第 7 回:「一貫生産」における「購買機能」 「一貫生産」を受注する委託先(受託)企業に求められる 9 つの機能(品質マネジメン トシステムにおける製品実現プロセス)の内、今回は 5 つ目の「購買機能」の解説をする。 「一貫生産」を受注する企業とは言え、受注製品を製造するのに必要な全工程を自社で賄 うことは現実的ではない。受注製品の適合性の全責任を負うためには、ほぼ全ての委託先 企業にとっては、この「購買機能」は欠かせない機能と言える。この機能は大別して以下の 3 つの機能で構成される。 ・供給先の選定及び承認、基本事項の契約及び評価(含む、再評価) ・外注加工品、購買製品の手配(供給先の運用管理) ・購買製品の検証受入れ 1.供給先の選定及び承認、基本事項の契約及び評価 顧客から受注した製品の加工工程を外部に依存することになるので、最も重要なことは 経営的に安定性があり、品質に信頼性があり、必要な製造能力を具備した供給先を選定・ 承認し、パートナーとすることである。そのためには、先ず“供給先の選定基準”を明確 にした上で、それに基づき、JISQ9100 や Nadcap の認証取得有無の確認、現地事前調査・ 監査の実施、場合によっては類似製品の試作の実施等の結果をもって評価し選定する。 「一貫生産」を受注する委託先企業が、供給先として求めるケースは特殊加工が多いと思 う。その供給先が顧客である大手航空機メーカーの該当する特殊工程の承認を得ている場 合には問題ないが、認証が無い場合には注意を要する。顧客の承認を取得するには、かな りの期間及び費用を必要とするからである。 また、供給先の選定及び使用におけるリスク管理も忘れてはならない。昨年の東日本大 震災の例でも、サプライチェーン管理の大事さが痛感される。このリスク管理では、個々 の外注加工品や購買製品の“注文書”の発行前には、特定されたリスクを解消しておくこ とが望ましい。 次の段階は、選定された供給先との契約行為への展開である。一般的には、「一貫生産」 を受注する委託先企業と選定された供給先との間で、委託先企業から発行される“取引契 約書”及びその付属文書として“品質管理仕様書”等に基づき、取引契約を締結する。こ こで、重要なことは、顧客(委託元)要求事項のフローダウンである。航空宇宙産業において は、委託先企業の顧客である大手航空機メーカーの要求事項を基にして、例えば、工程・ 製造設備の変更時の事前承認、不適合品の連絡・処置の承認や品質記録に関する要求事項 等を“品質管理仕様書”に盛り込み、サプライチェーンの総ての供給先に漏れなく、正確 1 に伝達することが必要となる。これが、顧客要求事項(あるいは品質要求事項)のフローダウ ンである。 供給先の評価には、上記の初回評価に併せ定期的な再評価が欠かせない。再評価は、供 給先が、ある一定期間内で供給先が実行した外注加工品や購買製品の品質及び納期に関す る実績データをベースにして実施されるのがよい。 2.外注加工品、購買製品の手配(供給先の運用管理) この 2 つ目の構成機能は、個々の外注加工品や購買製品に対する“注文書”の発行が主 な業務となる。ここでの大切なポイントは、各外注加工品や各購買製品に関する個別の要 求事項を漏れなく、正確に伝達することである。特に欠かすことができないのが、図面、 仕様書、作業指示書や検査・検証指示書等の関連技術データの識別(図面番号、文書番号) 及び適用すべき版(改定番号・符号)を明示することである。また、新規の供給先に対してや、 既存の供給先での未経験加工に対しては、委託する加工が開始される前に、“製造計画書” や“作業手順書”等の提出を求め、承認を取ることを要求事項として記載した方がよい。 更には、製造工程の検証(初回製品検査:FAI)を立会で実施する場合には、その旨“注文 書”に明示することも肝要である。 「契約・受注機能」(第 3 回)で述べたことではあるが、ここでも変更管理及びコミュニケー ションが必要不可欠な要素である。現在は、顧客と「一貫加工」の委託先企業との間、また「一 貫加工」の委託先企業と供給先との間で紙ベースのデータ・情報の伝達ではなく、IT を活用 した“ペーパーレス”システムが普及してきており、上記 1 項の段階でデータ管理に問題 が無いかを確認し、問題があれば事前に解決しておく必要がある。 また、この機能の中には、“注文書”発行前の納期及び価格調整、及び発行後の供給先の 作業状況の確認・フォロー及び支援が含まれるが、「日程管理機能」(第 11 回)の解説で触れ たい。 3.購買製品の検証受入れ 3 つ目の構成機能は、上記 2 項の“注文書”での要求事項に適合した、外注加工品や購買 製品が納入されたかを確認する機能である。航空宇宙産業では、原則この機能は品質保証(検 査実施)部門によって実行される。この確認の方法、即ち検証の方法は、予め“品質管理仕 様書”及び/又は“注文書”によって供給先に伝達しておく必要がある。 検証の方法等に関しては、「検査機能」(第 9 回)で触れることにする。 以上、解説した 3 つの構成機能は、JISQ9100 規格 7.4 項の主な要求事項を中心に述べた 2 ものである。これら要求事項は、必要最小限な実施事項と捉え、「一貫生産」を受注する委 託先企業が自ら内部及び外部環境を考慮して、独自の“拡大した計画”を立て、実行すべ きである。その際に参考になるのが、 JAQG の SCMH(Supply Chain Management Handbook )である。 次回(8 回)においては、 「製造機能」に関して解説する。 文責:小山 3 隆一
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