地方創生×東北UIJターンシンポジウム — UIJターン者と共創する地域の未来 - 経済産業省東北経済産業局では、国と地方が一体となりUIJターンの仕組みづくりを進めるため、東北6県、 人材バンク事業の各県地域コーディネート機関等(※)と「地方創生×東北UIJターンシンポジウム」を開催 しております。 前回 9 月は、東京都内において、UIJターンを契機に起業・キャリアチェンジし地域でご活躍されている方々 をお招きし、東北への移住を希望する方々への発信を主なテーマとして開催しました。今回は福島市において、 人材を惹きつける・受け入れる地域をテーマに、先駆的な地域の取組みを共有するとともに、東北各地から行政、 コーディネート団体及びUIJターン人材を積極的に活用している企業に登壇いただき、議論しました。 (※) 「中小企業・小規模事業者人材対策事業(人材バンク事業)」では、各県に地域コーディネート機関を設置し、地域中小企 業・小規模事業者の人材のニーズに対応すると同時に、東京・仙台をはじめ大都市圏に人材発掘の拠点を設置している。 開催概要 日 時:平成27年11月26日(木)13:30~16:30 会 場:コラッセふくしま 3階企画展示室(福島県福島市) 主 催:経済産業省東北経済産業局 後 援:青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県 参加者数:49名(うち、行政26名、団体・金融機関16名、民間企業7名) 【プログラム】 1.挨拶 2.基調講演 東北経済産業局 地域経済部長 岩瀬恵一 福島県商工労働部政策監 橋本幸洋 氏 「京都移住計画の取組みについて」 株式会社ツナグム 代表取締役 田村篤史 氏 3.パネルディスカッション ◇ファシリテーター 会場質疑 特定非営利活動法人プラットフォームあおもり 理事長 米田大吉 氏 ◇コメンテーター 東北大学大学院経済学研究科 教授 大滝精一 氏 ◇パネリスト 福島県商工労働部 雇用労政課長 株式会社MTS&プランニング 菊地清則 氏 専務取締役 辺見俊彦 氏 株式会社キャリアクリエイト/ヤマガタ未来 Lab 代表 株式会社ツナグム 代表取締役 田中麻衣子 氏 田村篤史 氏 東北経済産業局地域経済部 産業人材政策室長 遠藤憲子 基調講演 「京都移住計画の取組みについて」 講師:株式会社ツナグム 代表取締役 田村篤史氏 ・京都の大学を卒業して、東京の人材会社に勤める傍らシェアハウスを運営 していた。5 年後には京都に戻るつもりで就職した。シェアハウスの住人は関 西出身者が多く、彼らも同様にいつか地元に帰りたいという思いでいたが、そ の「いつか」は来ないと直感的に感じていた。また、京都の情報は観光キャン ペーン以外には入ってこなかった。移住するために今からできることを始めよ うと思い、皆で少しずつ情報を集めればそれが推進力となるのではないか、地 域の仕事・場所・素敵な人を見える化することで地元の引力をつくりたいとい うコンセプトで京都移住計画をスタートした。 ・京都移住計画は、移住を支援するのではなく、京都で暮したい人のやりやいことを応援するプロジェクト。メ ンバーは、専従もいるが、それ以外は個人で事業を営みながら余剰時間で参画してもらっている。UIターンし て東京で培ったスキルを地域に還元したいという若者。収益を上げて持続可能にしている。 ・大事にしているのは、自分ごとであること、自分がどうありたいのか、自分にとって良いことは他の誰かにと っても良いことである、という適切な自己中心性。 ・移住応援の具体的な取組みとして、居・職・住の3つの切り口がある。 ——居(居場所)。移住を考える人はロールモデルに出会いたいと思っている。移住をした人は、地縁・血縁 のない、あるいは薄い中で繋がりを求めている。当初は京都の良い情報を発信するだけで、既に移住してきてい る人に目を向けていなかった。実際に移住してきた人がどんな暮らしをしてきているのかということに目をむけ、 繋がりを生もうというのが「移住茶論」。移住を考えている人、移住済みの人が参加する。このメリットは、移 り住んだときに既に繋がりがあること。 ——職(仕事)。転職求人サービス。情報発信をしていない企業をインタビューし求人情報を発信している。 ——住(住まい)。京都市で空き家が課題になっており、一方で若者の中には改修して住みたいというニーズ がある。古民家をリノベーションするワークショップにして、ハコづくりをしながら仲間づくりが出来るような 仕掛けをしている。 ・京都府から「京都移住コンシェルジュ事業」を受託。これまでの京都府のイベントではセミリタイア層は多く 集まるが、京都移住計画は首都圏への発信や若者の集客を得意にしており、京都の過疎地域に若者を呼び込む事 業として進めている。海の京都、森の京都、京都市内の人も知らない京都の暮らし、様々な暮らし方を発信して いる。また、市町村のライフスタイルを言語化し、受け入れ力(空き家・仕事・コミュニティの3要素)の過不 足を可視化している。 ・移住者を奪い合うのではなく、潜在的なUIJ移住者を共につくっていくことを大事にしている。一例として、 京都・石川・富山3県の共同企画で今春から「日本海側の暮らし」を伝えるツアーに取組んでいる。移住検討中 の人で、ピンポイントでその地域に行きたいという人は少ない。特にIターンでは、なぜそこに行くかという理 由がない。だが、日本海側の暮らしはどうなのだろうと探している移住検討中の人は多い。ユーザーに選択肢を 提示する。 ・○○町といっても、その土地に縁のない人には分からない。点ではなく線、1個の小さな星を星座にすること で情報としての厚みが出てくる。海の京都、森の京都のコンセプトとはそういう手法。「移住計画」も各地に広 がりを見せており、各地で発信するだけでなく、それらを「みんなの移住計画」としても発信していきたい。 ・今、京都で学び地域に還るというコンセプトで、地域で活躍するプレイヤーを京都に招き、学生と出会わせる 「ローカルナイト」という取組みを始めた。京都には学生が 14 万人おり、うち東北出身は約 1200 人いる。 その 1200 人は高校までしか地元をしらない。学生の時に地域に関わる仕事をするという、何かしらの原体験 があれば、地元の仕事・暮らし方に関心を持つことができたり、UIターンしたちょっと面白い大人の生き方を 知ることができたり、キャリアを選択する際に東京に出て行く選択肢だけでなく、地元に残る、UIターンする という選択肢も出てくる。 ・もう1つの新たな取組みとして、UIターンのコミュニティづくりをするため「東京から出来ること会議」を 始めた。大きなセミナーである必要はない。地域で何か仕掛けていきたいという人たちをゆるくネットワークに することで、東京にいながら京都に関わるきっかけづくりをする。いずれ京都に戻る人も増えていけばいい。 ・これまでの取組みで得た気付きを共有したい。 「移住者」という人はおらず、課題も求めているものも異なる。 「移住検討者」にも段階があり、家も仕事も準備しないと移住できない人から、自ら仕事や雇用を生み出す人ま で様々いる。細分化してボールを投げていくことが必要である。 パネルディスカッション <首都圏にいるUIJターン予備軍に対するアプローチ> (ファシリテーター:特定非営利活動法人プラットフォームあおもり 理事長 米田大吉氏) ・東京にいて地元に戻りたいと考えている人をどのように掴むか。そもそも、そうした人々はどこにいるのか。 (株式会社ツナグム 代表取締役 田村篤史氏) ・例えば、「30 歳の成人式」(京都府与謝野町等)は、30 歳をきっかけに地元に集まって、経験スキルを持っ た 30 歳と地元の課題をマッチングさせるもの。それから、“地域に仕事がない”という自治体は、自分で生 業をもっている人をターゲットにし、彼らが集まっているコワワーキングスペースなどでイベントを開催して みるのはどうか。コミュニティとの掛け算が大事であり、属性が明確だと打つ手もある。 (株式会社キャリアクリエイト/ヤマガタ未来 Lab 代表 田中麻衣子氏) ・ヤマガタ未来 Lab では、モヤっとUターンを考えている人をターゲットに、情報サイトの運営、芋煮会や帰 省時の交流会を入口に、東京において山形との関り方を考えるイベント、給与条件ではなく仕事観を打ち出し た求人広告、山形県内の高校生を対象に山形を出る前にUターンする理由づくりをしてもらうため地元の大人 との対話の場を設ける等の取組みを行っている。 ・毎年Uターンの意向調査を実施しており、地元に戻ると思う層が3割、戻りたいけど(戻れない)層が2割い る。戻りたいけど層がキーだと考えており、彼らにUターンする理由をつくること、そのために寄り添うこと が大事。モヤっと層が前向きなUターンを実現するには、Should(ミッション、テーマ) ・Will(意欲) ・Can (自信)と最後は覚悟が必要になる。 ・山形にいる人が「待っているよ」と送り出し、「帰ってこい」と引っ張ってくれること、待っている人がいる というのが大事。 (ファシリテーター:特定非営利活動法人プラットフォームあおもり 理事長 米田大吉氏) ・ 「あおつな(青森とつながる大交流会)」という、青森を想う首都圏在住者がゆるく繋がる場づくりをしている。 月1回、青森県内の経営者を招いて、テーマを設けて交流会をするものだが、会を重ねる毎に UI ターン相談 が出てくる。 ・もう1つ、 「あおもり 1000 人会議」という取組みは、Uターン者も対象にしている。自身もUターン者であ るが、いざ帰ってみると助けがなかった。仕事や移住の支援制度だけでは苦しいところがあり、帰ってきた後 の仲間づくりの場があったらよいと感じた。 (会場から) ・秋田では 20 年来、A ターン(秋田へのU・I・Jターンの ALLTURN)に取組む。毎年約 1000 人が帰っ てくるが、8 割が東京、1割が仙台からである。高校生が県外に出るときに A ターン登録してもらい、情報提 供を行い、秋田から離れても強制的に何らかのつながりをもってもらう仕組みをつくっている。 ・移住イベントに参加すると、特に小さな子ども連れの家族に出展自治体がこぞって声を掛け、まるでパイの奪 い合いをしている。自治体同士がつぶしあわないようなUIJターンのあり方を知りたい。 <福島県のUIJターン施策> (福島県商工労働部 雇用労政課長 菊地清則氏) ・Fターン(福島県のUIJターンの総称)を促進する背景として、1つには東日本大震災・原発事故以降、再 生可能エネルギーやロボットなど、福島県内の産業構造が大きく変わってきていること。また、地方であるか ら人口流出の側面もあり、県内高校卒業者のうち大学進学者の約5割が首都圏に転出しそのうち戻ってくるの は2割程度。 ・福島県ではふるさと回帰支援センター内に就職情報窓口を設置。平成 26 年 12 月から相談員数を5名に増員 し、職業紹介ができる体制を整えた。東京窓口の利用者は学生が多い。他に福島県内にも応援センターを設置 している。 <UIJターンを有効活用している福島県企業の事例> (株式会社MTS&プランニング 専務取締役 辺見俊彦氏) ・テレビユー福島の子会社として番組制作を行う。この 1 年ほど、新規事業としてドローン事業に取組んでいる。 元々は空撮のためのドローン利用からスタートし、開発会社、製造・組立会社(福島県内企業、販売(MTS &プランニング)でアライアンスを締結。販売強化のために東京事務所を開設したところ。 ・番組制作会社として、専門人材の確保は常に課題である。かつてはテレビ(カメラ・映像編集)が花形であっ たが、今の若い世代ではアニメ・CG制作の方が人気であることもあって、最近は人材の確保が難しい。福島 県内だけでなく東京でもリクルート活動をしている。 ・プロダクションは東京一極集中である。そこでは視聴率を求められ、長時間労働は当たり前、番組はプロデュ ーサーのものである。そんな中で、ステージは小さくとも自分のやりたいことを求めて、MTSプランニング にUIターンした人材もいる。ドローン事業のために開設した東京事務所で採用した 1 人が偶然福島県出身者 であったが、福島県の企業がドローン事業をやることに感心してエントリーしたという。 ・UIターン者には得手不得手があるが、プロパースタッフにない個性や能力を持っており、組織にとって良い 影響をもたらす。また、これしかないと思って働いてくれる人は何とかなる。 (コメンテーター:東北大学大学院経済学研究科 教授 大滝精一氏) ・働き方にフィットする仕事をつくっていく必要があるのではないか。働き方、働く意味や価値をうまく伝えら れると良い。 (株式会社ツナグム 代表取締役 田村篤史氏) ・地域も一つの会社である。例えば、福岡県上毛町のワーキングステイは、家賃 500 円で一軒家にショートス テイするものだが、場所を選ばずに仕事をできる人を対象にし、上毛町から WEB や冊子の制作を依頼し、よそ 者に楽しげな発信をしてもらうもの。町や市の単位で求人票を出せればよいと考えている。 <ソーシャルセクターと行政の協働によるUIJターンの促進> (株式会社ツナグム 代表取締役 田村篤史氏) ・京都府の委託事業は、初め行政からアプローチがあった。移住計画は民間として勝手に活動し、行政は彼らと してその上で何ができるかを議論している。周囲に京都移住計画のような団体がいない場合でも、地域に対す る感度の高い団体を取っ掛かりとして協業すればよい。芋煮会のような取組みでも良く、小さな取組みに歩み 寄り、そこから移住の広がりをつくっていければよい。 (東北経済産業局産業人材政策室 室長 遠藤憲子) ・NPO等と協働するにあたり、行政は公平性、競争性、正確性を重視する。団体の活動が明らかに見えてくれ ば具体的な話しもできる。 (福島県商工労働部 雇用労政課長 菊地清則氏) ・福島県の各種施策でも NPO と連携して実施しているが、委託事業は競争が原則である。契約は毎年更新しな ければならず、事業者の地域への理解・経験の蓄積が求められる。 (コメンテーター:東北大学大学院経済学研究科 教授 大滝精一氏) ・空き家やインフラ整備は民間、NPOだけではできない。NPO や民間、大学を絡めた工夫や仕掛けが大事で ある。キーワードはゆるいネットワークであり、行政のきっちりとした仕事とどうすり合わせていくのかが一 つの鍵になるのではないかと思う。 会場質疑 Q 地域にいる大人自身が仕事がない、収入がないと地域を否定的に捉えており、大人たちが嘆く姿を見て育つ 子どもは地域に未来を感じられないでいる。大人も地域をよく知らず、地域のことをよく知るような教育が 必要ではないか。教育は移住定住のキラーコンテンツだと思うが、優秀な子どもは域外に出て行ってしまう。 A (株式会社ツナグム 代表取締役 田村篤史氏) 京丹後も同様の状況。地域に仕事がない、魅力がないと言っているのは、本当にないのか、知らないだけな のか。北陸で郷土教育に熱心に取組んでいる地域があり、子どもたちが自分の地域の誇れるところを、数字 も含めてよく知っている。それに、地域の人たちが田舎の仕事をやってみたいという若者がいることを知ら ないでいる。地域資源を発掘して発信することが重要。今、京都市内の学生を田舎留学させる取組みを進め ており、学生の反応を見て、地域の人々に自尊心が芽生えたり自信を取り戻していく。 A (特定非営利活動法人プラットフォームあおもり 理事長 米田大吉氏) 青森県大鰐町では、中学生が東京のアンテナショップに出展販売している。その際、東京にいる大鰐温泉を サポートしている大人、肩書きの高い人と交流を持ち、大鰐温泉を称賛する大人と大鰐の子どもたちが出会 う。子どもたちに地域の外からの意見を被せてあげることも効果があるのではないか。 Q 市の人口動態を分析すると、22 歳の時点で戻ってこなければ、それ以降の年代で戻ってくることはほぼな い。市内には大卒女性の求人がない。地方で女性の仕事をどうしていけばよいか。 A (株式会社キャリアクリエイト/ヤマガタ未来 Lab 代表 田中麻衣子氏) 大学卒業後に山形県内の企業で働いていた。そこでは、女性はあまり仕事を任せてもらえず、ルーチンワー クばかりで、結局辞めてしまった。大学では自分の頭で考えることを教わるが、いざ勤めると試行錯誤する ことが認められない。意識が高い、熱いことは笑われる。安く雇える人材を安く雇おうという姿勢の企業も 見受けられる。任せる文化があるかが女性を呼び込むコツではないか。 — 以上 —
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