5
6
高周波ノイズによる障害防止対策 ························································································ 9
7
感電に対する対処············································································································ 10
一般 ··························································································································· 10
7.2
救急用具と救助手順 ······································································································ 10
7.3
人工呼吸 ····················································································································· 10
7.4
心臓マッサージ ············································································································ 11
DR
7.1
(3)
まえがき
この規格は,一般社団法人 日本溶接協会の定款及び諸規定に基づいて,規格案が作成され,規格委員会
の審議を経て,理事会によって改正が承認された日本溶接協会規格(以下,WES という。)である。
これによって,WES 9009:1998 は改正されこの規格に置き換えられ,また,WES 9007:1982 は廃止され,
この規格に置き換えられた。
当協会は,この規格に関する説明責任を有するが,この規格に基づいて使用又は保有したことから生じ
るあらゆる経済的損害,損失を含め,一切の間接的,付随的,また結果的損失,損害についての責任は
負わない。また,この規格に関連して主張される特許権及び著作権等の知的財産権の有効性を判断する責
任も,それらの利用によって生じた知的財産権の侵害に係る損害賠償請求に応ずる責任ももたない。そう
した責任は,全てこの規格の利用者にある。
この規格の内容の一部又は全部を他書に転載する場合には,当協会の許諾を得るか,又はこの規格から
T
の転載であることを明示のこと。このような処置がとられないと,著作権及び出版権の侵害となり得る。
WES 9009-1 一般
WES 9009-2 ヒューム及びガス
WES 9009-3 有害光
AF
WES 9009の規格群には,次に示す部編成がある。
WES 9009-4 電撃及び高周波ノイズ
WES 9009-5 火災及び爆発
DR
WES 9009-6熱,騒音及び振動
(4)
日本溶接協会規格
WES
9009-4:20XX
溶接,熱切断及び関連作業における安全衛生
第4部:電撃及び高周波ノイズ
Safety and health in welding thermal cutting and allied processes
Part 4 : Electroshock and high frequency noise
1
適用範囲
この規格は,溶接1),熱切断2)及び関連作業3)(以下,溶接作業等という)において,電撃及び高周波
T
ノイズから作業者を保護するための指針を示す。ただし,自動溶接装置,自動熱切断装置及び溶接ロボッ
注 1)
この規格における溶接とは,アーク溶接,レーザ溶接及び抵抗溶接をいう 。ただし,水中溶
接を除く。
2)
この規格における熱切断とは,プラズマ切断及びレーザ切断をいう。
3)
この規格における関連作業とは,エアアークガウジングをいう。
DR
2
AF
トの装置の安全管理については,この規格の対象から除外する。
引用法規及び規格
次に掲げる法規及び規格は,この規格に引用されることによって,この規格の規定の一部を構成する。
これらの引用法規及び規格は,その最新版を適用する。
労働安全衛生法施行令(昭和 47.8.19
労働安全衛生規則(昭和 47.9.30
政令第 318 号)(以下,安衛令という。
)
労令第 32 号)
(以下,安衛則という。)
酸素欠乏症等防止規則(昭和 47.9.30
労令第 42 号)
(以下,酸欠則という。)
電気工事士法施行規則(昭和 35.9.30
通令第 260 号)
安全衛生特別教育規程(昭和 47.9.30
労告第 92 号)
電気設備に関する技術基準を定める省令(平成 9.3.27
通令第 52 号)
(以下,電気設備技術基準
という。)
電気設備の技術基準の解釈4)
(以下,電気設備技術基準解釈という。
)
交流アーク溶接機用自動電撃防止装置構造規格(昭和 47.12.4
という。)
JIS C 9300-1アーク溶接装置
第 1 部:アーク溶接電源
JIS C 6802
レーザ製品の安全基準
JIS C 9305
抵抗溶接機通則
JIS C 9300-7
トーチ
労告第 143 号)
(以下,労告第 143 号
2
WES 9009-4:20XX
JIS C 9300-11
溶接棒ホルダ
JIS C 9311
交流アーク溶接機用電撃防止装置
JIS Z 3001
溶接用語(規格群)
注4)
電気設備に関する技術基準を定める省令に基づき,通商産業省資源エネルギー庁公益部(当時)
から公表された「解釈」であり,法規ではない。
用語及び定義
3
この規格で用いる主な用語及び定義は,JIS Z 3001によるほか,次による。
3.1
アーク溶接機
アーク溶接に適した出力特性をもち,電流と電圧とを供給する JIS C 9300-1 に規定された 溶接電源並び
に溶接に必要な装置。
なお,特に区別する必要がない場合にはプラズマ切断電源並びにこれに必要な装置を含む5)。
ガウジング電源並びにガウジング作業に必要な装置を含む。
T
注 5)
3.2
抵抗溶接機
AF
抵抗溶接に適した出力特性をもち,電流と電圧とを供給する溶接電源並びにこれに必要な装置。
3.3
レーザ溶接機
エネルギー媒体として,レーザ光を用いる, JIS C 6802 の規定を満たす溶接機。
3.4
溶接機
DR
なお,特に区別する必要がない場合にはレーザ光を用いる切断機を含む。
アーク溶接機,抵抗溶接機及びレーザ溶接機。
3.5
交流アーク溶接機用自動電撃防止装置
アーク溶接機の主回路(変圧器の入力回路又は出力回路)を制御する電磁接触器又は半導体素子,制御
回路などを備え溶接棒の操作に応じて,
通常,
アーク溶接を行うときだけアーク溶接機の主回路を形成し、
それ以外のときには溶接棒と被溶接物との間に発生する電圧を低下させる機能を持つ JIS C 9311 に規定さ
れた 装置。
3.6
溶接棒ホルダ
溶接棒を挟んで,電気接続を確実にし,手溶接作業をするための絶縁された道具。
3.7
ミグ・マグ溶接機
ミグ溶接及びマグ溶接に適した出力特性をもち,電流と電圧とを供給する溶接電源並びにこれに必要な
装置。
3.8
ティグ溶接機
3
WES 9009-4:20XX
ティグ溶接に適した出力特性をもち,電流と電圧とを供給する溶接電源並びにこれに必要な装置。
3.9
高周波発生装置
アークを点弧及び/又は安定化するために出力回路に高周波電圧を重畳する装置。
3.10
トーチ
ミグ・マグ溶接,ティグ溶接及びプラズマ切断を行うための JIS C 9300-7 に規定された 道具。
3.11
電気工事士
電気工事士法により電気工事士免状の交付を受けている者。
3.12
電気に関する有資格者
安全衛生特別教育規程第 6 条(低圧の充電電路の施設等の業務に係る特別教育)
により教育を受けた者,
又は同等の知識を有している者(事業所において認定されている者を含む。)
,及び電気工事士。
T
3.13
専門家(有資格者,熟練者)
る危険を認識できる者。
AF
割り当てられた仕事が判断でき,専門的訓練,知識及び経験並びに関連装置の知識に基づいて起こり得
注記 関連技術分野での実践の数年を,専門的訓練の実績として考えてもよい。
3.14
教育訓練を受けた者
割り当てられた作業及び不注意な行動による危険の可能性について教育を受け,必要に応じて,複数の
3.15
安全電圧
DR
訓練を経験している者。
接触した場合,人体に危険とならない程度の電圧。
3.16
接触電圧
接触した場合,人体に加わる電圧。
3.17
不随電流
人体に流れる電流が感知電流(商用周波数の交流で約 1mA)を超えると,通電経路の筋肉がけいれんし,
神経が麻痺して運動の自由がきかなくなり,自力で電源から離脱できなくなる。この状態が長く続くと,
呼吸困難になって意識を失ったり,窒息死することがある。このように運動の自由がきかなくなる限界の
電流。
3.18
離脱電流
人体に流れる電流がる場合、不随電流以下で運動の自由を失わない最大限度の電流。
4
WES 9009-4:20XX
4
電撃の危険性
電撃の危険性は電流によって決定され,電路の電圧の大きさは二次的なものであるが,その電圧は安全
電圧値以下にする必要がある。また,大地に立っている作業者が充電部に触れた場合,電路の電圧がすべ
て加わるわけではない。人が接触するときの状況に応じて,許容しうる接触電圧値を表 1 に示す。
表 1 許容接触電圧
接触状態
No
許容接触電圧(Vrms)
1
人体の大部分が水中にある状態
2.5V 以下
2
a) 人体が著しく濡れている状態
b) 金属製の電気機械装置や構造物に人体の一部が常時触れている状態
25V 以下
3
上記以外の場合で,通常の人体状態において,接触電圧が加わると危険性が
高い状態
50V 以下
注記
社団法人日本電気協会 電気技術基準調査委員会編 低圧電路地絡保護指針
人体抵抗
a)
T
人体抵抗は,皮膚の抵抗と人体内部の抵抗に分けられる。皮膚の抵抗は,印加電圧の大きさ,接触
面の濡れ具合などによって変化する。一般に,乾燥した状態であれば普通数 kΩ程度であるが,発汗
したり,水に濡れた状態であれば非常に小さくなる。人体内部の抵抗は印加電圧に関係なくほぼ一定
AF
であり,手と足の間で約 500Ωである。そのため,電撃による危険性を考えるとき,最悪状態を考慮
して 500Ωを用いる。
電撃の危険性
b)
電撃の危険性は,主として次の要因によって定まる。
通電電流の大きさ(人体に流れた電流の大きさ)
2)
通電時間(電流が人体に流れていた時間)
3)
通電経路(電流が人体のどこを流れたか)
4)
電流の種類(直流か交流か,周波数など)
DR
1)
このほか間接的には,人体抵抗や電圧の大きさが関係する。
成人男子における離脱電流の平均値は,商用周波数の交流で約 16mA,直流で約 74mAである。この平均
値は,相当な苦痛を伴い危険性も高いため,個人差を考え,大多数の人が離脱できる安全限界の電流値は,
成人男子で 9mA,女子で 6mAである。電流の大きさと人体の感応の程度を 表 2に示す。
表 2 電流の大きさと人体感応の程度
電流の大きさ(mA)
人体感応の程度
1
電気を感ずる程度
5
相当の痛みを覚える
10
我慢できないほど苦しい
20
握った電線を自分で離せない
50
相当危険な状態
100
致命的な結果をまねく
注記 社団法人日本溶接協会監修 新版アーク溶接技能者教本
5
WES 9009-4:20XX
大地に立って溶接作業をしている者が,ホルダの充電部分又は溶接棒等に触れて感電した場合の人体へ
の通電電流は図1を用いて次式によって求める。
I=
E
R1 + R2 + R3
I=人体への通電電流(A)
E=溶接機出力側負荷電圧(V)
R 1 =手とホルダ又は溶接棒の充電部との接触抵抗(Ω)
R 2 =人体の抵抗(Ω)
AF
T
R 3 =足と大地との接触抵抗(Ω)
図 1 溶接棒に触れた場合の電流経路
DR
注記 溶接機の出力側無負荷電圧が最大 95Vで,作業環境条件が悪い場合(例えば,図1の鉄板上に立った作業者
の身体が汗で濡れ,かつ保護手袋も濡れた状態で溶接棒を握ったとして,R 1 ≒1kΩ,R 2 =500Ω,R 3 =2 kΩ
とした場合)
,作業者の身体に流れる電流は 190mAとなり,感電死する恐れがある。
一方,感電時の条件が良く,乾燥した状態の保護手袋や安全靴を着用している場合には,おおよそ
R 1 =20kΩ,R 2 =500~1 kΩ,R 3 ≒30 kΩとみなして計算すると約 2mAとなり,生命に危険となる電流は流れ
るおそれがない。
ただし, 人体抵抗値R 1 ~R 3 は作業者の状態及び労働作業環境により変化するため,この電流は参考値で
ある。
5
電撃の防止対策
5.1
一般
溶接作業等を行う場合,溶接機は,安全性を考慮して設計・製作されているが,その使用に当っては取
扱説明書を事前によく読み,内容を十分に理解して,これを守らなければならない。
5.2
溶接機の設置場所
溶接機を適正に使用するために,設置場所は次による。
a)
環境条件
動作時の周囲温度
アーク溶接機:-10~+40℃
レーザ溶接機:+10~+30℃
抵抗溶接機:
動作時の相対湿度条件
+5~+40℃
6
WES 9009-4:20XX
アーク溶接機:
20℃で 90%まで
40℃で 50%まで
レーザ溶接機:
80%まで,
抵抗溶接機:
95%まで,結露が生じないようにする。
抵抗溶接機の環境条件
直射日光や風雨が当たらず湿気やほこりの少ない場所。
b)
床がコンクリートのようなしっかりした水平な場所。
c)
溶接機にスパッタなどの導電性の異物が飛散し,侵入しない場所。
d)
取扱説明書に従った場所6)。
e)
設置場所の選定は,電気に関する有資格者により法規及び社内基準に従って行わけなければならない。
注6)
5.3
屋内作業用溶接機は屋内に設置する。
溶接機の設置方法
電撃防止のために溶接機の設置は次による。
入力側の動力源の工事は,電気に関する有資格者により法規及び社内基準に従って行わなければなら
T
a)
ない。
b)
溶接電源のケース及び母材,又は母材と電気的に接続された治具等には,電気工事士が,法規に従っ
AF
て接地工事を行わなければならない。
(安衛則第 329 条, 安全衛生特別教育規程 第 6 条,電気設備技
術基準(第 10 条 及び 第 11 条)
,電気工事士法施行規則 第 2 条, 電気設備技術基準解釈第 167 条)
ただし,抵抗溶接機の場合は,母材を接地する必要はない。
c)
レーザ溶接機はA種接地工事1)を行うこと。
注1A種接地工事は 10 オーム以下で直径 2.6 mm以上の接地線を用いて接地する工事。
溶接機を接続する配電箱(溶接機の入力側)には,適正な容量のヒューズ付き開閉器かブレーカを必
DR
d)
ず溶接機1台につき,1台ずつ設置しなければならない。
e)
溶接機や併用される電動工具を,工事現場などの湿気の多い場所や鉄板,鉄骨などの上で使用すると
きは,漏電による感電の危険を防止するために,漏電しゃ断装置を設置しなければならない。
(安衛則
第 333 条)
f)
溶接ケーブルはできるだけ短く配線し,その接続部は確実に締め付け,かつ絶縁しなければならない。
長い溶接ケーブルをループ状に巻いて設置してはならない。
g)
溶接ケーブルを接続するために,溶接機から取り外したケース,カバーやその他の部品は確実に取り
付ける。
h)
狭隘な場所や高所での交流アーク溶接作業には,交流アーク溶接機用自動電撃防止装置付の溶接機を
使用しなければならない。
(安衛則 第 332 条,第 648 条)
i)
溶接機の取扱説明書に示されている設置時の注意事項を守る。
5.4 溶接機の取扱い
アーク溶接作業に従事する者は,特別教育を受けた者でなければならない。
(安衛則 第 36 条)
溶接作業等や溶接機の操作において守るべき感電の防止策は次による。
a)
溶接機の操作は,安全を確保するために,取扱説明書の内容をよく理解して,安全な取扱ができる専
門家又は教育訓練を受けた者が行わなければならない。
b)
溶接作業の開始前には,必ず溶接現場の安全点検,溶接機の異常確認を励行しなければならない。
7
WES 9009-4:20XX
感電を避けるため,帯電部に触れてはならない。
c)
ただし、抵抗溶接では二次導体に限っては、溶接作業や電極チップ交換作業時などにやむをえず手が
触れる場合があるが、二次導体以外の帯電部には触れてはならない。
d)
溶接ケーブルは,容量不足のものや損傷したり導線がむき出しになったものを使用してはならない。
e)
溶接電流の通電路は,溶接の際に流れる電流を安全に通ずることができるものでなければならない。
e)
溶接棒ホルダは,JIS C 9300-11 に規定された溶接棒ホルダ又はこれと同等以上のものを使用しなけれ
ばならない。(安衛則 第 331 条)
f)
水濡れしている溶接棒ホルダやトーチを使用してはならない。
g)
帯電中の被覆アーク溶接棒,電極ワイヤ又は電極棒を身体の露出部で触れてはならない。ただし,抵
抗溶接の被溶接材料は除く。
マグ・ミグ溶接機において,コンタクトチップ及びワイヤを交換するときは,あるいはティグ溶接や
h)
プラズマ溶接機・プラズマ切断機において電極棒を交換するときは,溶接出力が出ないようにしなけ
ればならない。
注記
溶接機の電源を切る。
ティグ溶接やプラズマ溶接・プラズマ切断の電極棒に触れるときは,溶接機の電源を切る。
j)
溶接機を使用していないときは,溶接機及び配電箱の電源を切る。不必要な機器及び故障した機器は
T
i)
溶接機に接続しないこと。
溶接機のケースやカバーを取り外したまま使用してはならない。
l)
溶接作業等の周辺にある故障又は修理中の機器及び電線の周囲などは,安全柵などで囲い,危険表示
を行わなければならない。
AF
k)
m) 狭隘部などの電撃が危険な箇所では一人で溶接作業等を行わない。
他の人に溶接棒ホルダ及び電極が触れないようにする。
o)
溶接ケーブルを体に巻き付けて使用してはならない。
p)
アーク溶接機及びプラズマ切断機の冷却水は,製造業者の推奨するものを使用する。
q)
抵抗溶接機の冷却水は,JIS C 9305 に規定された水温及び水質をもつものを使用しなければならない。
r)
溶接機の内部の配線の変更やスイッチの切替えなどの作業は,溶接機の取扱説明書に従い,電気に関
DR
n)
する有資格者が行わなければならない。
溶接機は通電中,周囲に磁場を発生し,ペースメーカの作動に悪影響を与えるので,ペースメーカの
s)
装着者は医師の許可があるまで溶接作業等に従事しないこと,及び通電中の溶接作業場所又は周囲に
近づかないこと。
抵抗溶接作業においては時計及び工具など磁性体のものを遠ざけて置く。
t)
5.5
服装と保護具
溶接作業時の感電防止のための服装と保護具は次による。
a)
感電の防止のため,溶接作業時,社内規定された作業衣,絶縁性の安全靴及び乾いた絶縁性の保護手
袋等の保護具を着用し、帯電部に不用意に接触する恐れのある身体部分を露出してはならない。
b)
保護手袋の下に軍手を用い,軍手が湿ったら交換する。
c)
作業衣が破れたり濡れた場合は,これを交換しなければならない。
d)
溶接作業等を高所で行う場合には,墜落による災害を防止する安全帯などの保護具を使用しなければ
ならない。
8
WES 9009-4:20XX
溶接等作業者は鍵,アクセサリーなど心臓への導電の危険のあるものを溶接作業等から遠ざけて置く。
e)
保守点検
5.6
5.6.1
一般
保守点検を定期的に実施し,損傷した部分は必ず修理してから使用しなければならない。保守点検,修
理は,安全を確保するために,電気に関する有資格者が行わなければならない。
社内で保守点検,修理ができないときは,溶接機の製造業者と保守点検,修理について契約することが
望ましい。
5.6.2
日常点検
日常点検は,始業前に,溶接機の取扱説明書により指示されている機器固有の点検項目に従って点検を
行わなければならない。特に,JIS C 9311 の交流アーク溶接機用自動電撃防止装置及びJIS C 9300-11 の溶
接棒ホルダを使用するときは,表 3 に示す事項の始業前点検を行わなければならない。
(安衛則 第 352 条)
また,漏電しゃ断装置も始業前に点検を行わなければならない。
(安衛則 第 352 条)
点検において異常を認めたときは直ちに補修し,又は取り替えなければならない。
表 3-溶接棒ホルダ及び交流アーク溶接機用自動電撃防止装置・漏電しゃ断装置の点検事項
点検事項
T
指定電気機械器具
絶縁防護部分及び溶接棒ホルダ用溶接ケーブ
ルの接続部の損傷の有無
AF
溶接棒ホルダ
交流アーク溶接機用自動電撃防止装置
作動状態
漏電しゃ断装置
作動状態
日常点検の主な事項は次による。
溶接機の冷却扇が円滑に回転し,異常音の発生がないこと。
b)
通電時の異常な振動や唸り音がないこと。
c)
通電時異臭がしないこと。
d)
変色や発熱の痕跡がないこと。
e)
溶接ケーブルの配線途中に,絶縁物の摩耗や損傷,さらに導線が露出した部分がないこと。
f)
溶接ケーブル接続部の露出(絶縁損傷)や締付けの緩みがないこと。(点検の箇所は,配電箱の入力保
DR
a)
護機器の入・出力端子部,ヒューズ取付け部,溶接電源端子部,母材接続部,溶接電源接地用や母材
接地用の接地線の接続部,その他溶接ケーブルどうしの続部などとする。)
g)
水冷式溶接機は,水漏れが生じていないことを確認する。
5.6.3
定期点検
定期点検は,溶接機の取扱い説明書に記載されている。また,JIS C 9311 の交流アーク溶接機用自動電
撃防止装置は半年以内に1回及びその他の溶接機は製造業者が推奨する期間毎に実施しなければならない。
点検作業に際して溶接機のケースを外すときは,溶接機の周囲に囲いをするなど,不用意に他の人が近
づかないようにしてから作業する。また,配電箱の開閉器により、すべての入力側電源を切るとともに,
溶接機の電源スイッチも切って,製造業者が推奨する時間を経過してから内部の点検を行わなければなら
ない。入力側電源を切っても,溶接機に内蔵しているコンデンサが充電されていることがあるので,高電
9
WES 9009-4:20XX
圧回路部は充電電圧が残っていないことを確認してから点検作業を行わなければならない。
定期点検の事項は次による。
a) 電気に関する有資格者が溶接機の絶縁抵抗を定期的に測定し,規定値を満足していることを確認しな
ければならない。
なお,絶縁抵抗の測定時には,不用意に行うと測定器の電圧などにより溶接機が損傷する原因になる
ので,取扱説明書に示されている測定の手順を守らなければならない。絶縁抵抗値が規定値より下回った
場合は,その溶接機は使用してはならない。
アーク溶接機:
・新品の場合
JIS C 9300-1 に規定された値
・ 使用中の溶接機の絶縁抵抗は表 4 による。
表4-使用中の溶接機の絶縁抵抗
溶接機の種類
規定値
準拠法令
交流アーク溶接機用自
1MΩ以上
労告第 143 号
1MΩ以上を推奨する。
なし
その他のアーク溶接機
T
動電撃防止装置
電気に関する有資格者が接地を確認する。
c)
溶接機の内部は,電気に関する有資格者が電気系統を総点検し,補修を行わなければならない。
d)
清掃は,溶接機の天板,両側板を取り外し,水気を含まない圧縮空気(ドライエア)で溶接機の内部
AF
b)
に堆積しているチリやほこりを除去する。
e)
出力側溶接ケーブル,入力側ケーブル及び接地線について,5.6.2 に従って詳細かつ入念に点検しなけ
f)
DR
ればならない。
溶接作業場の環境は,事業所によって大きく異なるので,それぞれの環境に応じて,適切な点検項目
を追加し、これに従って点検することが望ましい。
6 高周波ノイズによる障害防止対策
溶接機からの高周波ノイズは溶接電源及び溶接ケーブルから発生する。これらから発生する高周波ノイ
ズが埋込式医療装置並びに電子装置の誤動作を引き起こす場合がある。
電子機器の高周波障害を防止する対策としては,他の機器に及ぼす障害の程度を低減するために不要な
高周波エネルギーを減らすこと,及び他から放射される高周波エネルギーの影響を受けないようにするこ
との両面から取り組む必要がある。
溶接機からの高周波ノイズ(電磁ノイズ)による障害を低減するためには,基本的に次の事項を実施する。
a)
溶接ケーブルをできるだけ短くする。
b)
溶接ケーブルを床や大地にできるだけ近づけて配置,接続する。
c)
母材側の溶接ケーブルと溶接棒ホルダ又はトーチ側の溶接ケーブルとは互いに沿わせて配置し,溶接
ケーブルで大きなループを作らない。
d)
母材及び溶接機の接地は,他の機器の接地と共用しない。
e)
溶接機のすべての扉,カバーを確実に閉め,固定する。
f)
溶接機を起動するとき以外は,むやみにトーチスイッチを空押ししない。
10
WES 9009-4:20XX
g)
ティグ溶接機の高周波発生装置の火花放電ギャップ長を必要以上に大きくしない。
h)
溶接機の近くに電子制御された装置があると,高周波が侵入して障害を起こすことがあるので,溶接
の計画段階から周辺の環境を調査して対応しなければならない。
心臓のペースメーカを装着している人は動作中の溶接機及び溶接作業等場所の周囲に近づいてはなら
i)
ない。
7 感電に対する対処
7.1
一般
まず,感電者に直接触れずに,救助者の二次災害を防ぐために,配電箱の電源を切る。次に感電者患者
を電気回路から引き離す。医師の指示があるまで次による応急処置を施すこと。
失神状態の患者が,頸動脈でも脈拍が触れない場合,あるいは瞳孔も散大して対光反射がない場合は、
a)
7.3 の人工呼吸法と 7.4 の心臓マッサージとを併せて施さなければならない。
b)
必要に応じて、説明書に従い自動体外式除細動器(AED)が使えるようにしておく。
c)
感電による熱傷に対しては,急いで患部を冷却し,痛みを和らげ炎症を軽減することが最良の応急処
置である。それには,患部を冷水に漬けるか,氷のうなどを当てがい,また,衣服が燃えた場合は,
7.2
T
衣服の上から冷水を注いで冷やす。
救急用具と救助手順
タンク内,ピット底において,アルゴン,ヘリウム,二酸化炭素のような生体に対して不活性なガス
a)
AF
を用いる溶接の際の酸欠災害では,被災者が3分以上呼吸停止の状態におかれた場合は,脳細胞に不
可逆的破壊が進み,蘇生が困難となる。したがって,そのような場合,救助者は呼吸具を着用し,一
方では換気装置で,被災者の周辺に新鮮空気を送気しつつ,救出活動をするか,又はその送気雰囲気
内で人工呼吸を始めなければならない。
7.3
人工呼吸
DR
縦に奥深いタンクなどの場合は,救助者用の命綱,被災者の吊り上げ用具などの使用が必要である。
b)
呼吸停止に対しては,遅くとも3分以内に人工呼吸を施さなければならない。人工呼吸法は酸欠則に基
づく酸素欠乏等危険作業主任者(技能講習を受講の上,認定試験に合格した者,あるいは日本赤十字社の
行う救急法の講習を終了して救急員適任証を受けた者)が修得しているので,アルゴン等の不活性ガスを
用いる狭隘な場所(
安衛令
第 21 条 第 9 号,別表第 6 の 11
)における溶接作業については,7.1 と
ともに,その体制を整えておかねばならない。
7.4
心臓マッサージ
酸素欠乏症では,呼吸停止数分後には心臓が停止し,蘇生困難に陥るので,人工呼吸法と並行して,心
臓マッサージを施さなければならない。この蘇生法は,7.3 の人工呼吸法と同様の認定を受けた要員によっ
て行われるべきである。
11
WES 9009-4:20XX
参考文献
社団法人日本電気協会 電気技術基準調査委員会編 低圧電路地絡保護指針
DR
AF
T
社団法人日本溶接協会監修 新版アーク溶接技能者教本
12
DR
AF
T
WES 9009-4:20XX
13
WES 9009-4:20XX
溶接,熱切断及び関連作業における安全衛生
第 4 部:電撃及び高周波ノイズ
解 説
序文
この解説は,本体に規定・記載した事柄,及びこれらに関連した事柄を説明するもので,規格の一
部ではない。
なお,解説内に記した法規名の略号については,本体の箇条 2.を参照されたい。
この解説は,一般社団法人日本溶接協会が編集・発行するものであり,この解説に関する問合せは,一般
社団法人日本溶接協会へお願いします。
制定の趣旨
1.1
従来規格制定の趣旨
安衛法及びその関連政令・省令等においては,溶接及び熱切断作業における
FT
1.
危険防止及び健康障害の防止に関しても,詳細な規定がなされている。
WES 9009-1998(以下,従来規格という。
)制定の当時米国では,ANSI/ASC Z49.1-94 “Safety in Welding,
Cutting and Allied Processes(溶接,切断及び関連作業における安全)
”が制定されており,安全衛生管理の
指針となっていた。また,カナダでも,同一名の規格が CSA W117.2-94 として制定されていた。しかし,
DR
A
我が国では,これらの規格に相当する規格は制定されていなかった。
そこで,社団法人日本溶接協会 溶接棒部会は,日本溶接棒工業会からの要請により,日本溶接協会規格
“アーク溶接の安全衛生管理”を作成することになった。この規格の作成に際しては,上記の海外2規格
とともに,日本溶接棒工業会・ガイドライン“アーク溶接の安全衛生に関するご注意”
,日本溶接協会・電
気溶接機部会資料“取扱説明書・安全上のご注意”及び“新版・アーク溶接技能者教本”
・(産報出版)も
参考とした。
1.2
規格改正の趣旨及び基本方針
近来,技術の進歩と経済情勢の変化によって溶接等の作業態様にも
変化が見られるようになり,従来規格制定以後にも種々の法規改正が行われていると共に,制定時に参考
とした米国の ANSI/ASC Z49.1-94 及びカナダの CSA W117.2-94 もその後に改正が行われている。したがっ
て,従来規格は改正が必要と判断された。
改正に当たって,原案の作成は安全衛生・環境委員会が担当することとなり,平成 15 年度に検討を開始
して,次のように改正の基本方針をまとめた。
a)
適用範囲の拡大
従来規格は,アーク溶接のみを対象としているが,上記米国及びカナダの規格並び
に日本の安衛法及びその関連政令・省令等においては,すべての溶接,熱切断及び関連作業が対象に
なっているので,これらに合わせて適用範囲を拡大する。
b)
規格番号
そのためには相当大幅な改正を必要とするが,従来規格が長い期間と多くの労力を費やし
て我が国独自の形式を作り上げたものなので,その形式を保ちながら,追加事項は従来規格に追記し
ていく方式をとる。したがって,規格番号は WES 9009 を引き継ぐ。
c)
部編成の採用
改正後は,法規の改正に基づいて早期に改正を重ねていくことが望まれるが,従来規
格は本体だけで 50 ページに及ぶもので,これがさらに大きな規格を形成することになるので,法規改
解
1
14
WES 9009-4:20XX 解説
正のたびに大きな規格を改正することは好ましくない。そこで,部分的な改正が可能となるように,JIS
に用いられ WESでも認可されている部編成を採用して,本体まえがきに記されたような6部編成の規
格群とする。
原案作成委員会は,各部に対応して六つのワーキンググループを設け,各ワーキンググループに主
査を置く。
参考資料
d)
改正された ANSI/ASC Z49.1-99 及び CSA W117.2-01 を,あらためて参照し直す必要があ
る。
また,安全衛生・環境委員会では,溶接技術体系に組み込まれるべき安全衛生技術を体系化し,詳
述したマニュアルを編集し,2002 年に“溶接安全衛生マニュアル”として産報出版㈱から発行された
ので,この内容についても十分参考にして盛り込んでいくべきである。
1.3
改正の経緯
以上のような基本方針に基づいて,
安全衛生・環境委員会では平成 16 年度に WES 9009
改正原案作成小委員会を設置して,原案作成に着手した。
委員の選任は,主として安全衛生・環境委員会の委員の中から行ったが,必要に応じて同委員会外から
第 4 部の範囲及び主な改正点
2.
FT
も数名の委員を委嘱した。
第 4 部は,従来のWES9009 の 9.(感電と高周波障害の防止対策)に
相当した。2007 年のWES9009 のパート制に伴い,第 4 部として 2007 年に発行された。このときのもっと
も大きな改正点は,アーク溶接ばかりではなく,抵抗溶接を含めたことである。2015 年に,この第 4 部に,
レーザ溶接装置の電撃に関する安全を含めるために改正を行った。それ以外に関しては,技術的な改変は
DR
A
なく,編集上の修正を行った。とくに,電撃の危険性に関して規定を設けている理由を明示するために,
解説に記載されていた内容を,箇条 4 として新たに追加した。これに伴い,従来の箇条番号をひとつずつ
下げた。
適用範囲
3.
適用範囲における“溶接,熱切断及び関連作業”すなわち“溶接等”の定義は,第 1 部:
一般と同一であり,この規格群の対象となるすべてのプロセスを含む。今回の改正においてはレーザ溶接
及びレーザ切断作業を含んだ。
また,従来規格では“…管理手引について規定する。
”としていたが,この規格群ではすべての部におい
て“…指針を示す。”とした。
規定項目の内容
4.
4.1
引用法規及び規格 (本体の箇条 2.) この規格群では,その性格上法規に定められた事項を引用す
る必要があるため,JISでは例が見られないがここに記載することとし,引用法規を先に挙げ,その後に引
用規格を記す形とした。今回の改正ではレーザ関連としてレーザ製品の安全基準,電撃の危険性に関して,
社団法人日本電気協会 電気技術基準調査委員会編 低圧電路地絡保護指針,社団法人日本溶接協会監修 新
版アーク溶接技能者教本の追加を行った。また,JIS C 6802 レーザ製品の安全基準を引用規格として追加
した。一方,溶接ホルダに関しては,JISC9308 で規定されていたが,この規格が廃止され,国際規格に整
合したJISがJISC9300-11 として作成され,これを追記した。溶接トーチも新たに国際規格に整合した
JISC9300-7 が整合されたので,これを追記した。
4.2
用語及び定義 (本体の箇条 3.)
“作業者”の定義は,第 1 部に倣った。
また,アーク溶接電源及び抵抗溶接機の定義は JIS C 9300-1アーク溶接装置
解
2
第 1 部:アーク溶接電源
15
WES 9009-4:20XX
解説
及び JIS C 9305 抵抗溶接機通則のものを引用した。今回の改正では,レーザ溶接機及び感電に関する電
流の定義を追加した。自動電撃防止装置は交流溶接機使用時のみに用いられるので,交流アーク溶接機用
自動電撃防止装置として定義名を変更した。
電撃の危険性に関して,追加しており,これに関する定義として,人が触る時の接触電圧,人が触れる
ことができる安全電圧,感電したときに人体に影響を与える不随電流,及び感電により人体の自由が利か
なくなる離脱電流を定義した。
電撃の危険性 (本体の箇条 4.)
4.3
人体と感電の関係及び電流の人体への影響に関して
安全電圧と許容接触
a)
電圧電撃の危険性は電流によって決定され,電路の電圧の大きさは二次的なも
のであるが,目安として人体に危険とならない程度の電圧値を“安全電圧”と称している。
また,大地に立っている作業者が充電部に触れた場合,電路の電圧がすべて加わるわけではない。
電撃の危険は,その電圧のうちの人体に加わる電圧が問題であり,この電圧を“接触電圧”という。
FT
許容しうる接触電圧としては,人が接触するときの状況に応じて 解説表 1に示すような値がある。
解説表 1 許容接触電圧
接触状態
No
許容接触電圧(Vrms)
人体の大部分が水中にある状態
2
a) 人体が著しく濡れている状態
b) 金属製の電気機械装置や構造物に人体の一部が常時触れている状態
25V 以下
3
上記以外の場合で,通常の人体状態において,接触電圧が加わると危険性が
高い状態
50V 以下
DR
A
1
2.5V 以下
備考 社団法人日本電気協会 電気技術基準調査委員会編 低圧電路地絡保護指針より
人体抵抗
b)
人体抵抗は,皮膚の抵抗と人体内部の抵抗に分けられる。皮膚の抵抗は,印加電圧の大き
さ,
接触面の濡れ具合などによって変化する。
一般に,
乾燥した状態であれば普通数kΩ程度であるが,
発汗したり,水に濡れた状態であれば非常に小さくなる。人体内部の抵抗は印加電圧に関係なくほぼ
一定であり,手と足の間で約 500Ωである。そのため,電撃による危険性を考えるとき,最悪状態を
考慮して 500Ωが用いられる。
電撃の危険性 電撃の危険性は,主として次の要因によって定まる。
c)
1)
通電電流の大きさ(人体に流れた電流の大きさ)
2)
通電時間(電流が人体に流れていた時間)
3)
通電経路(電流が人体のどこを流れたか)
4)
電流の種類(直流か交流か,周波数など)
このほか間接的には,人体抵抗や電圧の大きさが関係する。人体に流れる電流が感知電流(商用周波数
の交流で約 1mA といわれる。
)を超えると,通電経路の筋肉がけいれんし,神経が麻痺して運動の自由が
きかなくなり,自力で電源から離脱できなくなる。この状態が長く続くと,呼吸困難になって意識を失っ
たり,窒息死することがある。このように運動の自由がきかなくなる限界の電流を不随電流といい,運動
の自由を失わない最大限度の電流を可随電流又は離脱電流という。
成人男子における離脱電流の平均値は,商用周波数の交流で約 16mA,直流で約 74mA といわれる。こ
解
3
16
WES 9009-4:20XX 解説
の平均値は,相当な苦痛を伴い危険性も高いため,個人差を考え,大多数の人が離脱できる電流値を安全
限界としてとらえて,成人男子で 9mA,女子で 6mA といわれている。
一般的にいわれている電流の大きさと人体の感応の程度を 解説表 2に示す。
解説表 2 電流の大きさと人体感応の程度
電流の大きさ(mA)
人体感応の程度
1
電気を感ずる程度
5
相当の痛みを覚える
10
我慢できないほど苦しい
20
握った電線を自分で離せない
50
相当危険な状態
100
致命的な結果をまねく
備考 社団法人日本溶接協会監修 新版アーク溶接技能者教本より
次に,大地に立って溶接作業をしている者が,ホルダの充電部分又は溶接棒等に触れて感電した場合の
I (A) =
FT
人体への通電電流は,おおよそ次の式によって求められる。
E (V)
R1 (Ω) + R2 (Ω) + R3 (Ω)
DR
A
I=人体への通電電流
E=溶接機出力側負荷電圧
R 1 =手とホルダ又は溶接棒の充電部との接触抵抗
R 2 =人体の抵抗
R 3 =足と大地との接触抵抗
これより,溶接機の出力側無負荷電圧が最大 95Vで,作業環境条件が最悪の場合(例えば,解説図 1の
ように鉄板上に立つ作業者の身体が汗で濡れ,かつ保護手袋も濡れた状態で溶接棒を握ったとして,R1≒
1kΩ,R2=500Ω,R3=2kΩとした場合),作業者の身体に流れる電流は 190mAとなり,感電死する恐れ
があることになる。
一方,感電時の条件が良く,乾燥した状態の保護手袋や安全靴を着用している場合には,おおよそ R1
=20 kΩ,R2=500~1 kΩ,R3≒30 kΩとみなして計算すると約 2mA となり,生命に危険となる電流は流
れるおそれがない。
解
4
17
WES 9009-4:20XX
解説
解説図 1 溶接棒に触れた場合の電流経路
電撃の防止対策 (本体の箇条 5.)
4.4
4.4.1
溶接機等の設置 (本体の 5.2)
溶接機等の環境条件は JIS C 9300-1アーク溶接装置
第 1 部:
アーク溶接電源及び JIS C 9305 抵抗溶接機通則の内容を引用した。
4.4.2
溶接機等の設置方法 (本体の 5.3)
アーク溶接および抵抗溶接作業における機器の設置方法に
関しての基本的事項について示す。
a)
接地工事の種類 (本体の 5. 5.3 b))
“電気設備に関する技術基準を定める省令(平成 9 年通産省令
第 52 号)”,いわゆる電気設備技術基準第 10 条(電気設備の接地)及び第 11 条(電気設備の接地の方
法)を受けて,“電気設備の技術基準の解釈について(通産省資源エネルギー庁公益事業部)”第 19
条で規定されている接地工事の種類のうち,この規格に関係のあるものについて説明する。
接地工事の種類毎に,その接地抵抗値が 解説表 3の値を満足するように接地工事を行わなければな
らない。溶接機の出力側配線のうち,ホルダやトーチ側の配線については注意が払われるが,被溶接
物(母材)側の配線は“接地側配線”や“アース帰線”のように,接地線と混同されることがある。
FT
この場合,クレーンのワイヤロープ経由などのように思わぬ箇所へ溶接電流が流れて非常に危険であ
る。接地線は溶接電流を流すものではないので,接地工事とは別に専用の母材側通電路を確保しなけ
ればならない。
解説表 3 接地工事
DR
A
接地工事の種類
省令改正後の名称
C 種接地工事
D 種接地工事
4.4.3
古い名称
接地抵抗値
特別第 3 種接地工事
10Ω(低圧電路において,当該電路に地気を生じた場合に 0.5 秒以
内に自動的に電路をしゃ断する装置を施設するときは,500Ω)
第 3 種接地工事
100Ω(低圧電路において,当該電路に地気を生じた場合に 0.5 秒以
内に自動的に電路をしゃ断する装置を施設するときは,500Ω)
溶接機等の取扱い (本体の 5.4)
アーク溶接および抵抗溶接作業における感電防止対策に関し
て,電気安全の基本的事項について示している。
a)
電気取扱い業務に係る特別教育規程
“安全衛生特別教育規程”第 6 条に規定されている,電気取扱
い業務に係る特別教育の内容について説明する。第 6 条は,特別教育を次のように規定している。
“低圧(直流にあっては 750V以下,交流にあっては 600V以下である電圧をいう。
)の充電電路(対
地電圧が 50V以下であるものなどで,感電による危害の恐れのないものは除く。
)の敷設若しくは修理
の業務,又は配電盤室,変電室等区画された場所に設置する低圧の電路のうち,充電部分が露出して
いる開閉器の操作の業務に係る特別教育は,学科教育及び実技教育により行うものとする。”これに対
して,教育内容が 解説表 4のように規定されている。
解
5
18
WES 9009-4:20XX 解説
解説表 4 電気取扱い業務に係る特別教育の内容
教育の区分
科目
低圧の電気に関する基礎知
識
低圧の電気設備に関する基
礎知識
学科教育
実技教育
時間
低圧の電気の危険性,短絡,漏電,接地,電気絶縁
1 時間
配電設備,変電設備,配線,電気使用設備,保守及び
点検
2 時間
低圧用の安全作業用具に関
する基礎知識
絶縁用保護具,絶縁用防具,活線作業用器具,検電器,
1 時間
その他の安全作業用具,管理
低圧の活線作業及び活線近
接作業の方法
充電電路の防護,作業者の絶縁保護,停電電路に対す
る処置,作業管理,緊急処置,災害防止
2 時間
関係法規
法,令及び安衛則中の関係条項
低圧の活線作業及び活線近接作業の方法
1 時間
7 時間以上
低圧の活線作業及び活線近接作業の方法(開閉器の操作の作業のみを行う者の場合)
1 時間以上
高周波ノイズによる障害防止対策(本体の箇条 6.) 溶接機器からの高周波ノイズは溶接電源及び
FT
4.4
範囲
溶接ケーブルから発生する。これらは埋込式医療装置並びに電子装置の誤動作を引き起こし、これにより
作業者に重大な影響を与える。このため、発生する高周波ノイズを低減が重要であり、これを行うための
溶接ケーブル配置などの基本的事項について示している。
感電に対する対処 (本体の箇条 7.) 溶接装置に使用時に関する溶接作業者への主な危険は感電で
DR
A
4.5
ある。感電事故が起きた場合の救命作業時の注意事項および救命方法について示している。
解
6
FT
DR
A
日本溶接協会規格
WES 9009-4
溶接,熱切断及び関連作業における安全衛生
第4部: 電撃及び高周波ノイズ
編集
一般社団法人日本溶接協会
発行人
水
発行所
一般社団法人
沼
規格委員会
渉
日 本 溶 接 協 会
〒101-0025 東京都千代田区神田佐久間町4-20
電話 (03)5823-6324